ブンゲイブ・ケイオンガクブ

本を読まない文芸部員と楽器を練習しない軽音楽部員のような感じのブログ。適当な創作・レビュー等々。

『Surfin' Safari』The Beach Boys

ビーチボーイズの1stアルバム。これ以前の音源集(『Lost & Found』とか)までは手を伸ばしてません…。どうでもいいけどこのアルバムタイトルタイプしてるとfが二回出てくるのでなんかきもちいい。

Surfin Safari / Surfin UsaSurfin Safari / Surfin Usa
(2001/02/17)
The Beach Boys

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ジャケット。当時どうだったか知らないけど、オシャレに見える。空の部分が大きい辺りこういう感じの写真好きな人のツボついてくる。

このアルバムに限らずですが、ビーチボーイズのアルバムは連続する二枚のアルバムが1枚で売ってる(いわゆる2in1)やつがアマゾンなどで買える。単品売りしている日本盤や、最近では最新リマスター(ステレオ化などが目玉だけどそれは該当するCDにて触れる)の単品など出てるけど、とりあえず2枚を一枚で聴けてしかも安いこの2in1シリーズで、ぼくはアルバムを集めました。レコードとかCDとかでプレイヤーで聴くとなると、やっぱり一枚で終わった方が完結感あっていいのかもだけど。



01. Surfin' Safari
 ビーチボーイズの、記念すべきアルバム1曲目から、まさに彼らのパブリックイメージドンピシャな永遠のレパートリーとなるポップなロックンロール。実際は当時はシングル盤中心の時代なのでさほどアルバムの先頭が何かが重要じゃないようにも思うけれど、この曲はまさにシングルリリースされスマッシュヒットを記録している(むしろ当時はアルバムのA面とB面それぞれの先頭にヒットシングルを持ってくるのがビジネス的にも重要視されてた時代だけど)。
 とぼけたようなマイク・ラブのボーカルや、このアルバムのような超初期ビーチボーイズ特有ののんきで気が抜けたようなポップさ(この感覚は近年ならそれこそThe Drums『Let's Go Surfing』なんかに近い感じさえしてくる)など流石ヒットソング光る点は多々あるが、とりわけ重要なのはキメのメロディ部分のバックのリズムだと思う(ダンッ、ダンッ、ダッダッダッダッスッタカタッタカスッタカタッタカのパターンのやつ)。当時ビーチボーイズのデビューと同時期もしくはその後くらいには、似たようなサーフィン&ホッドロッドサウンドを量産するバンド(や、バンドに見せかけたユニット)がたくさん出て来たが、それらのバンドの曲でやたらと出てくるリズムが、このパターンだ。よりヒットして代表曲の風格がある『Surfin' USA』ではなく、この曲のドライブ感なのだ。一体このリズムの何がジャン&ディーンや、ブルースジョンストン、テリーメルチャー、ゲイリー・アッシャー等「サーフィン&ホッドロッドブームの仕事人」たちにやたら好まれたのかよく分からないが、その結果以下のことが言える。
Q:サーフィン&ホッドロッドって、具体的にどういうサウンドなの?
 A:大体この曲みたいな感じですよ。

サーフィン&ホッドロッドの文法があるとすれば、『Surfin' USA』より先にこの曲なのかもしれない。そう思うと、フニャフニャしてて情けない感じさえしないでもないこの曲が、とんでもない金字塔のようにすら思えてくる。

02. County Fair
 軽くテケテケと下降するギターに導かれて始まる、軽快でやっぱのんきな曲。曲名といい、あくまで田舎、ニューヨークやらモータウンやらみたいな「都会のヒップな感じ」がホントに微塵もしないところがこの時期のビーチボーイズの特徴。バンドメンバー自身による演奏(当たり前のように思えるが段々そうでなくなってくる辺りがこのバンドの複雑なところ)はのんびりとヨレていて、特にリズムはハイハットを叩く時の強めで均一な感じがアマチュア感に溢れている(しかし、こういう感じのドラムは特にゼロ年代半ば以降のUSインディーではかなりよく聴かれる感じもする。影響を与えたのか、単に大正義バンドだから模倣されるのかはよく分からないところ)
 歌以外の部分、オルガンが変にかすれた音でソロを取りながらの、いかにもなおっさん声(これは当時のプロデューサーニック・ベネットその人らしい)といかにもな適当にエロそうな女の声による呼び込みの掛け合いが楽しい。次作以降のどんどん洗練されていく楽曲から考えると、随分自由な感じもして、その自由さのあくまで田舎チックな無邪気さが結構清々しい。
 ちなみに、後にブライアンはこの曲のメロディを下敷きにしっかり哀愁のサビを取り付けた『I Do』という曲を作り他のシンガーに楽曲提供&セルフカバーしている。

03. Ten Little Indians
 英語圏で広く親しまれている童謡『テン・リトル・インディアンズ』を下敷きに作られた所謂ノベルティ・ソング的な色合いの強い曲。サーフィンブームがすぐ終わると思ったプロデューサーがブライアンに作らせた曲らしい。
 前曲と殆ど変わらないテンポで、イントロの「インディアンの話し方」をモチーフにしたと思われるふざけきったコーラスが飛び出し、まさにこの時期の自由なビーチボーイズを開始数秒にして体感できる。メロディ自体はオリジナルというよりも民謡の替え歌色が強いが、マイクのやる気が感じられないボーカルが妙にハマっていて楽しい。長くもないいかにもな音色のギターソロを越えて最後のワンコーラスを歌って終わると1分半足らずという、いい具合に投げやりな小気味よさだけがさっと駆け抜けていく曲だ。何気に、既にリードボーカルの裏で全然違うメロディのコーラスでオブリを入れる手法(ビーチボーイズ最大の武器)がかなりのレベルで完成していたりもする。

04. Chug-A-Lug
 このアルバムはホントにテンポが変わらない。この勢い一発な感じがこのアルバムのテキトーで気楽な雰囲気を作っているのかもしれない。
 サビ部でマイクの低音ボーカルが、高音コーラスと対位的な方法で用いられていて、この曲ではまだユニークさの表現的な色が強いが、これも後々ビーチボーイズが数あるコーラスグループとも異なる個性的なコーラスワークにおける重要な武器となる。あと、そのサビでまた『Surfin' Safari』メソッドのリズムが聴ける。

05. Little Girl (You're My Miss America)
 テンポは今までと変わらないが、ここに来てオールディーズポップスのような甘いメロディがやっと登場する。それもそのはず実際にそういう時代の曲のカバー。ここではドラム担当でウイルソン3兄弟の次男デニス・ウイルソンがボーカルを取っていく。彼は後々ビーチボーイズメンバーで唯一の破滅型ロックンローラー的な人生を地でいく人物で、次第に枯れまくっていく声と優れた自作曲で独自の魅力を有するミュージシャンに変貌していくが、この頃はまだバタバタしたドラムがチャーミングなバンド1のイケメン的なポジション。そして声もビックリするくらい甘い。3兄弟は3人ともめっちゃ美声という、凄い連中だ。
 低音コーラスで曲にハリをつけるマイクの声が印象的な他は、カバーということもありとりたてて言うべきことは多くないが、今回のレビューで大いに参考にしている『THE BEACH BOYS COMPLETE』において「デニスのシンガー人生はは結局「青目の女の子」の歌で始まり「青目の女性」の歌で終わった」という記述には目から鱗が落ちた。

06. 409
 初期ビーチボーイズの音楽性“サーフィン&ホッドロッド”の“ホッドロッド”の代表曲のひとつにして先駆け。そもそもサーフィン&ホッドロッドとは、当時のアメリカの若者の間で流行っていたサーフィンやホッドロッド
(詳しくは分からないけど要するにイカすクルマのこと)について歌うジャンルのことをそう呼ぶようになった訳で、このビーチボーイズの最初のアルバムにはしっかりどっちも入っていて、当時のヤングカルチャーの興隆に一役買ったんだろうなあ、と認識はしてるけどよく分かんない。この曲の歌詞は要するに「あのイカすクルマほしいぜ!」
 曲自体は、ブライアンと上でも挙げたゲイリー・アッシャーの共作。彼は初期ブライアンの重要な作曲パートナーのひとりでもある。車のSEなんかは分かりやすい装飾だけど、だが、その後に続く直線的でいい感じにスッカスカなビート・ギター等のアタック感がいきなりホッドロッドソングの典型みたいなサウンドになっている。少しけだるげに低いトーンで歌うマイクのリードと他メンバーのコーラスの追いかけっこは「当時最大限に軽薄化したロックンロール」という感じの快さがあり、単純に楽しい。未だにビーチボーイズのライブで演奏され続けている大事なレパートリーのひとつでもある。

07. Surfin'
 別にはじめっからサーフィンバンドだったわけでもない、そもそも当初はペンデルトーンズという名前のバンドだった彼らを、結果的にビーチボーイズという名前に変えてしまった、彼らの最初のサーフィンソングにして最初のヒット曲。『Surfin' Safari』よりも更に垢抜けない、より「田舎のあんちゃんがなんかサーフィンについてヘラヘラ歌ってる」って感じの気楽で罪のない曲だ。
 何を置いてもこの曲で一番のフックとなる、マイクの低音コーラスフレーズの能天気でテキトーな感じがインパクト強い。間違いなくこのフレーズが曲自体をしっかりとリードし、ヘナヘナな演奏をドライブさせている。今作中でリリースが最も早いからか、録音は最も荒く、ボーカルが特にキンキンしていて、あまりエッジはきつくないボーカルだと思ってたマイクの声がザラザラに聴こえて意外な感じがする。演奏もかなり軽い感じで、エレキギターのテケテケした音も聴こえない、その分より手作り感もあるサウンド。

08. Heads You Win-Tails I Lose
 上記の“例のリズム”を伴った所々のブレイクが印象的な、やはりアップテンポな曲。やたらハイハットの主張が強く、クラッシュ等も一切無しにずっと刻み続けるのは意外とストイックでかっこいい。アルバム全体にもいえるが、自然と強めのエコーがドラム含めてかかっているこの時代の録音は独特の良さある。
 曲としては、ペナペナ高音と低いささやきを使い分けるマイクのボーカルが他のコーラスを上手くリードしている。ギターのミュート気味のアタック感といい、アルバム中でもとりわけ垢抜けた感じに聴こえる。

09. Summertime Blues
 エディ・コクランの歴史に残るあの名曲をビーチボーイズもカバーしていた!と言えば聞こえだけは良さそうなトラック。今作におけるビーチボーイズの演奏面で弱さがとりわけショボい方向に出てしまった感じあって、タイトでキレのいいカッティングのリズム感が重要なこの曲において、なかなかにグダグダな演奏を見せている。特にドラムは、前曲のタイトなプレイがウソのようにフラフラもたつくようなプレイでかなり不安定。ギターソロもないアレンジで、コーラスワークも活躍の場が相当限定されていて、結果「自分で演奏するバンド」としてのビーチボーイズのいちばん脆い部分が出たトラックとなった。
 そのショボさから逆に「ローファイガレージロックの先駆け」と評されてるのを見た時はビックリした。ちなみに、ウイルソン3兄弟末っ子のカール・ウイルソンと、そして最初期ビーチボーイズにて少しだけバンドに在籍していたデヴィット・マークスによるボーカルらしい。カールにおいては後の素晴らし過ぎるボーカリストとしての姿はまだ見えてこない。

10. Cuckoo Clock
 今作でもとりわけ今後の所謂「初期ビーチボーイズ」な曲調、サウンドなのはこの曲なのでは、と思っている。歌自体はサビでカッコー時計のマネをするボーカルが入るノベルティ風味の曲ではあるが、そんな曲に似つかわしくないメインメロディの哀愁っぷりに、メロディーメイカーとしてのブライアンの才能の片鱗が現れていて、相変わらずの性急なテンポながらサビののんきさとの対比で引き締まった作曲になっている。再びなかなかにタイトなリズムを聴かせるドラム(フィルインもかなりかっこいい)といい、時計の針のチクタクをもじりながらも厚めに被さるコーラスといい、この曲は他の初期ビーチボーイズのアルバムに収録されても特に違和感なく聴けそうな気がする。バンドのポテンシャルが上手く現れた一曲。

11. Moon Dawg
 The Gamblersが1960年に発表した、世界初のサーフインストとも言われる楽曲のカバー。サーフィン・ミュージックの先人に対するリスペクトのように思えなくもないが、実際のところ原曲のプロデューサー(ニック・ベネット)が当時のビーチボーイズをプロデュースしていたことが選曲の理由らしい。なんとギターも原曲と同じ人間が弾いているらしく、当時のバンドの立場や、サーフィンミュージックを売り出したいレコード会社の都合等が透けて見える。
 ここで聴けるビーチボーイズの演奏は、ギター奏者が同じということもありかなり原曲どおり。ただ、原曲であったピアノをギターの刻みに置き換えてるので、よりDick Dale(サーフ・インスト界の元祖とも称される偉人)譲りのテケテケリバーブギターサウンドが展開されている。コーラスも入るが、これは割と原曲通り。所々に入る犬の鳴きまねに至ってはやってる人が原曲と一緒(ニック・ベネット。今作でも実質サウンドプロデュースはブライアンだったらしく、この人一体何やってんだ感ある)。

12. The Shift
 相変わらずのファストなテンポで2分弱を駆け抜けていくポップソング。この曲も今作より後の初期ビーチボーイズに近い曲調・コーラスワークで先駆的、というか後のアルバムの「シングルにはなってないファストテンポ曲」のスタイルは殆ど出来上がっている。ちょっと不穏なギターのイントロから一気に始まり、フィルインもギターソロもバッチリ決まっておりなかなかかっこいいだけに、終盤コーラスの掛け合いが続いていく中で早々にフェードアウトしていくのはちょっと勿体無い感じも。

Bonus Track1. Cindy, Oh Cindy
 今作と同じセッションにて録音された曲のひとつ。この時期にしてはしっかりとメロディがポップスしている、と思ったらカバーだった。ファルセットを連発するブライアンだが、まだ後々の爽やかさや美しさよりも楽しみやおかしみが勝ってる印象。テンポはしっかりアルバムと同じ色に染まっている。ややギターのアタック感が抑え気味なのは今作より後の作品寄りかも。

Bonus Track2. Land Ahoy
 今作のアウトテイクとなってしまった曲(『Surfin'』が収録されることが決まり代わりにボツになったらしい。仮にも最初のヒット曲であるトラックをアルバムに入れない案もあったのか…)。どこまでいっても今作のテンポは安定してファストであることを証明する、軽快な楽曲。特にサビのタイトルコール的なフレーズはかなりの脱力具合で、テンポの速さを感じさせず、マイクボーカルのヘンテコな魅力を感じさせる。アンタ全然クールじゃねえよ変だよ…しかしそこがいい。バッキングのトローンとしたカッティングのギターものんびり風味。そして1分半ちょっとであっさりと終わってしまう。

 The Beach Boysの最初のアルバム。オリジナルアルバムは25分程度しかないけれど、彼らにとっては割と普通の長さである(実はかの有名な『Pet Sounds』はあれで彼らのオリジナルアルバムでも収録時間が長いほうである)。
 今まで色々書いてはきたが、正直な話、ビーチボーイズの最初のアルバムだから聴かれている作品という度合いは小さくない。演奏、コーラスワーク、楽曲どれもまだ始まったばかりという感じの、それも自分たちがすごい原石だということさえ気づいていないかのようなのんきなムードがアルバム全体を覆っている。まだ「カリフォルニア州ホーソーンなる郊外の若者たちによる楽しい音楽」といった具合で、彼らがアメリカを代表するロックバンドになるのは先の話(とは言ってもこの作品の直後に『Surfin' USA』の大ヒットが控えている訳だけど)。
 しかしどうだろう。今は2015年ではあるが、このアルバムを凄い昔の作品だとあまり思わない感じがしてしまうのは、ゼロ年代中盤以降のUSインディー、いわゆるピッチフォーク系の線の細い感じのバンドと、スピード感とかメロディーの感覚とかで共通するところが感じられるからだろうか。つまり、初期ビーチボーイズは近年のUSインディーバンドに何度目かの“再発見”をされたが、そのインディーバンドたちの直線的で性急なビートに、今作におけるデニス・ウイルソンのドラムのフィーリングを感じることは出来ないだろうか。もしそのインディーバンドたちがホントに物好きだったとしたら、USインディーのある時期ある界隈においては、デニス・ウイルソンこそが最新のビートだったのではないか(流石に言い過ぎて故人から天罰が下りそうな気がしてきたぞ)。
 何にせよ、意外と波乱と混乱と失意に満ちまくったビーチボーイズの歴史において、今作にこそ一番平和でお気楽なムードが漂っていることは間違いなさそう。そのムードは、もしかしてホントに今作にしかない貴重なものではないだろうか。ブライアンまだ20歳。後にアメリカのロックもポップスもサイケも背負いぶっ倒れておじいちゃんになる男の、まだ嵐の前の時代(当時まだフィル・スペクタービートルズもいなかった)を切り取った、無邪気で自然体な青春の一枚(歌詞はサーフミュージック売り出しのために色々考えられているだろうが、それも含めて)。美しくて胸が痛くなるようなロマンチックな瞬間がまるでなくて、かわりにしょーもないユーモアばかりがあることも含めて、本当にリアルな青春がここにはあるのかもしれない。

 あと、収録曲12曲中9曲がオリジナル曲というのは、当時のバンドのデビューアルバムとしては異様だということも付け加わる。ビートルズで8曲/14曲、ストーンズ3曲/12曲、65年デビューのザ・フーで9曲/12曲であることを考えると、何気に凄いオリジナル指向だ。しかも今作のリリースされたのはビートルズがやっと『Love Me Do』でデビューした頃。
 ただ、こういった歴史的考証をもって「この作品はすごい!」と言ったところで、実際の音が変わる訳でもないし、これからのレビューは、極力こういった「歴史のお勉強」的な話は脇に置く程度にしようと思います。