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ブンゲイブ・ケイオンガクブ

本を読まない文芸部員と楽器を練習しない軽音楽部員のような感じのブログ。適当な創作・レビュー等々。

ART-SCHOOLのB面集、これは聴いておきたい!20選【前編】

 

ブログをFC2からはてなに移しました。はてなブロガーという響きやムードに騙されたためで、色々な設定のし直しが面倒くさくて死んでます。ブログ名も変えてみました。

 そんな挨拶は早々にアレして、表題について。

ukproject.com結構前から木下理樹が「B面集出したい出したい」とtwitterとかで言ってたのはファンにもそこそこ知られた事実でしたが、遂に…!という感じ。というかレコード会社3つか4つか5つくらい跨ぐことになりますが、版権上手いこと引き上げられたんでしょうか。

なんにせよこれは、アートスクールというバンドの“意外と”多面的な魅力に気付いて公式にリリースされた全楽曲に耳を傾けてきたそこそこのファンにとっては嬉しくも気が狂いそうな案件。

 

しかしそれがまさかの!ファン人気投票だって…?

しかも選曲範囲が広過ぎ?タイトル曲以外ならシングル・ミニアルバム・フルアルバムの別なく選曲可能?「ライブでの人気曲をコンパイル!」???B面集とは一体…?

 

そんなこんなで、千々に心が乱れているファン、「っていうか廃盤とかのレア曲集めたアルバムでええやんか…」と俯くファンや、またはもしかしたら、「ART-SCHOOLがなんか色んな意味で面白いのは分かってきたけど、でももうちょっと“ツウ”を気取れる楽曲に出会ってセンスいいオレをアレしたい」とか考えるヤングパーソン(その考えは間違っている…そんなのミジメにしかならないヨ…)等々のために示すことの出来る、なんか指標めいたものはないだろうか。または、投票等の結果出来上がったB面集をより楽しむことが出来るような、そんなアップリフティングな記事を…。

なんて全部嘘だ。ただおれが聴きたい、こういう感じのコンピだといいなーと思って並べた全20曲75分を、ここに紹介しましょう!という、これはそんな企画です。

 

 選曲のテーマとして、なるべくバンドの全ての時期をカバーできるよう選んでみました。その気になれば『Love/Hate』期の廃盤シングル曲だけでプレイリストを組むことも辞さない(というか愛聴している)私ですが 、そこはこう、バランスを考慮して、オールタイム裏ベスト感をですね、いやまあ、そうやってバランスを考慮しても、最高のプレイリストしか出来なかったのだけれど。曲の紹介と同時に、彼らの歴史をさらりと俯瞰しておこうと思います。

あ、最新作『Hello darkness, my dear friend』 の曲は今回のリストに入っていません。流石に最新作のそれもフルアルバムにB面なんていう裏街道探しな目線向けたくなくないですか?

 

事前のあれこれはこの程度にして、それでは早速、逝きましょう(苦笑)

 

1.LOVERS LOVER

フリージア

フリージア

 

 この栄光のB面プレイリストの1曲目にこの曲を持って来ることに迷いはなかった。彼らの、結構な長さのキャリアや時代からすれば圧倒的に少ないシングルの一枚の、4曲中4曲目に収録されたこの、バンドの適度にやさぐれた凛々しさや優雅さ、落ち着きや勇敢さが香るこの名曲。

イントロのコーラスがかったギターフレーズは湿りけを含むのだけれど、そこから曲自体に入っていくと、その荒涼として乾いた質感の中を、そこそこの重量感を持ちながら滑空していくかのようなサウンドの、なんと云ったらいいか、肌の上を心地よいカサカサが通り抜けていくような、ヒリヒリした快楽。これはまるでギターロック界のニールヤングじゃないか(ニールヤングがそもそもギターロックなので意味不明)

 当時バンドは第2期メンバーに移行して、インディー期のグダグダ壊滅ムードを乗り切りメジャー復帰後、彼らの通算3枚目のフルアルバム『PARADISE LOST』のリリースに漕ぎ着け、自信と勢いに乗っていた。『PARADISE LOST』にてバンドが獲得したよりキャッチーなポップネスや幻想的なアレンジの術はバンドの幅をメジャーフィールド側に広げることになり、そしてアート史上アレンジも作曲も最もポップに開かれている豊穣の季節、4枚目のフルアルバム『Flora』に至るまでの所謂「Flora期」にさしかかっていました。この曲の収録されたシングルの表題曲はまさにそんな、歌詞にも「春の陽だまり」とあるような、じんわりと暖かいサウンドが(いつものクソみたいな絶望への誘いと併せて)展開された幸福な名曲でした。

そんな時期にあって、木下理樹が得意とする「メジャーともマイナーとも言いづらいけど荒涼とした感じの調性・コード感」もまた豊かな養分を得たのか、そんなこの曲のスケール感・見晴らしの良さはかつてないものがある。いつになく広大な視野が、世界が横たわっている。普段のバンドの閉塞感を感じさせるAメロから演奏の飛翔感に寄り添うようなサビの「I wanna drown in you」の連呼、割と変な抑揚のあるメロディなのに伸びやかな不思議な感触が、なぜだかとても頼もしい。痩せ細った身のまま、クソみたいな気持ちのままで、どこまででも行けるんだなっていう、そんな気持ちに錯覚させる繊細でかつ力強いバンドが海外にはままあるけれど、この時期以降のアートスクールもそういう具合の凄みが身に付いた感じがある。時に伸びやかにフレーズを描き時に機械のようにキリキリと反復するギターフレーズにも、そういったバンドへの憧れと戸高氏自身のプレイスタイルの確立との幸せな関係性が垣間見える。

この曲がB面集に収録される確率は70%ほど。真にシングルのB面曲であり、かつアート全曲を見渡してもここまで世界観の広がったサウンドの曲はそう無いし、ファンからも「このシングルではこの曲が一番好き」などといった「隠れた名曲」然とした評価が大いにある。当時のバンドのグッズTシャツに上記のサビフレーズが描かれていたり、木下のソロ弾き語りなどで取り上げられたり、最近ライブで演奏されたという話があったりと、本人たちにとっても大きな存在感がありそうなこの曲。ぼくもライブでこの曲を聴いてみたい、木下がどういうギターを弾くのかも含めて観てみたい気持ちで一杯です。

 

2.The Night is Young

The Alchemist

The Alchemist

 

紹介2曲目にしてすいませんが、ああーこの曲はまず収録されない。100%と言ってもいい。ファン人気が比較的低い所謂“ゲボ声”期の、数量限定でリリースされた地味なミニアルバムの、その中でもとりわけ影も幸も薄そうな、3分を切る曲。リリース時のライブでも(おそらく)演奏されなかった曲にして、もし万が一収録されてもファンから「あーこんな曲もあったなこれ入れるんならもっと他に入れるもんあるだろうが」とか云われてしまいそうな。

いやでも、この曲を声がちょっと変だからといって切り捨てるなんて勿体ない!この曲の澄んだナイフと濃縮された鉄球が並走するようなニューウェーブサウンドについて、何かしらかっこいいとか思ったりしないものか。まあ最近知り合いに「ニューウェーブってホントよく分からなくて、あんなのキチ○イじゃないですか」と云われてショゲた私ではありますが。

実際バンドは、現在まで続く、リズム隊に中尾健太郎(Cript City, ex Number Girl他色々ありすぎ) と藤田勇(Mo'some Tonebender)を迎えた体制にて、6枚目のアルバム『BABY ACID BABY』で好き放題オルタナしまくった後の余勢を駆って本曲収録のミニアルバムに向かっており、サウンド面はニューウェーブながらも鋭い爆発力を見せるものになっており、特にAメロでのドラムの全編フィルインじゃねえの?とさえ思う暴走っぷりは、本来静かに澄んだ質感のはずのこの曲でとんでもないフックを膿んでいる。

何気にこのミニアルバムのタイトルが歌詞に出てくる曲でもあり、B面集参加資格あるか…?と危惧したが流石にこのB面感まっしぐらな曲は大丈夫だった。アルバム『Flora』以来となる益子樹のプロデュースによる空間的なサウンド構築により、曲から連想される夜的な質感はより淫靡な透明性を帯び、その中にあっては彼の荒れた声も、ある疲れた男の悲痛なもがきのような、ストーリーに満ちた情緒をもって響く。えっ響きませんか…?まあこの曲が収録されることはまずないかもですけど。確率は2%くらい?投票で上に来ることはまず考えにくいし、もしこの曲が収録されるような事態になったら「えっ木下この曲にそんなに思い入れあったの…?」とビックリしましょう。

 

3.プール

シャーロット.e.p.

シャーロット.e.p.

 

アートスクールはメジャーデビュー当初「日本初のグランジバンド」なるイタい重厚な肩書きを背負って活動していましたが、やがてどういうわけか、いつの間にかシューゲイザーバンドと自称・他称されていました。確かアルバム『14 SOULS』リリース前の先行曲紹介用のmyspace(なつかしいひびき…)にバンドアカウントがジャンルにシューゲイザーと記していたのが「えっお前らシューゲバンドやったの…?」というファンの当惑を呼んでたようなそうでもないような…。

そんなバンドですが、でもそこは流石自称するだけのことはあるというか、バンド初期、メジャーデビュー直前のミニアルバムに収録されたこの曲で既にシューゲイザーをやっていることは、確かではある。シューゲと云うか、まあその、『Vapour Trail』というか…。

詳しい解説は、自分が拙くも続けてきているアート全曲レビューにて既に書いておりますので、興味がある方はどうぞ。本家シューゲバンドと比べより鈍重なドラムにオルタナ・グランジバンドとしてのキャラクターが出ていると思う。メジャーデビューが決まりバンドの世界観をダークサイドにフォーカスしていく中で、次第にバンド内の人間関係が不全を来し始めている時期の1曲。それでも若き彼らはその崩壊感さえ勢いに乗せてバンドのトレードマークとなる1stフルアルバム『Requiem For Innocence』の完成に漕ぎ着け、一躍(当時の)ロキノン系の人気バンドに躍り出る訳ですが。

この曲がB面集に収録される確率は、まあ30%くらいか。というか、同じミニアルバムの『FADE TO BLACK』 が収録されたらどうしよう。B面どころか、ライブ最頻出曲のひとつで、ベスト盤に収録され、写真集のタイトルまでなった曲なんだから、お願いだからB面集にまで出はってこないでほしい。そりゃあファン人気はあるだろうけれど。木下理樹はその辺心得られている方だと思うけれども…。

 

4.1995

スカーレット

スカーレット

 

イントロの景色がパアァーッと開けるかのような開放感!この曲が前曲から続けてかかるのはかなり素敵だと思うんですけどどうですかね知らないね。

メジャーデビュー以降の東芝EMI所属の時代が、筆舌に尽くしがたい大名盤2ndフルアルバム『Love/Hate』やその時期の他の沢山の名カップリング曲と、それと引き換えかのような日向秀和(Ba)、大山純(Gt)の脱退という、痛ましいデッドエンドを迎えた後、しかしバンド解散をよしとせず新メンバーに戸高賢史 (Gt)、宇野剛史(Ba)を迎えての新体制(所謂第2期メンバー)になって最初の音源がミニアルバム『スカーレット』。この曲はそこに収録されている。

第2期メンバー当初のバンドの状態はしかしかなり悪かったらしく、後に木下が「今のバンドのヒリヒリしたテンションはスカーレット以来だ」とか言ったり、次のミニアルバム『LOST IN THE AIR』製作中のことをバンド史上最悪の時期と回想していたりします。

そんな中でも、バンドは新機軸を編み出そうともがいていた。その新機軸のひとつが同作に収録された『クロエ』から始まる、プリンス的なリズム・ギターカッティングを取り入れたファンク路線であり、いまひとつがこの曲に顕著な、スピッツ的なエヴァーグリーンなポップソングへの志向である。この曲はその最初の達成であり、またこの時期どうしようもないエロ歌詞と同時に繰り返されたノスタルジックな描写を歌詞世界観の中心に据え、サウンド共々たおやかな広がりを見せた最初の事案でもあった。

細かいことは自分の全曲レビューにて書いてます。既に第1期の頃から『SWAN SONG』や『Butterfly Kiss』などでメロウでポップなメロディを書いていた木下が、よりポップでゆったりしたメロディを獲得していく上でこの曲はターニングポイントだったと信じてやまない。

そんなこの曲が収録される確率は、まあでも10%くらいかな。どうせこのミニアルバムからは『クロエ』が収録されるんだろ、という見込みがあるためで、これはやはり木下がtwitterでファンからの『クロエ』に言及したリプライに対して「こういう曲も入れたB面集がつくれるといいよね」と言ってた(気がする)ことなどもあり、結構な信憑性があります。でも『クロエ』は『PARADISE LOST』にも再録されてるし、ベスト盤の曲候補にも上がってたらしいし、なんかなあ、B面感がそんなにしない。ファンク路線ならどうせ次に述べる『その指で』が限りなく当確、投票前から当確だろうし、そういう訳でこの辺の曲とか入れてくれるサプライズがあると、個人的に嬉しいですけどね。

 

5.その指で

テュペロハニー

テュペロハニー

 

これは確実に入る。もし仮に投票結果がこの曲みたいな「本当のシングルB面の曲」に全然集まらなくて 「おいおい結局表題曲以外のメジャーな楽曲ばかりが上位かよ全然B面感ねえよ…」という投票結果になったとしても、この曲と後述する『レモン』だけはきっと、バンドサイドがゴリ押しして入れてくれる。今回の投票の公式アナウンスの中にも「ファンの方からのリクエスト曲を中心に、メンバーの思いれのある曲、ライブでの人気曲をコンパイルします。」って、「メンバーの思いれのある曲」って書いてあるし。っていうかこの曲や『レモン』をB面集に入れられなくてB面集出す意味あるのか、くらいにはバンド側も思ってるだろうから(思っててくれ…)。

上記のミニアルバム『スカーレット』収録の『クロエ』より始まったこのバンドのプリンスパクファンク路線も、この曲にて完全に完成した感じ。当シングルからアルバム『Flora』までをプロデュースした益子樹氏のサウンドメイクやシンセの導入が、的確にバンドが表現したかったであろう“80年代っぽいツルッとしたファンクネス”にリーチしていて、総じてアダルティーでリッチなプロダクションに。

この「Flora期」は本当にバンドが充実していたのか、アレンジにもソングライティングにも余裕を感じさせる部分が多々あり、この時期の曲はキャリアでも独特の質感がある。結局このリストは20曲中、この時期の曲をこの曲や上記『LOVERS LOVER』含めて4曲も選んでいるのだけど、4曲ともタイプが異なりながらも豊かで抜けのいい音響とリリカルなポップさを持っていると云っていい。

歌詞についても。第2期メンバーになった直後〜『PARADISE LOST』くらいまでは木下はやたらと猿でエロで壊滅的な歌詞を連発していて、それは自身やそれを取り巻く現実的などうしようもなさを表現することで奇妙なポピュラリティを得ようとするチャレンジだったかもしれないが、その時期より後のリリースのこの曲では、その時期をまるでセルフパロディするかのようなエロの表現がなされている。というか色々と露骨にかつ下世話にエロい歌詞はもうこれ半ばギャグでやってるでしょ(笑)といった感じ。

うんざりする程触って 立てなくなる程汚して
何度も確かめる様に その指で
誰にも話しはしない だから力を抜いて
愛でも何でもいいよ どうだって

下世話なエロをやりながらも、木下的な投げやりさが表現されているところは、流石過ぎて笑ってしまう。この時期の遊び心はこういう場所にさえ及ぶ。

 

で、この曲、シングルB面という位置ながらバンドのファンク路線の代表曲という位置づけになっており、その為かやたらライブで演奏される。フェスとかの短いセットじゃなければ8、9割方聴けるのでは?『Flora』期の曲で間違いなく1番演奏されている*1B面なのに

またこの曲に関してはとあるボカロPが起こしたこの曲の丸パクリ騒動もあったりして(むしろこれでボカロからの新規ファンを獲得した感じすらある(笑))、とにかくB面とは思えない目立ち方をしており、そのせいもあってYouTubeの動画再生回数もやたら多く(っていうか再生回数ズバ抜けてトップだし…ボカロ効果すげーな)、裏の代表曲然とした風情さえ漂っている。

以上を踏まえても、この曲を投票結果の如何でバンド側が収録見送りすることはまず考えにくい。メリットがない。100%入ると言いきっていいでしょう。この曲のアピールのためのB面集とさえ思うし。アートでも最も有名な「隠れた名曲」といったポジションか。別に投票結果もそこそこいいところ行くと思うし。

 

6.into the void

Anesthesia

Anesthesia

 

アートスクールは日本のバンドでもとりわけメンバーチェンジが多いバンドと言われていて、その点でくるりと並んでしばしばネタにされることがありますが、しかしアートもくるりも、なんだかんだで続いていることが凄いですよ。くるりなんて遂に20周年。初代ドラムのもっくんこと森信行と一緒にライブをすることも増えていて、なんかいいなあって感じしますね。あとこういう感じのバンドで3枚組のベスト盤なんて聞いたことありませんよ。入門に3枚組は正直、キツいんじゃないかなあ…。

話がそれましたが、メンバーチェンジの件。アートはしかし、くるりほど頻繁にひとり抜けたり加入したりがある訳でなく、大体4つの時期に分けることが出来ます。上記にあった東芝EMI時代、現ストレイテナーのメンバー二人が在籍時の第1期、上記『LOVERS LOVER』『1995』の解説で述べた第2期、上記『The Night is Young』で触れて、この後『Chicago, Pills, Memories』の項でより詳しく解説する、中尾健太郎と藤田勇を含めた何このぼくのかんがえたさいきょうのオルタナバンド?な第4期。そして本稿で触れる第3期。

この第3期。これが短い。作品で言えば2作、5枚目のフルアルバム『14SOULS』と、その後リリースのミニアルバム『Anesthesia』。これだけ。第2期とのメンバーの違いはドラムで、インディーズ時代からの付き合いだった櫻井雄一から鈴木浩之に変わっている。これはミニアルバム『ILLMATIC BABY』から電子音とバンドサウンドを同期させた作風になっていった際に、櫻井氏に不足を感じた木下がメンバーチェンジを画策した、ということになっているかと。事実『ILLMATIC〜』から『Anesthesia』に至る作品はエレクトロサウンドとの同機が多々見られ、また鈴木氏のドラムサウンドも、しなやかなプレイがエレクトロサウンドに寄り添うようなところがある。反面、櫻井氏の鈍重なプレイが無くなってサウンドのゴツさみたいな部分にも影響があった。

そんな第3期の結末は後述するとして、この曲の入ったミニアルバム『Anesthesia』について。詳細はいつか書く予定の全曲レビューに譲るとして、それにしてもこの作品は暗い。当時のインタビューで木下が「スマパンの『Adore』みたいな作品を目指した」と言っていた*2が、エレクトロとバンドの演奏の同期をアッパーな方面でなくダウナーなベクトルに向けたという意味では共通するところがある。しかし今作が暗いのは、アートの諸作品で唯一、メジャー調の曲が1曲も収録されていないせいだと思う。これまでもこれ以降もなんだかんだで暗い作品にも、メジャー調の曲が最低1曲はあり、そこに木下のロマンチックなメロディが伸び伸びと発揮されてアルバムのアクセントになるものだけど、今作はそれがない。それが無い上で歌詞は「どこに向かえばいいんだ」みたいなことばかり言ってて、おいお前、新メンバー迎えて2作目でそんな有様かよ…という状態。面白いのが、このミニアルバムリリースの前にバンドは結成10周年を迎えており、アニバーサリーのライブを日比谷野外大音楽堂で行っており、そのピンナップが今作に同封されているが、そのセットリストたるや、第2期以降の曲が3曲、第3期の曲は僅か1曲しか無い、という素敵セトリ。なんなんこのバンド…。

話が大きくそれてしまったので、この曲について。今作のインタビューにて木下が『Adore』と一緒に言及した参照先がニューゲイザー、所謂ゼロ年代以降のエレクトロ適性のあったアーティストが90年代シューゲイザーに影響を受けて制作した新時代のシューゲ*3的なそれだったが、この曲と『Lost again』に特にその趣向が反映されている。今作の特色として、ギターの音が完全にエフェクティブで、弦が振動するシャリーンとしたアタック感が皆無だということが挙げられ、個人的にはそういう音こそギターの醍醐味と思っていて、まさしく正反対のサウンドを持つ次作『BABY ACID BABY』が凄く好みなこともあって、今作については苦手意識が幾らかあるけれども、その路線を追求しきったこの曲は流石に素晴らしい。

シンセのように厚いレイヤーとして扱われたギターサウンドは、リズムマシンと同期した重いドラムと合わさりどこかサイバーパンクな質感を成している。そこに特にエコー等もかけられず無防備な木下のむき出しのボーカルが乗ると、なんとも心細いような切ないような気持ちになる。特に、サビや間奏での演奏の変化に乏しい、明確な盛り上がりを排しきった点はこのトラックの質感をより冷徹なものにしていて、今作で木下が表現したかった「どこまで行っても変わりのない風景、終わりの無い虚無と行き場の無い僕等」の光景を、彼らのキャリアでもかなり異色な形で描き出している。

そんなこの曲がB面集に収録される確率は…限りなくゼロ(虚無)だ。あーでも今投票ページで確認したところどうもこのミニアルバムは様子がおかしく、タイトル曲は投票できて、PVのある『ecole』と、そして本当に何故かラストトラック『Loved』が投票できなくなっている。スタッフのミスじゃねーのこれ…。訂正しよう。このミニアルバム枠ということで、10%くらいは可能性あるかもしれない。実はこういう無機質なシューゲもやってたんですよということで、入ってるとバンドの表現する虚無感の幅が広がりそうな1曲だ。

 

7.レモン

DIVA

DIVA

 

この曲もまあ、収録されることでしょう。バンドのギタリスト・戸高氏のアートで3本の指に入るお気に入り曲ということで、ライブでも時々取り上げられる、レア曲でもメジャーな、光を当てられることが多い曲。

この曲は同時に、木下理樹のソングライターとしての魅力を存分に発揮した楽曲でもある。うだつの上がらない感じとカラッとしたポップさの共存、裏声を多用した不安定ながらもキャッチーで奇麗な歌唱、そして何より、Aメロ2回サビ3回を僅か2分弱の尺に収めてしまう、コンパクトな曲を書く才能の面目躍如なところ。上記『プール』ともども、グランジバンドとしてアピールされてた初期アートにおいてグランジだけに留まらないキラキラしたポップさをさらりと開陳する1曲。こういう曲をメジャーデビューシングルにしれっと入り込ませるセンスがいいですよね。

私の拙くてしつこい解説はこちら。曲のサイズが小さく、ポップで、センスがいい、そして真にシングルB面曲。どこまでもシングルB面の名曲的な存在感があるし、これを入れずして何がB面集だよ、という感じなので、入る確率は90%といったところでしょうか。

 

8.Chicago, Pills, Memories

BABY ACID BABY

BABY ACID BABY

 

今回のB面集企画は、シングルやミニアルバムだけでなく、普通にフルアルバムからも選曲できるようになっている。シングルから選曲できるのは当然、ミニアルバムもまあ、彼らは普通のバンドがシングルを出すテンポでミニアルバムを出す(出し過ぎ)きらいがあるから実質シングルみたいなもので、まあ分かる。アルバムから選曲できるのは、「えっアルバムでB面?アルバム後半の楽曲限定ってことですか?あとアートってLP出してましたっけ?」と、当惑せずにはいられないところがある。

でもしかし、いつぞや木下がtwitterでアルバム『Flora』収録の『piano』という曲を取り上げて「こういう地味だけどいい曲も取り上げたB面集をつくりたいな」という趣旨のツイートをしていて、まあ上記の突っ込みの気分もありながら*4、でも云わんとする気持ちは分かる気がして、なるほどなあそういうのもいいかもなあ、とか思った。でも人気投票制にしたらその辺の曲入らねえんじゃね…という気はするけども。

なのでフルアルバムからも普通に選曲します。というかミニアルバム『左ききのキキ』以降の彼らはミニアルバムかフルアルバムしかリリースしていないし、アルバムの曲も入れないとバンドの全ての時期をカバー、という今回の企画のルールが守れないところでもある。お前の勝手なルールとか知るかよ、っていうね。

 

それはともかく、この曲。ライブDVD『ART-SCHOOL LIVE at STUDIO COAST』にもあるとおり、またはファンの間では有名な「激苦笑騒動」*5などあり、数年ぶり何回目、といった具合にバンドの内情が壊滅的になり、宇野剛史(Ba)、鈴木浩之(Dr)の脱退という結末を迎えた後、ファンもこの時は流石にバンドの終焉を感じて緊張していた。しかし、その緊張もどこ吹く風という風に届けられたのは「中尾健太郎と藤田勇をサポートに迎えてのセッションマジやべえ」みたいな木下のツイートだった。

かくして完成したアルバム『BABY ACID BABY』は「アートというフォーマットを“悪用”してオルタナおじさんたちが自由にオルタナしまくった」作品となった。前作『Anesthesia』までの電子音共存スタイルからの急激な転換や、所謂「ゲボ声」期真っただ中のボーカルなどもあって、旧来のファンから結構なディスが飛んでいる風な作品だけど、自分はとても好きな作品で、このアルバムみたいに無邪気で暴力的なサウンドが鳴らせたら楽しいだろうなーと羨むばかり。批判でよく言われる「曲の質が落ちた」というのも、全然そんなことないと思うんだけど、この辺は客観的な説明が難しいっていうか無理だしなあ…。

そういう訳で、この曲。その困難な説明をこの曲を例に試みてみましょう。

「えっこんな曲知らねえ。どんな曲?」という人に端的に説明するとすれば「どっしりスロウなリズムしててメロウなメロディがあって、終盤エモくなる3分以内の曲」といったところ。個人的には特に最後の「3分以内」というのが重要で、いくら木下がコンパクトな曲を作る天才であっても、スローテンポで3回サビみたいな曲を作れば、余裕で3分4分いってしまうだろうし、それを無理に縮めようとすると今度は演奏の盛り上がりポイントを削ぐことになってしまう。その点この時期前後の木下はソングライティング的に変化があって、サビを3回することが急激に減った。アルバムを注意して聴き返すと、約半数の曲でサビが2回しかないことが分かり、そしてそういう曲の尺はリズムの早さ遅さに関わらず2〜3分台に絞ってあることが分かるはずだ。こういった作曲者による曲構成を通じた尺のコントロールの感覚にぼくはソングライティングの魅力を強く感じる。

この曲もそんなサビ2回の構成をとる。アートといえば「2回目のサビの後ブレイクしてそこから最後のサビに突進していく展開」が大きな魅力(であり、単調さでもある)だったが、それを捨てて尺のコントロールをとった曲の数々の中でも、この曲は特にその新機軸構成に成功した曲のひとつだと思う*6。特筆すべきは、演奏の強弱のコントロールを終盤一点に絞ったことで曲のメロウさとエモさが強調されるところか*7。特に、逆再生エフェクトを多用しノスタルジックなサイケさを演出する前半とぐっと景色の広がりを持たせたディストーションカッティングが気持ちいい終盤とのコントラストが鮮やかなギターが素晴らしい。

また、このアルバムはシカゴのスティーブ・アルビニ(!)のスタジオにて録音されているけれども、そこでしれっとシカゴのことを歌詞にしてしまう木下のいい意味での軽薄さも、なんか好きだ。詳しくはそのうち書くだろう全曲レビューに譲るが、このアルバム、地点がシカゴだったりベルリンだったり、あとバスキアバスキア言ったりと、歌詞がネタ的に色々と面白いと思うのだけど。

 

そんなこんなで、今回の投票のことやアルバム解説も含めてこの曲の項だけで結構な文字数になってしまったのだけど、その上でこの曲がB面集に収録される可能性は…まあ、難しいでしょうねえ。2015年の活動休止前ラストライブ時に選曲されてたりで、結構本人的には気に入ってるところなのかなあとも思ったりするけど、まあファンからの批判の多い時期だし…。確率は5%。もしこの曲が収録されてこの曲が好きな人いたらぼくと乾杯しましょう。愛されるべきB面性(?)を具有したいい曲なんですけどねえ。

 

9.ステート オブ グレース

MISS WORLD

MISS WORLD

 

あのアートスクールにも幸福な時期、バンド内の仲がいいという意味での幸福な時期があった、なんて信じられますか?いや他所様のバンドを捕まえてここまで言ってしまうファンのイタさについても、どうなのかな、と思いますが。というか現状(第4期)もなんだかんだで続いていて、ライブMCも和やかな場面が増えて、いい関係にありそうにも見えるが果たして。

筆者が想定するそんな幸福な時期というのはふたつ。ひとつがこの記事で何度も執拗に言及される「Flora期」で、インタビューを読んでても仲良さそうな記載が多かったり、作品も清々しい方向への充実があって(それはまあ「ポップ方面で売れる」という目標に向かっていたことも関係あるのかもしれないし、結果それが失敗したらしいことが後のキャリアに影響与えてるかもしれないが)、なんか良さそうである(実際は知らん)。

そしていまひとつが、インディー期、特に大体この『MISS WORLD』のシングルくらいまでの時期で、こちらは筆者の推測だけでなく、元メンバーである大山淳の回想録がある。これだけだと少なくとも『MEAN STREET』までしか分からんような気もするけど、確かストレイテナーの本の記述と合わせるとこの辺りまでだったような。

まあ実際本当に仲が良かったのか幸福だったのかは置いておいて、そんなインディ時代、特に音がいかにもインディーじみてるのがこのシングルまでで、その4曲目に収録されたのがこの曲。おお、この曲も真にシングルのB面してるね!

例によって細かい解説は自分の過去記事を見ていただければと思いますが、この曲ではじめて、荒涼とした風景にポップなメロディを描くという、アートのひとつのロマンチックなスタイルが確立されたことは特筆したい。前述の『LOVERS LOVER』とかあと『カノン』とか『エミール』とかもこの曲と同属性の空間っぽさがあり、そのよるべも無いけどなんかだだっ広い感じの雰囲気は、この曲のある歌詞の1行が端的に表現している。

草原の上 怯えた鳥が 一羽堕ちて砕けて消えた

アートの楽曲に時折見られる荒涼とした寒々しい光景、その原風景はこの曲にこそあるのかもしれない。

この曲が収録される確率は40%くらい。結構高めに見積もったのは、木下自身がやはり弾き語り等で度々披露したりする、お気に入りっぽいところがあるため。ファン人気もそこそこあるしいいとこ行けると思うが、これがB面集に収録された時のメリットとして、シングルではこの曲と同じトラックに無音を挟んでボーナストラックが収録され、この曲単独を抜き出して聴くことが難しいので、B面集収録でより聴きやすい独立したトラックになるということが挙げられる。あと、このシングルの音も味があっていいけど、今のアートスクール、戸高氏のギターサウンドでこれを聴いてみたい、B面集に入ればライブでの演奏も増えるかも、という皮算用もあります。

 

10.MEMENTO MORI

 この“前半の10曲”の最後にこの曲を持って来たことも、そこそこ計算通りの流れだ。アマゾンリンクが無いのは手を抜いているのではなく、「検索しても収録された音源が出てこなかった」ためです。その音源こそ『SWAN SONG disk2』。詳しい紹介は拙ブログのレビューを参照してほしいが、実質ミニアルバムとして発売されたdisk1(こっちはもの凄く名盤・入手困難なのが間違ってる・むしろ今回未収録の曲全部B面集に収録すべきでは…)と同時に、数量限定でリリースされたdisk2は3曲入りワンコイン(500円。当時)シングルで、PVが作られdisk1と2両方に収録された『SWAN SONG』『LILY』と、そしてこの曲が収録されている。

シングル『EVIL』、このSWAN SONG2枚そしてやはりシングル『UNDER MY SKIN』が、1stアルバム『Requiem For Innocence』の後にリリースされ2ndアルバム『Love/Hate』に至るまでのリリースであり、そしてこれら(+『Love/Hate』)は、1st制作の段階で既に死に体だったバンドが“契約の都合で”まだまだ作品を出す必要があり、メンバーが期限付きでバンドに残留し続けた期間*8に彼らが何とかものに出来た楽曲たちである。であるが、それにしては数が多すぎることにお気づきだろうか。そう、木下が「アルバムを2枚組で出すアイディアもあったんだけど」と言うことからも現れているとおり、バンドとして超絶不全なこの時期にしかし彼らのクリエイティビティは何故かキャリア随一の状態に高まっており、サウンドの向上とこのハードな状況も踏まえた無情なソングライティングが合わさり、この時期のアートは哀しい名曲佳曲量産モードだった。

その状態においてこの曲はまさにその彼らの微妙な泣き所が凝縮された1曲だ。打ち込みのドラムと薄明かりのようなシンセをベーストしたサウンドは心細さの極みであり、そして裏声から悲痛にひしゃげる木下のボーカルは、歌録り時に泣いてしまったというのも頷ける無常観に満ちている。ひとえにアートスクールの暗さといってもそこには実際は色々なバリエーションがある訳だけど、そのひとつの極がこの曲にあると言ってしまってさほど大げさではないはず。

この曲がB面集に収録される可能性…1%もあるんだろうか(笑)ある意味本人的には一番みっともなくてどうしようもない作品でもある。けれどだからこそ、という考え方もしかねないのが木下理樹という人なので、もしかしたら何らかのもの凄いえこひいきが発生して、収録、などという奇跡めいたこともあるかもしれない。でもそれよりも「SWAN SONGの1と2を合わせて復刻」の方がより良いと思ったりもするけど。

 

後半へつづきます。

*1:っていうか他の曲が全然演奏されないのだけど。

*2:個人的にはむしろKilling Boyの1stミニアルバムの方がより『Adore』っぽい気がしました

*3:これももう10年くらい前なのな

*4:本人も「正確にはB面じゃないけど」と断りを入れてたような

*5:とりあえず便宜的にこう書く。こんなことがあってもバンド辞めなかったトディ偉いよ尊い…

*6:逆に、アルバムタイトル曲あたりは普通にサビ3回やって良かったんじゃね?っていう食い足りなさが正直ある。

*7:まあ別に彼らだけの手法ではなく、割とままある構成だろうけれども。

*8:ストレイテナーヒストリーブック『ロックステディ~4人の人生が連鎖するロックバンドの過去から今~』の元アートスクールメンバーの記述に基づく