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ブンゲイブ・ケイオンガクブ

本を読まない文芸部員と楽器を練習しない軽音楽部員のような感じのブログ。適当な創作・レビュー等々。

『エピタフ』トリプルファイヤー

某所に投稿しようとしてたけど色々あって最後まで書けず放ったらかしになってたのを、ちゃんと最後まで書いてみたものです。
エピタフ



高田馬場のジョイ・ディビジョン」と呼称されて久しいバンド・トリプルファイヤーの音楽を聴いてて思うことのひとつは、先のいくつかの偉大なポストパンクバンドのサウンドを聴いたときと同じく「この演奏が止んだら無音、虚無めいた無音なんだ」という感覚について。共通するその演奏の根源的な心細さは、音楽が鳴っているにも関わらずその終わりと虚空を意識させる。それが、「音楽が鳴ってるときは空間が満たされてて楽しい」と感じる類のポップソングとの大きな印象の違いだ。

この点についてトリプルファイヤーは実はとてもストイックに突き詰めているバンドだ。エフェクトを使わず単音の細かいリフを多用するギター(遂にJC直結などという話も聞き、エレキギターを多少なりとも弾いたことのある人ならこの凄さが分かると思う…)とベース、ドラムで埋められる空間は少なく、そこには不思議と、ファミコンの音源を聴いているかのようなもの寂しさがある。

この度の新作『エピタフ』でも、そのサウンドスタンスは変わらない。今作では所々で見られるパーカッション類の使用や、ギターのカッティング的フレーズの増加(先行公開された「変なおっさん」などに顕著)など、ファンク的な要素が増えたようにも聞こえるし、同時に演奏の“こじらせ方”の工夫も多彩になり、時折のファミコンがバグったような感覚がより増した風でもある。

そんなよりヘンに研ぎ澄まされたスカスカのサウンドの上で、このバンド最大のアクター(ボーカルというよりもこうなのでは…?)吉田氏の言語センスは今作においても圧倒的に冴えているし、醒めている。情けない男路線の曲の自由な身も蓋もなさもさることながら、『スキルアップ』系の意味不明さをさらにドライに追求した『Bの芝生』や、謎の上から目線の双方向性(当然録音物にそんなものない(ライブでもないけど))に聴者を晒す『質問チャンス』など、ユーモアの切れ味は鋭くも多彩に。そして文脈の飛ばし方のハンパなさ。大喜利的な発想力の鬼だ(実際その方向で最近はテレビ出演もしているとか)。

今作はバンド初の収録曲数が10曲を超える、いわゆるフルアルバム的なそれである。あるからか、曲調はいつにも増して多様で、遂にはあの吉田が明確にメロディを歌う「こだわる男」も収録され、初期トーキングヘッズのようなユニコーンのような不思議な存在感を放っている。ドライなポストパンク路線はかなり極まった感じがあるが、今後はこの曲や「月光密造の夜」(スカートが主催するイベント名)の企画におけるカバー曲のように、メロディアスな曲にも広がっていくのか、それともさらにこのドライさを突き詰めていくのか、分からないけれども、何にせよ今作は聴いていて痛快さと後ろ暗さがとてもマッチした、失礼な比喩をすれば「今日はこれ聴いて時間つぶすのがいい日だった」って感じの作品だと思う。