読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

ブンゲイブ・ケイオンガクブ

本を読まない文芸部員と楽器を練習しない軽音楽部員のような感じのブログ。適当な創作・レビュー等々。

『UNDER MY SKIN』ART-SCHOOL

 アートスクール、所謂LOVE/HATE期の第3のリリースとなる3曲入りシングル。このうち表題曲は次のアルバム『Love / Hate』収録なためこのシングルでのみ聴けるのはあとの2曲。3曲とも系統の違う曲になっていてバランスがいい。
 なんか元々ぼんやりした感じのイラストが、さらに解像度か何かをいじってデジタルにぼやけさせられているジャケット。イラストの下にそっけないフォントで書かれた作品名とアーティスト名。この構図もどっかからの引用くさいがなんだろう…。内ジャケではメンバーのライブ中の写真が「一人一人個別に」配置してあって、当時のメンバー間の壊滅的な関係性を知ってると「あっ…」って感じもする。裏ジャケはこれまでの大山純イラストと同系統のイラスト。そして大山純のアート作品において最後のイラストとなる(ストレイテナーでイラスト書いてるのか知らないけれど)。

UNDER MY SKINUNDER MY SKIN
(2003/09/29)
ART-SCHOOL

商品詳細を見る



1. UNDER MY SKIN
 オルタナ的なサウンドと木下節な翳りのあるポップネスを、彼のキャリア中でも最上級にシンプルに突き詰めた感じのある、切実な勢いに溢れた疾走曲。第一期アートの代表曲の一つとなり、ライブでは100%に近い確率で特に終盤の疾走ナンバー連発の中に組み込まれる。
 なんと言ってもベース。フィードバックノイズの伸びの後すぐに現れるこのベースラインの獰猛さ、ダークさ、刺々しさ、太さがこの曲の要。イントロからラストまで同じフレーズを延々と繰り返すこのプレイはアート全体でも珍しく(ルート弾きが圧倒的に多すぎるためでもあるが)、ディストーションギターで音圧が上がるサビでやや埋もれる以外ではその存在感をはっきり示している。特にブレイク部では、それまで激しかった演奏が一気にフィードバックノイズとこれだけになるため、アートの他の曲にない緊張感をこの曲に付与している。フレーズ的にはThe Cure『Love Song』の影響を感じさせるが、音もフレーズもより攻撃的になっている。
 このベースを中心として、各楽器の演奏はシンプルかつミニマムに進行していく。オンとオフがはっきりしたドラム、アルペジオ弾くかたまにノイジーなオクターブ奏法するかしかしないリードギター、フィードバックノイズかサビのパワーコードだけしか鳴らないリズムギター。歌のラインまで同じメロディを繰り返すスタイルを徹底し、サビに至ってはワンフレーズの連呼。よくよく考えるとこの曲は本当に繰り返しばっかりで構成されている。この時期のアートの楽曲はキャリア中でも特に繰り返しが多いが、この曲はその筆頭である。
 なのに、第一期アートの楽曲でもとりわけポップだと評されることもある。それは、もしかしたらアート史上最も終始徹底して直線的なこの曲の勢いの中で、繰り返しの中の微妙なアクセントと、繰り返し要素の組み合わせの妙によって醸造されているとも思われる。直線的なビートをずっと維持したままサビで一部スネアを二度打ちアクセントを付けるドラムや、イエーと叫ぶ例のバックコーラスも駆使したアート的グランジ方法論の使用によるダイナミズム、上記のブレイク部の緊張感とサビの開放感、そして最後のサビ後の頭打ちビート+この時期特有のキャリアでも最高レベルのヒリヒリさを感じられるシャウト等々。
 歌詞について。『EVIL』の攻撃性も『SWAN SONG』全体を覆ってた自虐虚無感もちょっと退潮して、ここでは冬をベースにした鮮やかな光景の色々を交えて、繊細な喪失感を綴っている…つまり、アート的にどキャッチーな歌詞だと思う。
小さな冷たい手や、冬の日の髪の匂いも/何か伝えようとして/震え気味になる声も
 忘れないでって云ったっけ?忘れないと答えた
 ひどく赤い傷跡/いつかこんな気持ちも

andymoriの歌詞で言うところの「感傷中毒」になってしまいそうなフレーズが、実にリズミカルに並んでいる。以下は特に好きな部分。
誰かを裏切る度に/これ以上はもうなんて/閉じたまま見た空/何か少し澄んでた
空が澄んでいることが何も心を軽くしない、ぼーっとしていくような感覚。ぼーっとしたり後悔したりしている間に秒速何キロの速さで失われていく何か。それに抗いたくて叫ぶフレーズ「繋いで」。サビのどう考えても詰め込み過ぎな英語詩のバランスの悪さ(それすら性急さに繋がってる感じがある)の他は欠けるところのない、木下のキャリア中でも最も鮮やかに感傷的な詩作のひとつだろう。
 冒頭に書いた通り、ライブでほぼ皆勤と言えるほどの代表曲。サビのシャウトが色々と省略されたり、メロディがどんどん崩されたりしながらも、どんどん勢い任せの弾丸のような演奏に変質していきながらも、多分今日明日とかのライブでもずっと歌われていくだろう。

2. JUNKY’S LAST KISS
 この盤のヘヴィ目なグランジ担当曲。しかし同時に新機軸的でもある。タイトルはSmashing Pumpkinsのレア曲『Apathy's Last Kiss』のオマージュ、というか、アルバム収録の『アパシーズ・ラスト・ナイト』と合わせてスマパンのこの曲タイトルを引用しまくってる。
 最大の特徴は冒頭から展開される機械チックな演奏。オルタナなギターの音とプレイでファンクをやっているような歪さがある。本格的にファンクなカッティング等を取り入れていく第二期アートの、先駆け的ともとれるプレイは、しかし時期柄かかなりダークで刺々しい印象がある。ファンク的快楽よりも適度にスカスカな演奏による緊張感の方が勝っている感じ。アートではじめて導入された四つ打的なリズムも、楽しさはなくむしろ冷たい質感を帯びている。木下もファルセットを交えてキリキリと歌う。
 そこからのグランジ展開。前曲に続いて例のイエーのコーラスを採用し、壁のようになった轟音サウンドは、それまでのスカスカさと好対照を成し、グランジ的なギャップは『EVIL』辺りと並んで大きい。二回目以降は更にメロディが追加され、そのままの演奏の勢いでAメロを今度はシャウトも織り交ぜて歌い通す、エモっぽい展開を見せる。シャウトの中にファルセットも盛り込んでいるのがとりわけこの時期の木下的で、壊れてるような具合と呆然としてるような具合とがないまぜになった感じに聴こえる。
 最後長めのスネア連打フィルインとファルセットの後にギターで四音並べる締めは、音の長さが全然違うが『モザイク』や『DRY』の終わり方と共通している風。強制終了感がある。
 歌詞について。逃避系の内容で、『ガラスの墓標』や『ジェニファー'88』辺りの雰囲気を引き継いだような雰囲気もあるが、より行き詰まった感じが出ている。
冷たい程乾いたら二人で明日逃げよう
 何処へも行けないけれど、この青い夜の終わりに

「冷たい程〜」の箇所はdip『冷たいくらいに乾いたら』のオマージュか。「何処へも行けない」的なニュアンスは木下歌詞で割と頻出だが、特にこの時期とあとしばらく先のミニアルバム『Anesthesia』の時期で目立つ(後者は「何処に向かえばいいんだ」で微妙にニュアンス違うが)。
 なお、歌詞の一部がピー音で消されている。木下作品ではこれまで唯一の処置で、消された部分の内容は「ヘロインと愛」。ヘロインという単語自体はまさに同時期の『ジェニファー'88』『プールサイド』にも出てくるが、「他の行とのつながりで誘ってる風に聴こえる」ため規制された、とは木下の弁(「MARQUEE vol.56 全曲インタビュー」より)。

3. LUCY
 前二曲の轟音と緊張感をかき消すような、静かに収めるような雰囲気の、柔らかくて穏やかな曲調を持つ楽曲。前作の『MEMENTO MORI』と立ち位置が似ている。
 打ち込みのリズムとともイントロからせり上がってきて終始ずっと鳴り続ける、閃光のようなエフェクトが特徴的。これとアコースティックギターの穏やかで牧歌的なフレーズの反復とがこの曲の雰囲気を作っていて、どこか北欧的/宗教的な感じがあるのは第二期以降のサウンド(特にアルバム『PARADISE LOST』あたり)の先駆け的でもある。
 たおやかなサウンドに溶け込む木下のメロディも奇麗。這いつくばるようなAメロから程よくメロディを駆け上がり、「It's going nowhere」のつぶやきに収束していく流れはとてもスムーズで、ポップに虚無的で白痴的。特に三回目のサビ箇所からの「It's going nowhere」は高いメロディで歌い上げられ、そしてここで混ざるファルセットはとても切実で美しい。バンドヒステリー的な目線で見れば、バンド状況が破綻しきった中での木下の救いを求める感覚が一番美しく表出した感じか。
 その救い的な雰囲気は歌詞にもよく現れている。
LUCY 教会へ流れるこの水は/LUCY 澄んでて/全てを洗い流すよ
この純粋さ・美しさに救われたい、といった風情と
そうさ/違う人間に生まれたかったんだ/きっとましだった
という前作の『LILY』辺りを引き摺った(この感覚はアルバム『Love / Hate』まで続く)どうしようもなさが対比されて、傷ついた魂が彷徨っている感じがしている。


 以上三曲。
 いわゆるLOVE/HATE期の、3枚目(SWAN SONG2枚計上で4枚目?)の作品。この後に来るフルアルバムの、先行シングル的な色合いが強い。実際アルバムのレコーディングセッション中に録音した楽曲のようだ。
 第一期アートの集大成的なタイトル曲と、それぞれバンドの表現範囲を広げるような二曲(崩壊している時期によくやれてるなとは思う)で、程よく纏まっている。より曲数が多い『EVIL』よりもアルバム未収録の曲が多く、アートの廃盤シングルの中では『SWAN SONG』の次に大事な作品だと思う。

 LOVE/HATE期は、アートスクールというバンドが最も作品を次々とリリースしていた期間で(同時期のsyrup16gのリリースペースがとんでもないので霞みがちではあるけど…)、この時期の各作品のリリース時期を見てみると(曲数も表示。:○の部分はアルバム収録数)、

『EVIL』(4曲:3曲)2003/4/11
SWAN SONG』(7曲:1曲)2003/7/30
『UNDER MY SKIN』(3曲:1曲)2003/9/29
『LOVE/HATE』(15曲(初回盤):既発曲5曲)2003/11/12

となっている。相当性急なリリースペースだ。特に『SWAN SONG』以降は2ヶ月おきのリリースで、おそらくこれはこのようなリリースペースという予定が先に会社なり事務所なりであって、それに合わせてバンドが録音していったのではないかとも思えるが、それにしても、『Requiem For〜』録音時に既に崩壊していたという話も聞くバンドの状態で、よくこれだけのリリースを、しかも相当な高品質でやってくれていたんだなと、本当にすごいと思う。バンドの状態とは裏腹に、木下の楽曲量産力(あと、声の調子)なんかがひとつのピークを迎えていたのかもしれない。この2003年にバンドがリリースした楽曲は合計24曲に上る。
 上記を数えてもらえば分かる通り、アルバム未収録曲は9曲ある。これらに『LOVE/HATE』初回盤限定のボーナストラック『SEAGULL』を加えた10曲が、LOVE/HATE期のレアトラックとされるが、10曲といえば最早アルバム一枚分である。
 なので、これらの楽曲を一緒に聴くために、以下のようなプレイリストを作って個人的に聴いている。アルバムに収録された曲も含んでいるけど、この時期のシングル集ということで。

1. SWAN SONG
2. OUT OF THE BLUE
3. JUNKY'S LAST KISS
4. ジェニファー'88
5. DRY
6. MEMENTO MORI
7. WISH
8. モザイク
9. LILY
10. SKIRT
11. LOVERS
12. LUCY
13. SEAGULL

 これ、全然アルバムとして聴けてしまう。音質的にも(同時期だから当然かもだが)一貫していて、雰囲気としても木下の一番自虐的・虚無的要素が鮮やかに出たシーズンを攫えていて、いい感じに統一感がある。裏LOVE/HATE的なつもりで愛聴してる。
 だから東芝さん!各アルバムリマスターと一緒にレアトラック集お願いします!

 最後に、同じ年のsyrup16gのリリースを同じ形式で。

『HELL SEE』(15曲)2003/3/19
『パープルムカデ』(4曲:2曲)2003/9/17
『My Song』(5曲:2曲)2003/12/17

あれっこんなもんか…(感覚麻痺)。偶然だけど、アートと同じく24曲をリリースしている。前の年と次の年がアルバム二枚ずつリリースしている(!!?)から少しだけ霞んで見えるが、これも十分に恐ろしいリリースペースであることは言うまでもない。

 こっそりと、個人的に2003年がいわゆるロキノン系の絶頂の年だと思っている。