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ブンゲイブ・ケイオンガクブ

本を読まない文芸部員と楽器を練習しない軽音楽部員のような感じのブログ。適当な創作・レビュー等々。

『LOST IN THE AIR』ART-SCHOOL

音楽-ART-SCHOOL周辺

 第二期メンバーになったART-SCHOOLの第2弾リリースもまたミニアルバム。
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ジャケットのレイアウトは『シャーロットe.p.』に続きまたもやグラスゴーのインディポップバンドThe Starletsのアルバム『Surely Tomorrow You'll Feel Blue』か。色合い的にはシューゲイザーバンドSlowdive『Souvlaki』っぽくもある。

 この作品もまた前作『スカーレット』と同じく自主レーベル発・タワレコ限定数量限定でのリリース。やはり楽曲はすべて後のコンピレーションアルバム『Missing』に収録されている。

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また、後のアルバム『PARADISE LOST』には今作の『刺青』が、アルバム用リミックスを経て収録されている。前作といい、リードトラック以外を収録していく姿勢は不思議な感じもする。
(正確にはアルバム初回盤に『LOST IN THE AIR』のデイブ・フリッドマン(元々アルバムのプロデュースを予定していた)によるリミックス音源が収録されており、元々はこちらをアルバム収録する予定だったのかもしれない)

 木下理樹的には今作制作時期あたりが人生で一番つらい時期だったとしばしば言及される。



1. LOST IN THE AIR
 今作のタイトルトラックにして、『汚れた血』以来の久々の5分越えのナンバー、にしてバンドの音楽性をより広範なものにしていこうという意思もはっきり感じられる、メンバーチェンジ後のアートスクールにおいて重要な位置にある楽曲。
 何がこれまでと異なるか。その端的な例のひとつが、イントロから終始鳴り続けるピアノのリフレインだろう。そのシンプルでミニマルでどこか素っ気なくもひんやりし響きと、それに導かれるように入って来る演奏陣、ドラムの機械的で硬質な反復や絹のようにさりげなくたおやかなギターのアルペジオなど、雰囲気がこれまでとまるっきり違ったものになっている。ニューウェーブ的・ポストロック的ともいえるこのサウンドに木下の這うような囁くような低音ボーカルが乗り、張り詰めているようで弛緩しているような独特の雰囲気がある。
 そしてそんなAメロが突如ブレイクして、しかも複数回ブレイクを打った後の静寂を、木下のサビメロを起点にアートらしさのある轟音のサビに突入していく。キラキラした中にも変則的なリズムを叩き付け続けるドラムと、短く高いメロディを繰り返していく木下のメロディの扇情的な感じがAメロと好対照を成す。
 基本その2パートを繰り返していく曲構成で5分。これは繰り返しが普段より多いことに由来するが、それがどうしてとてもロマンチックに聞こえるんだから素晴らしい。特に最後のサビで木下がキリキリとファルセットで連呼しはじめるところからブレイク→最後のAメロで気の抜けたようなささやきに戻っていく流れは、痛切で壮絶で、やるせなくて、とても美しい。
 歌詞についても、当時人生で一番悲惨だったと自称する木下の惨めな世界観が、絶妙な単語選びとリズムで吐き出されている。というか、天然気味でやや珍妙なフレーズが多々あり、一部ファンの興味や引用が絶えない曲でもある。
愛の歌は終わって/なんとなく死体です/新宿で天使が/轢かれてたんです
やや洋楽の訳詞っぽくもあるフレーズなのに、『LOVE / HATE』に引き続き悲惨な目に遭う天使だったり、新宿が「天使が轢かれる街」としてファンにネタにされたり。極めつけは以下のフレーズだろう。
I KNOW人生はHELL/空っぽのコンドーム/おかしいな/涙が出ない/出ないんだ
I KNOW人生はHELL!ただ「人生は地獄だって知ってるさそんなこと」とかならさらりと流れていきそうなところをさっとルー語ライクに転化するセンス、その珍妙さと「でも実際人生ってHELLだよな…」という陰気なファンの思いから、ある種のアートスクールコミュニティーを象徴さえしそうなワンフレーズである。
 その他にもマンガで観た世界で暮らしたいとかいうナードフルなフレーズもあったりで、ともかくネタに事欠かない。それでいて同時に「愛なんて結局/下水道に流されて」をはじめとして、曖昧に光景化された諦観が曲全体に漂っていて、実際に人生がHELLだったという当時の木下の虚しさが遺憾無く発揮された傑作でもある。
 そんな名曲だが、凝りに凝った演奏が難しく(特にブレイクか)、ライブではなかなかお目にかかれない曲でもある。当時の今作のリリースツアーでもあまり演奏されていないという。しかし近年では大事なライブの際に演奏されることもあり、ライブでのハイライトのひとつを形成することもある。似たような曲は他に無く、彼らの中でも独特、特殊な一曲である。

2. FLOWERS
 一曲目の閉塞感をイントロのストロークとベースライン一発で打ち破る、ポップで力強くドライブするパワーポップナンバー。曲順がいい。
 特徴のひとつは、かつて『レモン』等でも聴けた、アーミングによる揺れたギターの音。この荒くもブライトなサイケさとポップなコード進行が相まって、とても爽やかな楽曲になっている。というか本作ではっきりとメジャー調の曲はこの曲だけなのでなおさらこの明るさが際立つ。
 ギターの歪んだ音、ベースのグイグイ引っ張る音色、四つ打ちだったりシンコペーション連発だったりやたら挿入される5連スネアだったりと色とりどりなドラムなど、演奏もポップな曲に合った勢いとアイディアがあり聴いてて楽しい。そして木下の感動詞を連発するサビのポップさでグッとくる(『スカーレット』などもそうだが、感動詞を平気で曲のメロディにガッツリ入れ込めるのは木下理樹のソングライティングのポイントのひとつかもしれない)。サビも2回目以降は2段仕立てで凝っていて、間奏へと繋ぐシャウトも鮮やかだ。コーラスもキラキラしたギターも含めて、最後まで爽やかに駆け抜けていく。
 そんな爽やかな曲でも、歌詞はやはりやさぐれの色が見える。
恵みの雨/真っ黒な血/空っぽのゴム/貴方がただ/飲み干すかな/なんて
それでも「空っぽの/君でいいさ」と『しとやかな獣』でも歌われたフレーズを繰り返すところは、曲調にあった力強さがある。やけっぱちだからこそ、みたいな。

3. 羽根
 前作『APART』に続く、閉塞感たっぷり疾走ナンバー。第2期の一時期まで(『左ききのキキ』くらいまで?)は2曲とも頻繁にライブで演奏されていたと思う。
 ガッツリ重いダークなリフがこの曲の軸となる。一拍溜めてから繰り出すのでより詰まったような重苦しさがある。そこからサビは一転軽やかになり(『WISH』と同系統の展開か)、アコギの音やリードギターの浮遊感、軽快な四つ打ちでさらりと流れていくが、その後また鈍重なリフに戻っていくこと前提での軽やかさという感じ。特に最後のサビでブレイクして曲中最もフワフワしたところから次第にリフ戻りに向かって高まっていくテンションには絶望感ある。
 この曲は歌詞のワンフレーズに尽きる。
小三で/小三で終わった/羽根なんて/羽根なんて腐った
小三で終わった!かつて意味深に「25歳で花が散った」とも歌っているが、こっちの小三は後に木下本人すら「意味が分からない」等の発言をしていたような。他にも「パラシュートは開かない」等、当時のどん詰まりな状況をユーモラスに綴った結果こうなったという。また、この曲の歌詞にも新宿が出てきて、今作以前も以降も出てこないので、「この時期の木下にとっての新宿って何だったんだ…」と思う。

4. 刺青
 前述の通り、今作で唯一後のアルバム『PARADISE LOST』に収録されたナンバー。本人も気に入っているようだが、楽曲的にも『LOST IN THE AIR』に次いで挑戦の感がある。
 再生してノータイムでクラッシュシンバルもなしに入って来る機械的で変則的なドラムの響きと3音を反復するディレイとコーラスの効いたギターの響きが、どちらも冷たい質感がある。そのまま進行していくAメロは、これまでのアートにもあった水中感(『プールサイド』とか)ともまた違った、より低温な水中感がある。囁くように歌う木下の歌もメロディにいい意味での埋没感があり官能的。
 サビでの急浮上感は流石の木下節。機械的に引き攣ったままのリズムがポストパンク的でありながら高揚感はきっちりキープされ、轟音は水中を跳ね返るようにのたうつ。
 この曲の特に引き込まれる箇所は2度目のサビ後の間奏の後。普段ならブレイクが差し込まれそうなこのセクションにて戸高がプレイするU2ライクなディレイギターの反響が、溜めたドラムプレイとともに潜行し、そして最後のサビへ向かって次第にせり上がっていくさまは絶望的にドラマチックで(U2的な壮大さは皆無でひたすら内向的な感じなのに)、カタルシスがある。
 歌詞は、今作でもとりわけノスタルジックに寄ったもの。
いつかのあの色/何年経ったろう/あの頃/世界は/僕等のものだったっけな
 冷たい水中で美しい過去のことを思い出しながら沈んでいくような感覚。こういう類の寂しさを丁寧に楽曲に落とし込んでいて、カラフルではないのにとても幻想的だと思う。

5. I CAN'T TOUCH YOU
 珍しくフェードインで始まるイントロが特徴。冒頭のコードカッティングはネオアコのコードの響きを研究した結果だそうだが、これはイントロでしか聴けない(Aメロは3音アルペジオ+ベース、サビではパワーコードでグチャグチャになるので聴けない。勿体ない)。
 3音のアルペジオ、静と動のメリハリの付け方、間奏で伸びていくファルセットコーラス等、第2期以降で最も第1期っぽい雰囲気、もっと言えば『OUT OF THE BLUE』辺りを焼き直した感じの曲。しかし第1期とは音の質感の点でやはり違う感じもする(特にギターの音か。プロダクションのせいかも)。全面シャウトのようなサビも第2期では割と珍しい。
 歌詞。ノスタルジーと性的な要素が交錯する典型的なこの時期の歌詞といった風情。
I can't touch you/猿の愛撫/匂いと汗と/ガーベラの花
サビ後のフレーズが「愛し合う」と聞こえるが実際は「I still love you」だったりする。結局どっちでも未練がましかったりする辺り計算だろうか。

6. PERFECT
 作品のクロージングという役割の神聖な重みみたいなものを冒頭のピアノフレーズから感じさせる、今作の締めの曲。終始ピアノでコードが鳴らされるのでピアノバラッドになる…のか?
 冒頭から加工された(逆再生?)映画の台詞が挿入されたり、件のピアノの響きだったりと、静謐な最初の Aメロ・サビから、ドラムが入って以降どんどん荘厳になっていく。テンポは今作で最も遅く、ひんやりとした神々しさには北欧系のサウンドへの目線がこの頃からあったということか(この後のアルバムがグラスゴー録音になることの布石かも)。
 這いつくばるAメロからメロディを高揚させるサビの極端さも、この曲の映画のエンディング然とした雰囲気を演出する。最後のサビが終わって、元のピアノとサンプリングだけになるところは今作の寂しさがすーっとダイジェストで通り過ぎていくよう。
 歌詞。
光のその中で彼等が群れている/嫌っていたけれど本当は憧れていた
このフレーズは『I hate myself』の「君もあんな美しい人の仲間かい?」のくだりと同じ内容だが、こちらの方がより余裕なく、切迫して感じられる。
光のその中へ/子宮へ堕ちていく/昨日のあの指と/ぎこちない君の舌
そして救いたるべき光は結局、完全で、純真で、普通過ぎる人生を送る君とのどうしようもないセックスに置き換えられる。極めてアートスクール的などん詰まりの構造をしている。

 以上6曲。個人的には、曲数の割に重たく感じる。作品の性質か。
 暗く、重たいというイメージ。それはジャケットからしてそうだが、収録曲的にも今作はキリキリと切迫した曲が多いように思える。それは木下個人やバンドの状態(アレンジについての口論がずっと続いていたという)も大きく影を落としているのだろう。『スカーレット』から続く性に溺れて死んでます路線もより極まっている。
 しかし、作品としては前作『スカーレット』より良い、というか、アレンジ等多くの面で前進している感じがあり、“第2期”としてメンバーチェンジしてリスタートした効果がより浮かび上がってきた格好か(木下以外で唯一変わっていないドラムのアレンジで特に変化を感じるのは不思議だけど)。今作での、特に冷たさを感じさせるプロダクションの数々が、この後のグラスゴー録音となるアルバムに直結している感じがする。
 何にしても、今作でART-SCHOOLというバンドが終わらなくて良かった。葬送曲のような『PERFECT』が最期の曲にならなくて良かった。そういう未来が確定している今の時点から聴くとやはり、安心して「いい作品だなあ」と思える。アートのミニアルバムでは今作が一番ずっしりくるものがある。

 ART-SCHOOL諸作品レビュー、すっかり間があいてしまった。こんだけ間があけば自主レーベル作った上で活動再開だってしちゃいますよね苦笑。粘り強くやっていく所存です。