ブンゲイブ・ケイオンガクブ

本を読まない文芸部員と楽器を練習しない軽音楽部員のような感じのブログ。適当な創作・レビュー等々。

The Beatlesの曲タイトルだけをサビ等で連呼する曲 10曲+10曲

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 前回と前々回の弊ブログ記事で「曲タイトルだけをサビ等で連呼する曲」を50曲探してきて色々と見ていきました。

ystmokzk.hatenablog.jp

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 それで、part1の第1曲目はビートルズだった訳ですが、part2を描いてる途中に気づいたんですが、ビートルズって実はこのパターンの曲が相当多くない?っていう。それで選曲してみたら、完全にタイトルだけを歌ってる曲で10曲、完全じゃないけどやっぱひたすら曲タイトルを連呼しまくってる曲で10曲を選曲することができたので、前者を1軍、後者を2軍(?)として、今から見ていこうと思うものです。様々なキャッチーさを生み出してきたと言っても過言ではないビートルズの、これらのパターンの曲を見ていって果たして何が浮かび上がって来るのか。ひとまず見ていきます。年代が早いものから順番に行きます。

 

2軍(完全にタイトルだけではないがタイトル連呼が目立つ)

1. She Loves You(1963年 シングル)

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 初期ビートルズを良くも悪くも代表するタイプの曲。当時のイギリスにおける色々なタブー(「Yeah」を連呼すること自体下品なことだったらしい)を破りながら生み出されたキャッチーさは、冒頭からサビという当時では画期的な曲構成もあって相当に当時のリスナーに強い印象を与えた。また2回目以降のサビでは、タイトルコールだけでなくちょっとおセンチな別のメロディをスッと差し込む工夫もあり、短い演奏のストップがまたこの曲の勢いにちょっとした甘さも添えている(それによって「サビで曲タイトルのみ連呼」は崩れている)。

 典型的な初期ビートルズって感じだけども、上記のサビ始まりや、「I love you」じゃなくて「She loves you」であること、及び最後のコードがC6であることなど、色々凝った形になっている。曲はジョン寄り?

 

2. It Won't Be Long(1963年 アルバム『With the Beatles』)

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 2枚目のアルバムの冒頭に置かれたこの曲。ポップにロックンロールしたりポップスしたりしてた1枚目よりもハード気味な2枚目のアルバムの調子を反映したような出だしのやや暗いコード感でいきなりタイトルコールを畳み掛けていくのは『She Loves You』と同じ構図。あれと比べると疾走感を殺している分重みがあって、このガチャガチャした感じがこのアルバムっぽいなーと思う。ジョン・レノン的なハードさも少し染み出しているのかも。

 

3. Can't Buy Me Love(1964年 シングル及びアルバム『A Hard Day's Night』)

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 ポール・マッカートニー的なライトなぶっきらぼうさを振り回す初期の曲。やはりサビから始まる曲で、初期ビートルズのキャッチー目な曲にはいきなりタイトルコールで始まるパターンがある程度あったのかなと思わせる。途中からタイトルコールに別のメロディを挿入して変化をつけるのは『She Loves You』と似た構図。

 

4. You've Got To Hide Your Love Away(1965年 アルバム『Help!』)

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 ビートルズボブ・ディランの影響でフォークミュージックに取り組み始めた頃の楽曲。フォークが音楽の最先端だった時期があるんだよなあと。ジョン・レノンぶっきらぼうな歌い方が後期に比べればまだソフトだけども、しかしざっくりしたソングライティングの中タイトルの繰り返しでガンっとインパクトを与える作風は、ジョン作曲における主要パターンのひとつになっていくので、そういう意味でもこの曲がもたらした感覚の変化は小さくないかも。

 

5. You're Gonna Lose That Girl(1965年 アルバム『Help!』)

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 アルバム『Help!』から2曲目。この曲もジョン・レノン主で、そしてやはりタイトルコールからいきなり始まる。コーラスでも同じフレーズを重ねてくるので、長いフレーズなのに連呼感が強い。またアルバム『Help!』はとりわけアイドルチックなポップな曲が多いアルバムで、この曲タイトルを歌う掛け合いもそういう具合のポップさがある。けど、このタイトルのコーラスが掛からない箇所は不思議なキーの転調を行なってたり、一筋縄ではいかない作曲にはなっている。ボンゴもポコポコと連打されているし、段々コンボなバンド演奏から離れつつある。

 

6. With A Little Help From My Friends(1967年 アルバム『Sgt. Pepper's Lonely Hearts Club Band』)

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 時間が飛んでしまうけど1967年、一気にサイケデリックサウンドに移行した時代で、バンドのコンボ演奏ではなく、楽器はなんでもありなスタジオ録音に活動の基軸を移した彼らが作った“歴史的名盤”とされるアルバム『Sgt. Pepper's Lonely Hearts Club Band』。演出的な部分が今聞くとなんかな…とか思ってしまう場面などありつつも、この曲は「リンゴ・スターに歌わせるタイプの曲」の中でもとりわけファニーなポップさを持ってて、また素朴なリンゴのボーカルとそれをサポートするように追随するレノン・マッカートニー組のコーラスとがとても巧みに組まれている。ビートルズの曲はどれもいろんな人にカバーされるけど、この曲はロジャー・ニコルズにカバーされてソフトロック化してたのが印象的で、フォークロックとサイケポップがソフトロックに繋がっていった、という流れを意識したりしてしまう。

 

7. Good Morning Good Morning(1967年 アルバム『Sgt. Pepper's Lonely Hearts Club Band』)

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 またアルバム『Sgt. Pepper's〜』から。このアルバムはサウンドの作り込みに拘るあまりソングライティングがやや弱い感じが今日の目線からは感じられたりするけど、ここまでテキトーに曲作られるとむしろ楽しいという感じなのがこの曲。中期以降のジョン・レノンの作曲は拍数の取り方とかがどんどん独特になって、かつメロディをそんなに重視せずぶっきらぼうな歌のラインの変化付けで楽曲を作っていくところがあるけど、この曲なんかはそのセンスが意外とバンドサウンド中心にコンパクトに纏まり、シュールながら小気味良いドライブ感が駆け巡っていって、アルバム後半のいいアクセントになっている。タイトルコールもいよいよ楽曲の主旋律に対するオブリガードのように使われてて、なんか機能的だなあって思う。

 

8. Baby You're A Rich Man(1967年 シングル『All You Need Is Love』B面他)

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 やはりサイケ期のビートルズ。イントロで鳴り響くバグパイプみたいな音からはどことなく果てしなくって幻想的なイメージが浮かぶけれども、歌が始まってくると意外とそんなに果てしなくない、飄々とした歌い回しになってて、そしてサビのタイトルコールはまさにゴリ押しな感じ。タイトルの言葉の内容もあって、幻想的な感じゼロ。この雑で力押しな感じはジョンっぽく感じられるけど、実際はサビはポールが作ったらしくて意外。ソングライティング的には雑だけど、特に中期以降では貴重な「本当にジョンとポールで“共作”した曲」となっている。

 

9. Happiness Is A Warm Gun(1968年 アルバム『The Beatles(White Album)』)

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 サイケ期を経てグチャグチャになったジョン・レノンのソングライティングは、しかしながら所謂『White Album』の時期のジョン曲はそのグチャグチャ具合をソリッドでダーティーなロックに転化させることに軒並み成功していて、個人的にははるか後の90年代のオルタナティブロックにThe Betalesから影響を与えた要素があるとすれば、その一番はこの時期の楽曲・サウンドだろうと。

 その意味でこの曲はそんなジョン曲のひとつの極北。元々3つの個別の曲だったのを無理やりくっ付けてひとつにするのも大胆なら、その継ぎ目の荒さも非常にゾクリとするような仕上がり。不穏な序盤、堕落してドロドロでエグい中盤、そしてタイトルコールをややポップソング風に仕上げつつも毒々しさと狂気とが見え隠れする終盤と、それぞれのパートの移り変わりが奇跡的に優れた流れを作っている。特にこの曲のタイトルコールは、みんな大好きなスターではなく、非常に危険で神経質でギリギリしたロッカーのそれで、ジョンのダークな魅力に満ち溢れている。

 

10. Let It Be(1970年 シングル 及びアルバム『Let It Be』)

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 解散直前にリリースされた、この今更何を言うか、という世界的名曲もまた、ひたすらタイトルを繰り返し歌い上げる楽曲だった。少なくない人がこの曲で「曲タイトルをひたすら繰り返す手法」を初めてそれとして耳にしたかもしれない。むしろこの記事のテーマに関する曲では世界一有名な部類だろう(ご存知のとおりタイトル以外のフレーズが挿入されるので、完全にテーマに合致していないため2軍扱いだけど)。ポールの崩した歌い方の裏には確かにThe Bandへの憧憬とかあったんだろうなと最近は思ったりする。アルバムバージョンの間奏のギターソロはペンタスケールのギターソロのお手本のような出来栄え。

 

1軍(サビ等が完全にタイトル連呼のみで構築されてる)

1. I Want To Hold Your Hand(1963年 シングル)

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 この一連の記事本編の50曲のうちの1曲目として紹介済みなこの曲。なぜ『She Loves You』ではアメリカで流行らずこの曲で爆発したのか、というテーマは一見意味あるように見えるけどでもきっと単に「この曲でエド・サリバン・ショウに出演したから」以上の理由は無いような気がする。

 

2. We Can Work It Out(1965年 シングル)

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 ビートルズが初期から中期に完全に作風が移行する頃の楽曲。基本的な部分はポールの作曲で、軽快にフォーキーに曲タイトル連呼で展開にオチをつけるけど、しかしこの曲はややこしくて、そこからの陰りを見せるブリッジはジョンが作曲し歌い、さらにそこから3拍子に移り変わるセクションはジョージのアイディアと、この曲はそのさらっとしたナリの割にはややこしい構成になっている。まあでも、ポールのパートだけだとさらっと通り過ぎていきそうなこの曲に両者ともいいフックをつけてると思う。

 

3. Girl(1965年 アルバム『Rubber Soul』)

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 やはり中期への移行が決定的になったアルバム『Rubber Soul』収録。この曲くらいからジョン・レノンの気味悪い作曲法が、まだマイナー調フォークという体裁を被っていながらも、それでも隠しきれない程度にややグロテスクに表出している。何より、この一単語だけのタイトルに、これを延々と繰り返すのと息を吸う音とをサビに持ってくる発想が、もう普通のポップソングを作るのとは全然違う地点から出てきてしまっていることを否応なく感じさせる。音的にはサイケデリックでは無い*1けど、確実にドラッギー。

 

4. Good Day Sunshine(1966年 アルバム『Revolver』)

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 前作『Rubber Soul』からより確実に「サイケデリック」というものを意識した作風・そしてスタジオワークに拘ったアルバム『Revolver』は、テンションは高いもののこの辺りから作曲スタイルがさらに大きく変化して、どんどんポップス的フォーマットを逸脱して、ざっくりしたものが多くなっていく。ピアノ演奏が主軸となるせいで既にポールのソロ曲みたいに感じられるこの曲も、タイトルコールのテンションの高さとそれ以外のセクションの飄々としてその分とりとめのない感じとの乖離が見られる。割と音的にはサイケ的な飛び道具のないこの曲も最後はタイトルコールが早回しになって終わっていくのにはこのアルバムらしさを強く感じる。

 

5. Lucy In The Sky With Diamonds(1967年 アルバム『Sgt. Pepper's Lonely Hearts Club Band』)

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 サイケデリックは、ポールがサイケサウンドを「曲をよりポップでゴージャスにする装飾」として受け入れる傾向があるのに対し、ジョンの方がより思想とか、ライフスタイルとか、さらには作曲方法とかに影響を受けていた。それがどこか「ポップソンガー・ジョンレノン」に対して破壊的に作用し、また非可逆的とも思える変化だったことは、特にこの曲の様を思うと深く感じる。完全にセクションで全然違うリズムで、それらを強引にくっ付けて、ひたすらサウンドを奇妙に響かせ、自身の声さえ変化させるその取り組み方はいよいよという感じ。この曲のタイトルコールは何も言ってないに等しいけれども、それゆえの怖さがポップにコーティングされている。

 

6. All You Need Is Love(1967年 シングル)

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 1967年のジョン曲で一番ポップソングのフォルムを辛うじて備えているのがこの曲。しかしながら楽曲の装飾は最早ロックバンドのそれではなく、賑やかな楽隊の盛大なデコレーションの中を、曲だけ取り出せばとりとめなさが気になりそうな楽曲がキッチリと嵌まり込み、至る所に花が咲いているかのようなピースフルなポップさが花開いている。タイトルコールにちょっとだけ変化を付けて単調さを逃れるのは初期からの手法だけど、この曲は巧みに曲名の単語の順番を入れ替えるだけで別ラインを作ってしまう。なのでこの曲は「曲タイトル以外のことはサビでは歌っていない」のでこのリストでは1軍扱いになっている。タイトルコールの高々とした感じがあることでAメロのグダグダさが見事に魅力に昇華されている、力技ながら総体として非常に優れたポップソング。

 

7. Your Mother Should Know(1967年 EP『Magical Mystery Tour』)

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 元々は6曲入りのEPとして出された『Magical Mystery Tour』は全体的にポールの企画であり、ポールの「シングルで切るにはやや弱い」3曲が収録されている。この曲はそのうちでも一番地味だろう曲で、歌ってる内容もそんなに重い感じはしない。でもこの曲を聴いて思うのが、この曲がポール曲の中では一番エリオット・スミスみたいな雰囲気があるなということ。マイナー調のくたびれた感じはともかくとして、繋ぎの箇所で歌やドラム等がなくなってオルガンとピアノで引っ張っていくところのヨーロピアンな憂鬱の感じが特にそう思わせるのかも。あとポールの曲タイトル連呼はどっちかというと単体でサビのセクションを作るというよりかはメロディのオチとして組み込まれてる印象が強い。

 

8. Helter Skelter(1968年 アルバム『The Beatles(White Album)』)

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 時折「ハードロックの始祖」とか言われるこの曲もそういえば曲タイトルを連呼するサビの曲だった。この曲が制作された逸話として「The Whoの『I Can See For Miles』リリース時に「これまでになく騒がしくてワイルド」と評されてたのをポールが読んで、それ以上のものを作ろうと思った」というのがあり、奇しくも『I Can See For Miles』もまたタイトル連呼系の楽曲として今回の一連の記事で紹介したところであり、そういうのも影響受けたのかなあ、とか、別にそうでもない気がするけど思ったりした。ひたすらグチャグチャに歪んだ中でポールがタイトルを叫ぶのはひたすらパワフルで、ジョンのシャウトの場合のギラギラやドロドロが無い分より純粋にパワーを感じる。

 

9. Don't Let Me Down(1969年 シングル『Get Back』B面他)

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 晩年のビートルズのジョン曲でもとりわけ人気の高いこの曲。ちゃんとポップな曲としてかっちり纏まっているのが人気の理由か*2。曲構成はキャッチーでパワフルなタイトルコール+グダグダで拍子も不思議なAメロという見事に中期以降のジョン作曲法の王道。しかし、余計な毒気なく純粋にボーカルの突き抜けたパワーを感じられるタイトルコールの力強さはやはり強烈。そして演奏がともかく渋い。オルガンがかなりリードしつつも、2本のギターのカッティングの微妙にズレたリズムがとても渋く感じれて、なんか順番は逆だけど、ニール・ヤングの演奏とかと似たような気持ち良さがあるなと。

 

10. I Me Mine(1970年 アルバム『Let It Be』)

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 まさかこのリストの一番最後が、今までこのテーマでは全然登場することのなかったジョージの、それもこんな皮肉めいた曲になるとは思いもしなかった。自分勝手なメンバー(特にポール)を皮肉ったとされるこの曲タイトルの連呼で引っ張るサビは、ジョージがビートルズに残した最も攻撃的なフレーズであり、そしてそれ以外のワルツ調との極端なアンバランスさがしかし何故か妙な調和を生んでいる。特にNaked“ではない”バージョンに添えられた派手なストリングスは笑えるくらいにこのギャップを印象付けていて、これについては非常に素晴らしいオーバープロデュースだと思う。最後にビートルズとして複数メンバーが録音に臨んだ曲がこれだということも含めて、様々な「カッコ悪い・バツの悪い」因果がこの曲に集まってビートルズ神話をいい感じに汚している。そこがなんだか、かえってすごく好きだったりする。

 

 

終わりに

  以上20曲でした。

 正直、2軍については「『Let It Be』が入るくらいならあれやこれも入るだろが」と思える曲がまだまだあって、ビートルズどんだけタイトル連呼する曲ばっかり作ってんだよ、とか思ったりしたけど、その沢山のトライがあったお陰で、曲タイトル連呼というジャンル・手法の確立に多大な貢献をしたことは間違いありません。確かにこの手法を洗練・発展させたのはThe Policeだと思うんですけど、このビートルズの物量を思うと、やはりこのテーマにおいて無視はできない存在なのかなと。

 あと、特に中期以降のジョン・レノンの「タイトル連呼はキャッチーに、それ以外はグダグダに、そしてそれらを無理矢理くっつける」的な作風は相当に彼独特のものがあるように感じられて、様々な要素が多くの後進アーティストに模倣・引用されるビートルズというバンドにおいて、おいそれと真似ができないポイントのひとつになっているような気がします。ビートルズが持ち得た“異形性”のひとつというか*3

 最後に、この20曲のプレイリストを貼って終わります。折角世の中は『Abbey Road』の最新リマスターで騒がしくなっているのに、肝心の今回のテーマに当てはまる曲がなかったので特に触れられなかったのが残念です。。。

 

 

*1:終盤の間奏の、テンポの取り方が非常に怪しくなる辺りは既にサイケ感が出てるけども

*2:思えば晩年の他のジョン曲はドロドロしてたり破滅的だったり断片的だったりで、これが一番纏まりあるもんな

*3:特に不思議に思うのが、この異形性は確実にジョン・レノンの個性だけども、でもジョンソロになるとこの異形性は相当なりを潜めること。ただ、「魂の救済」が割とシャレにならないレベルで作品のテーマであっただろうソロのキャリアを思うと、それだけこの異形性が生活の崩壊と密接に関わっていたんだろうなと、その血が滲んだ上での成果物に対して、複雑な敬意を抱いたりする