ブンゲイブ・ケイオンガクブ

本を読まない文芸部員と楽器を練習しない軽音楽部員のような感じのブログ。適当な創作・レビュー等々。

2019年前半の音楽アルバム9枚

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 今年の前半が終わりましたね。平成もついでに終わったし、令和になってめでたいことは特にないし、何が令和だよ。個人的には色々と停滞して欲しくないところがすごく停滞して惨めになった半年でした。音楽も4月以降はムーンライダーズばっかり聴いてたし、今年の新譜〜って気分にもなかなかならなかった部分があったんですが、色々と姿勢を正してみると、一応こんな感じで9枚提示することとなりました。

 今回はもう最後に総評とかしないでサクッとやりますので、逆にここに総評書くんですけど、洋楽5枚・邦楽4枚。洋楽5枚が全部白人男性。こんなのポリコレ的に許されるんですかね…という不安を抱きながらも、しかしながらロックバンド中心で洋楽を聴いているとなんか、どうしてもこの層に偏ってしまう…。R&Bとかジャズとかになれば黒人バンドも出てくるかもだし、ラテンとかそういう方向もあったんかもですが、自分の趣向がそっちに向かない限りは、こんな風になり続けるのかなと。いくらでも石を投げつけてくれればいいんだと思います。あっでもリアル投石は物的損失がデカいから勘弁。

 あと、Spotify課金デビューしました。Apple Musicも継続していて、結局スマホで新譜探すのはApple Music、PCではSpotifyという謎の使い分け。スマホで扱う分にはApple Musicの(というかiTunesの)インターフェイスに慣れ親しみすぎている。

 Spotify始めたので、今回の9枚による推し曲プレイリスト作りました。参考になるか知りませんけども良かったらぜひ。

 あとはいつものように、各アルバム毎の短評を書いていきます。順番は単にA→Z、及びあいうえお順ですので順位とかないです。あしからず。

 

『Shepherd In a Sheepskin Vest』Bill Callahan

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 こういうのを年間ベスト的なやつに入れること自体なんか自分ヤキが回ったんと違うの?という感じもします。
 すごくシックなフォークアルバム。元々は90年代に(Smog)名義でローファイのアーティストとしてキャリアを始めた(こんなのとかこんなのとか)はずが、どうしてこんなにジェントルで渋味の濃厚な音楽をやっているのだろう。人間のキャリアって不思議。
 豊かな低音が、繊細なアコギワークの中ではっきりと主軸を成している。飛び道具的な装飾はアルバム冒頭のイントロくらいで、質素で淡々とした演奏がひたすら続いていく。盛り上がるかどうかとか、面白いかどうかとかとは全然違う世界において、今彼は音楽をしているんだと思うと、その人生の選択の仕方と現在の姿とに何か考えてしまう。そのどことなく田舎的で、しかも温もり等を感じさせない、漠然さと凛とした感じとが並び立つ感じに、Nick Drakeが歳を重ねてたらこんな感じになってたんだろうかとか、そんなことも考えた。

 

『Let's Rock』The Black Keys

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 これは素晴らしく正面突破なロックアルバム。正直The Black Keysの音楽をこれまで全然聴いたことなかったけど、今作はギターロックをしたり考えたりする上でも、色々な示唆に富んでると思った。
 ポイントは、ギターの音の荒々しさに比べてボーカルが非常に冷静なこと。シャウトなど無くてもロックは出来るんだなと、むしろ常にアンニュイ気味な歌い方やメロディも含めて、何か乾いた艶っぽさが発されている。
 特に中盤入ってくらいからの落ち着いた曲調が続いて行く流れが好き。ギターのリバーブ具合がきっちりコントロールされ、連続的にそのエッジを響かせることで、歪んだギターの音ってこんなに現代的に響くもんなんだなと、Alabama Shakes以来に思ったりした。

 

『Why Hasn't Everything Already Disappeared?』Deerhunter

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 この作品のすごくあっけない感じ、とてもDeerhunterっぽいブレイクスルー感があってとても好き。Deerhunterものがたり・ハッピーエンド編みたいな前作からどう展開していくかについて、非常に上手い手だと思った。

 ギターロックの現代化が必要と訴える評論が出回る中で、そんなものと全然関係ない世界で軽やかに毒々しいサイケデリアの羽根を広げるDeerhunterはホント頼もしい。The NationalでもSroonでもAlabama Shakesでもない方法でしてみせるインディーロック。DeerhunterはDeerhunterだなあと。
 キーボードを多用したややクラシカルな作風が、バンドの毒々しい要素に新しい発展を促している。お得意のシューゲイズ的な轟音ギターとの対比が非常に際立っている。この辺の模索で結構時間がかかってリリース空いたのかなと邪推するけど、その時間の分以上の混沌も哀しみも、特に最終曲『Nocturne』にはしっかり刻まれた。壊れかかったロボットのようなロックンロール。それは非常に尊重されるべきジャンルだ。

  大阪で観れたライブもこのアルバムの曲中心のセットリストで、激烈に良かった。ライブだとキーボードの印象は減るけれども。あと、とある曲で「リールか何かが回る音」が繰り返し入っているけど、それをギターを置いてリールを持ってライブで再現するブラッドフォードの訳わかんなさが流石だった。

 

『I Am Easy To Find』The National

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 上で色々書いてるくせに、結局The Nationalを取り上げるのである。完成度めっちゃ高いんだもん。エレキングのめっちゃポリコレの話に寄ったレビューは、このアルバムを語るにはここまで考え込まないといけないかと、萎縮してしまったけども、でも単純にいろんな女性ボーカルが客演しているのは華やかだし、そこに音程が聞き取れないほどの低音ボーカルを添えるマット・バーニンガーは非常にダンディー

 The Nationalもまた、大名作との誉れ高い前作からやっと聴きだしたくらいの初心者である筆者だけども、この作品のがっつりとしたスケール感は、最早インディーバンドとして振る舞えないであろうバンドならではの責任感をしっかりと果たした上で、優れた楽曲と、時代を勝ち取ったサウンドのダイナミズムとを十全に表現している。静けさ自体にコンセプトなり価値なりがあった前作と比べると、今作の方が幾分かアグレッシブか。アルバム冒頭の混線したみたいなギターサウンドは刺激的だし、そこからストリングスとピアノで彩られた展開にサッと切り替わるのは(少々クサいにしても)ロマンチックで優美だ。そしてドラムはそんなアグレッシブな楽曲でひたすらドスドスと鳴る。

 それにしても、16曲で1時間越えのボリュームはなかなかに重い。『Not In Kansas』『So Far So Fast』と6分超えの静か目な曲が続くところが一番重要なんだろうけれどもちょっとタルいところから、数曲を経て、そしてアグレッシブで明るい『Rylan』で一気に持っていく終盤の曲順が爽快で好き。

 

『I Also Want To Die In New Orleans』Sun Kil Moon

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 結局こうやってSun Kil Moon(=マーク・コズレック)の超傲慢なつくりの作品をリストに入れてしまう自分がやはりヤキが回った感ある。7曲90分とかいう、1曲につき10分以上あって何がいけないの?と言わんばかりの傲慢なアルバム作りは、自分のようなリスナーがいるせいで許されてしまっているのだろうか。
 いや、この作品は意外と、その1曲10分以上の持ち時間を使って、1曲の中で思いのほか色んな場面を見せてくれる。陰気な展開がひたすら続くのかと思うと、突如思いもよらない眩しい展開をしてみたりする。前作がひたすら同じフレーズを延々ループさせる傾向が強かったことを思うと、今作のマーク・コズレックさんは意外とサービス精神あるのではとか思っていたら最後の曲が23分で、それでもアルバムで一番ポップで案外いけるやん!って思ったら…な感じだけども。あと全体的に、意外と土っぽくフォーキーな感じがやや戻ってきてるかも。「やや」だけども…。
  本当は歌詞も込みで読み込めば、この作品の本当の豊穣さに触れられるんだろうな。私ももう少し真面目に頑張ってはどうかな。。

 

『光の中に』踊ってばかりの国

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 踊ってばかりの国の音楽性って最早単純化した表現ができんよなー困るよなーっていう感じ。ここのインタビューでもインタビュアーがそんなことを言ってる。

 『Songs』以降、このバンドは大きく変わった。ソングライティングが格段に向上し、歌の強度とそれに沿ったバンドサウンドで勝負していくバンドになった。昨年のアルバムを実は知らなかったので恥ずかしいのだけど、メンバーチェンジ等あってオリジナルメンバーが下津さんだけになりながらも、その基本線はブレていないどころか、より強靭になっているのかも、という印象を受けた。元々ベースにしていたカントリーとサイケデリアが、今作でも巧みに援用され、独特さを保ったまま伸び上がる歌を盛り立てていく。理想的なバンドスタイルじゃないか。

 それにしてもジャケットの、この黒一色でこの構図、妙にインパクトが強い。タイトルと相まってなんか宗教じみた雰囲気を感じた。作品はそんな感じでもなかったけど、しかし妙に宗教と親和性のありそうなバンドではある。

 

『がんばれ!メロディー』柴田聡子

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  バンド編成のアレンジを受け入れて以降の彼女の作品は段々ポップさを増していたと思うけれども、その流れで今作が一番ポップなのかも。1曲目が突然『結婚しました』でしかもいきなり歌から始まるという意表の突起っぷりも、相変わらず自由でニッチな発想力だと思った。自由にはっちゃけた発想力という意味では、意外と大森靖子とかと並び立つ存在なのか。

 バンドサウンドは決してハイファイになり過ぎない。むしろちょっとしたレトロな感覚を的確に忍び込ませるあたりに、今は亡き(?)東京インディーの残り香を勝手に感じてしまったり。でも、『ワンコロメーター』のなんでこの発想が出てきたのかわからん感じや『ジョイフル・コメリホーマック』の唐突になんでそんな発想になるん?な部分は彼女的なカラフルさが出ている。あとジョイフルを馬鹿にするんじゃねえ…!曲はやたら綺麗だけども。

 ライブが観れなかったけど、柴田さんのギターのセッティングが、エフェクターがファズフェイスだけとかいう「ヤバい女」感全開のやつだったらしく、観ときたかった…。

 

『HOCHONO HOUSE』細野晴臣

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 こんな歳になられてから、ここまで踏み込んだ作品を作るか!という、若手泣かせも甚だしいであろう作品。ジャケットの現在の写真を使ったと思われる箇所がひたすら鋭い。

 素材の選択、調理の方法、その組み合わせ具合が非常にアクロバティックな上、絶妙な緊張感を放っている。細野さんの代表作にしてソロ初作『HOSONO HOUSE』の全曲を「宅録で」リメイクするという離れ業。そしてそのトラックの作り込み方。まさかのアンビエントR&Bの援用という、そもそも日本でそれをやってる人自体少ないだろう荒技を、しかも彼の作品で最もポップでアーシーなこれにかましてしまう、ショートケーキにワサビをかけるような一件破滅的な行為を、こうやって優れて音楽的な作品に昇華してしまった、その想像力と技量にひたすら圧倒される。

 圧倒された上で、この素晴らしい作品が「宅録」という手法で作られたことに、「細野晴臣」という巨大な才能の寂しさを感じた。ポール・マッカートニーが一人で全部録音した作品の方が素晴らしかったりすることに感じる寂しさと同等の何かだ。むしろティン・パン・アレー的なメンツで作った温もりに満ちている『HOSONO HOUSE』を、どうしてここまで一人で「冷たい」感じのする音楽にしてしまったのか。まるで、すっかりみんなの音楽となっていた『HOSONO HOUSE』を「これは俺だけの作品だよ」と取り返す行為に思えて、その謎な情熱と寂しさこそが、一番怖いのかもしれない。

 

『Ghosts』ミツメ

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 ミツメがついにやった!と思った。『エスパー』も『セダン』もめっちゃポップな曲で、そんなのをシングルに切った後の満を持してのアルバムは、「前作もアルバムになるとかなり地味目だったし、今回もそんな感じかなー」という予想を上手に振り切るポップさに満ち溢れていて、これは本当に何回も聴き返した。

 ギター二本のアレンジに制約されず、シンセ等も相当ダビングされ、音色的にはいつになくカラフル。ギターの音色にしても、煌めくような音色の使用が多々見られ、ギターポップ的な味わいが、いつもの機械的でかつねっちりしたミツメなグルーブと絶妙に絡まっている。歌も「演奏の添え物」に徹しがちな普段のミツメスタイルから脱却し、楽曲の展開をリードしていく存在になっている場面が多数となっている。「スピッツフォローワーとしてのミツメ」とか「ミツメ本体よりもミツメフォローワーの方がポップ」とか言ってたあたりが全て回収されてしまってる。そんな具合でありながらも、各楽曲のカラーとしてはジャケットのような曖昧で、どこか空白めいた雰囲気をはみ出さないところに巧くまとまっている(『エスパー』だけややはみ出気味かなあ)。

 ライブもとても良かった。ライブではギターのマッシブさが3割増しになって、ミツメってこんなにギターバンドなんだなーって思わされる。その辺の音源とライブのギャップは、意外と上記のDeerhunterに近いかもしれない。

 

 以上、上半期でした〜。下半期はもうちょっと頑張りましょう私。