ブンゲイブ・ケイオンガクブ

本を読まない文芸部員と楽器を練習しない軽音楽部員のような感じのブログ。適当な創作・レビュー等々。

『Yankee Hotel Foxtrot』Wilco(2/12 Kamera)

 全11曲入っているアルバムの、2曲目です。軽快な曲ですね。

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Yankee Hotel Foxtrot

Yankee Hotel Foxtrot

 

Yankee Hotel Foxtrot

Yankee Hotel Foxtrot

 

2. Kamera

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前書き

 前曲と打って変わって、しっとりと落ち着いたフォーキーな楽曲。そんなに前振りを延々と書かないといけない感じの曲ではないと思うけど、このアルバムにあってはこの曲こそ2曲目が相応しい、『War On War』よりも『Heavy Metal Drumer』よりもこの曲こそこのアルバムの2曲目でしょう!っていう。必然的な感じさえします。

楽曲精読

 アメリカンロックを解体し尽くして、最後に断末魔のような余韻を残した前曲から、この曲のアコギとドラムが単調かつ軽快に登場する、そのオーガニックな様を聞くと、その光景の切り替わり様にホッとする。

 このホッとする感じが静かに終始続いていくのが、この曲の特徴だろう。アルバム中では間違いなく一番大人しく、一番何かエグいことが起こったりしない曲だろう。この曲無しで1曲目から『Radio Cure』に直接繋がっていたら、きっと多くの人がこのアルバムを単に陰鬱なアルバムだと勘違いしがちになってしまっていたかもしれない。

 この長調なフォーキーさ、何も無い日の春の日差しのような、そんな長閑な雰囲気はまた、いい具合に単調で、程よい最小限の展開がある。ボーカルも低音・ファルセット込みで多重に重ねてあり、メロディの抑揚もなだらかで、囁くような感じである。本アルバムの特徴の一つに、複雑なコードチェンジ等はそんなに見られないことが挙げられる。それは楽曲の作りをシンプルにする方向に働き、そしてコード自体の濁り気・粘り気を極力なくすことで、オーソドックスで清潔気味な8ビートのバンド演奏以外の要素が混入した時の“効果”がより際立つ仕組みになっている。

 およそ最初に新しいメロディラインに移行した辺りから、遠くでシンセのオブリガードが挿入されるようになる。1コーラス目が終わった辺りから、前曲でもあった、缶か何かをを叩くような不思議なパーカッションが挿入される。そしていつの間にか、ミミズのようなノイズも楽曲に混入されていく。このアルバム、こんな平穏な曲でもこういう違和感要素はちょこちょこと適用していく。それでも、この曲においてはちょっとした不思議SE程度に留まっており、大勢には影響しない。

 間奏から後の最後の部分はこの曲の特に可愛らしくも気の利いた部分で、追っかけ式のコーラスが楽しい。メロディを歌いきった後は、ひたすら同じコードでの展開が続いていく。この曲が穏やかな表情のまま『Yankee Hotel Foxtrot』していくのはここからで、段々と楽器・旋律が増えていき、やがて妖精のようなビブラフォンめいた音が同じコードの中を反復していく様は、このアルバム的な美しさに溢れた瞬間の一つだと思う。柔らかい陽の光が乱反射してるような、理想的なギターポップ感かもしれない。

 「たたん、たたたんっ」って感じに軽快に小気味よく・行儀よく終わる感じも可愛らしさがある。次の曲がまた陰鬱気味な雰囲気で始まるものだから、この破綻しない終わり方がとてもすっと来る。

 

オルタナティブ・バージョン

 そういえばこの曲は、全然フォーキーじゃない、どころか相当にパンクめいた、オルタナティブ・バージョンが存在する。2014年に出た4枚組レアトラック集『Alpha Mike Foxtort』に収録されたバージョンは相当にハードでノイジーに歪んだギターで平坦に突き進んでいく、中々にストレンジでパンクなアレンジ。元々はこういう風にロックな位置付けの曲だったんだろうか。何故かタイトルは『Camera』となっている。

 それで、今回の記事のためにYouTubeを漁ってたらこんなバージョンも出てきた。ギター歪みまくりなのは同じだけどこっちはよりテンポが遅い。

 もしかしてこの曲、根本の方向性の部分で意外と色々迷いまくった曲だったりするんだろうか…。

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歌詞

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ぼくにはカメラが必要だ。ぼくが思うに、きっとそうだ。

きっと思い出すことだろう。

ぼくが隠し通してきた嘘がどんなだったか。

そこにどんなエコーが含まれてたか。

 

それがどんなに遠いか分かるべく、日々を数えてきた。

ぼくの心の中のエコーとともに、暗闇の中を彷徨っていた。

 

家族に電話する。そして電話越しに言うんだ。

「歩道で道に迷っちゃった。ああ、まともじゃないさ、畜生」

 

ぼくはカメラを壊してしまった。

どうしてそんなことしたのか知りたいよ。

ぼくが思うに、それで決まってしまったんだろう。

ぼくが隠し通してきた嘘がどんなだったか。

そこにどんなエコーが含まれてたか。 

 

ぼくは心というものをすっかり当て込んでしまっている。

記憶が歪みきってしまうようなこの戦争を過ごしてくためにも。

 

家族に電話する。そして電話越しに言うんだ。

「歩道で道に迷ったぞ。ああ、まともじゃないよな、畜生」

 

ぼくは数えてきたんだ。

みんなどんなに遠いかまるで知らないんだ。

道に迷ってるって言おう。愛も正義も幸福もみんな暗闇の中だ。

道に迷ってるってことだろう。ぼくの中にエコーはあるけども。

道に迷ってるっていう感じだ、この感じは。

 

家族に電話する。そして電話越しに言うんだ。

「歩道で分からなくなったよ。ああ、まともじゃないさ、畜生」

「まともじゃないだろうな、畜生」

「まともが分からないな、畜生」

 

 正直、センテンスが短いことと、文章の繋がりがとても英詩的で中学生英語力の筆者にはさっぱり分からない部分も多かったのと、そして繰り返しが多かったので、非常にざっくりとした意訳になってしまっている気がします。正確性どころか、色々と翻訳した人間の気分が出ている気がするのはご愛嬌。

 参考にした英語の歌詞サイトによると、この歌詞における「エコー」というのは“嘘の中でそこから導き出される真実のこと”みたいな解説(解釈?)があって、そういうものなのか、と思うと、こんな訳になりました。このアルバムの歌詞の主人公は、大抵自分の正しさとかに激しく自信がなくて、日々の暮らしの中で彷徨っている感じがするな。

 「記憶が歪みきってしまうようなこの戦争」の箇所は今これを訳してて思ったけど、なんというか『War On War』以上にこのアルバム製作後に起こる911から先のことを不吉に予言してしまっている気がしてならない。こういうの、歌詞を書いた本人たちが一番怖く感じるんじゃなかろうか。

 

楽曲単位総評

 総じて、とても中庸な、その中庸さこそに全てを賭けたような楽曲。オルタナティブ・バージョンの様相を見るに、もしかしたらこの中庸なアレンジは、アルバム全体の録音作業が進んでいく中で、他の楽曲との兼ね合いを考えたら、こういうオーガニックな感じの曲が1曲必要だ、ということになって、中庸なメロディを持つこの曲に白羽の矢が立ち、方向転換して進められたものなのかもしれない。

 その方向転換が的確だったか、アルバムの流れ的にも、2曲目がこれというのは非常に有効。この地味さが、変にキャラの立ってる1曲目と3曲目の間にて発している効果は非常に大きいと考える。リードトラックになったりするようなスター性のあるキャッチーさは殆ど無い(むしろ徹底的にそういうのを削いである印象)けれども、だからこそこの位置にて爽やかさだけをスッと差し出してくれる、そんなさりげなくありがたい曲。曲の長さもなんかちょうど良い感じ。アウトロの長さもこれ以上短くても寂しいし、長くても退屈だったかもしれない。色々と絶妙だと思う。

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