ブンゲイブ・ケイオンガクブ

本を読まない文芸部員と楽器を練習しない軽音楽部員のような感じのブログ。適当な創作・レビュー等々。

曲タイトルだけをサビ等で連呼する曲 50曲  part1

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 曲のタイトルを歌詞にどう登場させるか、又は歌詞のどの部分から曲のタイトルをつけるか、あるいは歌詞と全然関係ないタイトルにするか、というのは歌のある曲を作曲するにあたって割とどれかを考えないといけなくなることです。
 そんな中で、曲のタイトルを歌の中でキャッチーなフックとして使う手法があります。個人的には、曲タイトルを連呼しながら他の言葉をくっつけていく作詞は歌詞カードとして読んだ時にちょっと微妙な感じを受けたりもしますが、しかし曲タイトルだけを連呼、となると話は別。歌詞カードには少なくない場合、サビの行とかに曲タイトルの一行だけが並び、その佇まいの潔さは時にクールに感じられます。
 今回はそんな「曲タイトルだけをサビ等で連呼する曲」を50曲集めて、どんな感じなのか、どう有効な感じになってるかを観ていきたいという試みです。段々年代が新しくなっていきます。邦楽も途中から混じります。投稿時間の都合で一度に書ききれなかったので記事を2分割して、このpart1では1960年代〜1990年代までを扱います。

 

はじめに・ルール説明

1. 基本

 サビ等で曲のタイトルをひたすら繰り返すような曲を取り上げます。

 

2. 今回計上しなかった事例

 感嘆符的な「Ooh...」とか「Yeah...」とかはセーフですが、以下の例のようにちょっと意味がある言葉が出てきたら外しています。この条件で幾つもの「これだ!」と思った曲が外れました。

 

今回計上できなかった例:I Wanna Be Your Dog / The Stooges

 歌詞が「Now I wanna be your dog」となって「Now」が入ってしまったり、サビの終わりで「Come on!」という歌詞が入ってしまっている。アウト。

 

つまり、本当に曲タイトルだけを連呼しているものを選んでいます。

なお、この辺の基準が曖昧で「それ言ったらこれもアウトじゃねーか」という曲も混じっているかもしれません。

 

3. 附則

 1アーティストにつき1曲、というか1人の作曲家について1曲のみとしています。バンドが変わっても同じ人が曲作れば似たような感じになったりしますし。あと、このブログの常ですが、ジャンルの偏りがあります。もっとブラックミュージックとかこのパターン多いと思います。あと歌もののテクノとか、ポストロックとかもよく分かってないので全然入っていません。

 

 では本編です。

 

1960年代 4曲


1. I Want To Hold Your Hand / The Beatles(1964)

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 曲タイトルを連呼することの大きな利点は、リスナーに聞かせたいキャッチーなフレーズを連呼する、そのシンプルで強烈な効果でしょう。The Beatlesを世界で一躍有名にしたこの曲はまさにタイトル連呼のサビが強烈なナンバーでした。後に元祖グランジロッカーのような汚らしくも惨めな世界で歌っているジョン・レノンもこの初期の時期はこのように、ハスキーな声質を極めてキャッチーに押し通すことのできるシンガーでした。

 60年代前半頃という、楽曲の造りがシンプルな頃ですが、この曲は改めて聴くとブリッジの一回落ち着いてからAメロに戻る展開が巧みですね。

 

2. I Can See For Miles / The Who(1967)

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 The Whoの数ある楽曲の中でもかなりキャッチーな方のこの曲で、The Whoアメリカのチャートで初のトップテン入りを果たしたとか。サビでドラムがずーっとロールしっぱなしの中延々とタイトルを連呼しまくるのは相当キャッチーでかつアホっぽいけれども、これはレコーディングの際にドラムまでダビングして音を凄くしてしまったせいでライブ再現が困難で、全然演奏されなかったといいます。

 The Whoが純粋にアホっぽい感じ全開のシングルを出してたのはこの頃までで、この曲の入ったアルバムの次のアルバムが“世界初”のロックオペラアルバム『Tommy』になります。

 

3. Break On Through(To the Other Side) / The Doors(1967)

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 ジャズチックなムーディーな出だしから、タイトルコールで一気にロックなビートで突き抜けるのがこの曲の魅力か。このタイトルコール部分だけ見たらパンク的で、後年パンク以降の時代にジム・モリソンが尊敬を集めていたのはこういうわけ分からん感じのパワーの突破力を感じたのもあったのかも。あと基本的に暗黒の空間を感じさせるコード感とか。あと括弧( )まで使ってサビのフレーズを無理やり全部タイトルに含めさせるのもパワーを感じさせます。

 

4. Somebody's Watching You / Sly & The Family Stone(1969)

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 スライの中でもとりわけ力強くもキャッチーな曲が数多く入ってるアルバム『Stand!』の中でも一際洒落たムードのこの曲もタイトル連呼がキャッチー。コード的にはやや怪しい不穏なコードなのに、このフレーズの連呼でキャッチーでしなやかに仕上がっているところがとても格好いい。サニーデイサービスが幼稚園ライブのミニアルバムでこの曲をカバーしてますが、その時の歌詞と比べると原曲は遥かに状況が剣呑で、しかしタイトルコールには意味深さと優しさが入り混じって聞こえます。そしてこの曲のブラスの使い方はスイートソウルのお手本のような感じ?

 なお、上にも書いたとおりブラックミュージックは個人的にちゃんと聴けてないので、これ以降そんなに出てきません…。あと、最初は『Family Affair』をこのリストに入れようとしましたけど「It's a family affair」って歌ってるので残念だけど外しました。今回このルールはそこそこ厳格に適用しています。

 

1970年代 10曲

 

5. Helpless / Crosby,Stills,Nash & Young(1970)

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 ザ・単調な曲ながらCSN&Y、のみならずニール・ヤングの代表曲とさえされているこの楽曲のキャッチーさを支えるのがこの、分厚いコーラスで歌い上げるタイトル連呼にあることは間違い無いです。みんなで「救いがない、救いがない」と連呼している光景の、しかしながらその歌う光景がとてもハートフルに思えるところがまさにニール・ヤング的な皮肉さを感じさせるところ。

 1回目のサビではニールが何やら他の歌詞を歌っていますが、2回目以降は素直にタイトル連呼に混ざっていくので安心。あと、シンガーソングライターは歌詞で個人的な感じで魅せる、みたいな感じがあるので、タイトル連呼とは縁遠いように思えますが、このように探せばあります。

 

6. Bang A Gong(Get It On) / T.Rex(1971)

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 グラムロックの象徴的楽曲であるこの曲もタイトル連呼ゴリ押しなキャッチーさを生かした楽曲。何気にAメロの伴奏のギターの荒そうに見えて丁寧にリズム取るブギーなギターがとても気持ちよく、そこから急に調子変えてタイトルコールになるのはファニーで妙に楽しげなノリを生んでます。コーラスを重ねて大げさにしてるスタジオバージョンの方がタイトルの強調は強いかも。ライブも意外と勢いあるけど。曲構成のシンプルさとかはパンク的にも感じたり。そしてまた括弧( )を駆使して無理くりタイトルにサビフレーズを収める手法。

 

7. Pink Moon / Nick Drake(1972)

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 タイトル連呼はキャッチーさを生むのが基本で、そのキャッチーさを求めて使用されるのが一般的だと思いますが、しかしながら時にこういう例外も。ニック・ドレイクの遺作アルバムのタイトル曲であるこれは、曲タイトルが低音ボーカルで怪しくも陰気に呟かれて、まるで聞き手ごと深い忘我の夜の淵に誘うかのような、寂しくも妖艶な響きがあります。このタイトルコールの後に入ってくるピアノの可憐な響きでハッとして楽曲は“儚くも美しい曲”という印象になりますが、このタイトルコールを延々とするような曲だったら、まさに聞き手を闇に引きずり込みそうな気味の悪さを持ち得たかもしれない。でもそんなこと彼は別に望んでなかったろうな、とか、そもそも何かのぞみとかあって曲を作ってたわけでもないのかな、とか思ったりします。


8. 恋のスーパー・パラシューター / 荒井由実(1973)

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 曲タイトル連呼というスタイルは、おそらくは元々日本の歌謡曲やその前身のものが元々持ってた性質では無いと思います*1。なので、こういうタイプの楽曲が本格的に登場し技法として一般化するのはもっと後年のこと。

 また、これは今回このテーマで調べてて分かった事ですが、こと女性ミュージシャンになると、こういうタイプの楽曲は相当限られます。思うに、聞き手を喜ばせるために「あなたが好きなの」みたいなことを色んな言い回しで表現しないといけない、というのがなんらかの根底にあるから、単純に曲タイトルを連呼するような歌詞手法的・需要的余裕が無かったのかな、などと、妙にジェンダー論めいたことを思いました。本格的に調べたわけではありませんが、実際90年代くらいまで全然思いつきませんでした。

 それで、当時の歌謡曲とか、歌における女性らしさ、とかそういうのを軽く超越した存在であるところのユーミンの登場になる訳ですけど、それでもやっぱり全然今回のテーマに合致する曲が出てこない。結局、この変なテンションの楽曲を引っ張ってようやく、という感じです。1回のサビに1回きりのタイトルコールで果たして「タイトル連呼」と言えるか?とは思いますけども…。


9. Fallen Angel / King Crimson(1975)

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 やっぱキング・クリムゾンは動画のアップに厳しそうだな…。

 プログレというジャンルもまた、曲タイトル連呼というキャッチーさを求めていないタイプの音楽だと思われます。もしそういうことをするのであれば、何か象徴的な意味とかそういうものを必要としそうな、そんな感じ。自分はプログレも疎いとこあるので、何とかこの曲を出せて良かったです。

 第1期クリムゾンの極北にして殆どグランジに片足突っ込んでそうな強烈なギターアルバム『Red』におけるこの曲はバンドの叙情性を魅せる局面だと思うのですが、しかしながら穏やかで寂しげなパートからテンポチェンジして入っていくこの曲のタイトルコール部の、その重々しさは何とも胸が締め付けられるような、甘美な苦しさ・退廃感に満ちています。タイトルの箇所の雰囲気だけで言えば後年のSunny Day Real Estateの特に後期の曲とかでありそうなテンションだと思います。単語的にやや宗教がかってるし。

 

10. Sheena Is A Punk Rocker / The Ramones(1977)

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 パンクこそ曲タイトル連呼に最適化したジャンルだと思ってます。シンプルに・強引に・バカっぽくキャッチーさを叩き込むのに、タイトルを連呼するというのは非常に有効な手法で、それはもう、パンクロックを代表するこのバンドの、パンクロックという言葉自体を冠したこの曲を聴いてもらえば全て分かるはず。ラモーンズについては、パンクの破壊的な要素は感じられにくいため、よりパンクというジャンルのキャッチーさの性質が前面に押し出され、そしてこの堂々たるタイトルコールっぷりの潔さは、むしろ何らかの美しさすら感じさせるものがあります。

 

11. I Don't Mind / The Buzzcocks(1978)

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 パンクロックの流れが続きます。オリジナルパンク勢の楽曲でもとりわけ陽性でキャッチーなメロディを持つこの名曲のサビも、タイトルを一部バカっぽく繰り返しながら爽やかに突き抜けていく、最高にキャッチーなフレーズ。シンプルに刻むギター、転がり回るドラム、キャッチーさを増加させるコーラスワークなど、ある種のパンクロックとはThe Whoが特に初期のシングルでやってたようなことをよりシンプルでストレートにやったものなのかなと思ったり。

12. So Loney / The Police(1978)

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 “えせ”パンクバンドとしてスタートしたポリスですが、彼らほどこの「曲タイトル連呼スタイルのキャッチーさ」を理解して曲を量産していた人たちはいないんじゃないか、と思っています(なのでサムネ画像にしました)。初期の名曲であるこの曲からして、レゲエのリズムとパックロック的直進性を単純に行き来する「コロンブスの卵」的なスマートな発想もさることながら、「So Lonely」というたった二つの単語をこうも勢いよくキャッチーにブッ放せるもんだと、そのソングライティングの巧みさに驚きます。あとこの曲のPVの電車や駅のホームって当時の東京なんですね。

 彼らは他にも有名曲では『Don't Stand So Close To Me』が今回の条件をクリアしてますし、他にも曲タイトルをサビ等でキャッチーに響かせるのが得意で、まさにこの手法のマイスター的なところがあります。曲タイトルを連呼するタイプのキャッチーな曲が作りたかったらポリスを聴け!くらいは言えるかもしれません。

13. This Is Pop? / XTC(1978)

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 若い頃のアンディってかなりかっけえ顔してんな…。

 1978年という年はパンクから次第にニューウェーブに変化していく年だと思いますけど、そんな年にのちに偏屈・変態ポップバンド呼ばわりされるXTCもそのキャリアを始めています。初期の代表曲であるところのこの曲の、すごくキャッチーで享楽的ではっちゃけてるけども、でもなんだけどもどこかフニャフニャしてる感じがニューウェーブな感じ。POLYSICKSとかこういうのの直系なのかなとか、ブリットポップ期のBlurのポップセンスもこういう感じあるよなとか、この曲を聴いて思いました。


14. Boys Don't Cry / The Cure(1979)

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 The Cureというバンドはそれこそ有数に歌詞に命懸けてる系のバンドで、発想も言い回しも多様な工夫を繰り広げてきたそのキャリアから、まさかタイトル連呼サビの曲は無いだろとか最初思ってたんですけど、よく考えたらこの初期の名曲にして永遠のアンセムがありました。シンプルさの中にすでにキュアー的なポップセンスと天然で巧妙なファニーさが感じられるこの曲。先日のフジロックでもアンコールの最後に演奏されて、今の時代でもこれだけの多くの人たちがこの曲でこれだけ昂ってられるんだなあと思うと、楽曲自体の永遠的な強さをすごく感じました。何でこんなストレートなフレーズをこんなユニークに、かつ印象的で感動的に聴かせられるんだろう。

 

1980年代 8曲

 

15. Love Will Tear Us Apart / Joy Division(1980)

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 80年代の暗い始まりの象徴として、そしてニューウェーブというジャンルの典型としてJoy Divisionというバンドはイアン・カーティスの伝説とともに神格化されていきますが、彼らでとりわけ重要なのはスカスカでダークな成分の多い楽曲にある種のキャッチーさを現出させて、それをヒットチャートに送り込めたことだと思っていて、そういう意味ではこの曲の存在は、リリースタイミングとイアンの死との関係も含めて、あまりにも出来すぎた、皮肉にも最高の楽曲です。始めっからベースもキーボードもネタバレ全開なメロディが、サビでイアンの低い声でタイトルコールとして歌われる時の、あの緊張感と不安さと憂鬱さとが相まって何故かとてもキャッチーに響く感じは、何と説明したらいいものか。こういうタイプのキャッチーさというものもあるんだよ、というか。

 

16. We Wanna Get Everything / The Roosters(1981)

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 The Roostersについてはいつかどこかでしっかりと触れたいのですが、彼らが演奏するロックは次第に典型的なロックンロールを離れていき、後の時代に発表していればオルタナティブロックとして評価されたであろう楽曲を量産していきます。その際のポイントが、彼らは80年代アングラ的な、ある種日本的にも感じられるドロドロした感じが一切無い事で、また大江慎也が放つ歌や言葉の感覚は、次第に余裕やらチャラさやら、逆にしんどさやら泣き言やらもすっ飛ばして、ひたすら物理的に響く感じがします。この曲の、強靭なドラムロールをバックにタイトルを連呼するその様はまさに“無感情な攻撃性”って感じてとてもクールに思います。

 

17. 高気圧ガール / 山下達郎(1983)

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 近年の華やかなりしシティポップブームの、その再評価の中での頂点たる山下達郎の、その中でもとりわけ快楽性・享楽性が最高潮に満ちたこの楽曲もそういえばタイトル連呼が印象的なナンバー。そもそも「高気圧ガール」って何だよ?というこの雰囲気だけで吹っ飛ばされる感じが、この曲の強靭なポップさの不思議な輪郭の曖昧さを思わせます*2。特に、それまでテンションが舞い上がってた中で、タイトルコールのセクションに入るとやや落ち着いた顔を見せる感じがたまらなくBREEZEな雰囲気じゃないですか。こういうの車で流して夏の青い空の下伊豆とか行ったら楽しいですかね。山下達郎は生ける伝説、生涯現役、音楽界のネテロ会長。

 

18. Just Like Honey / The Jesus & Mary Chain(1985)

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 この曲が奇跡的に美しいことが、どれだけアルバム『Phychocandy』を伝説化していることか。この音で、この甘く落ち着いたメロディで、ちょっと捻れた愛情の詩情で、PVはライトをぐるぐる回す箇所が永遠に美しすぎて、そして終盤のタイトルコールで、こんなに破綻した音と単調な作曲と単調なアレンジで、『Pet Sounds』にも並びうる程の永遠に美しい時間が生まれるもんなのかと、本当に感動的で信じられないくらい信じたくなります。今日も明日も一部のインディーロッカーたちがこういう類の永遠を目指してエフェクターと女性コーラスを探すのかもしれません。

 

19. 夢が見れる機械が欲しい / ムーンライダーズ(1985)

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 本当はこんな綺麗なバージョンじゃなく、気味悪さ全開のスタジオ音源を聴いてほしい…。

 80年代以降は同時代の音楽から距離を取った、との鈴木慶一本人の弁がありますが、それによってこの時代のムーンライダーズは、誰にも替えることが効かない、深刻に独特で孤高な存在になってて、それはある意味異形と言ってもいいのかもしれず、そういう意味でこの時代の音源は未だに歪な新鮮さを放っています。その中でもこの曲の居心地の悪さと不可解さ、そしてそれらが何故かしっかりと深刻な楽曲として纏まったことの奇跡的な感じはとても象徴的です。そもそも、鈴木慶一が曲にするでもなく書いた詩がたまたま他の作曲者の曲にぴったり合致した時点で、この時期の彼らは何かに取り憑かれてたんだなと。この曲のタイトルコールの不気味さはそんな深刻な魅力を、鈴木慶一という人間の独特の狂気的な魅力を、未だに非常に有効なものとして吐き出し続けています。

 

20. There Is a Light That Never Goes Out / The Smiths(1986)

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 The Smithsのベストソングは意見が分かれると思われますけど、自分は『Ask』以外なら迷いなくこの曲*3。オーバープロデュース気味になりすぎる直前で、モリッシーの行き詰まっていながら、行き詰まっているからこそ美しく輝くという逆説の世界が最も美しく優雅に描き出される楽曲・歌詞。最後のタイトルコールの無感情な繰り返しは、その抽象的なタイトルに皮肉も込みで込められたであろう何らかの“祈り”を強烈に印象付けます。

 

21. I Still Haven't Found What I'm Looking For / U2(1987)

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 アルバム『Joshua Tree』冒頭3曲の、果てしない荒野にどこまでも胸が高まっていくようなこの感覚は何なのか。どこまでも見晴らしが良くて、どこまでも何も無くって、どこまでも自由、みたいな、それは全能感の一形態かもしれません。この楽曲など、よく聞くと典型的なブルース進行で作られていて、しかしながら果てしなく力強いボーカルと永遠に響くような付点ディレイギターとで彩られたこの曲を聴くと「こんなブルースがあるか」と地ベタを舐めて這いずり回るタイプのブルースマンに怒られるんじゃないかと、変な心配さえしてしまったり。そしてサビの、タイトルコールなのに何とも持って回った言い回しのこのフレーズの、スケール感の大きいこと。カッコつけやがって、と思ったりもするけど、僕たちみんな身もふたもないこと言えばこのタイトルの通りだろうなという感じ。

 

22. Debaser / Pixies(1989)

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 遂にオルタナティブロックですよ。歪んだギターを鳴らして、小気味良い生っぽいリズムを立てて、そしてひたすらこの訳わかんねえフレーズを訳わかんねえ勢いで連呼しまくるバンドの勢いの、何と心地よいことか。この曲が鳴ってる間だけはなんか延々と上昇してるんじゃないか、みたいな、奇跡のような勢いがこの曲には何故か込められてしまっていて、多くの人がそれを目指して、それなりに成功したり、ダメだったりします。そもそも「debaser」ってどんな意味だよ、って思って調べたら「価値を下げる人」みたいなのが出てきて「翻訳できねえよw」って思ったり。でも言葉の意味は多少わからなくても、こう叫ぶことの意味、というか感覚は、凄くよく分かる。

 

1990年代 6曲

 

23. Something In The Way / Nirvana(1991)

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 グランジですよ。と言っても、今回取り上げるのはこの陰気な楽曲。本当にシンプルな組み方でキャッチーな曲を書く名手、カート・コバーンですが、意外にも曲タイトル連呼系の曲はそんなになくて、なので逆にこの曲における、この曲だけなぜかこのタイトルを連呼したところに、妙に意味を感じてしまったり。タイプ的には上で挙げた『Pink Moon』とかと近いのかなと。こうやって今この生前のアンプラグド時の映像を見てると、なんて厳粛で幽玄な曲だろう、なんて思えたりして、カートにはこの路線でアルバムを1枚作ってほしかったな…と相変わらず思いました。

 

24. Sunshine Smile / Adorable(1992)

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 意外とシューゲイザー勢でタイトル連呼系が見つけきれなくて*4、そんな中でこの象徴的なタイトルをしたこの曲があったので喜びました。遅れてきたシューゲイザーバンドであり、かつ時代に翻弄もされてシューゲイザーバンドかも怪しくなったAdrableというバンドは、何とも半官びいき的な感情を抱かせるバンドで、しかしながらこの彼らのデビュー曲は、薄っすらとしたシューゲイズ要素の中に、なんかデーモン・アルバーンとかと似た声質で、しかしながら光が乱反射するような美しい音世界を見せていて、そこにこのタイトルの連呼をするのは出来すぎてるな、と思って少し笑いました。

 

25. Fight This Generation / Pavement(1995)

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 50曲も取り上げると疲れます。やっと半分のところで、この曲みたいな疲れ切ったような曲を取り上げるのは何とも不思議な気持ち。分かるよマルクマス、疲れきってるけど、でもクソなものとは戦わないといけないんだよな。Pavementのユーモアセンス売り尽くしといった感のあるアルバム『Wowee Zowee』にて、この曲の特に後半からの非常に不穏で不機嫌な雰囲気の中、ユーモア以上に皮肉と呪いが滲んだタイトルコールは非常に毒々しくも攻撃的。密かなこの攻撃性は、後に解散後しばらくしてから出たベスト盤でこの曲が最後に収録されることで、あれっ実はこの時のこいつら相当マジやん…と気づかされました。


26. Getchoo / Weezer(1996)

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 WEEZERもまた、この曲ではタイトルコールを、まるでどうにもならないフラストレーションをともかく叩きつけるためと言わんばかりに叫び倒します。もはやこの「Getchoo」という単語に何の意味も無いでしょ。その勢いに身体を乗っ取られたような吐き捨てっぷりが、ライブではとても格好良く、また彼らの名盤『Pinkerton』の中にあっては1曲目とこの曲で初見殺しを行い、この曲を超えたらまだ1st的なポップセンすが出てくるのに…というセクションを形成しています。

 しかし「Getchoo」と叫ぶのは何ともアメリカっぽい。WEEZERアメリカっぽさってアメリカの外から見える“アメリカっぽさ”ではなくて、一般のアメリカ人を代表するような、時にひどくダサく見えるような“アメリカっぽさ”のように思えたりします。

 

27. STAR FRUITS SURF RIDER / Cornelius(1997)

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 コーネリアスが世界的に評価された最初のアルバムである『FANTASMA』にて、小山田圭吾はなぜか執拗に曲タイトル連呼の楽曲を量産しています。The Policeとは別の視点で、タイトル連呼するスタイルの単調さに音響的な面白味を見出した、ということなんでしょうか。理由は何であれ、この実験性とドラマチックさとキャッチーさを奇跡的に橋渡しさせることに成功した、“世界のcornelius”の代表曲たるこの楽曲の殺傷力は流石。こんなにスタイリッシュに、無意味に、かつ無意味なのにとてもロマンチックに言葉を放つことができるという、それ自体がひとつの達成なんだと思います。もちろんこのタイトルの元ネタになったPrimal Screamも、いいタイトルの曲を作ったな、偉い、と思います。

 

28. ブライアン・ダウン / THEE MICHELLE GUN ELEPHANT(1998)

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 ミッシェルの場合タイトル連呼は、特にアルバム『CASANOVA SNAKE』で執拗に連発されて、そのグランジ的なシンプル極まった曲の作り共々、時折批判の的にされることもあります。しかし、その前のアルバムにして代表作『ギヤ・ブルーズ』に収録されたこの曲は、後に繋がる大味さもありながら、叙情性を匂わせた、ボロボロな詩情を生みだすことに成功しています。「ブライアン」という“特定の伝説の人物”を思わせるチョイスもさることながら、そこから荒涼とした風景を展開させていった辺りに、この時期の彼らのタフさと情感のせめぎ合い具合が感じられます。

 

 
 投稿時間の都合で記事を2分割します。残りも近日中に公開します。

*1:童謡とかまで当たったわけではないのでこの前提が正しいかは不明

*2:まあ、楽曲全体にリバーブがマシマシでかかってるのでそう思うのかな、とも思われますが。

*3:『Ask』めっちゃ好きなんですよ…メロディもポップで可愛らしいけど歌詞も優しすぎるんですよね。。

*4:『You Made Me Realize』みたいなのをタイトル連呼とは言わんでしょ…と思い外したりしました。