ブンゲイブ・ケイオンガクブ

本を読まない文芸部員と楽器を練習しない軽音楽部員のような感じのブログ。適当な創作・レビュー等々。

ギターロック10選(前編)

f:id:ystmokzk:20180909042516j:plain

 そもそもギターロックとは何ぞや。検索してもWikipediaの記事すら出てこない。大体ロックという音楽はギターを使うのが普通なんだからロックは概ねギターロックなんじゃないのか。それにギターロックが創造的だった時代なんてとうに終わってしまって今やR&Bやヒップホップの方が刺激的で云々・・・。

 上記のあれこれ全てどうでもいいので、ひとまず自分がこれはギターロックだなあ、いいギターロックだなあと思うものを10曲、選んでみましょう。選んでいるうちに、とりわけ“ギターロック”というタグを付けたくなる音楽が、そうではない音楽と具体的にどう違うのか、なんとなく見えてくるかもしれない。その差異の向こうの何らかの情緒が、規律が、衝動性が、きっとギターロックという概念のフォルムなのでしょう。

 正直なところ、隠れた名曲なんて1曲たりとも出てこない、実にありきたりな、逆に言えば王道を突っ走らんとする選曲を前半と後半で合計10曲、年代順に列挙していきます。

 

 1.『September Gurls』Big Star (1974)


Big Star - September Gurls

 まず、所謂狭義の“ギターロック”の始まりをどこからか考える。日本で言われるところの典型的なギターロックというのは実際的に、“オルタナティブロック”のとりわけ90年代的なそれとかなり近いイメージがあって、実際はその辺が最初なんじゃないのかなーとか思うわけですが、それでもしかし物事には何にでも先駆することがありがちで、ギターロックにおいてもそれは例外じゃない。先駆者として、The BeatlesやThe Bryds、The Who、またはThe Velvet Undergroundなどの60年代の伝説的ロックバンドの名前が挙がることだってあるでしょう。そういう要素は確かにあるでしょう。

 しかしここで挙げるものはより典型的に、パッと思い返して「ああこれはギターロックバンドだなあ」と思えるバンドにしたい。そこで真っ先に出てきたのが、ギターロックに限らずインディロック界においても偉大なる先駆者としての名をほしいままにするBig Starのこの曲*1

 仮にこの曲をTeenage Funclub辺りが歌だけ録音し直して新曲として出したとして、知らない人が聴いたら普通にTeenage Funclubの新曲としか思わないかもしれない。ここにはそういう類の、どこか牧歌的な雰囲気のする、陽の存在を感じる具合のギターロック的な情緒が確かにある。時代が早いのでいささかギターの音が現代的なクランチサウンドとは異なるけれども、しかしながらそのコードストロークのアタック感がサウンドの中心に据えられた構造は、ギターロック的な快楽性を確かに宿している。ゆったりとバタバタするドラムもいい具合にインディ的で最高だ。間奏前後のコーラスワークなんてモロにTeenagge Funclubだぜ…。

 あまりにギターロック的に先駆過ぎたためか、思いの外本人たちの見た目はギターロック的でない(ハードロックみたい)かもしれないけれども、この1曲は自分がギターロックを想定するとき、とても重要な1曲だと思ってる。

 

2.『Marquee Moon』Television (1977)


Television - Marquee Moon

 Televisionもまた、どこか時代性を超越したところのあるバンドだ。こちらに至ってはバンドの音のいちいちが、特にギターのトーンなど、やたらと現代的にさえ聴こえる*2

 それにしてもこの曲における2本のギターの掛け合いは本当に高度で、立体的。コードを掻きむしる側のギターと、神経質的なフレーズを弾き続ける側のギターとのコンビネーションの妙は、かつての60年代ビートロック勢とは遥かに次元が異なり、またしかしながらブルースロックの感覚とも、またプログレ的な豊穣な過剰さともはっきりと異なる、不思議な潔さと殺伐感とがある。この曲の世界観をこそ理想として作られたと思わしきギターロックの名曲は時折あり、Sonic Youth『Rain on Tin』やらWilco『Impossible Germany』やらがその代表どころか。

 ロックの教科書においては、パンクムーブメントの中のバンドのいひとつとして紹介されがちなTelevision。仮に今の人がGreen DayだとかメロコアとかみたいなイメージでTelevisionを聴いたら、Ramonesとかよりも遥かに困惑する気がする。早すぎたポストパンクとも呼べそうな気もするけども、ポストパンクのバンド群と較べるとずっとバンド的なバタバタ感が感じられる。個人的には、彼らもまた"他にしようがないので”ギターロックとタグ付けしたい(そっちの方が色々と都合良く感じる)バンドのひとつ。

 

3.『Freak Scene』Dinosaur Jr. (1988)


Dinosaur Jr. - Freak Scene

 これぞ、これこそギターロックでしょ。USオルタナの代表的バンドのひとつ、Dinosaur Jr.の、インディ最後の作品『Bug』の冒頭を務める、オリジナルメンバーのギリギリのバランス感と以前の作品から妙にハイファイになった録音とから産み出された、最早エヴァーグリーンとさえ言っていいだろうギターロックの聖典のひとつ。

 たいしてサビらしいサビも無い、むしろグダグダ気味な構成で、しかしここまでギターロック然とした名曲たりえているのは、この曲がひたすら“ギターをかき鳴らすことの快楽性”を、手を替え品を替え表現し続けるからだろうか。冒頭のギターストロークの歯切れのいい歪みから、最初の歌が終わった後のダビングされたギターカッティング、低音を荒くグジャグジャ弾いた後の澄み切ったトーンとの往復、さりげなく挿入されるアコギの涼しさからまたエレキギターの圧が噴出する様、荒々しくもぶっきらぼうにメロディアスで衝動的なソロパート、そしてブレイク時の残響のゆらぎに至るまで、この曲はギターロックがすべきギタープレイを概ね網羅している感じさえある。歌のメロディもやる気なさそうに見えて実はとても甘美だけど、この曲の主役はやはり“ギターロック”なんだと思う。

 オルタナ時代のギターロック作家兼ギターヒーローのひとりとして活躍した彼ら(というかJ Mascis)だけど、この曲が自分は一番好き。次の曲とともに、聴いてるとどうも居ても立ってもいられなくなる。

 

4.『Teenage Riot』Sonic Youth (1988)


Sonic Youth - Teenage Riot

 これまた至高!この曲はもうなんでもいいからこのPV見て、この映像のThurston Mooreのギターロックそのものな佇まい、「ギターによる焦燥音楽、それ即ちROCK」*3を体現しまくったその過剰な荒ぶり具合*4と、そのサウンドフォームがあまりにガッチリ合いすぎてて尊い・・・。

 Sonic Youthは元々現代音楽*5畑からの出自で、不協和音だとノイズだとかといった、難解なイメージが付き纏うけれど、少なくともインディ時代の『EVOL』くらいからは楽曲は幾らかのポップさや、ロックンロール的な機能が楽曲に備わるようになり、特に『Teenage Riot』はそんなポップさ・キャッチーさが特に前面に出た楽曲。Sonic Youthの場合、グランジ的な歪んだギターをべったりと演奏するような場面は実際は相当限定され*6、変則チューニングギターのクランチ気味なカッティングでリフを反復させるパターンが多いが、この楽曲はその典型。

 Sonic Youthのこういう楽曲でのドライブ感は、なかなか他で聴くことのかなわない、独特の存在感のあるものだった*7。自分は遂にライブを見れずに実質的な解散状態になってしまったけど、果たして・・・。

 

5.『Pictures Of You』The Cure (1989)


The Cure - Pictures Of You

 正直この楽曲は典型的なギターロックからは外れるし、そもそもThe Cureというバンド自体が典型的なギターロックバンドという訳ではない*8。だけど今回このリストにこの曲を入れたのは、「後のオルタナ・インディロックのバンドたちがこぞって彼らへのリスペクトを表明し、楽曲に反映させたため、後天的にギターロックバンド的要素が彼らに付与された」ことによることを意識した。

 キャリアも長く作風も様々なThe Cureの歴史の中でそれでも割と共通していることが、ギターの音にはしょっちゅうコーラスのエフェクトがかかっていること。コーラスによって僅かに揺らされたギターサウンドは、緊張感のある楽曲では奇妙さを加味し、またこの曲のようなメロディアスな曲では透明感・幻想性を醸し出す。このギターのサウンド作りこそ、彼らがリスペクトを受ける際に真っ先に真似される点のひとつ*9

 言い換えれば、The Cureの奇妙でファニーな精神性がオルタナティブロック的だと見なされたのだとしたら、その妙な揺らぎの部分の音楽的象徴がこのコーラスギターサウンドなんだと言えなくもない。それにしてもこの楽曲の美しさ、そして収録されたアルバム『Disintegration』の一本芯の通った深刻で深遠な雰囲気は堪らないですね。。。

 サウンドの件では、同じく「非ギターロック的な音だけど、後進からのリスペクト(パクられ)具合から」U2の『Where The Streets Have No Name』も取り上げようとしたけど、10曲という縛りがキツかったので外しました。

 

 後半に続きます。

*1:この記事を投稿する今現在が9月であることもある

*2:むしろ逆に現代のバンドが理想の音としてたとえばこの曲の音色を求めてるからかえってそう聴こえるだけなのだと思う

*3:これはNUMBER GIRL『透明少女』のPVに出てくるフレーズ。この曲のPVにもSonic Youthはちらっと出てきますね

*4:当時既にそこそこキャリアがあったはずなので、タイトル共々、あえてキャッチーな衝動性の高い感じを狙ってやってたのかも

*5:“現代音楽”という語の“現代”の部分って、ニューウェーブとかオルタナティブロックとかと同じ程度の意味合いだなあと、最近気付きました

*6:この辺りがNirvana辺りからグランジ繋がりでSonic Youthを聴きはじめるときにしっくり来なくなる原因の一端かも

*7:変則チューニングだしね

*8:後年になるとオルタナ勢から評価されたのを逆輸入したのか結構ギターの音とかがオルタナ化しますね

*9:かつてMogwaiのメンバーが「コーラスなんてエフェクト、The Cureじゃないと使わないよ(笑)」などと暴言を吐くくらい。