ブンゲイブ・ケイオンガクブ

本を読まない文芸部員と楽器を練習しない軽音楽部員のような感じのブログ。適当な創作・レビュー等々。

コード進行の話:Ⅰ→Ⅳ反復のキャッチーさについて

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 前回コード進行についてざっとした記事を書いたのは、今回のこの記事に繋げるためでした*1

ystmokzk.hatenablog.jp

 前回の記事のサムネイル画像をLoe Reedにしたことで言いたかったのは「コード進行はシンプルなものでもいいものはいいんだよ」ということでした。そして今回は、世に無数にあるコード進行の中でも最もシンプルなもののひとつである「Ⅰ→Ⅳ」の反復に焦点を当てて、その働きとキャッチーさについて見ていきたいと思います。

 

 ただ、今回のテーマは、普段コード進行のことについて考えることのない人が読むとちょっと分かりにくいと思います。以下でも簡単な解説を書きますが、それよりも例によって作成したSpotifyのプレイリストで今回選曲した楽曲を聴いてもらった方が雰囲気がわかるかもしれません。確かにこういうシンプルな繰り返しなのにグッと来る展開ってあるよね、という、そういう楽しみ方ができる文章になっていれば幸いです。

 

 はじめに(おさらい?補足?):Ⅰ→Ⅳ進行とは?

 はじめにざっくりと今回扱うコード進行について補足します。読み飛ばした方がいいかもしれません。

 コード進行の基本となる、ブルーズ形式以来のトライアドのスリーコードについては前回ざっくり書きましたが、これらの機能を補足します。

 Ⅰがトニック、Ⅴがドミナント、Ⅳがサブドミナントという、この三つがトライアドと呼ばれる基本コードです。まず、トニックはその楽曲の“基調となるコード”で、このコードが鳴ってる時は最も「安定した感じ」が響きから得られます。次に、ドミナントはトニックの逆で「不安定な感じ」とされています。試しにギターでC→Gと弾くと(この場合CがトニックでGがドミナント)、別にこれよりも不安定なコードはいくらでもあるよな…とは思います。しかしC→G→Cと弾くと、GからCに帰ってきたときに、なんだか安心する感じがあるかと思います。ドミナントは、不安定というよりも、トニックに戻ろうとする性質がある、ということの方が重要な気がします。

 その上で、サブドミナントですが、これはトニックとドミナントの中間とされ、「トニックほど安定しないが、ドミナントほど不安定でもない」「ドミナントほどじゃないがトニックに戻ろうとする性質がある」などと、こういう論理として登場すると、実に中途半端な存在のように聞こえてきます。

 

 ようやく話が今回のテーマに戻りますが、今回テーマにするⅠ→Ⅳの反復というのは、つまりトニックとサブドミナントの反復ということになります。安定したトニックと、ドミナントほど安定していないこともないサブドミナントの繰り返し、というと、実に安定した、悪く言えば退屈そうなコード進行そうだと、今までの話だとそう思えてしまう気がします。

 しかし、実際はそうでも無い気がするんです。むしろⅠ→Ⅴ繰り返しの方がまだドラマチックさがなくて退屈かもと思ったりします。Ⅰ→Ⅳ反復は案外ドラマチックでロマンチックな感じがする気がします。それが何故なのか、筆者の知識では全然言葉にできる気がしないので、実際にこのコード進行が有効に使われてる感じのする楽曲を順番に見ていきながら考えてみたいと思います。

 

本編

 いつものとおり、時代を下っていきます。なお、今回はⅠ→Ⅳ反復でかっこいい瞬間があれば取り上げてますので、「Ⅰ→Ⅳ反復だけで完結する曲」といった縛りは設定していません。30曲あります。30曲集めました。

 

1960〜1975

1. Little Honda / The Beach Boys(1964年)

www.youtube.com 前回の記事でスリーコードのポップス化におけるPhil Spectorの功績を取り上げたけど、それを継承してロックンロールと融合させたのが初期のThe Beach Boysなんだと思う。ロックンロール的な直進性をさらに高めたビートにストリングス要らずのコーラスワーク、そしてスリーコードポップ。これらが意外にも初期でしかやっていない要素だからこそ、とりわけ初期という愛好家が結構多くいるんだと思う。

 そしてこの曲においてはもう既に、何か後世のパワーポップめいたフォルムさえ得ている。後世ほど規律立った歪み方ではないけれどもしかし小気味好く規律的に刻むリズムギターのリバーブ感はこの時代特有の良さがあり、またヴァースのリズムの変則的な具合は様々なロックンロールのリズムパターンがあった1950年代の名残を感じさせ、かえって今のインディロック的な通常の感覚からは特殊に感じれる。そしてコーラス部での、Ⅰ→Ⅳの反復でキャッチーなメロディーとコーラスが一気に通り過ぎていく。単純だけど反復の回数分連打されるこのメロディのキャッチーさの機構は、今後ずっとパワーポップの多くの楽曲で無意識的に踏まえられていく類のものだ。1、2、3と駆け上がっていく歌詞もアホなキャッチーさだけど、清々しい感じがする。

 

2. Walk On By / Dionne Warwick(1964年)

www.youtube.com Dionne Warwickと書いてバート・バカラックと読みます、というのは嘘だけど、有名なBurt Bacharachの曲は大抵彼女によって歌われているので、密接な関係があることは間違いない。作曲家・編曲家として偉大すぎる功績を持つBurt Bacharachについては、その苛烈なほどに美しいメロディやアレンジがソフトロックや、後年の渋谷系ブーム等で何度も参照され、またそんなのがなくても日本でもCMで聞くことがたまにある程度には世界的な巨匠。

 この曲は彼と彼女のコラボレーションの最初の大ヒット作となった。アダルティックさと憂鬱の間を彷徨う歌がコーラスで一気に視界が開けるようになる、そのダイナミクスこそがこの曲最大の魅力。そのコーラス部は3音のピアノアルペジオに導かれて、Ⅰ→Ⅳのメジャーセブンス化した反復によって構成されている。メジャーセブンス化したⅠ→Ⅳの響きは、ただのメジャー調のそれの牧歌的なものから大きく変化し、翳りや寂寥感の質感が現れてくる。この曲のコーラスはまさにその荘厳な感じが、実にシンプルなコード進行から発せられていて、Ⅰ→Ⅳ反復のポテンシャルの高さを伺わせる。

 

3. My Girl / The Temptations(1964年)

www.youtube.com モータウンの音楽性にあまりソウルとかR&Bとか思ったことがない。適度にムードのあるいいポップスだなーって思うことの方が多くて、下手したらPhil Spectorとかと同じくくりで聴いてるかもしれない。作った当時の本人たちもディープさよりもライトさを積極的に演出していたと聞くから、ポップス的に聴こえるのはむしろ楽曲のつくりが的確なんだと思う。

 カバーも多く下手したらカバーの方が有名まであるこの曲も、大らかで優雅なポップスの感じで聴いてる。冒頭から繰り返されるⅠ→Ⅳの反復に乗るギターのラインは細くシンプルながら雄弁にこのコード進行の隠し持ったシックさ・ジェントルさを描き出し、穏やかに展開するコーラス部の華やかさとの連続性は自然でかつなんか理想的だ。次第に管弦楽隊も混じって華やかになればなるほど、このシンプルな進行特有のぼんやりさとシックさの機能について思ったりする。

 

4. Do You Believe in Magic? / The Lovin' Spoonful(1965年)

www.youtube.com The Lovin' Spoonfulみたいな感じの中庸な1960年代のバンドを現代的な目線でどう評したらいいんだろう…と考え込む時がある。フォークロックと呼ぶにはもっと適任のアーティストが幾つもいるし、ソフトロックと呼ぶには華やかさ・繊細なロマンチックさが足りない、しかしバブルガムポップとくくれる程にポップに徹しすぎてる風でもない。おまけにボーカリストは上の動画ではなんかよく分からん楽器を弾いてる…*2

 それでも、この曲のタイトルが示すテーマとそれを示すに相応しいキャッチーでピースフルなトラック・メロディは、いつの時代でも時々こうやって振り返られる類のものだと思う。軽快なシャッフルのリズムも、ほどほどに穏やかでキャッチーな楽器アレンジも、この“空想の中でしか存在し得ないような爽やかな春の陽”の感じがする。そしてその軸となる楽曲の中心には、Ⅰ→Ⅳの反復に載せた伸び伸びとして突き抜けすぎないメロディがある。激烈じゃないし凄惨じゃないしシックでもないようなものにも魔法は余裕で宿る。そういった類の魔法も忘れちゃいけないなって時々は思う。

 

5. Heroin / The Velvet Underground(1967年)

www.youtube.com 少ないコードガチ勢としても最初の偉大なるバンドかもしれない彼ら。単純なコード進行にリズムやアレンジ等で様々な退廃や荒廃の質感を生み出していった彼らの軌道には、コード進行という概念は楽曲の構成要素のひとつではあるけど楽曲の本質ではないのかも、と思わせてしまうだけのものがある。まあ3rdなんかはコード感の演出方法の秀逸さが印象強いけども。

 それで、この曲なんかはコード進行的には本当にⅠ→Ⅳの反復のみでできている。作曲者Lou Reedの他のⅠ→Ⅳ反復曲としては他に『Walk On The Wild Side』という大名曲があるけれども、飄々とした描写とムードを持つあちらに対して、こちらは非常に不安定で不穏なムードに満ちている。まあテーマがテーマなので…。弛緩とラッシュとをギターのカッティングとBPMの変更を中心としたテンションの昇降で演出しきったこの曲では、むしろそんな中でも歌のメロディはまだポップさを有していることの方が不気味に感じられる。普段は長閑な情緒を持つⅠ→Ⅳ反復の響きがここまで神経質さを有するのも珍しいような気がするけど、その歪なポップさがこの曲最大の魅力であり達成だと思ってる。

 

6. Walk On The Wild Side / Lou Reed(1972年)

www.youtube.com 上で言ったところの、その大名曲。本当は同じアーティストでこういうリストで2曲以上を取り上げたくないけど、この曲は流石にこのテーマだと無視できない…。上の動画はライブバージョンで、ライブだとこんな感じになるんだ、って感じで新鮮。

 楽曲としては、以下の弊ブログ記事ですでに紹介済み。彼のドゥーワップ愛好家としての側面が最も怪しくも魅力的に発揮された楽曲なんだと思う。

ystmokzk.hatenablog.jp

 

7. DOWN TOWN / Sugar Babe(1975年)

www.youtube.com 現代のシティポップ的インディロックのアプローチを考える上での大本命のひとつがSugar Babeの唯一のアルバムであることは疑いようがない。より完成されきってかつ時代性も強く帯びた後の山下達郎諸作と比べても、こちらにはまだバンドのいなたい具合が残っていて、かつそのいなたさがそのままシティポップ的な雰囲気に繋がっている。1975年という時代背景がそうさせるんだろうけど、インディロック的にはこっちの方がとっつきやすい音楽性かもしれない。

 そして、この曲で使われるⅠ→Ⅳの反復は、それぞれがメジャーセブンス化したものとなっている。この曲で特に有名なあのキャッチーなコーラスはこのシンプルでスマートな反復から生まれている。軽快にして薄らとソウルフルな質感もある、素晴らしくタイムレスなキャッチーさのあるフレーズだと思う。これに慣れすぎてしまうと、コード進行を凝りに凝ったものにしなくてもお洒落なシティポップができるんだ、っていう思いを抱いてしまうのかもしれない。

 

1976〜1990

8. Do You Wanna Dance? / Ramones(1977年)

www.youtube.com Ramonesはそのスリーコード根性もさることながら、平坦なビート・リズムギターという作法を生み出した点が画期的だったところであり、特にそのスタイルでいくつかのオールディーズポップス的な楽曲をパワーポップに変えてしまった。「オールディーズってパワーポップじゃん!」と、原曲だけを聴いたら思わないようなことを思わせてしまうのは、正しく彼らの手腕によるものなんだと思う。

 このカバー曲はその最たるもの。元々The Beach Boysのカバーが有名だったけれども、ここではそれよりもさらに単純化を進めて、「Ⅰ→Ⅳをすげえ単純なパワーコードで反復するだけなのに妙にキャッチーなメロディのある曲」と成り果てている。ポップソングってここまで色々な要素を単純化しても成立するんだ…という意味では、これはある意味とても実験的で先鋭的なトラックなのかもしれない。ドラムのフィルインさえ全然ないのは本当になんかすごい…ここまでストイックにただの8ビートを叩けるものなのか、って感じ。Ⅰ→Ⅳ反復ののっぺりした性質をむしろよりのっぺりさせることで生まれるタイプのポップさというか。

 

9. Dreaming / Blondie(1979年)

www.youtube.com Blondieの立ち位置もまたよく分からない。NYパンクに位置づけるには売れすぎてしまっているし、シニカルさとかもたりない気がする。そもそもパンクなのか?とも思ったりする*3。そして、1980年より前のデビューなのに、むしろ1980年代ポップスの感じが楽曲から立ち上ってる気がする。もしかしてそういう意味でオリジネいたーなのか。。

 この楽曲も、そういった時代性に微妙に引き裂かれた、演奏はややパンク、楽曲自体は1980年代ポップス調な不思議な曲。ただし、楽曲としてはかなりⅠ→Ⅳ反復が占める割合が大きい割にはあまりそう感じさせず、僅かなⅠ→Ⅳ以外の展開でメロウさを表現した上でのメロディ展開の巧みさが光っている。原曲の溌剌さの裏にあるこの哀愁の感じをよく掴んだ上でのスロウテンポで感傷的なカバーがSmashing Pumpkinsにて録音されていて、そちらの方が原曲よりも好き、というかそっちでこの曲を知ったんだけれども。

www.youtube.com

 

10. Atmosphere / Joy Division(1980年)

www.youtube.com 前回のコード進行全般の記事でⅠ→Ⅳ反復の事例のひとつとして紹介済み。この曲のポップさには、彼らが後にNew Orderで成功するポップソングの源流が隠されているような気もする。しかしながらポップなメロディ以外はNew Orderの構成要素とは微妙に異なるような気もするし、それにIan Curtisの存在感に溢れたボーカルはやはり唯一無二な感じがある。色々な不思議な組み合わせの上で成立していて、同じくIan Curtis死亡後のシングル曲である『Love Will Tear Us Apart』よりも、その存在自体に奇跡的な感じがある。

 

11. In Between Days / The Cure(1985年)

www.youtube.com The Cureというバンドはポストパンク・ニューウェーブのバンドとしてキャリアを始めながらも、1980年台中頃以降はそのフリーク具合を残しつつも一気にポップさを増していき、少なくともシングル曲においては最もキャッチーな類のニューウェーブアーティストとして、多くの人々の支持を得ていくことになる。そしてそんなシングルに引っ張られた人がアルバムでよりディープな楽曲を聴いてうまくハマると、その奥深くも奇妙さと陰惨さに満ちたダークネスに接続していく。

 この曲はそんなポップ転換期にリリースされたキャッチーな楽曲のひとつ。3分弱で軽やかに駆け抜けていくそのポップソングとして洗練されたフォームは、特にアコギの爽やかなカッティングが存在感があって印象的。そしてその多くの部分でコードはⅠ→Ⅳの反復で進行していき、そして色々手を替え品を替えな伴奏やRobert Smithのフリーキーでキャッチーな節回しはその同じ反復の上に様々なラインを描いてみせる。特に終盤の40秒ほどは概ねこのコード進行の反復だけで占められるけども、単調には感じられずむしろ演奏が途切れた時の甘い寂寥感の方が香り立つ様に、彼ら流のポップソングの手際の鮮やかさが現れている。

 

12. Drive It All Over Me / My Bloody Valentine(1988年)

www.youtube.com シューゲイザーというジャンルの代表のように扱われるMy Bloody Valentineだけど、彼らがそのような方向に走る前はむしろネオアコギターポップ的な音楽をしていて、チャチな録音とサウンドで可愛らしいメロディを紡いでいたことは、そこまで知られていない。コンピレーション等でもフォローされていない、前史的な扱いをされてることもあるため、それは仕方がないことではある。

 彼らが少なくともオルタナティブロック化した最初のEP『You Made Me Realize』は、そんな前史の直後ということもあって、まだギターポップ的な要素が幾らか見られる。この曲もやはりそんな1曲であり、フォーキーなトラックにディストーションギターとボーカルトラックの工夫でシューげっぽさが付与されている。そんなトラックで印象的なのが、冒頭のⅠ→Ⅳの反復で爽やかさと重厚さが薄らと並走する様。歌に入って以降の構造的にもⅠ→Ⅳで構成される部分は多く、彼らの前史時代の素朴なポップセンスがそこにはこっそりと花開いている。

 

13. Monsterpussy / The Vaselines(1989年)

www.youtube.com 必ずしも多くの人々に向けて作られるわけではない、インディーロックというものは本来、どんなテキトーなことをしてしまっても構わない、自由なジャンルなんだ、ということをThe Vaselinesなどを聴いてると何度も思い出す。くだらない思いつきで作られてそうなくだらない楽曲が、しかし時折やたらとキャッチーに響くのはそれでも彼らの才能ゆえだったとは思うけども。本当はNirvanaのCurt Cobainもこれくらい自由に音楽をしたかったんだろうなと、彼のThe Vaselinesに関する文章を読むと思ってしまう。

 この曲も、今回のテーマであるⅠ→Ⅳ反復を非常に雑な感じで演奏している。そもそもMonsterpussyって何だよひどいやろ…っていう単語を謎テンションで連呼してるのがひどい。今回のリストの中でも最もジャンクなⅠ→Ⅳ反復だけども、こういうのもあってもいい、たまにはこういう無茶苦茶なやつとかに振り回されてたいよね、っていう気持ちは彼らのことを知ってからずっとあって、こういうのばっかり聴いて終わってしまう休日はクソだけども、でもたまにはそういうのもいいかなって思う。

 

14. Summertime / Galaxie 500(1990年)

www.youtube.com Galaxie 500もまた、非常に思考停止的なコード反復を魅力とするバンド。ただ彼らの場合は、本当に2つか3つくらいのコードのざっくりとした反復を延々と続けて、その中にかつてThe Velvet Undergroundが少し触れたような“空虚な永遠性”みたいなものを延々と探し彷徨い続けてるような性質がある。そのコード反復による音の光景は常にぼんやりしていて、その辺の性質が彼らがスロウコアの先駆けとされながらも、彼ら自身はあまりスロウコアに含まれない所以なのかなあと考える。

 この曲は彼らの3枚のスタジオアルバムのうち、最もそのスタイルに手慣れていた最後の1枚に収録された楽曲。どこか象徴的な楽曲タイトルの下で、この曲はついに延々とⅠ→Ⅳの反復だけで楽曲を構成し、Ⅰ→Ⅳのコードの揺らぎの中を延々と彷徨い続けてみせる。そのコードカッティングによる揺らぎは確かに、永遠のぼんやりした光景が続く夏休みのようであり、何も分からないのにかけがえなく感じられるような輝き方をしている。この、退屈さとぼんやりの中に生まれるイノセントなサイケデリアは、彼らの他を探してもなかなか同質のものがなくて、結果彼らの作品を聴き続ける理由のひとつになっている。

 

1991〜2000

16. Everybody Needs Somebody / Primal Scream(1994年)

www.youtube.com ひとつ通し番号が飛んだけど、ひとまずは気にしないでください。

 Primal Screamの『Screamadelica』ほど現代から見て「…?」ってなってしまう「歴史的名盤」も珍しいかもしれない。ひたすら『Movin' On Up』や『Loaded』みたいな今作的な爛れかえったような緩やかなダンストラックで占められていればまだしも、もっと曖昧にハウス的だったりスピリチュアルな感じだったりのトラックが多くて聴きづらい。そういったアシッドな聴きづらさを抜いてよりルーツに接近した次作『Give Out But Don't Give Up』は、しかし今度はえらく音がくっきりとアッパーなロックに寄りすぎた曲が多くて、歯がゆい。両作に共通する”心地よい気だるさ”の楽曲を集めて聴くとしっくりきたりもしそうだけど。こういう気だるさの中でこそBobby Gillespieのへにゃへにゃ優男ボーカルは一番映える気がする。

 この曲は、そんな両作共通の”心地よい気だるさ”を有する楽曲のひとつにして、タイトル的にも曲順的にも『Give Out〜』の大団円感を担保する楽曲。サザンロック的アーシーさを最大限に尊重したそのサウンドは非常に大らかで、そしてその大らかさの中心にはⅠ→Ⅳのアコギによるコードストロークの反復がある。Ⅰ→Ⅳには、延々と弾いていたくなるような安らかさがあると思う。Ⅰ→Ⅳを離れて展開する時の力強さも含めて、この曲の静かでしっとりしたエモーションはなんだか感動的なものがある。スコットランド人でありながら、彼らは確かにサザンロックが有するそんな大らかで偉大な性質を掴むことに成功してたんだなあって、今回この企画をやるにあたってこの曲を見つけて、ちょっと驚いたり、嬉しくなったりした。

 

17. NEW MUSIC MACHINE / Cornelius(1997年)

www.youtube.com 渋谷系という日本のムーブメントは、単にオシャレ音楽だとかカジュアルな引用だとかだけで語れるものでは決してなく、様々な側面を持っていたものだと思う。ひとつの側面として、渋谷系の中で輸入・再発見され生まれたギターロックの系譜みたいなのが確実にある。Salon musicSeagull Screaming Kiss Her Kiss HerVenus Peterなどが挙げられるけども、共通するのは彼らがみんなトラットリアレーベルに所属していたこと。思うのは、トラットリアレーベルってギター音楽が多いよなってこと。小西康陽氏のReadymadeレーベルがそういう感じじゃないのと対照的な印象を持ってる。

 そのトラットリアレーベルの大将・小山田圭吾Corneliusが、親分としての威厳を賭けて(?)発表したキレッキレのギターロックがこの曲。叩きつけるようなビート、硬質で乾いたアタック感をガンガンぶつけてくるギター、そして収録アルバム的なカラーの一貫性のために盛り込まれた様々なストレンジなエフェクトを伴って疾走するこの曲には、俺が一番格好良くて過剰でかつ効率的なギターロックをやってみせる、という自負が感じられる。冒頭からのⅠ→Ⅳの激しい反復がとても印象的で、歌が始まってからのスムーズさとのギャップが格好いい。その歌についても、1度しかないAメロはⅠ→Ⅳ反復で駆け抜けていき、サラサラとした印象を残した上で展開していく仕組みになっている。

 

18. ウィリー / スピッツ(1998年)

フェイクファー

フェイクファー

  • アーティスト:スピッツ
  • 発売日: 2008/12/17
  • メディア: CD
 

 流石に邦楽のマイナー曲になると動画が無い。

 スピッツについてはもはや説明無用かとは思うけれども、あえて何か書くならば、この曲が含まれているアルバム『フェイクファー』の時期が最も自分たちの思い描くサウンドと実際のギャップに苦しんでいた時期らしく、もっとエッジの効いたロックサウンドにしたいのに何故か出来ない、という葛藤を前提に置いて聴くと、この、アルバム中ではロック寄りの楽曲についての見方も多少違ってくるかもしれない。

 この曲では拍ずらしのイントロからヴァースにかけてⅠ→Ⅳのザラザラした反復が続いていく。ここの反復は明らかに単調さ・停滞感自体を目的として鳴らされていることに注意したい。気だるげなヴァースからささやかなコーラスに展開し、そしてミドルエイトで少し感傷的になりながらも、またバカっぽいヴァースのコードに戻っていく、という展開の仕方の侘び寂び具合が、実に“理想的なアルバム曲”としてのフォルムになってて、そんな性質がとても魅力的に感じられる。

 

19. Starfire / Low(1999年)

www.youtube.com この曲は以下の記事ですでに紹介してた。今回、以前の記事との選曲の被りがかなり多くて、まあ仕方ない…と開き直って書いてます。

ystmokzk.hatenablog.jp 典型的なスロウコアバンド・Lowのアルバム『Secret Name』はかのSteve Albiniによってプロデュース・録音されており、出音を出音そのままに無骨に録音することを史上とするその録音方針はスロウコアの情緒と相性が良くて、楽曲の充実もあり上記アルバムはLowの、ひいてはスロウコアの名盤のひとつに数えられている。とはいえ、ドラムレスで割と大人しい曲が多いアルバムでもあるけど。

 そんな中でこの曲ははっきりとバンドサウンドが発揮された楽曲となり、その重々しさの質感の陰にAlbini録音という印象が付きまとってしまう。その生々しい重力感でもってⅠ→Ⅳの反復を続けていくのがこの曲の基本軸だ。本当に質量的に重々しい感じのするサウンドは、コードがⅠからⅣまで上昇する時のその引き摺るようなタフな重み自体で聴かせる。重々しくてもコード自体がⅠ→Ⅳ反復であるために感覚としては明るい部分もあり、あてのない放浪の中で意味もなくぼんやりと空に希望を感じるような、そんな気持ちのことを思ってしまったりする。

 

20. I'm Always In Love / Wilco(1999年)

www.youtube.com 『Summerteeth』というアルバムでWilcoは当時の自分たちに出来うる限りのポップセンスの発揮に尽力した。正確には、ポップでキャッチーで、なおかつ自分たちが納得しうる限りの音楽的冒険に情熱を費やした。もう少し詳しいアルバム評は以下の弊ブログ記事にあります。今回本当にこういうのばっかだな。。

ystmokzk.hatenablog.jp その結果できた楽曲の中でもとりわけ分かりやすく明るくキャッチーなのがこの曲。冒頭から、本作特有のアナログシンセの音が無骨なギターサウンドと共にⅠ→Ⅳの反復を駆け上がり、可愛らしい雰囲気。ヴァースのメロディもⅠ→Ⅳの反復の上にあり、重ねられたボーカルの印象も伴って、楽曲の平坦さに少しノスタルジックな冒険の雰囲気を覚える。特に曲半ば以降の、Ⅰ→Ⅳ反復の中をアクセント的に鳴らされるピアノの音で、ここで急にロマンチックさが付与されるのが、とても効果的なアレンジだと思う。終盤の延々とⅠ→Ⅳの反復でどんどん盛り上がっていく感じも実に楽しい、実に素敵なⅠ→Ⅳソングだ。

 

2001〜2010

21. The Modern Age / The Strokes(2001年)

www.youtube.com ガレージロックリバイバルについての概観もそういえばパワーコードの記事ですでに書いてたな…重複になるけど、かつてのパンクがそうであったように、複雑化により閉塞的になりつつあったロックの軽量化・ハンドメイド感の奪還としてのガレージロックリバイバルにおいて、The Strokesはまさにその旗振り役を担わされた。2001年の彼らのデビューアルバム『Is This It』は、そのリリース年のこともあり、“新たな時代の幕開け”というムードを過剰に背負わされてる感もあるけど、それも理解できるほどのコペルニクス的転回な軽量サウンドは、やはりとても印象的なものだ。

 とりわけそのサウンドの象徴となるのはこの曲だと思う。The Velvet Undergroundの『I'm Waiting For The Man』辺りの手法を完全にハッキングしきったそのビート感、左右のギターの両方とも軽いけど役割の違う感じ、シンプルなコード進行等々の要素はどれも、ロックンロールに対する実に的確な批評性に満ちている。Ⅰ→Ⅳのベタッとした反復で展開するヴァースも、リード役のギターのリフのつけ方とボーカルの溢れ返り具合とで絶妙な調整がなされ、インディーロックはこういうのでOK!というのを広くアピールしてたと思う。

 

22. Don't Let Go / Weezer(2001年)

www.youtube.com よく考えるとWeezerのこのアルバムも2001年だった。このアルバム、リバイバル勢と同じくらいに簡素化されたサウンドなのに、何故か圧倒的に旧世代感がある気がして不思議。ギターの歪み方が非常にベッタリしてて保守的な感じに聴こえるから?

 ただ、初期Weezerが生み出したパワーポップの手法を保守的にブラッシュアップした具合のその楽曲・サウンドは、ブラッシュアップされただけあって実に効率的・機能的な面があるのも事実。その装いはWeezerRamones化したような感じがある。アルバム冒頭を占めるこの曲は特にその感じがあって、Ⅰ→Ⅳの反復を実にベッタリしたディストーションでやりきっていく様はこれはこれで洗練された感じがあって、ここに確かに、パワーポップのひとつの手法の定着化が確実に存在するんだなと認識してる。

 

23. Remember / The Ravonettes(2003年)

www.youtube.com The Ravonettesは実に故意犯的なところから始まったユニットだった。コンセプトにコンセプトを重ねて自身を雁字搦めにすることで初めて突破的な個性を得てその活動が成立する、という意味ではとても2000年代的な活動様式なように今では感じる*4。「男女のユニットで、古いB級映画みたいなヴィジュアルイメージで、使用コードを限定して、その上でサイコキャンディする」という徹底的な縛りで2003年にメジャー調・マイナー調の2枚のアルバムをリリースしたのはまさに「ある種の皆は、こういうニッチなの好きでしょ?」の極みだった。

 メジャー調の方に当たるアルバム『Chain Gang Of Love』では、そのコンセプト故にメジャーキーの楽曲が連発されることから、とりわけサイコキャンディ度の非常に高い作品となっていて、特に冒頭のこの曲は、アルバム『Phychocandy』リリース以降で最も理想的にサイコキャンディした1曲かもしれない。ノイズポップを男女ユニゾンで歌うことの官能が、この楽曲の特にⅠ→Ⅳ反復の上でリフレインするメロディには実に濃く詰まってる。

 

24. Sports Wear / Sports(2004年)

www.youtube.com 日本のこの時代の下北沢系ロックバンドの中でも、ギターサウンドの完成度の高さにおいてはSportsの1stアルバムが頭一つ抜けていた印象がある。この検索という概念を放棄しすぎた名前のバンドは、ポップでキャッチーなギターロックを志向しながらも、そのギターサウンドの拘りにかけては、特に空間系エフェクトの使い方に長け、宇宙的なサウンドの構築を得意としていた。もっと成功していたらどうなってただろう。

 彼らのデビュー曲でもあるこの曲は、いきなりそんなギターサウンドの魅力が頂点に達する楽曲。Ⅰ→Ⅳの大らかな流れを反復しながらも、ギターの動きとしては実に多彩かつ効果的なリフやプレイを連発している。裏打ちの軽快なリズムの上で自在に飛び回るこのギターは、所々でシューゲイザーチックにも稼働し、概ね2コードの楽曲を実に色とりどりに飾っていく。明らかにギター1本では足りないサウンドしてるけど、ライブではどうしてたんだろう。

 

25. Never Stops / Deerhunter(2008年)

www.youtube.com Deerhunterについても、改めて説明要る…?のレベルのバンドかと思われる。当時はニューゲイザーの一角としての認知のされ方もあったけれども、今ではタフでインディでストレンジで幻想的なギターロックを演奏し続ける、USインディきっての名選手といったところ。特に彼らの場合、サウンドやスケール感が肥大化しないところが、長く続いていて息切れも感じさせない理由のひとつなのかと思ったりする。

 彼らの出世作『Microcastle』において『Cover Me』〜『Agoraphobia』という伝説的な冒頭の流れからさらに駄目押しのように流れてくるこの楽曲は、彼らがオールディーズ調のポップスをそのままシューゲイズ化させてしまう異能を有していることを強く印象付けた。その、『Phychocandy』も『Loveless」も通過しないままに直接オールディーズをシューゲイズさせたような感覚は、特にコーラス部の強烈なⅠ→Ⅳの反復にて完全に表現されている*5

 

26. Crazy For You / Best Coast(2010年)

www.youtube.com Best Coastの1stもこの前の2010年特集で扱ってた…今回、本当に被りが多い。彼女らの立ち位置やアルバム評についてはこちらをご覧ください。

ystmokzk.hatenablog.jp アルバムタイトル曲にしてリード曲なこれは、まさにこれでもかというくらいのⅠ→Ⅳ反復でゴリ押すパワーポップ。なんでこれで名曲っぽくなるんだよ!というくらい単純な作りをしていながら、でもやっぱいい曲だ…って思えるのは、その絶妙にノスタルジックなリバーブのかけ具合だったり、ウーウーいうコーラスのキャッチーさだったり、ドラムフィルイン等に所々挟まるマニアックなバンド演奏へのフェチズムだったりのせいだろうか。メロディが変わってからもⅠ→Ⅳをやり通す様は本当に立派。

 

2011〜2020

27. Chelsea Says / ART-SCHOOL(2012年)

BABY ACID BABY

BABY ACID BABY

  • アーティスト:ART-SCHOOL
  • 発売日: 2012/08/01
  • メディア: CD
 

 ART-SCHOOLについては、この曲が入ってるアルバムの手前で全曲レビューが止まってしまってる…。彼らは本当に優秀なインディロック蒐集家であり、ファンであり、そしてフォローワーにして、そのフォローの結果を独自の一貫した世界観に昇華するパフォーマーであり続けてる。今作はSteve Albiniのスタジオで、Number GirlやMo'some Tonebenderのメンバーも交えたドリームチームで製作された、やたら声の状態が悪いアルバムである。

 この曲は彼らの愛するカレッジロック的な疾走感を、このメンバーにて投げやりなくらいに元気よく演奏した結果、という感じの爽やかさに満ちている。ドラムのフィルインに導かれてギターがⅠ→Ⅳのコードで掻き毟る、これだけでもうロックって格好いいなあ何も他にいらねえなあ、と自分なんかは思ってしまう。そして同じコード反復の中できっちりと次の展開に繋げるメロディを準備できるセンスも確かにここにはある。そのうち全曲レビューでちゃんと書きます。

 

28. Silver / Waxahatchee(2017年)

www.youtube.com この曲の入ってるアルバムの1枚前のアルバムくらいから、気づけばこのSSWがオルタナティブロック化してて、もともと弾き語りでやってたこの人のそのあまりの「そりゃそんなことしたらいいに決まってる」感に拍子抜けしつつもでもいいなあって思い続けてる。当時のこの曲の入ったアルバムも当時の年間ベストで選出したし、今年のアルバムも良かったし。

 この曲は確かリード曲だったけど、まあ見事なⅠ→Ⅳのオルタナ式のゴリ押し。左右二本のギターが同機したり分離したりでザラザラした音の壁を張りながらⅠ→Ⅳの移り変わりに並走していく様は、もう本当にこういうドライブ感が好きだなあ、としか言いようのない、説明しようのない良さに満ちてる。家の外を歩いたり車でどこか行ったりするときには時々やたらと、こういうドライブ感が欲しくなる。

 

29. Replaced / Big Thief(2019年)

www.youtube.com 普通のポップソングの構成に全然とらわれてない彼女たちの2019年の2枚のアルバムの中に今回のテーマに合う曲ないかなと探して、案の定あったときは笑ってしまった。その、牧歌的という言葉すら生ぬるいほどの牧歌性と、そこに時々挿入される神懸かり感や激情などが、大概やり尽くされたと思われてたこういうフォークロックに全然まだやれることがあることを教えてくれたのは、去年の鮮やかな思い出だった。

 この曲もまた、非常にささやかなサウンドでⅠ→Ⅳの反復が鳴らされている。アコギの鳴らし方が、普通にジャラジャラ弾いていなくて実に抑制的に鳴らされているところがポイントで、それとトレモロがかったエレキギターの点描のようなプレイとが、トラックに背の低い草原とそこに風が吹き込むような光景を、草の匂いがしそうなレベルで表現している。そして、上に貼った動画はこの曲の…どこでライブ演奏してるんだこの人たち。テーブルに直接ブラシでドラムの代わりができるのをこの動画で初めて知った。なんて洒落てるんだ…。

 

30. ICU / Phoebe Bridgers(2020年)

www.youtube.com 今年のリリースの楽曲です。アルバムの感想は以下の記事で書きました。いや本当に素晴らしい、様々なサウンドをとても有効に駆使したSSWってこんなことになるんだっていうアルバムでした。

ystmokzk.hatenablog.jp この曲は、冒頭からⅠ→Ⅳで鳴らされる、遠くのさざ波のように強弱のついたイントロから実にスケール感の清々しさが伺えるところ。歌が入ってもしばらくはこのⅠ→Ⅳで進行し、その間の冒険の景色を描写してるかのような感じはとても鮮やかで、そこからボロボロのサウンドでブレイクした後、たおやかにコーラスに没入していく感じは、しっとりとしてかつドラマチック。この若いSSWの内ではどんな光景が広がってるんだろうと、そのイマジナリーな快感にしばらく浸っていたいような感覚をまだずっと引きずってる。

 

このリストの1位

 今回の企画をすると決めた段階でいの一番に選曲したのが以下の曲です。というか、これと似た曲を探すところから今回の企画を着想しました。

 

15. Sometimes Always / The Jesus And Mary Chain(1994年)

www.youtube.com シンプルなコードでコンパクトなポップソングを量産するアーティストは、小説家で言うなら短編の名手みたいなものなんだろうか。違う気がする。

 前回のコード進行概観の記事でも特別扱いした彼ら。スリーコードでいくらでも楽曲を作り続けていくのは、タフなのかバカなのかよく分からなくも思えるけれど、さらに進んで、やたらツーコードの反復ばっかりしてる楽曲が多くを占めるアルバムがある。1994年に彼らがリリースした通算5枚目のフルアルバム『Stoned and Dethroned』だ。急にアコースティックギターに目覚め、アメリカンロックっぽいサウンドを追求して製作された今作は、しかしながら作曲については、普段よりもさらにコード進行がシンプルな楽曲が目立っている。アコギだと得意のⅠ→Ⅳ→Ⅴの展開があんまり綺麗に響かないと思ったのか、それともアコギで3つもコードを抑えるのが面倒くさかったのか。

 そんな感じで、全17曲に渡って、かなり似通った感じの楽曲が量産されている様は、ファンから必ずしも評価の高いものにはなっていないように思う。でも、個人的にはむしろ、ここでのシンプルを極めた作曲技法や、所々のアメリカンロック的要素の「申し訳程度の」導入などを色々総合すると、このアルバムはアメリカンなカントリーロックっぽさが成立する最低限度がどこかを追求したアルバムなんじゃないか、と最近思えてきた。スコットランド人が作るアメリカンロックとしては実に舐め腐ってるようにも思えるけども、しかしこれで十分にアメリカンロックっぽく聴こえてしまう自分もいる訳で、その辺についてはこれらかどこかで考えをまとめておきたいように思ってる。

 長い前置きの末に、ようやくあのアルバムのリード曲だったこの曲について。少なくとも言えるのは、個人的にジザメリで5本の指に入るくらい好きな曲だってこと。わずか2分30秒を、ほぼⅠ→Ⅳのつーコード反復だけで、しかし男女デュエットのボーカルで駆け抜けていくこの曲から感じられるロマンチックさの広大さはなんなんだろう。上に書いたとおり、The Ravonettesは男女混声でサイコキャンディしていた訳だけど、すでにここで、本当に当時ギタリストが付き合っていたHope Sandval(from Mazzy Star)とデュエットしてたというのが、何とも絵になる話だった。

 この曲の思い切りの良すぎる曲構成にいつも唸らされる。第1ヴァースは男女交互にメロディを歌うけれど、その男性パートでちょっとメロディが変わるところ、このメロディが、Ⅰ→Ⅳのコード進行から生み出された数々のメロディの中でも最も甘い逸品なんじゃないかと思ってる*6。次の第2ヴァースでは女性ボーカルだけになって、ここではメロディを短く切って、繰り返して、そして最後にわずかにメロディが変わるところでブレイクする構成が、こんな数少ない構成要素で、ここまで展開をドラマティックにできるのかと、気付いた時はとても驚いてしまった。

 この曲の他にいいところは、楽曲のピークを間奏のギターフレーズに合わせているところ。この流れていくような感じが、実にロードムービーチックな情緒を香らせている。ロードムービー感、そう、この曲の素晴らしさを一言に集約するなら、そう言うことになるのかもしれない。男女ボーカルでのあてどない、わずか2分32秒の放浪。この短さの中に、ある種のロマンチックさが全て詰め込まれているかのような、そんな気持ちをずっと抱いてる。

 PVを見ても、短い映像の中でこれでもかと、アメリカ旅行めいた映像がカットインされる。それらのカットのあまりの「アメリカに対する憧れでそれっぽくはしゃいでます」感に思わず笑っちゃうけど、でもそういうのに憧れちゃうよね、めっちゃ分かる、野外のどファーにルーズに座ってアコギ弾いてみたいよね…!みたいな部分で、ひたすら共感できてしまう。そしてこの映像のHope Sandovalがとても綺麗で、あまりにキザすぎる舞台設定でやっぱり笑えてしまうのに、でも綺麗だ…って思う。

 この曲は今自分にとって魅力的すぎて、書くべきことが纏まらない。曲の短さすら、美しさを構成する重要な要素になってると思う。楽曲としては何重にも不器用な要素が重なっているのに、それらの要素のどれもが愛らしい。Ⅰ→Ⅳというコード進行はこの曲で使い倒されるために存在していたのかもしれない、なんて妄言を吐いたところで、このオチの見つからない項目を終わる。

 

終わりに

 以上30曲でした。

 30曲も集めれば、とか、メジャーセブンスも加えれば、とかは思うけれども、でも本当に、Ⅰ→Ⅳなんていう一番簡単単純なコード進行で、これだけの様々な魅力的なメロディやサウンドが生み出されて続けているというのは、曲をプレイリスト上で並べてるだけでも壮観でした。自分のリストはR&B関係がぽっかり抜けてるので、そういうのも含めたらもっともっと素晴らしい事例はあるだろうなあと思われます。

 元々はサブドミナントマイナーを含んだ、Ⅰ→Ⅳmの反復についても今回のリストに入れてたのですが、これはまた別の機会に回します。

 コード進行というテーマもまた、非常に見るべきところの多いテーマだと、前回と今回を書いてて実感しました。別にコード進行こそが楽曲の核だとは全然思わないけれども、でも、魅力的なメロディや情緒を生み出すにあたっては、やはり全く無視して通れるものでもないなあと思いました。が、でもまあⅠ→Ⅳの反復だけでも少なくともここに挙げた30曲みたいな魅力的なメロディは出てくるのか…とも思ったりします。

 最後に、今回取り上げた30曲のSpotifyプレイリストを貼って、今回の記事はお終いになります。なお、いくつかサブスクに登録されておらず、なおかつそれらのカバー曲は存在したという事例があったので、それらについてはカバーの方で代用していますことを申し添えます。

 

 またどこかで。

*1:というか、今回の記事の序文として書こうとした「コード進行についての簡単な解説」がなんか言うほど簡単じゃなくなってきたので、単独で記事にしたのが前回のものです

*2:オートハープという楽器らしい。アメリカのブルーグラス等のジャンルで使用されていたらしく、彼らの強みはそういったアメリカの伝統音楽をさりげなく当時最新式のポップソングに溶け込ませたことだったのかなあと思います。

*3:でもNYパンクで括られる人たちって大体皆「これパンクなの?」みたいなのばっかりかも。

*4:これはThe White Stripes等の同じようなコンセプチュアルなグループがこの辺の時代に散見されることから。

*5:一応ギターコードを調べようとしたら、なぜかタブ譜ばかり表示されてコード譜が出てこなかった…ただギターコードかき鳴らして出る音では到底無いけど、でもベースの動きがⅠ→ⅣしてるからきっとこれはⅠ→Ⅳなんだと自分を強引に納得させてこれを書いてる。

*6:それこそART-SCHOOLが『CRYSTAL』という曲でこの甘いメロディを借用している。