ブンゲイブ・ケイオンガクブ

本を読まない文芸部員と楽器を練習しない軽音楽部員のような感じのブログ。適当な創作・レビュー等々。

リズムギター(もしくはギターボーカル?サイドギター?)について(前編)(概念・歴史編)

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いつの間に木下さんフライングVからジャガーに持ち替えたんすか…。似合うけどちょっとさみしい…。

 

この前辞典に投稿した「リズムギター」の項の文章を人気フォローワーさんが引用した部分がちょっと反響があって、微妙に需要というか、そういうのについての文章が求められてるんだなあと思って、自分もバンドでボーカルギターをさせてもらってるので、色々調べたりするんですがコレ!という決定的な解説を読んだことないなーとも思って、まあ勿論ここで決定版示したる!という気合いの入ったものではないしそんなもの書けませんが、ひとまず自分の理解を整理しておくためにも筆を執ってみましょう、という記事になります。

 

件のツイート。

 

ちなみに、本編である機材編が相当長くなる予感な状態で書き出して、その前説の段階で既に長い感じがするので記事を2分割します…。

 

(2019.6.30追記)やっと後編書きました…時間かかりすぎました。

ystmokzk.hatenablog.jp

 

1. リズムギターとは(又はどうしてギターボーカルが関係するのか)

 

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 まず今回、便宜的に“リズムギター”という題での記事ですが、これは実際は「リードギターじゃない方のギター」くらいの意味合いで使ってるだけで、より厳密なリズムギターの定義に合わせて話すつもりがないことは、最初に断っておきます*1

 ということで、逆にリードギターがどういうことをするか考えることで、今回この駄文の対象となるところの「リズムギター」の意味合いが分かるかもなので、リードギターの働きについて考えてみましょう。典型的なやつだけね。

 ◯リードギターの役割

・リードフレーズを弾く

 リードフレーズってなんや?って気もしますが、ともかくメロディのあるフレーズですね。ギターにおいてこれと対置されるのがコード弾きだったり、またはリフだったりですが、まあリフはリズムの方の仕事ってな場合もあるでしょうし、うん。歌の後ろとかで弾かれるフレーズは流石にリードギターの仕事でしょう。たまにギターボーカルのくせにこれをやっちゃう浅井健一みたいな変態もいますが。

昆虫キッズ - Metropolis (Live at BANQUET BLUE GHOST TOUR in HIROSHIMA) - YouTube

アルペジオを弾く

 これもリズムギターが、時折歌いながら平然とやることもあるとは思うんですが…まあたとえばスピッツで、草野マサムネさんがコードを弾く横で三輪テツヤさんが爽やかなアルペジオを弾くみたいな、ああいうやつです。

スピッツ 青い車 / Spitz Aoi Kuruma Live - YouTube

・ギターソロを弾く

 これは典型的にリードギターの仕事、少なくない場合、最大の腕の見せ所になってくるかと。逆にギター弾くメンバーが2人以上いる場合で、ギターボーカルが間奏でソロも弾くとなると、そのバンドのギターボーカルワンマン体制感が増しますね。Neil Youngとかね(流石にこれはそれをみんな聴きたい訳だからしょうがないけど)。

筋肉少女帯 「イワンのばか」 2015 - YouTube

 ギターソロは特に、ギタリストの至上命題にして最大の役割、みたいになっていて、ここめがけてギターにしろアンプにしろエフェクターにしろ、機材等が作られているような節さえあります。エフェクターの試奏動画でもコードをジャキジャキ弾いているものよりもギターソロやらソロっぽい何かばっかりなものが多くを占めていて、えーっじゃあコードをジャキジャキ弾きたいだけの人に参考になる動画ってないの…?っていう気持ちが、今回の記事を書く動機に繋がっていった要素のひとつであります。

Boss Blues Driver - YouTube

 

上記を踏まえてリードギターの役割をある角度から見ると「歌いながらではやりづらいプレイ担当」という身も蓋もない側面が現れます。ギターボーカルの多くがリズムギター担当になるのは、この辺りが関係してくる訳です。

リズムギターの役割

 以上のリードギターの役割を踏まえて、じゃあ「リードギターじゃない方」としてのリズムギターがプレイできる範囲のこととは何か挙げていってみましょう。浅井健一とか坂本慎太郎とかは考慮しちゃダメだ…。 

・コードを弾く

 まさに典型的なリズムギターの役割。アコギ弾き語りと同じ要領でエレキギターをシャナリシャナリと弾く訳です。不思議とこれだけでも意外ととりあえずの格好がつくものなのがバンドの面白いところでもある。特にギターボーカルの3ピースバンドの場合、ギターの役割の相当多くの部分がこれになる(ならざるを得ないだろ歌いながら弾くなんて難しいのに…平気で歌いながらリフ弾く連中がおかしい…)と思われます。3ピースバンドの場合他2人は大体ベースとドラムだから、唯一のウワモノ楽器であるギターがコードしか弾けないとなると、それだけで何曲もバリエーション付けて作るのはとても大変で、3ピースバンドが比較的行き詰まりやすい・曲の幅が狭くなりがちな構造的要因とも思われます。これをどうにかするためには、たとえばsyrup16gの例でいくと不思議なコードを使ったり、曲展開に凝ったり、あと後で述べるエフェクトで変化付けたりだとか。これの考察だけで記事書けるからあとは省略します。

syrup16g - Reborn 解散 - YouTube

アルペジオを弾く・リフを弾く

 たとえばアルペジオとフレーズ(スライドバーとかエフェクティブなやつも含む)を2人ギターバンドで鳴らす場面があれば、より歌いながらしやすいアルペジオをギターボーカルが弾かざるを得ない場面はあるかと思います。

Radiohead - Present Tense: Jonny, Thom & a CR78 - YouTube

何気にトム・ヨークの歌いながらギター弾くスキルも相当バケモノ気味なんだよなあ。

 また、ポジション的にはリードギターの人がリズムギター的なプレイをするということも当然ある訳で。この記事的には「リードの人が弾くリズムギター的なプレイ(カッティングとか)」もそりゃまあリズムギターなんですけど、でも最終的に話をしたいところはそこじゃないというのはあるんですよね、っていう、書いてて自分でもややこしくなってきたところ*2

[LIVE] TMGE - キャンディ・ハウス (RISING SUN 1999) - YouTube

音の壁を作る

 上記のコード弾きから派生することであり、かつ次の項目でもっと深く考察する部分ですが、2本ギターのバンドの想定で、リードギターが単音のフレーズに徹するのであれば、そしてその後ろで音圧のあるギターテクスチャーを構築したいなら、それはリズムギター側でする他ありません。そのためには歪みは勿論、場合によってはリバーブをはじめ他のエフェクトも必要となり、そしてここにこそ、リズムギターエフェクターを揃えり必要性が生じる最大の原因があると筆者は思うのです。

Supercar - Fairway (Last Live DVD 2005) - YouTube

この辺ライブ映像だと実感するのに限界ある感じしますね…。

 

2. リズムギター(?ギターボーカル?)の歴史

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 ここでやや唐突ですが、リズムギターの歴史的な変遷を観ていきましょう。ついでに各時代の名リズムギタリストの紹介もしていきながら、結局は次の事項、エフェクターの必要性に関する話の布石をさせてもらいます。

 段々リズムギター関係なくギターエフェクターに関係する音楽性の話になったり、リードギターっぽいプレイばっかりのギターボーカルの話になったり、っていうか結局自分に興味・関係してくるバンドにのみ話が収束していきますけど面倒くさいので見出しは変えない。

 

◯60年代

 The Beatlesの登場とそれに伴うバンドブームにより、ギタリスト2人にベース・ドラムという、未だに続く4ピースバンドの基礎が築かれた時代です。

The Beatles - I Want To Hold Your Hand - Performed Live On The Ed Sullivan Show 2/9/64 - YouTube

この曲の時点で結構はっきりとリードとリズムの割当がはっきりある。

 特に、ブリティッシュビートバンドというジャンルで呼ばれる一群は、その名のとおりビート感・アタック感にサウンドの妙があるバンドが多く、リズムギターの重要性は、この後の70年代以降のハードロック期に入った頃よりも相対的に高かったはず。

The Rolling Stones - The Last Time - Live - YouTube

Small Faces - All or Nothing 1966 - YouTube

 1967年以降のサイケデリックムーブメントを経て、いやむしろそれと前後か同時期かくらいのブルースロックブームによって、ギターのロックにおける様態は大幅に変わっていく。ギター関係の機材も進化していき、この時期に“魅せる”ギターの基礎が確立された。リードギターがバンドの前面、歌よりも前に立つ時代の到来。

Cream - " Whiteroom" LIVE - YouTube

 

◯70年代

 本格的にハードロックが始まっていく時代。ハードロックにもなんかそういう雰囲気があったのか形式があって、大体ピンボーカルで、ギタリストがその横に並び立つスタイルが多い。なのでハードロックは「リードギター以外の」リズムギタリストがいないことが結構よくある気がします。

The Who - Won't Get Fooled Again - YouTube

流石にThe Whoはハードロックっぽくなってもどこかビートバンドっぽいとこありますね。ピート・タウンゼントはこの時期のリズムギターリードギターの折衷の最前線の人かも。

Led Zeppelin: The Wanton Song (RARE Rehearsal) - YouTube

後期ツェペリンのリフごり押しサウンドは意外と少なくない変態チックな3ピースバンドのお手本になってるかも。

 時代が進んでパンクの時代に入ってもピンボーカルのバンドも結構多く、ギターボーカルとして存在感があるのはThe Clashジョー・ストラマーとか。

The Clash - I Fought The Law - YouTube

 いや、むしろ現代的にはこの時代のギターボーカルだとTelevisionのトム・ヴァーレインが飛び抜けてる気がします(この人までいくとリズムギター?って気もしますけど)。

Television - Foxhole (live) - YouTube

トム・ヴァーレインのギター、現代的すぎるでしょ…本当に78年かよ。

 

◯80年代

 ニューウェーブもまた、ピンボーカルの目立つ時期ではありますが、この時期はNew Orderのバーナード・サムナーという、下手なギターボーカルが幾らでも勇気*3をもらえるギターボーカルヒーローが(結果的に)誕生しています。

New Order - Ceremony, live at Celebration 1981 - YouTube

Joy Division崩壊直後のツアーとかいう考えるのも地獄なやつ。これはそれよりもうちょっと後か。

 ニューウェーブの後にネオアコの時期が来たことで、遂にギターでコードをフォーキーに弾きながら歌うことが許される世の中になった…んでしょうか?ともかく、そういうことをしやすくなったのは間違いないはず。

The Weather Prophets - She Comes From The Rain - YouTube

 機材的な観点から言えば、この時期ではU2も決して外せないバンド。そう、付点8分ディレイとかいう歴史的発明をしてしまったこのバンドのお陰で、ディレイはエフェクター界でも花形のひとつとなったと言っては過言だけどでも大いに貢献してるはず。リズムギターに新たなあり方を提示したことは間違いない。

U2 Live - Where The Streets Have No Name (Rattle And Hum) - YouTube

やっぱこの曲のギター入るところクソかっこいいっすね…。ギターボーカルじゃねーけど。

 一方で、80年代は2010年代のシティポップに繋がる、ファンクで「ギターバンドに取り入れることが可能な」ギターカッティングの開発が進んだ年代でもあります。ファンクとAORが入り乱れていく時代。代表者をはっきり言えば、Princeと山下達郎

Prince - Raspberry Beret (Official Music Video) - YouTube

流石に当時のショウ感全開なライブではプリンス本人ギター弾かないですね…。

Tatsuro Yamashita LIVE // 動く山下達良β - YouTube

いつの間にか山下達郎インディバンドの人たちから神聖視されまくる時代になってた。鉄壁のファンクネスによるライブは音源とは違った具合に精緻だからすごい。

 

◯90年代

 80年代終わり頃からの、後に「オルタナティブロック」のジャンル名でくくられるバンド達の興隆によって、ギタープレイがよりざっくりと、かつこれまでになく破壊的なサウンドに進化していく時期。おそらくこの時期のせいで、多くのギターボーカルも足下を色々揃えないといけない羽目になっているんだと思います。

Sonic Youth - Dirty Boots (1992/11/20) - YouTube

サーストン・ムーアも、ギターボーカルだけどリードギタリストっぽくもある…。

Dinosaur Jr - The Wagon [5-21-92] - YouTube

この頃のJマスキス結構歌に力が入ってるんだなあ。

 何より、大量のエフェクターによってギターの音の壁を幻惑的かつ破滅的に構築する、シューゲイザーというジャンルが出来てしまったことが、その後のギターボーカルを、元来そんなに持たなくても良かったはずのエフェクターを沢山持たざるを得ない状況に陥らせたのではないかと思います。ある種のギターボーカルにはリバースリバーブが必須なんていう状況とは一体…。

My Bloody Valentine - "When You Sleep"[LIVE] 8/23/13 Keven Shields Shoegaze Primal Scream Ride - YouTube

エフェクター業界にとっても神様であり、かつ相当数のギタリストを金欠へ追い込む諸悪の根源。

 ブリッドポップとかで「エフェクトとかなしにギタージャカジャカすりゃいいやん」って空気もあったはずだったけれども、しかしながら結局Radioheadとかいう化物ギターロックバンドが天下を取ってしまった訳で、やはり憧れるしか無いギターボーカルは機材を買わない訳にはいかない…。

Radiohead - Planet Telex (1997 Belfort) - YouTube

レディへとかギター3人もいるのになんでトムの機材も結構ゴツいの…。

 

◯2000年代

 90年代終盤の「みんなメロディアスなU2」時代からThe Strokes以降のガレージロックリバイバルでようやくエフェクターから解放されたか、と思ったらその後のニューウェーブリバイバルではBloc Partyみたいな感じで新しいオルタナギターヒーローが出てきたりする。

Bloc Party - Hunting For Witches LIVE @ Glastonbury 2009 [HQ] - YouTube

 視線をUSインディーに向けてみると、こちらもこちらでニューゲイザーだとかドリームポップとかで、シンセならともかくギターであれば、相応の音を出すためのエフェクターが必要になりますよね…という状況。特にDeerhunterの、ブラッドフォード・コックスの存在はとても致命的。この人のせいでゴツいピッチシフターを買った人結構いると思うんですよ…。

Deerhunter - Never Stops | Live in Sydney | Moshcam - YouTube

ピンボーカルのこともそこそこあって、そうなるとなんかさみしい…。

 2000年代に入るといよいよ音楽の流れが細分化してしまうし、シンセとかチェンバーポップとか増えてくるし、そもそもUSインディ満足に追えてない人間だしで、更に2010年代になるともう何がなんだかだしなので、この辺でこの項目を終わらせます。

 

次回、リズムギター(又はギターボーカル)にはどんな機材が要るの?編へ続きます。収拾付けれるんだろうかこの記事…。

*1:ナイル・ロジャースのカッティングがどうのこうのとか、そういうのを話したい訳ではないのです今回のこれは

*2:ポジションとしての「リードギタリスト」「リズムギタリスト」と、プレイとしての「リードギター」「リズムギター」が別個にあって必ずしもぴたっと重ならないところがこのややこしさの原因のようです

*3:と、このレベルでも許されるためには先進的で優秀な曲を書く必要があるという絶望的なやつもくれる