ブンゲイブ・ケイオンガクブ

本を読まない文芸部員と楽器を練習しない軽音楽部員のような感じのブログ。適当な創作・レビュー等々。

2019年前半の音楽アルバム9枚part2

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 最近後付けで記事を増やしてる気がするこのブログ…。

 

 前回の記事の続編です。というよりも、前回の分以外で新たに9枚選んだという感じです。前回の方が順位が上な感じは否めませんが、中には素で忘れてた…系もあります。

 例によってアルファベット順。今回はあいうえお順の分は登場しません。そしてサムネ画像で盛大にネタバレしてるから速攻Spotifyのプレイリスト貼るのも前回と一緒。

 

『Gallipoli』Beirut

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 世界の放浪というバッグボーンを元に大袈裟に旅情を掻き立てるタイプのBeirutが帰ってきた!という感じの作品。前作『No,No,No』はコンボサウンドが新鮮だったけどいかんせん地味目だったもの。それでも『The Rip Tide』ほど派手でもないけど。

 ここでのインタビューによると「以前働いてた映画館の古いオルガンを持ってきたことからレコーディングが始まった」とか、どんだけドラマチックなんだよ、どんな世界を生きてるんだよ、と思いもしながら、しかしこの人たちの音源で聴くトランペットの音は、たとえば自分と同い年くらいの日本人が多分に幼い頃に何度か聞いて耳に染み付いてしまったラピュタの序盤のシーンのトランペットののような、優雅さと勇敢さとを併せ持った響きをしている(ような気がする)。いちいちがそんなだから、Beirut自体がそんな、優雅さと勇敢さを持ち合わせてるんだろうか。

 クラシカルな生楽器ばかりだといいんだけどアレになりそうなところを『On Mainau Island』みたいな電子的で歪んだ存在を忍び込ませてアクセントつけるのも流石の手腕。というか前作でのコンパクト感も踏まえた節があって、割と集大成的な作品であるらしい。


『(Same Title)』Better Oblivion Community Center

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 昨年のフィービー女史への注目は何だったのかと思うくらい無風だったような気がするこのコナー・オバーストとのコラボユニットの作品。サプライズリリースだったからか、非フィービー的なカントリーソング集だったことがアレなのか、コナー・オバースト分が結構多いのがアレなのか(失礼な)。
 確かに作品としては、キリキリしたような感じや、霊的な美しさとかはそんなに感じられない。感じられるのは、アメリカの風土に立ち、風土の香りを存分に吸い取った、オルタナ化したカントリーロックの乾いて単調に煤けた響きだ。この「乾いて単調に煤け」ていることがアメリカンロックの風土において非常に重要なのでは、と個人的に思っているところがあるけれども、センセーショナルではないのかもしれない。むしろコナー・オバースト作品にずっと女性ユニゾンが付く作品、くらいの方が正確な理解かも。

 それでもこの師弟関係は流石にいい曲を書く。フォーキーなリードトラック『Dylan Thomas』のサビ入りの舞い上がるフックはとても堅実にポップだ。

 

『Schlagenheim』Black Midi

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 ロンドンという街からこういうロックバンドが出てきたのは英国音楽の矜持みたいなものを感じる流石ポストパンクやニューウェーブを生んだ国。

 ポイントは演奏の「一直線さ」だと思った。色々な評判を聞いて、一体どんなやりたい放題のサウンドが展開されるんだろう…と、自分の苦手そうな音像を想像していたけれども、聴いてみたら表紙抜けるほどにきっちり構成が詰まっていて、その構成っぷりがキャッチーさに直結している。不穏なサウンドも、ドロドロと巻き散らかす場面は限定されている。リズムチェンジの前も後も直線的なビートで、その直線的な感じはギターのカクカクしたサウンドとも直結しているし、このバンドが表出すべきと考えているであろう「神経質な攻撃性」に的確に結びついている。

 この、キリキリとしててかついい具合にスッカスカな、そのスッカスカさがまた神経を締め付けるような緊張感は、ゼロ年代のポストパンリバイバルの各バンドよりもより強烈に「ポストパンク」を「リバイバル」させているかもしれない。自分はあまりこれをマスロック的に聴けない(マスロック苦手…)なのでこんな文章になりました。

 

『ALL THE LIGHT』GRAPEVINE

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 スピードスター移籍以降のGRAPEVINEはアルバムごとに違うカラーを出そうと努めているように感じるけど、今作もまた、プロデューサーにホッピー神山氏を迎え、彼の積極的なレコーディングへの関与という方法で突破を試みた。その成果が、たとえば『Alright』の派手なホーンセクションの導入や逆に『こぼれる』のアンビエントR&Bを意識した弾き語りといった形で所々表出している。田中の多重コーラスが表出する曲も多い。これまでと異なる感じのスタジオワークが目立つというか。
 ところで筆者は正直なところ、このアルバムの収録曲で言えば『Era』みたいなタイプの曲を軸とした、音響的に込み入ったカントリーロックを軸にしたバインのアルバムを聴いてみたい。『真昼のストレンジランド』『愚か者の語ること』『ROADSIDE PROPHET』などにあるちょっと空気の乾いた異国をぼんやり彷徨うような感覚、それを日本人が演奏することの面白みを確実にこのバンドは有してる(羨ましい)。

 

『This(Is What I Wanted To Tell You)』Lambchop

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 「なんだこれは…?」と思わされた作品としては、今年上半期ではある意味これが1番かも。前作を聴いてなかったのでそういう変化をしているとは知らず、いきなりプリズマイザーでボロボロにケロケロったボーカルに度肝を抜かれる。それでいて、色々打ち込みが導入されていても、曲やアレンジの静かでエレガントな佇まいはLambchopのそれだって分かる作りなのがすごい。

 カントリーミュージックの未来というのは果たしてこういうのなのか。いや、アメリカの本当のカントリー業界はこういう方向のテクノロジーとは無縁だろうし、そもそもポップ・ミュージック/R&Bの業界でもプリズマイザーの流行はもう落ち着いているのでは。となるとこのサウンドアレンジは、純粋にアグレッシブに、自身のシックでカントリーライクなまどろみの音楽を、さらに何か違うものに異化させるための試みで、その結果できる音楽がこのように不思議に穏やかなのが、なんとも逆説的で興味深い。

 

『Remind Me Tomorrow』Sharon Van Etten

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 この人は知り合いから教えてもらった。前作がシックなカントリーロックだったということで評価高い中、今回はキーボードとかシンセとかそういう方向に行って、いいけども随分変わった、と。ジャケットも前作と比べてはるかに混沌としてる。

 こういう「佇まいが既にハスキー」系女性SSW作品で、こんだけ色々サウンドに手を突っ込みまくってるのは、まあ別に無いことないんだろうけど、自分には妙に新鮮に感じた。テンション低い時のBeckのヘンテコなトラックを女性がやってるような感じというか。でもBeckよりもキャッチーで優美なラインは多いかも。気が狂ってる、とまでは全然思わないけど、歌心がいい感じに裏返って聞こえるアレンジの数々は聴いてて面白かった。

 

『Union』Son Volt

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 Son Voltの今回の新譜について特別に筆記を施すべきポイントは特に無い。ジェイ・ファラーは上記Lambchopのようなことはしないし、Wilcoみたいなヒネかたをしない。ただただ愚直に、オルタナ化したカントリーロックを量産し続けてる。

 今作についてそれでも何かを言えば、テンポいい感じの曲はかなり一本調子になりかかってる気がする。それでもいい曲として聴けてしまう自分がアレかもしれない。でも、テンポを落としたトラックなんかは、よりこのバンドが描こうと苦心する「アメリカの大地と空気と太陽」みたいなのが、新鮮味を帯びた上で透けて見える気がして、それは自分がアメリカ人じゃないからそう思うだけのことかもだけど、それでもまあ、この作品を聴いて「なるほど…」と全然思える筆者がいることは確かなんだと思う。

 

『ANIMA』Thom Yorke

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 Radioheadのファンでありながらトムのソロを熱心に聴いてこなかった自分にとって、はじめて複数回聴くことになった作品。生楽器を廃したプロダクションにやっぱソロやな〜ってのを思いながらも、まるでトム・ヨークが「自分がソロでやったらこんなかんじだよ。人生とは何だろう?このシンセの音良くない?」って聞いてきてるかのようなフランクさも、なぜか感じる。その極地が、なぜかことも達の「わぁ〜!」って声が定期的にサンプリングされた『Twist』かも。アレなんなの。

 ここに含まれないタイプのフィジカルさを『A Moon Shaped Pool』にさえ感じていたなと思うと、動かすのが相当大変そうとはいえバンドとはロマンの塊だなあと思ってしまったけど、この正直特に終盤が良く分からんくて神経質さの塊のような音だけど、でも時々ポップにも聞こえるこのアルバムへの愛着はまた別にある。それはもしかしたらトム・ヨークという人柄に対する愛着と区別がつけられていないのかもしれないけど、まあいいか。あとトムのソングライティングはどこまでも8ビートとともにあるなと改めて思った。


『IGOR』Tyler, the Creator

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 なんかこのブログの傾向を思うと、最後に取って付けたように思われても仕方ないな…という感じのチョイスになってしまったかも。

 R&Bやヒップホップに大変音痴な筆者がブラックミュージックに求めるのは「そんな筆者にもこの作品は優しかった」的な情けない部分で、そういう意味ではこの作品はとても優しい。アメリカのポップスの歴史を現代的な黒人R&Bで再構築したような局面が散見されるけど、そンな印象にトドメを刺したのが終盤の『GONE,GONE/THANK YOU』の8ビート。こういう直線的なノリって、いつの時代からか白人音楽に激しく偏る傾向があったと思う。黒人は16ビートで白人は8ビート。もともと8ビートを生んだのは黒人のロックンローラーだったはずなのに。60年代ポップス全盛期のスイングなビートだって黒人によるものだったはずなのに。そう思うと、この曲の軽やかで華やかな感じに、筆者の経験からくるものでは明らかにない類のノスタルジックさが強烈にキて、率直に言ってアガりました。

 

 

 というわけで追加の9枚でした。

 年末の年間ベストでこれら合計18枚以外の上半期のアルバムが入っていても許してください。人は聴き逃してしまう生き物だから…。