ブンゲイブ・ケイオンガクブ

本を読まない文芸部員と楽器を練習しない軽音楽部員のような感じのブログ。適当な創作・レビュー等々。

2020年前半のアルバム9枚

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 コロナウイルスのおかげで世界中が散々な(それ以外も大概散々ですが…)2020年も前半が終わろうとしていますがみなさまどうお過ごしでしょうか。自分はSTAY HOMEで時間が結構あったはずなのに、前の年にも増して新譜を聴けていない、音楽を聴けていない気がします。やっぱり、外出中にイヤホンとか、もしくは車のスピーカーとか、そういうので音楽聴くのが自分の中で大きいんだなと思います。仕事が通常営業に戻ってからの方が聴けてますしこのブログも再開できてるくらいなので。

 私ごとでは、福岡市に帰ってくることができましたが、実際に誰かと会って音楽の話をすることは何故か皆無です。寂しいのでブログの更新とかでせめて糊口を凌いでいたいです。

 というわけで、あまり聴けてない中でも9枚くらいならどうにか選べましたので、例年やってる前半の個人的に良かったアルバムの簡単なレビューを載せておきます。9枚の内訳はまあこのトップ画像のとおりなんですけども。順位はありません。単なるA→Z・あいうえお順です。あと最後にサブスクのプレイリストをSpotifyApple Music両方で曲目変えて準備してます。

1. 『Rough and Rowdy Ways』Bob Dylan

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 皆さんご存知Bob Dylanの、6月に出たばっかりの新譜がこんなことになるなんて思わなかった…こんな優しい曲を連発する彼のアルバムなんて過去にあっただろうか。彼らしいラフでなんかごちゃごちゃ言ってる的なロックンロール形式の曲も何曲かあるけども、それよりもメロウな楽曲が多い。それも彼によくあるトーキング口調でギリギリメロウ、みたいなのではなく、本当にゆったりと、厳粛に、優雅なメロディラインを、嗄れ切った声で紡いでいく。

 いつになく静寂と音響に気を配られた演奏といい、プリズマイザーを導入する前までのLambchopのようなどこか非現実的で幻惑的なメロウさを感じる。もしくは、演技のよくないたとえだけれど、その晩年にAmerican Recordingsというシリーズで多くのカバーと名曲と名唱を残したJohnny Cashの、とりわけ逝去前後の作品のような。Twitterでこのアルバムを指して「もはや死の向こうの世界から歌ってる」みたいなツイートを見かけて、そうなのかも…とか思ってしまった。まあ今後も普通に元気に作品だし続けるかもだけど。

 

2. 『Suddenly』Caribou

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 この人のことは今作で知ったんですけど、エレクトロ畑の人だけどめっちゃ歌うんだ、と分かって、そして歌うとなると歌うための“曲構成”を作ることとなるわけで、トラックのサウンド自体の良さもさることながら、少なくとも今作はその曲や歌も非常に魅力的で、中には『Magpie』みたいなほぼSSWな曲もある。というかリードトラックの『Home』が実にキャッチーで、すごくいいなって思った。エレクトロ側からのR&B的手法の極めて洗練された“剽窃”だと思った。くだけたリズムとトラックにややミスマッチなファルセット気味の細いボーカルが、でも実に雰囲気が出てていい。

 アルバムの他の曲も、エレクトロ畑的な「寒くて寂しくなるような」音色を、高いSSW性で構成された楽曲に的確に配置して、その歌と電子音等との相互作用で、キャッチーさが研ぎ澄まされていくような感じがする。『You and I』の自在なサウンドの中での声の存在が、サンプリングも含めて実にキャッチーな寂しさを醸し出しているのがいい。彼の人生の周りに起きた様々なパーソナルな不幸に影響を受けた楽曲群は、不安げに音が飛んだりするし、不気味に響いたりするけど、でもどこか決して悲観的ではない雰囲気があるのは、ジャケットのように今作の音や歌が透き通ってる感じがするからなのか。冷たい感じの音でも、時折暖かく感じたりするのは。

 

3. 『Fetch The Bolt Cutters』Fiona Apple

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 Fiona Appleの新譜がPitchforkで10点満点を獲得したというニュースが流れてきて、どんなもんやろな…と思って聴いて、1曲目の途中まではああこういうダークな歌ものの…と思ったけど、次第にリズムがスウィングしだして歌いからが荒くなってきて、なんか様子がおかしいな…と思ってからの終盤の奇声で「なんだこれは」ってなった。続く2曲目なんか、ひたすら奇怪な叫びのような嘲りのような歌とピアノとが暴れまわり、しかもキメるところはアメリカンに洒落てキメる様を見て「これはやばい」となった。

 自分はFiona Appleの熱心なファンではないけど、いっつもこの人こんなにやりたい放題な歌い方をするんでしたっけ。その邪悪さや醜悪さをめいいっぱい吸い込んだような歌唱が、時に無音の空間を際立たせるし、時に楽曲自体を恐ろしく歪ませるのが強烈で、楽曲自体も場合によってはリズムだけだったりの上にボーカルが強烈に重ねられてたりで、しかもそういうのが複数あって、SSWでここまで「曲がいい」という基準を遥か離れたところで凄みで聴かせてしまうのは物凄い。『Cosmonauts』の終盤の歌唱とかもう意味がわからない…。割とまともにシックでポップなバラード『Ladies』存在が意外に感じる。ジャケットからしてふざけた邪悪さを感じさせるけど、その何百倍もの邪悪さが圧として襲いかかる怪物的名盤。

 

4. 『Women In Music Pt.Ⅲ』Haim

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 1stアルバムの段階では自分はあまりよく思ってなかったんですが、この人たちこんなにいい曲沢山書けたのか…と今作を聴いて驚いた。いい具合に現代っぽさとSSW的な旨味とを取捨選択し心地よく配置するセンス、それに合わせてアコースティックも打ち込みもバンドサウンドも実に自在に活用していく手際、そしてそうやって3分サイズの楽曲を量産し、ザッとしてそうでいてしかし軽快に聴き進められるよう並べるセンス。こんなに器用な人たちと、本当に思ってなかった…。
 こんなにいい具合にポップな楽曲を連発されると、逆に何も言うことがなくなってしまいそう。今風のR&B的なトラックの仕組みもバンド的な音も、実に効果的に配置してくる。打ち込みのシャッフルで展開する『Up From A Dream』の間奏で実にザリザリなギターソロ的な何かが飛んでくるのとか的確すぎて卑怯だな…って思う。こんな仕掛けがやたら沢山あって、いちいちここで挙げてられない。なんかほんと、生音と電子音と打ち込みのバランスが相当いい。

 

5. 『At The Beginning』THE NOVEMBERS

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 昨年の前作『ANGELS』でサウンドをインダストリアルな方面にガラッと変え、大きく評価された彼らの、早速の次なる挑戦。その製作過程において、前向きな未来への希望を込めた実際ポップでドリルンベース気味で疾走する『Rainbow』が元は最終曲だったのが、コロナウイルス以降の世相を踏まえて「こんなのもうとっくに通り過ぎてる」と冒頭に持ってこられたエピソードがなんか好き。彼らほど手を尽くして現代と戦っている日本のバンドはそんなにいないのかも。器用で、誠実だ。

 最早ギターや生ドラムが入っていない楽曲も多数含む今作において、それでも“このバンドの作品”としての必然性を感じられるとしたら、それはそんな挑戦的な誠実さなんだろうかと思う。突如とてもゴスいゴリゴリのギターリフをかましたり、妙に普段使いの身も蓋もない言葉を歌詞にしてみたり、その中で彼らが捉えた「世界の感じ」とか「日々の実感」とか「ヤケっぱちな気持ち」とかを、アクロバティックな方法でしか掴めないルートで懸命に形にしようとする、そんなスタンスこそが彼らをいつの間にかオンリーワンな存在にしたのかも。

 

6. 『Punisher』Phoebe Bridghers

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 昨年は師匠のConor Oberstとの共同ユニットBetter Oblivion Community Centerでアルバムを出し「割と普通な」インディーフォークロックを満喫してる感じだった彼女のこの2ndが、こんなに素晴らしい作品になるとは思ってなくて驚いてるし嬉しい。Mark Kozelekが好きだというのが伺える幽玄なアコギ弾き語り要素が強かった1stから、その核となる「線の細さ」はキープしながら、実に様々な方法でメロウさ・ノスタルジックさを表現していて、とても面白い。アーティスト写真では謎のドクロスーツを纏い、どの曲にも「死」が出てくるということだけど、楽曲はダーク過ぎない。先行曲でスマパンばりにぶち上げた『Kyoto』*1が来た時は「えっ今回こんななの…?」とか思ったけど、そういうロックさはあともう1回アルバムの一番最後に出てくるくらいに留めているところが上手い。

 深い海の中のようなタイトル曲のアブストラクトなサウンドから、段々と楽器数やビートが強くなっていくような流れがあって、その辺のアレンジが最もポップな形で『ICU』で出てくるのがいい。最初のサビのボロボロに加工された音が実にロマンチック。そのあとの『Graceland To』のトラッド調にバックの持続音が視界を広げるように作用する様も実に美しい。そこからラスト曲の終盤のアレになるのは笑える。突き抜けてますねこの人、1stの繊細さが嘘のように力強い。

 

7. 『Saint Cloud』Waxahachee

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 冒頭の『Oxbow』の、音数少なく、チリチリしたSEが舞い、ピアノがループしていく様を聴いたときは、昨年のWilcoみたいなサウンドにこの人も挑戦するのか…!と期待したけど、2曲目で割と普通にフォーキーな曲、3曲目でまた音響チックな曲が来て、その後からが実に、実にアメリカンでフォーキーなインディーロック連発で笑ってしまった。ポップセンスは保証された彼女なので、それらがまた普通にとてもいい具合、以前よりもオルタナ度合いを抑制したその乾いた具合が心地よくて、でも1曲目とノリ違うよね…?っていう。そして終盤『Ruby Fall』でまた1曲目的な静寂と音響を志向した風になって、最後のタイトル曲も同じ方向で完結する。

 なんじゃこりゃ、2つの方向性がアルバムに混在してる。どっちかで統一するとか考えなかったのかな、とかも思ったけど、でもこの妙な混ざり具合は聴いてるとなんか好きになってきてて、そこでこのアルバムジャケットを見ると、聖者のようなドレスを纏った彼女(=静謐で音響的な曲)と花を積んだピックアップトラック(=アメリカンでフォーキーな曲)になってて、なんだジャケットが全て解説してるじゃないか…と膝を打った。この自由な感じこそがUSインディだったはず。このアルバムくらいが、チャレンジとリラックスのちょうどいい、伸び伸びした加減なのかも。

 

8. 『Morning Sun』岡田拓郎

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 彼がまだ森は生きているでバンド活動をしている時から、彼の求道者的で仙人みたいなスタンスがちょっと自分に合わないように感じてて、それは彼の最初のソロアルバムまでそんな感じだったけど、そのソロアルバムの中でも彼が一番「ベタにやり過ぎた」と後悔気味に言う『手のひらの光景』は結構好きだった。また、柴田聡子氏のバンド形態・柴田聡子 On Fireでの彼のかなり幅広く時にユーモラスさ全開な愛嬌に満ちたギターもとても良くて、そして今作で、遂に自分は彼の音楽が好きになった。実にいい曲とサウンドを作る人になったって思った。

 これまでよりも遥かに、伝統的なSSW的な作曲になってるんだと思う。ドラムは普通に落ち着いたリズムを刻み、ピアノでコードを取る曲のしっとり加減も良く、そこに彼の線の細い声をリヴァーブとコーラスの重ね方で広げたメロディが乗ると、実に心地よいメロウさの滲む風景が感じられてくる。2000年代終盤以降更新されてきたUSインディ的なサイケデリアを陸続きに確実に実践し、ポップで雰囲気ある楽曲を量産する今作の彼は非常になんかこう、頼もしい。日本のAndy Shaufとか言っても全然いいと思う。最終曲の音響的なチャレンジも含めて、とても逞しい作品。

 

9. 『いいね!』サニーデイ・サービス

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 2018年におり次男メンバーのドラマー丸山晴茂氏が逝去して以降、それまでの『Dance To You』以降の自由自在なトラックメイカー的な方向性から転換して、バンドとしてのあり方を模索してきていた彼ら。例によって大量に楽曲を量産して録音して、一度「これぞサニーデイ!」みたいな王道的なものができたらしいのに、それを「なんか違う」とボツにして、新しいドラマーを正式メンバーに加えて、そして勢いで製作して、選りすぐった9曲がこのアルバム。結局『Dance To You』の時と似た流れじゃないですか…。ということが、いろいろなインタビューで分かった。
 すでに全曲レビューをこのブログで書かせていただいたので詳細は省くけど、とはいえ『Dance To You』以降のダークで退廃的で血みどろな感じの世界観からは一線を画した作品になっていて、特に、バンドサウンドをパキッと、爽やかに、鮮やかに聴かせたい!っていう雰囲気が強く伝わってくる。その割に決してポジティブさに満ち溢れていなくて、『春の風』の歌詞が結構マッドだったり、色々ネガティブさも入ってたり、でも「疾走するんだ!」っていうモードを聴かせる。今作はそんなアルバム。

 

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 以上9枚でした。

 こうやって選ぶと、このうち実に4枚が6月リリースの作品で、なんか最近ようやく新譜が聴けてる自分の実情がモロに出てるのかな…と不安になりますがでもどれもすごく魅力的な作品だと思いました。あと、今回は9枚中4枚が女性の作品で、この割合の高さは自分のこういうののでもかつてないこと。今回選外になったものも含めて、今年は女性SSWやバンドの作品にいいものが多いように感じてます。

 下半期も、しっかりと素晴らしい新譜に出会えるよう、時間と情報を確保していきたい所存です。まさに今日、シャムキャッツ解散という悲しいニュースがあったりもしましたが、そういうことがいくら続いても生きていかないといけない限りは、強く生きていきたいです。

 なお、PIZZICATO ONE『前夜 ピチカート・ワン・イン・パースン』については、最初選んでいたんですが、「こんな素晴らしすぎる曲目を作者本人が歌ったらそりゃいいに決まってるだろ反則でしょこんなのは…」と思われたので、まあ実際ベスト盤を超えたベスト盤みたいなライブ盤であることもあるため、“殿堂入り”的ポジションとして選外にしました。ぶっちゃけ上半期で一番好きなアルバムは断然これです。

 

 最後に、SpotifyApple Musicそれぞれで曲目を変えたプレイリストを作ってますのでいかに貼り付けておきます。

*1:京都を歌った曲でここまで晴れやかにブチ上げた曲あるかなあってくらいブチ上がってて、初め聴いた時笑ってしまった。