ブンゲイブ・ケイオンガクブ

本を読まない文芸部員と楽器を練習しない軽音楽部員のような感じのブログ。適当な創作・レビュー等々。

ひとつのコード進行/リフ等で曲が反復し続けて完結する曲(30選)

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 「曲構造等」というタグを前回から作っていて、曲構造っていうのは「イントロ→Aメロ→Bメロ→サビ→間奏…」みたいなののことですが、これって色々な見方ができるような気がしてて、前に投稿した「曲タイトルだけをサビ等で連呼する曲」というのもある意味曲構成がそうなってる・そうなるように作曲されているという話で、この辺の話って色々考えだすと面白いと思うんです。

ystmokzk.hatenablog.jp

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 今回は表題のとおり「ひとつのコード進行またはリフの繰り返しで最後まで割と同じ調子のまま駆け抜けていく感じの楽曲」というテーマで選曲して、各楽曲のその繰り返しがどんな感じにいい感じなのかとかそういうことについて見ていきます。

 今回のテーマも「繰り返し」という要素に焦点を当てているので、前回の記事で取り上げた楽曲のうち今回のテーマにも当てはまる曲は幾つかあります。今回はそれらは除いて、前回分とアーティストの重複無しで30曲選んでみました。おそらく今回のテーマに該当する曲は世の中に物凄くたくさんあるとは思われますが…自分の思いついて確認できた範囲での30曲です。今回は普通に年代順に並べます。

 前回の記事はこれです。

ystmokzk.hatenablog.jp

 なお、初めからミニマルなループで展開されるのが通常なテクノやハウス、ヒップホップ等につきましては、正直自分が全然無知であることもあり、選んでおりません。ご了承ください。

 

今回のこのテーマは一体どういうことですかね?

 きっと今回のテーマは今までよりもよく分からないと思います。今回集めた30曲を聴いて「なんでこれとこれが同じプレイリストに並んでんの?」と疑問に思う向きもあるかと思います。自分も選曲のジャッジが基準がだんだんよく分からなくなってきた感じもします。でもとりあえず今回のリストに自分は一応の共通性は感じています。

 以下に今回の選曲をしてて自分が気づいたことを書きますが、正直書いてるこっちもややこしい気がしてるので読み飛ばしてもらって実際に曲目見てもらった方が感じがわかるかもしれません。

 今回リストにした曲を強引にタイプ分けするなら、以下の要素があるかもしれないように思います。実際には、1曲で複数の要素を含んでたりするところではありますが。

 

同じコード進行を繰り返し弾き語りで作曲したっぽい系

 たとえば「G→D→Em→C」というコード進行をずっと繰り返して1曲を終わらせるという、今回取り上げる楽曲の多くはそういうパターンです。循環コードだけで作曲する感じです。で、この①のグループはなんとなくですが、ギターかピアノでその循環コードを繰り返し弾きながら歌って作曲された感じがする楽曲のくくりです。というか、以下で挙げる②以降のパターン以外のもの、という感じかもしれない。割と弾き語りで成立しそうなグループな気がします。

 同じコード進行を延々と繰り返すだけだと同じメロディしか出てこないのでは?とも思ったりするけれど、今回はその点については前回と違って、同じコード進行上でも複数のメロディを展開する楽曲ばかりを選んでいます。その辺りの、同じコード進行なのにセクション毎に異なるメロディを効果的に書いて劇的な「歌」に仕上がっているところがどの曲も素晴らしいところ。そもそも延々と同じメロディ繰り返すだけで曲を終わらせる方がよっぽど難しい気がします。

 

同じリフを延々反復させて1曲にしてしまう系

  ひとつのギターリフやピアノフレーズを延々とリピートし続けながらその上に歌や楽曲を乗せるパターンです。①のコードがリフに変わったものですが、ただ、弾き語りをするにしてもコードを音符に沿って規則的に鳴らして歌うのと、特定のリフを弾きながら歌うのとでは、リフの方が難しい気がします。なのでこの手の曲はどうやって作曲してるんだろうと思います。トラックを録ってから歌を決めてる?まさか。

 このパターンの曲はあまり多く見つけられず、大概の有名なリフの曲っていうのはリフ以外のパートに展開したりしますね。ただ、純粋にひとつのリフ繰り返すだけで歌を成立させると流石に退屈になってくるのでそれもむべなるかな。

 

セッションで曲を作った系

 弾き語り作曲法に対置される作曲法のひとつに、バンドのセッションで作曲する、というものがあるかと思います。この場合大抵は、基調となるキーなり循環コードなりを設定して、それに従いながら各演奏陣が思うままに演奏を広げていって、それがやがて当初から予想もされなかったような楽曲を作り出していく…というのが理想的なセッションでの作曲の流れかと思います。

 で、特に循環コードでこれをした場合にどんな効果が現れるか、それはそのバンドやセッションが音楽ジャンル的にどの方向を指向してるかで変わってきます。サイケを目指したセッションならサイケに、ポストロックに向いてたらポストロックに、という。そしてこの作曲法はこの後で述べる他の方法論でも援用されるものだと思われます。援用っていうか、単にこの記事でこうやって何故か便宜的に分けてるだけだし。

 

ソウル・R&B的な反復で成立する系

 ①はまだ割と純粋に歌ものを作る、アコギ弾き語りでも成立するような歌を作る、って感覚で、②もまだその要素が残ってますが、ソウル・R&B的な反復となると、いよいよ弾き語りで成立はどうかなあ、歌唱力次第かなあ、という気がしてきます。いやほんと自分がアコギ的作曲しかしたことないからなのか、R&Bってどうやって作ってるんだろ???ってなります。キーボードでコードをループさせて作曲するのかな…。①の反復の仕方と何が違うのかって言われると上手く説明できない感じもなんかつらい。

 この辺自分の不得手な分野なので、今回のリストで数が少ないことを先にお詫びします。絶対もっと沢山あるんですけども…とりわけ近年のアンビエントR&B以降の流れとかでこういう系の増えてそうだし。

 

ファンク的な反復で成立する系

 ブルーズがR&RとR&Bに分化して、さらにR&Bからファンクが派生したのか、いやそれとも1960年代にJames Brownが発明したものがファンクなのか、その辺の歴史的経緯をよく知らないのですが、ベースがこううねって、ギターがひたすらカッティングをチャキチャキやってて、そしてリズムがずっと反復してればファンクなんだきっと、って思ってます。で、まさに反復こそが命題とも言えるジャンルなので、同じコード進行を延々反復して完結するもの、もっと言えばワンコードで最後まで貫き通すものまであるわけです。当然、弾き語りなんてナンセンスなことが大抵、というジャンル。

 近年はシティポップブームの中でいいようにAOR的要素とまぜこぜにされてる感じもします。そしてこちらも増えてジャンルなのでリスト上の数が…。

 

クラウトロック的な方法論で反復してる系

 R&Bもファンクも、どこか肉体的な躍動感みたいなのを信条とするところがあるし、それらの対極となると、機械的・均一的なビートと平坦さ自体を目的化したところがあるクラウトロックなのかなと思います。人間・肉体性の否定!…でもテクノやハウスに比べたら結局人力な感じがして、意外とこれはこれで人間的なのかもとかクラウトロックのオリジネイターの作品を聴いてると時々思います。

 曲展開を変化させない中で音を環境音的に冒険させることの多いジャンルなので、当然反復が多くなってくるもので、同じコード進行を反復・またはワンコードで完結まで行くものが多数あります。今回は一応「歌もの」に絞って選曲してるので、純粋に「音の冒険」的なクラウトロックの楽曲は入ってません。というかこれも自分不得手…。

 

DJ・ヒップホップ的にトラックを作った系

 これはサンプラーが世間に出回って以降の作曲技法になるかと思います。「この感じいい!」と思ったセクションやリズムを延々とリピートさせ、その上に歌を載せる、という作曲方法になります。ヒップホップなんかではむしろキャッチーなサンプリングのリピートの上にラップを乗せる方法論が基本になるかと思いますが、今回はその手法で歌モノの楽曲を作っている事例が何曲か入っています。この手法の場合とりわけリズムは延々強弱やフィルインのない均一なループで、上物を消すとかリズム自体を消したりするとかで曲展開を構築したりします。

 上でも言いましたがやっぱり不得手なジャンルなので数は…いい加減何だったら得手なんだよってなってきた…。あとヒップホップが大衆音楽になって以降はR&Bとヒップホップの境界が曖昧になってきてると思うので「それヒップホップじゃねえのかよ」みたいな曲がリストに入ってるかもしれません。

 

ミニマルミュージックとして作曲された系

 ミニマルミュージックという概念はどっちかというと実験音楽とかに寄ってくるかもしくはテクノとかハウスとかそっち寄りになってくるものだと思いますが、しかしながらこの概念は時折ポップスの世界にも降りてきて、今までに述べた他の考え方と融合して名曲になったり、もしくはこれ単体でポップソングになってしまったり。今回は歌もの限定のテーマですが、それでも純粋にこれに該当する曲が1曲だけあります。

 

今回のリストから外されるような事例

 逆に、確かにコード進行は循環しているけれども今回のリストから外したものも挙げておきます。かなりギリギリまでリストに入れてた曲もあるので、何を基準に外したか、という部分から逆説的に今回のリストの性質が分かるかもしれません。というかここで挙げる曲はどれも1回はリストに入れてたので、むしろNG集みたいなものです。本編より先にNG集が来るこの記事の構成…?

 

ex-1 The Ballad Of Dorothy Parker / Prince

www.youtube.com 最後の最後までリストに入れてた曲その1。Princeらしからぬシリアスで苦味のあるコード進行と淡々としたトラックの反復で進行する楽曲はSly & Family Stone的なダウナーなソウルフィーリングに溢れていて、シンセの使い方といい正当進化系のような感じがする名曲。しかしながら、2分以降の展開で循環コードの縛りを所々で解除して、地味ながらメロディを盛り立てるところがあり、ここのために泣く泣くリストから外しました。

 

ex-2 Smells Like Teen Spirit / Nirvana

www.youtube.com もしかしたら世界で一番有名な循環コードで完結する楽曲かもしれません。しかしながらこの曲においては、明確に間奏・Aメロ・Bメロ・サビで演奏のテンションが分けられており、コード進行はずっと繰り返しながらも楽曲としては平板な感じを全く感じさせません。でもその平板な感じがないために今回選外となってしまいます。同じ理由でグランジ系の循環コードの曲は軒並み選外となります*1ART-SCHOOLとか。

 

ex-2 今夜はブギーバック / 小沢健二

www.youtube.com ご存知日本のヒップホップ文化の中でも特殊で特別な扱いされる名曲。ずっと同じベースラインの反復の下を展開していく訳でありますが、反復が基本動作であるヒップホップであること、及びそもそも全然違うコード進行のCメロが存在することから選外となります。

 

ex-3 Starfire / Low

www.youtube.com 最後の最後までリストに入れてた曲その2。延々とⅠ→Ⅳの進行をゆっくりと進めるその様はまさにスロウコア的な虚無感と力強さの合わさった、ベルベッツから派生した要素が遠いところまで来た、という景色が広がっていくような楽曲。しかしながら、2分前後のあたりで基調の循環からわずかに外れる箇所があり、選外にしました。今回のリスト、作るからには判定を厳しくしようと思ったのはいいけれども、そのせいで色々と大変だったです。

 

ex-4 poly life multi soul / cero

www.youtube.com ボサやサンバの感じを秘めた割と高速なリズムの上にひたすらクールで乾いた詩情とメロディを乗せてひたすら冷たく無感情的に疾走していく、ちゃんと聴いた時に非常に驚いた、とても理想的なニューウェーブ感のある楽曲です。しかしその楽曲から受けるクールな反復感の割に、それまでと異なるコード進行のBメロが明らかにあったりします。残念ながら選外。

 

 

本編

 前置きがひたすら長くなったし、かえって意味不明になってないか心配ですが、ここから本編です。先ほど便宜的に分けた①〜⑧の楽曲タイプのどれに(大雑把に)該当するかについても記しています。また、なんとなく年代ごとに分けています。

 

70年代

1. Isn't It A Pity / George Harrison(1970年)

www.youtube.com The Beatles解散後に早々にリリースされた彼の1stソロアルバムは3枚組(CDだと2枚組)だけど、楽曲のクオリティもおしなべて高く、Phill Spectorのゴージャスなサウンドの先にはその少しカントリーロック的なラフで少し頼りないからこそのポップさがいくつも花咲いてて、そのセンスはそのままのちのインディロックのお手本のひとつになる。

 そんな充実作のハイライト(にしては曲順的に早すぎる)となるこの曲は延々と同じコードに同じメロディを繰り返していくけれども、歌もアレンジもゆっくりと次第に盛り上がっていく。『Hey Jude』をもっと単純で神々しくした感じというか。終盤の延々と繰り返しながら空からタイトルコールが降ってくるような感覚はやっぱこの曲George Harrisonのソロなんだなーと思いながらもでもこれビートルズで演奏してたらどうなるんやろ…となってしまうのは不可抗力だと思いたい。

 

2. Ain't It Funky Now / James Brown(1970年)

www.youtube.com ファンクの偉大な発明者James Brownの作品数は多すぎて、調べてみたら何が何だか分からなかった。これだけの畳み掛けるようなリリースの連発と屈強なライブの連発とで、その身でファンクという概念を本当に作り上げたんだなあと思った。延々と反復するインストゥルメンタルにおっさん声で相槌を打つだけの人みたいに思ってた過去の自分を永遠に恥じよう。

 そんなファンクという文言をダイレクトにタイトルに入れたこの曲。ひたすら同じベースラインとリズムを反復させながら上物がギターになったりホーン隊になったりしてそれぞれにエキサイトして、そしてそこに謎の呻きのようなボーカルを合いの手のように打つJB。この指揮棒と肉体性とが綯い交ぜになったこのJBのボーカルこそが、こういった曲をスリリングなエンターテイメントとして完成させているんだと最近はよく思う。ライブ盤『Love, Power, Peace』の割と高速気味なファンクネスの強靭さと熱狂具合がとても良いのでそれを選びました。ちなみにスタジオ版のシングルは実は1969年リリースだけどアルバムは1970年だからここでいいや。

 

3. Turtles Have Short Legs / CAN(1971年)

www.youtube.com クラウトロックの偉大な立役者のひとつ・CANではあるけれども、でもここではそんなクラウトロック感全開な曲ではなく、むしろ60年代ガレージバンドみたいなヤケクソ感さえ漂うこのポップソングを選んだ。というか今回の企画を思いついてから色々調べてるうちに、CANのシングル集なるものがあることを知って、しかもそれが2017年リリースと実に最近で、そしてそこにはシングルらしく3分サイズの楽曲が沢山入ってて、素朴に「CANってこんなにシングル出してたんだ」って思った。

 この曲の反復のポイントは可愛らしくもジャンク気味なピアノのリフ。これを中心にVerse-Chorusの構成を取り、そしてVerseの投げやりっぷりな力のない絶叫がとてもバカっぽくてキャッチーで楽しい。ボーカルはかのダモ鈴木。あと、そのピアノのリフ等の伴奏の出し入れの仕方がかなり思い切ってて、その辺のセンスが90年代以降的な感じもした。あと何故か岡村靖幸と石野卓球のユニット・岡村と卓球でこの曲がカバーされてたりなんかもする。当時はシングル絶版入手困難だったはずで、すげえ選曲センス。

 

4. Tupelo Honey / Van Morrison(1971年)

www.youtube.com 黒人シンガーを差し置いて先に白人シンガーをR&Bとして出してしまうのはこのブログの限界。いわゆるブルー・アイド・ソウルというジャンルにカテゴライズされることのあるVan Morrisonだけど、この曲なんかを聴くと、歌唱はソウル的な熱っぽさをたたえながらも、演奏はかなりアメリカンロック的なカントリーじみたテイストが大きく、なのでこの曲は、アメリカンロックがR&B・ソウルを飲み込んで自分の要素にしてしまうその犯行現場を垣間見てるかのような感じもする。

 それにしても、Neil Youngの『Helpless』もそうだけど、こういうシンプルな3コードの繰り返しをどっしりやることが時にものすごく強くなるものだなあとか思う。豊かな演奏と歌心があると3コードを延々繰り返すだけで名曲になってしまう、それが70年代アメリカンロックの強みかもしれない。そう思うと同じシンプルな3コードバラッドをオルタナ的に解体したWilcoの『Via Chicago』は結構そういうのに対する批評的な要素も強いのかも。

 

5. Walk On the Wild Side / Lou Reed(1972年)

www.youtube.com Lou Reedのソロは殆ど『Transformer』しか聴かない。ポエトリーは苦手なのか『New York』とかいまだによく聴けてない。『Transformer』は彼がVelvet Underground在籍時に発揮してたポップサイド・メロウサイドの魅力がわかりやすく整理されてて実に聴きやすい。プロデュースはDavid Bowie。ボウイ偉い。

 その中でも、Lou Reedの“怪しげな語り部”的な魅力を最もポップな形で抽出することに成功したのがこの曲。ほぼⅠ→Ⅳだけを延々繰り返す曲構成なのに、とても豊かな形で「埃臭くて暗がりな都会の裏通り」な感じが表現されている。楽曲・演奏双方のシンプルさとベースとボーカルを前に出した思い切ったミックスが、音の空白を意識させて奥行きを感じさせるのと思う。ドゥーワップ調のコーラス部で女性コーラスにサッと切り替わるのも含めて、この音数の少なさと何に焦点を当てるか明確な楽曲構造は現代の欧米の主流のポップソングとむしろ似てるのかもしれない。

 

80年代

6. The Great Curve / Talking Heads(1980年)

www.youtube.com ニューウェーブというジャンルはその内訳に「白人によるファンクのパンク的受容」を含んでいて、とりわけTalking Headsの『Remain In Light』はファンク的な反復を見事にニューウェーブ的に染色し、さらにそこによりアフリカ的なアフロビートとそしてニューウェーブ的な痙攣要素とを混ぜ込んだ名作となった。個人的には、David Byrne的な痙攣がファンクもアフロビートも飲み込んでしまった作品、という気がしてる。それにしても彼にせよJoy Divisionにせよこの次の楽曲にせよ、どうしてニューウェーブは「痙攣」がやたらと付き纏うんだろう。

 当該アルバム前半はまさに痙攣するJBと言わんばかりの勢いで駆け抜けていくけれども*2、4曲どれもひたすらリズムも上物も反復しながら、メロディを強引に変えて楽曲にしていく。とりわけ疾走感が強いこの曲は、本来のファンクのカッティングの代わりに非常にニューウェーブ的な剃刀状のギターが飛び交い、そして不思議なコーラスが次から次に現れて、コンガボンゴの乱打も伴って、冷んやりととしかし確実に狂騒していく。

 

7. 体操 / Yellow Magic Orchestra(1981年)

www.youtube.com YMOのアルバム『テクノデリック』はそもそもとしてミニマルミュージックをテーマに掲げて制作された作品で、前作『BGM』でかなりシリアス気味になったサウンドをより研ぎ澄ませかつ細切れにして反復して、結果としてダークな雰囲気が彼らの作品でもとりわけ強いものとなった。

 しかしながら、それでもシングルとしてこの曲をリリースし、そしてこのシングルはヘンテコなユーモアもありつつキャッチーなサビ的なセクションもあり、ギリギリポップソングとして体をなしている。コードは2つを反復かと思わせつつも、4つ目のコードがより低いものに下っていくところにこの曲の毒々しさがある。その毒はサカモト的なピアノのリフレインでボカされつつも、キャッチーなサビではそのメロディを奇妙に崩壊させる。それにしても「痙攣、けーれん」とポップに連呼する終盤はやっぱ変なテンションだ…。

 

8. Girls & Boys / Prince(1986年)

www.youtube.com Princeの絶頂期は80年代、アルバムだと『1999』〜『Lovesexy』の間だと多くのファンの間で言われている。とりわけ『Purple Rain』の大ヒットによって得た資金で自身のスタジオを作ってからはものすごいペースで作曲と録音を繰り返していたという。Prince & The Revolutionというバンド名義であってもほぼ彼ひとりで録音してしまうほどの勢いの中で、この曲が収録されたアルバム『Parade』も制作された。

 この時期のPrinceの楽曲で時折あるのが、ベースが演奏されないということ。いわゆるブラックミュージックにおいてベースの重要性は非常に大きいところなのに、彼は平気でそれを抜いて、その上でキャッチーな楽曲をヒットさせてしまう*3。この曲もベース抜きの低音スカスカファンクで、薄っすらと伴奏で同じコード展開が反復し続けてることが判る。ベースの不在や各楽器の音色や鳴らし方がややチープであることにより、この曲の狂騒感はどこかペラペラした感じがあり、しかしその歪なペラペラさが絶妙なファニーさとファンクネスを生み出してる。音数はそんなに多いわけでもないのに、音の出し入れの妙でヘンテコなおもちゃ箱っぽさすら感じる。

 

9. With Or Without You / U2(1987年)

www.youtube.com ひたすらファニーな前曲から打って変わって、この時代ならまだひたすらシリアスなU2の、ひたすら視界が広大に枯れたアメリカの大地色に開ける大名盤『Joshua Tree』収録の、彼らが初めてチャートトップに立った楽曲にして、実に感動的な抑制と解放に満ちたこの名曲。これもよく聴くと循環コードだけで成立してたことに長年気付かなかった。

 この曲はテンションが完全にBonoのボーカルとThe Edgeの輝きそのもののようなギターに支配されているけれども、しかしその二つがどこまでも遠くまで響くように感じれるのも、他の楽器があえて平坦な反復を繰り返していることが大きい気がする。この抑制があってこその、ボーカルやギターの飛躍だと思う。この曲のBonoのえげつない歌唱力は、淡々としたバックトラックの上だからこそ、どこまでもエモく伸びていくような感じがする。

 

10. Disintegration / The Cure(1989年)

www.youtube.com 80年代を通じてやはり強大なバンドに成長したThe Cureのキャリアの絶頂となる名盤『Disintegration』は、ダークで、耽美で、死と性と眠りと幻惑とが綯い交ぜになった世界を、キャリア随一のソングライティングで描き出していく。そしてそのハイライトとなるアルバムタイトルトラック*4が、ひたすら平坦に反復を続けていくトラックだというのが、上手く言えないけれども何故かとてもエモい感じがする。

 やや疾走感が生じる程度のBPMの上で、勢いのついたバスドラムと、そしてリード楽器ばりに弦の振動音を響かせ続けるベースの存在感が楽曲の骨格となり、その周りをひたすら低温で幻惑的で悲しげなサウンドが巡り続ける。Robert Smithのボーカルラインはメロディと語りの合間を漂うように紡がれ続けながらも、次第にその独特な熱の帯び方をして、反復の中を螺旋状に駆け上がり続ける形で突き抜けていく。同じ単語を連発する歌唱の煽り具合、そしてそんな歌が途切れてから伴奏だけ残って、無機質で無情感に反復し続けて途切れるまでの、あの名状し難い冷たいもの寂しさ。

 

90年代

11. Only Love Can Break Your Heart / Saint Etienne(1991年)

www.youtube.com 90年代に入って、早速DJ的手法により延々と反復するトラックの上に無理矢理詰め込まれたNeil Youngの名曲のカバー。男女混合のポップユニットであるところの彼らだけれども、特に変なのはデビュー直後のシングルではその女性メンバーがボーカルを務めて「いない」こと。なのに上のPVではしれっとその歌ってないメンバーが口パクで歌ってる風になってる…いい具合の舐めっぷりが90年代的享楽さある。

 それにしても、メロウなカントリーバラッドの原曲のメロディをよくここまで崩そうと思ったな…と最初聴いたときは思わず吹き出しそうになった。強引に全てのラインを同じ循環コードの上に乗せて、サビメロなんてAメロと全く同じになってる。というかAメロしか原曲のメロディをなぞってない。その大胆な加工がしっかりとミニマルなスタイリッシュさに収まってるのが上手だと思った。

 

12. Dramamine / Modest Mouse(1996年)

www.youtube.com 「形容し難い複雑なフラストレーションの吐き出し方をするバンド」という印象を初期Modest Mouseに対して持っていて、彼らの1stフルアルバムの先頭に置かれたこの曲は、そのイメージを優雅で枯れたスタイルで表現するタイプの楽曲のうちの特に優れたもののひとつだと思う。アルバム『This is A Long Drive For Someone With Nothing To Think About』は3ピースのスカスカな演奏にミニマルな演奏と激情とが交差するいいアルバムだけどいささか長い…。

 ベースとドラムが優雅でしなやかな3拍子のミニマルな反復を延々と続けるその上で、時にな優美で儚げなギターを紡ぎ、時にコードを掻き毟りながら絶叫するIssac Brock、という構図は、初期の彼らの緊張感そのものが伝わってくるような仕上がり。特に2度目の激情からギターのコードカッティングが次第に解けて優雅なフレーズに戻っていく様は不思議に自然で不器用にロマンチックだ。

 

13. In The Flight / Fishmans(1997年)

www.youtube.com 彼らがポリドールに移籍して『ナイトクルージング』をリリースして、そこから佐藤伸治の死去によりカツで王が終わるまでの期間が、彼らが前人未到の闇の中を放浪し続けた偉大な期間で、その期間の楽曲のみで構成された『Aloha Polydor』というベスト盤はそんな彼らのディープなアグレッシブさに溢れていて、ベスト盤としては聴いてて怖くなるような楽曲ばかりが入った奇盤となってる。これからフィッシュマンズに入ったのは少々トラウマだった。

 そのベスト盤の先頭に置かれたこの曲をフィッシュマンズの曲として初めて聴いた時、なんて暗いバンドなんだろう…と恐怖した。名盤『宇宙 東京 世田谷』はどの曲も循環コードで製作されていて、そのループの中を彼らの想像力で音もメロディも拡散していくような楽曲ばかり。その中でこの曲の、循環コード自体は明るいのに、ボソボソした歌やエフェクトのかかり具合で総合的に「小さい」感じに聞こえる音の世界は、まるで無力感に浸されたまま広い世界の隅っこに放置され続けてるような、そんな永遠に心細くなっていくような頼りのなさを放ち続けている。

 

14. Bitter Sweet Symphony / The Verve(1997年)

www.youtube.com この曲は不思議。純然たるバンドのバンド演奏中心の楽曲であるはずなのに、どうしてこんなに執拗に同じパートを繰り返すような演奏をしてるんだろう。The Rolling Stonesから盗用されたこととなってしまったストリングスが目立つけれども、でも演奏自体はずっと繰り返し。そしてその上に乗る歌も、晴れやかで広大な感じはするもののメロディアスな歌もの、という感じはしない。むしろBメロのグダグダさは初めからメロディとしての運用を考えていないかのような機能の仕方かもしれない。

 とりわけ不思議なのが、そんなこの曲がリリース後大ヒットし、彼らの代表曲となったこと。The Verve再結成のお祭りだったのかと思うけれども、他のシングル曲の方がメロディアスなのにこれが一番売れたのは面白い感じ。でも、確かにこの別に「いい歌」として成立する気はないけど高揚してる感あるこの曲を聴いてると単純不思議にテンションがふわっと上昇する感じはする。

 

15. ブギー / thee michelle gun elephant(1997年)

www.youtube.com 当時どっちかといえばまだ爽やかガレージロック感があった彼らが初めて『ギヤ・ブルーズ』以降の荒涼とした感じを出そうと取り組み始めた最初の曲にして、延々と荒涼とした景色が続く感じを出したかったのか、8分超えの尺を取った楽曲。そしてその8分間のほとんどで、延々と同じコード進行を繰り返し続けていること*5もまた、殺風景な感覚を演出する仕掛けになっている。

 この曲の面白いのは、そんな延年と同じコード進行の繰り返し・重いギターコードの上に乗る歌だけでAメロ・サビ・Cメロを構成しているところ。それぞれのメロディは解決の仕方は似てるけれども、歌い出しの変化でしっかり別セクションだと印象付けさせていて、演奏は同じ調子の繰り返しの中でこれができるのは歌唱力のなせる技だなあと思わせる。というか歌がなかったら今どこを演奏してるのか判るのかなこれ。

 

00年代

16. The Line / D'Angelo(2000年)

www.youtube.com これはなんかもはやR&Bなんかな…?みたいになるくらいミニマムな構成。ネオソウルの名盤中の名盤であるところの彼の才気爆発アルバム中において、最も地味に淡々と5分間を過ごすこの曲の、停滞自体に緊張感と神経質さをねじ込ませる手管は、なぜこういう曲ができたのかからどうしてこのスタイルでここまで作り込もうと思ったのかまで、結構謎めいてる気がしてる。バンドのジャムセッション→1発録りらしいアルバム制作の中で偶発的に生まれたのかな。

 『Voodoo』というアルバム自体、より湿気の少ない、まるでスタジオの埃の舞うところまで録音しきったかのような生々しい録音をミニマルに聴かせる側面のある作品だけど、とりわけミニマルに反復し続けるこの曲はそのひとつの極みのようなもの。ボーカルの存在感もまた不思議で、他の楽器と同じ程度に煙のように楽曲中を浮遊して、時折多重に重なってChorus的なパッセージを成す。

 

17. Mr. E's Beautiful Blues / Eels(2000年)

www.youtube.com Eelsは時折曲のリズムに打ち込みのループを用いた密室的なトラック作りをすることから、登場時期が割と近いBeckとかと併せて「ヒップホップ以降のSSW」的な見方を昔はされてたような感じがする。代表曲のひとつである『Last Stop: This Town』や、もしくはやはり代表曲的なこの曲なんかがそういうリズムをしてるので一時期そう思われてたのか。彼本来の割とオーセンティックなSSWみを超えてファッショナブルな感じに扱われてたような感じがするというか。

 『Last Stop:〜』の方がやや感動的な仕上がりなのに比べると、こっちの軽〜いノリだけで軽やかに走り抜けてくかのような感覚は、若干のひねくれが帰って爽やかに感じられるようなそんな質感がある。ずっとシンプルで翳りの全くないコード循環で飄々とメロディを紡いでいく彼のメロディセンスは実に快活で、DJ的な音の出し入れの具合も楽しげで、特に終盤のギターの音が厚くなってメロディが上ずるところのスカスカした勢いがとても気持ちいい。

 

18. Cruiser / Red House Painters(2001年)

www.youtube.com 普通ギターリフの反復というのは大体はハードロック的に激しいものか、もしくはメカニカルな感じがしたりするものだと思うけども、その点この曲のリフは実に静かでナチュラルで、そして長閑で退屈な感じが潤沢に詰まっている。何しろそんなスローなリフの反復のみで楽曲を構築し、その上にささやかに歌とややジャズめいたギターソロを乗せて8分半以上繰り返すだけの楽曲だ。

 スロウコアバンドの代表格であるRHPが、本来は1998年ごろにリリースされるはずだった*6アルバム『Old Ramon』は結果として彼らの最終作となり、彼ら的なスロウコア流のレイドバックの手法が熟成されきった名盤となった。そこにおいてとりわけナチュラルで穏やかな音やフレーズのみで形作られたこの実に豊穣な退屈さが、自分はとても好き。

 

19. Free / Cat Power(2003年)

www.youtube.com Cat PowerもまたスロウコアにカテゴライズされることのあるSSWで、出世作となったアルバム『You Are Free』もまた、荒涼としたサウンドに彼女のハスキーで抑揚の少なめなメロディが心地よい作品。ドラムがしっかりある所謂普通のバンドサウンドを楽曲の大前提に置いていないことによるスカスカさが印象的で、ゴツゴツした音の感じも含め、寂しく悲しい感じというよりももっと素っ気なく神経質でザラザラした感じがする。

 そんな作品のリードトラック的なこの曲は思い切った構成で、グランジ的なゴツゴツした4つのパワーコードを延々とアコギで繰り返し続けるのをベースに、ギターやキーボードやドラムそして歌を出したり抜いたりして、ナチュラルに成立しない変なバランスのまま成立した、いい意味でチープでかつトリッキーなトラックに仕上がっている。とりわけタイトルの語を歌うときの、低音の醒めきった感じがとても決まっている。

 

20. 正常 / syrup16g(2003年)

www.youtube.com 下北ギターロック界隈で括られる彼らの2003年の急造アルバム『HELL-SEE』は比較的楽曲のつくりがシンプルな楽曲が多く、これもまた彼ら流のスロウコア的に案外捉えることができる作品だったかもしれない。伴奏をギターのコードカッティングのゆったりした響きだけで聴かせようとするのはスロウコア的な作法なので。

 その中でもとりわけ尺が長く(冒頭の雑踏のSEのせいだけど)、そして延々と2つのコードを繰り返すだけで構成されたこの曲は、このようにPVも作られたことから、彼らの自信作のひとつだったのかもと思う。3拍子のリズムの上で、荒涼としたコード感の中で、シューゲイザー的な意匠も駆使しながら、サビでむしろテンション下がるような巧みなダラダラでドロドロに停滞した雰囲気が実に不気味に幻惑的。

 

21. I Turn My Camera On / Spoon(2005年)

www.youtube.com Spoonは経歴も長いので様々な作風が楽曲群の中に見られるけど、割と一貫して取り上げてきてるのが「どこまでスカスカでかつスリリングな響きのあるロックンロールが作れるか」というもの。出世作『Ga Ga Ga Ga Ga』冒頭の『Don't Make Me A Target』にしても最新作の『Shotgun』にしても、このテーマに基づいた楽器構成、および特殊な楽器の録音方法といった実験が渦巻いている。

 それにしても、この曲のスカスカっぷりはそれらの中でも際立っている。延々とマイナー調のふたつのコードを、しかもスタッカートで短く刻むだけの実に質素なバックサウンドはその質素さ自体を目的としてるもので、全編ファルセットを活用した歌唱といい、これは彼ら流のファンクについての実験だったんだと思う。微かな音の追加や変化でどこまでキャッチーに聴かせられるか、という。そしてこのいびつなファンクが彼らの最もヒットした曲のひとつとなったところがアメリカの不思議なところ。アメリカって時々ふっとスカスカな楽曲がヒットするイメージがある。

 

10年代(+20年代)

22. 1984 / andymori(2010年)

www.youtube.com 遅れてきた和製Peter Dohertyとしての小山田壮平のセンスの指向性は、その攻撃性もメロウさも、どこかPeterと同じ世界にあるような、危うさと、批評眼と、乱脈の中の澄み渡った美しさとを有している。その辺の性質は特にandymoriの1stと2ndに典型的に現れている。3ピースバンドの制約を逆手に取った直球勝負短距離走的なスタイルはシンプルながら薄ら血走ったようなテンションがあった。

 そんな2nd『ファンファーレと熱狂』において冒頭に置かれた、アルバムタイトルコールも含まれたこの曲は、そのシンプルさから少し離れて、彼のソングライティングと叙情性とが前面に押し出された名曲となった。シンプルな循環コードの、特にマイナーコードの存在感が際立つメロディ回しは凛としながらも可憐で、それをトランペット等の伴奏と、そして終盤の3度下への転調が強力に盛り立てる。

 

23. これ以上言ってはいけない / SHERBETS(2011年)

www.youtube.com 他の浅井健一のプロジェクト、豪快なBLANCKEY JET CITYや、アレンジに制約のより少ないソロ名義やJUDEに比べても、SHERBETSはよりバンドアンサンブルの制約の中で、ミニマルな曲構成にて、ファンタジックで神経質な純度の高い作品を作っていた。前回の「同じメロディを繰り返す」系の曲にしても、『ラブジョビンダグ』や『野生のストロベリー』といった楽曲が存在している。

 2011年のアルバム『FREE』ではより穏やかでしなやかな音像に変化し、特に冒頭に置かれたこの曲においては、少々ジャズなテイストの演奏を延々ループさせその上に割と低音のボーカルを乗せることで楽曲を成立させた。ヒステリックさを封印し、代わりにここで見られるようなリラックス加減と心細さが入り混じった雰囲気には、彼独特の世界観がよりファンタジックに成熟したところを感じさせる。

 

24. Super Rich Kids / Frank Ocean(2012年)

www.youtube.com 2016年の『Blonde』があまりに歴史的名盤となってしまったことから、それ以前の彼の立ち位置やアルバム『channel Orange』の評価が現在からは少し見えにくくなった感じがあるけれど、それでも、彼がこの作品で表現するR&Bがどこか、不思議な浮遊感というか、生々しい肉体性からは少し離れた、ヴァーチャルじみたエコーチェンバーの中で歌っているかのような雰囲気はふんだんに感じられて心地よい。

 その中で、ピアノのスタッカートの効いたコード弾きをリズムと同機させて延々とループさせるこの曲のビートの強さは、割とわかりやすいキャッチーさと力強さがある。そこには往年のR&B的なラグジュアリーさが遠くで鳴らされ、そういった雰囲気を対象化しつつも、一番前に来るのはぶつ切りのビートのぶっきらぼうな響きだ。その上で絞り出される彼の声の艶やかさが気持ち良い。終わり方のあっけなさは現代的。

 

25. One Day / サニーデイ・サービス(2012年)

www.youtube.com 『Dance To You』で最前線に立ち戻るまでの再結成後のサニーデイ・サービスが顧みられることは少なくなっていると思う。アルバム『Sunny』も、ソロで作品連発していた年に混じってリリースされていたこともあり印象が弱くなっているところがあるけれど、しかしこの曲をアルバムに残すためのフォーマットとして考えると、結構いい作品だったように思う。現在ではそれに「オリジナルメンバーで完結した最後のアルバム」が加わってしまうけど。

 この曲は再結成前からのサニーデイの良さを突き詰めたような名曲として、2012年にシングルでリリースされた。3つのギターコードの響きをループさせたものをベースにした作曲は研ぎ澄まされ、曽我部恵一のメロウさの最も美しくてノスタルジックな部分がここでは実に素直に・誠実に差し出されている。丸山晴茂のバタバタしてドスドスした垢抜けないドラムは愛すべき空間を生み出していて、幻想的な伴奏のアレンジの中で確実に楽曲を前進させていく。彼らがもう発することができないかもしれない類の、儚さの結晶のような名曲。

 

26. Memory Lane / 七尾旅人(2012年)

www.youtube.com 彼が2012年にリリースしたアルバム『リトルメロディ』は、非常に真摯な「震災後の作品」となっていて、あちこちの曲間に痛々しいノイズが挟まれ、否が応でも重さを感じさせる。一方で今作は『911FANTASIA』で解体した彼の歌い手としてのキャラクターの再構築の過程でもあり、そこにはファンタジーさよりも現実的な重みを選択したタフな歌い手の姿があった。

 この曲は『Rollin' Rollin'』辺りから始まったそういった路線のひとつの集大成。同時期の『サーカスナイト』といい、この時期の彼はR&Bに接近した名曲をいくつか残している。それらの中でもこの曲はとりわけ、オルガンの音が生っぽい仕上がりで、また歌のメロディもVerse-Chorusのミニマルな繰り返しに加えてより飛翔する追加メロディを同じループの上に備えて、旧きSSWの泥臭みとR&Bの風味が苦く美しく並走していく。

 

27. Get Luky / Daft Punk(2013年)

www.youtube.com アルバム『Random Accece Memories』が与えた影響の面白いところは、テクノユニットだったはずのDaft Punkが、アルバムや特にこの曲の大ヒットを通じて、世界中の「バンドサウンドに」影響を与えたこと。ギターのカッティングがここまで世界中で注目された場面はなかなかないものと思われ、日本のバンド界隈におけるシティポップブームにも確実に影響が及んでいたものと思われる。

 この、旧きディスコの雰囲気を実にシックなスタイルで現代に蘇らせたトラックの素晴らしさについて、今更何か新しいコメントを付け足すことができるはずない。極めて滑らかで正確なリズムで反復されるNile Rodgersのギターカッティングは最早テクノ的でさえあるし、その反復に見事なVerse-Bridge-Chorusを乗せて、特に高揚するBridgeからクールで少しファニーなChorusに移り変わるところは不思議とスリリングだ。

 

28. 見えないルール / OGRE YOU ASSHOLE(2014年)

www.youtube.com 2011年のアルバム『homely』で急にクラウトロック的な音楽性に変貌して以降、彼らは通常のポップソング的な構成と緩急が生むロマンチックさに背を向け続け、平坦さが生み出す無限の奥行きにその想像力の全てを捧げるようになった。ゆらゆら帝国のプロデューサーでもあった石原洋をメンターにこの路線を突き詰め続けた『homely』〜『100年後』〜『ペーパークラフト』の3枚は3部作という扱いになる*7

 その3部作の最終作である『ペーパークラフト』は、そのアルバムタイトルの皮肉的な感じが示すとおり、単調さをやや攻撃的・神経質に使用する傾向にある。この曲はまさにその典型で、ひたすら同じベースとドラムの上で、一定間隔で不気味になるオルガンや、上の曲と比べると遥かにささくれ立って聞こえるギターのカッティングが、何らかの不自然さを沸々と訴えかけるような空恐ろしさがある。段々とノイジーになってくるこの楽曲が示す不穏さは、淡々としながらもかなり攻撃的かもしれない。

 

29. all the good girls go to hell / Billie Eilish(2019年)

www.youtube.com 2010年代は特にアメリカのポップシーンでトラックの作り方に大きな変化が出た時代な気がしてる。基本打ち込みのトラックの上に、次第に音数は減少していき、どこかヴァーチャル的でしかしシリアスな虚空の反復の中でシンガーがダークに歌う、みたいなのがメジャーになったような気がする。そうした変遷の2010年代の最終的な帰結として、彼女のアブストラクトなトラック、『bad guy』みたいな曲の大ヒットがあるのかなとか素人目線で思う。

 しかし、今回のテーマにそぐう循環コードの繰り返しを持つこの曲は、比較的昔ながらのソングライティング・アレンジ的な要素を感じさせて自分にはとても聴きやすい。がっつりマイナー調のコード循環に乗せたぼんやりとダークなアレンジおよび歌唱はいい具合に現代的にファンタジックで怪しく、タイトルコールの箇所でリズムがすっと消えたり、または歌が間奏のシンセのファニーな揺れの横で歪むのが、とてもキャッチーなゴスさがあってすこぶる良い。PVはやや悪ノリを感じるけどもでも分かる。

 

30. New born / HYUKOH(2020年)

www.youtube.com このテーマのリストを締めるにあたって今年の曲を入れたいと思って探して、この曲が一番印象的だった。韓国を代表するロックバンドに成長した彼らの、その躍進の基礎となった現代的なワイルドさとクールさと祝祭感が交差するファンキーさとを、2020年の新譜ミニアルバム『through love』ではかなり封印し、代わりによりアンダーグラウンド的な暗がりのような音色で、ボサノバやブルース的に反復の多い楽曲群を演奏している。

 その怪しい作品の最後を締めるのがこの、穏やかなベースラインが延々と反復を続けていく上で次第にサイケデリックにそして破滅的にギターサウンドが拡散していくこの9分弱の曲。ここでは最早歌も囁き程度のそれが、まるでアクセント程度に配置され、反復の平坦さの中で次第に不気味に膨張していくギターの揺らめきこそがこの曲の魂、と言わんばかりの炸裂を様々なパターンで展開していく。彼らもまた、キャッチーなポップソングのスタイルに一旦背を向けて、単調な反復の先に広がる無限の奈落を目指しているんだろうか。

 

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終わりに

 以上30曲取り上げました。

 繰り返し、というのは多くのポップソングが有する性質のひとつであり、クラシック*8プログレといったジャンルの一部を除くと、ほとんどの楽曲に何らかの形で含まれる要素だと思います。ある程度の反復という“溜め”からどうメロディを飛翔させるか、というのがある種のポップソングの重要な命題のひとつですが、しかし今回取り上げたような、同じコード進行を延々循環し、またサウンド的にもセクション形成に至るほどの強弱をつけないまま反復をし続けるというのは、通常のポップソングのダイナミクスを手放すことになるわけです。

 それを手放した上で、じゃあ何を得ようとしているのか。今回はそれについて思いを巡らせることをずっとしていたような気がします。その中で、延々と反復させることについても様々な方法論があり、効果があり、そのような反復の中でもしっかりとポップソングとして成立してしまう例や、反復によってシックな苦味がじわりと効いてくる例、反復の中をエネルギッシュに変化させて駆け抜けていく例、反復によって生み出されたひたすらな平坦さの先に淡い情感を見出していく例など、様々な考え方のもとで様々な名曲・名演が生まれ続けていることが分かりました。

 そもそもを言えば人の暮らしだって少なくない部分で反復というものは多々存在し、その中で成長したり死に向かったりします。その別に長くはないというけれども場合によっては苦痛たっぷりだったり退屈に溺れてたりな日々の中で、どうしてドラマチックな楽曲ばかりでなく反復ばっかの楽曲にも手を伸ばしたりするのか。そんな命題の答えなんて出てくるわけもないし考える気もないですが、でも、反復する曲には反復する曲的な良さが確実にあって、それはやっぱり、少なくとも自分においては、時々やたらと聴きたくなるようなものだということは、今回よく分かりました。

 

 今ひとつわかりにくいテーマだったように思いますが、読んでいただいた方はありがとうございました。例によって、今回取り上げた楽曲のSpotifyでのプレイリストを作成してますので、以下に貼り付けておきます。

 

*1:今回リストを作るために色々聴いてて思ったのが、意外とNirvanaには完全に循環コードのみで終わる曲が少ないこと。大体は中途半端な展開が入ったりして、なかなか循環コードのみで完結しない。でもその「中途半端なセクションの挿入」自体がKurt Cobainのソングライティングの最もチャーミングなところのように思ったりする。そういう意味ではスメルズはそういうだらけてて謎なセクションがないので、機能的すぎてつまらない。

*2:逆にアルバム後半はより呪詛的・神秘的なドロドロ展開になって、前半4曲と全然ノリが違うのが、 CD以降の時代においてこのアルバムを通して聴くのを躊躇わせる。

*3:例として、彼の全米No.1ヒットとなった『Why Doves Cry』も『Kiss』もベースが入っていない。

*4:余談だけど、アルバム名を冠したトラックが収録されるのであればその曲はアルバムのハイライトであってほしい、みたいな気持ちがずっとある。でも時々「アルバムとしてはとてもいいけどどうしてこれがタイトル曲?」みたいなこともあるわけで、つまりそんなに気にすべきことじゃないんだって、頭では分かっているけれどでもやっぱハイライトであってほしい。。

*5:途中1箇所だけ歌のないところで別のコード進行が現れるけどそこは見逃してほしい…。

*6:レコード会社がらみのトラブルによりアルバムリリース等は停滞し続け、それに伴いバンドとしての(元々崩壊していた)活動も壊滅し、結局は製作者側がアルバムの権利を買い取ってようやくリリースにこぎ着けた、というヒストリーになってる。

*7:その後セルフプロデュースになってからも3部作と陸続きの作風を続けているけれども

*8:これだって『ボレロ』とかあるわけで。