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ブンゲイブ・ケイオンガクブ

本を読まない文芸部員と楽器を練習しない軽音楽部員のような感じのブログ。適当な創作・レビュー等々。

2016年の好きなアルバムベスト30枚(30位→2位)

先日(けっこう前!)投稿した2002年ベストも終わらないうちに2016年が終わりかけていて、それで慌てて、というわけでもないけれど、毎年させてもらってるこの1年で聴いた音楽の備忘録的なものをします。例年は2回くらいに分けて投稿してますが、今回は30位から2位までを一気に以下でアップします。なので記事が無駄に長いですが、お時間の許される方はご覧下さい。(1位は特に長くなるので隔離します)

ベスト30と言っても、分母が少なく、特に洋楽に関しては手元のitunesに入ってる作品はあと3、4枚くらいを残して出し切ってしまっているのでは…。「もしかして、洋楽ちゃんと聴いてる感を出すために無理矢理ランクインさせてないか」という不安も無くはないですが。

 

 30.『A Long Day』ミツメ

A Long Day

A Long Day

 

アルバムを出すたびに作風が地味になってる気がする。「メンバー4人だけの音に拘った」とされるこのアルバムは、いよいよ抹茶めいた雰囲気のポップソング?が10曲詰められたアルバムで、曲数では前作『ささやき』の方が多いのに収録時間はこっちの方が長い。どんどんスカスカ感こそを強調していくリズム隊や、基本コーラスかかり気味だったりオートワウ漬けになったりなギターサウンド、そして抑揚の弱いメロディを描くソングライティング等からの、薄くサイケで日常チックな光景は、要素だけ抜き出すとジャンル的にはニューウェーブな気がするのになんかそうでもない。

今年は日経新聞の記事にもなり「日本における理想的なインディペンデントな音楽活動集団」って感じになりつつある彼ら。ライブでよりギターがラウドに響いてくるのがとても良かったです。

天気予報

天気予報

  • ミツメ
  • ロック
  • ¥250

 

29.『琥珀色の街、上海蟹の朝』

結成20周年だかなんだかで3枚組のベスト盤なんかも出た今年のくるり。3枚組って。入門用にしてはキツすぎる感じもするけど、そもそもYouTubeとか配信とかストリーミングサービスとかでいつでも好きな曲が聴ける今の時代にベスト盤がどこまで有用なのかも不明ですね。

そんなベスト盤の直前にリリースされ、そして表題曲も普通にベストに収録された今作。もちろん表題曲は「今くるりが“あえて”ブラックミュージックにアプローチすること」の面白さが沢山詰め込まれた、近年の彼らでも最高の1曲だと思うのですが、その他の収録曲の、くるり流カントリーロック集といった側面も魅力的。昨年のアルバム『THE PIER』は全体的に凄く作り込んであって個人的には息苦しく感じたけど、それを経てのこのリラックスした楽曲集は、彼らにとってメジャーデビュー以降では初のミニアルバムとして、いい具合に気の抜けた感じがして聴いてて心地よかったっす。

 
28.『World’s Magic』Special Favorite Music

World's Magic

World's Magic

 

まず、ジャケットがズルいいいですね。1曲目の可愛いピアノ連弾のイントロにスッと入ってくるジャケットの感じ、とても有効だと思います。マンガ調のイラストのジャケットというのはどれだけ俗な萌っぽくもなく、オシャレすぎっぽくも、衒学っぽくもなくするのか、なんらかのバランス感覚が要るように思うのですが、この盤は理想的だと思います。

音楽も、所謂シティポップで、管楽器の鳴りや、男女混成ながら中性的・プラスティックな聞こえ方が特徴的ですが、演奏や声の重ね方がいい具合にファンタジックになっているのか、現実的な感覚、もっと嫌らしく言ってしまえば「都市でオシャレに若い血をアレしてる僕等」感が薄く、これはまさしく都市のファンタジック・シンフォニーのひとつなんだなと思い、素直に好きになれました。上手くファンタジックな作品というのはいつも、どこか心地よくも勇敢でかつ寂しい。その感じがしました。

 

27.『Do Hollywood』The Lemon Twigs

Do Hollywood

Do Hollywood

 

はじめて聴いたときは「…?これは68年くらいの作品では?」と思った。この盤の中で鳴らされる楽器の悉くがあまりに“その辺の時代の音すぎる”のでびっくり。これを出してるのが20歳前後の兄弟というのもアレすが、もし可能なら「そんなそれっぽい音どうやって録音してるの…?」と尋ねてみたいすぎる。

レビューではやはりビートルズとの類似が多く挙がっていて、確かに一部の曲や、また特にドラムの音やバタバタしたプレイスタイルなどとても「らしい」。けれども、曲のメロディ自体はビートルズに限らず60年代のポップス〜サイケ・ソフトロックのフィーリングが、特に曲によっては声質もあってか濃いキンクスの香りが漂ってくる。抜群にそれっぽいコーラスやキーボード類の多用はやや元ネタよりもどギツ目のサイケデリック具合に仕上げられている。特に最終曲『A Great Snake』の6分に渡り展開もコロコロ変わる支離滅裂さと本作でも際立ってジャンクポップ感に満ちたメロディには確実にシド・バレットの影が見え隠れするし、そしてそこから同時に音を似せても否応無しに滲み出る現代のインディロック的なテクスチャーの過剰さが、このどこか飄々としたアルバムに何らかの壮絶さを加味している。もしかしたら次作でがっつりアシッドフォーク化したりしてしまうのでは…。

A Great Snake

A Great Snake

 
26.『OLD AGE SYSTEMATIC』NYAI

OLD AGE SYSTEMATIC

OLD AGE SYSTEMATIC

 

知り合い贔屓、という訳ではない。ライナーを書いたから、という訳でもない。こと“狭義のギターロック”において、このアルバムよりもカラッとしてて適度にリリカルで鮮やかな倦怠に満ちた作品が今年であるのかどうか(幾らでもあるのかも)。「スーパーカーの亡霊に取り憑かれてる」などとペロッと喋っちゃうユルさの下で、ソングライティングは研ぎ澄まされている。俗な言い方をすれば、the pill○wsの今年の新譜に満足できなかった人、または『スリーアウトチ○ンジ』の続きが欲し過ぎてくたばりそうな人へ、これがもしかしたらそれかもよ、っていう。

なお、元々ここでの順位はもうちょっと上だったのですが、これを書いてる最中に、本作未収録・ボツ曲やデモ等を収録したコンピアルバムがバンドキャンプでリリースされ、「えっなんでこんな曲をこんな勿体ない形で…?」って思ったので順位を少し下げました。シンプルなギターロックに留まらない彼らの魅力が入っているので、興味がある方はぜひ。

Merrygoround In Rainy Days

Merrygoround In Rainy Days

  • NYAI
  • ロック
  • ¥200

 
25.『心の中の色紙』AL

心の中の色紙

心の中の色紙

 

ジャケットの色使いや書き方にやや狂気を感じて恐る恐る手に取ったところ、思ったよりもずっとストレートでキモさのない作品ではあった。小山田氏と長澤氏ふたりによる楽曲はより生活感というかストリートの青春感というかにフォーカスした内容になっていて、言ってることは素直なんだけども、しかしそこはやはり、なんかはち切れんばかりの歌唱のテンションがその光景に血を滲ませている。そういえばandymoriの元ネタとか当初言われてたThe Libertinesだってツインボーカルじゃないか。そう思うと、なんか関係ないのに懐かしくておかしいですね。

メンバーが実質初期andymori+1という構図にも期待が高まったが、それよりも前面に出てるのは彼らのカラッとしたアメリカントラッド・フォーク・カントリーな音楽性か。きちんとギターがバンドレベルで2本になったことで、世界観の感じがより広大というか、この日常を荒野か何かと勘違いしてるんじゃないか感が増してる。少々クサいことを言えば、4人で“地元で”旅行してる(?)ような光景が浮かぶアルバム。

しかし、なんだかんだでandymoriがオーバーラップする『HAPPY BIRTHDAY』の疾走感の魅力が抗いがたいことも確か。今後もロックンロールよろしくお願いします。

心の中の色紙

心の中の色紙

  • AL
  • J-Pop
  • ¥250

 
24.『SF』入江陽

SF

SF

 

時期が時期だったからかディアンジェロなどを引き合いに出されて語られがちだった前作『仕事』を経て、何故かよりバカバカしいシュールさが満ちてる今作。そりゃブラックミュージック要素もあるけどここまできたら真顔でディアンジェロがーとか言ってられんでしょ。

アルバムタイトルのとおり、スペイシーで変なシンセの音が多用されたサウンドは80年代サウンドの現代的消化法として非常に的確かつバカバカしく、しかしギリギリオシャレな線もキープしている。異様なバランス感覚だけれども、しかしこのネオソウル+80年代テイストてんこもりというのはもしかしてWeeknd『Starboy』あたりと対になっているようにも思えて(『Starboy』試聴しかしてねえけどな)、そしてこの異形でファニーなスタイルこそが「声も細い日本人がネオソウルをユニークにやっていくときの最も有効な手段」なのでは、とさえ思ってしまう。まあそんな持って回ったこと考えなくても、ポップで変なメロディともっと変な言語感覚だけで聴けてしまうんだけども。「お惣菜倶楽部」ってなんだよ…。

メイク・ラブ

メイク・ラブ

  • 入江陽
  • ロック
  • ¥250

 
23.『darc』syrup16g

darc

darc

 

秋に入ったくらいからより声高に「今年は豊作過ぎ、みんな傑作リリースしすぎ」と言われてた今年だけど、そんな中急にシロップまでアルバム出すとか言い出してオイオイあなたらもですか、って感じがしました。ツアー前にスタジオ入ったらブワーって曲が出来て録音までいった、というなんかエモいお話つきで。

そんな感じだから、今作は作り込まれた感が薄く、ザラザラと地味な感じもするけれども。1曲目『Cassis soda & Honeymoon』からしてアコギの循環コードが軸の枯れたサウンドの曲だけども、その中で高音弦を弾くキタダマキ氏のベースが冴え渡る。再結成後シロップはベースの役割が増してる感ある。っていうか疾走感はあるけどメロディがグダグダ気味な『Deathparade』がリードトラックだけど、もっとポップな『I'll be there』や『Murder you know』にしときゃいいのに(笑)

そして今作は言葉のあさって感に磨きがかかっている。大体1曲目から「メメントモらず」ってなんだよ。よりによって有名人の訃報のやたら多い今年にそれかよアンタ。全然褒めてない文章になったけど、でもなぜか繰り返し聴けるいいアルバム。

 
22.『muchujin』来来来チーム

muchujin

muchujin

 

10月に自分がしているバンドでライブイベントで共演させていただきました。だからチョイスした訳ではない。いちいち言訳するのやめた方がいいか。

 2、3年前に何かしらのピークがあったような“東京インディー”と呼ばれたシーンは、去年くらいからその呼んでた連中に散々黄昏扱いされて、遂に今年「離散した」などと言われてて、メディアは言いたい放題やなーと思いますが、そんなの知ったこっちゃないとばかりに届けられた来来来チームの今作は、他の東京インディー系バンドが「最早東京インディーの枠組みで語るべきではない」などとよく分からない扱いをされる中、堂々とぼくの好きな“東京インディー”感に満ちている作品でした。最早何を言ってるのかよく分からんなこの文章。

無音を前提としながらも飄々としたリフとメロディを繰り出すスタイルは相変わらず。ニューウェーブを商店街的アトモスフィアに落とし込む手腕は、これまでよりもどこか哀愁が増したようにも感じられる。『ゆうれい部員』の延々リフが繰り返される終盤の不思議な爽やかさ、そしてようやく音源化した『桃色化粧惑星』のこれぞこのバンド!って感じのとぼけきった間の取り方。ここには、よりプロ化していってシーンとは関係なくなっていく各位とは別の位相の雰囲気をまだ持っていて、それはとっても心地よい感じだ。


21.『愛のゆくえ』きのこ帝国

愛のゆくえ(初回限定盤)(DVD付)

愛のゆくえ(初回限定盤)(DVD付)

 

メジャーデビュー直後のシングル〜アルバム『猫とアレルギー』では「ああ、やっぱメジャー行くとそうなっちゃうもんか」という感じのえも言われぬアレがありましたが、しかし今作で一気に焦点を定めてきっちり作り込んできたのは、なんというか意外でした。

エンジニアにZakを迎え、彼女らのルーツのひとつであるフィッシュマンズ的な方向にがっつり舵を切ったのが見事に成功してる。特にシティポップ的なアーバンな哀愁感をギターの音の揺れで出す『LAST DANCE』の「お前誰だ!?」感はしかし上手く今作にハマっていて、バンド版宇多田ヒカルみたいな。

愛というものが、霧と揺らぎの中で微かに見える灯りのようなものだとして、それを探し沈降していくような深みは、かつてなく大人っぽい質感。つくづく前作は何だったの…。そんな中途中でパッとカラッとする『雨上がり』の可憐なポップさが眩しい。個人的にはかつての『Telepathy / Overdrive』みたいな超どポップなのが欲しくもあるけど、そういうのを削いだからの完成度が確かにここにはあります。

雨上がり

雨上がり

  • きのこ帝国
  • ロック
  • ¥250

 
20.『Weezer(The White Album)』Weezer

Weezer (White Album)

Weezer (White Album)

 

前作『Everything Will Be Alright In The End』もかなりWeezer節をブラッシュアップした傑作だったが、今作もまた彼らの「何故か彼らしか出せない」持ち味をこれでもかと駆使したバッチリのアルバムに。カリフォルニア関連タイトル2曲の見事な泣きっぷりや。

意外と目立つのはピアノの使用で、これによってフィルスペクターやらビーチボーイズやらのカリフォルニアポップス感がより強調されています。タイトルがカリフォルニア感ある曲も2曲ありますが、それ以上に最高なのがカリフォルニア・シャッフル・パワーポップって感じの『(Girl We Got A) Good Thing』。まさに中期のビーチボーイズがそのままパワーポップ化したような最高のメロディ・アレンジを持ってる。最終曲の曲名が明らかな『Endless Summer』のもじりであることといい、今作は何故かカリフォルニアテイストが強調されていて個人的に嬉しい。

2作続けて完成度高くて安定期に入った感じのWeezer。次は変な作品になるかも。あと仕事の都合でサマソニで観れなかったのとても悲しい。

 

19.『天声ジングル』相対性理論

天声ジングル

天声ジングル

 

特に前情報をチェックしてなかったので、このジャケットがタワレコに並んでて、なんだこれ!?と手にとったら相対性理論の新譜だったときは久々にこの人たちにビックリさせられたなと。このアンダーグラウンドちっくなイラストジャケは、上で述べた『Special Favorite Music』とは全く逆の、斜め上からガッと切り掛かるような鋭さがあって、また別の理想型かと。

前作『Town Age』より現行メンバーになり、オリジナルメンバーの頃と比較され、それはやむを得ないところがあったが(個人的に『シンクロニシティーン』はもしかしたらあの年のベストかも…)、今作はその比較にも十分耐えるだけの充実作。相変わらずの高品質な理論節の『ケルベロス』『ウルトラソーダ』辺りも当然いいけれど、今作は中盤以降のやや新機軸な路線が面白い。特に『ベルリン天使』はコード感も曲の尺もキメのメロディも不思議な緊張感に溢れてて完璧。ラストの『FLASHBACK』もほぼまるえつソロな気がするけどアルバムの締めとして面白い。しかしそれ以上に、これこそソロでやれよ系どポップナンバー『13番目の彼女』の鮮烈さが堪らない。久々にこの人の破壊力におののきました。

13番目の彼女

13番目の彼女

 
18.『Lemonade』Beyonce

Lemonade

Lemonade

 

特に前書きなどで書かなかったのでここで書きますが、このリストにはブラックミュージックがほぼありません。自分がそっちにあまり惹かれないためなんですが、多くのメディアや音楽好きのリストに挙がってる“今年の顔”なシンガーたち、フランク・オーシャンだのドレイクだのチャンス・ザ・ラッパーだのが、正直よく分からないのです。(ノーネームとウィークエンドは、ちょっと聴いた感じ結構好きかもと思いましたが)みんなああいうシリアスだったりボヤーっとしてたりするのが好きなんかーと、なんだか自分が大人になれていないような寂しさが、みじめさが例年にも増して感じられる1年でした。

興味が無いから買わない・手に取らない。辛うじてツタヤでレンタルされたものだけ聴く訳ですが、それでもこのアルバムはなんか、凄かったのでこの辺に挙げときます。Siaのライナーノーツで読んだんですが、ビヨンセのソングライターチームは何人かの作曲家に一斉に何曲も書かせてその中から厳選するとかで、その光景や規模たるや想像つかないなと。しかしそれでも完成したものがつまらなければアレなところを、しかし今作はブラックミュージック音痴の自分さえ振り向かせるだけの強力さと、そして音楽的な幅の広さがあったと思います。大体ジャック・ホワイトの客演とかズルい、完全にロック方面のリスナーを食い物にする気で、しかももっと凄いのがその曲でビヨンセの方が歌の迫力があるっていう。

そう、今作は圧倒的な作曲陣・プロダクションを駆使した、現代のアメリカンミュージックがある程度縦覧できる1枚であり、そして同時に暴力的に自在なシンガー・ビヨンセに打ちのめされるアルバムでもある。政治的またはスキャンダル的な側面を全く捨象しても、なお余裕で余りある強度のタフさ。ソングライターチームによるプロフェッショナルな分業体勢とかクソや、と感情的には思うけれども、しかしこうしてちゃんと聴くと、アメリカ音楽業界の強靭さを強く感じられて、ちょっと降伏してしまいました。

Daddy Lessons

Daddy Lessons

  • Beyoncé
  • ポップ
  • ¥250

 
17.『Film Bleu』For Tracy Hyde

Film Bleu

Film Bleu

 

なんか女性ボーカルものが続くけど偶然です。東京インディーとはまた違った勢力圏・カラーを持ってる、ひとまず東京ギターポップネオアコ勢とでも言えばいいのか、boyishとかが含まれるこの枠組で、もうひとつの顔でありながら全国流通盤がまだ出ていなかった彼らが、遂にリリースしたフルアルバム。菅くんMavくんおめでと!しかしまさかP-Vineからとは…。

作曲者本人ボーカルの宅録時代〜今年ソロでメジャーデビューしたラブリーサマーちゃんボーカルの時代を経て、新ボーカルにeureka女史を迎えての現体制にてようやく。収録曲のうちインストを除いた分の半数はラブサマ時代にリリース済の楽曲の再録(そのうち更に3曲は宅録時代からの曲だけど)、もう半数が今作にて初出となる。既出曲が元々のギターポップネオアコ・ドリームポップ辺りの色合だったのに対し、初出曲の方はもうちょっとリファレンス元がくっきりあって、っていうか菅くん本人が何度も何度もThe 1975って繰り返し言ってる。その前提で聴いても前提なしでも、ラストの『渚にて』の落ち着いた色合いのポップネスはファンタジックで切なげな倦怠感がぐっとくる。

特に初出曲の歌詞は、このアルバムに託されたファンタジーの色合いを反映させるための、時にドラスティックな言葉の繋がりになっている。対して宅録時代からの曲はもっと主語が中性的で、作詞作曲者の素が現れてる。

Twitterを見るかぎり、リリース後も悩み多き彼ではあるけど、次は2枚組のアルバムを出そうとしているらしい。このバンドの世界観総合演出担当である彼が次に考えるのはどんなファンタジーなんだろう。

あと個人的なことで、収録曲をカバーしました。

 

16.『アイデンティティー』泉まくら

アイデンティティー

アイデンティティー

 

4つ連続。女性シンガーもの。そのうち3つが少女系なアレなのでビヨンセがめっちゃ浮いてる…。

このアマゾンリンクを貼るために検索したところ、もう次の新作リリースが決まってるとかで、何気にリリースペースが凄い。福岡県在住の女性ヒップホップMCということになっているが、本当にあんな県に住んでるんだろうか…?

今作の特徴として、いつもなら複数のトラックメーカーが参加しているところを、今回はnagaco氏ひとりが全曲を担当し、インスト等込みで11曲31分の引き締まった作品になっていること。泉まくらの他作でもシリアスで重要トラックを担当する nagaco氏が全てをプロデュースしているため、今作はとりわけシックでダークな作品になっている。フロウも全体的により低く、ウィスパーボイスは溜息のように暗く広がる。作品を出すたびに大人っぽくなっていくところが彼女にはあるが、今作は特にその感じがする。

『枕』という自身の名を取ったトラックでは過去の自身の曲のリリックを援用して、キリキリとした重いビートが鳴っている。そんな全体的にな雰囲気の中で、『日々にゆられて』のちょっとコード感が明るく開けた感じはとてもホッとする。

彼女はこれからも淡々とキャリアを更新していくのだろう。

日々にゆられて

日々にゆられて

  • 泉まくら
  • ヒップホップ/ラップ
  • ¥250

 
15.『Give A Glimpse Of What Yer Not』Dinosaur Jr.

Give a Glimpse of What Yer Not

Give a Glimpse of What Yer Not

 

今作の2曲のリードトラックはしかし、どっちも同じタイプの軽いトラックで、これだけ聴いたらなんか一本調子でつまらなくて、危うく全然もっといい本編を聴かずに通り過ぎてしまうところだった。

所謂USオルタナの重鎮のひとつである彼らは、“現役時代”の90年代に次第にメンバーが脱退していき、最後は解散してしまうが、2005年の再結成後は淡々と、実に淡々と継続的に活動しており、何年かおきに新しいアルバムを作ってはライブをひたすら回ることを繰り返している。今作もその流れにあり、「いつもどおりダイナソー」といった大味な評価も可能な安心の作品。もし彼らが急にニューゲイザーとかドリームポップとかそんなのに走ったら雪とかめっちゃ降って世界が終わってしまうのかもしれないから、彼らは普段通りにすることで世界を人知れず救っている…?

普段通り、と強調しすぎたけれど、本当に全く変わらず再結成後4枚出している訳ではなく、その時期その時期で録音方針を変えたり彼ら的に微妙に新しいことをやったりでメリハリはつけている。今作では実はJマスキスのトレードマークであるジャズマスターとビッグマフを一切使っていないという裏話も(笑)堂々のダイナソー流男らしいマイナーコード『Be A Part』、ギターポップ風な同じリフの繰り返しから展開していくパワーポップな『Lost All Day』、そしてあわや本当にアシッドフォーク?世界滅んじゃう!からの…な『Knocked Around』などが好き。サマソニのライブも最高でした(このアルバムからもっとすればいいのに)。

Be a Part

Be a Part

 

 14.『Klan Aileen』Klan Aileen

クラン・アイリーン

クラン・アイリーン

 

中期The Roosters辺りから続きブランキーやらdipやら色々含まれる「非はっぴいえんど」の系譜(と勝手にカテゴリ作って呼んでいる)の、これが最先端か。2007年結成、現在2ピースで活動する、一切紛うこと無きオルタナティブロックバンドである彼らの、一切紛うこと無きオルタナティブロックな2ndアルバム。

その、殺伐さや無音感、虚無感等を一切取り繕うとしない、ジャケットどおりのモノクロームで弛緩と緊張とが繰り返される世界観。常に空間系エフェクトを伴い鳴らされるギターサウンドの情感の欠けた冷たく暗い響きには、ニールヤング御大制作のサントラ『Dead Man』の荒涼としたギタープレイを思い起こす。エフェクター試奏動画はこういうのを弾けばいいのにと思う一方、こういうのばかりだと軽音部で自殺とか増えちゃうかな、と余計な心配を。

ベースレスという特異なバンド形態を極限まで逆用し、ひたすらこの怪しくも狂気的なゆらめきのギターとソリッドなリズムだけで真っ暗な無音を埋めたサウンドは、ポストパンク的なそれと共振する。ぼんやり、酩酊、痙攣、沈降、低血圧、そして死といった、おおよそアウトサイダーな感覚のみで形作られ、“普通の日常から沸き上がるポップさ”なんてものは一切、一切含まれていない。無駄な感傷はない。ひたすら暗く覚醒を続けているようなこの雰囲気は、今年の日本のアルバムでもとりわけ鋭いものだと思われる。ニンジャスレイヤーのアニメのEDで『Nightseeing』聴いたときも大概格好いいと思ったけどまさかこんな作品になるとは。最高です。

Nightseeing

Nightseeing

  • Klan Aileen
  • ロック
  • ¥250

 
13.『鬼火』yumbo

鬼火

鬼火

 

たまたまTwitter上で試聴が流れてきた今作1曲目『悪魔の歌』にどことなく『Yankee Hotel Foxtrot』みを感じてBandcampで無事購入した作品。仙台で活動するフリーフォークちっくな歌もの音楽ユニットであることは購入後知りました。

ここでいう“歌もの”の概念とはどういうことだろう。全く上手くいえないけど、これは広く世間にある「歌がメインの曲」ということではなくて。説明が面倒くさいから具体的なアーティスト名を列挙すればそれこそテニスコーツだったり、渚にてだったり、空気公団だったり、そういう感じになっていくんだろうか。今作はそういう“歌もの”作品の中でもとりわけ大好きになった作品でした。

輪郭とアタック感が曖昧な女性ボーカルで紡がれる、とても落ち着いたうたがはじめにあって、そこに様々な楽器がさらさらと添えられる。豊かに黄昏れたトランペットの音が特に終始印象的で、どうしてこうトランペットの鳴りというのは遠くを広くぼんやり眺めてるような気分になるんだろう、と思う。歌もの作品に共通するぼんやりしたノスタルジアみたいなものが、ここではともかくトランペットの黄昏れた主旋律の美しさに現れている。

この、豊かに黄昏れた楽団のようなシンフォニックな音楽が、どうも身体に無理なく馴染むのを感じて、自分も少し歳をとったのかもしれないと思った。高校生とかがこれを「いい!」とか言ってたら軽く殴りたくなりそうなくらいにはまだ心が狭いけれども。

悪魔の歌

悪魔の歌

 

12.『★』David Bowie

Blackstar

Blackstar

 

間違いなく今年最初に話題になった、ロック創成期のロックスターのひとりがこの世を去る直前にリリースされたこの遺作。「遺作であること」をコンセプトに制作されたのでは、と一部で噂されるのも非常によく分かる。アーティストとしての執念や業のようなものを強く感じさせる作品であることに間違いは無い。

前作『Next Day』が自身の活動の集大成のような、一種のハッピーエンド感ある作品だったのに対し、ここでのボウイはともかく感性がささくれ立っている。広く言及されていることだが、死期を悟った上での作品作りで、どうして馴染みのメンバーではなく全然面識のないNYの新進ジャズミュージシャンを起用しようと思うのか。どうして今までの自作に無い系譜をこの時点でひねり出そうとしているのか。アルバム冒頭を10分間も占める『Blackstar』のPVでは、まさに“何か”に憑依されて作品を、この世ならざる作品を“召還”せんとするボウイの、痛々しくも壮絶な姿が映されている。まさに、これが最後の痙攣、これが最後の咆哮(正確には違うっぽいけども)。

個人的にはボウイは、単純にいい曲を書くアーティストと言うよりも、コンセプトありきで冴えた作品を制作するキャラクターだと思っているけど、今作はその点で、最後にして極北の作品となった。ジャズミュージシャンにどう指示すれば、こんな宇宙的な楽曲の数々が生まれるのだろう。完璧な統率、完璧な発狂。音はダークでも陰鬱さはまるでなく、ひたすら突き抜けた鋭さだけが鳴り、そして最終曲『I Can't Give Everything Away』で穏やかに星になって消えていく。そこに最早悲しみはなく、己の人生をやり切った男の壮絶でかっこいい印象だけが残る。残してしまったんだなこの人は。

I Can't Give Everything Away

I Can't Give Everything Away

 
11.『BABEL, BABEL』GRAPEVINE

BABEL, BABEL (初回限定盤)

BABEL, BABEL (初回限定盤)

 

日本のロック界の良心、と呼ぶにはちょっと気が引けるGRAPEVINE。もしかしたら彼らの近作の方が再結成以降のDinosaur Jr.諸作よりも語りにくいのでは、とここまで来て思った。「相変わらず何気なくなんか凄いことやってるけど聴きやすくていいです」という感想がここ5、6枚全部に言えてしまうので、文章を引き延ばすならこれ以上のことを書かなければならない。筆者はもう疲れましたよ。

今作の特徴としては、7作品くらい前から始まった作曲者バンド名になってるセッション形式で制作された曲とそうでない曲(=安心高品質の亀井曲)との違いがやたらと際立っていること。ともかく変な曲を沢山盛り込んだ、「バンドの倦怠感をこれまでになく変な曲で乗り切っちゃった」って感じのアルバム。『Golden Down』のいつになく実験的なアレンジ・アプローチなのに総体としてすごくおバカになってしまってる感じは、叙情的な先行シングルの1曲目に続く2曲目でこんな有様かっていう。その後もポストロック風味だったり、いつになくいかんとも形容しがたいタイトル曲だったり、かと思えば割とがっつり楽曲然としてる『EVIL EYE』『TOKAKU』辺りもセッション曲だったり(まあ元々バインのセッション曲はセッション感ないのも多かったけど)。一方の亀井曲群については、セッション曲とのバランスからかメロウさや哀愁を利かせたものが多いのが特徴のような、でも別にそれもいつものことな気がするような。『Scarlet A』とか流石、お見それしやした、って感じ。

それにしてもバインの最高傑作はホント人によって割れる。知り合いのひとりは今作を最高傑作と言ってたけど、他の知り合いは今作は全然分からなくて前作が最高と言ってた。自分は2枚前の『愚かな者の語ること』が今思えば最高だなって思って、当時の年間ベストで低い順位だったのを後悔している始末。


10.『Light Upon The Lake』Whitney

Light Upon the Lake

Light Upon the Lake

 

どこの年間ベストを見ても、この作品が今年1番成功したインディロックレコードということになっているようで、それについて特段の異論も無い。年間ベストで多く名前を見てから手に取った作品だったけど、これはとても良いですね。

スミスウェスタンズの“フロントマン以外の2人”が起こした新バンドということで、予想外のブレイク作になっている模様。文章書くのホント疲れてきたので、とても信頼してるレビュー書きのひとの文章を無断拝借すると“ここにあるのは、自分たちの音楽史観でカントリーやルーツミュージックを手作りして織り込んだ、USインディらしい喧噪外のタイムレス・グッドソングス”だということになるそうで、まさに、というところ(元の文章はこちら)。

後述することになるWilcoなど似たような感じの先人と比べると、彼らの方がずっとインディロック然としている。単純に、細い声質。常にダブルトラックで録られたボーカルはそこに代表される弱さこそをある種の武器にせんとする一貫した意思がある。カントリー要素にしても、70年代前後の先人のスタイルをそのまま身に付けているというよりは、要素要素を解体・分析して、自分たちなりのグッドミュージックのテクスチャーにしているっていう感じがとてもインディーミュージック。

そういう“お勉強した”要素を非常に有効に使えているのも、それらが単純にとても良いソングライティングに乗っているからであることは間違いない。カントリーでインディーロックで声細いとなると、結構前に解散したThe Thrillsのことなど思い出してしまうけど、Whitneyはどうだろうか。っていうか、これ聴いて自分のバンドでしたいことと色々被ってて、静かに頭を抱えているのですけども…。

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9.『CALL』スカート

CALL

CALL

 

がっつりサイズの作品としては2013年の『ひみつ』以来(意外にも)となるスカートのフルアルバム。メディアに勝手に離散させられた東京インディーの花形選手のこの作品もまた「もはや東京インディーという狭い枠組みで語るべきではない」系の作品であろう。なんだよ東京インディーって蔑称なのかよー大人は判ってくれないなァー(東京インディーの方々がそもそもオッサンなりかけみたいな人たちばっかだろうけど)。

3年ぶりに仕上げたフルレングスということで、流石に“満を持して”という感じで満ちあふれている。要所要所で挿入されるストリングスの静かな華美さ(『回想』は流石にド派手過ぎてこれ笑わせにきてるやろ思うけど)、『ひみつ』の頃まであったガレージ感がすっかりなくなったリッチなプロダクション(正直あの感じもとても好きで、そこは寂しくもあるけれど)、『サイダーの庭』以降で現れ鍛えられたアダルティーな楽曲の強度(『暗礁』『想い (はどうだろうか)』など)、中盤に並び立つ『アンダーカレント』『ストーリーテラーになりたい』という2大名曲の存在感や、終盤やっと現れる疾走感あるナンバー『はじまるならば』から最後名バラード『シリウス』で宇宙的に締めるところなど。

『ひみつ』の頃から成長して、寂しく感じるところも幾つかあるけれど(佐久間さんの荒々しいドラムが聴けないとか。流石にスカートに昆虫キッズ的な要素を求めるのは間違ってるとは思うけど)、新しい要素も増え、そして強度は増した。スピッツの音源やテレビのステージに客演などもあり、これからどんな感じで彼らの音楽が世間に広がっていくのか、それはとても楽しみなことのひとつだ。

はじまるならば

はじまるならば

  • スカート
  • J-Pop
  • ¥250

 
8.『Schmilco』Wilco

Schmilco

Schmilco

 

昔っから「良質だけど地味」と言われ続けてきた“アメリカンミュージックの良心”Wilcoが作った「とりわけクッソ地味なレコード」が本作。全編アコースティックな楽器編成で構成されたアルバムで、ジャケットもアコギの写真とかならフルに地味だったところだけど、間違いなくこのジャケットが一番派手だろう。これには流石に最初見たときビビりました。

しかし、地味なアルバムだーとおもってボヤーッと聴き流していると、所々なんか様子がおかしいことに気付く。普通にアコースティックないい曲も入っているけれど、それと同数くらいに、演奏が変な曲が入ってきている。『Common Sense』のなんだこの不協和音カントリーは…って感覚や、『Locator』の沸々としたジャムを無理矢理切り取りました感、WILCOのアルバムに大体1曲はあるアコギだけ曲と思われた『Quarters』の終盤の怪しげなサイケ展開などを聴くにつれ、あっこれはカントリーをやろうとしてるんじゃなくてただ単にいつものWilcoがアコギとかブラシとかに持ち替えただけや、って気付く。これはカントリーレコードではなく、やっぱりオルタナティブロックの作品なのである。

この一筋縄でいかない熟練バンドならではのひねくれは、きっと歌詞が判るともっと楽しいんだろう。どこかのレビューで読んだ冒頭『Normal American Kids』の訳は見事にヒネたおっさんの愚痴っぽいリリックだった。マーク・コズレックといい、この辺の時代のおっさんは心が螺子曲がってしまっている。だからこそ、楽曲に妙な奥行きが生まれてくるんだと思うし、割とそう信じている。

Cry All Day

Cry All Day

 

7.『Hello darkness, my dear friend』ART-SCHOOL

Hello darkness, my dear friend

Hello darkness, my dear friend

 

今年はアートスクールが何度目かの活動再開をして、自主レーベルから新作アルバムをリリースした年として彼らのバイオグラフィに記録されることとなるでしょう。疲れてきて当たり前のことを言うしか出来なくなってきた…。個人的な話をすれば木下理樹さんにTwitterでフォローされて(!?)、以降毎日襟を正す思いでグダグダなTwitterライフを送ってるところ。

そんな今作(どんな?)。発売前のインタビューで木下師匠が「クラシックがーペットサウンズがー」などと仰って、近年のアート関係で最大の「!?」が出てきたのですが、先行公開された『broken eyes』を聴いて、割と素直に「なるほど」と思えたのもそれはそれで驚きだったり。果たして、本作は『Flora』以来の全編ポップで穏やかで満ち満ちた感触に満ちた作品となっている。2作前のメロディを早速リサイクルしたり突如スマパンの某曲っぽくなったりな序盤でずっこけるが、『Julien』の「おかあさん」連呼でえも言われぬ笑い(木下氏のバイオを想うと素直に笑っていいか悩むけど)を取った後の『Paint a Rainbow』から始まりアルバム最後まで続くキラキラとポップな楽曲の連発はアート史上でも屈指のクオリティ。アート史上最も牧歌的なメロディという地位を『それは愛じゃない』と競うことになる『TIMELESS TIME』の可憐さ(及びボーカルのフラジャイルさ)たるや。あっでも再録『NORTH MARINE DRIVE』は元のソロの方が好きかも。奇跡の1曲やからなアレ。

今年はじめの活動再開ライブにも行ったし、アルバムのツアーも福岡で観たけど、アルバムのツアーの方がバンドの状態が良かったのがとても嬉しかった。独演会なる盛大な「!?」を残したりしながらも、今年のアートスクールの活動はとても充実していたと思います。来年も早々に過去の入手困難楽曲を沢山詰め込んだBサイドコンピを(遂に!)出すとかで。これからもよろしくお願いします。

TIMELESS TIME

TIMELESS TIME


6.『Dance To You』サニーデイ・サービス

DANCE TO YOU

DANCE TO YOU

 

もしかしたらご存じない人もいらっしゃるかもしれないので言いますが、これは今年最高に狂気じみたロックンロールアルバムですよ?ダンス?おしゃれ?何を仰るやら。嘘だと思うなら最近のサニーデイのライブを観に行ってみてください。今日本で一番狂気にやられてるミュージシャンは曽我部恵一その人ではないかしら。そのくせMCやインタビューではあんなに無理に笑顔をお作りになられて、一体何がしたいんだ。色々と大丈夫なんだろうか。ぼくは偉大な先人にいきなり何を言ってるんだろう。

本当に、狂気じみている。40、50曲作って録ってボツにしてサニーデイ史上最長の録音期間になってメンバーがダウンして、という曽我部氏があちこちで撒き散らしたドキュメンタリーが『24時』以来の最高の演出にもなっているけど、それがなくてもこの、表面は妙にAORじみた澄ましたツラをしてるこのアルバムの収録曲の裏に確実に何かおぞましい感覚や感情があるのは、聴けば判るし、本人も隠した振りを明らかにしている風である。2曲目『冒険』のブラックマナーは無骨過ぎて、曽我部さんはやはりディアンジェロとかよりも『暴動』とかのスライって感じだなっていう感じで、それは『血を流そう』なんかでも明らかで。そして今作で最高に「編集で徹底的に抑制してます」感に満ちた『セツナ』の血走った、刺々しい質感がそら恐ろしい(と思っていたらライブでやっぱり!案の定!こればっかりは!)。今作の持つ雰囲気はもしかしたら上記『Klan Aileen』が一番近いのではないだろうか。

要するに、このアルバムは近年の曽我部ソロ『超越的漫画』『まぶしい』で見せた正体不明の攻撃性と地続きなのだ。なのにそれをあえてダンスというテクスチャーで隠し、しかもそれでもチラチラ見せつけてくる、これはとてもいやらしいアルバムなのだ。9曲で40分弱という尺も今風だし、何よりもこんなアルバムにサニーデイ・サービスの名を冠する辺りが最高にいやらしい。ここまで徹底的にしてしまわないといけなくなるほどのモチベーションとは何なんだろう。ぼくはそれが一番理解できない、想像したくないのかもしれない。ひとまず今このときばかりは、騙された振りをしてダンスをしていましょう。

セツナ

セツナ

 
5.『Post Pop Depression』Iggy Pop

Post Depression

Post Depression

 

今年最もロックンロールなのがサニーデイだとしたら、最もロックだったのは、イギーポップ御大のこのアルバムということに自分の中ではなる。

早速とても失礼な言い方をするならば、本作は要するに『...Like Clockwork Part2 feat. Iggy Pop』な作品だ。自分の不徳によりその年のベストに入れ損ねた2013年の超名盤『...Like Clockwork』。その制作者であるクイーンズ・オブ・ザ・ストーン・エイジジョシュ・オムが、このアルバムでイギーと共同制作に当たったことは大きく、ぶっちゃげ『...Like Clockwork』の名盤たるゴスく荘厳に重々しく薄らメロウな感じがそのままイギーに注入されている。イギーのボーカルも彼の最も低く堂々とした部分を引っ張ってきており、この相性は抜群どころか、まさにこの声にこの音!というレベルにまで高まっている。

正直ストゥージズは好きだけどイギーのソロは熱心に聴いていなかった自分。「ベルリン時代の再来」ということで盟友ボウイの死と併せて語られていた今作を聴き込むにあたって、そのベルリン時代『The Idiot』『Lust For Life』を正座して聴き返したのだけど、ここでイギーポップという歌い手のことを再発見した上で聴く本作は、もうレベルが違う。ガツガツはしていないけど絶妙に違和感を覚えさせる巧みな音の配置や、基本無骨なトラックに乗る厳かな歌とメロディラインは、オルタナティブロックのゴッドファーザーのひとりとしての威厳どころか、一気にそのトップランナーになってしまう程の凄みがある。そしてなおかつ、この盤はどこまでもイギーポップなのだ。最終曲『Paraguay』を、ぜひ最後まで聴いてほしい。50年ものロック人生を経ての最高到達点は、間違いなくこの曲の最後3分ほどだと、彼の作品をコンプリートしていないにも関わらず確信してしまう。ボウイの最期も壮絶だったが、イギーが抱えてきたものもまた、恐ろしいほどのものだったということなんだろう。ロックの汚らわしく呪われた歴史に敬礼する。

Paraguay

Paraguay

 
4.『醒めない』スピッツ

醒めない(通常盤)

醒めない(通常盤)

 

「お前の年間ベスト上位おっさんばっかじゃねーか!」という声は聞こえない、聞かない。傑作が多かったと言われる2016年、おっさんたちも何故かいつになく頑張っていた、それだけのことだと思う。決しておれが老害になった訳ではないんだ…。

そんなナイスにも程があるおっさんたちのひとつ、スピッツが、これまたやってくれた。自分の中での位置づけは「『インディゴ地平線』より後の作品でベスト」だ。『ハヤブサ』よりも『三日月ロック』よりも、『醒めない』である。ホントに良すぎてびっくりした。

良すぎて思わず、何があったの…と思ってインタビューを読んだところ、まずはじめに「“死”をテーマにしたコンセプトアルバムを作る案」があったことが分かった。それはもしかしたら昨年リリースされた『雪風』辺りからかもしれないし、またデヴィッド・ボウイの死がその想いを強めたこともあったようだ。それが紆余曲折あって、レコーディング最後に録音された『醒めない』に至って“バンドをやることに関する初期衝動”に到達するという流れがまた、出来すぎていると思う。

そう、バンド演奏。『醒めない』の軽快なモータウン・シャッフルビートで幕を開けるこのアルバムは、ここ何作かで挑戦していたバンドサウンドへの回帰がガチリと嵌り込んだ、さらりと輝かしいレコーディング集だ。ミニマルな編成で豊かなメロウでサイケな雰囲気をつくる『みなと』に、遂にしたたかなおじさん感が4つ打ちビートの青さを征服しきってしまった『子グマ! 子グマ!』、飼い馴らしきったおっさん感が的確にドライヴする厚くハードでポップな『ハチの針』など、今作の4人の演奏は見所がとても多い(本文では訳分からん形容詞で誤摩化しているけど)。

さらに、草野マサムネのソングライティングの好調が乗る。望まれず生まれた最初のベスト盤より後のスピッツはどんどん新しいことに挑戦して時に成功・失敗している感じだったけれど、それがおそらく本作で一周したんだと思う。『みなと』『雪風』のシブいメロディ展開、王道をガッツリ掴む『コメット』『ビビスクス』、ひねくれたセンスも発揮された『ガラクタ』『ブチ』等々、今作ともかく隙がない。

何もかもが同じタイミングでいい具合に結集した感じがするこのアルバム。次は何年後?どんな?などと余計な考えを回さず、今はひたすらこのJ-POP最高峰の作品をどこまでも舐め尽くし語り尽くしたい(尽きない)気分。そして『雪風』の歌詞とタイトル、ああっー、ああーっ…ドチャクソ尊い…。


3.『Hamburg Demonstrations』Peter Doherty

Hamburg Demonstrations

Hamburg Demonstrations

 

12月リリース作品には必ず魔物がいる、かどうかは知りませんが、早い人は11月中にその年の年間ベストを済ます中、このような作品をこぼさずに取り込めるところに、年末ギリギリ頃に年間ベストをやることの醍醐味があります。おかげで実家に帰り損ねたけど。。。

今年のそんな作品はこれ。ピート・ドハーティ。最近の若い子はリバティーンズ知ってるんかね。リバも最早アラサーのノスタルジーと化してんのかね。時の流れとは恐ろしいものですね。おっといきなりしょうもないグチから入ってしまった。

で、割と人知れずリリースされてた感のある今作ですが、これがまた、ピート最高傑作です。断言する。そりゃリバや初期ベイビーシャンブルズの名曲各位みたいな分かりやすくキャッチーなメロディはないよ?でも、ここに収められた各曲のメロディはとても丁寧だし、そしてそれを歌うピートの歌唱能力はあくまでもピートでしかないということを強調したい。歌は結局個人の生活習慣からくる癖というものが大きくて、たとえば『Down For The Outing』みたいなナルシスティックなぼそぼそマイナー調や、『Hell To Pay At The Gates Of Heaven』での強引にメロディを駆け上がるぶっきらぼうさは、それが好きになってしまうとやがて、彼の作品でしかそれが聞けないことに気付く。昨年のリバティーンズ新作でそこそこ溜飲を下げたものの十分とは思わなかった。しかし今作は、充実した楽曲群に乗ってそれが存分に味わえるんだ。最高だぜェ!

今作はアレンジ・演奏も丁寧だし多彩だ。1曲目『Kolly Kibber』から、トラッドなフォークかと思ったらバンドが入ってきて、ピアノも楽しげに転げ回る。そこからお得意の英国マイナー調に、カントリー、ロマンチックなミニバラッド、そしてサイケなキーボードをバックに歌うメロウソングまで揃っている。ないのはパンクくらい。はっきり言ってこれは最早キンクス。2016年に現代的に現れたキンクスに他ならない。ピートはやはり、メロディーメイカーとしての英国面を受け継ぐ存在であったことが、今回改めて示された形となる。意外とここまで死なずに来たので、ピートにはこうやってずっと、英国最高のシンガーソングライターとして生き続けてほしいです。

Hell to Pay at the Gates of Heaven

Hell to Pay at the Gates of Heaven

 
2.『Multimodal Sentiment』カーネーション

Multimodal Sentiment

Multimodal Sentiment

 

今年の自分のリスト1位はなんというか、半ば事故のようなものなので、実質1位はこれと言っても間違いじゃない。各メディアや他の人の年間ベストを観ても全然出てこない辺り、もうみんなバンド音楽に興味ないのかなあと不安になってしまうような、自分がこうやって取り上げられる分得をしたような。

カーネーション。1983年結成の30年選手にして、検索しづらいバンド名の代表格にいるバンド(命名した段階ではネット検索なんて概念なかっただろうし、まさか更に検索しづらいスカートとかいう後輩が出来るとは思っていなかっただろう)。数々のミュージシャンから愛されており、特に東京インディーの面々からは直接的な関わりも含めリスペクトが強く、2013年には彼らの手でトリビュートアルバムが作られている。

正直自分もそのトリビュートから入って以来のファンであり、ファン歴は短いし好きなアルバムにもムラがある。スカートによる『月の足跡が枯れた麦に沈み』のカバーを聴いて、原曲が聴きたくなって『Parakeet & Ghost』をレンタルし、その後しばらくしてこれと次の『LOVE SCULPTURE』にドハマりしたのが今年の話。浅く拙いファンだ。

ぼくはこの『LOVE SCULPTURE』が一番好き(名盤とされてる『天国と地獄』はそうでもない)だけど、本作はそれと同じくらい最高だと思っていて、つまりやはり、本作がカーネーションの真骨頂であり最高級の傑作だと思っている。直江さんは57歳。アラ何て言えばいいんだ?アラ還?

このアルバムが最高な理由をひとつ言うと、バンドサウンドの録音ものとして、非常に自由でかつ達者だということ。有数の音楽ジャンキーとしても知られる直江氏を中心としたこのバンドは、元々どんな音楽性も取り込んでしまうところがあり、それが時に作品の色彩を華やかにし、また時には器用貧乏感を醸し出す原因ともなる。おれはなんでこんな大先輩バンドをディスってるんだ?

その点で、今回のコントロールは絶妙だ。カメラ万年筆やスカートで知られる佐藤優介を多くの曲でサポートに迎えているが、彼が直江氏の欲しいキーボードを的確に演奏している。他のゲストも多彩で(GRAPEVINE西川氏のギターでの客演が特に「それを弾きに来たのかよ!?」って感じで笑える)、流石多くのリスペクトを受けるバンドだと思うが、それでも手綱は直江氏が緩く、しかしちゃんと握っている。もっさりしたバンドサウンドをWilco風だと言い切り、そこに老練さとインディー感覚とが絶妙に止揚されたアレンジの数々が搭載される様はまさにアルバム名どおり。

もっさりしたバンドサウンドが多いのは、そもそも曲作りのレベルでもっさりした楽曲が多いからだ。それは“飄々”とも言い換えていい。『Living/Loving』で3人体制になって以降の直江氏の緊張感あるソングライティング(それはそれでいいものだけど)から何故か解放されて、とてもゆるゆるとしたメロディを平気で垂れ流している。が、メロウなところはしっかりと抑えてある。

もっと突っ込みたいのは歌詞だ。冒頭『まともになりたい』の一節はこうだ。

紙のようにぺらぺらだ/あっちが透けて見えそうなんだ

どちらかといえばそれは何もないのと同じ

寂しいなこれじゃあんまりだ

直江氏は今年57歳、邦楽界の大ベテランだ。「これじゃあんまり」なのはこっちだよ!アルバムは所々メロウな面も見せ、またやたら食べ物についての言及(ニールヤングなサウンドにホントどうでもいい歌詞が乗る『E.B.I』のアホらしさよ)を繰り返しながらも、終始こういうのを基礎に進行していく。どこまでホンキなのか測りかねる中しかし、最終曲『メテオ定食』では、そのファニーさが絶妙に反転する。

自由になりたいな/でも自由って何だ?

アホくさいよなんか全部くだらないな

救いはどこにも無いが/でも何か忘れてないか?

何か忘れてないのか?/でも何か忘れてないのか?

この、アルバムで最もエモくもメロウい最終幕にまできて、このアルバムの充実した、ジャケットどおりの大人のおもちゃ箱(エロい意味ではない)状態な有様は、半ば投げやりなフィーリングから生まれて来ているのかもしれないことに気付く。はっきり言ってこのアルバムに緊張感の張り詰めたような場面は少ない。ゆるーくグルーヴしているのは、こんな頼りない気持ちなのだ。しかして今作は、多様にドライヴする音楽に任せて、そんな弱いフィーリングを引き摺り倒したアルバムということになる。

上の他アルバムのレビューで時折狂気がどうのと書いたけど、このアルバムにその感じはない。このアルバムは空虚さが歌詞の軸のひとつになってはいるけど、決してそれを推進力にしていない。あくまで推進力は彼らの幅広い知見とアイディアであり、感情はそれらにぶっきらぼうに載せているだけのことだ。それで、ここまでクオリティが高くユニークでメロウでダンディなアルバムが出来ているのだ。つまりこれは、的確な知性とユーモア“だけ”で作られたポップアルバムだ。失礼なことを言えば、曽我部恵一は自らの人生を破滅させんばかりの勢いで『Dance To You』を産み出し、一方で直江政弘はたまたま自分の周りに集まってきた“状況”をかき集めて配列してこのアルバムを建築した。この2つを別に順位づけたいとも思わないのだけど、でもこれは年間ベストというなんか順位をつける催しなので、じゃあなんか今の気分はこっちの方を取ってみたところ。

気付いたらこれも大概長くなったのでそろそろ切り上げますが、今年のWilcoの新譜だけじゃいなたいバンドサウンド成分が足りないよーという方はぜひ、この作品を聴いてほしい。こういう、どうでもいいみたいなことを沢山言っときながらとてもしたたかなおっさんもいるんだ。1月に近所でライブがあるようなので絶対行く。

メテオ定食 (Album Mix)

メテオ定食 (Album Mix)

 

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30位から2位まででした。読んでくれた方お疲れさまでした。

1位は文章が長くなるので記事を分けます。ホントに事故みたいな理由で1位になってしまった。

1位が独立した記事になる関係で、こっちに今年の総評みたいなのを書きますが、以上のとおり全然ブラックミュージックの入ってないラインナップなので(1位もフランク・オーシャンやチャンス・ザ・ラッパーじゃないよ!)、なんだかスカスカな感じがしなくもなくて、ぼくは何か、時代に置いてかれてるのかなといじけてしまいたい気持ちもあります。サインマグ等はともかく、今年はロッキンオンのランキングすら遠く感じる…。

が、今年は自分もバンドをがっつり始めた関係で、そのバンドの指向性もまた自分の音楽の趣味に影響を、制約を与えているのかもしれません。まあ今に始まったことでもないし、仕事は忙しくて/捌ききれなくて時間は制約されるし、なんだか疲れてて色々新しいものを聴く気にもならないし、どうしたものかなと、全然真剣に悩んではいないけどとりあえず思う程度な具合です。

ひとまず、そんな自分の狭い趣向でも、かき集めればこういう、これはこれでとても豪華なリストができるくらいには、今年の音楽も充実していたんだと思います。色々ダルいことや後悔めいたことも書きましたが、自分はこのリストを作れた今年の生活や選択の色々にそこそこ満足をしています。

ストリーミングサービス。自分はどれもまだやったことないです。絶対便利なんだろうな。でも今のところする気もなぜかあまりないです。静観です。

人死にが多かったのだけは、こればっかりはやりきれない。デヴィッド・ボウイレナード・コーエン(新作はまだ聴いてません)などの大御所が逝ってしまうのはまあ仕方ないしむしろ傑作遺して死ねて凄い、など思いますが、もっと下の世代での訃報も多かったことが気がかりというか、気が塞ぐというか、なんだか悲しいし、苦しい感じです。

政治の関係は、ノーコメントです。トランプ?ブレクジット?それってくえるの?

知り合いのリリースが多かったことは、焦燥感も覚えますが純粋に嬉しい、めでたい気持ちがしています。今回ラインナップに無い分でも、福岡の知り合いで世界のザキ、ナンジャカ、Mantra、Num Contena等がリリースをし、また関東方面でも、東京インディーギターポップ界隈の方々のリリースがありました。自分もこのリリースラッシュに混ざりたかったな、今作ってる作品が間に合えばなあ…と後悔しかけていたのですが、よく考えたら自分が参加したKalan Ya Heidi『kemuri』は今年リリースでした。いい作品なんで少しでも多くの人に聴いてほしいですね。

 

音楽的な総評は以上です。

あとは今日中に第1位のレビューと、そして年明けに他の1年振り返りを書いてこの辺の記事は終わりです。

今のうちに年末の挨拶を。色んな方にお世話になり、勿論この記事も含めて拙ブログを読んでいただいた方々も、ありがとうございました。これからも皆様の生活が何かしら良いものだったり、健やかだったりを祈りますし、もしタイミングがあればお会いできると嬉しいです。来年もよろしくお願いします。