ブンゲイブ・ケイオンガクブ

本を読まない文芸部員と楽器を練習しない軽音楽部員のような感じのブログ。適当な創作・レビュー等々。

#2010年代ベストJポップアルバム(10枚、のうち9枚)

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 ツイッターで表題のタグを見つけて、1枚選んで投稿したのですが、なんかそれだけじゃ足りない感じがしたのであと9枚選んで10枚にしました。「そうか、2010年代もうすぐ終わるんだ…」的な実感や感慨には正直乏しいのですが、そういう期限を切って10枚選ぶのは自分の趣向を見つめなおすのにいいかなと(あと備忘録として)。

 年代順で並べていきます。今までのぼくの年間ベストではランクが高くなかったやつとか入ってないやつとかありますけど人間変わってしまうので…。ツイッターに自分の1枚として投稿したやつは別に記事にします。東京インディーのやつでずっと放置状態になってる1位のやつと一緒ですけども。あと「Jポップ」という単語のイメージからすると外れる気がするものが多いですけど、まあでもタグ見てたらみんな「邦楽」くらいのゆるい受け止め方だったので…。あと、他の企画記事と選盤の被りが多すぎるので、それぞれについての文章は短めに書きます。

 それにしても、「震災で始まった混沌と不安と失望と虚無の2010年」という印象だったですけど、“2010年代”という括りだと2010年も入ってしまうのか…という、しまったな…的な感覚があります。

 

1. 真昼のストレンジランド / GRAPEVINE (2010年)

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 リアルタイムの頃はアルバム『Sing』くらいからしばらく追わなくなってしまってた。なのでこのアルバムが素晴らしいことを知ったのは、Wilcoを『Yankee Hotel Foxtrot』を入り口に大好きになって、日本で近いことをやってる人は、と思って探していた頃だった。このアルバムほどWilco的なサウンドを小気味好く振り回せてる作品は日本で他に何があるだろう。そしてそれがいつの間にかGRAPEVINEの重要な良さのひとつになっていた。荒涼感と奥行きのあるざらつき具合のロックサウンド、結局自分の趣向はそういう方面に向かい続けてるよなあと思ってる。

 

2. 革命 / andymori (2011年)

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 “初期衝動的なサウンド”を3ピースバンドの勢いとソングライティングだけで完全に手にした彼らの1stや2ndアルバムに比べると、その勢いの重大な発生源だったドラマーの交代後の今作以降はサウンドが落ち着いていくけど、でも小山田壮平という人のソングライティングは今作こそひとつの頂点にあった感じがして、このアルバムをあのドラマーと作れたらどうだったのか、かえってゴチャついて、シンプルに纏まった今の姿の方がいいんだろうかとか考えてしまう。少なくとも『Weapons of mass destruction』とか聴いてるとお前ギターに拘りがないとか歌ってたの嘘やん、、、って思うほど素敵な雰囲気がある。そうだ、今作は圧倒的な勢いに代わるサウンドの妙味が生まれかかってたんだと思う。

 

3. コロニー / 麓健一 (2011年)

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 結局この人の2010年代の作品はこの1作だけになってしまいそう。今年運よく京都で弾き語りのライブを観れたけど、それにしても不思議な歌を歌う人で、アコギと歌だけで歌の向こうに広がる光景とか情緒とかを奥深くまで見えそうになるような感じだった。今作ではそんな曲にとてもよく寄り添ったバンド演奏が素晴らしい。最近の話では宅録機材を買い直して制作してるような話だったから、結局2010年代には音源として世に出なかった『幽霊船』『ヘル』『ペンタゴン』等の素敵な楽曲は宅録で作られるのだろうか。何もかもが混乱してうんざりするまま突き進んでしまってる2020年に対する期待といえば、この人の新作が出るかもしれないことくらい。

 

4. PORTAL / Gallileo Gallilei (2012年)

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 彼らはなんだかんだでこのアルバムが一番いいっすね。最初はそれこそJポップな歌もの感が強すぎると思ったけど、でもそのベタさに逃げずにかつインディーロック・ポストロック的アプローチで貫徹したからこそ見える類のファンタジーの感じが今作にはやっぱりあるんだろうなと。少なくないむしろかなりの人がアニメの主題歌とかで彼らを知った後に今作を文字通り「入り口」としてインディーロックに向かっていったりしたんだろうと考えると、やはり今作は間口の広く、そして大いなるファンタジーを宿した好盤だったんだと。

 

5. 愛ならば知っている / 泉まくら (2015年)

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 最初は「相対性理論フォローワーがついにラップの世界にも」くらいの身も蓋もない認識だったこの人が一気にその実生活に基づいたような苦味の多い世界観になったのは今作からな気がする。年々少しずつシックに重くなっていくような感じがするこの人の作風は今年の『as usual』でいよいよだなあ最高潮かもなあ、とか思って、でも今作のちょっとチップチューンな音使いもあったり楽しげだったりな雰囲気がそれはそれで懐かしくなったりもする。それにしてもこの人作風ブレないなあ。

 

6. 天声ジングル / 相対性理論 (2016年)

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 相対性理論およびやくしまるえつこという存在は、結局本当にサブカルチャーを全うしたなあと振り返って思う。やくしまる名義でアニメの曲を連発してた頃が一番世の中に出てたのかもだけど、それ以上のお茶の間的な存在にはならなかった。確実にひとつの時代を、ファンタジーの手法を、サウンドを、歌い方を、声を、確立した存在だったけど、そういうのを少し引き継いだ後の人達の方が売れてる感じがする。でも、この人達はその気になればアンビエントR&Bとかにも逃げれそうなところを今作で自分たちのバンドサウンドを突き詰めていったのは、今思うとその踏ん張り具合が感動的。今年出てたライブアルバムもとても良かったです。いつまでその独自のガーリーでファンシーでデスな世界を見せ続けてくれるか、2020年代もよろしくお願いしますという気持ち。

 

7. Dance To You / サニーデイ・サービス (2016年)

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 『セツナ』のPVはアルバム発売前に公開されたんだっけか。リアルタイムでは『苺畑でつかまえて』をスルーしてたけど、この曲の映像込みでピリピリして何か毒々しい雰囲気に驚いた記憶。今作の良さを語る方法に前も苦労したけど、やっぱり「サニーデイ・サービスが(ほぼ曽我部恵一宅録、という方法論によって)エッジなインディーさを取り戻した、もとい今までになく獲得した」ということが大きいのか。最近さえ言われる山下達郎の80年代作品を頂点とするシティポップブームに2016年当時からヘラヘラしながら中指立ててるようなこの緊張感が、今作をずっと危うくも鋭い作品にし続ける。『the CITY』で遂にちょっとだけ明かされた本作の大量のアウトテイクの一部を聴くに、今作まで曲を絞ったことは壮絶だけど正解と言わざるを得ない。もう、曲を聴いた感じ以上に今作について存在感を感じてる時点で製作者の思う壺かもだけど。

 

8. 針のない画鋲 / 土井玄臣 (2018年)

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 このアルバム冒頭の『みえないひかり』の歌詞はぼくが世の中で一番好きな歌詞かもしれない。好き、と軽々しく言うが、そうじゃなくて、一番すごいとか、いやでも「すごい」っていうのとは違うような、でも「腑に落ちる」とかとも違うし。歌詞は、それを読んで聴いて、なんかこううまく言葉に出来ないけど、胸が詰まるようなと言えばいいのか、そんな感じにさせてしまうのはひとつの理想であり、この曲はとてもすごい。華やかなエレクトロサウンドを封印した楽曲の幽玄さ、幽玄さと言うか、写真のジャケットのような「ファンタジーを剥ぎ取ってしまった」質感のアレさって言うか。ぶっちゃけこの人の曲を楽しく聴きたいと思ったら『The Illuminated Nightingale』とかを聴くけど、でもなんらかの身も蓋も花も幻想もない、小さくて美しい独特の壮絶さが、今作には間違いなくある。

 

9. 光の中に / 踊ってばかりの国 (2019年)

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 折角今年まで2010年代なのだから今年の作品も入れたい、というちょっとした出来心で考えたところ、この作品を入れることになった。年間ベストのネタバレのような気がして惜しいけどそんなのどうでもいい。最初は変にフニャフニャしてて毒々しくて危なっかしかったこのバンドが、いつの間にかとても強い「歌」を作れるバンドになって活動を堅実に続けてきているのは、とても素晴らしいことだし、そしてその「歌」の強さはこのジャケットがちょっと宗教っぽくさえ感じれて初見で引いてしまいそうな今作においてより更新されてる。まあ前作『君のために生きていくね』は完全に昨年聴き損ねてたんですけども。細かいことは年間ベストで言おう。

 

 以上、#2010年代ベストJポップアルバム の9枚でした。もう1枚はそろそろちゃんと記事アップしないとなあ…。