ブンゲイブ・ケイオンガクブ

本を読まない文芸部員と楽器を練習しない軽音楽部員のような感じのブログ。適当な創作・レビュー等々。

『ハチミツ』スピッツ(リリース:1995年9月)

ハチミツ

ハチミツ

  • アーティスト:スピッツ
  • 発売日: 2002/10/16
  • メディア: CD
 

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Hachimitsu

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 随分と間が空いてしまったスピッツ全アルバムレビューを久々に書きます。何せ前回『青い車』が2020年5月、アルバム『空の飛び方』は2019年10月…相当放置し過ぎてました。

ystmokzk.hatenablog.jp

 今回取り上げるのは、スピッツ最大のヒットを記録し、彼らを「J-POPを代表するバンドのひとつ」にまで押し上げたアルバム『ハチミツ』です。流石に緊張します。

 本人たちすら予想していなかった『ロビンソン』の大ヒットにより当時のミスチルやB'z等と並ぶくらいの立ち位置に急に”成り上がった”直後にリリースされたアルバムで、そしてやはり『ロビンソン』の収録アルバムとして「日本の歌謡界の名盤のひとつ」としても扱われ続けるであろう作品*1

 しかしながら、そんな急激に変化した状況を感じさせないほど、この作品単体を見たり聴いたりした感じは「軽い」というのが、今作の面白いところです。何ならここで、今までで一番「可愛らしさ」を押し出した、カジヒデキとかの横に置いても違和感の無い”ギターポップアルバムとして割り切った作品に仕上がっていることは非常に重要だと思います。「ヒットの重圧を気にせず自然体の作品」とよく言われるけど、個人的には決してそうではない、かなり狙い済ましてる作品だと思ってもいます。

 なおかつ、そんなスピッツ史上最も可愛らしい作品にどうやって「今までの邪悪なスピッツ要素」を入れ込むかというところも、見どころになってくるのかと。「爽やかギターポップでありながら、内面はエロとグロに塗れた妄想が漏れ出してる」という作品とも言えるかも。それで通算で170万枚程度売り上げたという、冗談みたいな作品…!

 

 では、河原でワンピでアコギ、なんていういかにもなソフトで可愛らしいジャケットに見送られつつ、各楽曲を順番に見ていきましょう。

 

*1:逆に歌謡曲界隈で取り扱われる可能性があるスピッツの作品はこれくらいだろう。

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フェードアウトする楽曲【後編25曲(1990s〜)】

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 後編です。1990年代〜現在まで行きます。今回の50曲のリストを作る際に「これを入れるために作った」という幾つかの曲はどっちかというと今回の記事に多めに入っています。

ystmokzk.hatenablog.jp

 今回の記事で最初に作った50曲分のプレイリストの全曲に触れ終わりますので、記事の最後にそのプレイリストを参考資料として添付しときます。よろしくお願いします。

 

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フェードアウトする楽曲【前編25曲(〜1980s)】

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これはフェードアウトの記事だけど、絵におけるパースの概念もどこか近しいものがある印象。

 

ja.wikipedia.org

フェード (fade) は、衰える、萎むといった意味の英語である。

 

フェードは舞台音響および録音の用語でもある。次第に音が小さくなっていくのをフェードアウト、次第に大きくなってくるのをフェードインという。

 

 フェードイン・フェードアウトというのは、録音物だからこその加工技術です。録音した音を機械的に段々大きくしたり小さくしたりする、というのは、実際の演奏で再現するのはかなり困難で、かつ不自然なものになります。ライブ演奏だったら、録音ではフェードアウトになっているものでも、普通はどうにか落とし所を付けて演奏を完奏させるものです。演奏陣が一丸となって音量を小さくしていくのは困難な上、観ててそんなに面白いものでもないので。

 なので、フェードイン・フェードアウトは、録音物だからこそその趣を楽しめる技巧だと言えます。今回はそんな仕組みになっている楽曲を集めてみたら、なんか50曲ほど集まってしまったので、丁度ディケイドで半分に切れたので、この前半記事では1980年代までの25曲を見て行って、フェードアウトによってこういう効果が生まれてるのかもなあ、といったところを考えていきます。

 

 前後編な記事なので、プレイリストは後編記事の最後に添付します。

 

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2021年上半期の音楽(9枚)

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 2021年の前半はまるで魂を吸われるようで、うんざりしてばかりの日々でした。今まで生きてきてこれほど報道の数々から不快な思いをし続けたこともないと思います。こんな惨状でもオリンピックをやるというのだから、この国はもうずっとこういう調子で進んでしまうんだろうか…と生きていくのがいやになります。こんな絶望的な状況の中、それでも上からの指示でオリンピックを実施せざるを得ない現場の数々のスタッフの方々を尊敬し、同時に気の毒に思います。

 

 私ごとも込みでこれだけうんざりした気分がずっと続くと、あんまり音楽も楽しく聴けていない感じになっていて、なんとも残念な気持ちがずっと続いてきています。望むべくは、これだけ残念でうんざりな気分でも、それでも自分の暮らしや気持ちをせめて何かエンジョイ&エキサイティングさせ続けるよう努めること。そんなことできるのかな…とは思うけど、できるかな、じゃなくて、しないといけないな、と思います。

 

 以上の言い訳により、今年上半期の新譜の中から9枚程度を、あっさりと選んで文章にした記事です。色々うんざりして、かつ暮らしに余裕もなかったから、6月までのまとめの記事がこんな時期になっちゃった。それにしてもコロナ禍でバンドがしづらくなってからしばらく時が経ち、バンド勢もかなり制作環境を取り戻してきてるのかなと思う。

 

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サブスクにないアルバム(30枚ほど)

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 サブスクというものは確かに便利なものですが、 しかし一時期言われた(今もそう?)「サブスクに楽曲が存在していないのはこの世に存在していないのと同じ」みたいな言説には、ある程度は理解できるけども、完全には賛同しかねます。他人のふんどし借りてえらい傲慢な物言いだなあ、とも思うし、電気グルーヴの不祥事に伴う楽曲引き上げ等に見られるような、ふとしたことで聴けなくなってしまうという脆弱性のこともあったりで*1、サブスクは決して万能じゃない、と思ったりもしましたが、でもそもそも、今回取り上げるような様々な名作アルバムがサブスクには存在してないけど、まさかそれらの存在も「無かったこと」にしてしまうの…?という違和感も大きくあるわけです。

 今回は、この記事を上げた2021年7月18日時点でサブスクに上がっていない30枚のアルバムを紹介していく記事です。これらの中には、どうして上がっていないのか本当に不思議になってしまう*2作品や、なんとなく今になってそれをサブスクに上げようとする主体がいないんだろうな、って思える作品、そしてそもそも本人たちの意向によりサブスクを拒否している作品など、様々な事情があります。それらにも極力のリスペクトを捧げながら触れていければと思います。あと自分の聴いてる範囲の都合からか、どうしても日本人アーティストが多めです*3

 …そして、表題からして判るとおり、今回のこの記事は、前に書いたこの記事の二番煎じです。

ystmokzk.hatenablog.jp

ウケが良かったので、第2弾を書いてやろう、という意図がこの記事にはあります。ただ、前回の記事で取り上げたアーティストの作品は今回含んでいません。

 

こちらの記事も解禁されたらその都度追記をしております。というかサムネ画像に挙げたアルバムの多くが既に解禁されてきてる…(2022年8月追記)

 

*1:そもそも”サブスク解禁”ってのも、誰かがサブスクげ聴けるのを”禁じている”とも取れる表現で、そこにサブスクという制度の危うさが表出してる気もします。

*2:多分契約の都合でそこがけ抜けてしまう、みたいなことがあってるんでしょう。

*3:流石に日本でも名前が聞こえてくるクラスの海外のアーティストは大体サブスクにあるなあ、っていう感じ。

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晦渋図鑑〜田中和将作曲楽曲集(25曲)& more

https://www.fmicassets.com/demandware/assets/japan/music/life-with-fender/life-with-fender-vol41-c.jpg

 言うほどどの曲も何もかも晦渋って訳じゃないと思います…。

 

 先日書いた以下の記事で、このアルバムの尖った感じは、普段なら亀井曲が多くを占めるGRAPEVINEのアルバムにおいて、あえて比較的晦渋な田中曲の比率を一気に上げたこと、及びそれを前面にアピールしたことが原因のひとつとしてあるのでは、と言うことを書きました。

ystmokzk.hatenablog.jp

 散々田中和将氏の楽曲の傾向を”晦渋””晦渋”と、バカのひとつ覚えのように連呼した記事でしたが、本当にそうなのか検証したいこともあって、GRAPEVINEといういつの間にか長大なキャリアと作品数を誇るバンドになった存在において、メインソングライターとして亀井亨が”バインらしさ”含めて腕を振るう*1横で、比較的自由に・バンドの主流に対するオルタナティブ気味に作曲を続けてきた田中和将曲をここに歴代25曲分集めたので、今回はそれらを見ていきたいな、と思います。

 

 

*1:亀井曲もバインらしさ全開のメロディの曲が多数ある中、相当に実験的な楽曲も多くあることには注意が必要です。『豚の皿』も『その未来』も『CORE』も亀井曲だということをしっかり弁えておきたい。

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『新しい果実』GRAPEVINE

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 遂にそのポテンシャルを尖らせて出した作品を放ってきたな…って感じの今回のGRAPEVINEのアルバム『新しい果実』。自分も何度も聴いてて、ここまで続けてきたバンドだからこその強固さと、それ以上に何か劇薬が混じったかのような変質っぷり*1を楽しんだり驚いたりしています。何がどうなっているのか、どう異質で、埋もれようのない”尖り”が現れているのか、ちょっと確認しておきたいと思います。

  • 最初に思うところ
    • 曲順
    • 曲目・作曲者
    • サウンド
    • 歌詞
    • ジャケット・アルバムタイトル
  • 楽曲精読
    • 1. ねずみ浄土
    • 2. 目覚ましはいつも鳴りやまない
    • 3. Gifted
    • 4. 居眠り
    • 5. ぬばたま
    • 6. 阿
    • 7. さみだれ
    • 8. josh
    • 9. リヴァイアサン
    • 10. 最期にして至上の時
  • おわりに

 

*1:本人たちはインタビューではそういう様子をおくびにも出さないけども。

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"ウォール・オブ・サウンド"って何なんだろう:後編 〜Brian Wilson、ノイズ、その他

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 この画像は、Googleの画像検索で「Wall of Sound」と検索すると上位に出てくる画像で、これがなにかと言うと、アメリカの有名バンドGreatful Deadが1973年くらいに作ったライブ用の音響設備”Wall of Sound”なのだそうです。楽曲の表現手法としてのWall of Soundとは全然関係ないもののようです。ややこしい。でも多分「音の壁」って語を予備知識なしに聴くとこういう沢山のスピーカーから出力される轟音のこととかを思い浮かべるだろうな、と思いもするので、こういう”誤解”は全然起きるだろうし、何が正解とか別に無いのかもしれないしなあ…などとふにゃふにゃしたことを考えてしまいます。

 

 長かったウォール・オブ・サウンドの記事、今回で最後になります。3章仕立ての第3章目のテーマは、第1弾の”原義”Phil Spector作品にも、第2章のナイアガラ・サウンドにも当てはまらない、「その他」のウォール・オブ・サウンド楽曲、です。

ystmokzk.hatenablog.jp

ystmokzk.hatenablog.jp

 とはいえ、幾らかの系統だてた話ができればと思っています。

 なお、記事の最後には、この3回分の記事で取り上げた楽曲を極力収録したプレイリストも掲載します。

 

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"ウォール・オブ・サウンド"って何なんだろう:中編 〜ナイアガラ・サウンドって何なんだろう

 

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 ウォール・オブ・サウンドの記事、前回はその大元であるPhil Spectorの経歴と作品について見ていきました。

ystmokzk.hatenablog.jp

 この一連の記事は3章構成で、第1章が上記のPhil Spectorの話。これから第2章と第3章を書いていって「後半」の記事にするつもりでしたが、思いの外第2章が延々と長くなるので、また記事を分けることにしました…計画性が無さすぎる。

 第2章は、いわゆるナイアガラ・サウンドとも呼ばれるアレです。「また大瀧詠一で記事書くのか…」と思った方、ぼくもそう思いました…。

 

 

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"ウォール・オブ・サウンド"って何なんだろう:前編

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 「音の壁」って言うと、原義を知らない人はもしかしたら「壁のようにそそり立った物凄い轟音」のことを思い浮かべるかもしれないし、もしくはバンドを観たりすしたりする人だったら「ギターアンプがやたら積み上げられて出力される轟音」のことを思うかもしれません。なんとなく、ロック関係の用語なのかなあ、と思われる気がします。実際、そう言う具合の使い方もされてない訳ではない。

 そして、そういう意識で”原義”であるところのウォールオブサウンド作品を聴くと「…あれっ、普通のオールディーズポップスじゃないの?」となってしまうのかもしれません。

 弊ブログでは最近、この語に関係してくるアーティストを立て続けに取り扱ったので、そこから派生して、今回はこの、どこまで厳密に原義どおり扱うべきかしばしば戸惑ってしまうこの”ウォール・オブ・サウンド”という概念について、原義からその応用、もしくはギリギリ原義と関係あるかなあ、くらいの範囲までを、具体的に楽曲を取り上げたりもしながら順序立てて見ていこうとするものです。

 3章構成で、例によってどんどん長くなっていったので、今回はそのうち第1章のみを掲載します。「原義」の部分にあたる内容です。

 ちなみに先に書いておくと、第2章がナイアガラ関係、第3章がその他、という分け方になっています。後編はいつ書き上げられるか…。

 

(2021年5月6日追記)

結局第2章だけで単独記事になってしまいました…。

ystmokzk.hatenablog.jp

 

 なお、多分「原義」の方について沢山の識者がいらっしゃるかと思われますが、あくまで本文はわたしの個人的な整理ということでよろしくお願いします。とはいえ、著名な識者、特に手元にある資料の関係から、大瀧詠一のインタビュー記事などから参照したところが多々ありますが。あとは最近のこの対談記事とか、この冗長なブログ記事を読むより前に読んでおいた方がいいと思います。

kompass.cinra.net

 

  • 第1章:「原義」Phil Spectorの"Wall of Sound"
    • A-Side:This is Wall of Sound・全盛期のスペクター
      • 概要
      • 1. Zip-A-Dee-Doo-Dah / Bob B. Soxx & The Blue Jeans'
      • 2. Da Doo Ron Ron / The Crystals
      • 3. Be My Baby / The Ronettes
      • 4. Christmas(Baby Please Come Home) / Darlene Love
      • 5. You've Lost That Lovin' Feeling / The Righteous Brothers
      • 6. River Deep-Mountain High / Ike & Tina Turner
    • B-side:”その後の”Phil Spector
      • 概要
      • 1. Black Pearl / Sonny Charles and The Checkmates, Ldt…
      • 2. The Long and Winding Load / The Beatles
      • 3. What Is Life / George Harrison
      • 4. Just Because / John Lennon
      • 5. Only You Know / Dion
      • 6. Death of a Ladies' Man / Leonard Cohen
      • 7. Do You Remember Rock 'n' Roll Radio? / The Ramones
      • 8. Silence is Easy / Starsailor
    • 第1章まとめ

 

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