ブンゲイブ・ケイオンガクブ

本を読まない文芸部員と楽器を練習しない軽音楽部員のような感じのブログ。適当な創作・レビュー等々。

2020年ベストアルバム(30枚)

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 今年もやりますよー。

 ちなみにたまたまですがこの記事がこのブログの200個目の記事になるそうです。

 

はじめに

 今年はコロナウイルスが云々…というのは皆言ったり書いたりしてることなので、ここで改めて申し上げることはあまりありません。

 ただ、コロナウイルスによってコンサート活動に大幅に制約がかかってしまったこと、もしくはライブという行為が絶望的に困難になったことは、多くの人にとっても自分にとっても苦しいことではありますが、その副作用というか、家にいることが多くなった方々や、そもそもライブの予定が吹っ飛んでしまって空いてしまった予定を利用して新たな制作に向かった方々などが今年は結構いたんだなと、ぼくがどうにかこうにか選んだ以下の30枚のリストを見ただけでも思います。

 例年と比べてどうだったとか、今年のシーンはとか、最新のトレンドがとか、そういうのは他の人たちに全然任せてしまって、以下の30枚が、12月29日までギリギリ考えて選んで順位づけした、弊ブログの2020年ベスト30枚になります。12月ギリギリまで待って本当に良かった。。何月にリリースされたか分かるようにしてるので、もしこれを読んでくれる人がいるのであれば、その月の頃のこととかを思い浮かべていただくなり何なりして、せめて楽しんでいただけたら幸いです。

 

本編

30位〜21位

30. 夢の骨が襲いかかる! / 長谷川白紙(2020年7月)

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 12月生まれらしくつい最近弱冠22歳の天才SSWとなった天才SSWの今年の作品は、リズムの配置や取り方が化け物的だった昨年の『エアにに』から打って変わって、全編ピアノ弾き語り形式のミニアルバム的なサイズの作品。これもやはりコロナウイルスの蔓延による外出制限等から生まれた作品ではあるけど、期せずして『エアにに』の時に思った「トラックが物凄いのではなくて弾き語りベースのゆったりしたいのも聴いてみたい」という個人的な願いが思いの外すぐに叶ってしまった。

 本作は7曲中6曲がカバー曲で、日本語ロックの様々な楽曲をピアノ一本で弾き語ってみせる。それ人力でできるものなのか…カバー元は自分より下世代の崎山蒼志から先人となるサンボマスターサカナクション相対性理論等々。驚くのが、前作で見せたような鬼グリッチなリズムをピアノ弾き語りでも再現しようとしてくるところ(『LOVEずっきゅん』)。また、前作ではそこまで出てこなかった印象の、彼がその細い声を絞り出して殆どシャウトのような歌い方を放つ場面は、彼に対して抱いていた「徹底的に計算的でアブストラクトな天才」というイメージが大きく転換することになった。歌い手としての彼の熱量が、ピアノ弾き語りの形式の中でまさにむき出しで出てくるのは問答無用で格好いい。

 そして、唯一の彼自身のペンによる新曲『シー・チェンジ』の、まさに「優雅サイド」の彼のポテンシャルが存分に発揮された大名曲っぷり。海を漂うような優雅なピアノさばき、時折暗く澱んだコードの響きも実に美しく配置され、そして今作的な熱量を挟みながら歌う彼の繊細さと切迫感の対比の静かな壮絶さ。まさに去年、こういうのを聴いてみたいと思ってた自分としては、この1曲だけで本当に今年の彼の素晴らしさを信じられる。

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29. Fake It Flowers / Beabadoobee(2020年10月)

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 本当にここ最近の欧米インディーロックは女性SSWがどんどん出てくる。今回はアメリカではなくイギリスはロンドン在住の、しかも生まれはフィリピンな、まだ20歳という若さの新進SSW。TikTokがきっかけでブレイクしたというのがなんとも現代風。2017年頃から作品を発表し始め、今作は1stフルアルバムということになるらしい。縦に切ってくっつけたジャケットは最初のアルバムとしてなかなか丁度いいさらっとラフで刺激的な感じ。

 不思議な作品だなって思った。前半を中心に爽やかなオルタナ・エモ・ギターロック的な要素が強いけど、所々ギターのトーンが冷たい感じだったり、更には中盤以降もっとゆったりした曲調が増え、ストリングス等も混じってAimee Mannみたいな感じになったりする。もしかして、オルタナティブロック+The Cureみたいな作品なんだろうかこれ。彼女みたいなガーリーな声の女性SSWでThe Cureっぽさが出てくるのは意外と新鮮な感じがして盲点だった。お国柄かな。『Emo Song』というタイトルでその曲調・サウンドはフェイントだろうか。

 各曲は彼女と彼女のバンドによって録音されていて、これはSSW的作品というよりもバンドの作品といった趣。それにしてもすでに4枚EPを出してるためか、ぎこちない部分が全然無く、サウンドは完成されているし研ぎ澄まされている。中盤の楽曲の弦楽器の導入の仕方にも迷いが無い。そしてパンキーなこともダウナーなこともファニーなことも何でもやってみせる彼女の多芸っぷり。なんというか、近年のオルタナ系女性SSWの水準の高さを今年も味わったなあ、という感じがいちばんの感想かもしれない。

www.youtube.comこうして見るとジャズマスって本当にいつの間にかメジャーなギターになった。

 

28. 5eps / Dirty Projectors(2020年11月)

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 2017年のブレイクアップから2018年の新メンバー体制になって以降の、安定的で職人的なDirty Projectors=Dave Longstrethの手腕を、今年の彼らは5枚連続のEPリリースという形でさらりと見せていった。現在のメンバー編成での音源は今回の一連のリリースが初だったらしく、「バンドが新しいアイデンティティーを確立するためのプロセス」として今回のこの企画に踏み切ったらしい。現在はその5枚をまとめたアルバム的な形態のリリースもあっているので、そちらでの扱いとなる。

 曲は全てDaveによるものだけど、最初2枚及び4枚目のEPについてはDave以外のメンバーがボーカルを取っている。EPごとにもテーマがあり、1枚目は2012年の『Swing Lo Magellan』で見せたようなフォーキーなポップさをより深めた風で、2枚目もポップではあるけれどDirty Projectorsらしさ溢れるリズムの仕掛けが多く、3枚目はDaveヴォーカルながらひたすらボサノヴァテイストで進行し*1、4枚目では弦楽隊メインのサウンドの楽曲で占められ、そして5枚目は色々やったことのまとめ的な作風で一番「いわゆるDirty Projectorsサウンド」って感じがする。ここまで概要書くだけでどうしても長くなるな…。

 つまり、新メンバーで色々やっておきたかったという、トライアルの過程という感じ。素晴らしい録音の良さと様々なアイディアが手を替え品を替え登場していく中で、ただふと思ったのは、Dave以外のボーカルの曲をずっと聴いてるとDaveのボーカルが非常に恋しくなるな…ということDirty Projectorsは偏屈で科学的なサウンドこそが本体と思っていたけど、でも少なくとも自分の中では彼のボーカルの重要性が意外なほどウェイトが大きいことが今回わかった。なので、彼の普段どおりロマンチックなメロディからえーっそんな突拍子も無くメロディ曲げる…?みたいな調子がよく見える5枚目が、やっぱりぶっちぎりで良い。というか5枚目は風通しの良かった前作からさらに自由になっていってる感じがして、この調子でアルバム1枚作ったらどんなのになるんだろう…と、早速次作が気になってしまう。『Por Qué No』の僅か2分弱でDirty Projectorsしてみせる余裕さは実に頼もしい。メロディがあまりにDave Longstrethすぎる。

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27. Loveless Love / 曽我部恵一(2020年12月)

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 ここ最近はサニーデイ・サービスがアルバムを出すとそのリミックス作品と更に曽我部恵一ソロ名義のアルバムが出てくる、みたいな流れが続いてる。今年もこのように12月25日(!)にリリースがされ、先行リリース曲を複数含むとはいえ、全14曲84分(!!)というビッグボリュームで出てきた。まだ2回しか通しで聴けてないし長い…。

 「サニーデイではやってないこと・やらないことをソロでやる」という側面がここ数年は強い気がするけど、とりわけ今作はまさに、後述の「新生バンドとしてのサニーデイ」の作品に含め用のなかった楽曲たち、という曲の並びで、とりわけ打ち込みやシンセ・キーボード類の多用された楽曲が多くを占めている。あと、1曲ごとの尺も全体的に長い。これも割とサクッとした尺の曲ばかりのサニーデイの今年のとの対比か。

 タイトルの割に生音のチェロは聞こえてこない『Cello Song』からして『Dance To You』以降の毒々しい皮肉にまみれた作風が垣間見えるけど、今回の楽曲のメロディはどっちかというとむしろソロ初期『瞬間と永遠』を思わせるような感覚が強い気がしてる。メジャーセブンス的な、溌剌としない適度に潤んだメロディや歌い方が多々見られて、打ち込みトラックが多いこともあって、シティやクラブ的なテイストが重視されていて、所々にサイケやフォークやダークさが忍ばせてある。メロウなソウルの『Yeah Yeah』、うらぶれたシティポップ感が程よい『ダンス』、ダブい『満月ライン』、ドラムレスでエレキのブリッジミュートの響きをリズムに進行する『天国の南』が名曲だなーって思った。15分に迫る長さの弾き語りメイン曲『Sometime In Tokyo City』は流石に長すぎる…。

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26. Cyr / Smashing Pumpkins(2020年11月)

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 オリジナルメンバーが(1人を除いて)再結集したSmashing Pumpkinsになってから2枚目となるアルバムである今作…だのになんでこんなシンセだらけのゴスな曲20曲みたいな作品になるんだ…。2000年代に再結成して以降で一番理解に苦しむ展開。伝説的オルタナバンドの姿か?これが…。

 実際に聴いてみると、あの『Adore』にさえあったフォーキーだったりジャジーだったりな曲すら全然無いことに絶句する。Billyさん、その側にいるJimmy ChamberlinとJames Ihaは飾りですか…一人ノリノリでゴスい曲を書いて打ち込みトラックを用意して*2自前のビンテージシンセコレクションを駆使してサウンドを作ってるBilly Corganの姿が嫌でも浮かんでくる。お前ホントに何やってんだよ…。しかもここ数作は短い尺のアルバムが続いてたのに突如20曲72分ってお前…。

 ただ、20曲もあるのに72分で収まっていて、つまり1曲は3〜4分台に抑えられていて、そしてそれぞれの曲もメロディ・展開に無駄が無く、というか再結成後では一番ソングライティングの水準が高い。また、どの曲もマイナー調メインのダークでゴスな雰囲気ばっかりでかつ女性コーラス帯同で楽曲のジャンル的な多様性は皆無*3だけど、しかし意外とそれぞれの楽曲のテンポやアレンジの違いを巧妙に配置してるのか、確かに一本槍ではあるんだけど意外と「またこれかよ…」みたいな感じはそこまで無い。好きだからこそ、めいいっぱい曲を書いて丁寧にアレンジして並べたんだなあ、という、今作に対するBillyの情熱の注ぎ方がきちんと作品のクオリティに還元されてる様が良い。謎のアニメ企画とかまでいくと知らんけど。

 次作はなんかかの大名盤メロンコリーの続編になるとかなんとかで、相変わらず作品や展望に対する誇大妄想っぷりが激しいBillyさんだけど、リリースされる作品は再結成後だんだんと良くなってきてる感じなので、次は本当にデカイことやってくれるのかもしれない。それにしても今回の作品は、意外と良いところまで含めて予想だにしなかったけど。

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25. The Ascention / Sufjan Stevens(2020年9月)

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 今年のアメリカという国のしんどさを象徴する、多芸で的確なサウンド創造能力をひたすら神経質に編み込んでいったシリアスすぎるアンビエントポップ集。かつてチェンバーポップの名手などと言われてた頃の感じは本当に欠片すら出てこず、ひたすら無機質な、生な感じが全然しないシンセや電子音や打ち込みのリズム等であつらえられた暗く虚無的なトラックの闇の中を、彼の繊細な声だけが生々しく響き、その佇まいからはひたすら叙情性のない心細さが感じられる。この孤独さは何だろう、一切のロマンチックな属性を拒否する、ひたすら息苦しいテンションで一貫されたそれは、逆に彼の計画力の高さと手腕の確かさをまざまざと証明しているのだけど、それゆえに、このように突き詰められた「しんどい作品」を作ることに至った彼の心境が、ひたすらに重く苦しくしんどい。アンビエントってここまで的確に重苦しさを表現できるジャンルだったのか…という発見すらある。

 彼がここまで追い詰められた背景はよく知らない。前作が彼の親族についての事柄をアコギ弾き語り中心に綴った『Carrie & Lowell』であることを思うと、前作から今作への落差というのは音楽的にも相当のものだし、ことそれが本人にとってはどれほどのことかというのは、歌詞を読まないにしても音を聞くだけで何と無く察しがついてしまう類のもの。本作は几帳面なほどに、ファンシーなファンタジックさに繋がりうる表現を排している。華やかさなどどこにもない。しかしほぼ全て電子音なので、泥臭さもここには存在し得ない。ひたすら抽象的で観念的な、ほとんど絶望に近いような感覚が音と歌で、15曲80分という長い時間浴びせかけられる。数々の社会的要素を分析した結果、1+1が2になることと同じような明快さと身も蓋もなさで得られる“絶望”のことについて、今作はひたすら歌ってるんじゃなかろうかと思う。それはリードトラックの『Video Game』の歌詞や、もっと言えば『Die Happy』のひたすらタイトルを連呼してアブストラクトに展開していくトラックなどから十分に察せられる。

 分断、新たな階級社会、差別、フェイクニュースetc…2016年以来アメリカという国が見せてきた「地獄の釜が開いてしまった」光景の数々の、そういった記事を文字で読むだけでも心痛むけれど、こうやって「音」にされると、しかもそれが物凄い濃度でなされていると、今作を聴くのはひたすら一切バーチャルでない「痛み」を直接注入されてるような気持ち悪さがある。最終曲『America』における最早「神」を相手取ってひたすら絶望する姿、そして何より歌が途切れた後の、かの大地や空気ごと灰になるかのような悲痛さが、ひたすらやりきれない。とてもじゃないが楽しく聴くなんて不可能で、なので順位はこの辺になってしまった。ぼくは不誠実な人間かもしれない。このアルバムを聴いてると、そんな眼でおれを見ないでくれ…という気持ちになる。

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24. I Was Born Swimming / Squirrel Flower(2020年1月)

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 アメリカのマサチューセッツ州ボストンを拠点とする女性SSWのElla Williamsを中心としたバンドがSquirrel Flower。今作はその1stフルアルバム。ここにも女性SSWによるバンドという構図が。このバンドはより地味目というか、素朴さの出たサウンド、というかスロウコア気味なバンドサウンドと曲が非常に魅力的。ボーカルの声質も実に「スターになるような特別な私」ではない女性の声、という感じがして、サウンド共々しみじみする。

 上物はほぼギター(アコギ・エレキ)だけという感じで、それによるスロウコア的サウンドに焦点を充てた、ゆったりしてはしゃぐ事のほぼ無いBPMとリズムで進行する楽曲は実に「滋養の感じ」としか言いようの無い性質のしみじみさが感じられて、こういう類のインディーロックがずっと彼の地に根付き続けていてほしいなどと、願う必要のない願いをしてしまう。今作について思ったのが、案外短い尺でもスロウコアはできるんだな、ということ。別に曲を聴いてて展開の不足とかを感じたりはしないけど、12曲で35分という尺で、アコギ弾き語りからバンドサウンドへ展開する1曲『I-80』の時点でこの満足感で3分に全然満たない、という事実に、気づいた時は戦慄した。短い尺でも、しっかり乾いた空気感を吸収して雰囲気を醸し出すことはできる。ギターサウンドの適度なディレイやリバーブの感じも、空気がウェットにならずむしろ乾いた景色が広がっていく方向に機能する。少なくとも彼女たちはスロウコアに関する高度なノウハウを持っており、それを十全に用いて絶妙な塩梅でポップさと打ちひしがれた感じとを両立させた楽曲を複数含むこの作品は素晴らしい。

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23. Mutable Set / Blake Mills(2020年5月)

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 正直この人については今からの記載なんかよりもよっぽどいい記事がいくつかあるのでそちらを読んでいただいた方がいい。たとえば音楽情報サイト『Trun』では今作は2020年の1位で、それについて主催の岡村詩野先生が簡潔かつ十全に語っている。ともかく、この人は今年の様々なミュージシャンの音源制作によく関わっている。Bob Dylanにまで名前が出てくるのには本当に驚く。

 今作は、アメリカーナそのものとさえ言えそうな人物でもあるかのBob Dylanにも認められたそんな彼のアメリカーナ性を発揮し、かつ音響にも積極的に気を使った作品だという。確かに全体的にはアコースティックな質感が強くあり、かつ全体を通してかなり静かで、素朴そうな裏に様々な仕掛けを忍ばせた作品だと一聴して分かる。で、そういう要素を持ち出すと、それでできた音楽が正直ちょっと眠くなる性質も含めて、かつてのJim O'Rourkeと要素がかなり似通っていることに気づく。Jimも様々なロック音楽の制作に関わりアメリカーナ的なジャンルに対する興味と貢献でも知られている音響畑出身の男性SSW要素も含有する人物だけど、時代が下って、今はBlake Millsがそういうポジションにいるのかと、作品の類似点から勝手にそう思い込んでしまう。

 特に、アコギのミニマルなフレーズの反復から様々な電子音等のサウンドで楽曲を穏やかにかつ抽象的に展開させてくる楽曲が多い。そのため曲展開がはっきりしないようにするためか、ドラム脳の楽器の出番は少ない。どれも実にシックな質感にあふれたトラックになっている。7分近くある『Money Is The One True God』などに至ってはブルーズ形式の実に高度に現代式な展開の方式という感じがする。『Vanishing Twin』は最早反復してる楽器が何なのかすらよく分からないけど、次第に壮大になっていく展開は静かにダイナミックでロマンチックで、こういう性質が他アーティストに多用されまくったところかなあと思った。

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22. By The Fire / Thurston Moore(2020年9月)

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 ご存知オルタナ界の伝説的バンドSonic Youthのフロントマンの今年のソロアルバムは、ジャケットこそなんかそっけない感じがするものの、9曲で82分、うち4曲が10分越えという具合に最初まごつくけど、でも、Sonic Youthが様々な事情で稼動できない状況にあって今作は、シックでドライなリズム・楽曲展開と本当にギターを掻き毟るサウンドのみで様々なサウンドスケープを作り出していく、いつになく「理想的なSonic Youth的」なサウンドに満ち溢れた快作になっている。自己模倣的という誹りもあるかもしれないが、今作における昔からやってきた手法の研ぎ澄ませ方はやはり鮮やかで、その辺は本当に職人的・求道者的にやってるように感じる。

 そもそもドラムはかつての同僚Steve Shelleyな時点で「Sonic Youthだこれ!」って感じが実に強くなる。ベースはMy Bloody Valentineの人が参加していて、実にオルタナティブロックな布陣。冒頭の『Hashish』は異様にSonic Youth時代の『Sunday』っぽすぎるけどクランチなギターカッティングでグイグイ進行させる。そしてやはり見所は10分以上の楽曲の、実に変幻自在なギターオーケストレーションの妙だろう。「自分はこういったサウンド作りに一生を捧げるんだ」とでも言うようなその純粋さと充実っぷり。キラキラしたアルペジオの折り重ねから、次第にヒリヒリするようなギターカッティングに移行し、そしてやがてジャキジャキな音で激しくカッティングする音に移行したり、轟音と呼ぶに相応しい音の壁に移り変わったりする。楽曲によってはその辺の切り替えが最早組曲形式で変化していくものもあり、ひたすら深化していこうと試みるそのスタイルは本当に「Sonic Youthが続いていればこんな作品を出していたかもしれない」に満ちている。アルバムの最後、いよいよ歌が出てこないままほぼギターの轟音の奥行きのみで14分弱を駆け抜けていく『Venus』の壮絶さ。オリジネイターの意地の極地だなあと思った。

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21. Yomosue / SACOYANS(2020年9月)

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 2010年代の間Soundcloud上でずっと活動し続けてきた宅録ミュージシャンSACOYANを中心とするバンドSACOYANSのデビューアルバムも今年リリースされた。福岡のライブ予定でその名前を見かけて、あれっ今は普通にライブとかやってるんだ、とか、そもそも福岡在住だったのか、とかを思ったりした。というかよく通ってるライブハウス*4の店長さんもメンバーだし。

 出来上がった音源は実に、どこをどう切ってもオルタナティブロック的なドライブ感・躍動感そして轟音に満ち溢れた、痛快な轟音ロック作品となっている。宅録の頃のサウンドの感じとは色々異なる部分もあるけれど、それは集まったバンドメンバーから発される音をそのまま素直に受け入れて録音した結果か。「Yo La Tengo風にしようと最初思ったのにライブで轟音でやってたのをそのまま持ち込んだらスマパン風になった」とは本人の弁。ただ、その中でボーカルがひたすらシングルトラックを避け、複数のトラックを重ねて、しかもエグめのエフェクトを施された形で終始響いていくのは、彼女の意地と特異性を感じさせる。またリリックを取ってみてもどうにも人を食ったような表現が散見され、その変な視点やフックで突き抜けていく様が実に個性的。この捻くれ倒したストレンジなスタイルが、実に福岡アンダーグラウンド界隈っぽい雰囲気がある。というかSACOYAN福岡アンダーグラウンド界隈の人になってたのか。

 こんなご時世でも精力的にライブ活動を繰り返していたり、かなり最近SACOYANさんが結婚されたりもあって、実にポジティブなヴァイブで突き進んでいってる彼女たち、この調子でこれからもどんどんやってってほしいです。

www.youtube.comこちらは宅録時代のバージョンの『偉大なお告げ』。

 

20位〜11位

20. Love Is The King / Jeff Tweedy(2020年10月)

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 昨年自身がフロントマンを務める偉大なるバンドWilcoにて近年の音響的トライアルの集大成『Ode To Joy』をリリースした彼の、早速のソロアルバム。これももしかしなくても、昨年のアルバムリリース後に控えていたツアー等の予定が丸ごと消滅したことによる産物のひとつだろうか。2年前のソロアルバム『WARM』に引き続き、基本的なカントリーロックに立ち返りつつも、メロディアスすぎないボソボソした節回しと各楽器の間合いによる「地味な」実験模様が垣間見える楽曲集となっている。

 冒頭のアルバムタイトル曲の、中盤以降とても静かに入ってきたはずなのに、次第にサウンドが大きくなり、曲自体のカントリーテイストとギャップありすぎるそのつんのめってキリキリした轟音プレイっぷりが刺々しいギターサウンドからして、彼が今作をただのカントリーロック垂れ流しではない作品としてトライアルしていることが理解される。とはいえ、伝統的なカントリーロックのスタイルを近年の渋めなメロディ配置で演奏し囁くように歌う彼の楽曲もそれはそれで良い。こうやって、カントリーロックを彼流にどう「前進」させるかを目論んでいるんだろう。彼の地の伝統的なサウンドやグルーヴのことを研究し実践し続ける彼の姿はどこか学究的であるし、だけどそれでもメロディや様々な質感に近年の彼的なフレンドリーさ・ハッピーさが溢れ出してくる。

 今年はWilcoにおいてもリモートによる合奏で『Tell Your Friends』を発表していたり、このような困難な時代においても何かしら次の手を模索し続ける、彼や彼らの屈強さを本当に尊敬する。収束がいつになるかは分からないけど、その時には是非に日本に来た彼(ら)のライブを観に行きたいと強く思う。

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19. Morning Sun / 岡田拓郎(2020年6月)

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 ジャケットが白いとブログの背景と同化して見づらい…。

 弊ブログの上半期ベスト記事でも取り上げた今作。それこそ森は生きている時代から学究的すぎてよく分からない印象のあった彼が、その得意とするUSインディーとの同時代性をここまでSSW的なポップなスタイルに落とし込んだ作品集を作ってくれたことの静かな衝撃と喜びは記憶に新しい。その性質はこのように欧米のSSW作品が多数並ぶランキングの中に置くことでますますその価値がより輝く。

 Jim O'RourkeをはじめとしてWilcoやらGrizzly BearやAndy Shauf等々のアメリカーナなサイケ感のサウンドに非常によく精通した彼だからこそ、今年のBlake Millsのアルバムなどとも共振するかのようなサウンドの自然な豊かさが素晴らしい。そして何より、繰り返しになるけどもそんなサウンドをかつてなく「歌もの」な楽曲群に載せていることが、非常に今作の輝きを特別なものにしている。今年について言えば、やや地味だったAndy Shauf本人の作品よりもずっとモヤモヤしたムードのAndy Shauf的サウンドを展開して、微細な感覚を言葉で歌う彼の資質は、やはり日本のインディーロック界隈でもそのアメリカーナ解釈の解像度がズバ抜けている。彼は主にTRUNなどのメディアでアメリカーナ的な音楽の解説文を書くことも増えてきているけど、そういった理解をこうして実践していけるのも大きな強みで、そしてそれがフレンドリーでスリリングな「歌」として在ることの素晴らしさは、本当にありがたい。

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18. REAL LIFE / PANICSMILE(2020年2月)

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 日本の1990年代のオルタナティブロックの興隆をアンダーグラウンドのシーンにて支え続け、度重なるメンバーチェンジの後に中心人物の吉田肇氏がいつの間にか福岡市の住民としてライブハウスUTEROのブッキングの人に転身してびっくり、みたいなこともありつつ、東京在住1名、名古屋在住1名、福岡在住2名という日本では珍しいメンバー構成になって、ようやくのアルバムリリース。それぞれ離れて住んでいる都合もあって、制作は音源データのやり取りから作られていく、という異形のスタイル。いやスタイルはそれなりにあることかもだけど、彼らのようなギクシャクしたハードコア的なサウンドをこの手法で作るというスタイルが本当に、他に事例あるのか…?ってなる事態だと思う。

 小節数も拍の取り方も奇妙奇怪な展開を飄々とユーモラスかつ攻撃的にこなし続ける彼らのサウンドスタイルは今作でも冴え渡り、こんなに変なのに小気味良いグルーヴとなっているのは本当に素晴らしい。基本ジャキジャキのギターのガチャガチャしたカッティングとリズム隊の複雑な駆動で形作られるこのグルーヴは、もしかして世界でも他になかなか類を見ない形式のファンクミュージックなのかもしれない。ひたすらダウナーにラリってるかのように拍が定型を超えて余っていく、と思ったら突如シャキッとして突っ走ったりする、というのの繰り返しは、そもそもどうしてこんな発想になるのか…というのの連続であり、でもその中できちんとノレるロックミュージックになっているのは、唯一のオリジナルメンバーである吉田氏の、もう熟練に熟練を重ねた結果としか言いようがない。こんなヘンテコなのに、確実にポップなフックか何かが楽曲に都度都度埋め込まれているのには驚異としか言いようがない。

 捻くれたインディーバンドが数多くいる福岡のインディーシーンの、文字通りバックボーンとなるようなサウンドの充実っぷりはひたすら頼もしい限り。そして彼らもまたコロナ禍によって予定が吹っ飛んでヒマになった組で、その時間を利用した新作セルフタイトルアルバム『PANICSMILE』をなんと今年の12月29日にリリースしたばかり。これは来年フィジカルが出るそうなので、来年のアルバムとしてカウントしようと思います。こちらも今作に負けず劣らずの怪作にして快作。

www.youtube.comアルバムでは『Best Hit Kiyokawa』にタイトル変更された楽曲。

彼らだけの爽快感がここにはある。

 

17. Suddenly / Caribou(2020年2月)

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 上半期ベストでも取り上げたアルバム。エレクトロニカは正直個人的に守備範囲ではないんだけども、でもこのアルバムくらい「歌」に降りてきてくれると、そのサウンドの豊かさとポップソングとしての楽曲との化学反応の具合が非常に魅力的に感じられる。『Home』は今年でも最高クラスのポップソングだと思う。すごくいいビート感とサウンド展開とサンプリングの妙で、本当に大名曲。これがしっかり売れるところがなんか偉いなあと思った。

 冷たい電子音を極めて神経質に使うと上にあげたSufjan Stevensのアルバムみたいになるんだろうけど、こちらのアルバムにおいては歌がソフトでSSW的な面持ちがあるためか、冷たさの向こうに不思議な温かみ・人間性が感じられる気がしてくる。それはこういったサウンドによって表現される寂しさの裏返しであるのかもしれない。昨今のソウルやひっピホップの影響も受けたトラックはその機械的な駆動にも関わらず時折やたら人間的な瞬間が表出してて、そういう要素だけで作り上げたのが『Home』なんだろうか。北国のファンタジーって感じの楽曲群の中で正直ちょっとだけ浮いてる感じもするけれど、本当にこの曲の全てが丁度いいポップさは完璧だなあと思う。この曲のギターリフの活用方法は今年1のそれじゃないか。

 上半期の方で色々書いたので書くことがあまりない。これからのシーズンに特に合いそうな気がするので、車か何かで寂しいところに移動しながら聴きたい。最高だろうなあ。

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16. Women In Music Pt.III / Haim(2020年6月)

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 これも上半期ベストで取り上げたアルバム。上半期ベストで書きたいことを書ききった感じがあるけども改めて少しばかり。

 ロサンゼルスの3姉妹からなるユニットの、そのソングライティング能力やトラックメイカーとしての資質が一気に開花した作品。正直「こんな落ち着いていい曲をたくさん書くような人たちだったの…?」という意外さがものすごく来て最初聴いた時は反省した。ジャジーさも打ち込みトラックも生バンドサウンドも自在に使いこなし、気品とウィットの効いた楽曲群がずらりと並んだ16曲51分。パワーポップ的な若々しいドライブ感は無いものの、代わりに程よく心地の良さと小気味の良さが並び立ったいなたさがひたすら飄々とドライブしていく。この辺はバンド的というよりむしろ近年の女性SSW的な性質がよく発揮された事例なのだろうか。ギターの音色など実に心地よいウォームさがひたすら続く。

 これは妄想だけど、遠く無い将来AIによる作曲が普及して、今作に収録された楽曲の夜な優れてハンドメイド感もそこそこ含有したウェルメイドな楽曲がいくらでもリリースされるようになったとして、自分はそれに違和感を覚えたりするだろうか。全然自然に受け入れてしまうかもしれないなってことを、今作で次から次に出てくる素晴らしい楽曲たちを効いていくうちに思ってしまった。

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15. Head of triangle / NYAI(2020年11月)

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 このランキングで3枚目の福岡発のアルバム。筆者は贔屓してるのではないか、公平性は、正義はどこに行ったんだ。そんなものこのブログには存在したことはありません残念です。いや贔屓目無しでこの辺に来るくらいいい作品なんですよ。このアルバムについては上半期ベストに挙げてた組とは別の理由であまり色々書くことが出来ないけれど。CDを買ってください。

 福岡発の男女混声オルタナティブロックバンドであるところの彼らの3枚目のフルアルバムにして、東京のインディレーベルLD&Kに所属して初のアルバム。つまり、前作がタワレコメンに選出されるなどして以降、福岡の音楽シーンで一番ネクストブレイク候補となっている方々で、このご時世に関わらず最近福岡市内にできた新しいライブハウス・秘密の、いわゆる箱バンでもある。なんかすごい。

 彼らの基本スタイルは身も蓋もない悲観的な歌詞をスーパーカー以来の軽快なオルタナサウンドでドライブさせるスタイルで、やはりひねくれた福岡インディーの感じがいくらかあって、今作もそういう楽曲がいくつか入っているけれど、それ以上に目立つのが「しっかりしっとりと歌や情感を形にしたい」というスタイルの、テンポがゆっくり目の楽曲群。全然インタールード感の無い真摯な歌を聴かせる『Interlude』や『Calendula』のどこまでも透き通った端正な佇まいが、ひたすら等身大の爽やかさを感じさせる。そして冒頭の『Triangle head』の、冷めた風を絡ませるかのようにスウィングしていく感覚。今作がこの曲の、いきなり歌から始まる辺りで、今作で彼らが何を聴かせたがっているかは明瞭だ。

 彼らもやはり、こんなご時世の不幸にもめげずに精力的なライブ活動を展開している。作品を聴いてこの感じが気に入った方々は是非、近くの街に彼らが来た時はライブにも行ってほしい。ロックにはこういうファニーさと風通しの良さが必要なんだと思うし、彼らは実はそういうのを今一番自然に出せてるのかもしれない。

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14. At The Beginning / THE NOVEMBERS(2020年5月)

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 このアルバムも上半期ベスト組。彼らはこの有力な作品を制作した後、このライブ等絶望的に制限される中でも今作のトライアルのバンド演奏による表現を公開すべく、洞窟ライブの配信等の積極的な取り組みをしていて、自分がそれを様々な都合で見れてないのがアレだけども、今年最も精力的だった日本のバンドのひとつと言って差し支えはないだろう。フロントマン小林祐介氏はBoom Boom Satellites中野雅之氏と組んで新バンドTHE SPELLBOUNDを結成するなど、どんどん展開していっている。

 今作はバンドサウンドから離れることも躊躇しないくらい音楽性の拡張のためのサウンドの自由さを広げていき、かつ同時にそんな中でバンドサウンドだからこそのヘヴィネスも追求して見せているアルバムになっている。前者の側面が冒頭の高速ブレイクビーツに乗った高らかでポップな『Rainbow』や中盤で怪しい無国籍風サウンドをシャッフルのリズムと身も蓋もないリリックで展開する『消失点』などで様々に自由に花開いていて、他方後者的な側面がゴリゴリのリフで進行する『理解者』やメタルに片足突っ込んだ重低音高速リフから優雅なコーラス部への展開がドラマチックでエグい感じの『Hamletmachine』で展開される。『Hamletmachine』のひたすら今作的にアップデートされたヘヴィネスさは最高だ。これら両方の側面が支離滅裂になりそうでならない塩梅で整然と並び、全体的にはダークなのに不思議な風通しの良さがあって、そんな作品集を「所詮始まりに過ぎない」とばかりに『At The Beginning』と名付ける彼らの不敵さが、過去も未来も纏めてゾクゾクさせる具合で素晴らしい。絶対来年も何らかの動きでリスナーサイドを刺激してくるだろうから、どうせ予想しても無駄なそれを楽しみに待っていたい。

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13. Songs and Instrumentals / Adrianne Lenker(2020年10月)

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 昨年まさにフォークロックを更新する2枚の傑作アルバムをリリースしたBig Thiefのフロントマンである彼女が、例によってコロナ禍によるライブツアーの予定の消滅を受けて、余った時間で森の中のキャビンに休養のため滞在する中で、自然な音響の良さに着目して制作されたフォークソング集『Songs』と、そこで録られたマテリアルを加工して作られたアンビエント・フォークなインストの『Instrumentals』の2枚組が完成していたという。物凄い創作力だと思った。以下『Songs』について述べます。

 アコギの多重録音と歌と他の最低限の楽器だけで形作られた本作収録のフォークソング群もまた、自然の可憐さの表現に満ち溢れた作品として極まっていて、彼女の音楽の風景を静かに広げていく。アコギという楽器はここまで繊細で上品で優美な録音を残せるポテンシャルのある楽器なのか、ということを過去の様々なアコギの名盤たちと同じくまた、まざまざと見せつけられる。彼女の寒々しい声質とソングライティングもまた、余計なポップさを排した上での、森の中で寒気を覚えるかのようなタイプの美しさと爽やかさに律されている。まるで彼女が滞在したキャビンに同席してこの音楽を聴いているような、そんな情緒の世界がひたすらに展開されていく*5

 彼女の表現する繊細さは何だろう。それは彼女の性格などからくるものというよりはむしろ、何らかの寂しさやのどかさや厳しさを感じられる光景をそのまま高解像度で切り取って音楽に変換しているかのような性質なのかなと考える。アコギと声に焦点を当て切った今作はもしかしたらこの点で、Big Thiefの昨年の大名盤2枚よりも更に「先」に行っているのかもしれない。彼女の声もその光景の情緒の一部として溶けていく。他の女性SSWと何か一線を画すところがあるとすれば、この辺の事情なのかなあと、今作を繰り返し聴いてて思ったりした。それこそ「森は生きている」っていうのは彼女の音楽にこそ相応しいのかもしれない。

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12. アナザー・ストーリー / スカート(2020年12月)

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 東京インディーという2010年代中頃に「離散した」コミュニティーの生き残りバンドのひとつスカートの、これは活動開始10周年を記念した、「カチュカサウンズ」というレーベル名で自主制作していた時代、つまりエス・オー・エス』『ストーリー』『ひみつ』『サイダーの庭』の4作の楽曲+1を再録して16曲51分だけ収録したアルバム。東京インディーが最も「インディー」なコミュニティーとして幸福だった時代の素晴らしい楽曲たちをコンパイルしたこの作品集は、はっきり言って卑怯だ。何から何まで素晴らしくて、あのかつてあった幸福な世界を思い起こさせて、センチメンタルな気持ちになってしまう。以下、同じ時代を僅かでも過ごせた者としてのノスタルジーを極力排して何か書ければと思う。

 この自主制作時代のスカートの楽曲はひたすらにファンタジックで、そのファンタジックさは彼が愛読してきた、アフタヌーン等で連載されていた「日常にファンタジックさが入り混じる」タイプの漫画たちからインスパイアされている。そういう漫画群で形作られた「繊細な文学青年」による音楽だからこそ、ムーンライダーズカーネーションなどからこうはならんやろ…という可憐でファンシーなポップソングがひたすら連発されてきたんだろう。独特のコードボイシングのギターもロマンチックに構成され、その辺の事情はメジャーデビュー以降の日常感とは大きく趣を異にする。はっきり言って、メジャーデビュー前の情緒とデビュー後の情緒とでは表現しようとしているものが全然違うような気がして、それでメジャー以降の作品は自分の趣味から外れているな…と感じていたところに、この作品の登場となってしまった。

 特筆したいのは、演奏も曲構造も、極力原曲を忠実になぞっているところ。余計なメロディの付け足し・ギターソロの追加などは無く、せいぜいパーカッションの追加や歌い方の変化くらいで済んでいる。相変わらず『セブンスター』や『ガール』では現代日本でも随一のKeith Moonっぷりを名ドラマー佐久間裕太氏が十全に表現し、独特のナイーヴなままひたすら突き抜けていくオンリーワンな感じは健在。宅録で制作された『エス・オー・エス』の楽曲についてもごく自然なバンドサウンド感、それも「当時の」バンドサウンド感でアレンジされている。『ゴウスツ』再演はとてもエモい。そして、バンド音源にならなかった楽曲で最も音源化が渇望されていたであろう『月の器』のバンドアレンジ録音の初出がとどめを刺す。卑怯にも程がある。

 上でも書いたとおり、メジャーデビュー後のスカートは目指すところが変わったわけだろうから、いつまでもこういったインディー時代の楽曲に縋ってるべきでもないのかもしれないけども、でもこうやって演奏された当時の楽曲群の魅力にはひたすらに抗えない。このアルバムによって、そんな魅力的な楽曲たちがサブスクで聴けるようになったことが実は一番大事なことなのかもしれない。

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11. McCartney III / Paul McCartney(2020年12月)

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 年の瀬も迫る頃、世界的なコロナ禍によるステイホームの時代と音楽の潮流に「便乗」するかのように登場した、大御所の中の大御所の、「そういうのはオレが元祖だと思うんだけど」と言わんばかりの登場。「ポール・マッカートニーさんの当時の止むに止まれぬ事情で全部宅録で作ってきたシリーズ」であるところの『McCartney』(1970年)『McCartney II』(1980年)に続く『III』。この爺さん実に抜け目ない。

 ということで大御所の、すべて大御所自身による演奏で作られたアルバム。上記の前2枚に通じる「ラフな要素」を冒頭曲に持ってきて「今回もこんな感じだよ〜」と例の朗らかフェイスでおどけて見せるも、でもその後段々とこれは、ポール御大が現代の多様に工夫されたインディーミュージックにその身一つでガチで体当たりで勝負をかけに行ってるアルバムだということに気づかされる。何が『III』だよ!この爺さん全然ラフじゃねえガチすぎる…!

 「ほら人力テクノだよ〜えっちょっと違うかいハハハ」という趣のリードトラック『Finf My Way』はまだ序の口。Radiohed等で知られる名プロデューサーNigel Godrichの策略で同じく全て1人録音した2004年の『Chaos and Creation In The Backyard』と同質の渋さ・英国音楽の重みをスッと見せた後に、8分半という長尺の『Deep Deep Feeling』において、遂に彼は、おそらくDirty Projectorsあたりに向けて牙を向ける。ピアノを軸にしながらも怪しいコード感、アブストラクトなリズム配置、そして何より長い中間部での、ゴシックな8ビートの雰囲気に3連のシェイカーを入れ込むことで強引にリズムを捻じ曲げていく手法が、今作での彼の最もトライアルでアグレッシブな瞬間だと思う。そこには「その気になれば僕もこれくらいできるんだよ、Dave」と言い放つPaulの顔が浮かぶような強烈さとムキになってる感じがある。この歳になっても若い世代に対してムキになれる今回のポールは、本当に素晴らしいと思う。

 終盤もThe Beatles的なポップなメロディを途中でグズグズにしてしまう『Seize The Day』や、Paul流「現代的ソウルミュージック」といった趣の寂寥感に満ちた『Deep Down』で魅せてくれる。今気づいたけど、今回の彼は自分が深くサウンドに挑戦してる曲のタイトルには必ず「deep」と付けてるのか。素直だ…。ここには全世界に向けてポップソングを届けようとする大スターの姿は無く、上記のとおり若い世代にムキになって一人でもがく一人の老人の、その誇らしい達成が収録されている。彼の作品で、こんなに現代的なゾクゾクする感じを覚えると思ってなかった。本当に、凄い人だ。

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10位〜6位

10. Saint Cloud / Waxahatchee(2020年3月)

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 上半期ベストで挙げた組のひとつ。今回のランキングの中で最も鷹揚な感じのするアルバムはこれかもしれん。

 上半期ベストの時にも同じこと書いたけど、アルバム冒頭と終盤は抽象的でイマジナリーナサウンドに挑戦していて、それ以外は実にいなたいオルタナカントリーロックをして見せる。その不思議な乖離の「別に実験的なトラックだけで1見作り上げないといけない、なんてルールないでしょ?」という軽やかな感じが、今作最大の魅力なのかもしれないとずっと聴いてて思った。『Oxbow』や『Ruby Falls』のピアノ中心で音響的な楽曲と、『Lilacs』や『Witches』のような晴れやかなフォークロック楽曲とが1枚の中で平然と並んでていいんだ、ということ。というか『Lilacs』は何気に彼女の曲の中でも最上位級の素晴らしいグッドソングではなかろうか。コーラスのメロディとその扱い方が、その集束のさせ方も含めて良すぎる。全体的なサウンドのいなたさも絶妙だ。

 近年の素晴らしい女性SSW大量発生の状況の中でも、割とキャリアが長くなってきた彼女のこの、伸び伸びと制作されてしっかりと自由に充実した今作の風通しの良さは、状況が状況なためにどうしても宅録やらリモートレコーディングやらが増えて否応無しにどうしようもない閉塞感が漂う今年のシーンにおいて、実に鮮やかな存在だった。まあ、リリース時期的にコロナが酷くなる前に録音が終わってたということなんだろうけど。このジャケットのような自由で優雅な世界が帰ってくることを祈りたい。

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9. Græ / Moses Sumney(2020年5月)

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 今年の上半期ベストで取り上げてなくてごめんなさい案件その1。やはりみんなが騒いでるものはちょっと時間割いてでも1回聴いてみんといかん…。

 TRUNの年間ベスト6位としてこれが取り上げられた際に書いてあった「ガーナ出身のアメリカ人という二重性を自覚しつつ、カントリーにも、ソウルやゴスペルにも影響を受けた彼は、その多元的なルーツを今作では、これまで以上に隠し立てしない。そして立ち現れたのは、フォーキーな弾き語りがさらけ出すフラジャイルさ、アンビエントサウンド処理が引き出す神秘性さ、野性味溢れる爆発力」という部分に特に興味を惹かれてようやく最近聴いてみて、驚いたことが2つ。1つは、確かに上記内容をこなしているこのアルバムは、黒人サイドからの「アメリカーナ」的なものになりうるんじゃなかろうかということ。思ったよりフォキーな側面は少なかったけど、むしろミュージカル要素なども感じれて、これは確かに、アメリカの音楽史をある程度横断してる感じがあるように感じられた。

 そしてそれ以上に驚いたのは、その歌の声質、そしてメロディの節回しに猛烈にDirty Projectorsを感じること。これはどういうことだ…?特にファルセット気味にシャウトするときの感触は殆どDave Longstrethで驚いた。元々Daveがそういうソウルも射程範囲に入れた歌唱をしてたということかもだけど、この不思議な取り合わせは非常に驚いた。そう思うと、その複雑に編まれたサウンドレイヤーによるアメリカーナ感もまた、どこと無くDirty Projectors経由のものじゃなかろうか、とかいうことを思ったりした。上で挙げた5EPを突き詰めるとこのアルバムになるんじゃなかろうか…ということさえ思った。

 2枚組20曲1時間超えという尺は、割とアグレッシブな1枚目とのちに追加されたオブスキュアな2枚目という風にキャラ分けがされており、2枚目の方にはこれもアンビエントR&Bというものなのかしら、などと素人丸出しなことを思った。ともかく、この2枚で様々に試みられたサウンドの面白さに上半期のうちに気づかなかったぼくはアホということで差し支えないと思う。

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8. いいね! / サニーデイ・サービス(2020年3月)

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 上半期ベストに取り上げた組のひとつ。今月の最近まで今年は日本のバンドではこれが1番順位上か、って思ってた。一昨年にオリジナルメンバーのドラマーが死去した後、2019年ずっと悪戦苦闘と「ミックスまで完成してるボツ曲の山」をまた築きながら、新ドラマーが加入して心機一転して完成させた、近年の宅録志向的なのからバンド音楽・ロックミュージックということに立ち返りまくったアルバム。それにしても、悪戦苦闘でボツの山を築いた後は曲数を絞った濃いアルバムを出す、という『Dance To You』スタイルが再来するとは思わなかった。先行シングルっぽく公開された名曲『雨が降りそう』はどこ行ったんだよ。。

 このアルバムについては個別記事を書いていますので、そちらをご覧ください。コロナウイルスによって学校の閉鎖とか緊急事態宣言とかが起こる中でリリースされて聴かれていった、そういう意味でも思い出深い作品。

ystmokzk.hatenablog.jp

 その後、やはり彼らもライブ活動がかなり困難な状況に陥り、それでなのかは知らないけど(())、この年末にかけてリミックスアルバム『もっといいね!』や上でも取り上げた曽我部恵一ソロ『Loveless Love』のリリースなど、結局は非常に精力的なリリースが続いた。サニーデイのライブツアーは再開していて、福岡にも何も問題がなければ4月でライブがあるらしい。観に行きたいけれど、今の状況が収まってくれればと願ってる。

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7. Rough and Rowdy Ways / Bob Dylan(2020年6月)

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 やはり上半期ベスト組。しかし、今作についてはより踏み込んだ内容を弊ブログアメリカーナ記事の一番最後に書いた。今年の弊ブログの終盤はひたすらアメリカーナという「音楽ジャンル」か何かについて思いをめぐらせてた。The Bandだったり、Neil Youngだったり、イギリス人だけどGeorge Harrisonだったり。

 アメリカの、いわゆるアメリカーナ的な音楽性をずっと実践し続けてきた、大御所中の大御所であるところの彼の、この最新作は、かつてないほどにメロディが美しく、トラックが優しくも幻惑的で、こんな優美なBob Dylanのアルバムはかつて存在しなかっただろうな、という内容。拙いなりに詳しく書いた評はアメリカーナ記事を見て欲しいけれど、ともかく、ソフトに歌いトラックを録音した彼がLambchopみたいになるというのはすごく驚いた。そのせいで本家Lambchopの今年出したカバーアルバムが影が薄くなってしまっているのでは、とさえ心配になる。

 とても完全な理解などには及びそうにないアルバムだけど、別にそれでいい。死を見据えたが故のロマンチックさだろうかと心配したりもしたけど、今のところ訃報は聞いていない。もしかしたらまたカバーソング集作りに没頭するのかもしれない。どうであろうと、今作はアメリカーナという概念にとって非常に決定的な一枚になっていると考える。

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6. Fetch The Bolt Cutters / Fiona Apple(2020年4月)

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 女性SSWとしては1990年代からずっと活躍し続け、そのトラウマ的な出自からずっと呪いのような歌をぽつぽつと作ってきていたところである彼女の、今年のこのアルバムはどうだろうか。やはり上半期ベストに挙げていたこれは、その呪いの歌の強度が世界の混乱に比例するかのように高まり作品として弾け渡った、恐ろしくも神々しい1作となった。Pitchfork10点満点で、各メディアにおいても今年のベスト作の常連となっている作品。そんな作品のジャケットがこの、人を舐めきったようなものであるのは、むしろ恐ろしさを感じるべき局面か。

 リズムが異様にバッキバキなところにAlabama Shakes等からのフィードバックを感じつつ、その上で自在に唸り、囁き、嗤い、話すように歌う、時に叫ぶ彼女の存在は現代の魔女のよう。いつの間にか公開されてたアーティスト写真でもなんとも禍々しい感じを放っている。

 本作リリースに先駆けて、RadioheadのPVなどでも知られるPaul Thomas Andersonとのかつての恋人関係について「精神的虐待を受けていた」ことを告白するなど、そのアルバム中に漲る悪意や殺意は、あらゆる世の中に偏在する「服従の構造」に向けられ、それごとリスナーの精神に叩きつけてくる。きっと、英語がわかる人であれば今作の衝撃はもっと高まっているんだろうなと思うと、自分の不明を恥じ入る気持ちになる。

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5位〜2位

5. Punisher / Phoebe Bridgers(2020年6月)

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 今年の上半期ベストに挙げた組の中でもとりわけ優れた作品で、かつ今年の状況の困難さと、それに戦いうる勇敢さを持った名盤。「繊細で神聖な新進女性SSW」という前作でのイメージを昨年のサブプロジェクト等で払拭し、まっさらな状態で挑んだ本作は、文字通りはるかにスケールアップしたサウンドや楽曲の数々が収められ、なおかつ、従来的な繊細さもより精緻を極めたり、又は異なるジェントルな手法で楽曲に活かされることとなった、という、嘘みたいに理想的な作品。なぜかドクロスーツを着て様々な媒体に登場する姿も清々しいアホっぽさの中に少しばかり彼女の死生観が吹き込んでいて眩しい。よく見たらジャケットでもドクロスーツ着て立ってることに気づいた時はめっちゃ笑った。賢い人だ。

 先行曲として公開された『Kyoto』を聴いた時も、こんなバンドサウンドに加えて豪華なオーケストレーションまで従えて、ここまで壮大で派手な京都の曲も無いだろうって爆笑した覚え。でもこの、ひたすらにひたむきなポップさは、今年の困難に立ち向かっていくだけの強さが何気に備わっていたことに気づく。水の中のようなサウンドの楽曲の繊細さと、『Kyoto』やもしくは最終曲『I Know The End』の参加メンバーみんなで叫び倒すエンドの爆発力との間を彼女は実に自在に舞ってみせる。迫り来るサウンドの強弱が格好いい『ICU』、トラッド風味で鮮やかな旅情を描く『Graceland Too』からの『I Know The End』という終盤の流れは本当に完璧で、1曲ごとに移り変わる光景のどれも実に鮮明であるところが本当に素晴らしい。

 下半期に色々なかったらこれを1位にしようと全然思ってた。色々あるもんだなと、書いてて思った。でもそれで別にこの作品の素晴らしさが損なわれるわけでは全く無いし、この女性SSWバブルな季節において今作と上の『Fetch The Bolt Cutters』が同時期に出てきたということは、ひとつの時代の頂点のように感じられたりもして。

www.youtube.comこのチープな合成で日本の風景を貼り付けるPVも笑える。けどこの勇敢さがひたすら胸を打つ。

 

4. Circles / Mac Miller(2020年1月)

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 今年の上半期ベストで取り上げてなくてごめんなさい案件その2。でもこれは正直気付けって方が無理。全然守備範囲じゃないヒップホップというジャンルの、しかもリリース当時騒がれてたかも定かじゃない作品。Twitterでフォローしてるサムさんの年間ベストの記述を読まなかったら気づかなかったと思う。そりゃヒップホップ好きはこれ聴いて反応しづらいでしょう。もはやヒップホップでも何でもなく、今回の記事の中でも随一のSSW的作品となった今作を、従来からのファンはどんな気持ちで聴いたんだろう。

 彼は2018年に死んでいる。なので今作のみは、本当に純粋に一切コロナウイルスによる影響をアーティストが受けていない作品となった。そりゃ死んでるのだから。彼の死の直前にリリースされた『Swimming』とかを聴いてみたけど、レイドバック感はあったけど普通にヒップホップ作品で、そりゃそうだよな、と思った。今作以外の彼の作品を今後自分が聴くことはあまり無いかもしれない。だけど、こんなにボロボロな、しかしだからこそとしか言いようの無い、優しくも儚すぎる歌心と、それを全面完全にバックアップしきったJon Brion*6の手腕が、どうしようもなく素晴らしい。『Swimming』と同時並行して制作されていたものをMacの死後にJonが遺族の願いを受け纏め上げた作品ということで、これは最早Jonの作品では?と思いもするけど、でも歌ってるのはMacで間違い無いのだから、そして出来上がったものがこれほどにSSWっぽいというのは皮肉なことだけど、でも、ひたすらに素晴らしい。

 冒頭の『Circles』からして、非常にソフトな音響の中を、殆ど歌うように悲しい呟きをする彼の姿がひたすら痛々しい。オールディーズナンバーを切り刻んでトラックにした『Blue World』は手法はヒップホップ的だけど、でもフロウはやっぱり歌うように流れていく。その後4曲目『Good News』の、実にいなたいギターのブリッジミュートと生ドラムで進行していく歌の、コードは明るいのにひたすら胸が苦しくなるような感じは何なんだろう。1960年代のサイケバンドLoveのカバーである『Everybody』も実にいなたいバンドサウンドが展開されて、一体今何のアルバムを聴いてるんだろうと、分からなくなってくる。レイドバックしたギターが印象的な『Hand Me Down』も実にしみじみするし、そしてとどめの終盤の『Surf』における諦めの境地のような力無い反復の様は、これはソウルを経由したスロウコアだろうか…などと思ってしまった。そしてこのような実にウォームでソフトな「歌」の数々を聴くにつけ、少なくともこれを今スピーカーの向こうで歌っている人はもうこの世にいないのか…と、とても不思議な気持ちになる。

 このアルバムは生前彼が思い浮かべてたサウンドだろうか。違うんだろうか。でも、彼があの世でどう思おうと、今作が非常に充実したバンドサウンドに彩られた、最早インディーロックの名盤として取り扱いたくなるほどの名作であることは変わらない。何をどう言えばいいのかまるで分からないけれど、彼に感謝の念と、向こうで安らかに過ごしてほしいという祈りをせめてここに手向けておこう。

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3. 前夜 ピチカート・ワン・イン・パースン / PIZZICATO ONE(2020年6月)

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 上で書いたスカートのアルバムも大概反則気味の作品だったけど、こちらはもっと物凄い反則な作品。小西康陽氏という、日本の音楽史において器用そうでいて実に実直な歌を密かに量産し続けてきた人物のことについては、弊ブログにて2回に分けて書かせていただいた。

ystmokzk.hatenablog.jp

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 そもそも、このような記事を書かなければならなくなったのも、彼がPIZZICATO ONE名義で出したこのライブアルバムにおいて、彼がこれまでに作っては他人に歌わせていたあまりにSSW的すぎる美しくも切ない楽曲群を遂に自分で歌い、このように音源に残したこと、その素晴らしさに、静かに強い衝撃を受けたからだった。

 ピアノとベース、そしてビブラフォンというトリオ編成に、ボーカル専属で小西康陽氏という布陣でライブを行った。翌日に台風直撃だったというその「前夜」の出来事のためこのようなタイトルになった、という、実に小西康陽的な剽軽な理由によるタイトルは、しかし結果として、彼が遂に「自ら曲を書いて自ら歌う」という、彼の音楽人生でずっと避けてきていた道に踏み込む、その「前夜」ともなったということ。この辺も計算づくなんだろうな。

 PIZZICATO ONEの音楽はどれも「老境」な音楽という感じで、その「人生という概念」を慈しむかのような作品の数々は、実にシックな楽器隊で鳴らされる。今作もまた、普通のバンドとは異なる、実にシックでジャジーな演奏が沢山なのだけど、ここに成熟したシンガーではなく、歌うことについてはコンプレックスすら抱えつつも作曲者としてそれぞれのメロディを当然「誰よりも」「嫌という程」知り尽くしている人間が歌うことで、ここまでそのシックさの性質が変わるものか、と驚く。歌だけを突出して聴くのではなく、楽曲とサウンドの中における歌、という位置付けで音楽作品を聴いていきたいとは常々思うけれども、しかし彼のPIZZICATO ONEにおける作品はまさに「歌」をどう響かせるかにフォーカスを当てていて、その上で遂にそのフォーカスが彼自身に向いた時の、この、こんな言い方失礼かもだけど、これらの楽曲に対して誰よりも人間的でかつチャーミングな「歌」が生まれる、ということに、音楽の不思議と、そして大いなる感動を覚えた。

 どの曲も本当に本当に素晴らしい。あえて言えば『メッセージ・ソング』『ゴンドラの歌』『かなしいうわさ』そして『子供たちの子供たちの子供たちへ』の素晴らしさはもう、筆舌に尽くし難い。無数にある小西康陽作品のなかで、断言する、これが最高傑作だと。こんな卑怯で、遅すぎるけれどでも間に合った幸福な作品があるものだろうか。彼には本当に、気負いなど一切せずに、現在製作中とも言われている自身の新曲で構成されたSSW作品の完成・リリースまでこぎつけてほしい。それは絶対に、今ぼくがとても聴きたいもののひとつだから。

 …そして、最後に動画を貼ろうとして気づいた。こんなに素晴らしいアルバムのティーザー動画すら存在していないことに。それはそれとして、Pizzicato Fiveのサブスクでの完全解禁もずっと待ち続けることとしたい。

 

2. Into the Depths of Hell / Joshua Burnside(2020年9月)

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 元々は、これを今年の1位にするつもりでした。

 Joshua Burnsideという北アイルランドのシンガーソングライターがいること自体を、このアルバムを聴くまでまるで知らなかった。2013年ごろから作品をリリースし続けているらしく、今回のアルバムが3枚目のフルレングスになるらしい。

 一聴して思ったことは、アイルランドでは昔から今に至るまで、こういう音楽が流れ続けているんだろうな」ということと「こんな現代風に、それこそRadiohead以降的な電子音等に包まれながらも平然と伝統的なフォークソングのように聴こえる音楽があるんだな」ということケルトミュージックはフォークやカントリーの源泉のひとつだけども、そういう音楽が純粋に歴史を重ね成熟し、その歴史の中で現代的なロック作品とも出会い、それらの音響さえも自身のものとした結果の、このような音楽なんだろうか、と、これも彼の資質を飛び越えて、まるで見たことのないアイルランドの光景そのものを音楽で描写したらこのようになるんだろうか、などとのんきなことを考えたりした。アルバムタイトルを見たまえ。「地獄の深みへ」だぞ。英語を聞いただけで頭に言葉が入ってこない自分の無能が恨めしい。

 冒頭の『I Saw the Night』からして、これは本当にフォーク作品のイントロか…?という不穏なSEを沢山纏った電子音が貫いていき、そして彼の歌が始まる時、まるでこの夜がこの世界の終わり、この世界の果てかのような、そんな不思議な雰囲気が漂ってくる。コーラスの付き方共々伝統的な民謡っぽい調子なのに、音響の具合は『Kid A』か『Yankee Hotel Foxtrot』か、というほどに混沌としていて、でもそれでもテーマ性は非常に整然としている。2曲目以降はそんな夜が来るような光景で普段流れる日常の音楽のように、様々な楽器が手を替え品を替え登場しては、小さな街中の隅の通りにまで灯りを照射するかのような音楽を奏でていく。『Drive Alone in the City at Night』というタイトルの曲なんてまさにそのままで、ドローン的なノイズが遠くに張り付いて、時折やってくるショッキングなクレッシェンドに驚きながらも、普段どおり優雅で普段どおり惨めな光景が延々と流れていく。がっつりバンドサウンドが入る終盤の『War on Everything』は今作では少々例外的な作品だけど、でもだからこそのキャッチーさがあって、アーティスト側もこれをリードトラックにしているみたいだ。

 今年は本当に、優れたフォークミュージックが世界のあちこちでたくさん生まれた年だったと思う。それはやはり、コロナウイルスという音楽活動そのものを制約してくる事象の発生による影響が大いにあるけれど、今作はそんなこととは関係なく、純粋に、自身の周りにありそして過去にあるフォークロアの類を丁寧に整理し、そして様々な楽器と編集技術を駆使して『Yankee Hotel Foxtrot』化させたものだと思う。冷え冷えとするような、アメリカ的な乾き方とは異なるサウンドの響き方や節回しの土着的なルールの違い。それをこのように電子音まで交えて、現代的なスタジオ内の交響楽とさえ言えそうな水準まで作り込んだ作品に出会えて、そのフォークというジャンルの精緻を非常に整理されまたインディーロックに接続された形で見せてくれた。

 この作品の素晴らしさと涼しさと異国への望郷の念を胸に、2020年に幕を降ろす。12月の本当につい最近まで、そんなつもりだった。

 

1位

1. POLE & AURORA / Discharming man(2020年12月)

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 リリース日:2020年12月23日。

 今年の最後の最後に、本当にとんでもない作品があったものだ。

 音楽的なことは、やはりTwitterでフォローさせていただき、よく記事を拝見してるファラさんのこの記事が詳しい。もうこれを読んでくれれば、改めてここで書くことなんて何一つもありはしない。強いて言うなら、これを年間ベストに入れれたことは、毎年終わり頃にだらしなく年間ベストをやっていたことが非常に幸いした。世の中何が幸いするか分からないな、と思った。

 改めて紹介しておこう。連綿と続く北海道ハードコア界隈の長い歴史の先頭に立つ、どこまでも純真で鈍重で破滅的なギターサウンドが壮絶かつ壮大に響き渡る、今年最高のバンドサウンドの名作だ。本当に、凄いものが来た。

 北海道ハードコアシーンといえば、bloodthirsty butcherseastern youthを生み、その後も様々な伝説的なバンドが生まれていったシーン。それで、このランキングで複数取り上げた福岡のインディーシーンとの対比をするならば、どちらかといえば捻くれ返ったユーモアセンスを得意とする傾向にある福岡のそれに対して、北海道のシーンはどこまでも実直というか、捻くれるのではなく、苦難にひたすら耐え忍び、磨耗していきつつもその純真をどこまでも貫こうとするようなイメージを(勝手に)抱いてる。

 その上で、今作で展開されるそれは、まさにそういったことも含んでの、北海道のロックバンドが表現してきた熱情や情念や景色や破壊的な感覚や感傷や情景やその他色々の万感の、その最新の到達地点だと感じられる。

 冒頭のぶっきらぼうに断続的に鳴らされる、歪みきった重低音のギターの響きだけで、今作のその後に控える光景の壮絶さが嫌が応にも香ってくる。冒頭の『Future』こそハードコア的・メタル的な表現で突っ走るものの、続く11分半に渡る『極光』の、わずかツーコードの往復に叙情的な歌も、絶叫も、轟音も、ギターソロとさえ呼べないようなギターの荒れ狂う様も、すべて突っ込んだ上で世界の果てを目指すかのような重みに、ひたすらに圧倒されてしまう。その後もメロウな歌から自然と激情に結びつき、極寒の地で荒れ狂うような壮絶なバンドサウンドが炸裂し続ける。

 ただ、そのバンドサウンドの爆発は、感情任せなようでいて、しかし実に整理されている。ボリュームを上げてもギターの音は高音が耳を壊してくるようなことは無く、程よくザラザラで鈍く重く激しく、ギターの音圧による勇敢さ・壮絶さだけを的確に届けてくれる。エンジニアリングがこの、時に全パート壮絶にレッドゾーンを振り切る音楽を的確に掴み、何も本質的にロスさせることなくLとRに届くようにコントロールしている。バンド側もソングライティングやアレンジにおいて、轟音・激情一本槍なようでいて実は様々な変化のパターンを持ち、グロッケンも交えたファンタジックでロマンチックなアレンジの『February』や、ダブの気味悪い音響を取り入れた『Disable music』、轟音に混じって調律の壊れたピアノみたいなのが鳴り続ける『メイデイ』など、巧みにギアチェンジを交えて楽曲を聴かせてくる。

 それにしても、どの楽曲も緩急の違いこそあれど、気の抜けたような、ラフでイージーな感じは一切見られない。ひたすらに集中力を高め、歌うべき・表現すべきイメージを何処からか引き摺り出し、そして各楽曲のハイライトに向けて、ひたすらサウンドと展開を積み重ねていく。そこにロックだからこそ許されそうな様々なズルや、又はたとえばRadioheadとかそういうバンドが見せるような悪意に満ちた邪悪な展開などといったものは、全く見受けられない。彼らは本当にただただ実直に、長年の活動で培った演奏能力と情念のコントロールとそして霊感に従って、ボロボロになりながら重く苦しく、しかし重力に逆らうように太く鮮やかなロックサウンドを放出し続ける。

 アルバムの最終曲はその名も『Discharming man』。ハードコアバンドのDischargeとThe Smithsの名曲『This Charming Man』を接続させたことが明白なバンド名を、それまでの轟音をくぐり抜けた後の少しばかり爽やかでフォーキーなロックサウンドの楽曲に名付けてみせる。それは、雲天や吹雪をくぐり抜けた後に黒雲の間に僅かに覗いた薄暗い青空を見上げるかのような光景だ。本作でもとびきり叙情的なメロディは次第に6/8拍子のままパンク的に疾走し続ける、今作で最も爽やかで鮮やかなブレイクスルーの瞬間に辿り着く。ひたすら晴れやかに疾走して疾走し終わった後は、残存するギターノイズの余韻は雑踏の音に切り替わり、壮絶な冒険のような音楽は日常にふっと消えてしまう。

 ロックバンド、かくあるべし。しかし、誰もがこんなことを出来るわけでは全くない。彼らの修練、そして繋いできた北海道ハードコアシーンの歴史、その重み、そして的確なエンジニアリング、そういったものが渾然一体になって、この北海道という大地が今年の最後の最後に世に音する事の出来た最上級のロックアルバムが完成したんだと思う。それは本当に、本当に偉大なことだ。でも、そんなことをしかつめらしく考えるよりも、たとえば今日のように寒い日に、外を歩いて、景色を見ながら轟音でこれを聴くことの方が、こんな文章を読むよりも遥かに、遥かにこの音楽の素晴らしさが分かると思う。CDを買いに行くか、もしくは時間がないならサブスクでもいいから、スマホを持って外に出て、散歩の中でこの轟音に身を委ねてほしい。この世に果てがあることとか、現実的に行けない場所があるとか、どうとかこうとか、そんなことは関係ない。この音楽が鳴ってる間は、作品名のように「北極やオーロラが見えるような」世界の果てまでぶっ飛ばしてくれる。ロックサウンド、かくあるべし。ぜひ聴いてください。ああ、ライブが観たい。

 

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終わりに

 以上、30枚でした。どうにか終わった…。

 結局、各アルバムの紹介でいろんなキーワードが出てきたように思います。まずどうしようもなく無視できないコロナウイルスの影響。そしてそれによっての影響も多々あってか、家の中で比較的手軽に演奏できるフォークミュージックの再評価が進んでいるような感じがあって、それか様々な傑作SSW作品がリリースされました。

 日本のローカルな部分に目を落とすと、今回のこのランキングでは福岡の音楽シーンから3枚もアルバムを選んでみて、どれも非常に優れた作品で、しかしながら、1位と3位は北海道に関係するアーティスト*7という構図でした。

 来年はどうなるんだろう。少なくとも今年は初めの頃の作品だとコロナウイルスがこんなに広まる前の「普段どおりの平和な」制作体制の作品も少なくなかっただろうけど、今このような状況がずっと続くのか、もっと酷くなるのか、収束するのか、全然わかりません。

 ひとまずは、例年と同じように、自分の生活を自分でどうにか保っていくしかないなあ、ということになってしまいます。今年の4月に福岡に帰ってこれたものの、様々なことがあって*8ここ1年はずっと一人を感じてやってきたところもあるので、来年はもっと人と会えるといいなとぼんやり思いました。

 ここまで長々と書きましたが、奇特にも読んでいただいた方々は本当にありがとうございました。来年も生きていきましょう(笑)

 最後に例によってSpotifyのプレイリストを貼っておきます。30位から下っていく曲順になっています。それでは、定型文で締めます。

「良いお年を!」

*1:この3枚目のEPはJoão Gilbertoに捧げられている。

*2:よく聴くと意外とリズムは生ドラムっぽいものも多い。ただ相当打ち込みっぽい均一なプレイに徹してるけど。

*3:一部中盤にバンドサウンド感が多少強い曲があって「おっ」と思うけどすぐまた似たような打ち込みトラックになる。個人的にはこの「今作的なバンドサウンド」の楽曲がもっとあっても良さそうに感じた。

*4:福岡市中央区清川にあるUTEROというライブハウスです。

*5:ただ、よく今作で喧伝されている「ラフなフィールド録音による様々な音が入り込んだことによるライブ感」についてはよく分からなかった。そうかもな、とは思うけれども。

*6:Aimee MannからKanye Westまで幅広く手がける巨匠プロデューサー。

*7:小西康陽さんは北海道出身です。だからなのか、PIZZICATO ONEのジャケットでも雪の景色が多いですもんね。

*8:単に出不精なだけかもしれんけど