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ブンゲイブ・ケイオンガクブ

本を読まない文芸部員と楽器を練習しない軽音楽部員のような感じのブログ。適当な創作・レビュー等々。

ART-SCHOOLのB面集、これは聴いておきたい!20選【後編】

前編分を投稿しましたところ多数のファボ・リツイートいただきありがとうございました。ここまで自分のブログ記事がもてはやされたの人生でかつてなかったので嬉しかったです。後半も頑張ります。

 

という訳で後半です。はじめる前に一応、幾つか断りを入れておきますが。

  • 木下氏のみ敬称略にしております。特に深い意味はありません。
  • 誰からも指摘がなかったので自分で言いますが、この記事は敬愛する音楽評論家・田中宗一郎氏がこの夏のレディオヘッドのライブに宛てて書いた「2016年夏のレディオヘッドを120%楽しむために」シリーズを参考に、というか半ばパクって書いてます。

thesignmagazine.com

thesignmagazine.com

thesignmagazine.com

  • 上記のこれら、レディオヘッドをよく知らない人向けのようでありながら、かなりのファンが読んでも壮絶に面白いテキストになっていて、そこそこのファンの自分もサマソニ東京でレディヘを見る前及び見た後の帰りの新幹線*1の中で何度も読み返しました。
  • 自分も似たようなテイストで、アートスクールをよう知らん人から大概なことまで知ってる人まで面白く読めるよう努めたかったんですが、上記レディへ記事ほどのことは全然ありませんね。やはり歴戦のプロはすごい。
  • このとおり、若干しょげてますが、それでも後編です。よろしくお願いします。
  • 各曲にB面集に収録される確率を載せていますが、この数字の正確な根拠はどこにもありません。何か統計的なものがあるのではと勘繰っても全く無駄。
  • 知らない人にこれらの曲を知ってほしい、という目的はでも、上記レディへ記事と違って試聴できる動画がある訳でもないから無理だなあ(笑)たまにYouTubeニコニコ動画にレア曲が載ってたり、あと東芝EMI以外の時期はitunes storeでも試聴できるので、万が一興味が沸いたらそちらをどうぞ。

 

 11.それは愛じゃない

Missing

Missing

 

「またFlora期の曲か!どんだけかよ!?」というお叱りの声が聞こえるのは私の幻聴かもしれないが、そういうことになりました。やっぱいい曲多いよこの時期…。

この曲を含む『Missing』というアルバムはやや特殊な立場の作品であり、当時の新曲2曲と、第2期開始直後のインディー時代にタワレコ限定リリースだった2枚のミニアルバム『スカーレット』『LOST IN THE AIR』、当時どちらも廃盤状態だったのをリマスターしたものとを抱き合わせにした、コンピレーションのようなつくりでした。このコンピアルバムがあるお陰で上記2枚収録の楽曲は東芝EMI期の廃盤シングルほど入手難易度が高くならずに済んだ、後追いファンからすれば非常にありがたい作品でした。一枚のアルバムとして聴くと、冒頭2曲とその後のミニアルバムの曲群のギャップが激しくてアレですけども*2

しかしともかく、この時期の彼らはホントに一貫性がある。アルバム『PARADISE LOST』で習得したサウンド感覚をよりポップに追求しよう、という姿勢がはっきりしていて、その為かバンド自体も落ち着いた雰囲気が感じられるような気がします。特にこの“ポップであること”についてはむしろ、この『Missing』の2曲が頂点だったような気がします。この後彼らはよりニューウェーブに振ったシングル『テュペロ・ハニー』を経てアルバム『Flora』のリリースとなりますが、このアルバムが実はそこまで明るいポップソングづくしになっていなくて、結構陰気な曲が多い(笑)。そして『Flora』の後バンドは2枚のミニアルバム『左ききのキキ』『ILLMATIC BABY』にて、かたやオルタナ性に“回帰”したり、または電子音との同期に挑戦したりと、路線が混沌とし始めて、それに振り回されてのメンバー交代劇の後、エレクトロ方面を含むもより混沌としたアルバム『14SOULS』、ミニアルバム『Anesthesia』へ進んでいく。

この後の混迷(それはそれでドロドロした感じが中々良いのですが)のことを思っても、『Flora』までのバンドの方向性が安定していた(ように見える)時期は、バンド自体も安定していて幸福な時期のように思えるのです。

しかしこの曲のキラキラ感はまた、奇麗なのと同時にとてもポップ。もしかしたらこの曲がアートの楽曲の中でも一番ポップなのかもしれない。本人もインタビューで公言しているところですが、この時期はUKロック、特にブリットポップの頃のポップさを志向していたとのことで、それがこのポップさの理由のようです。どこかで最近読んだ文章で「ブリットポップの連中は呑気すぎる。アメリカではヒップホップが興隆してみんなリズムに対してよりシリアスになってるのに、イギリスの連中はみんな明るいコードに小綺麗なメロディ乗せるだけで喜んでやがる。たるんでてクソ」というのがあって、この文章自体の是非はともかく、確かにそれだけの呑気、というかピースフルな高揚感がブリットポップにはあったような気がするし*3、そう思うと、そのブリットポップの影響を出し切ったというこの曲のどこまでも朗らかなポップさも理解できますね。

ミドルテンポながら3分以内にサビ3回分やギターソロ付きの間奏含めて奇麗に収めた構成力にも惚れ惚れし、心地よいシンコペーションのAメロからサビのドライブ感あるアクセントの付け方の変化に平坦でない勢いの良さを感じ、またソロを含む全てのギター(アコギ含む)のキラキラっぷりの気持ちよさに戸高氏の絶好調っぷりを感じ、この曲調によく合ったノスタルジックさ爆発の歌詞に聞き惚れ、そして落ち着いたサビのメロディが最後切ない裏声に回収されていく辺りで「かかか完璧みゃあ!」と叫んでしまうくらいに、この曲の何もかもが大好きです。Aメロが『FIONA APPLE GIRL』の使い回し?こまけぇこたぁいいんだよ!

この曲、B面集に収録されたらぼく狂喜しますけど、でも収録される確率は20%に満たないかなあとか。元々補完用のコンピに(当時の新録とはいえ)収録されてる曲だし、この曲のB面なのか何なのか微妙な感じ(笑)。いやいやでも、とりあえずアートのギタポっぽいマイナー曲はぜんぶB面集に収録しときたくないですか?むしろもうそれだけで一枚作っちゃっていいんじゃないですか?全然話変わりますが、どっちかと言えばマイナーな感じのするアートの爽やかギタポ路線の曲が、『14SOULS』で遂にリードトラックになった時、不思議な感慨がありました

 

12.Ghost of a beautiful view

左ききのキキ

左ききのキキ

 

さて、前回リンクを掲載した、今回のB面集に関するUK.PROJECTの謳い文句を今一度読み返してみましょう。

ファンの方からのリクエスト曲を中心に、メンバーの思いれのある曲、ライブでの人気曲をコンパイルします。

特にこの、最後の「ライブでの人気曲を」の部分が、ある程度ライブに行ってて大体どの曲は頻繁にやるな、と分かってきてるファンからすると引っかかる訳です。ただ、 本当にライブで演奏しないことが殆どないクラスの曲は、既にリリースされてるベスト盤『Ghosts & Angels』に収録済です。たとえば『UNDER MY SKIN』『スカーレット』『あと10秒で』はシングル・ミニアルバム表題曲として堂々とベストに入ってるし、『ロリータ〜』『MISS WORLD』『FADE TO BLACK』『車輪の下』『サッドマシーン』辺りもベスト盤*4にしっかり収録されています。流石にベスト盤収録曲を別コンピに収録したりはしないと思うので、この辺の定番曲で収録可能性があるのは『BOY MEETS GIRL』辺りでしょうか。収録されたら正直ヤだなあ。

思うに、ここで言う『ライブでの人気曲』とは、そういう超定番クラスの曲ではなく、準定番くらいで演奏されることの多い曲を収録し、ファンに広く知ってもらってライブでより盛り上がってもらおう、という狙いだったりしないでしょうか。すなわち、フェス仕様以外の纏まった時間のあるライブでよくしがちな、超定番クラス以外の曲、具体的には『その指で』『real love / slow dawn』『夜の子供たち』『Promised Land』辺りの収録を目論んでいるのではないか。

この4曲のうち『その指で』はタイプが違いますが、残り3曲は(この言い方が相応しいかはともかく)後期アートにおける“疾走曲”の立ち位置で、そのテイストは所謂初期アートのそれとはサウンドのフォルムがずいぶん異なっており、オルタナ・ギターロックと言うよりはむしろポストパンク的というかBloc Partyのパクリな鋭さと硬質さをベースにしています。ただ、元々のオルタナ・シューゲイザーな要素も多分に含んでいて、また曲構成にも前期とは異なる様々な工夫が観られ、前期疾走曲の一本気な疾走感とはまた異なった面白みがあって、どの曲も名曲です。

…と、ここまでこの項の主役の曲が出てきてませんが、何が言いたかったかというと、ミニアルバム『左ききのキキ』には上記のうちの『real love / slow dawn』が収録されていて、こちらがB面集に入るのかな、と思うけど、でもここではあえてそれ以外の曲、すなわちこの『Ghost of a beautiful view』を選びますよ、ということ。前置きが長過ぎる。

さらに前置きが続きます。ミニアルバム『左ききのキキ』は、その前の作品となる『Flora』にてバンドがそのキラキラとポップに開けていく路線をひとまず“完成”させた後、その反動なのかハンドルを思いっきり逆に切り、バンドがハードなオルタナサウンドに“回帰”した作品となりました。そう、この作品、よく「初期のサウンドに回帰した」なんて言われますが、果たしてそうですかね。初期っぽいのはタイトル曲だけで、『SHEILA』はその後アートが多用するゴスい方面のオルタナ路線のはしりだし、『Candles』は戸高氏による半分ギャグなモログランジ「すぎる」曲だし(笑)、『real love〜』は上記のとおりブロパ路線、そしてこの『Ghost of a beautiful view』はシューゲじゃないか!と。ようやくこの曲に戻って来れた。

アートでは珍しいいきなり歌から始まるこの曲は、その歌と同時に吹き上がってくる分厚くも透明で幻想的なギターサウンドが最大の特徴。この、(Bメロの箇所以外で)終始鳴り続け、曲の調性ごとまどろませるような音のあらしのような感じがシューゲイザーチックであります。

アートのシューゲっぽい感じがある曲としてはこれ以前に『プール』『LOVERS』『Butterfly Kiss』『IN THE BLUE』、これ以降としては『into the void』『Chelsea Says』『Pictures』『Paint a Rainbow』辺りが割とその線か(部分的なギタープレイの感じだけとかならもっとあるだろうけど)。その中でこの曲の特徴としては、終始同じテンションで曲が進行していくことだろう。メロディの段階からして、調性が曖昧なコードの中をゆらゆら漂うような、決して自力で力強く上昇下降しない程度の淡い昇降で統一され、シューゲ的な継続音が途切れ途切れになるBメロからのサビも必要以上にドラマチックにならず、バックの静かな轟音に身を任すかのようなラインを描く。リズムでさえ、櫻井氏の叩くそれはキックが重く(このキックがこの曲のシューゲからキラキラした浮遊感を上手に剥ぎ取っている、と思う)、そしてろくなフィルもなく淡々とエイトビートを刻み続けている。

つまり、この曲のシューゲはシューゲソングの中でも、無感動系な情緒をたたえたトラックと言える。そこが彼らの他のシューゲソングと異なり*5、彼らのキャリアでも静かに際立っているところである。上記のドラムにより高揚感・浮遊感もそこまでなく、まるで深い森の中をあてもなく彷徨っているかのよう。単にシューゲイザーの曲として見ても不思議な存在感がある曲だ。

この曲がB面集に入る確率は30%程度か。上記のとおり『real love / slow dawn』が優先されるんじゃないかなーという気はしますが、ただB面集的な不思議な雰囲気としてはこっちの方が上だと思います。あと、今回のリストでシューゲっぽい曲はこれとあと辛うじてもう1曲くらいなので、ぜひ入れたかったという。まあお陰でブロパ系の曲を入れる隙間が無くなっちゃったんですけど。

 

13.wish you were here

14SOULS

14SOULS

 

上の曲、もしくは前回の『into the void』 の項でも幾らか触れましたが、『Flora』より後、『Anesthesia』リリース後、木下が新たにバンドkilling Boyを立ち上げ、そしてアートのメンバー二人脱退により第3期が終わる辺りまでのアートを振り返るとホント混沌としています。メンバーチェンジもさることながら、より混沌としているなと思うのはその曲調の幅、節操ないとさえ言えそうなその広がり具合のことで、そしてその極まりこそが彼らの5枚目のアルバム『14SOULS』だった訳です。確かこのアルバムについて木下は「歌詞にしても音にしても、混濁した、ドラッギーなイメージを意識した」といったことを話していた気がしますが、まさにそのとおり、「ダークな曲はとことん攻撃的で混濁した世界観で、それでいてたまにふっとパワフルなポップだったり感傷的だったりな曲が思い出したように混じる」って感じなのがこのアルバムを振り返った印象。つまり、良くも悪くも錯乱した感じが一番出てるアルバム。『Love/Hate』の頃の自暴自棄具合とはまた違う、ヘラヘラと、本意でもない薄汚い笑みが張り付いたような嫌らしさがある気がする。

そんな混沌としたアルバムの中で、ただ一曲、地味に、静かにインナーワールドに沈んでいくような、内向的なダークさを持った曲がこの『wish you were here』。『クロエ』以降のファンク路線をシーケンスのリズムと同期させ、更に妖艶なアルペジオを被せたことでファンクの躍動感が殺され、陰鬱な不健康さだけが残ったといったこの曲の風情は、もしかしたらプリンスと云うよりはむしろスライ的なそれに近いかもしれません。

それにしてもこの曲のアルバム内でのありようは本当に地味。攻撃的でアッパーなマイナー調の曲が多いこのアルバムで、トリップからふと醒めたときに舞い降りた感傷の花を愛でるようなマイナー調は唯一。サビも2回で終わり、派手な展開も無く、全ての楽器が淡々と演奏を進めて、3分ちょうどで終わる。その地味な存在感が、しかしこのアルバムのダークさを耽美な風に見せるのにとても大きな役割を果たしています。

ついでに言えば、その後スマパンの『Adore』をモデルとしたダークで静かでエレクトロ折衷サウンドを目指した『Anesthesia』や、元々木下ソロを作る予定から始まったためかその余韻が感じられるkilling Boyの1stの楽曲の雰囲気ー閉塞的で抑圧的で行き場のない感じーに直接繋がっていく情緒があるのがこの曲。『Flora』収録の『LUNA』辺りと並んで「木下が自分の陰気さを攻撃性とかに転化せずそのままぱっと出したらこんな感じ」的な雰囲気もある、いい具合の深み・面白みのあるマイナー名曲です。

収録されそうな確率は10%ほど。もし収録されたら、木下理樹という人はホントに陰気なんだなあとか思うかもしれません。

 

14.エミール

ILLMATIC BABY

ILLMATIC BABY

 

『Ghost of〜』からこの曲まで、割と近い時期の楽曲が続きますがたまたまです。

アートの一番混沌とした作品は『14SOULS』と先の曲で申しましたが、本項の曲が入ったミニアルバム『ILLMATIC BABY』も大概なもの。丁度この作品と同時にベスト盤もリリースされたのですが、何も知らずに2枚を並べて聴いた人は、ベスト盤の方の一貫性をよそに木下の気の向くままやりたい放題、といったこのミニアルバムにひたすら困惑するかもしれない。

表題曲からして、木下の盟友・DOPING PANDAのフルカワユタカとコラボした、ニューレイヴにかぶれまくった楽曲で、歌詞のノリも含めてどこまで冗談か分からない感じ。アートのニューレイヴ路線の曲はこれっきりで、こんなイレギュラーすぎる曲がうまく叩けなかったということでクビになった櫻井氏は気の毒な気が*6。アートのサウンドのボトムを重戦車のごとく支え、そしてPVでともかくコメディリリーフとして数々の怪演を披露して来たアートの良心・櫻井氏の脱退がバンドにもたらしたバランスの変化は大きかったと思うのですが、そんな印象もまた『14SOULS』『Anesthesia』の混沌・混迷っぷりに重ねてしまうのは思い込みが過ぎるでしょうか。

また、ミニアルバムの他の曲は、ブロパ路線を昇華した名曲『夜の子供たち』、昇華はほどほどに割とそのまま出した感じの『BROKEN WHITE』、「合唱系」なるテーマを掲げてバラードを作ったらやたらキュアーっぽくなった『君はいま光の中に』、これもこの1曲限りだった感のあるゴリッゴリの変拍子ストパンク『INSIDE OF YOU』*7と、ひたすらニューウェーブ・ポストパンク方面で好き勝手やってる作品。かつてグランジバンドと呼ばれた頃の面影は(相変わらず木下節な曲のメロディを除けば)殆ど残っていないのではないか。

本項の楽曲『エミール』もまた、ニューウェーブ路線というカテゴライズに収まる曲で、打ち込みのピョコピョコしたリズムと同期して、ニューオーダーじみたエレポップに仕上がっています。この曲がニューオーダーっぽいのは、歌のメロディもニューオーダーがしばしば書く伸び上がるような陽性でポップなメロディと似た感じがするところ。キラキラしたメロディの手慣れた具合に『Flora』辺りの時期を思わせ、エレポップ化はその発展系という感じがします。特にBメロみたいなサビのメロディから更にリフレインを重ねていく曲構成は巧みで、後に『14souls』でも同じ手法が用いられます。スマパンの『1979』とか『Perfect』っぽくもあるかも。そしてノスタルジックな歌詞。やはりニューウェーブ・ポストパンクゴリゴリなこのミニアルバムにおいて、ふと正気になってセンチになったような立ち位置のこの曲は作、品のバランスをより心地よいものにしています。

余談ながら、アートのメジャー調のメロウでポップな曲は何故か、ノスタルジックな内容の歌詞であることが割と多いようです。該当する曲は『Butterfly Kiss』『1995』『それは愛じゃない』『14souls』『フローズン ガール』『YOU』『TIMELESS TIME』辺り。やや恣意的なチョイスですが、なんとなくこの辺はシリーズ化してる感じがあります。そしてこのシリーズ見事にハズレなし!全曲名曲です。考えるに、木下の泣き所・メロウなセンスや想像力が最も伸び伸びと発揮されるところなのかもしれません。

この曲の収録される確率もそれほど高くはなさそう。5%ほどでしょうか。ちなみに、アートの楽曲でメジャー調でエレクトロ要素が強い曲は今のところこの曲のみ。その珍しさや、単純に楽曲として好きなことなどから、より収録可能性の高い『夜の子供たち』ではなくこっちを選んでみました。まあこっちが収録されず『夜の〜』が収録されても、それはそれでとてもいいと思うんですけど。

 

15.Water

YOU(初回生産限定盤)(DVD付)

YOU(初回生産限定盤)(DVD付)

 

本稿で延々とダラダラ書き綴ってきたアートスクールというバンドの歴史も、ひとまずはこの曲辺りで現状まで語ってしまおうと思います。今回のリストの中ではこの曲が最新です。

「Flora期」より後の時期の混沌・混迷気味にも見える時期について上記3曲で述べ、またその結末としてのメンバー脱退・強力なオルタナ布陣を引くケガの巧妙すぎる第4期への移り変わりについては前回の『Chicago, Pills, Memories』あたりで触れました。結局、その「最強の布陣」が、この曲も入った7枚目フルアルバム『YOU』、更には自主レーベルを立ち上げてのリリースとなった最新作8枚目『Hello darkness, my dear friend』まで続いており、現在もこの布陣でのライブを行っています。外から見ている分には、メンバー間の関係性も比較的落ち着いたものが感ぜられ、現状は「Flora期」並かそれ以上の充実と安定がバンドにあるように思えます*8

それでも、『YOU』の時期に木下から「今までで一番最悪な状況だった」などの言葉も出ていることから分かるとおり、緊張感がない、ゆるーくやっていける懐メロバンドになった訳では決してない。具体的に言うと、この時期は『BABY ACID BABY』以降のソニー在籍時の最後期になりますが、レーベルから「売れる・分かりやすい曲を書け」と強いプレッシャーを受けて混迷を極めていた、とのこと*9。個人的には、ここで木下がレーベルも自分も納得できるようなポップでキャッチーな曲を書いてたら、それはどんな曲だろう、アニメとかのタイアップになったりしてたんだろうか、とか思ったりもしますが、しかし結果として、木下は「自分が納得するような曲を作るしかない」という結論に至り、アルバムは制作された。それでも、結果完成したアルバム『YOU』はアート諸作の中でもポップ・キャッチーに寄った、そして近年でもセールス的に成功した作品となりました。ソニー期の前2枚にあったゴリゴリのオルタナ感は幾らか後退し、彼らのキャリアでも最もナチュラルな視点から制作されたアルバムは集大成じみた作品となり、『Promised Land』『YOU』『Driftwood』『RocknRoll Radio』といったポップな楽曲が多数収録されています。というかソニー側は『Driftwood』辺りのどこが駄目だったんですかね?こんなポップに徹してるのに。声も、この頃にはかなりクリーンさを取り戻しています。

この『Water』もまた、木下のフォーキーなポップセンスがよく現れた、さらりとした名曲。アートにしては珍しいハネたリズムで軽快に進行する楽曲*10で、リズムのキュートさと木下節な暗くも明るくもないコード感が妙にマッチしていい具合の清涼感があります。というか中尾健太郎・藤田勇という日本有数にゴリゴリのリズム隊がこういう可愛いビート出してるのはなんか和みます。丁寧に点描画チックなフレーズを重ねる戸高氏の職人芸も、やはりハネたリズムで鳴らされるピアノも、曲の終わり際で突如ウォーキングし始めるベースラインも、ともかくなんか愛らしい。木下らしすぎるノスタルジックな歌詞もキャッチーで、やはりこの方面の良さは確かなものがある。

この曲、新たな定番曲化した『Promised Land』を除けば、『YOU』の曲ではアルバムツアー後のライブでも時折演奏されており、本人的に気に入ってるのかも。繰り返しますがこの手のリズムの曲はアートでは他にそんなになく、これがあるだけで曲の幅が確かに広がるというところもあります。B面収録の確率は20%くらいかなと思いますが、収録されればどことなくホッとするような時間を作り出すものと思ったりします。ホント、はっきりとメジャー調のコードでもないのにこの曲の柔らかなポップさは貴重です。

 

16.JUNKY'S LAST KISS

UNDER MY SKIN

UNDER MY SKIN

 

先の曲までの5曲はすべて当ブログでまだ全曲レビューを書いていない曲だったものだから、解説がやたらと増えてしまって書くのが大変でした。その点この曲はもうすでにレビューを書いていますので、詳細はそちらを。「Love/Hate期」の大量リリースのうちの1曲である、第1期末期のサツバツ感を如実に反映したこの暗黒ファンク・グランジソングは、もしかしたら第1期アートでも最もエッジィでエクストリームな楽曲かも。ピー音も含めて極まったギリギリ感。裏声多用すぎて今ライブでそのまま演るのはキツそうだけれども。

この曲がB面集に収録されるのは20%くらいか。どうも後半入ってから「これは絶対入る!」と確信を持って予想できる曲がないな(笑)。ただ、何度も言いますが東芝EMI期の入手困難になってしまっている楽曲は何としても出来る限りサルベージしてあげてほしい。この曲はその中でも特にそのサウンドの特異性やキワキワ感から、せめて収録されてほしいうちの1曲です。

 

17.Piano

Flora

Flora

 

割とフローラフローラうるさいこの一連の記事ですが、遂にこの辺でそのアルバム『Flora』から1曲。「Flora期」の良さについては既に十分に言及した気がするので、この項ではそのアルバム自体に触れていこうかと。

アルバムに先行してリリースされたシングル『テュペロ・ハニー』の段階で、このシングルに収録された楽曲はどれもニューウェーブ要素が強まり、それまでのブリットポップ路線とは違ってきています。メジャー調の楽曲も収録されていない。

そして満を持してリリースされたアルバム『Flora』、冒頭の『Beautiful Monster』がまさにメジャー調ど真ん中で力強いナンバーで、また末尾が戸高氏のペンによるドリーミーでやはりメジャー調な小曲『Low heaven』なのでなんか明るいアルバムのように感じますが、この2曲の間にある曲は、実はメジャー調の曲はそれほど多くない。はっきりメジャー調は『THIS IS YOUR MUSIC』とやはり戸高氏の『Mary Barker』くらいで、あと『アダージョ』『SWAN DIVE』『IN THE BLUE』はコード自体はメジャー調ながら、3様に幻想的なアレンジによってそのコード感はぼかされています。そして他の曲は緩急はありながらも、どっちかと言えばダークなコード感の曲が多い。『影待ち』なんかはまるでGRAPEVINEの陰気な曲みたいな不思議な雰囲気だし、『LUNA』に至っては幻惑的な音響でもってとても内向的、というか引きこもりなうたを作り上げてる。あとシングル『フリージア』から再録された『光と身体 』は初期GRAPEVINEのシリアスで力強い楽曲に似た逞しさがあります*11

そんなアルバムにおいてこの『Piano』という小曲もまたアルバムの暗い方面を彩る楽曲のひとつですが、この曲の特徴はなんと云っても曲調通りのピアノが基調となったトラックメイキング。ワルツ調のリズムといい、ぶっちゃけエリオット・スミス『Waltz #2』な感じではありますが、しかしそれを木下理樹がアートでやったというのが面白いところ。ピアノのプレイもエリオットほど堪能ではないですが、サビでミニマルなアルペジオ的に展開する辺りなどアートスクールらしさとヨーロピアンな優雅さが合わさり絶妙。エリオット・スミス、思いっきりアメリカ人ですけども。

思うに、『PARADISE LOST』〜『Flora』においてバンドが獲得したのは、ヨーロッパ的な感性だったのかもしれません。UKロックのキラッとした感じ、北欧的な幻想的なポストロックサウンド、ニューウェーブシューゲイザー、あとマイナー調の曲の節々で香り始めたゴスな雰囲気など、どれもアメリカ大陸というよりもヨーロッパの方という感じがします。この、アメリカよりもヨーロッパな方向性は、その後ニューウェーブへの思い切った傾倒などもあり、『BABY ACID BABY』前でオルタナに急転換するまで維持されていたように思います。歌詞もこの後神父だとか聖書だとか言いだすようになるし。

さて、前回『Chicago, Pills, Memories』の項で述べたとおり、この曲こそまさに木下自身がTwitterで「この曲とか実質B面だしこういうの収録したコンピなー」と言っていた曲です。気に入ってるのかもしれない。楽曲の幅的にも、アート史上最もピアノが前面に出たこの曲はB面集に映えると思うし、ぜひ収録されてほしい。そんな祈りやなんや込みで、40%くらいは収録される見込みがあるのではと予想。果たして。

 

18.僕が君だったら

PARADISE LOST

PARADISE LOST

 

アルバムからの楽曲が続きます。また、陰気な曲が続きます。こちらはアルバム『PARADISE LOST』からの1曲。

PARADISE LOST』のレコーディングが彼らにもたらしたものは大きかった。なにせ初の海外、それもニューヨークとかそっち方面ではなく、いきなりグラスゴーという、UKインディロックの整地と言って過言でない場所で、ベル・アンド・セバスチャン等のプロデュースで知られるトニー・ドゥーガンの下で、モグワイのメンバーも録音に参加するなど、なんかいきなり凄い環境で録音が行われました。元はデイヴ・フリッドマンにプロデュースしてもらう予定が頓挫し、その代わりだったようですが、もしかしたらこのトラブルがなければアートのこの後の歩みは違っていたかもしれない。つまり、ひとつ前の曲で述べたバンドのヨーロッパ志向の度合いとか変わっていたかもしれない。デイヴ・フリッドマンだったらもっとサイケな音像とか、そっちに向かっていたかもしれない。分かりませんけど。

その為か、『PARADISE LOST』にはいくつかこれまでのアートになかった類の幻想的な楽曲が登場します。冒頭の『Waltz』だったり、タイトル曲や『ダニー・ボーイ』『天使が見た夢』など。アルバム全体としては、これらの曲と従来然としたオルタナ・グランジな楽曲とが混ざりあい、より総合的な音作りが施されている『Flora』と比べるとやや過渡期的な部分がありますが、そこもまた「第2期直後のインディーからの2枚でぐちゃぐちゃになったバンドが次第に美しさに昇華されていく」過程として見ることができます。

で、この曲、この曲も幻想的サイドの楽曲です。しかし下敷きとして、第2期インディー2枚それぞれの締め曲『君は僕のものだった』『PERFECT』に通じるような、打ち拉がれた上での虚無的な幻想感というのがベースにあるように感じられます。北欧的で宗教的なキーボードのイントロに導かれて、やはり頼りなく寂しげなギターアルペジオの涼しさや、サビでの豊穣にして寂寥感に満ちた演奏の重なりなど、今作の幻想風味がしっとりと陰気な曲によく合った、とても美しい曲。というか、最初聴いた時はあまりに美しくて寂しいものだから、この曲がアルバム最後の曲だと思って、終わった後次の曲が始まって「!?」ってなったことがある。

『Anesthesia』収録の『Loved』は、シガーロスい風味といい曲のメロディアスな陰気さといい、正しくこの曲の正当な“焼き直し”。どうしようもない苦しさや無常観は『Loved』の方が上だと感じますが、この曲のコーダ部の、ファルセットで「跪くよ」と連呼する箇所はとても祈りめいていて美しい。

B面収録の確率は10%ほどか。特別多くのファンから支持されていたり曲単位の熱狂的なファンがいそうな曲という感じはしませんが、こういう方向の美しさもアートにはあるんだということで、アートの陰気な美しさの多様さのひとつとして(笑)ぜひとも収録を祈願したいところ。

 

19.LOVERS

SWAN SONG(DVD付)

SWAN SONG(DVD付)

 

アートスクールの、木下の陰気さについて延々と、何故かこの後半は特にフォーカスして延々と語ってしまった気がしますが、その陰気さにとどめを刺すのが、このミニアルバム『SWAN SONG』からの1曲。「Love/Hate期」という、バンド最初の極限的状況にして実際崩壊という結末を迎えることとなる、言ってみれば虚無にパラメーター全振りしていた時期の、まさに結晶のような楽曲。

詳細はすでにこちらに記していますが、この曲に関してだけはここでしっかり書いておかなければならない。この曲の最終盤部分の歌詞はこうです。

何一つかなわずに 何一つかなわずに

何一つかなわずに 何一つかなわずに

 木下理樹の世界観の根本のひとつとしてある諦観・無常観を、ここまで身も蓋もなく言い切ってしまったフレーズはないでしょう。第1期のアートスクールは「ねえ今から美しいものを見ないか」(『BOY MEETS GIRL』)という風に、美しい景色への憧れを強く抱いていました。それが彼やバンドの変遷のさなかに、この心情に変化していったこと。この“蹉跌の美しさ”、自暴自棄で寝転んで虚空を見つめ続けるような心情こそ、アートスクールが最も人々の心を打つ場面だと、ぼくは思う。淡々としたリズム、淡々としたメロディ進行の中、薄いシューゲイザーチックな浮遊感に揺られて上記の最終フレーズにたどり着いた時のやるせなさ。その苦しく狂おしいのに、何故だか美しく感じられる気持ちのことを、ホントに何の花とかにたとえられるやら。

この曲だけは、収録されなければならない。%とか知るかよ。これを美しさだと言い切ってしまう、その痛々しさ・惨めさ・青さどうしようもなさこそが、アートスクールそのものだって、ぼくは言わなければならない。「Love/Hate期」の楽曲はその特性上「この辺がとりわけ好き」な熱狂的なファンが結構いると思う。この曲はその中でも特別、あまりにできすぎた、結晶のような曲だ。今年の活動再開ライブで演奏されていたりもして収録の可能性は大いに、60%くらいはあると踏んでいるけれど、また廃盤・入手困難な楽曲が多数ある「Love/Hate期」については多くのサルベージが必要とも思うけれども、ともかく、この曲だけはどうしても収録されてほしい。ああ、祈る、祈る。

 

20.カノン

あと10秒で

あと10秒で

 

若干取り乱しました。20曲もレビューすると疲れますね。

以下個人的な話なので、1行空きの手前まで読み飛ばしてもらって結構です。

この20曲ものリストの最終曲を何にするかは、本当に迷いました。20曲で75分に収まってしまうアートの楽曲のコンパクトさに改めて驚嘆と敬意の念を抱きながら、一生懸命itunesをスクロールしました。

最初は『エミール』を最後の曲にしようかと考えました。ポップでメジャー調な曲で穏やかに締めたい。思いのほかあの曲のエレクトロ色が唐突に感じられたのでやめました。

『Anesthesia』収録の『Loved』はどうか。『LOVERS』が第1期アートの諦観の果てなら、この曲は第2期・第3期と連続性があったバンドの流れの終着点、美しくも痛々しすぎる行き止まりの曲。しかし、何故か投票ができないのでした。同系統の『僕が君だったら』も検討しましたが、しかしどっちにしても、終わりかたがあまりに元気がなさ過ぎる。やめました。

同様に、『LOVERS』で終わりというのも考えましたが、同じ理由でやめました。

『LOST IN THE AIR』の最終曲『PERFECT』はどうか。ピアノも入った荘厳なロックバラード。ただ、この時期の歌詞はこの時期の色が出過ぎているなと、これまでの19曲を受け止めるにはちょっと独特の歌詞すぎるかなと思いやめました。

初期アート、特にインディーズ期の締め曲は軽快な曲が多い。ミニアルバム『SONIC DEAD KIDS』の『SUNDY DRIVER』や『MEAN STREET』の『ダウナー』で軽快に終わるのは。いやでも流石にこの現在まで続くアートの豊富で陰気な曲群を受け止めるにはのんき過ぎやしないか。やめました。逆に『汚れた血』で重厚に締め、というのはかの曲の音質向上が期待されるのでいいかも、と思ったけど今度は重すぎ。

あえてのトディ曲締めは。『Low heaven』や『Grace note』で締め。悪くないけどちょっとアルバムまんまって感じだもんなあ。やめました。『Candles』?ハハハこやつめ。マスター、彼に慈愛のネオンを。

このリストで他に言及してない作品、シングル『EVIL』からの曲はどうか。うーん3曲もアルバムに収録されてて、残った曲『WISH』も流石に締めではない(笑)やめました。

いっそ木下ソロにしよう!『NORTH MARINE DRIVE』は!?おじいちゃんそれは最近新録したばかりでしょう。dipの『no man break』のカバーは?今回の投票で選べません。

killing Boyは?Karenは?これはアートの投票だってば。Ropesは?最早アート要素相当少ないじゃないか…。

ニルヴァーナ『About a Girl』やブッチャーズ『ファウスト』のカバーは?だから投票で選べないんだって。イールズの『IT'S a MOTHERFUCKER』だけあるのがずるい?それはしょうがない…。

色々考えてリスト作ってたんですよ。無駄だけど。

 

このリスト最後の曲がこの『カノン』。第2期のメジャー復帰後初作品『あと10秒で』収録曲のひとつです。私事ですが次のアート全曲レビューはこの作品なのに、いつになることやら…。

このミニアルバムは、メジャーデビュー以降混乱と閉塞と崩壊の繰り返しのようだったこのバンドが、はじめてより上昇的な潮流の中にいた、その輝かしい瞬間の作品でもあります。それは再メジャーデビューが決まったことや、この作品の後に海外にアルバムレコーディングに向かうという流れがありバンド内が音楽性作に向け団結しつつあったことなど、色々な要因がありそうです。開き直ったようにシンプルでおバカでアッパーでポップな『あと10秒で』をリリースして、もう一度メジャーシーンでぶちかましてやろう!という気概もあったのかもしれません。

このミニアルバム、そんな後のライブ超定番にして代表曲の影でしかし、他の楽曲のレベルが非常に高い。『汚れていたい』『LITTLE HELL IN BOY』そしてこの『カノン』の3曲は、『PARADAISE LOST』収録曲の最もいい曲並みか、下手をするとそれ以上に楽曲として研ぎ澄まされている。海外レコーディングを前に、グチャドロなインディーズ2枚を経て、今の段階で自分たちにできることをやり抜いた、という感じの完成度。この3曲ホントに優劣がつけがたい。このリストでも最初はこの曲ではなく『汚されたい』が入っていました。

改めてこのリストの最後を務める曲を考えまくった後に、この曲だ!と思い至りました。その理由も交えながら以下。

アートスクールは秋や冬のイメージが強いといいます。それは歌詞にしばしばそのような季節が登場すること*12もありますが、それに加えて、彼らのサウンドが涼しげなアルペジオやカッティング、コード感など、どことなく秋冬っぽい感じがすることもあるのだと思います。

その点いくと、この曲は1行目から「とても寒い冬だった」とあり、また「くしゃくしゃの枯葉踏んだ」という歌詞からも明らかに冬。また、得意のメジャーでもマイナーでもないコード感も、この曲では軽快なミドルテンポの上で乾いた空気感を放っていて(フォーキーなアコギの働きが大きい)、上記のような歌詞がなくても「ああ…なんか秋か冬だな」って思わせそうな気配があります。

また、アートスクールは洋楽に大きな影響を受けているバンドとして知られていますが、それが時にはすごく直接的な形、つまり剽窃寸前のような姿で現れることがあります。『ガラスの墓標』に始まる『MEAN STREET』各曲や『プール』『リグレット』『EVIL』『イノセント』『アパシーズ・ラスト・ナイト』等々、そのような事象は特に第1期アートに多いようだ。

その点でこの曲は、第2期には珍しい結構なインパクトあるオマージュを決める。キュアー『High』のアルペジオ及びカッティングに“大きな影響を受けた”と思われるギタープレイ。そしてそれ以上に大きいのが、邦楽だけども、エレキブラン『Melt』*13。この、コードの一致感、あと歌詞の雰囲気だって、これは…と(笑)挙句、「エレキブラン」で検索をかけると「エレキブランとART-SCHOOL」なる不思議な文章が上位にヒットする(笑)

このように、この曲は色んな意味で、典型的に「アートスクール」してる曲だと言える。しかしいくらパクリっぽくても、この曲のメロディが美しいこと、とてもアートスクール的な情緒と風景に満ちていることは間違いがない。サビのファルセットを交えながら上昇するフレーズの切実さは素晴らしい。フォーキーなアコギと心地よいドライブ感を効かせたエレキギターの対比によるちょっとした浮遊感という点では、このリスト冒頭の『LOVERS LOVER』にも通じる心地よい響きがある。

この曲のもうひとつの特徴は歌詞で、この曲は木下理樹の楽曲でも珍しく、3人称を用いた形式になっている*14。つまり、ちょっと物語調になっていて、そこでは男女の幸福な日々が終わってしまった、失われてしまったことを、ふと繊細な切っ掛けで気付くという、典型的に木下節な光景が繰り広げられる。ただ、この3人称視点というのが、このシチュエーションのさらりとした寂しさを物語として突き放している辺りが、アートの他の曲にはない無情さが見られて面白いし、しんみりする。

あるいはこの曲の物語チックなありようというのは、失うことの虚しさとそれがゆえの美しさを描き続けんとする、業の深いこのバンドが、唯一それを他人事のように外から眺めて綴った、もの寂しいスケッチ画のようだ。何度でも何度でも失いそれに気付くバンド・アートスクールの、はじめから行き場がないような、しかしそれ故にどうにでもなる、という開き直りで世界を、広くて空っぽの空を眺めるような、何もないからこそ世界を観ていられるみたいな、不思議な居心地の良さ、優しさなどが透けて見える気がするのは、筆者の思い入れ故だろうか。

収録の確率は60%程度。間違いなくファン人気の高い曲で、それはやはり、ファンがこの曲の中に寂しくも美しい光景を見つけているからだと思う。実際「寂しくて美しい」なんて感情、現実では殆ど使い道がない。「寂しくて美しい感情があったから就職できました」「大学に受かりました」なんてあるもんか。「恋人ができました」はまあ…でもその相手の人、気をつけた方がいいんじゃない?けれど、少なくない人がある楽曲に対してある程度共通する、こういう感慨を抱けるということ、それ自体がとても尊いことだと、ぼくは信じる。「寂しくて美しいですね」だけで腹は溜まらないし世界は平和にならない。けど、だけれども。この胸の内に咲いた、ひどく惨めだけど美しい気持ちを、誰かと分かち合うことができたなら。そんなことを祈るのは、悪いことじゃないよね。願わくば、アートスクールのB面集がそんな心通わす場になってくれれば。

*1:飛行機ではなく!この辺りの事情はサマソニ体験記を書く予定なのでそちらで面白おかしく触れます

*2:バンドもどっちかと言えば新曲2曲だけをバン!とシングルで出すつもりだったようです。MARQUEE vol.56より。余談ですがいつからこの雑誌アイドル専門誌になったんですか…?

*3:別にリアルタイム体験した訳じゃないっすけども。スウェードとかドロドロ暗いのもいたのに、印象として確かにポップさが強いなあ

*4:余談ですが、このベスト盤、PVがある曲を網羅しているようでしていなくて、具体的には『foolish』『EVIL』『LILY』『Missing』『SWAN DIVE』が収録から漏れています。特に不思議なのが『SWAN DIVE』で、このベスト盤は『Flora』までの曲が収録されていますが、ここでその『Flora』からはPVもあってライブでも比較的演奏される同曲ではなく、アルバムツアー時以降なかなかお目にかかれない『IN THE BLUE』が収録されています。シューゲ・ポストロック感全開のこの曲を収録して、当時アピールしつつあった“シューゲイザーバンド”として主張するためだった…?

*5:この点で一番近いのは『into the void』だろうか。シューゲサウンドの様態が随分異なるけれども

*6:脱退自体には他にも理由はあるんでしょうけど、直接はこの曲がなかなか完成しなかったところにあるようです

*7:この曲はむしろkilling Boyの楽曲に連なる路線かも

*8:半ば自主的とはいえメジャー落ちして自主レーベルに移行したためか、ライブの動員がやや下がったように感じられたのが懸念と言えばそうでしょうか。

*9:まあ、ソニー期に出した3枚の音源のうち2枚が『BABY〜』『The Alchemist』と、相変わらずやりたい放題といった作品だったし、ソニー側の「ここらで売れる作品を作ってもらわないと」というのも分からない話ではないですが。

*10:これの他には『君は天使だった』や戸高氏による『Mary Barker』のみか。っていうか『君は〜』についてはこのタイトルがまんま『Water』の歌詞にも登場するという(笑)

*11:ていうかこのアルバム、ちょこちょこバインっぽいんですね。当時レーベルメイトだったし。

*12:決して他の季節を歌ってない訳じゃなく、春(『フリージア』)や夏(『リグレット』『OUT OF THE BLUE』)もあることにはある。

*13:まあこの曲がまずキュアーの『High』をパクってるんだけども。名曲です。

*14:他にはっきり3人称してるのって『革命家は夢を観る』くらいじゃないか?