ブンゲイブ・ケイオンガクブ

本を読まない文芸部員と楽器を練習しない軽音楽部員のような感じのブログ。適当な創作・レビュー等々。

2015.2.13 ART-SCHOOL活動休止前ライブ

 ART-SCHOOLが2月13日のワンマンライブをもって活動休止に入った。しかしながら、今回の休止が、メンバー間の致命的な不和によるバンド壊滅などでなくもっと別の理由があることは、木下理樹本人の活動休止発表時のコメントからは薄ら、また小野島大氏による下記のインタビューにおいてより具体的に現れている。ついに独立レーベル立ち上げるのか。

 しかし、今回の活動休止について最も安心したのは、やはりその休止前最後のライブにおける発言や、なにより雰囲気だった。
 そう、行ってきました2015.2.13 新木場STUDIO COAST
写真-1
 所用により神保町から歩いて向かって、着いた時にはもの凄く疲れたし、もうアートスクールお決まりの開演SEである『Girl/Boy Song』がかかっていて焦ったけど、なんとか1曲目から観ることが出来ました。

 以下感想書きます。思い出しながら、なるべく詳細に。相変わらず敬称略で。



1.BABY ACID BABY
 開演SEが止み、それと入れ違いに現れるこの曲イントロの野太いベースの音で、ライブが開演する。アートが一番ブランキーモーサムなフィーリングを繰り出すこの曲の勢いは、バンドの救いのない世界観を開き直ったかのように、ダークでありながらもどこか清々しい。前にコーストでライブした前メンバー時に制作が目指され、少なくともこのライブまで続く新メンバーの布陣(ベース中尾憲太郎、ドラム藤田勇)により強烈にブーストされて完成したこの楽曲が放つどこまでもオルタナティブなアンサンブルが、ここにきて更にシェイプアップされたような轟音となって響く。
 そして最後のサビで木下が叫ぶ(音源よりも声がクリーン!)
愛し合う為生きてるって 感じたいだけそれだけなんだ
 光の中で君は泣いた 僕たち皆間違いなんだ そうなんだ

アートの基本スタンスを高々にかつ完全に居直って叫ばれるこのフレーズ!なんて力強く投げやりなフレーズなんだ!とビックリ感激した初聴のときの気持ちを思い出した。休止前最後のライブの始まりという悲壮感よりも遥かに昂りが勝っていて、晴れ晴れした気持ちで次の曲を待つことができた。

2.real love / slow dawn
 身も蓋もない言い方をすれば「Bloc Partyサウンド」系統の曲群というのがアートにはあるが、この曲がそのハシリ。ハシリにして、いちいちキメが大袈裟でキレッキレなこの曲も大いにライブ向きで、収録ミニアルバム発売ツアー後はしばらく演奏されない時期が続いたものの、近年になってセットリストに復活後、結構よくライブで聴けるようになり、疾走グランジとは違うアートスクールをアピーする曲のひとつとなった。
 このライブでもその演奏のキレッキレさは変わらず。特に現状のメンバーでやるとどのパートも激しさが増しているような感じ。特にドラム、藤田勲氏の「ともかく入れ込むスキがあればフィルしまくる」プレイが曲のややファンク寄りなアッパーさを加速させていた。変幻自在の戸高ギターといい、「そんなにフレット移動する必要あるの…?」と傍から思うほどアグレッシブに動くベースといい、勢いがすごい。

3.Promised Land
 この曲も「Bloc Partyに影響を受けて以降」の感覚がサウンドやキメなどに反映されている。現状最新アルバムからの曲ということで、前曲と対比してバンドがそのある意味借り物のようなサウンドをここまで自分のものっぽく咀嚼した、とかいう評論的な見方だって出来るだろうけれど、ここではそんなの意味ない。だって勢いがあるんだもの。
 最新アルバム『YOU』リリースより前のツアーから既に演奏されていたこの曲、現状のバンドのポテンシャルが自然にかつギチギチした形で活かされたサウンドカラーはハードさの中に容易に瑞々しさを染み込ませる。やたらyou know you knowと連呼しまくりな歌もサビではせり上がっていくメロディとベースラインの妙でしっかりポップに聴かせる。

4.夜の子供たち
 やはりブロパ影響以降感の楽曲。というかこの曲はもっとThe Novembersとかの邦楽の後進バンドからのフィードバックを感じさせるキリキリしたゴスさがある(それでも全体としてはポップに纏めてる辺りアートの個性か)。
 個人的にはこの辺りの「ニューウェーブ要素を攻撃性に転化した近年(といっても2007年以降だけれど)アートサウンド」の総決算のようなこの曲順はすごく熱かった。この流れの三曲は特に、リードギターアルペジオ等のレイヤー的なサウンドよりももっとストレートにフレーズやカッティングを聴かせるプレイが多く、戸高のキレッキレしたプレイが多く見れて相当楽しかった。
 特に圧巻なのは最後のサビ前の轟音パート。原曲でもここはかなり音の壁してた箇所だったが、このライブでの轟音具合は更に派手なことになっていて、不安と高揚が舞い飛ぶような鮮烈なセクションを形作っていた。

5.BOY MEETS GIRL
 5曲目でやっとライブ定番の初期疾走曲の登場。フロアの空気が一気にステージ前方に集まっていく。一直線にかき鳴らされるギター、重く引き摺りながらも駆け抜けていくドラム、這うベース。初期疾走曲になると急にどのパートの音も纏まってひとつの塊のようになっていく。その眩しい熱気にあてられて、遂にフロア前方でダイブをする観客が現れだす。決して長くない、すぐ通り過ぎていくサビの間に身体を宙に放るその光景。パワー。
 『YOU』のツアーの時からだったか、原曲でシャウトを引き延ばしていくところをシャウトせず、別のメロディを付け足すアレンジ。ギリギリさを感じさせるシャウトを期待してしまう反面、この変化に面白みも感じられる。

6.サッドマシーン
 立て続けに初期疾走曲。彼らの曲の中でも、いわゆるブチアゲ系の最たるもの。イントロでどよめくフロア。この曲も『YOU』ツアーの前あたりからサビのシャウトが一部省略されて歌われるようになったが、それでも曲自体の勢いは損なわれない、どころか強力リズム隊がより煽り立てる。間奏ブレイクからサビに入っていく前のフィルインの機関銃のような響きに驚く。思ったよりもエコー感を排したアルペジオの硬質な響きといい、原曲よりもシャープで重々しい色付けがなされていた。

7.YOU (w/ UCARY & THE VALENTINE)
 ここから2曲は、ゲストにUCARY & THE VALENTINEなる、アルバム『YOU』等でも客演していた女性ボーカルが参加し、木下と2声になったことでよりカラフルな音像を体現していた。アルバム発売前からステージで演奏されていた、アルバムのブライトサイドの一角であったこのタイトル曲も、その淡く煌めく幻灯のような風情をそのままにステージから照射していた。間奏の木下のシャウトが、彼のキャリアの一貫した何かを物語っているようにも聞こえた。

8.Water (w/ UCARY & THE VALENTINE)
 『YOU』ツアーでの意外だったことのひとつは、アルバムからもっとライブ向きっぽいハードな数曲を差し置いて、このくぐもったコード感のネオアコ風味なナンバーが頻繁に演奏されていることだった。軽やかにスウィングしていくリズムに同じく軽快にランニングしていくベース。そしてそれでも保たれるアート的なモノトーンの哀しみをたたえたコード感。木下の重要なルーツのひとつである『North Marine Drive』の風情を幾らか思わせるこの曲に、彼個人の思い入れが透けて見えるような気がする。
 このライブではそこにゲストボーカルが原曲にはないタイプの花も添えて、感傷的な美しさの態様を穏やかに放出していた。しかし、こういう曲での木下のギター弾かなさと、そしてそれを十分に補ってしまう戸高のギターワークは本当に素晴らしい。前メンバーでの解散危機時に木下が戸高だけはなんとしても引き止めた理由が、こういう曲をライブで聴くとまた一段と理解される。

9.乾いた花
 前曲が終わり、UCARY & THE VALENTINEが退場。その後木下によるMCで、以下のツイートに似たことを言っていたのはこの辺だったか。

その直後に演奏されたのが、確かこの曲だったか。未だに彼らの代表作とされる1stアルバム『Requiem For Innocence』は幾つものライブ定番曲を持つアルバムだが、そのアルバムの最後に収録されたこの曲はそれほど頻繁に演奏されるものでもない。この曲の歌詞に以下のようなフレーズがある。
生き残っていたい 生き残っていたいよ 今日は
この、アルバムのストーリーを完結させる為に取って付けたようだと穿った見方をしてしまうような感じもあるフレーズはしかし、結局はこの「今日」の積み重ねこそが、このバンドの息も絶え絶えのまま長く続いた歴史になっているのではないか。この節目のライブでこの曲を演奏することに、本人はどんな思いがあったんだろう、余計な想像をしてしまう。

10.DIVA
 1stアルバムからの選曲が続く。今度は割と定番曲にしてメジャーデビュー曲の登場(メジャーデビュー曲なのにアルバム中のライブ登場頻度がそこそこなのはなんなんだ)。この曲のシンプルで穏やかだけど何か予感を感じさせられるイントロにはやはり引きつけられる。
 この日の木下のボーカルは調子がかなり良かったが、裏声の使用はなかった。それでも、この曲のヒリヒリとした溌剌なメロディの良さは損なわれてはいなかった。サビでの加速は、とりわけ勢いと手数に特化したドラマーの存在と、誰よりもアートの曲を弾いてきたであろう戸高の原曲をより発展させたギタープレイによってより強烈な疾走感を帯びる。木下言うところの集大成というのは、こういう側面のこともあるんだと、ライブ中の興奮を思い出しながら思う。

11.ロリータ キルズ ミー
 初期曲流れのとどめ。ライブで最も盛り上がる曲がインディー時代のミニアルバム収録の楽曲であるという不思議なバンド・不思議な歴史。それでももう、音源にないライブで追加されるお決まりの木下ギターによるプレリュードが流れた瞬間にどよめくフロア。登場が早いんじゃないか、と意外な感じもした。
 バンド演奏がスタートしてからはもう、本当にあっという間だった。ライブならではの木下の絶叫、僅か十数秒の駆け抜けるサビの間に舞い上がるクラウドサーファー(よく見るとちょっとはしゃぐこともある大学生、くらいの人だった)、勢いがありすぎて最早音源からどう変わったか把握する気になれない演奏の飛ばし方等々。イメージが乱反射する数々の言葉が矢継ぎ早に吐き出され、猛々しくも眩しい演奏があって、それにフロアが舞い上がる光景、この曲がライブで演奏される時の、フロア含めて全部凄くキラキラした感じになるのは、不思議だけれどとても凄い。

12.Chicago, Pills, Memories
 MCを挟んで(戸高が「いろんな人から『やめないで』って言われましたけど、必ず帰ってきますから!」という発言が出たのはこの辺だっただろうか)、戸高がギターで不思議な音を発し始める。魂が重力に逆らっていくような音。多少でもギターを弾くから分かるけれど、あれは逆再生ギターの音だ。はてそんな逆再生ギターがキュンキュン鳴らされるような曲がアートにあったっけ、と思ってたところにこの曲が始まって「あっ、これか!」ライブでは音源以上にこういうところエフェクティブでノスタルジックにやるんだな。
 現行の4人体制初作品からの、2曲目の選曲がこれというのも意外な感じ。アルバム中でも一際コンパクトでやや地味なポジションのこの曲を選ぶ辺りに、本人の何かしらの思い入れがあるのかなと思った。が、楽曲が始まるとやはり素晴らしい。この曲は構成上歌よりもその後のギターの響きこそが重要だが、そこがしっかりと再現されていた。特に終盤の、曲の短さに比べて不釣り合い(だからこそいい!)な程大きなスケール感を持つ、2段階で広がっていくギターサウンドは実に雄大で、やはり近年の曲になるほど戸高ギターの存在感というのは本当に重要なものになっているんだと、その遠く向こうを見渡すような奥行きに陶酔した。

13.プールサイド
 この曲らしきイントロが流れた、と思った瞬間、思わず大声を上げてしまった。静かな曲だから普通静かに聞き入るモードに入るべきなのに…。前曲からの流れは非常に良かった。
 この曲をライブで観るのははじめてだった。ライブ動画としては、youtubeにアップされている『BOYS DON'T CRY』初回特典DVDに収録されたものしか知らなかった。このライブの前に京都で(なぜ)行われた木下理樹弾き語りライブでは普段のアートのライブではなかなかお目にかかれない曲を沢山やっていて、セットリスト見ていて羨ましいばかりだったけど、その中にこの曲もあって、すごく観たい、と思っていたので、この曲のイントロ!と思った瞬間つい感極まってしまった。
 この曲の水中を深くたゆたうようなギターワークはしかし、原曲においてはギターの多重録音による効果が大きく、つまりライブでギター2本で再現するのが難しいことは、先の動画で知ってはいた。なのでどうするんだろう、という気持ちもあった。
 結論から言えば、戸高のギターは完璧だった。静パートではアルペジオとゆらめくようなカッティングを使い分け、原曲の奥行きをしっかりと尊重し再現しようとする姿勢が凄く見てとれた(木下が歌いながら何か弾けばいいところなのかもしれないが)。そしてサビでは、同音反復の浮遊感溢れるカッティングの中に絶妙にフレーズを入れ込み、原曲の轟音を考慮しながらライブ的なドライブ感も反映された、素晴らしい轟音が生み出されていた。彼のギターは近年の曲になるほど「彼らしいプレイだ」って思うことが多かったが、この曲では彼のアートスクールに対する研究心と勇敢さが垣間見えた気がして、とても熱くなった。

14.LOST IN THE AIR
 前曲から続けてこの曲。『シカゴ〜』からこの曲までの流れは所謂「レア曲ゾーン」だと思われるが、この曲のバックで反復し続けるピアノのフレーズが鳴り始めた時のフロアの静かなどよめきが印象的だった。前メンバーの最終ライブでも演奏されたこの曲が、この4年でどう変わったか。
 リリース当初からしてもやや浮いてる感じのあったこの曲の一番のポイントは、曲の所々でざっくりと入る全体のブレイクだろう。このZAZEN BOYSばりのブレイクがあることが、アートの楽曲でこの曲が未だに特殊な存在感を放っている理由だろうし、またそれによる演奏のし辛さが「仮にもミニアルバムのタイトル曲なのにレア曲扱いなのか…」的なポジションになっている理由だろう(もっとも、PVある曲で演奏されない曲は他にもっとあるけど)。
 で、今回のライブではとりわけそのブレイクの処理の仕方に大きく手を入れたものとなった。前メンバーラストのコーストでのライブ時には比較的原曲に忠実にブレイクしていたところだったが、今回はブレイクするタイミングの直前に思いきったハイハットのアクセントが入るようになっていた。この、カウント取りとアレンジを兼ねた大胆な改変は賛否両論あるだろうが、個人的には「そうくるか!」という楽しさがあって面白かった。ピアノのリフレインSEと同期してプレイされる曲なのでともすれば大人しい感じに収まりかねないところを、同期しなくていいところで思い切ったブレイクを取ったことで、曲に新しい荒々しさが混入されていた。こういう、曲の解釈自体が変わってしまっているドラムこそアートの現ドラムとしての藤田勇の真骨頂だと思う。
 裏声を使わない木下の歌唱は原曲と多いに異なる部分があるが、むしろ最後のリフレインで低めに囁くように歌うのは原曲とはまた違った儚さがあって好きだ(これは前メンバーコースト時も同様)。

15.革命家は夢を観る (w/環ROY
 前曲が終わってまたMC、またゲストを紹介する旨の発言があった後に登場したのは環ROY。服装がかなりシンプルで、ラッパーっぽくないいでたち。登場早々木下が「サブカル文化人を目指してるんだよね」等といじりはじめ、環ROYの「じゃあリッキーは何目指してるの」という質問に対しての木下の返し「世界平和」でフロアが笑いに包まれる。おいおいここはロフトプラスワンか何かか。
 環ROYが登場してやる曲は1曲しかない(過去の曲に新しくラップを取り入れてアレンジするといったことをこのバンドがするのは考えにくい)。きちんと原曲通り、ラップ入りの『革命家は夢を観る』。去年観たライブでは会場が地方で、環ROY不在にも関わらずこの曲をプレイするバンドの姿があって、ラップパートを変わりに誰かが何か歌う訳でもなく、ひたすらセッションめいたガチャガチャした(主に木下の雑なギターカッティングによるもの)何かが展開していく様はシュールでそれはそれで…だったが、遂にしっかりしたものを観れた。
 やはり環ROYの安定したライムは聴いててすわりが良く、むしろ後ろでやはりガチャガチャやってる誰かのギターが邪魔に思う瞬間もあった程。しかし、それでもやはり終盤の二人の歌とラップの掛け合いは良いもので、バンドのスウィートネスな部分だけを抽出したこの曲の魅力は、セットリストに他の曲にはない落ち着きとまろやかさを与えていたように思う。

16.その指で
 環ROYが退場して、しかしながら次の曲が前曲の雰囲気と幾らか共通するもののあるこの曲だったのは、いい流れだと思った。限定販売シングルのカップリングというレア曲的立ち位置(iTunes Storeで購入可能だが)の割に、ツアー時以上の尺のライブではやたらプレイされ、最早ライブではレア曲というよりむしろ裏定番と化している感のあるこの曲だが、今回もプレイは冴えていた。
 プリンス的なファンクネスを導入した系統の曲の、ひとまずの完成形であろうこの曲は、その分各楽器のプレイもまた典型的なアートサウンドとは異なる魅力がある。「ルードで直線的なベース」がウリとされていたナンバーガールの頃の中尾憲太郎(n歳)のイメージは遥か遠く、かなりしなりのあるベースラインは比較的ストイック気味なドラムとともにがっちりとR&Bなリズムを作り、その上で戸高のギターがいい具合にファンクっぽく手を替え品を替え音を添える。
 木下は元々キーが低いこの曲を無理なく歌いこなす。原曲のファルセットコーラスが無い代わりに木下は所々でオクターブ上を歌い、曲全体のリズムを図っていた。特に終盤のリズムが加速する箇所でもボソボソと歌いのけるのはかえっていかがわしさがあって、この曲のライブ時の歌アレンジは相当良いと思う。

17.アイリス
 この辺りでまたMC。活動休止の理由をぼんやり語っていた内容だったが、その中で「自分たちを好きになってくれる人に対して失礼なことをする奴なんか死んじまえ」という話が。すかさず「活動休止する奴がこんなこと言っても説得力ないけど」と話しだす木下。どこまで考えてしゃべってるんだろうと思ったが、同時に小沢健二の1stのセルフライナーにあった「ついでに時代や芸術の種類を問わず、信頼をもって会いに来た人にいきなりビンタを食らわしたり皮肉を言って悦に入るような作品たちに、この世のありったけの不幸が降り注ぎますように」という文章を思い出し、それと同じ類の熱情を感じた。
 そのMCの後でこの曲。演奏頻度高い初期曲のひとつが今日また勢いよく始まった、と思ったら、歌詞が1行目半ばにして飛んだ。おい流石に早過ぎるだろ!さっきのMCを踏まえるとどうなのよ!っていうか何回演奏したか分からん曲の歌詞だろ!って具合の突っ込みどころはあったが、曲自体はそれでも順調に進行。ヘッヘーイの裏声がなかったのはやや寂しかったが、その代わりサビでは原曲以上に元々の歌詞に忠実な発声をしていたりして意外と細かいところにも目線が入っているのを感じた。

18.BLACK SUNSHINE
 ライブではともかく疾走曲ないしはテンポ速めの曲が多いアートだが、この曲はミドルテンポで割と演奏頻度の高い曲。ライブでの演奏頻度が高いのは、間奏のブレイク等でギター二人がコードカッティングを向かいあってユニゾンで弾く箇所がステージ的にサマになるからだと思ってる。この日もまた、向かい合ってギターを弾く二人。仲違いはないにしても、やはりここにはこの曲なりの緊張感があると思った。

19.MISS WORLD
 MC。「このライブはDVDにするつもりです」とのこと。またコーストのライブがDVDになるのか!その後「残り少ないですが、楽しんでいってください」とのこと。アートのライブ本編の終盤といえば、それはもう疾走曲祭り。ある程度のファンだと大体何となくこの曲来るなと思ったのがその通り来るような、そんな時間の始まりは、今回はこの曲だった。
 音源とライブとの差が最も激しい部類と思われるこの曲。原曲の疾走とも言い辛いテンポは何だったのか、ガンガン加速して突っ走って間奏で爆発するのがライブでのこの曲だが、現メンバー体勢になってからはさらにひと捻りが加えられている。それが間奏最後サビ直前の部分。ドラムの猛烈な連打が加えられ、この部分は前メンバー時のライブともかけ離れた強烈な出来になっている。藤田勇というドラマーはフィルを沢山入れないと死んでしまう男なんだろうか。その心意気がいちいち楽しくて仕方がない、素晴らしい音の壁っぷりだった。
 
20.車輪の下
 前曲の勢いも冷めきらぬままにこの曲のイントロに突っ込んでいく。毎回毎回のことではあるが、やはりこういう生き急いでいるとしか思えない楽曲の連発には他のバンドでは味わい難い特別な雰囲気がある。特にこの曲については、格別のアレンジ変更もなく演奏されているが、しかし演奏の熱の入り方がやはり極端すぎる。はち切れそうなベースラインも、やや原曲よりはしゃぎ気味なドラムも、最後のサビだけ自由に弾け飛ぶギターも、そして単純明快でむしろアホっぽくさえ聞こえるサビの自虐的な歌詞も、素晴らしい勢いで駆け抜けていく。イメージに富んだネガティビティが一直線に駆け抜けていく様のエネルギッシュさは逆説的もいいところだ。この曲でフロアでダイブが起こることの幸福さは、他のどのバンドにも滅多に見られない、美しい光景だと思う。

21.UNDER MY SKIN
 前曲の最終音が鳴り止まぬうちに、戸高がステージ向かって左側の方を指差す。中尾憲太郎が相当なスピードでやや複雑でやたら攻撃的なループフレーズをはじき出し始める。そして全体の演奏が始まってしまってからは、もはや勢いのみである。数あるアート疾走曲の中でも、この曲が最もその直進性と、そして暴発状態のまま突き進むエネルギーが凄い。木下がAメロのメロディを平坦にして歌ってても、戸高がサビでもうなんかグチャグチャしてるようにか聞こえないギターを弾いても、客観的に観て崩壊寸前のようなアンサンブルでも、曲の持つ構成とテンションがそれらを強引かつ強烈に繋ぎ止めてしまう。
 今回のこの曲で特に嬉しかったところは、サビの発音がアイリスと同じく、ちゃんと元の歌詞通りの英語を歌おうとしているところと、そして何よりサビの最後のメロディの微妙な変更である。ライブ時の気の狂ったようなテンションを確かに受け止め間奏に繋げる、そんな上ずり倒した「smile」の部分の歌い方はもはやシャウトに近い。素晴らしいテンションの激烈さは、そのままギターノイズまみれのままノンストップで次の本編最終曲に繋がる。

22.FADE TO BLACK
 もう何年も前から、アートの中規模以上のライブの本編最後は『UNDER MY SKIN』とこの曲の連発が定着してしまっていた。そう、前曲でのどこまでも暴力的に突き進むエネルギーが、この曲のどっしり膨らんだリズムの中で強烈に圧縮され、爆発してしまうものだ。最早リフなのか騒音なのかよく分からないがやたら鮮やかでキラキラしたようにも聞こえるライブでのメインリフ部の轟音は、アートが持つ攻撃性・透明性・ネガティブな生命力がモロに立ち現れる瞬間の最たるものである。
 軽やかな疾走と激しい爆発を何度も繰り返す。木下のサビの歌唱は完全に破綻してしまっているが、そんなこと誰ひとり気にしない、それどころかむしろそれでこそ!とすら思われてしまう。何故この人はこんなにも絞り出してしまうんだろう、絞り出し続けているんだろうと思わずにはいられない強烈で、自暴自棄的で、しかしもの凄くかっこいい瞬間が、この日も大人数の前で通り過ぎていった。

(Encore 1)
23.Hate Songs (w/ UCARY & THE VALENTINE)
 再びステージに現れたメンバーたち+ゲスト。木下の手元にはアコギがあって、昔あった弾き語りコーナーの再現か、と思ったがメンバー全員がスタンバイしていて、単に木下がアコギを弾くバンド演奏なことに気づく。木下がアコギで少しアルペジオを試し弾く。それは『カノン』のそれだったので、おおっ、と思って身構えていたら『カノン』ではなくこの曲が始まった。そして結局このライブで『カノン』やらなかった。なんなんだ。
 それはおもかく、この曲。現在リリースされた楽曲の中で最後のものとなるこの曲。落ち着いたテンポながら、穏やかに感傷的で夢見心地な音世界を構築したこの曲は、アートの慈愛サイドの楽曲の今のところ最終形でもあり、その歌詞の風情は今のところの木下の結論的な部分が出ている。
恵みの雨 慰めあえ 糸を手繰った先には いつだって 貴方がいたんだ
繰り返し歌われてきたことでしかないような気もするが、しかし「I & youの世界」に改めて向き合った先に見えた光景のようでもある、この曲の優しさを、バンドが大切に紡ぎ上げる。特に戸高のギターは、木下のアコギがあまり聞こえない(Bメロでは最早弾いていない…!)中で実質1本のギターだけでこの曲のゆらめきのようなサウンドの多くを体現していて、それは不思議と感動的だった。ゲストボーカルを伴った木下の歌には落ち着きがあり、濁ったまま澄み切ったような、複雑さを内包した歌を実に滑らかに聞かせていたように感じられた。

24.フローズン ガール (w/ UCARY & THE VALENTINE)
 引き続きアコギ&ゲストを伴って鳴らされたのがこのフォーキーで爽やかな曲だったのはとても楽しかった。ライブ終盤にこんな曲をさっと出せるだけのレパートリーの気の利いた具合は、流石長くやっているバンドだと思える。今の日本有数のイカついリズム隊を抱えておきながらこんな可愛らしい曲をさらりと忍ばせる辺り、現メンバーの充実した足取りが思われる。
 この日もその多くの点で無邪気さが感じられる演奏が心地よく響く。特に次々とバタバタしたフィルインを繰り出していくドラムの愉快さはとてもグイグイ来るものがあって、それに導かれるように自然に噴出する、珍しくストレートなギターソロが清々しい。アートらしいくすんだブルーな感覚が、ヴェルヴェットな質感のまま心地よく味わえた。

25.スカーレット
 MCで、戸高が話す「アートでは自分の激しい感情を出すことができる。アートには感謝しかない。だから、悔いが残らないようにぶちかまします」。そのMCの直後に演奏されたのが、戸高がアート加入後すぐにリフを用意し、結果的に木下と共作となったこの曲だった。
 今にして思えば、単に「アートらしいギターのコード感・カッティング」というのを通り越して、この曲のリフは所謂ロキノン界隈感傷的な雰囲気の形成に一役買った感があるのかもしれない。そのようなリフを、MCの通りぶちかます気持ちで、一際強く弾くリードギタリストの姿がそこにはあった。勢い一発、リリース当時のバンド再始動一発目の曲の根幹に関わった楽曲をぶん回すことで、彼は自身のこのバンドに対する長くなったキャリアを始まりから振り返ったのだと思う。戸高賢史抜きで現状のアートが楽曲をこなすのはなかなか難しいだろう。いい『スカーレット』だった。

26.あと10秒で
 近年は本編の締めが上記二曲で固められたことで、この曲がアンコール時の締めになっているように思う。所謂第二期アートの代表曲中の代表曲であり、第二期始動後常にライブで演奏されてきた楽曲ではなかろうか。シューゲイザー的なサウンドと軽やかなダンス要素にぶちまけるようなフィルイン、そしてひたすら単純にかつポップに努めながらも身も蓋もない言葉をリフレインする木下理樹
 SEと同期しながら演奏するタイプの楽曲でありながら、この曲におけるバンド演奏の大胆さ・SEにつられて縮こまることのない具合は素晴らしいが、現メンバーはそこに更に色々なものを注入していた。特に戸高は、それこそ何回演奏したか分からないこの曲にいい具合に飽きて、曲中でどうアドリブを出すかを常に工夫してきた歴史がある。今回も間奏でその自由さを担ぎだし、快活なテンションに任せて自由自在に弾き倒す様がまた爽やかだった。最後のリフに戻る直前にヘンテコなビヨヨーンって感じのフレーズをくっつけてたのを聴いて、あ、ユニークだ、この人きっと帰ってくるわ、と思った。
 結果として、1回目のアンコールは4曲とも第二期以降の曲となった。キャリアを考えれば当然あり得ることだけど、何気にかなり珍しいような気も。

(Encore 2)
27.しとやかな獣
 二度目の終演後、きっとまだ何かあるだろうと思って待っていた。そして3たび彼らは来た。ファンに対する今回最後の挨拶「結構長いこと休むけど、必ず帰ってきます、待っててください」という言葉をよそに、何を演奏するんだろう、やっぱり『斜陽』かな、と思ってた。
 イントロを聴いた瞬間、本当にビックリした。歪んで揺らぐ、雲が墜落していくようなギター、荒野を歌詞の通り裸足で歩くように地にどっしり足がついたリズム、ああ、『プールサイド』に続いてまた!
 演奏は、もう殆ど覚えていない。ただひたすら、ステージの方が眩しくて、暖かくて、美しかった。第一期時代最大の慈愛サイドの楽曲にして、本当にギリギリのラインで他人を肯定する歌だ。
美しい、しとやかな獣よ 貴方は空っぽのままでいい
 光は、光は此処には射さないさ 裸足で、裸足のままでいい 裸足で

泣きそうだった、いや、泣いていたと思う。ライブでははじめて聴いた。今のアートスクールは他者を思いやることをしている。どこまでも甘く優しい質感の『Hate Songs』が一方であり、そしてこの曲は荒涼とした景色にかすんだ目で見えた”何もなさ”自体に救いを見いだすような、もう一方として彼らにおける究極の楽曲だろう。
 そんなどうでもいい分析ホントにどうでもいい。ぼくは生まれてはじめてこの曲をライブで聴けた。活動休止前最後にバンドが演奏したのがこの曲だった。それだけでもう、このライブ自体すべてが素晴らしすぎるものだったと思えた、思えたんだ。


 トータル27曲。一昔前のアートと比べるとやや曲数少ないかもだが、それでも十分に充実した曲数、選曲だった。後から欲を言えば『シャーロット』も『刺青』も『LOVERS LOVER』も聴きたかったし、っていうか鈴木浩之在籍時の楽曲が1曲もないといった少し気にかかる点もありはするけど(アルバムツアーでは『14SOULS』を演奏していたので、そんなに心配してる訳でもないけど)、それでも十分十分。というか『LOVE/HATE』からの楽曲二曲だけでお釣りが出まくるほどに嬉しかった。ホントに嬉しかった…。
 アートスクールは活動休止に入ったが、その理由については既に上記の小野島大さんのインタビューで多くが語られていて、それがポジティブな内容である為、心配はしていない。ゆっくり休んで、自由に動ける体勢を作って、そしていい曲を沢山作って帰ってきてくれることを、ただ単純に待つばかりだ。
 ひとまずは、ありがとうございましたART-SCHOOL。また会える日を楽しみにしています。


次回更新あたりから、第二期アートの作品レビューを再開したいと思っています。
あと、私事ですが、ライブ後のスクーラーの集いに集まった皆様、大変ありがとうございました。あんなにアートをどこまでもネタにおしゃべりしたこと生まれてはじめてだった…。