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ブンゲイブ・ケイオンガクブ

本を読まない文芸部員と楽器を練習しない軽音楽部員のような感じのブログ。適当な創作・レビュー等々。

【あ】あなたのいない世界で/コシミハル

あいうえお順で、一回につき一曲なんかテキトーぶっこきながら書きます。

 美しさにもベクトルがある。スポーツ選手の躍動の瞬間のような精力溢れ力強い美しさもあれば、滅び行く建築物が醸し出すぞっとして切なくなるような美しさもある。
 小西康陽という作曲家(に収まらず映画中心に多様な文化を取り扱える「ブンカジン」的なスタイルこそが彼の——ピチカート・ファイヴ渋谷系というムーブメントにおける影響力の重大な原動力のひとつとして機能し云々…はここでは置いといて)は、日本有数の美しくて悲しい歌の名手だと思う。実際『悲しい歌』という曲も作っている。きっと悲しい映画を見すぎたんだと思う。
 彼の作曲家としての強みは、まず骨組のソングライティングの良さ。日本の昔の歌謡曲的な要素(J-POP的なカッチリしてスッキリした曲構成というよりも、良くも悪くももうちょっとロマン的というかいびつでぞんざいというか、な構成など)を忘れずかつ残り香で勝負できるレベルにソリッドに切り詰められた楽曲のたたえる美しさは、上品というよりも奥ゆかしさを感じる。そして、そうやってできた楽曲をどうデコレートするかというところ。「映画を作るようにサウンドを作る」とも言われたりする彼の編曲力は、奥ゆかしい楽曲を時に楽しげに、時に艶やかに、そして時にとても物悲しくコーティングする。
 物悲しさは、特に最終形態ピチカート時代(小西・野宮二人時代)の最重要テーマとして、作品の度により美しくも凄絶なものになっていく。『悲しい歌』に始まり増加していくそれらは、小西康陽のもう一つの特色、彼個人という人間から発せられる物悲しさというものを静かに、だけど薫り高く滲ませる。そう、彼の表現する悲しみというのは、荒野的・絶景的なそれというよりむしろ、何か内側からしっとり滲みだしていくような風情がある。
 その最終的な地点として、今回の表題曲『あなたのいない世界で』という楽曲は存在する。実は彼による作曲でないにもかかわらず(しかしこのたびのピチカート・ワン新譜ライナーにて元々のメロディー展開を端折ったことが明らかにされたが)、彼の深い業のような作家性がまざまざと見せつけられる。
あなたのいない世界で/私は週末の朝/ひとり手紙を書いた
 ブルーのインクで小さな文字で/季節の移ろいをあなたに伝えたくて 
 書き終えて私は少し泣いた/そのあとで引き出しに鍵をかけた 
 あなたのいないこの世界で

悲しい映画の一場面だろうか。しかし何だ、この悲しさには何か、聴いてるこちらの身にもぞっそするようなものがある。批評家が批評しながら同時に涙しているような。よく分からないが、ともかく、一点の濁りも無く美しく救いの無い場面——それは小説や映画や歌なんかの中でしか存在し得ない光景かもしれないが——を描き出している気がする。

 この徹底した楽曲に、より絶望的で虚無的な魔法をかけたものがこの、今回取り上げるコシミハルによるカバー(小西本人監修という特殊なピチカートソングカバー集『戦争に反対する唯一の手段は。 - ピチカート・ファイヴのうたとことば』収録)である。原曲のシックなアレンジも大変素晴らしいが、こちらのバージョンは格別。チープなリズムボックスの上に、大概古くなって壊れかかってるかのような音のピアノが上品に乗る——この上品というのは、まさに黄昏れ貴族のような上品さで——このアレンジは、この楽曲の登場人物増により迫っている感じがある。
 まるでベル・エポックな時代、または両大戦間期のテクノ、ゼンマイ仕掛けのテクノめいた風情。それはコシミハル氏の常々の作風にもあたるだろうが、その時代がかった演劇的要素が、この曲の色彩をよりカラフルにかつ色褪せたものにする。サイケとかとはまた全然違う不思議な浮遊感。ファンタジーとも違うような。古き良き時代があった、という空白から滲みだす悲しみに暮れる主人公、その光景さえどこか遠くの時代の風景のような、そんな気の遠くなり方。少しばかり遥かな過去の悲嘆のシーンに埋没していく小西康陽の作家性。もはや悲しみのフェティシズムだ、映画を観過ぎたことによる末期症状だ。映画の観過ぎコワイ!こんな収束点めいた悲しみにつける薬なんてあるのか。それは時間と忘却とそして死でしか拭えないものじゃないかしら。

取り澄ました悲しみかもしれない。市井の泥臭い哀愁は全く欠けてしまっているかもしれない。貴族趣味かもしれない。でも貴方様、「没落貴族」って単語に、何故かグッときませんか?悲しみを美しく取り繕うことは、皆苦労してどうにかやってる世の中の実際に対して不誠実だろうか。知ったことか。ぼくはただ美しいものが見たい。甘くどうしようもない虚しさに沈んでしまいたい。せめてこうやって、自由に何か音楽を聴ける時間くらいは。

初回なのでなんか肩肘張った風に頑張った感じになってますが、もっと簡単にやりたいです。