ブンゲイブ・ケイオンガクブ

本を読まない文芸部員と楽器を練習しない軽音楽部員のような感じのブログ。適当な創作・レビュー等々。

Wilcoの全スタジオアルバムレビュー

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 昨年の今頃(2019年4〜5月頃)くらいに『Yankee Hotel Foxtrot』というアルバムの全曲レビューを弊ブログで行っていて、あれは1曲ずつを1つの記事で色々とネチネチ書くという、今少し見返してもちょっとまともじゃないことをやっていました。

ystmokzk.hatenablog.jp

 それから1年ほど経って、また昨年中に新作も出たことなので、一度ここまでのWilcoの各アルバムを聴き返して、これはこういうアルバムだなあ、という感想のようなレビューのようなものを書いていければなあ、と思います。1995年の『A.M.』から2019年の『Ode To Joy』まで11作のスタジオアルバム*1を、順番に手早く見ていきます。

Wilcoというバンドの概要について

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上記の写真はおそらくアルバム『Summerteeth』の頃のもの。1999年頃。

 この記事があわよくばガイド的にも使えるように、簡単にバンドの概要を書いておきます。

 Wilcoアメリカ合衆国のシカゴを拠点として活動する、現状では6人組のバンド。フォーク・カントリーロックを核としながらもルーツロック〜パンク・ニューウェーブオルタナティブロック、果てはエレクトロニカ・ノイズ的な分野にさえ及ぶサウンドの幅広さおよび強靭さと、歌としての楽曲の強度とを両立し続けた活動をしており、またその素養の広さと確かな技術に裏打ちされたライブが強烈に支持されているバンドです。

 バンド名のWilcoは無線通信用語の「了解(will comply)」という語から取られています。中心人物はJeff Tweedyで、彼は前身となるオルタナカントリーバンドUncle Tupeloの中心人物のひとりで、もうひとりの中心人物Jay Farrarの脱退*2を受けUncle Tupeloが崩壊した後、残されたメンバーを率いて1994年にWilcoを結成しました。

 初期はUncle Tupeloから連なるオルタナカントリーサウンドが中心でしたが、次第にオルタナティブロック的な方向に変化し、度重なるメンバーチェンジ含む混乱の最中にリリースされたアルバム『Yankee Hotel Foxtrot』(2002年。以下『YHF』と省略します)の奇跡的な完成度により一躍世界的な注目を浴び、それ以降様々なチャレンジを繰り返しながら、世界でも有数のロックバンドとして現在まで活動を継続しています。2004年頃のメンバーチェンジ以降は現在まで同じ6人のメンバーで活動を続けています。

 

 以下各アルバムを、経緯や特徴を簡単に確認しながら見ていきます。各アルバムから3曲ほど筆者の「推し曲」として取り上げて最後にプレイリストで公表してます。

 

1990年代

1st “A.M.”(1995年3月リリース)

A.M.

A.M.

  • アーティスト:Wilco
  • 発売日: 2017/12/08
  • メディア: CD
 

open.spotify.com Uncle TupeloがSon VoltとWilcoに分裂して、そのWilco側のアルバム、という感じの作品である彼らのファーストアルバム。メンバーがほぼUncle Tupeloそのままなこと*3もあってか、作風的には一番オーソドックスなオルタナカントリーをやっているのが今作。前にも書きましたが『YHF』に触れて初めて「オルタナカントリー」という語を知った筆者はオルタナカントリーというジャンルをもっとオルタナ寄りに誤認してて、今作が典型的なオルタナカントリーの作風と知って「えっオルタナカントリーって本来こんな普通にカントリーロックな感じのやつを指すの…?」ってなってしまいました。

 割と本当に牧歌的なポップソングやカントリーソング、アメリカンロックが並ぶ作品。のちのバンドが得るスリリングさや幻想性や緊張感には欠けますが、その分Jeffのソングライターとしてのポップセンスが素直に出てる曲がいくつか。同時期のTeenage Funclub等と似た雰囲気のもっさりした陽性なパワーポップナンバーはこれはこれで聴きやすくて楽しいです。『I Must Be High』は記念すべき第1曲目で穏やかなポップナンバー。コーラス部の節回しがいかにもアメリカンな感じのする『Pick Up The Change』も平和なポップソング。ただ、一番最後に置かれた『Too Far Apart』のみ、アコースティック楽器を排してどっしりしたビートを敷いた無骨な造りになっていて、歌詞ではJay Farrarとの別離を匂わせつつ、サウンドでは今後の力強いロックバンドとしての展望が垣間見えるような気がします。

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2nd “Being There”(1996年10月リリース)

Being There

Being There

  • アーティスト:Wilco
  • 発売日: 1999/04/08
  • メディア: CD
 

open.spotify.com 『A.M.』リリース後、バンドはギター・鍵盤両方を得意とするJay Bennettをメンバーに迎えて、 この2枚組19曲のアルバム『Being There』を完成させます。前作『A.M.』がWilcoとSon Voltの分裂でSon Voltの1stと比較され評価が振るわなかったのに対し、今作の、典型的なオルタナカントリーサウンドの曲も残しつつ、他の様々なジャンルに足を突っ込んでいった楽曲が多々収録された今作は最初のWilcoの「名作」と言得る仕上がりとなりました。

 2枚組19曲のボリュームは、それぞれ1枚ずつである程度単体的に聴けるよう楽曲が整理されており、よりポップで聴きやすいのは1枚目、よりマニアックなチャレンジを感じさせる2枚目、といった感じ。同じ曲のバージョン違いをそれぞれに収録する等も見られます。どちらも冒頭にはギターの轟音が破壊的に響く、オルタナティブロック的な性質が色濃い楽曲が収録されており、『YHF』に繋がっていく性質を感じさせます。『Misunderstood』の次第に不穏なノイズが変則的なリズムとともにせり上がっていく曲構成・サウンドは『YHF』の楽曲と比べても遜色の無いものに仕上がっています。オルタナカントリー路線では、Disk1最後で集大成的な甘く儚くも力強いバラッドの『Say You Miss Me』が特に出色の出来*4。またDisk2ではソフトロック期のThe Beach Boysのようなシャッフルビートの洒落たポップナンバー『Outta Mind (Outta Sight)』に、カントリーのくびきを払ってどんどん何でもありになっていくバンドの兆候が可憐に結実しています。

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3rd “Summerteeth”(1999年3月リリース)

Summer Teeth

Summer Teeth

  • アーティスト:Wilco
  • 発売日: 1999/03/02
  • メディア: CD
 

open.spotify.com Wilcoディスコグラフィーでもとりわけポップな作品となった3枚目。前作から加入したJay BennettがJeffと共同で作曲する楽曲が大半を占め、サウンド的にも彼の鍵盤を活かした、ピアノやオルガンといった基本的な楽器はもとより、シンセ類も様々に活用したサウンドが特に印象的です。複数の楽曲で聞かれるシンセ由来と思われるややチープで味のあるストリングス・パッド系のドリーミーな音色は今作を象徴するサウンドと言えそう。当時私生活等で問題ごとの増えつつあったJeff曰く「ダークでポップな作品」*5。楽曲もポップなものばかりなのに、当時レーベル側は「これでは売れない」として作り直しをバンドに言い渡し、バンド側が『Can't Stand It』を冒頭に追加収録してようやくリリースにこぎ着けた、という経緯があり、既にレーベルとの関係性でも次作『YHF』でのトラブルの予兆が現れています。

 ライブでも多数演奏され彼らの代表曲として広く認識されている『A Shot In The Arm』『Via Chicago』の2曲はとりわけ印象的。ファンタジックなピアノのリフレイン、あと背景で反復されるサウンドにシンプルでドラマチックな楽曲が絡む前者は来たる『YHF』のサウンドの予兆が多々見られるし、彼らのインディロックバンドとしての魅力が詰まっています。後者は、その延々と同じコード・メロディを繰り返す中で、その背景のサウンドの変遷、特に何度かの破滅的なバンド演奏で不穏なダイナミクスを得る様が、やはり『YHF』的であるしそれ以上にライブで聴くと圧巻な楽曲。他には『Nothing'severgonnastandinmyway (Again)』とかWilco史上でも最もポップに徹したソングライティングな気がします。

 どうしてレーベルがこんなにポップさに満ちた今作を「売れない」として積極的なコマーシャルをしなかったのかよく分からないです。バンドとの関係性が冷え切りつつあったのか。そんな混乱やフラストレーションが、結果として次作の神憑り的な完成度と物語性にまた深く関わってくるのが、何とも皮肉なところ。

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2000年代

4th “Yankee Hotel Foxtrot”(2002年4月「公式」リリース)

Yankee Hotel Foxtrot

Yankee Hotel Foxtrot

  • アーティスト:Wilco
  • 発売日: 2002/04/22
  • メディア: CD
 

open.spotify.com バンドにとっても、時代にとっても、そしておそらくはバンド音楽という謎に大きな枠で見ても、本当に神憑り的・奇跡的としか言いようのない程の完成度を誇る、言わずと知れた彼らの出世作にして代表作。個人としての痛苦・苦悩・もどかしさ・空虚さと、徹底的に解体されたアメリカンロックが音響派的アプローチと合わさり紡がれる、見えない空気中の電波の混線や迷子を描いたかのようなサウンド、そして完全に偶然で911以降の時代の雰囲気とが、何もかもが結果的に整然としたポップソングとして今作に収められました。冒頭に書いたとおり、今作については昨年あらゆる無駄な言葉を書き連ねましたので、付け足すことは特に無いですが、「どうすればロックバンドが自身のありきたりなロックサウンドを解体できるか」の問いに対する回答が今作にはあまりに多く含まれており、個人的にも今作のサウンドは何もかも理想的に過ぎるように思えます。JeffとJay Bennettのコラボレーションは今作で絶頂を迎え、そして破綻します。そしてそれをJim O'Rourkeがミックス。ドラムもJim人脈のGlenn Kotcheに交代し、非常に自由多彩なドラミング+αを披露します。

 3曲選ぶなんて出来ません、けども便宜的に。『I Am Trying To Break Your Heart』では『Misunderstood』『Via Chicago』を経たバンドが「バンドサウンドはどう解体され得るか」を突き詰めたような圧倒的な冒頭曲。『Ashes Of American Flags』のひたすら幻想的な退廃感・虚無感・寂寥感は、レコーディング自体にJim O'Rourkeが関わってないのが信じられないほど。そして、結果として歌詞が時代に寄り添い過ぎてしまった、彼らの苦味と気品と祈りとが空に消えていくような代表曲『Jesus. etc.』

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5th “A Ghost is Born”(2004年6月リリース)

A Ghost Is Born

A Ghost Is Born

  • アーティスト:Wilco
  • 発売日: 2004/06/21
  • メディア: CD
 

open.spotify.com 前作『YHF』で半ば事故的に絶頂を迎えたバンドの「更なる冒険」という色合いを濃く感じる5作目のアルバム。前作で制作終盤にミキシングを務めたJim O'Rourkeが今作ではより大々的に参加し製作された本作は、『YHF』で実施した音響的アプローチをより徹底的に、ソングライティングのレベルに至るまで徹底的に実践しようとして、実際そうなったアルバム、という印象がします。前作までの共同作曲者だったJay Bennettを失い、代わりにくびきもなくなったJeffがソングライティングの次元でも徹底的に実験し倒した風な今作は、そのためかポップソングとして聴くには苦しい楽曲も複数収録されていて、「曲としてよりも音自体を楽しんでほしい」的な傾向の強い作品になっています。当時のメンバーにはリードギタリストがいなかったので、Jeff自身によるノイジーでヒステリック気味なギタープレイが多々現れるのも特徴。

 推し曲としては、前作の制作時からある楽曲のくせにあまりに今作的な、淡々としすぎながらも次第に混沌としていく『Handshake Drugs』、前作的なジェントルなポップソングに全開でJim O'Rourke的音響が乗る『Wishful Thinking』、そして今作タイトルが歌詞に含まれた、端正で割とはきはきしたポップソングに今作的なノイジーさが非常に上品に封じられた名曲『Theologians』の3曲を。単独でも聴ける感じのポップソングも十分に含まれているので、全体としてはそこまで聴きづらくは無いかも。でも、これは作品全体を通して聴いた方が楽しめると思います。終盤の12分間のノイズとかやりすぎ感めっちゃありますけども。

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6th “Sky Blue Sky”(2007年5月リリース)

Sky Blue Sky

Sky Blue Sky

  • アーティスト:Wilco
  • 発売日: 2007/05/15
  • メディア: CD
 

open.spotify.com  前作や前々作での様々なサウンドエフェクトの多様に対する反動をしっかり自覚して製作に入ったとされる6枚目。製作前までに加入した、ジャズ畑出身のアブストラクトなギタリスト・Nels Cline、およびマルチインストゥルメンタリスト・Pat Sansoneを交え、製作された今作は今まで以上にアメリカンロックとしての楽曲・サウンドに拘った感のある、渋みのある楽曲にオルタナティブロック的な過激さを隠し味的に効かせた楽曲群となっています。特にリズム面で、16ビートのねっちりとした楽曲が多数あるのが特徴的で、Wilco史上でもとりわけThe BandとかLittle Featとかの影響が濃いように感じられます。新メンバー交えてまずはアメリカンロックの研究、という感じだったのか。そういうところやギターフレーズ等のAORっぽさもあり、Wilco史上で最もおっさん臭く*6聞こえるアルバムでもあります。

 楽曲的には、超人ギタリストNels Clineのお披露目といった感じの、緻密な長尺ギターソロが組まれた『Impossible Germany』と、対極的に前2作までの超越的で霊的な質感に満ちたシンフォニックな『On And On And On』が目立ちます。前者はライブでの定番曲で、というかライブで見てこそ本当に楽しめそうな感じ。ギターソロは即興的なようで完全に自在にオルタナ的なツボを突いた形で構築されきってます。他の曲はWilcoの楽曲でもとりわけ激渋な類で、その中では3拍子で空白のあるサウンドが終盤でオルタナ化していく『Side With The Seeds』が特に好きです。

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7th “Wilco(The Album)”(2009年6月リリース)

Wilco [The Album]

Wilco [The Album]

  • 発売日: 2013/11/08
  • メディア: MP3 ダウンロード
 

open.spotify.com 前作まで作品ごとにバンドメンバーの入れ替わりがあっていたWilcoが、ここにきてメンバーが安定したらしく、それでなのかは分かりませんが、前作のような気負いも抜けた、割と自然体にポップな曲を書いて、工夫を凝らして演奏して、みたいな雰囲気が思われる、セルフタイトルな7作目。『Summerteeth』と並んでポップで聴きやすい作品に仕上がっています。ポップソングを積極的に書くことにJeffの気が向いたのか、収録曲もコンパクトなサイズに収まっているものが多く聴きやすいです。あと、何故かやたらとメロディや節回しの感じがGeorge Harrisonっぽくて、元々Jeffのソングライティング自体それっぽかったのかもだけども、今作はそれを自覚してむしろジョージ寄りのメロディを書こうとしてるのかも。

 冒頭のWilco(The Song)』ぶっきらぼうで気楽で、でもよく聴くと実に理想的なロックサウンドだしポップだなあという作りからして、今作の風通しの良さが感じられます。中盤にはジャム曲やコラボ曲も挟み、前作的なグルーヴ感をポップなバラードに消化しきった『Country Disappeared』は程良い力強さと可憐さのバランスで、アレンジの工夫も含めてすごく「理想的なアメリカンロック」って感じに思います。そして終盤、底抜けに明るくってそしてジョージ・ハリスンなメロディやアレンジのとぼけ方が最高な『Sonny Feeling』は本当に抜け方が気持ちいい。『YHF』の頃の陰鬱さが懐かしくなるほどにポップで痛快なアルバムなので、気分によってはライトすぎるように感じられるかもですがでも初めてWilcoを聴くならこれか『Summerteeth』かなあとは思います。まあ大抵はその前に『YHF』の方から入ると思いますが*7

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2010年代

8th “The Whole Love”(2011年9月リリース)

The Whole Love

The Whole Love

  • アーティスト:Wilco
  • 発売日: 2011/09/27
  • メディア: CD
 

open.spotify.com 2010年代に入り、Wilcoは自身のレーベルを設立し、そこからリリースされた彼らの最初のアルバム*8。もはや何でもできてしまうバンド・Wilcoの次のアルバム、っていう感じで、前作共々バンドヒストリーを特に感じさせない、割とフラットな存在感のあるアルバムだと思います。ポップすぎた前作の反省を踏まえてか、ほどほどにポップな曲、ほどほどにルーツ志向な曲、ほどほどに実験的な曲、といった具合の作品。ポップな曲に実験的でノイジーなアレンジを施すことについても職人芸的な巧みさを見せています。冒頭のいきなりプログレみたいな長い楽曲が来るのは正直やや面食らいますけど。

 そんな職人芸的なポップさとノイジーさの融合が分かりやすい『Born Alone』は、歌パートとノイジーパートとの区分けがはっきりしてて、特に終盤のどこまで落ちてくんだ…という展開は笑えますし爽快。古いジャズみたいなあざとさ・可愛らしさも余裕で曲にしてしまう『Capitol City』。そして、アルバムタイトル曲にして、彼らの(というかJeffの?)剽軽さと優しさが感じられる、柔らかい陽光の下の芝生のようなサウンド『Whole Love』がとても好きです。

 ただ、今作はあまりにも「前作がちょっとポップすぎたから、少し実験性も取り戻してみた」以上の作品ではない感じに仕上がっていて、「何でもできてしまうバンド」として「上がり・詰み」みたいな状況だったようにも思えます。なので、次作とその次の作品のような実験が必要だった、っていう歴史にはすごく説得力を感じます。

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9th “Star Wars”(2015年7月リリース)

Star Wars

Star Wars

  • アーティスト:Wilco
  • 発売日: 2015/08/21
  • メディア: CD
 

open.spotify.com リリース当時は確か突如リリースが宣言され、その場でフリーダウンロードで入手ができて、それでダウンロードして聴いたら「…なんじゃこりゃ?」となったアルバム。冒頭のノイジーでジャンクなジャムセッションを切り取ったようなインストでびっくりし、その後もバンドのぐちゃぐちゃなセッションみたいなサウンドが連なっていく。そう、全編グチャグチャなジャムセッションで作られた実験的なアルバム、と気持ちよく断言できたら良かったけども、実際はそのジャムセッション感は前半のみで、後半はそうでもない。そして何かのインタビューで読んだけど、実は今作はジャムセッション風に見せて、本当はJeffが作ったデモをその通りに演奏してるだけ、という人を食ったような背景があったりで、もう説明しづらい(笑)バンドとして行き詰まりそうになったWilcoが、また一度サウンドを解体するために色々やったアルバムその1、と言えばそこまで外れてないのかなあ。短いし。

 ともかく上記のとおりでつかみどころがなくて取っつきづらいと思うので、今作をWilcoの入門編にするのは勧めないけども…中には「これもっときちんといい曲に出来たやろ…」みたいなのもあるし。でも特に前半のぶっ壊れ感は今作特有のサウンドで楽しく、特にライブでよく演奏される『Random Name Generator』はそのブチブチなサウンドで平然とそんなヘンテコなメロディ歌ってしかし全体としてはポップソングでしょ?みたいな楽曲のフォルムが可笑しくて痛快な楽曲。また、今作で最も実験的な『You Satellite』は、何とも掴み所のない表裏もよくわからなくなるようなリズムの上で、演奏がどんどん宇宙的に膨れ上がっていく、意味不明だけど壮大な楽曲。…そして、そんな様々に実験だらけの楽曲の中で唯一「いつものフォーキーでポップなWilco」な『Taste The Ceiling』の存在感が笑えます。でもこの曲だけ本当に普通にいいんだよなあ*9

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10th “Schmilco”(2016年9月リリース)

Schmilco

Schmilco

  • アーティスト:Wilco
  • 発売日: 2016/09/09
  • メディア: CD
 

open.spotify.com 前作から1年ちょっとという予想外に早いスパンで届けられた今作は、事前に「今回は基本アコースティックな演奏」というプレスで「今回もまた実験だあ」ってなって、実際にリリースされたものを聴いて「これは確かにまた実験だけど、しかしながら相当にひねくれとるけど、でもギリギリポップソングな感じもするなあ」みたいな、不思議な思いがしました。また一度バンドサウンドを解体するために色々やったアルバムその2、今回はアコースティックだ(でも性格は悪い)、みたいな作品。ふざけてるような文章に思えると思いますけどでも割と本当にそういう作品だと思いますよこれ。こう、森の中で典型的なカントリー集団みたいな格好して、どんどん変な曲を作ってる感じというか。

 『Cry All Day』の、この魔改造カントリーソングな感じが実に面白いです。ただ聴いてる分にはいかにもな伝統性を感じるのに、よく聴くとどんどん変な音とかアレンジとかが被さっていく様はスリリング。アコースティックギターってこんなにノイジーオルタナティブロックなことやれたんだ…という発見が素朴にある『Common Sense』は本当に虫の羽音みたいにノイジーエレキギターとの対比や奇妙なメロディなどが何とも「これまでのWilcoになかったタイプの」奇怪さに満ちてる。そして、本作では割としっとりとしてスイートな出来のこじんまりでゆったりしたバラード『Happines』でもその録音具合のファンタジックさは今作以前には無かった質感。明快に「これぞポップソング!」みたいな楽曲は全然なくて地味だけど、今作は何気に相当実験的で聴いてて楽しいアルバムだと思います。短いし。

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11th “Ode To Joy”(2019年10月リリース)

Ode To Joy

Ode To Joy

  • アーティスト:Wilco
  • 発売日: 2019/10/18
  • メディア: CD
 

open.spotify.com 前作・前々作と実験を繰り返し、またJeff Tweedyソロアルバム『Warm』もリリースした後、満を辞してリリースされた感のある今作。すでに2019年の年間ベストで1位として取り上げたとおり、これは傑作です。『YHF』以来の音響的アプローチ全開の嗜好を、『YHF』とは全然異なる角度からアプローチして成功した、ソフトでオーガニックな雰囲気漂うノイジーさが心地よい楽曲群となっています。もう、1曲目の冒頭のドラムの音と浮遊するダストのようなノイズ聴いただけで、「うわ、来た」って思いました。ソングライティングは近年的なくぐもった、あえて溌剌としないような感じだけど、それと柔らかなノイズアプローチとが見事に噛み合い、ファンタジックで少し切ないような聴いた感覚を生み出していて、とても心地よいです。ここに至るための『Schmilco』であり『Warm』だったんだなあ、と思うと、これを2010年代最後にきっちり出してきたバンドの妙な生真面目さが可笑しくも頼もしい。

 ともかく冒頭の『Bright Leaves』の衝撃は、『I Am Trying〜』とはサウンドアプローチの角度が真逆な感じなのに、何だか似たような衝撃を受けたような感じがして、最高だなあって思いました。そして今作の路線を象徴する「優しいノイズ」に溢れた『Quiet Amplifier』の、どこまでも胸の奥が切なくも暖かくもなるような雰囲気、これはYo La tengoとかにも匹敵する類のやつだ、って思いました。そしてそのすぐ後に登場する『Everyone Hides』の剽軽でポップな様を見て、ああ、やっぱりWilcoはいいな、格好良くて、チャーミングで、最高だなってなりました。なんか抽象的な感じでうまく言えないですけど、自分は今作本当に大好きです。

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 以上、Wilcoの全スタジオアルバムレビューでした。

 コロナウイルスの関係が無ければ、今年来日公演もあったはずのWilco。今、本当に観たいなって感じなので、まだ今の情勢では難しいかもですが、期待していきたいと思います。

 最後に11枚分の推し曲をSpotifyでプレイリスト作りましたので、もしこの記事を最後まで読んで興味が湧いた奇特な方いらっしゃいましたら聴いてみてください。

 

*1:あくまでスタジオアルバムなので、シングルのカップリングとかコンピレーション、他アーティストとのコラボ作品、ライブ盤等には触れませんので悪しからず。なお、シングルカップリング等も含めたレアトラック集として『Alpha Mike Foxtrot』というコンピレーションも出ており、アルバム収録外の曲を聴くには多分これが手っ取り早いと思います。中にはこれアルバムから外すか…的な曲や、もしくはアルバム収録曲の別テイクで「えっ元々こんな曲だったん…」的なのもあるので、全アルバム聴いた後に手に取ってみると色々発見があるかもしれません。

*2:こちらは後にSon Voltというオルタナカントリーバンドを結成。現在も活動中で、こちらもとても好きなバンドです。

*3:その後このUncle Tupeloからのメンバーはどんどん脱退していき、現在ではJeffと後ベースのJohn Stirrattのみとなっている。彼は今でもライブ等でJeffの歌にコーラスをつけ続けている。

*4:個人的には、やはり『YHF』的な音響が見られる『Hotel Arizona』からこの曲に繋がるDisk1終盤が今作で一番好きな箇所

*5:そのダークさは主に歌詞で登場する。『Via Chicago』の歌い出し「昨夜、君を殺す夢を見たよ」等に典型的。

*6:Pitchforkでは「これはダッドロックに片足突っ込んでる」みたいな批評をされている模様。

*7:Wilcoというバンドの存在を認識するよりも先に、歴史的名盤としての『YHF』に出会ってしまうのではないか、という意味です。

*8:そういえば、たまたまなのか彼らのレーベルは、90年代はずっとリプリーズだし、00年代はずっとノンサッチとなってる。10年代は全部自前のdBpmからのリリース。たまたまなんだろうけれど。

*9:まあでもこの曲みたいなのだけずっと作ってたらバンドとして行き詰まるの目に見えてるものなあ。