ブンゲイブ・ケイオンガクブ

本を読まない文芸部員と楽器を練習しない軽音楽部員のような感じのブログ。適当な創作・レビュー等々。

Mr.Childrenのシングル曲10選

f:id:ystmokzk:20201011172009j:plain

 地味ベストプレイリスト記事を書き上げた余勢でするっと10曲選べたので、こっちも書いておこうと思います。

ystmokzk.hatenablog.jp

 彼らのシングルは2020年10月現在で計38枚、配信限定シングル8枚を合わせると総計で46枚あります。これらのA面曲の中から10曲選んでます。なので、超有名曲がバンバン出てきます。早速行きましょう。年代順です。ベタ上等。

 

1. innocent world(1994年)

www.youtube.com なんだかんだで外せなかった、問答無用の平成の名曲なんだと思います。バブル崩壊後の世相の憂鬱を反映しつつ、ぼんやりとした希望まで込みで男女関係・家庭関係に入れ込んだ歌は、晴れやかなサビとそこまで丁寧に向かっていくAメロ・Bメロの組み合わせによって高々に広がって、恐らくはこの時期かもう少し後からJ-POPとして確立された何かの原型となったんだと思う。

 イントロの頭打ちのリズム、及びBメロのThe Ronettes『Be My Baby』なリズムなど、所々に完全に日本のポップス化された演奏ガジェットが組み込まれている。また、楽曲全体を貫く、歌謡曲的な暗さや野暮ったさからか完全に解放されつつ、しかし晴れきった感じとも違う、不思議な透明感もまた、J-POPという概念の雰囲気を象徴する要素で、これはまさにそういう雰囲気そのものな空気を感じる。歌もダブルトラックで録音されてて輪郭が曖昧になってるし。これに比べれば『名もなき詩』は遥かにグシャッとしてるもの。

 

2. 名もなき詩(1996年)

www.youtube.com ミスチルで歴代2番目に売れたシングル(230万枚!)にして、しかしながらPV制作がなされなかったという、そんな状況なのにこれだけ物凄く売れたという、ミスチル現象の頂点といっていい事態を引き起こした曲。そしてかつ、スキャンダラスささえ引きずって自身の苦悩を生々しい描写で投げ打って、そしてそれをこれだけ「みんなのうた」にしてしまったという、力技ここに極まれりという楽曲。

 曲構成もやたらと変わっていて、Aメロ→Bメロの後サビに行かずにAメロに戻ってからサビに突入するという流れは非常に独特ながら違和感を抱かせない力強さがある。この曲構成はのちに『HANABI』でも活用された。そしてミドルエイトを2パターン作り連続して畳み掛け、最後の転調したサビに到達するという、特盛な曲構成。最後はAメロに戻って、思いの外あっさり終わるのもラフな魅力に満ちてる。

 1980年代〜バブル期のリバーブの効いた均一なサウンドともはっきりと決別し、The Beatlesライクないなたいバンドサウンドで貫き通した。特に『Ticket To Ride』からはドラムパターンやギターフレーズなど多くを参考にしている。この、バンドサウンドのみでどうにか演奏できるところも、この曲を永遠の名曲たらしめてる要素かもしれない。これゆえに、どこかの大学のサークルで、もしくは結婚式場なんかで、ずっとコピーされ続けるんだろう。

 

苛立つような街並みに立ったって

感情さえもリアルに持てなくなりそうだけど

こんな不調和な生活の中で

 たまに情緒不安定になんだろう?

でも darlin 共に悩んだり 生涯を君に捧ぐ

 

3. 花 -memento mori-(1996年)

www.youtube.com この憂鬱なフォーク調の楽曲もまた、非常にラフにかつ端的に、個人的な憂鬱をリスナー個人の内なる歌に転化する効能に満ちていた。実にデッドなドラムサウンド・ギターサウンドのなかで、リバーブほぼ無しのカラッカラなボーカルが憂鬱な歌詞を歌い上げる様は、「1990年代の荒野」的なものを強くイメージさせる。間奏・ミドルエイトで突如ハードなブルース化するけれど、その後の間奏の枯れた光景を動き回るスライドギターのソロはとても感傷的だ。

 この正直地味な曲もまた100万枚以上のヒットをしたというのが、当時の彼らの勢いを示している。

 

ため息色した 通い慣れた道

人混みの中へ 巻き込まれていく

消えてった小さな夢をなんとなくね 数えて

同年代の友人達が 家庭を築いてく

人生観は様々 そう誰もが知ってる

悲しみをまた優しさに変えながら 生きてく

 

 

 

4. 光の射す方へ(1999年)

www.youtube.com ミスチル現象の狂騒の後の活動休止を経て、そこからの活動再開時に用意された楽曲のひとつ。制作自体は活動再開後初シングルの『終わりなき旅』よりも前だけど実際のリリースは前後した。正統派の感動を喚起させる『終わりなき旅』と比べずとも、この曲のひたすらに奔放な曲構成・サウンド・歌詞は、意気込みもあるんだろうけれどもそれ以上に躁的なテンションの高さで、アルバム『DISCOVERY』の作風よりもむしろその次の『Q』に親和性がありそう、というか。

 ともかく、あらゆる実験をした押した高密度な曲。すなっぴー外したスネアのゆるい音の活用や、打ち込み等とバンドサウンドの同機、ギターリフやベースの循環を主軸としたAメロ部の作曲法などなど。サビへの繋がり方も豪快というか無理やりというかだけど、でもそこからしっかりとキャッチーなメロディが来るところはこれはそれでもミスチルのシングル曲なんだなと思わされる。ありとあらゆる雑多な語彙を駆使しまくった、迷走を楽しんでるかのような歌詞も痛快なら、そういうのも放り出してサイケデリックなインストと化す後半の展開も奔放。後半なんてまさに「この箇所はライブでお楽しみください」な仕様にも思えるし、本当に自由な楽曲。ここまで実験し倒したシングル曲がこの後現れないのも当然だろう、というやりたい放題。清々しさ。

 

僕らは夢見るあまり彷徨って

空振りしては骨折って リハビリしてんだ

いつの日か 君に届くならいいな

心につけたプロペラ 時空を超えて

光の射す方へ

 

5. youthful days(2001年)

www.youtube.com 爽やかなバンドサウンドに乗せた爽やかな恋模様に見せかけたエロい感じが鮮やかに駆け抜けていくシングル曲。なぜだかエロまみれになってしまったアルバム『IT'S A WONDERFUL WORLD』の前哨戦としてこれほどふさわしいシングルも無い。爽やかな曲調につられて聴いた純情な少年少女は、音も歌詞もエロティックなミドルエイトの部分をどんな気持ちで聴いていたんだろう。

 こんな疾走感のある曲なのにシンプルなエイトビートになるのはサビだけで、それ以外はタムを多用した変則的なドラムプレイなのがこの曲のとても面白いところ。鈴木英哉というドラマーの特性なのかそれとも普通のリズムをなかなか叩かせてもらえないのか。ギターのアルペジオも爽やかで、ミスチルにしてはシンプルな作りのサビもまっすぐな感じが清々しい。なのにどうして、そこからあんなエロエロなミドルエイトに入るんだろう。そこが可笑しくて、作曲者の毒気が全開な感じが、それはそれで清々しく感じられもしたりして。

 

生暖かくて柔らかい温もりを抱きしめる時

くすぐったい様な乱暴に君の本能が応じてる時

苦しさにも似た感情に もう名前なんてなくていいんだよ

日常が押し殺してきた 剥き出しの自分を感じる

 

6. HERO(2002年)

www.youtube.com ミスチルのシングル最高傑作。バタバタしたドラムのフィルインから雪崩れ込む寒々しい情緒と光景が、コンパクトなAメロ・Bメロと来て雄弁なサビに到達する様は、J-POPなる概念が生み出すことのできた最高峰の情熱と美しさだと思う。ピアノやストリングスといった小林武史要素と、クランチのポロポロとしたギターサウンド等のバンドの良さとが奇跡的にマッチし、そこに小脳梗塞の危機を経た桜井和寿という日本有数の作曲者・シンガーの新境地とも言える、恋愛では無い愛の形式を物語的に昇華したスタイルの歌詞の、感傷と慈愛とが入り混じった歌詞・歌唱の素晴らしさ。最後のサビ以外ではファルセットだったのに最後地声で歌い上げるサビの切迫感は、このバンドが示すことのできた最上の誠実な情熱の形だと思う。クレイアニメによって制作された雪の降った町の光景共々、本当に美しいなって思う。

 

人生をフルコースで深く味わうための

いくつものスパイスが誰もに用意されていて

時には苦かったり 渋く思うこともあるだろう

そして最後のデザートを笑って食べる

君の側に僕は居たい

 

7. and I love you(2005年)

www.youtube.com シングル『四次元 Four Dimension』は、今思うととんでもない作品だった。シングル級の曲を4つ纏めてリリース、アルバム『I♡U』にもうち3曲が収録され、それぞれしっかりリードシングル的な機能をアルバム中できっちり果たすという、まあ普通に考えてアルバム制作から生まれたシングルに間違いないけども、それにしてもやはりそれぞれ実に強い曲を収録した、物凄いシングルだった。

 カップヌードルのCMとして広く知られたこの楽曲は、来たるアルバムのテーマの中核を担うという、実質アルバムのタイトル曲の様な存在であり、そしてその重力にふさわしい、そのテーマを完全に音と言葉で彼ら流に表現し切った名曲中の名曲。U2的なギターサウンドとタム回しで重量感と浮遊感を絶妙に聞かせたドラムによって楽曲中の風景は美しくもぼんやりと浮かび上がり、そしてヴァース・コーラス式のシンプルな構成で歌われるそのどこか神聖な感じの雰囲気は、タイトルのファルセットによるリフレインに美しく収束していく。重厚長大といった感じの『タガタメ』のテーマをより簡潔に纏めたというこの曲をセッションの合間のわずか30分で作り上げた辺り、当時の桜井和寿の作曲能力は絶頂の時にあったのかもしれないなあと思う。PVも含めて、素晴らしく完成された世界観。

 

未熟な情熱を 何の保証もない明日を

信じて 疑って 足がすくんでも

まだ助走を続けるさ 今日も

一緒に超えてくれるかい 昨日を

もう一人きりじゃ飛べない 君が僕を軽くしてるから

今ならきっと照れないで 歌える 歌える 歌える

I love you  and I love you

 

8. ランニングハイ(2005年)

www.youtube.com やはりシングル『四次元 Four Dimension』から。この曲もまた凄いというか、桜井和寿がどんなグチャグチャな言葉の並びでもポップな楽曲として収束させられてしまうという、その獰猛な作曲能力をまざまざと見せつけられる。というか歌詞やサビのメロディなど、シングル曲では『光の射す方へ』以来のやりたい放題っぷりで、作曲者本人の楽しそうにこれを作ってる感じがまた清々しい。

 バンドサウンドを前面に押し出した、しかし疾走とも違うテンポで、強引に押し通る様な楽曲。冒頭からそんなよれ切ったリズムでそんなよれ切った言葉を詰め込むのか、という高度に構成されたヤケクソさを見せつけられ、そこから丁寧なBメロを経てサビでは、っていうかこの強引でストレンジなメロディの昇降、the pillowsが『Smile』辺りでやってた感じのやつじゃねえか!っていうやりたい放題、それも高度な歌唱力で強引に押し通してしまう、その強引さ自体が勢いになるっていう反則的なポップさを獲得してる。自問自答も社会への皮肉も感傷もごちゃ混ぜにして強引な言葉の詰め込みで押し通す歌詞といい、この時期のこの人たち無敵か、という感じの、リスナー無視な謎な勢いがひたすら豪快で痛快。

 

亡霊が出るというお屋敷を

キャタピラが踏みつぶして

来春ごろにマンションに代わると代理人が告げる

また僕を育ててくれた光景が 呆気なく金になった

少しだけ感傷に浸った後「まあ それもそうだなあ」

 

9. フェイク(2007年)

www.youtube.com 「穏やかな日常の中にこそ本当に大切なものがある」というみんなのうた路線が本格的に始まったアルバム『HOME』のリリース直前に先行で出てきた、アルバムの方針に真っ向から反逆する謎なシングル曲。平和すぎるアルバムにアクセントを、ということなんだろうけれど、むしろこういう曲こそをもっとたくさん作って欲しいファンも少なからずいるだろうなあと思うと、本当にどうしてこのタイミングでこれが出てきたんだ…?という謎がひたすら付き纏う。

 『ニシヘヒガシヘ』以来のダークに徹したデジロックなナンバー。イントロ以降の四つ打ちに合わせて怪しく躍動し続けるファンクなギターカッティングは彼らの引き出しに確かにこういうのもあることをしっかり示しているし、言葉数とリズムで強引にBメロを構成する様はまごうことなき桜井節。そこからダークだけどキャッチーなサビに突入する様はミスチルのシングルとして余裕で及第点なポップさを獲得しつつ、彼らが『愛の言霊』等のナンバーをリリースしてきたサザンオールスターズのそういう側面を引き継ぐものでもあるんだなあとか思えたりもする。絶妙にダサいエレポップ要素もシュールな音響を構築していて、そして間奏部分の奇怪で神経質的なサウンドコラージュ感はやはり『Q』以降サウンドにまるで制約のない彼らならではのもの。

 彼らがこの手の曲をアルバムに2曲以上入れる作品が聴いてみたい。もしかして、『SENSE』がそうなの…?(『I』と『ロックンロールは生きている』)

 

「愛してる」って女が言ってきたって

誰かと取っ替えのきく代用品でしかないんだ

ホック外してる途中で気付いていたって

ただ腰を振り続けるよ

 

まさに性に乱れ尽くして擦り切れたモードの桜井節。本当になんでこんな野蛮な曲が『HOME』に普通に入ってるんだ…???

 

10. himawari(2017年)

www.youtube.com 少し年が飛びますが、10曲目はこの近年でも有数の壮大なラブソングを。30年くらい愛についてずっと歌い続けてきたバンドの、歳も取って次第に「死」というものも見えてくる段階における、壮大なまとめのような楽曲。「濃い曲しか収録したくない」というコンセプトで製作されたアルバム『重力と呼吸』に収録されても当然としか思えない、近年の彼らのシングル曲ではずば抜けて「濃い」楽曲。

 冒頭のギターとピアノの幻想的な感じからいきなりバンドサウンドの重厚さが飛んできて、まあAメロで一回バンドサウンドが引いたりはいかにもミスチルのバラードだけども、出てくる言葉のこともあって、非常に緊張した雰囲気がある。メロディが似通ってるBメロとサビの境界もどこか曖昧な感じがあって、それはおそらく意図的に仕掛けられている。低いメロディから這い回り、一気に高音に飛翔し突き抜けるサビの力は、何年何曲バラードを作ってきたと思ってるんだ?というバンドの矜持をまざまざと感じさせる。この日本の音楽特有の大げさな曲構成の、ある意味でオリジネイターのひとつであるところの彼らが放つ、この日本音楽としての爆発力は、J-POPの洋楽等と比較した際の恥ずかしさとかそういうのを吹き飛ばしてしまう威風堂々さがある。

 もはやミドルエイトと呼ぶことができないくらい延々と小節を重ねてグダグダと這い回り倒すCメロのねちっこさも、ザラザラなギターソロを経ての最後の強烈なサビによって力強く回収される。これほど壮絶で壮大なバラードを作ってしまえる人間が他に日本にどれだけいようか、という、彼らの伝統と矜持とを更新して見せた大曲。

 

優しさの死に化粧で 笑ってるように見せてる

君の覚悟が分かりすぎるから

僕はそっと手を振るだけ

「ありがとう」も「さよなら」も僕らにはもういらない

「全部嘘だよ」そう言って笑う君を まだ期待してるから

 

・・・・・・・・・・・・・・・

 以上10曲でした。

 10曲、ただ並べてみても、なんというか迫力のある楽曲たちだと思いました。J-POPの生き字引でありいけるレジェンドであり、そういった側面も2017年の『himawari』で壮絶に更新してしまった彼ら。そんな彼らの次なる壮絶な「みんなのうた」を期待してしまうのは『himawari』の壮絶さを思うとやや酷なことにも思えますが、そういうのがあるにせよないにせよ、彼らの活動をこれからも気にしていきたいなと思います。