ブンゲイブ・ケイオンガクブ

本を読まない文芸部員と楽器を練習しない軽音楽部員のような感じのブログ。適当な創作・レビュー等々。

2019年の年間ベストアルバム30枚(part2 15→1)

f:id:ystmokzk:20191231135355j:plain

 年間ベストの後半です。体調悪いけど頑張って書いてます。生きるって大変だぜ。大晦日の昼間、外は幸いにとても明るい中、頑張って書いてます。

 あとこのサムネ、この文章書いてる途中に順位が入れ替わったりするとその都度直さないといけなくて面倒だなあ。15位から1位まで一気に駆け抜けていきます。体調悪いけど。

 

15. 『This (Is What I Wanted To Tell You)』Lambchop

open.spotify.com

 アメリカのナッシュヴィルを拠点に30年にも及ぶ間活動してきた、オルタナカントリー界の巨匠Lambchop。静かでジェントルな楽曲を量産し続けてきた彼らだけれど、2016年の前作『FLOTUS』にて大半の曲でボーカルにプリズマイザーを導入し、さらには打ち込みのリズム等の導入により、現代的なサウンドを貪欲に自分たちの手中に収めて音楽性の大胆な再構築を図っていた。そのより更新された成果が今作と言えそう。

 面白いのが、ボーカルは殆どプリズマイザーによるケロケロボイスとなっており、リズムにもトラップ等導入されているメカメカしさの横で、でも演奏のベースはやっぱりピアノだったりするところで、従来からのジェントルなオルタナカントリーさを辛うじて保ち続けている。ボーカル処理はより極端なものになって、曲のメロディの聞こえ方自体の抽象化がより進んで、しかしながら上物にはカントリーチックな雰囲気が十分に残されていて、こうなってくると不思議と、アルバム全体の雰囲気がRadioheadの『KID A』とか『Amnesiac』とかに近づいているというか、オルタナカントリー界の『KID A』とでも言いたくなるような様相を呈している。

 今作はアメリカーナの新たな地平への挑戦の続きなのか、それともこれは最早アメリカーナを捨てた姿なのか。そんなことはともかくとして、この機械仕掛けの、楽園ともディストピアとも取れそうな雰囲気の中で、彼らのアメリカの光景がひたすらに先鋭化された、そんなヒリヒリを今作ではどこまでも静かに鳴らし続けている。

www.youtube.com

 

14. 『I Am Easy To Find』The National

open.spotify.com

 やはりアメリカのインディーロックシーンで最早大物として、押しも押されぬダンディズム等を武器に存在感を発揮し続けるバンド・The Nationalの今年の新譜は、前作で大々的に取り入れられたピアノ中心のしっとりと重いサウンドをより推し進め、かつそこに多数のゲストボーカルを採用、しかもメインボーカルとして導入したことで、バンドのシリアスなトーンに新しい、穏やかでかつコスモポリタンな風を吹き込ませている。

 元々は映像監督のマイク・ミルズとのコラボから端を発したアルバムは、アメリカの大物アーティストとしては珍しい前作からの短いスパンでの新作、それも16曲で1時間越えというボリュームを引き出している。中盤に顕著な、女性ゲストボーカルにMatt Berningerのバリトンボイスが寄り添うタイプの楽曲では、どこまでも真摯な雰囲気の中で、ボーカル間の対話性を意識させたその作りは、前作のひたすら夜に沈み込んでいくような雰囲気とはまた異なる局面を呼び込んでいる。彼らのサウンドの大きな特徴である重戦車的なドラムもワイルドなバンドサウンドも登場の場面をかなり抑制されており、しかしながらそれが出てくる場面の突き抜け具合は相変わらず強烈なものがある。そして、それらのサウンドの合わさった力強さと繊細さのどこまでも真っ直ぐにタフで繊細な様の、その装いはどこまでも「熟慮に熟慮を重ね続けるタフな壮年男性」の感じをかえって強く表している。遠目で見ると変な色の寿司が女性の周りを浮いてるかのようなジャケットだけど、このモノトーンとカラーの隣りあい具合が、案外このアルバムの性質をうまく表しているのかも。特に終盤『Rylan』で一気にムードが朗らかになるところが好き。

www.youtube.com

13. 『U.F.O.F』Big Thief

open.spotify.com

 ブルックリンのフォークロックバンド、Big Thiefにとって今年はひたすらに無敵な躍進を続けてきた1年だったはず。レーベルを4ADに移してから、今年だけで2枚ものアルバムをものにしてしまって、そしてそのどちらもが大傑作と来ている。2枚のアルバムは「天と地」のコンセプトでもって製作され、今年5月にリリースされた本作はその「天」の方を示す作品。

 ギターボーカルのAdrianne Lenkerの存在感は、昨今のロックシーンで存在感をどんどん増す女性SSW界隈の多くのそれとも何か決定的に違っているように感じる。彼女のハスキーで、繊細さと粗さとを自在に行き来する細い声の存在感は空気のひりつく感じをそのまま表現するかのようであり、またバンドサウンドのシンプルにしてとてもよく乾いた具合の中を時に爪引き時に掻き毟るギターの表情は、温もりとかキュートさとかそういったものを拒絶するかのような緊張感が常に付き纏う。時々のボーカルのひしゃげ具合共々、Feistの『Pleasure』を思わせたりもするのだけど、それも正確じゃなくて、やはり彼女独特の神経質さと大胆さとがあって、もう現代の女性版Neil Youngと言ってしまったほうがまだいいのかもしれない。スロウコア的にも感じられるそのヒリヒリする静寂の具合と、陽光と草木の無表情な繊細さを思わせるアコースティックな響が強調された今作は、彼女らのフォーキーさの側面を、ポップになりすぎもせずにしかしひたすらに心地よいままに、所々に不気味な違和感を忍ばせながらも可憐に進行させていく巧みさと鮮やかさが同居する。より4AD的な感じがするのはこちらの作品かもしれない。豊かに茂った雑草のエッジで素肌に傷が付いてしまうような、そんな作品。

www.youtube.com


12. 『IGRO』Tyler, the Creator

open.spotify.com

 Odd Future等での活躍で名の知られていたTyler, The Creatorだけども、しかし今年、『EARTHQUAKE』のPVで見られる例のカツラを被って以降の彼の活躍ぶりは、確実に今年の音楽界における最重要トピックのひとつになった感じ。このピンク色に本人の姿が映ったジャケのキャッチーな映え具合がそれを象徴していて、そしてこのジャケを本当にあちこちで見かけた1年だったと思う。何よりも、カツラを被って着飾った彼の姿はどこまでもアイコニックでキュートでかつ意図不明で、何より不思議にエキサイティングでかつエモーショナルだ。

 本当にブラックミュージック全般基本苦手な自分が、今作を全然キャッキャ言いながら楽しめたのは、今作がひたすらに歌いまくるアルバムだからだろうか。キレッキレのトラックの中を絶妙な情報量のコントロールでトゥーマッチにしすぎない中、いろんなゲストボーカルの声をそれこそ文字通り「ちぎっては投げ」しながら、ひたすらに歌いまくる彼の姿は洗練とエモーショナルさを兼ね備えているし、同じくラッパーが歌いまくる構図のKanye West『808s & Heartbreak』の鮮烈なアップデートのようでもある。トラックは様々な「汚し」で過激に作られながらも、その中を自在に尽くされる「歌」のおかげで、サウンドはひたすらにアグレッシブなポップさを獲得していく。その頂点が山下達郎のサンプリングまで見せてひたすらノスタルジックなポップさを纏う『GONE, GONE / THANK YOU』だろう。昨今の西洋圏でのシティポップ消費の頂点がやはり山下達郎であることを示すとともに、なんてポップでキャッチーな曲だよ。

 要は、ブラックミュージックのいいとこ取りの最新系って感じが、今作をひたすらにソフィスティケートでキャッチーなものにしてしまってるんだと思う。というか、今作リリース後に彼がPizzicato Fiveにどハマりしてるって話はマジなのか。今年ようやくサブスクの変則的な解禁がされたピチカートだけど、シティポップの文脈で本当に徹底的に再評価されるべきはPizzicato Fiveだとマジで思うので、Tylerさん、マジでPizzicato Fiveを激プッシュしてほしい。ああ、それにしても本当に「アイコニックで素晴らしい日本」はどこまでも過去にあるものなあ。

www.youtube.com

11. 『as usual』泉まくら

open.spotify.com

 福岡在住の女性ラッパーである彼女の、淡々とキャリアを重ねていく具合はなんとも現代的なリアリスティックさがあると思うけど、今回の作品の重く乾いた感じは素晴らしい。実にそっけない佇まいがひたすらに格好良く、最高傑作だと思う。

 冒頭のタイトル曲の、重いビートとピアノのリフレインでもう勝利してしまってる感じ。声の処理も含めて、実にドライで格好いい仕上がり。その後も今作のトラックの多くでピアノがメインで使用され、ピアノの余韻なり休符なりがサウンドの「核」となるよう整理され、各トラックのノスタルジックさと現実的なしんどさとを行き来する雰囲気を強烈に印象付ける。そして彼女のフロウの、特に低音の響かせ方とブレスの効果の、かわいいとかエロいとかを全然超えた、妙にしっくりくるしんどく疲れたような質感が、今作では実にキレッキレに活かされてる。時々ファンタジックなトラックがあっても、この声ひとつでひたすらに身体的なメロウさが備わるのは強い。「相対性理論のラップ版」みたいなことは遥かに過去になり、ひたすらに格好いい女性クリエイターとして今作はひとつの達成をなぜか感じる。32分のシックネスが心地よい。

www.youtube.com

10. 『スラップスティックメロディ』国府達矢

open.spotify.com

 昨年に非常に長期に渡る制作期間を経て漸く『ロックブッダ』という怪作を世に放った日本のSSW・国府達矢氏が、その絶望と混乱と隠遁に満ちた時間の中で“副産物的に”作り出された2枚のアルバムを今年リリースした。思ったのは、情報量が多く強固に構築された『ロックブッダ』と比べて、今年の2枚の方がむしろある種の「分かりやすさ」を備えていたことの、皮肉だけども素晴らしいな、ということだった。

 ひたすら暗い狭い世界の底を這い回るような簡素で漆黒な『音の門』と比べても、本作『スラップスティックメロディ』の明快にポップでキラキラしたトーンは非常に意外で、そして不思議にとても開けたものを持ったアルバムだった。行き詰まり果てているはずなのに何故か突然精神の波長がカチリと合って視線が永遠に開けていってしまうような、そんな瞬間をアルバム1枚に展開したようなその想像力の逞しさと、そして何よりこんなにメロディアスな引き出しとリリカルさを持ち合わせた人だったのかという驚きが溢れた。シンプルなクランチのギタートーンを中心に据えた宅録のバンドサウンドの開放感が時々本当に眩しい感じがして、そしてその眩しさも海底から晴れた空を見上げるような薄らとしたサイケデリアが取り付いていて、その感じがとても好き。言葉の端々に鬱の感じがしても、それを幻想的なロックサウンドにしっかりと落とし込んでいる彼のプロダクションはどこまでも的確でクリア。制作のきっかけとなった『青の世界』は2002年頃作った曲らしいが、それを聞いて思うのは同じ年にこちらはちゃんと当時リリースされた、彼の盟友七尾旅人の『ヘヴンリィ・パンク・アダージョ』のこと。あの作品と共通する類のメロウさ・ドリーミーさが、今作には結構紛れ込んでいる気がする。

 ともかく、『ロックブッダ』と今年の2枚を経て、15年に渡る暗夜行路にケリをつけ果たした彼が、インタビューを読むと今実にポジティブなバイタリティーで、さらなる新作に向かおうとしているらしくて、2010年代の終わり頃に急にこんなタフな男性SSWが日本に登場(再登場?)するなんて、面白くなってきやがったって感じ。

www.youtube.com

9. 『Why Hasn't Everything Already Disappear?』Deerhunter

open.spotify.com

 アトランタ発でUSインディーの代表選手のひとつDeerhunterの、前作から3年ぶりとなる今作は、彼らが2010年に全盛期USインディーの絶頂を成す『Halcyon Digest』を作った時のキリキリした絶頂感とは色々景色も変わってしまった中で、しかしながら彼らが彼ら特有のヘンテコさも含めて依然として全然健在であることをさりげなくアピールしながら、また変な世界への新しい扉を開いたような快作に仕上がった。テーマはSF、それもディストピアチックな。

 今作のポイントはキーボード類の導入の仕方で、全体的にどことなくヨーロピアンな仕掛けが多く採用されている。いきなりハープシコードのリフで始まるのとか新鮮だけど、曲が進行してくるとやはりギターの独特のリバーブやピッチによる広がりが曲のレイヤーを支配していくのを見て、やっぱDeerhunterはDeerhunterやな、って感じになる。楽曲的にも粒揃いで、独特の「曲だけ取り出してみたらめっちゃ単純でちゃちい構造なのに、Deerhunterの曲として歌と演奏がつくと格段に良くなる」ってやつが今回とりわけ発揮されてて、『No One's Sleeping』とかホント童謡みたいな雰囲気からブッ飛ばされるのが気持ちいい。流麗に進行していく『What Happens to People?』とか実に鮮やかなアレンジだし、『Plains』でポップにおどけて見せてから『Nocturne』での壊れたロボットみたいな終幕で締める終盤は非常に秀逸な流れ。

 Deerhunterについてはライブも大阪に観に行って、ホントあのギターのすげえ音憧れる…ってなったし最高だった。『Element』のパーカッションのキチキチいう音を釣竿のリールみたいなやつでライブ演奏するとか意味わからんし、またライブ観たいし新作聴きたい、って思ってたら新作シングル(めっちゃプログレやった)もリリースされるし、Deerhunterのテンポの良い活動っぷり愛さずにはいられない。

www.youtube.com

8. 『Let's Get Lost』The World Will Tear Us Apart

open.spotify.com

 京都の“ドラムレス”のインディーロックバンドであるところの彼らが、ここ数年ずっと作り続けてきていた「結成10年目にして初のフルアルバム」をようやくクリスマスの日にリリースできたことは本当に良かった。待ったし、待ってて本当に良かったって思った。

 ドラムレスであることで逆に普通のバンドサウンドの制約から自由であることが、彼らの最大のアイデンティティであると思ってるけれども、果たして今作はその構造を上手く利用した「インディロックバンドによるアンビエントR&Bの剽窃」を完遂した、あっそれがあったか…!って感じの作品になっている。インディロック的ナイーヴさに貫かれた楽曲が屈託無くアンビエントR&Bに結びつくその様は、発明のようでさえある。元々はチルウェイブとかからの影響だったはずのものが、リリースが伸び続けたことで奇跡的にアンビエントR&Bと結びついたようにも感じるし、そのことは冒頭の『S.O.S』のプリズマイズなサウンド如実に表している。そこからもはや懐かしい『Teenage Jesus And Casualties EP』の楽曲たちがしっかりとリードトラック然として本作に収まっていることも感動的だし、アルバム後半ではフォーキーでメロウな曲も複数備え、そして最後はサックス込みでAORな『HAPPYEND』で締められ、不思議でちょっと可笑しいリゾートチックな余韻で終わるところがチャーミング。

 インディーロック的な「喪失の美学」を、彼らはインディーロックのままに、不思議な位相に挑戦的にずらして来ている。その野心がこうやって鮮やかに花開いて、たとえば寒い夜の道を車で走る時とかに流してて、その心細さに重なる時に感じるような心地よさを大事にしていたい。

www.youtube.com

 

7. 『Ghosts』ミツメ

open.spotify.com

 「かつての」東京インディーを代表しそして逞しくもしたたかに生き延びたバンド・ミツメの今年の作品がとてもポップに開けていたこともまた、すごく嬉しい事態だった。『eye』で彼ら流のポップさと実験的なスタイルとが最初に幸福に交わった後、彼らはどっちかというと「実験」の方に傾倒し続けて来ていた気がする。バンドサウンドでどうやって独自のグルーヴを作り出していくか。それもいわゆるロックバンド的な血潮の熱いソレみたいな要素を一切取り除いた、どこまでも平坦でかつ重層的であるという、逆説的な命題にずっと取り組みながら、歌モノとしては地味に聞こえがちな曲を沢山作ってたけど、昨年のシングル2枚から一気にポップに開けて、そしてその流れをこのフルアルバムでも貫いたことを無茶苦茶に歓迎する。彼らはまた、ポップさと実験性とが美しくも幸福に交わる地点にたどり着いた。

 先行シングルでも今作でも言えることは、少なくともスタジオ音源においては「4人だけの音」に拘りすぎずに音をしっかり重ねていくことが、楽曲としての豊かさにしっかり結実していることだ。『エスパー』でのアレンジも曲構成もポップな方法論を、彼らはアルバムでも幾らか活用した。冒頭の『ディレイ』からしておもちゃみたいに跳ねるシンセが可愛くもノスタルジックで、対比としての終盤のギターノイズの高まりが静かに熱い。また、特に『タイム』のポップソングとしての素晴らしさについては、彼らが真に「スピッツフォローワー」として、つまり「スピッツに代表されるような情緒を更新する者」として大成した、という感がある。今までの実験で蓄えた淡白なグルーヴによる音の隙間にも、部屋にひたすら無意味に陽光が差し込み続けるのと似たような温もりと虚ろさと感傷と慈しみが感じられる。一番前作的な間合いとぼんやり具合を感じさせる『エックス』でPV作ってるのは彼らなりの恥じらいを勝手に感じたりもして。

 ミツメも今年ライブを観れた。ライブでの今作の楽曲は時に音数が4人だけの演奏では足りない感じもしたりした(特に『エスパー』や『ディレイ』や『タイム』)けど、その分ギターが出てくると必ずクライマックスでの轟音が印象に残るし、歌は本当にミツメにしか出しようのない類の強度が感じられて、とても良かった。

www.youtube.com

 

6. 『(Same Title)』Duster

open.spotify.com

 また年末に凄いものが出た。12月13日にリリースされた今作は、カリフォルニア州サンノゼで1998年から2000年までの短期間のみ活動していた、もはや“伝説”になりかけていた3ピーススロウコアバンドである彼らの、正真正銘のカムバックアルバム。それにセルフタイトルを付ける辺りに何かしら推し測れそうなものを感じるけれども、中身を聴けばまさに、ザラザラとした薄暗がりの哀愁が充満する、素晴らしいとしか言いようの無いスロウコアの傑作に仕上がっている。今年初めに彼らの全音源集が出てからの、今作へと至る美しい流れ。

 冒頭の『Copernicus Crater』の、スロウコアバンドがKing Crimsonを演奏しているかのようないきなりのヘヴィネスがともかく格好いい。延々と同じリフを繰り返し続けるその営みが、そしてそれに申し訳程度に張り付くひどく弱いボーカルの存在が、この不思議なカムバックの祝祭感を全く無効化していて笑う。2曲目もハードで、90年代ごろまでのUSインディーロックのザラザラと大味な感覚が渦巻く。その後3曲目『Chocolate And Mint』以降は今度は音響的なギターの響かせ方が目立つようになり、かつての名盤『Stratosphere』等で聴かれたキリキリした感傷的な風味を出し惜しみせず繰り出していく。ギターのザラザラした音に付随していくエコーエフェクトに含まれた音の成分が、ひたすらに平坦で淡白で無意味な日常の空気に入り込む類の郷愁とか情感とかのイメージを丹念に拾い上げていく。

 退屈で窮屈で憂鬱な日々のことを、何か価値があるんじゃないかと錯覚させるのに最高に適した、日常を自然に引き延ばすような音楽、そういうスロウコアの特性を思うと、今作はまさに、萎び果てて爛れきったモラトリアムが渦巻いて舞い上がるかのような、ふと不覚にもとても美しく感じてしまうような瞬間が沢山含まれた作品になっている。そもそものジャケットの猫の可愛くなさが、そのなんともな日常そのもののように、なんか恨めしそうな目でどこかあらぬところを見ていて、その様にどうして温かみや親しみを感じてしまうんだろうか。

www.youtube.com

 

5. 『がんばれ!メロディー』柴田聡子

open.spotify.com

 北海道出身で、やはり「かつての」東京インディーシーンでの一角を務めていたこの女性SSWは、ここ数作はずっと作品を出すたびによりポップに移り変わっていったけど、今作はその流れの中でも決定打と言いたくなるような作品だった。まさかこの人がYUKIにも匹敵するようなポップでキュートな楽曲を量産する作家になるなんて思ってもなかったけど。。。

 冒頭の『結婚しました』からしてやりたい放題。めっちゃポップな楽曲にはちょっとラテンなノリも入りつつも、歌詞の方でも微妙な感傷の機微もマツダの軽もちばてつやも入り乱れて、可笑しいやら切ないやらの突き抜け切った世界観を提示する。本当にこの人の歌詞の世界はヘンテコだ。マジでYUKIじゃん!って感じの『ラッキーカラー』でも「いつか死んじまったらどうしよう」とか歌うし、「3万借りたら5万返すよ」とかいう衝撃的な歌い出しの『佐野岬』といい、ぶっ飛んだトラックとぶっ飛んだ歌詞で先行リリースされた『ワンコロメーター』といい、どうしてこの人はこんな自由な発想になるんだろうという歌詞はより伸び伸びとしていて、しかもそれに比例するように楽曲は流麗にポップでキャッチーなメロディを描いていく。バックバンド勢の演奏も悉く的確で巧みで、いなたく心地よいリズム隊もさることながら、特に岡田拓郎氏(ex 森は生きている)はソロではあんな地味でしみじみした美意識を透徹させたのに、こっちでは様々な手練手管を用いて、ユニークだったりキュートだったりセンチメンタルだったりなプレイを連発して、こんなことできる人だったんだ…!と相当びっくりした。PVのユーモア加減も含めて、すごく楽しそうな制作現場の雰囲気を感じて、そっちでもなんか凄くいいなーってなってしまう。

 彼女のライブを今年見損ねたことは結構な心残り。エレキギターエフェクターファズファクトリーのみで弾いてたとかいう漢気エピソードだけで絶対面白いやつやん…ってなってしまう。

www.youtube.com

 

4. 『光の中に』踊ってばかりの国

open.spotify.com

 この神戸市出身の形容しがたいバンドの今年の新譜に触れて思ったことは、2015年に彼らが出した『SONGS』の時に思ったこととよく似てるけれど、その時よりもさらに「歌モノ」としての強度が物凄いことになっている…と、試聴機で本作の『シンクロナイズド』を聴いた時に思った。この、元々「フィッシュマンズ的なボロボロさをローファイでやってるだらしないバンド」と認識してた彼らが『SONGS』以降に成し遂げた歌の強度については、昨年の前作『君のために生きていくね』では幾らか寄り道をしまくった風だったけれど、今作はその寄り道が嘘かのように整然と整理されて、宗教的にも見えるジャケットも合間ってか、神々しさのようなものさえ感じる。

 冒頭の『ghost』の逆再生ギターのイントロからして妙に浮世離れした雰囲気があって、楽曲本編に入るとホワイトアルバム期のThe Beatlesのようなサイケデリアが渦巻いていた。そして前奏なくいきなり歌から始まる『シンクロナイズド』の流れで一気に持っていかれる。下津氏のボーカルはいつの間にこんな取り憑かれたような、神聖さと薄汚れ感とを掛け合わせたような性質を持つようになってたんだろう。全編通じて薄らリバーブがかかった彼の歌声は本当に唯一無二の存在になってた。それに対してバンドも、特に空間的な仕掛けを効果的に多用して、歌のエモーションを取りこぼすことなく、むしろそれぞれの歌が一つの生命となるよう、的確にアンプリファイしている。

 何よりも今回、曲がどれも非常に高水準だと思う。色々やり倒しまくった前作からの反省があったにしても、今作の曲の粒の揃い方は透徹している。カントリー調な『world is yours』にしてもこれまでの同系統の曲よりもキメの入れ方やサビの情感が充実してるし、アルバム締めの『ロープ』の少し落ち着いたポップさも逞しさに溢れている。いい曲、いい演奏、物凄い歌、なんかもうそればっかりしか言えなくて、アホみたいな文章になりかけているけど、でも本当にそういう、基本的なことを突き詰めまくって作られた作品という印象が強い。アルバムタイトルの曲なんて、メロディがややJ-POP的なのもあって、こういうのが紅白歌合戦で流れたら面白いのに、とも思ったりした。

 あと、このバンドも今猛烈にライブ観たい。このすごい歌がライブだとどうなるんだろう。

www.youtube.com

 

3. 『Colorado』Neil Young & Crazy Horse

open.spotify.com

 言わずと知れた世界の男性SSW界の生きる伝説、Neil Young御大の新作が長年の盟友Crazy Horseとの共作ということで、2012年のやはり共作の『Psychedelic Pill』を大傑作だと思っている自分は盛り上がった。そして、果たせるかな今作は、2010年代の彼の活動を締めるに相応しい、彼の2010年代ぶっちぎりで1番と言いたくなるほどの名作になった。今作リリース時には73歳だよ。どうなってんだよ。実はCrazy Horseの中でもメンバー交代というか、ギタリストが引退したりしてたらしく、それを踏まえてもとんでもねえ人だと本当に思う。

 別の記事でもすでに書いたけど、今作の魅力的なところもまた「曲が良い」という身も蓋もない結論になってしまう。ただ、Neil Young作品、特にCrazy Horseとの共作においてここまで「曲が良い」というのは、実は彼の歴史においてもここまでっていうのは無いんじゃないのか、と思うとまた違ってくる。それくらい今回のは良い。冒頭2曲がやや乱暴気味な楽曲なので騙されかけるけど、その後のこれぞまさにNeil Youngオルタナフォークロックな『Olden Days』以降はひたすら素晴らしい。ピアノ中心のメロディアスな曲も2曲も入っていて、『After The Goldrush』の今、って感じがする。

 淡々とリズムをボスボス刻んでいくリズム隊の淡々とした佇まいにはアメリカの地平のどこまでもあてのない感じをひたすらに、別に何も変わったことしてないのにひたすらに感じてしまうし、程よく歪んだギターや所々に入るリリカルなピアノの響きもそんなイメージをどんどん引き伸ばしていく。歳を取り、鈍重になっていく精神と肉体をなんとか駆動させて歩いていく、そんな人生そのもののだるさや重たさが、そのままCrazy Horseのグルーヴになっているということなんだろうか。その最高の結実が『Milky Way』という曲で、ここでのギタートーンの少しくぐもって埃臭いような様は、誰もが出しえないビンテージ感、全然いい意味ばっかりでもない次元での、しんどさも背負いこみまくった上でのビンテージなトーンに仕上がっていて、楽曲のメロディも相まって、こんな美しいCrazy Horseの演奏も中々無いのでは、と思った。

 最後にアコースティックな編成で綴られる『I Do』もまた、非常にしみじみとした楽曲になっていて、この曲をもって締められる2010年代のNeil Youngの歴史というのは、なんとも豊穣なんだろうと、ため息が出てしまう。1960年代にある程度確立された“ロック”という概念はすっかり年取ってしまって、彼はそのロックの「加齢」と寄り添い、こうやって歩んできた。その、本人は当たり前にしか思ってなさそうな歴史に、最高の敬意を捧げられるようにしたい。あと死ぬ前にせめて1回だけでもライブ観たい。

www.youtube.com

2. 『Two Hands』Big Thief

open.spotify.com

 2019年に2枚出して、どっちかを選ぶ?いやどっちも選びたい、ならどっちも選べばいいんだと思いました。Big Thiefの今年出した2枚のうちの「天と地」のコンセプトのうちの「地」の方であり、そして彼女らの最大の出世作。今年の年間ベスト界隈でのロック枠の多くをこのアルバムが埋めてるのを観たし、自分も一切それに異論は無く、こうしてこの順位にさせていただく。

 もう、「女性版Neil Youngの決定版」とだけ書いて終わらせてしまいたい。何を書いても野暮ったくなりそうな気もする。「天と地のコンセプト」とはいえ、近い時期に制作したわけで、『U.F.O.F』と今作との2枚の間にとても大きい違いがある訳ではない。ただ、「地」というコンセプトが成せるものなのか、やはりこちらの方がサウンドが全体的に泥臭くなっている。後期Red House Painters的ないなたさというか。つまりそれって最高のバンドサウンドな訳で。なのでこれもスロウコア扱いしたくなる欲求に駆られてる。その泥臭さというのはでもむしろ、バンドの勢いをそのままサウンドに注力したら結果的に勢いがいい具合にノイジーに響いて最高だった、みたいな感じがする。日本人である我々は、同じような経緯で名盤になった『サニーデイ・サービス』というアルバムを知っている。今作に溢れるナチュラルなザラザラさとサニーデイのあれとは近いものを感じる。

 そして、現在彼女の楽曲でもそのテンションの頂点にあるであろう『Not』の壮絶な格好良さ。女性Neil youngとしての完成。今年のロックで1曲だけ取り上げるなら、迷わずこの曲を挙げたい。全体的に吐き捨てるようなヒリヒリ感が漂っていて、そしてブレイク以降の展開、こんなに女性が激情に駆られてシャウトする場面を寡聞にして見たことがなかったし、それがこんなに格好良いなんて知らなかった。何に突き動かされて、こんな曲を作って歌っているんだろう。のたうち回ることのみっともなさと格好良さ、これを表現できている限りはロックは決して死なないし死ねない、ということを、今年のNeil Youngの新譜からよりもむしろこの曲から強く感じ取れた。Rockn' Roll can never die!本当に憧れるし、来日ライブに行けなかったことは今年最大の心残り。

www.youtube.com

 

 

1. 『Ode To Joy』Wilco

open.spotify.com

 Wilco is back。

 シカゴが誇る世界最強のロックバンド(すげえバカっぽいけど)Wilcoが、どうして世界最強だったか。彼らは今作で全てを取り返した。かの大名盤『Yankee Hotel Foxtrot』は、トラブル続きの中で“時代”が取り憑いたとしか思えないような奇跡が掛かっていて、それはもう一度再現出来るような性質のものでは決してないと今でも思っている。その上で彼らは、『Star Wars』『Schmilco』での実験やバンドの中心Jeff Tweedyの昨年のソロ作を経て、Jeff自身の所有スタジオにて、あの時の魔法と少し似た、でもあの時はまた違った性質の魔法を、遂に手にした。

 そう、Wilcoは、6人もの熟練のミュージシャンがグッドな曲を演奏するだけで余裕で世界でも最高級のパフォーマンスをしてしまう性質のバンドではある。けれども、たとえば筆者が彼らに望んでいた類の“魔法”は、ただのそれだけでは発露しないタイプのものだった。身も蓋もなく言ってしまえば、それは「ノイズ」なんだろうな。彼らがThe Bandのようにグッドフィーリングで演奏する「だけ」ではうまく発生しないタイプのノイズを、今作では遂に獲得してしまった、と言えそう。どういう手法でその音を出してるのか分からないから、こんなアホっぽい文章になってしまうのだけれど。

 冒頭の『Bright Leaves』からして、鈍重なドラムの響きの隙間から音が湧き出してくる、その形容しがたい「音」の存在こそ、まさに筆者が長く待ち望んでいた“魔法”だった時の、あの驚き。今作の特徴として、楽曲自体は相当にシンプルに作成されていて、弾き語りとかで演奏しても『YHF』の楽曲程には面白くならなそうだなあとか思ってしまうような具合で、かつドラムも金物を極力制限していて、はっきり言ってロックとしては「地味」な楽曲が多数を占める。それは同時に郊外・田舎の感じも多分に雰囲気として含んでいるけれども、そこに“魔法”がそっと忍び込んでくる。すなわち、得体の知れないスタイルで楽曲の中を浮遊し続ける「音」の存在。それは『YHF』の時はゴーストのようだったけども、より牧歌的な雰囲気のする今作ではもっと自然な湧き出し方というか、妖精とかそう呼びたくなるような存在だ。

 その点で言うと、『Quiet Amplifier』はまさに、その妖精たちが曲中をずっと飛び交い続けるような、物凄いトラックだ。Yo La Tengoにも通じるような親密な雰囲気の中をいくつもの光が折り重なるようなその光景は、歌詞の雰囲気も含めてとても暖かく、とてもファンタジックでかつ、切なる祈りのようにも響く。とてもロマンチックな瞬間だ。そこから今作でも一際ファニーでキャッチーな『Everyone Hides』に繋がっていく箇所は、Wilcoの諸作の中でも最高の瞬間のひとつだ。そう、『YHF』における『Ashes Of American Flags』から『Heavy Metal Drummer』に繋がるところと同じように。

 総体として、『YHF』の頃の不穏や戦争や悪夢に取り憑かれたWilcoはどこにもいない。代わりにいるのは、妖精たちの召喚に成功して、新しい穏やかさと彩りを生活に添えてくれる、優しい生き物たちの姿だ。今作に極度の緊張感とかは見られないし、むしろ緩やかな、芳醇な雰囲気が多くを漂っている。でもそれは、大人になってしまったロックという概念が人々に差し出すことのできる、最上のもののひとつだと思う。日々の苦痛もズレも不条理も、生活は飲み込んでしまうから、時にはこうやって妖精とかファンタジーとかそういうものに触れて、温かな夢を見たりしていたいんだ。本当にお願いですから来日して。

www.youtube.com

 

・・・・・・・・・・

 以上、2019年の年間ベスト30枚でした。やっぱ自分がやるとロックばっかりになりますね。以下、今年の所感とか色々です。

 自分は「荒涼さと対峙し続けること」が人生において必要で、というか人生はそういうのから逃れられないと思っていて、そしてその時のツールとして「ロック」というものを見てる気がします。バタバタと響くドラムの音や、ザラザラに鳴るギターの音は、どうもこの荒涼というものとの相性がやっぱりすごい良いものだと思っていて、シンセとかキーボードとか管楽器とかでは出来ないことができるものだと思っています。祝福でもなく、慕情でもなく、洗練でもなく攻撃でもなく、ただただ「対峙する」というそれだけのために、ロックが生き残り続けてほしいと本当に思うんです。もちろんその役割はロックじゃなくてポップでも背負えるんでしょうけど、自分は音的にロックで使われる楽器編成がやっぱり好きで好きでしょうがないんだなあと。

 時代は、世相はひたすらに混迷を極め、世の中どんどん信じられないものばかりが生み出され続けてるように思います。うんざりするし、時にはニュースを見ただけで「死にてえ」みたいに思ってしまうこともある。でも結局死ねないし、生きていかないといけない。その時の杖として、ロックには本当に救われてしまっているんだなあと、恥ずかしながら思います。しかしそんな対象を杖呼ばわりは失礼だなあ。

 で、音楽を聴くスタイルが、自分は今年もう完全にサブスクに移行してしまったな、という感じです。CDを全然買わなくなったし、また好きなアーティストのライブにも今年は満足に行くことができなかった。今自分がやむを得ず取っている音楽との付き合い方は、どうにも自分でも不満というか、もっとこうできるんじゃないか、などと色々と考えるべきことが沢山ありますが、それを整理するには生活の方が一杯一杯だ、というのが情けないけど正直なところ。自分のバンドも半ば放り出してしまったし…。

 来年は、その辺のことをどこかで整理できる時間が取れるようにして、今のこの雪辱ばかりが積み重なる日々を、少しでも“返済”していければと願っています。「願う」って、結局はおれが頑張るというだけの話な気もしますが。

 あと今年は、一時期このブログを結構頑張って描こうとしてた気がします。でも、いまだに後回しになってる記事とかも多くあったりして、まずは来年以降そういうのを順番に片付けてから、そこから更なる何かができればいいなと思っています。具体的にこのブログでやりたいと思ってずっと温めてるものとかもあります。オールタイムベストとか。。。

 最後になりましたが、今回これを読んでくださった方、または他の記事を読んでくださった方、ムーンライダーズや初期スピッツの記事の時にやたら見に来てくださった方々、非常に拙く頼りなく文量だけ異様に多い『YHF』の記事を読んでくださった方々、しばらく前に書き散らしてしまったローファイ記事を拾い上げて読んでくださった方々など、ともかくなんか全ての、このブログとか筆者のツイッターとかを読んでくださった方々に感謝します。精進します。とりあえずもうちょっと健康に気を使います。

 

 で、さらに最後に今回の年間ベストに合わせて作成したプレイリストを貼って、本当に終わります。SpotifyApple Musicで選曲が異なります。

 本当にありがとうございました。来年こそはモアベターよ。