ブンゲイブ・ケイオンガクブ

本を読まない文芸部員と楽器を練習しない軽音楽部員のような感じのブログ。適当な創作・レビュー等々。

『いいね!』サニーデイ・サービス

f:id:ystmokzk:20200331065924j:plain

music.apple.com

 こんなにバンドサウンドが格好いいサニーデイはセルフタイトル以来では…さらりとリリースされた割に非常に鮮やかな快作!作品の勢いを殺さないようサクッと全曲レビューしたいと思います。サクッとしてるかなこれ…。

 

1. 心に雲を持つ少年(3:49)

 何の勿体振りも無くやや唐突にさえ感じさせるいきなりのバンドサウンドが、今作最大のステートメントのように思える。オリジナルメンバーの丸山春繁氏が亡くなって以降の新メンバー・大工原幹雄氏のタイトでソリッドなドラムが効いている。この曲のみ作曲者は大工原氏含むメンバー3人で、まさに今作の「今作はバンドなんだ!」という心情の結晶のような曲。ギターを掻き毟りながら叫ぶように歌う曽我部さんの姿が浮かぶような。
 タイトルと終盤のリフレインにThe Smithsへのオマージュを散りばめたこの曲の真っ直ぐなバンドサウンドは、その直線的なビートやちまちまと動き回るギターフレーズ等もThe Smiths意識っぽく感じるけど、「The Smithsっぽさを意識したタイプの相対性理論の曲」っぽさも感じる。イントロ等のメインリフは非常にシンプルだけど、フレーズの重ね方が効果的。
 そして何より、曽我部氏の突き抜けていくボーカルこそがこの曲の勢いの中心だと思う。緊迫感のあるコード展開の中で、バンドサウンドが少し軽くなるサビの箇所でむしろ声を張り上げるそのスタイルは、不思議と曽我部恵一bandの頃のそれと違って聞こえて、『Dance To You』以降の3作の豊穣すぎる混沌をバンドスタイルで突き破らんとする意思に満ち溢れている。この曲に限らず今作の声にしろ歌詞にしろの青筋の立て方は、『Dance To You』以降のダークさを滲ませながら、よりタフに人生にぶつかっていくような格好いい痛々しさがある。それだからこそ、最後のThe Smithsもじりな繰り返しのフレーズがどこまでも真摯なものに聞こえてくる。

 

遅くまでほっつきあるいて とおめいな虹いくつか捕まえた
ずっと消えない太陽がある

 

2. OH!ブルーベリー(3:34)

 前曲から打って変わって、ぼんやりとファンタジックな雰囲気がいい塩梅でダラダラと続いていくようなナンバー。同じフレーズを反復し続けるギターフレーズが特にその雰囲気を演出していて、やっぱり今作はギターロックなんだなあと思う。Bメロのギターはややドリームポップ的だけども。

 音に限らず、歌にも歌詞にも全体的に漂うフワフワ感。それはしかし「日常のとある瞬間を切り取った」みたいな感じよりもずっとファンシーで妄想的で非現実的で、むしろ下手すれば今作で最もドラッギーでありさえするかも。とりとめのない言葉の連なりは的確にぼやけた投げやりさを表現していて、そのことは曽我部氏自身もはっきりと言葉として綴っている。

 

ぼくはなんもない言葉を探しています

 

これはこれで何らかの必死さもうっすらと感じるけど。前曲の青筋はった真っ直ぐさを2曲目でフワフワっと方向をそらしてくる。サニーデイ・サービスというバンドの基礎体力の高さと『Dance To You』以降の業の深さとを感じさせる。

 
3. ぼくらが光っていられない夜に(3:26)

 シャッフルビートのいなたいポップさを持った曲。冒頭などに出てくるシティな感じの掛け声は少々ダサいけど、シャッフルビートの程よいどんくささでかえって中和されてる感じがある。少しくぐもった雰囲気のAメロに対して、サビのメロディの無邪気なポップさは少し『東京』の頃のサニーデイのポップさに通じるものがあるような。

 この曲が面白いのは3回目のサビ以降の展開で、同じシャッフルのリズムを保ったまま急にエレキギターのリフがいくつも重なった妙にスペーシーな雰囲気になってフェードアウトしていく。その感覚が次の曲の冒頭のエフェクトに繋がっていく感じが、やっぱり曽我部さんってアルバムというもの作り慣れとるなーって感じする。


4. 春の風(3:09)

www.youtube.com まさに今作のキラートラック。MVが制作されたのも妥当。狂おしいほど馬鹿馬鹿しくってキャッチーなロックンロール。

 冒頭のフィードバックのような逆再生のような音はドラムの音ひとつで止み、ドラムのキック等とベースだけの「いかにも溜めてます」な上にいきなり歌が入る展開があまりにベタで、そしてAメロ繰り返し直前で入ってくるギターのいかにもヒロイックな佇まい。そしてBメロ等も無しにいきなり強烈なドライブ感と高揚感のあるメロディで突破していくサビ。この曲はまさにしゃらくさいことの一切無い「正面突破」で、サニーデイはおろか曽我部恵一の全活動を見ても、ここまでヒロイックに正面突破していくポップソングは見当たらない。勢いまかせなギターソロの後に、その勢いを直接サビ後半に接続してしまうところはテクニックを感じるけども、それ以上に曲の勢いをどう最高地点まで持っていくかに賭けた曲構成・アレンジとなっている。

 そして、ヒロイックなギターロックの疾走感に反比例するかのような、ボンヤリした感じがサビで危うい突き抜け方をしていく歌詞も今作随一の完成度。『Dance To You』以降のダークさ・ドラッギーさ・SF具合がこんなストレートな曲でこうも活かされるとは。

 

今夜でっかい車にぶつかって死んじゃおうかな

飛び込んで行って太陽を掴む

 

キャッチーにショッキングな歌い出し。1曲目みたいにThe Smithsリスペクトかと思ったらちょっと違う。

 

くじらみたいな雲が浮かぶこの町の名前は何?

どっかで忘れてずいぶんと経つ

五線譜を引き裂いて血が流れて愛を伝える

おまえのすべてが星のよう

 

一番好きなラインは3回目のAメロのこれ。ぼんやり具合と思い切りと思い込みが爽快にスパークしてる。そしてその勢いで問題を露骨に匂わせてくるサビフレーズにコネクトしてくる。

 

僕を目覚めさせて 君の匂いをかがせて

春の風が吹いている

 

この、ときめいてるのか曖昧なのかもよく分からないような歌詞を歌に乗せて、勢いに満ちたバンドサウンドで駆け抜けて、そしてその曲タイトルに「春の風」と名付けてしまったこの人たちは本当にすごいなと。曽我部作品に多数出てくる「春」というモチーフに新たな一石を豪速球で投じてくる、今作きっての名曲。ライブで聴きたいっすね。


5. エントロピー・ラブ(3:08)

 勢いに満ちた前曲からこのぬかるんだR&Bにサッと切り替えるあたりが実にサニーデイ・サービスのアルバムしてる感じ。初見でこの曲順のとおり聴いて納得しかなかった。

 元々多作な曽我部恵一氏が、とりわけ吹っ切れたような狂気を滲ませて活動を活発化させたのは2013年のソロアルバム『超越的漫画』からかと思われるけど、以降の彼の作品はサニーデイかソロかに関わらず*1割と常に「ファンク」のことを強く意識した作品が多かった。今作では割とこの曲がそれっぽくは思えるけど、でも重要なのは、この曲ではギターのシティポップ的なカッティングが殆ど用いられていないこと。それよりもオートワウ等でぼかされたギターがサウンドの要で、タイトなR&Bチックな隙間の多いリズム隊にこのサウンドで、少しエロくて気味悪いふにゃふにゃ感を醸し出してる。

 歌的には疲れ切って磨り減った感じの愛の歌、といった趣。穏当でな単語が時折飛び出すのはやっぱり『Dance To You』以降って感じ。

 

安定剤も切らしてしまって 空き缶で作る東京タワー

タクシーで行くよたぶん今すぐ

Baby OK だいたいはねー

 

この「何もOKじゃなさそう」な感じ。ノスタルジックな『東京』の頃から、今作はやっぱり遠い場所なんだって思ったりする*2


6. 日傘をさして(4:30)

 今作で一番『Dance To You』よりも前の「日常の繊細な美しさを綴る」みたいなサニーデイの感じがする楽曲。というかこれを1曲だけ今作に忍ばせるあたりも実にサニーデイ・サービス的なバランス感覚。これは皮肉ではなく賞賛です。

 今のバンドのセンスとスキルで「よっしゃ繊細なサニーデイやるぞー!」ってやった感じの楽曲だけあって、いちいちアレンジや歌が的確だって思う。陽光が生み出す類のサイケデリアを鮮やかに描くイントロから、フォーキーで仄かにリリカルなメロディがたおやかに紡がれていく様は、曽我部氏の「繊細な歌の時の歌い方」がモロに出た歌唱共々、一気に空気をここまでの殺伐感の取れた丸いふわっとした感じに持っていく。ソフトロック的な細やかなアレンジやコーラスワークも柔らかい。メロディを密にせず、サビではなくブリッジ的な形で、長音を多用して展開していく様も、こじんまりとして繊細なこの曲の印象をより強くしている。女性目線の別れの感傷の歌であることもまた。「日傘」というワードがこの曲のムードを的確に象徴してる。


7. コンビニのコーヒー(4:43)

 『春の風』と並ぶ、今作の「オレ達今テンションブチ上げなんじゃー!」って感じの名曲。こちらの方がサニーデイ的なキザさがより出ているけれども、だからこそその奥にある沸々としたものが浮かんでくるというか。

 フィードバックギターのイントロから、ハイハット連打のドラム*3の上をいきなり歌が入ってきて、『春の風』と同じく直球な展開。メロディの感じはまさに曽我部節!という具合の絶妙な潤み具合。演奏はギターやオルガンの伴奏含めてずっと途切れず、ガレージロック的な荒さと音の壁的な心地よいアタック感の連続とを保ち続ける。

 この曲の面白いのは、Aメロから感傷的なBメロにつなげた後に出てくるサビが、Aメロのメロディを少し発展させただけのものになっていること。もっと派手なサビメロも作れただろうにあえてこうしてることが、歌詞共々この曲のその感情の沸々具合を想起させる作りになってる。そして最後のサビの後の、1分半にも渡る後奏の、感傷的に高揚していくようなこの、感傷が高々とせり上がっていくような、このギターソロとも何ともつかないセクションが、この曲最大の聴きどころになってる。この感じは音源で聴いても、きっとライブで聴いても、ずっと終わらないでいてほしいような恍惚の感じがする。かつて『夢見るようなくちびるに』で彼らがしていたのと同じかもしくはそれ以上に。

 そしてこの曲タイトルに歌詞。かつての『コーヒーと恋愛』に連なるようでいて全然別世界のような、荒涼としながらも不思議と見晴らしのいいような感覚が凛々しい。

 

コンビニのコーヒーは100円で買えるいちばんの熱さ

ハートは燃えている

コインランドリーはいつまでも開いてる

それはもう「やさしさ」と言っていい

 

このタフな現実感の中での開き直ったかのような「思い込み」の沸々とした気高さが、今作の突破力を象徴しているんだと思う。

 

意味がなくたって生きていけるように祈ってる

この曲にもそう書くよ

 

そしてこのフレーズ。『超越的漫画』〜『Dance To You』以降のドラッギーで破壊的な世界観がずっと続いてきた後に出てきたこのフレーズの、ギリギリのポジティブさと優しさが、非常に響く。

 「春」や「コーヒー」は、サニーデイ出世作が『東京』出会ったこともあり、サニーデイおよび曽我部氏においてずっと繰り返されるモチーフの一つだったように思うけど、今作において『春の風』『コンビニのコーヒー』として、双方とも『Dance To You』以降の混沌と冒険と情緒とそして丸山晴茂氏の死を超えて、改めてこうやって吹っ切れた形で世に出たことは、何かとても象徴的なことのように思える。そう思われることも込みで作品を作ってそうだけども、この2曲は本当に、ちょっと感動的かもしれない。


8. センチメンタル(4:13)

 前曲の余韻を今度はそのまま活かして「アルバム終盤やしトドメのロックンロールだああああ!」って感じさえする清々しいほどのおバカなロックンロール。シリアスになる前の曽我部恵一bandの感じが少しするかも。

 ともかくシンプルな楽曲にロックンロールのクリシェを色々入れ込んでみた感じのアレンジは聴いててひたすら楽しく、ライブのアンコールで演奏されたらたまらなく楽しいだろうなって夢に見てる。sus4コードのリフや、The Beatlesみたいな「イェー、イェー、イェー」のコーラス、「春はとっくに〜」のとこのドラムの感じ、そして間奏に入る時の掛け声がはっぴいえんどの『颱風』だったりとか。曽我部氏のボーカルも今作で1、2を争うぶっきらぼうさ。しかしながら、曲の割にずっとアコギが鳴り続けてたり、またブレイク箇所の配置や歌詞などもあって、この曲が少々感傷的なフォークソングっぽくもなっていて、これもまたいい塩梅。終盤でこんな歌詞を繰り返すのが一番そうさせるのかもしれない。

 

春はとっくに終わったのにね

 

曲的には「なんでこんな曲のタイトルがよりにもよって『センチメンタル』なんだよ(笑)*4」って感じだけど、でもこの曲はやっぱり『センチメンタル』かもしれない。でもそんなことも含めて、クリシェたっぷりのロックンロールで大事にかつ楽しげにブン回す、それが今のサニーデイ・サービスのモードなんでしょう。


9. 時間が止まって音楽が始まる(4:46)

 「新しいドラムを迎えてテンションMaxのサニーデイ」については前曲がエンドロール的に感じられて、なのでこの静かで繊細なバラードはボーナストラック的に思える。アコギのアルペジオのつるっとした感じと、リバーブなしのはっきりした曽我部ボーカルが大事に歌い上げるメロディが「素面のサニーデイ、素面の曽我部恵一」みたいな感覚をこの曲に抱かせる。

 この曲をどうして最後に入れたんだろう、と思ったりもしたけど、でも何となく、2回目のサビのこの歌詞で、何となく腑に落ちたりした。

 

いつか夢醒めて 音楽が止まる

ずっと憶えておこうね

いつか戻れますように

 

『Dance To You』〜『The city』の混沌と、おそらくは混沌としていないとやってられない何かとを経て、オリジナルメンバーの死別があって、新しいドラマーを迎えて本格的に「バンド」として再起していくにあたって、この曲は何かしら、区切りめいた存在感を覚える。エンドレス再生にしてるとこの曲の後に『心に雲を持つ少年』のイントロが始まってしまうけど、ここはきっとエンドレス再生を切って、しっとりと余韻を感じる方がいいのかもしれない。まあ、自由に聴けばいいんでしょうけども。

 

・・・・・・・・・・・・

総評(?)

 以上、全9曲で35分。

 この9曲で30分台というのはまさに『Dance To You』と同じ感じで、本人たちも狙ってそうしてるのかなあと思いました*5。アルバムのリードトラック的に公表されてた『雨が降りそう』が、アルバムの感じを象徴してもいなければ*6、そもそも収録もされなかったというのが最初は驚き*7でしたが、確かに今作には収録されないタイプの楽曲だと、今作を聴いて思いました。

 サニーデイ・サービスがどんだけ打ち込みを導入しても、それでも丸山晴茂氏のドラムが重要だったかというのは、オリジナルメンバー3人で完全にやり通した最後のアルバムとなってしまった『SUNNY』とその後のライブなどを見てると、又は『Dance To You』以降の作品で氏がドラムを叩いてるアウトトラックをいくつもリサイクルしてる様*8を思うと、何となく理解されるところ。その重大な喪失を乗り越える術として、彼らは新しいドラムメンバーをバンドに入れる、という決断をして、ある意味でこの本作はその決断に捧げ切ったようなアルバムのようにも思えます。その彼らにとって計り知れないほど重かっただろう決断を、今作では爽快なロックンロール等に変換してブッ放していて、まずはそのタフさに何らかの感慨を抱きます。

 しかし、そんな感傷的なところに留まらず、新しいサニーデイ・サービスを今作では本当に見事に構築しています。こんなにギターロックしたサニーデイのアルバムはセルフタイトル以来*9でしょうし、そして何より今作に詰め込まれた演奏は「今をこの3人で駆け抜けていくんだ」という感じ、その楽しさと自信に満ち溢れています。

 本来であれば今まさに新メンバー+αでのライブを各地で繰り広げてたはず。コロナ騒動が収束してライブが再開したら絶対に観に行きたいし、このアルバムが生々しく演奏され、曽我部氏がステージ上をけたたましく動き回る様を、この眼と身体とで体感したいです。

 

 最後に。この文章全然サクッとしてないですね…。

*1:サニーデイの『SUNNY』や同じ年の弾き語り作品連発ははあまりこれに当てはまらんけども

*2:個人的にはサニーデイの中でも『東京』はそこまで好きな作品じゃないので特にこう思うことで残念に思ったりとかはないのだけども

*3:この曲のみドラムも曽我部氏のプレイとのこと。そう思って聴くと他の曲と比べて荒々しい熱を感じたりするかも。

*4:そもそもサニーデイ・サービスって常にセンチメンタルなもんでしょ、それを何で今更センチメンタルって(笑)みたいな感じです。

*5:また山ほどのボツ曲があるんだろうか、と思うと少し怖くなるけど

*6:『雨が降りそう』は近年のサニーデイ的な宅録トラックを往年のサニーデイ節と融合させたような曲で、これを受けて「次のアルバムは近年の流れを経て改めて“サニーデイ・サービス”に回帰していくのか」などと予想を立てていて、そして出てきたのが今作だよ。。

*7:「えっ…?」って感じ。その後に「いや確かにめっちゃこの新作いいけどじゃあ『雨が降りそう』は何やったん?」とは思ったけど、でも『雨が降りそう』もあれはあれで本人たちにとって作らないといけなかった曲だったのかもしれない

*8:特に『The city』

*9:あれも録音の殆どを3人の演奏でこなしている、オリジナルメンバーの性質が最も幸福に詰め込まれたアルバムでした