ブンゲイブ・ケイオンガクブ

本を読まない文芸部員と楽器を練習しない軽音楽部員のような感じのブログ。適当な創作・レビュー等々。

コーラス(ギターエフェクト)について【40曲】後編

何このサムネ…?*1

 

 続きです。作ったリストを聴き返してて「あれっ、これコーラスじゃなくね…?フェイザーじゃね…?」「ディレイじゃね…?」などとなるたびに楽曲を入れ替え続けてきたこのシリーズも一旦終わり。最後までコーラス漬けな記事になったと思います。

 前編では、自己都合*2で変な場所で切ってしまったので、おまけとして「コーラスがたくさん聴けるアルバム」のリストも作りました。10枚あります。

 

 前編はこちら。

 

ystmokzk.hatenablog.jp

 

 

本編

 前回からの続き。40曲全部見終わったらプレイリストを載っけてます。

 

 

1990年代〜2000年代

 ニューウェーブは後退しつつも、代わりにシューゲイザーグランジギターポップでのコーラス用途が増大した1990年代と、ニューウェーブ再評価が始まる2000年代。

 

 

15. There She Goes / The La's(1990年)…①

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 この大名曲、実は最初のリリースはシングルとして1988年に出ている。けども1990年にもう一度シングルされた際にヒットし、これを収録したアルバムも1990年リリースなんで、まあギリギリ1990年代だろう(?)

 楽曲については今更何も言うことなどないくらいのこれ以上足すことも引くこともできないだろうくらいのエヴァーグリーンなポップソングだけど、その牧歌的な質感をより淡く眩しくノスタルジックにするのに、主旋律であるアルペジオに効いたコーラスがまさに役立っている。そもそも高い音低い音で重ねられた時点でモジュレーション的効果が発揮されるところにさらにコーラスと、実はさりげなく結構な工夫が施されている。この曲にサイケを感じるとすれば、そういうことによるものだろう。程よく輪郭が丸く曖昧になってるというのか。そして、そんなまどろむような雰囲気を少しマイナーコード入って以降の展開が少し劇的に突き破ってくるところが、この曲のただのんびりだけで終わらせないところ。

 

 

16. Can't Stop This Feeling I Got / Prince(1990年)…⑦

Can't Stop This Feeling I Got - YouTube

 

 Princeといえばギターカッティング、Princeのカッティングといえばコーラス、と言われることがある。だけど、1980年代の全盛期の作品を聴いてると、ギターよりもシンセの方が目立ってたり、なんかよく分からない音でスゴみを形作ってたりで「あれっ」ってなることがあるように思う。実はアルバム『1999』『Sign O' the Times』のデラックスエディション*3には「どうしてこれを死ぬまで隠してたんだ…」と言いたくなるくらいのギターカッティング多用の名曲が相当数ある。最近そのことに気づいて、いつか近いうちにリストを作って何かしたいところだけど、そんな世に出なかった楽曲が多い中で、同じく『1999』のデッドストックだったこの曲は幸いにも1990年のアルバム『Graffiti Bridge』のなぜか先頭曲としてリサイクルされ世に出た。

 意外に生前のアルバムで表に出ることのそんなにない気がする「コーラスの効いたクリーントーンでカッティングしまくるの中心でいくPrinceの曲」を地で行く、しかもそのうえでひたすらファニーな楽しさが続いていくのがこの曲の持ち味。少しハネ気味のリズムのワクワクな具合はストイックなファンクからは遠くてむしろ岡村靖幸的ポップさに通じるところがある*4。そして、歌い始めの伴奏から早速聞こえてくるコーラス色に歪んだクリーントーンのギターが、この曲ではずっと小刻みにキャリキャリと鳴り続ける。大袈裟に歪んだギターやユーモラスなシンセなんかが入ってますます岡村靖幸的になっても、それでも伴奏のメインはギターって感じが続くのがこの曲のひたすらいいところ。

 それにしても、様々なヘンテコ要素の挿入タイミングがマジで岡村靖幸してる…。仮にもアルバム『家庭教師』と同じ年のリリースなんだけどなこの曲は。むしろ1989年の『靖幸』の曲をPrinceが逆輸入したのか?ってくらい色々と類似点があって、今回この記事を書くために色々調べた中ではとりわけ面白い気づきだった。時空が歪んでるんじゃねえのって思う。岡村ちゃんさん未来にタイムリープしてこの曲を聴いてから色々作ったりしてないか…?だとしたら一大スキャンダルだ…。

 

 

17. Dreams Burn Down / Ride(1990年)…①②⑥

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 シューゲイザーというジャンルは音色一発で楽曲の雰囲気を形作るところのあるジャンルなので、音色を広げる空間系のエフェクトがとりわけ大切だけども、音質自体を作る歪みやモジュレーションも非常に大切。それでシューゲイザー名盤の一角であるところのRideの1stを改めて聴き直して思ったのが、このアルバムのギター、ありとあらゆるモジュレーションエフェクトが掛かりまくってるなあ、ということ。様々な効果が一度に乗ってさらにディレイも激しく通すから、もはや原音の存在感はまるでない。彼らの解散までの歴史はここから段々とエフェクトを脱ぎ捨てて行く行程だけども、しかしこの時のサウンドの、様々に揺らされて拡散されて原型を留めていない音が、しかしクリーンなトーンよりもずっと透き通って聞こえるところはギターという楽器の醍醐味のひとつなのかもしれない。…と、あとのアルバム紹介に取っておけばいいことを書き過ぎてしまう。

 あえて1曲を選ぶとすれば、アルバム中で最もシューゲイザー的轟音を聴けるこの曲において、轟音が解けた際に現れる冷たくも儚い煌めきそのものなギタートーンは、確実にコーラスの効果が大きいところだろう。轟音で塗りつぶされ吹き飛ばされること前提のトーンの、その研ぎ澄まされた感覚が、コーラスとディレイをたっぷり掛けることによって、つまり過剰な添加物によって生み出されることの不思議。そして、そのようなものを使って作り出す「まがいもの」じみた音でしか語りえないタイプの熱情・エモの存在。おそらく轟音サイドの音*5もコーラス掛けっぱなしなんじゃないかとは思うけどもそこは確証が持てない。ともかく、シューゲイザーは色々と揺らしてなんぼのジャンルであることを考えるに、そこにコーラスは確実に彩を与えるだろう。

 

 

18. Come As You Are / Nirvana(1991年)…⑤⑥

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 Electro Harmonics社のSmall Cloneという商品が「オレNirvanaサンにずっと付いて行くっス!」ってなった楽曲そのもの。今でもNanoとかの商品の箱に「Your Nirvana」って書いてるんだろうか*6この曲で聴ける毒々しくも落ち着いた、でも間違いなく不穏なトーンのキャラクターこそがSmall Cloneというコーラスエフェクターの典型的なサウンドですよって、逆に楽曲がエフェクターの性質を定義してしまった感じすらあるまあ超有名曲Small Clone自体は1979年生まれだけど、コーラス界でBOSS系統と張るほどの存在感が出てきたのはまさにNirvana以降だろう。

 これも有名どころではないアルバムのおそらく2番目か3番目くらいには人気のある楽曲だろうから曲自体について何か言えることは殆どないけど、でもやはりこの、曲展開的に何かスッキリする出口のない構造になっているところに、この低音弦をエグく怪しく効いたコーラストーンで静かに病み成分を落とし込めたことは、本当に的確すぎるアレンジだろう。あのアルバムの中でもこの曲の「行き場のなさ」の病み方は他の曲のそれとは少し性質が違う感じがして、Small Cloneのなんか不自然な効き方をするコーラスの響きはまさにその異質さの中心にある。カラッカラに乾き切った状態と、適度に湿気があって腐った状態とどっちがより辛いか、どっちも辛いけど性質が違うよね、というか。何はなくとも、今日においてコーラスが「“病み”を表現する手法のひとつ」としてみられているとすれば、そこにおけるこの曲の存在感は相応に巨大なものだろう。病んでる感じ、出したいですよね?じゃあSmall Clone買いましょう。脳に"Your Nirvana"を宿そうねっていう体系。

 

 

19. Rooster / Alice in Chains(1992年)…⑤

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 グランジが2曲続くと「コーラスってグランジなエフェクトなのかな」って気分にもなってくる。まあ結構本当にそうなのかも。しかもこちらはNirvana的なソリッドなグランジではなく、むしろ本国アメリカではこっちが多数派という、もっとスローでヘヴィでドロドロとしたグランジが展開される。そのスローでヘヴィでドロドロしたグランジの中でもこのバンドが一際重く病的に感じられてしまうのはその顛末のせいか。

 シングルになったとはいえ6分超えのこの曲は、冒頭から聞こえてくる意識ごと歪みそうになるようなドロドロに効いたコーラスギターのコードストロークを軸とする静パートと鬱病爆発的なハードロックの動パートとで構成され、そのギャップの付き方は薄気味悪くて強烈だ。特に、ディストーションとシャウトのパートで陰鬱なりに爆発してみせた後の静寂にどこからともなくまたどこか病んだ質感のするコーラストーンのコードストロークが入ってくるのは毎回、なんとも言い難い居た堪れなさを覚える。そのトーンはまさに、静かにゆっくりと蝕まれていくような感じがする。のめり込みすぎると聴いてるこっちも一緒に蝕まれてしまいそうに思えるような、そんな重さは、純粋に表現力の成功なんだろう。

 

 

20. For Love / Lush(1992年)…①⑦

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 一応このバンドはシューゲイザーにタグ付けされている存在だけど、初期シングルからこの曲の入った1stアルバムまでこそCocteau TwinsのRobin Guthrieのプロデュースで、特に初期シングルにはCocteau Twins由来の幻惑感が結構感じられたものの、1stの時点でその辺は割にポップに整理され*7、そしてその後はどんどんUSインディー的なカラッとしたディストーションサウンドに移行して行く。ので、そこまでシューゲイザーなのかよく分からない気もする。まあ曲が良ければあとは装飾の問題で済む方のバンドだと思う。

 この曲なんかどうだろう。ひたすらコーラスのみで歪んだようなシャキシャキしたギターのコード弾きほぼオンリーで延々と演奏を進め、ただ曲の良さと1990年代的などこかカラッとした歌心だけで突っ切るスタイルには、シューゲイザーでもオルタナでもましてやニューウェーブでもない、カテゴライズから絶妙に抜け落ちるけど「良い」だけが残る感触があるシューゲイザーとしては0点でも、曲が良ければいいんだ。

 それにしてもこの曲の伴奏の割り切り方はある意味大胆というか、コーラスによって程よく角の取れた歯切れと水気をほどほどに含んだギターのコード弾きと若干のシンプルすぎるフレーズだけで楽曲を構成する様は、もう開き直りの極地だろっていう。で、なんでそんなことが許されるかというと、この曲がひたすらメロディが良くて、歌の方のコーラスワークも鮮やかで、サウンドで幻惑的に見せる方がそれらの良さが“濁る”と判断されたためだろう。インディーロック、時にはそういうこともあるんだろう。きみに1曲の最初から最後まで同じペナペナのコーラストーンのコードカッティングだけでやり通す勇気はあるか?という話なのかこれは。

 

 

21. Katy Song / Red House Painters(1993年)…③⑤

Katy Song - YouTube

 

 スロウコアというジャンルはどっちかというと乾いた、乾き切って景色や建物や場合によっては記憶さえ風化していくような、そんなイメージが先行するジャンルではと思うけども、でもそのオリジネイターの一角であるこのバンドの特に4AD所属時代は、まあ音色がコーラスまみれで、実にジュクジュクと湿っている。退廃の形式として、乾燥よりも腐食の方を志向していたのか。…「退廃の形式」っていうまた分類に苦しみそうなワードはなんだ。

 この曲なんか、延々とコーラスの淡い薄膜に覆われたギターサウンドが、記憶が延々とその薄膜によってどこへも発散することもなく囚われ続けるかのような雰囲気を、終盤の執拗な反復とともに形作っている。深すぎる追憶は病みの一形態である、とでも言うかのようにこの曲はその辺の演出が徹底されており、徹底されているが故の8分超えという呆れ果てる尺には、執念と狂気の境が溶けてしまったかのようなおぞましい何かを静かに感じさせる。ギターの音もフレーズも実に優雅で、しかし歌共々そこに明るさは乏しく、品性の高さが次第に毒に変質していくような感触が次第に高まって行くだろう。執念を思わせるのが、終盤の延々と同じ展開を繰り返す場面も、よく聴くと段々とギターフレーズが変化していて、どことなくヨーロピアンな退廃美を思わせるムードを静かに禍々しく花開かせていく。

 プレイリスト的には絶対『Mistress』の方が軽くて流れもいいなとは思ったけど、コーラスというエフェクトのある種の凄まじさは、この曲の方がよく現れているだろうと思う。

 

 

22. When the Sun Hits / Slowdive(1993年)…②④

Slowdive - When the Sun Hits (Audio) - YouTube

 

 シューゲイザーというジャンルは音色一発で楽曲の雰囲気を形作るところのあるジャンルなので、音色を広げる空間系のエフェクトも大事だけども、音質自体を作る歪みやモジュレーションも非常に大切(ここまでコピペ)。Rideの1stが音が突き抜けて行く感覚を重視していたとすれば、Slowdiveの2ndは音の響きの中に奥に埋没して行くような感覚こそが求められていたように思う。こちらもやはりモジュレーションの多用は発生し、トレモロの回でも楽曲を取り上げたところだったけど、この代表曲では早速イントロからして、音の深くへ誘わんとするアルペジオの妖艶さには、コーラス(とディレイ)によって攪拌されたクリーントーンの混沌が効いている

 よく考えると、この曲が轟音になるのは最初のサビに入ってからで、それまでの静パートの間はずっとこの、コーラスの効力によって生み出された不安定な反響の中をリスナーは彷徨わせられる。この、迷いの森に迷い込んだようにソワソワとし続ける時間が、サビの轟音の到達によって沈められたまま浮かぶような感覚に叩き起こされることがこの曲のダイナミズムだ。そして一度そのダイナミズムを経験してからの、再度静パートに戻って行く際の感覚は最初のそれとはまた違ったものになっている。迷いの森も2回目となれば見方が変わるように。少し考えればこの曲の轟音が迷いの森の抜け方というよりもむしろもっと“戻れないところ”に連れ込まれる手口だと分かるにもかかわらず。もう一度だけ轟音から帰ってくるときには、なんだか切なくなってしまうだろう。最後の轟音、フェードアウトなんてせずにずっとこの轟音に迷い込ませてくればいいのに、と思う人々の切実さを労るように、この曲は割と早々にフェードアウトしてしまうけども。

 

 

23. ロビンソン / スピッツ(1995年)…①

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 日本においてコーラスが目立つ曲で一番売れたのはきっとこの曲じゃないかなと。日本で一番有名なアルペジオであろうこの曲のイントロやサビのギターアルペジオを、ただのギターのトーンからほんの少しだけ非現実なファンタジックなもの、輪郭の曖昧なものに変えているのは、おそらくコーラスの成せる技だと思う。曲については、こんな有名も有名な曲を前に今更何を言おう。すでにそれでも色々書いてるし。

 

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 イントロは掛かりが淡くて分かりにくいけども、Aメロのバックでたまに鳴るエレキギターのささやかなフレーズを聴くと、こちらは確実にコーラス的に澱んでいる。イントロにもコーラスが効いてるとすると、イントロとレートを変えているんだろうか。また、Bメロの伴奏ではどうもフェイザーも掛けられているみたいで、もっと音が不安定に揺れる。その上であの、日本音楽史に残るであろうサビに入って行く。実にさりげなく、モジュレーションで微妙に伴奏をコントロールすることが、もしかしたら大ヒットの秘訣だったのかもしれないし別に関係ないのかもしれないけども、そのさりげなさが実にこの曲らしいなと思ってちょっと笑った。

 ちなみにスピッツでコーラスの効いた曲は他にも沢山あるけど、最近だとそれこそ『美しい鰭』なんかまさにそう。実にいいコーラスの効き方だなあ。

 

 

24. Until It Sleeps / Metallica(1996年)…⑤

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 “病みコーラス”的用法はおそらくNirvanaよりも早かったろうにすっかりお株を奪われた感のあるこのメタルの重鎮バンドだけど、そんなことで拗ねる素振りなども全然見せずに、彼らの1990年代はむしろ高速メタルを脱ぎ捨て、鈍重な、むしろグランジの本流的なドロドロのハードロックに深く傾倒して行く時期だった。イントロのベースからしてコーラスで不気味に無機化されたこの曲の、コーラスでふやけ切ったアルペジオが入ってきてからのいよいよな“病み”感には、時代の音への呼応か、むしろ自分たちこそが先駆者なのだという意思か、どっちもなのか、そのようないい意味でのモヤモヤが感じられる。というか、1990年代〜『St. Anger』くらいまでのこのバンドはジャンルはもはや“ちょっとメタル寄りのグランジ”じゃね?なのでなのかこの時期の彼らはコーラスの音色がよく出てくる。

 もちろんこの曲の怪しく病んだアルペジオもまた、轟音のギターリフに展開するための前振り的な側面はある。ザクザクと歪んだギターリフにはかつてのメタルバンドとしてのエッジがまだ少し残っているようにも思える*8けども、楽曲のテンポが変わるわけでもなくノリが変わるわけでもないこの曲では、そのエッジの効いたハードさも十分な爽快感までには至らず、結局またコーラスばかりの静パートに呑まれて行く様には、この時期の彼らが大事にしていたのであろう、“より救いのないヘヴィさ”への拘りが滲み出している気がする。メタルファンが彼らに求めてるのはおそらくそういう要素ではないんだろうけども。でもこのリストではよりふさわしい。

 

 

25. Junk Bond Trader / Elliott Smith(2000年)…⑤

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 実はこのSSWがギターの音色に相当拘る人だというのは、作品的には『Figure 8』になってからようやく分かってくる。意外とエレキギターの登場が多いこのアルバムを経て、彼の死後に出た最終作『From a Basement on the Hill』での奇妙で粘っこい轟音ギターの連発に至るところにおいては、彼がエレキギターという楽器に何を求めようとしていたのかが覗く。それらの作品でもしっかりキーボード類やコード感や歌の調子と同じく“Elliott Smith色”にギターの音はすっかり塗り替えられるけども、そこで役立っているのが各種モジュレーションだ。

 この曲の伴奏として現れる、なんともElliott Smith的ないかがわしさと優雅さを兼ね備えたギターフレーズの悉くが、実にElliott Smith的な怪しくくぐもった効果をコーラスによって付与されていることに注目したい。なぜ彼は徹底して“Elliott Smith的な雰囲気”を形作るのが上手いのか。だからこそ今になってもジャンルを超えてリスペクトが多く捧げられているところもあるんだろう。The Band的な演奏を自分の色にすっかり染め上げてしまうその手腕の的確さ。その的確さ自体が彼自身の性にして業めいて見えてくるところもまた、どことなく救いのなさを思わせて興味深い。いやでも本当、ここまでギタートーンまでもを自分の個性のもとにコントロールできる自己認識力は圧倒的とも思える。同アルバムは他にも「いかにもElliott Smith的なモジュレーション」が散見されるので探してみよう。

 弱気なことを付け足しておくと、コーラスじゃなくてロータリースピーカー系のモジュレーションかもしれない…。

 

 

26. 鉄風 鋭くなって / NUMER GIRL(2001年)…②

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 コーラスの使用例のところで挙げたとおり、コーラスを伴って歪ませた刺さるような田渕ひさ子のギタートーンはこのバンドの象徴めいたところがある。けども、各楽曲の矛が彼女のギターだとして、楽曲のボディの部分においては、向井秀徳のギターの存在感は非常に大きなものがある*9。最終アルバムに向けてミニマルな反復での作曲技法に早速熟達し、冷凍都市の光景をサクッと3分弱に収めてみせるこの曲においては、そのタイトルからして鋭そうなイメージとは裏腹に、彼のギターは登場以降ずっとギラギラしつつも妙に滑らかな煌めきのコーラスが効いたアルペジオを繰り返し続けている

 確かに冷たくてメタリックな方向の音ではあるけども、もっとジャキジャキのトーンそのままでショートディレイでかました方がより“鋭い”テイストが生まれただろうに、この曲の鋭さの角を丸めるようなコーラスの使用は“あえて”という感覚を覚える。というかこの曲のリードギターの音もまた、タイトルに反してそこまで鋭くない。鋭さを狙って作られていない、というか、ある種の“やりすぎずにあっさり通り過ぎていく”感じをさえ思わせる。それは、歌詞の内容的にも「殺伐さがあちこちに点在する冷凍都市のありさまをサラッと情景描写だけで通り過ぎて行く」この曲の情緒を、案外アレンジにおいても大切にした結果だったりするんだろうか。殺伐とした都市なりの“爽やかさ”みたいなものを、ひょっとしてこの曲は表現したかったりしたのかもしれない。

 

 

27. 正常 / syrup16g(2003年)…②⑤

syrup16g - 正常(MV) - YouTube

 

 syrup16gART-SCHOOLというある種の2大バンドのサウンドの特徴は「ニューウェーブシューゲイザーグランジを独特のレシピで煮詰めたもの」と言えてしまうところがあるだろう。むしろその結果「1970年代以前の大文字の“ロック”の感覚が欠け落ちること」が生じたことこそに彼らの鋭角さが宿るようにも思えるけども。そして、その三つを繋ぐ要素のひとつとしてコーラスが浮かび上がってくる。この2バンドどちらもがコーラスを多用することはそういう意味ではとても必然的なことなのかもと。

 それこそsyrup16gはコーラス掛けてないことの方が少なさそうなバンドの最たるもののひとつな気がしてる*10けども、特に2003年の『Hell-See』まではそれが顕著で、このsyrup16g史上最も低いところに沈み込み滞留し続ける感覚の楽曲においても、その轟音の基本成分としてコーラスの病んだ煌めきが含まれてしまい、ベースの重心が高いこのバンドにおいてその響きは醜悪な渋みを含有したまま沈澱する

 コーラスによってチリチリと刻まれた厚い歪みは、1970年代的な「健全でビンテージな歪み」を強く否定する。コーラスの効いたクリーントーンの煌めきも印象的だが、この曲では特に歪みにおけるコーラスの効用を思わせる。特に終盤の、歌もこれ以上ないほどに沈み込むミドルエイトの箇所以降はこの傾向が顕著で、最終盤のベースがもはや低音の役割を捨てて謎フレーズを反復する場においては、そのアンチネイチャーな歪み方の無機質さがダイレクトで届く。エレキギターの音は所詮電気信号、という冷たく無機質な感触がとても強調される瞬間。人間の感情や感覚や気分だって所詮ただの電気信号なんだろう、とまではこの音は直接的には言わないものの。

 

 

28. The Moon / Cat Power(2006年)…①

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 伝統的なロックをスロウコア的手法で解体するようなところがこのSSWの作風にはある気がしているけども、この曲なんか「古くからあるムーディーなバラッド」の装いを作るために、割にクリーンなトーンを自然なリヴァーブで聴かせてる“風”を演出すべく添加物的にコーラスが使用されてるっぽいところがある

 基本ディレイかリヴァーブだけっぽく聞こえるけども、所々のフレーズの返しの際の音がダブり濁る感じは、多分コーラスじゃないかなと思う。いやショートディレイでこの感じ出るかも…?確実なところまで調べてないのがこの記事の良くないところだ。だけど、こんなベースとギターアルペジオとドラムだけ、コードを直接弾く楽器なしに最後まで進行することの“ぽっかり隙間が空いた”感覚は彼女ならではで、音が少ない場面で聞こえる楽器の自然なノイズまで録音したこの「スタジオの音響特性が良かったので自然なルームリヴァーブのみで録って出しました」風の楽曲に、隠し味的に人工的な加工そのものなコーラスのエフェクトが用いられてると思うと、面白い気がする。「天然成分を押し出してる料理にこっそり味の素が使われて、それによりより天然っぽく感じられる」みたいな。偽物が本物を超える話はみんな好きだろうと思うけど、音楽って割とそういうことばっかなんじゃないのかなって思う。だから夢があるよなとも。まあ、本物って何?という話だけども。

 

 

29. Swan Dive / ART-SCHOOL(2007年)…③⑤

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 “鬱ロック”などと明確に書きたくないからここまでぼかしてきた“ある種の2大バンド”のもう片方な訳だけども、彼らもまたコーラス多用組で、初期のグランジ的な尖りまくった歪みコーラスも、中期のニューウェーブ意識なコーラストーン*11も、2010年代以降に特に増えてきたギターポップ的用法も、彼らは一通りやってきた。ことコーラスに関して言えば、2007年のアルバム『Flora』はマジで全曲コーラス掛かってるやろこれ、アルバムの裏テーマ実はコーラスじゃない?ってくらいにコーラスに満ちた楽曲集だ。

 そのリードトラック的存在だった、木下理樹ソロ時代の可愛らしい楽曲のバンドリメイクは、かつてのモコモコしてファンシーな可愛らしさの一切を、耽美さと腐乱の予感に満ちたコーラストーンで潤みまくったギターアルペジオに置き換えられ、淡い追憶に沈んでいく静かな救いのなさみたいなのが表現されたものに生まれ変わった。成程この美しくもどこか毒々しいコーラスの反響は、あのコーラスまみれのアルバムのリードトラックに相応しい。元々のアルバムコンセプトだった「マスにも届く明るく開かれたものを」という話はどうなったんだ…とも思うけど、本気でそう思ってたらおそらくアルバム全体をコーラス塗れになんかしない。もしくは天然か…。

 なにはともあれ、ひたすらアルペジオの響きにこだわり尽くし、初めから終わりまでそれで透徹し切ったこの楽曲は、ひとつのコンセプトをしっかりやり切ったものとして完成しており、なんならなんかのそれなりに立派な額縁に入れて飾ってもいいものじゃないかなと密かに思ってる。ずっとメジャー調の楽曲なのに、醸し出される明るさの影にずっとへばりつき続ける亡霊じみた退廃感は、このバンドの数々の楽曲の中でも唯一無二だ。

 

 

2010年代〜2020年代

 残りの年間。コーラスというエフェクト自体基本ギターを想定したものなので、ギターが使われなくなってくると必然的に聴けることも少なくなるものだけど、一時期インディーバンド音楽は終わりみたいなことが言われる時期なんかもあったかもだけど、なんだかんだでまだインディーロック的なものはあるので、コーラスサウンドも聴けてるところ。

 

 

30. Live in Dreams / Wild Nothing(2010年)…①②

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 2010年代前半にニューヨークで咲いたCaptured Tracksというレーベルを中心としたひっそりとしたムーブメントは、どことなくインディーロックがメディアである程度集中して取り上げられていた最後の時期のような感じがする。音楽性の全体的にどことなく侘しい感じもあって寂しさも感じれて、特にそのムーブメントの有力者であるこのユニットの、実に1980年代への郷愁に潔く閉じ籠ったかのような音楽性はそんな傾向をより強くする。1980年代のサウンド、それは各種エフェクトの発達により、アンプそのままのナチュラルな音よりも、様々な加工を加えまくった、添加物たっぷりなサウンドこそが持て囃された時代で、そのニセモノっぷりが、このムーブメントではとても大切だったように思える。

 最初のアルバム先頭に置かれたこの曲は、1980年代の郷愁の向こう側からゆっくり現れるかのようにフェードインしてきて、忘却という名の冷却の煌めきが聴こえてきたかのようなコーラスの効いたギターサウンドが、頼りなさげなシンセとともにどこかうら寂しいドリーミーさを形作っていく。リヴァーブの向こう側に引っ込み過ぎたボーカルもまた、思い切った郷愁の感じを生み出す。最初のアルバムだというのに、隠遁先から現れたかのようなそれは、しかし、色々が1980年代の要素で作られているようでありながら、決して1980年代には存在しなかった類の感傷の質感を不思議に持つ。それが、突き詰めるということの大事さであり可能性なんだろう。コーラスの濃く効いたことによって生まれる残響の落ち着いた冷たさも、幻の過去を追い求めるかのようなドリーミーさを生み出す。

 それにしても、この次の2nd、3rdはなんでサブスクにないんだろうな。

 また、2019年にはWild Nothingの中の人自身が機材について語る動画も公開されている。開始3秒で現れるCE-2の存在感。じつに手っ取り早く写してくれるReverbの名采配。やっぱAndy Martinはできる男だぜ。。

 

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…and I mean, this, this is kind of the most important tittle on the board to me is just like the classic CE-2, boss chorus basically started using that. Because I was really into the chorus sound on the JC-120 amps which is and this is essentially the same thing.

 

   youtubeの字幕機能で出てきたものなので内容間違いあるかも)

 

自分のエフェクターボードでCE-2が一番重要なものとか言ってますねえ興味深い。

 

 

31. My Kind of Woman / Mac DeMarco(2012年)…③⑦

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 2010年前後はドリームポップの流行があり、その中では「そういえばガレージロック的なやつにリヴァーブやディレイをめっちゃ掛けるやつって意外とまだブーム的なのってなくね?これだぜ!」的なブームがUSインディにて起こっていた。そんな中でひとり独特に「別にそんなに駆け出さんでも、ゆっくりのんびりしてりゃいーんじゃないっすか?」的な佇まいでその、のんびりとした音楽を奏でる歯抜けの男は現れた。

 そんな彼の出世作である『2』自体コーラスに溢れた作品だけども、彼にとってコーラスとは、彼の音楽のトレードマークである「ちょっとしたヨレ」を出すための魔法の道具のひとつなのかなと思わされる。この曲のリードフレーズにおいては、金属から発されるとは思われないくらいにだらしなく緩んだ、安っぽいようで妙に気品に満ちてるようにも感じられる質感にコーラスは貢献している。その終始トロッとした質感を帯び続けるギターサウンドは、もしかしたらこれもまた新しい形のローファイのスタイルなのかもと少し思わせる。アームだったりディレイだったりの効果もあるんだろうけども、しかしどことなくAORのような漂白っぽさもあるのは、コーラスの効果だろう。

 しかしそれにしても、BOSS CE-2なんていう古くからある、様々なアーティストによって使い尽くされていたであろうはずのエフェクターをどう使えばこんな意外にも革新的な感じのする音が出せるんだろう、とも思える。なんだかんだで彼もまた異才の持ち主ということなのでしょう。それにしてもCaptured Tracks勢はやたらCE-2好き。上述のWild Nothingsも、Beach FossilsもCE-2使い。

 

 

32. Girls / The 1975(2013年)…①⑧

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 2013年、少年少女をギターカッティングに向かわせたもののひとつにDaft Punkの『Get Lucky』があり、もうひとつにこのバンドのこの曲とかがある。2010年代の少年少女はギターカッティングで踊る、という傾向に一番影響を与えたのは彼らの、特にこの曲なんだろうか。パワフルでフレッシュな彼らの1stは、しかし案外空間系エフェクトの効いた音が多く、他のカッティングメインの楽曲はファンタジックながら少し遠くで鳴ってるような感じがある。けど、アルバムも終盤に来てこの、輪郭がハッキリ前に出たクリーントーンにちょっと一味効かせるコーラスが乗った、清涼感そのものって感じのカッティングギターの存在感はどうだろう。アルバム構成としてこのタイミングでハッと目が覚めるような曲を置くのは中々の構成。

 Princeのギターロック的解釈としてもこの曲は実に溌剌とした成果物で、元々そんなにR&B的なとろみを効かせない曲も多いPrinceの一側面をもっとロック的・エモ的フィルターにかけるとこの曲になるのかもしれないと思った。そして、そのようなリスペクトであるならば当然と言わんばかりに、薄らと効いたコーラスが作る絶妙なプラスティックコーティングな感覚。あと何気に、複数弦カッティングに混じる低音単音でのプリッとしたフレーズの少しBoz Scaggs『Lowdown』っぽさがが非常に大事な隠し味になってる気がする。そうやってちょっと小洒落た快活さを出しながら、楽曲自体としては同じカッティングの繰り返しのようでありながら、言葉数の多いセクションから僅かな切なげなブレイクを挟んで現れる、ミニマルさを突き抜けてくる強いフックを有したサビの威力で持っていく。実に強力で鮮烈な楽曲。正直アルバムからちょっと浮いてないかと思うくらい

 この曲のくっきりして爽やかなカッティングに憧れる向きはおそらく世界中に相当あって、その代表例のひとつにすぐ次で別の曲で触れるミツメの『あこがれ』が挙げられるだろう。この人らがここまでモロパク…オマージュなことするのも珍しい*12。もちろんこちらもコーラスの効いたカッティング。

 

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33. ささやき / ミツメ(2014年)…⑦

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 というわけで日本のインディーロックバンド代表のひとつみたいな感じが、現在も活動を続けてることもあって出てきてるミツメ。去年リリースした楽曲でもコーラスを効かせた曲があったりしてるけども、2ndの頃はUSインディーの影響を大いに受けてか、シンセを多用するところがあり、ギターの存在感が薄まってた。そこから一気にギター回帰した3rdの、そのタイトルトラックであるこの曲においては、実にマッシブでかつ奇妙な響き方をした太い歪んだギターを見せるが、この奇妙に高速に歪みがちぎれ続ける効果は多分コーラス。歪んだ音でのコーラスの聞き取りは難しく、これも断言はできないけど、多分。フェイザーかもよ。サビ裏の比較的クリーン目な高音の感じを聴くにコーラスだと思うけどなあ…。

 普通なポップソングがあまりないアルバム中では比較的シンプルに歌ものしてるこの曲だけど、サウンドは大概変なことにはなっていて、ギター回帰作品のアルバムの中でもとりわけ、ギターの重厚な音を建築的に用いたテイストが感じられる。非現実的なくらいデッドで鈍い音に録られたドラム共々、このストレンジな音響の作り方は実験的。低い押しつぶすような音がやがて空に抜けるような高音に移り変わる様は、ギターの構成自体が曲構成となっているような面白みがあって、そしてそこにまとわりつくファニーさと不気味さを滲ませた違和感はコーラスのいい仕事のひとつ、だと思う。

 

 

34. Ivy / Frank Ocean(2016年)…?

Frank Ocean - Ivy - YouTube

 

 今回のリストで一番「これ多分コーラスじゃねえな…」と分かってるけど、まあビブラートも元はと言えばJC-120にコーラスとともに付いてた機能だし、コーラスの音の作り方的に原音を切ればビブラートになるしまあいいや、と。いや原音をキルドライできるコーラスペダルなんてあるのか…?

 楽曲の方は今更何をいうでもなく、R&Bをやってきたはずの人間が突如放つ、幻惑的にユルユルと揺れ続けるアルペジオと歌だけで構成された、ドリームポップと呼べばいいのか何なのか未だによく分からないけど、過去への感傷についてはしっかりと伝わってくる名曲。これが“アンビエントR&B”なる語に相応しい音なのかはよく分からんけども、そもそもR&Bなのかすらよく分からんけども、でもこのドラムレスの決定的な名曲があったからこそ“アンビエントR&B”なる思い切った名称が生まれた節もある。なんだよリズムのないリズムアンドブルーズって。

 淡々と連なるパワーコードのブリッジミュートに対して、まるで酔っ払ったかのように、感傷による心の乱れと重ねられたかのように音程が怪しく揺れまくるギターのアルペジオは、ドラムもベースもないこの曲ではあまりに雄弁で、歌以上に全てを語り得ている気さえする。アンビエントというともっとこう客観的で無感情なものに思えるけども、この曲は静かながらも乱れ切った感情は、最後のシャウトを待たずとも、コーラス(ビブラート)で揺れまくるギターから如実に感じ取れるだろう。そんなものが“アンビエントR&Bなどと呼ばれるこの矛盾した感覚、でもこれこそが“音楽”だって気もしてくる。まあ多分コーラスじゃねえんだけども。

 

 

35. ケルベロス / 相対性理論(2016年)…③

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 コーラスとディレイの効いたクリーン寄りのギターサウンドはこのバンドでもよく使われ、そういったエフェクトの効いた単音フレーズにはシグネイチャー的なものも覚えるけども、その標準的な使用具合はこの曲あたりでよく確認できる。すなわち、コーラスによって無機的な響きになったトーンをディレイと細く細かい反復で空白的な空間を作り、ボーカルの佇まいの儚げさをより強調する、とでもいうべきか

 この曲のギターについては、楽曲共々、このバンドの中で突出した存在感があるかは微妙*13ながら、しかし実に典型的にかつ地味に高水準にこのバンド的なものであるのはある程度間違いない。土臭さゼロの全面プラスティックコーティングなバンド音を目指していた節のあるこのバンドにおいては、本日現在での最新作『天声ジングル』の音はその最終形ということにもなるだろうし、その方向性の中では、ギターの音をナチュラルな身体感覚から切り離す作用としてのコーラスの役割もまた相応に重要なものであることが、この曲の細かく旋回するギターフレーズの、その無邪気さとはかけ離れたケミカルな質感から感じられる。

 …2016年のアルバムが今の所オリジナル曲として最終作なのか。時代の流れ…。

 

 

36. Apocalypse / Cigarettes After Sex(2017年)…①④

Apocalypse - Cigarettes After Sex - YouTube

 

 割と最近新曲をリリースして、相変わらずのサウンドの紋切り的な安定感に少し笑ってしまった*14けれど、このテキサスはエルパソ出身のバンドが鉄板で放ってくるドリーミーさのみに全振りしたようなギターサウンドにも時折、その濃いリヴァーブに掛かっているであろうモジュレーションはもとより、原音にもコーラスが効いていると思われる局面が多々ある。この初期の代表曲のギタートーンごと溶け落ちてしまいそうな響きなど、コーラスの重要な効用のひとつをある種の方向で突き詰めたもののひとつだと言える

 そのトーンの神々しさにはCocteau Twinsを起源とする類の要素が感じられるけども、そのような性質をバンド名が語り切ってしまっているような感傷に全て注ぎ込んでしまう。そんな、自身の音楽性の制約も覚悟した上での開き直りの美学の末のサウンドが、おとなしくも切なげなメロディ展開やミドルエイトも含ませた曲展開などとマッチしたからこそこの曲は代表曲なんだろう。正直演奏してて飽きないのかな…とさえ思うその作風の制約があるからこそ、その中でもとりわけギター含む全ての要素の蕩け方が一際美しいこの曲が、彼らの楽曲の中からほんの少し浮かび上がってくる。

 

 

37. N Side / Steve Lacy(2019年)…⑦⑧

Steve Lacy - N Side (Official Audio) - YouTube

 

 2022年の2ndでは様々なプレイヤーを交えての作品を作り大ヒットさせた彼だけども、その多くをiPhoneで録音したとされる実にミニマルな、かつ“これでもR&Bは成立できるんだ”という不敵さに満ちた密室的な宅録作品である1stからの2ndへの遷移は、才能ある人物のキャリアとしてごく真っ当で健全なものだとは思うけども、一抹の寂しさも抱えないでもない。いや、彼の能力が宅録の中で埋没し続けるのも良くないだろうけども。まあすげえ規模のデカい宅録みたいなのを続けて死んだPrinceみたいなやべえ先人もいることだけども。

 その1stのリード曲となったこの曲の、リズムと声以外のウワモノ楽器がほぼ、薄らとコーラスの効いた相当にクリーンなギターのコードカッティングのミニマルな反復のみという思い切ったサウンド構成と、それでも声の巧みな重ね方やベースの抜き差しもあって見事に趣深い奥行きを作り出していることの、コペルニクス的転回な凄み。他の曲ではMac DeMarcoに影響を受けたと公言してることの実例も見られたりするくらいに古典的なジャンルの伝統に囚われない、「別にこんくらいスカスカなギターでもR&Bは全然成立するでしょ。っていうかそもそもR&Bを成立させるかどうかも別にどうでもいいっしょ?」って感じのその自由な作風の中で、そのとどめのようにこの曲はアルバム終盤に置かれ、しかし、そのスカスカさでアルバム中最もしっかりとR&B的なフィーリングを形作る様には、Frank Oceanが『Blonde』で行ったことなどからの流れの、そのひとつの行き着いた先のようなものに思えてしまう。なんだ、R&Bもインディーロックなんじゃないかと誤解させるような。

 

 

38. Flower of Blood / Big Thief(2022年)…②

Big Thief - Flower of Blood (Official Audio) - YouTube

 

 どちらかと言わずともカントリーロック的な側面が強いバンドが、でもThe Cureとかも普通に大好き、ということは別に良くあることだろうし、そういう趣向を作品で滲ませることもあるだろう。現代式にオルタナティブロック的滋養もさまざまに湧き出した一大カントリーロック絵巻といった感じもするこのバンドの2枚組大作の、その1枚目終盤の数曲においては、急にそんなある時期のUKロック的神経質さがフューチャーされるけども、とりわけこの曲の、曲タイトルからしThe Cureじゃん!って感じと、サウンドも実に、コーラスの効いた妖艶なギターアルペジオっぷりに、やっぱAdrianne Lenkerも人並みにThe Cure大好きなんだな、と思わされた

 『Bloodflowers』というタイトルの重要なアルバムがThe Cureにあることをご存知だと思うけども、本当にどうして急にこういう曲をしようと思ったのか。イントロからして、コーラスにさらに別のモジュレーションを掛けて音を曖昧に揺らすその仕草は、実に“そういうモード”に入っている。楽曲が進行してもその、メロディの展開にスッキリした解消が見られずずっと鬱屈した情念に囚われ続ける感覚はやはり、かのバンドへのリスペクトを思わせる*15。『Changes』とかのカントリーそのものな楽曲とこの曲が同じ作品に入っているのも不思議だけど、でも2枚組なんだからいいんだ。アルバム内で単体で浮かないように同じ系統の曲で固めてあるし。

 なお、ライブではむしろRadiohead的な轟音ギターが暴れ回るナンバーに変貌することを、大阪公演でナマで確認した。いやあすげかったなあ。。

 

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39. Levee / Wilco(2023年)…⑤

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 こちらはつい最近ライブを観たので*16。。普通、乾いて土っぽい、ナチュラルなギターの質感が重要なカントリーロックにおいて、コーラスエフェクトは真逆な性質なのであまり使われないものと思われるけども、Wilcoにおいては別にカントリーロックだけに拘ってるバンドでもないから、使うときは使うんだと思う。この曲においては、割とカントリースタイルな楽曲ながら、実にJeff Tweedy的な渋みが効きまくったダルさに満ちたメロディ構成に加え、ギターのリードも終始鳴り続けるコードバッキングもコーラスに冒されてるために、総じて実に気怠く元気のないぼんやりしてナイーヴな、そしてそれこそが魅力という変なカントリーロックに仕上がっている

 収録アルバム自体が外部プロデューサーの方向性もあってか全体的にドリームポップ志向が窺えるけども、この曲はその傾向の音色ながら、妙に地に足のついた、土っぽいリズム感と曲の性質も持ち合わせ、だけどメロディ自体のどことないやるせなさに、わざわざ選択されたコーラスの音色がなおさら素直なナチュラルさをやんわりと拒絶するようなシュールさで響くために、なんかダラダラとほんのりむなしい気持ちが続いていくような、そんな感覚の田舎道を思わせる情緒*17が立ち登る。全くパッとしたものではないけども、そういうしんどさも人生よな、ということは割とよく感じられるところ。

 

 

40. ブッカツ帰りのハイスクールボーイ / ZAZEN BOYZ(2024年)…③

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 やはりこういう特集的なものを書くときには、この同じ年の現在においてはこういう曲がある、というのは紹介したいところ。すでに2ヶ月と半が経過した2024年においても様々な楽曲でコーラスが使用されてると思われるけども、とりわけ印象に残ったのはこの、暫定2024年年間ベストなら1位かなあと思えるZAZEN BOYSのカムバック的新譜の中でもとりわけフザケた風な哀愁と、その中に割とマジな哀愁も含んでそうな、いい具合に捉え所のないこの曲。妙に上品にポップに纏めつつも時折エモいファズなんかも珍しく踏んでみせるこの曲において、向井秀徳はやっぱりコーラスの効いたギターを、なかなかに清涼感を思わせる感じで歯切れ良く弾いている

 このコーラスの効いたギターのウェットな清涼感こそ、実はこの曲の情緒を支配する要素ではないか、と思ってる。NUMBER GIRLの頃から今に至るまでやっぱり、リード側ではない向井秀徳リズムギターは実はとても重要なものだとつくづく思う*18。このシャリシャリした質感のギターの上品さと、逆にえらく野暮ったくバタバタとし続けるドラム、そして「気楽な、でも年相応にちょっと虚しさやら哀しさやらも抱えたおっちゃん」みたいな調子のポップさをもった向井の歌のミスマッチじみたマッチ具合が、この曲のわざとらしくも味わいのあるノスタルジックな感覚を喚び出している。ちょっと古い洋食屋の窓から見た光景のような。そして、このシャラシャラとしたコーラスの響きは、このバンドらしからぬエモ目なファズパートがあるからこそ、そこから戻ってきた時の変わらずシャリシャリな雰囲気がまた、味わい深くもなってくる。ああ、諸行無常は繰り返しなんやなって、ちょっと不真面目にも思ったりもして。

 

 

プレイリスト

 前編から後編までの通算40曲。約3時間に渡ってしまったプレイリストです。 

 

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おまけ:コーラスを沢山聴けるアルバム(16枚)

 今回この企画を2回の記事に分けないといけなくなったことへのお詫びというか、折角なので、コーラスの効いたギターの音が沢山聴けるアルバムを16枚選ぶこともやってみました。コーラスエフェクターを使うとこういう音になるんだ、そういう曲ばっかり入ったアルバムってのはこういう雰囲気になるんだ、という誰かのやってるかもしれない研究とかの一助になれば。おまけなので、各アルバムの解説はかなりテキトーです。

 まあ、かけっぱなしが当たり前な1980年代の作品は当然多くなりますが。

 

 

 

1. 『Reggatta De Blanc』The Police(1979年)

 スリーピースのスタイルでバンドサウンドを成立させるのに「スカスカでいいじゃない」という開き直りとしかし埋めるべきところはしっかりエフェクティブにギターを活用して埋めるAndy summersの職人芸が存分に満喫できて、かつコーラスギターづくし!

 

2. Seventeen Seconds』The Cure(1980年)

 楽曲単位ではロマンチックなコーラスの用い方は1980年代中期以降のポップになってからだけども、初期の頃からコーラスはずっと多用していて、冷たく怪しいコーラスの効いたギターを中心とした神経質さはこの時期ならでは。初期で特に聴きやすいダークさを有するのはこのアルバムだと思う。シャープで聴きやすい!

 

3. 『Juju』Siouxsie and the Banshees(1981年)

 コーラス多用ギタリストのJohn McGeoch在籍時のこのバンドで聴きやすいのは次の『A Kiss in the Dreamhouse』で間違いないと思うけど、一番攻撃的な実験性が極まってるのはこのアルバムでしょう。ひたすらおどろおどろしい。そして様々な形で現れるコーラスエフェクトのエグく怪しい響き。コーラスを毒々しく使いたい場合には抑えておくとネタが増えるかと。

 

4. 『Treasure』Cocteau Twins1984年)

 何回このアルバムについて書いてるか知らないけどやっぱいい。異様なんだけど神々しい、でも『Victrialand』ほど彼岸の向こうに行っちゃってない、絶妙に手作りでどこか機械的な感覚も残り、その冷たさにコーラスの無機質さと神聖さを併せ持った雰囲気は実に馴染む、というかこの作品の雰囲気を大きく左右してるのはコーラスの効いたギターの音響であることは間違いない。

 

5. 『Meat is Murder』The Smiths(1985年)

 冒頭『Headmaster Ritual』からコーラスの効いた変速チューニングギターのアタックでかましてくれる。アルバム中のポップさと毒々しさのバランスもバンド寄りな地点で上手いこと折り合い、アコギの使用も増えてるけど、なんならアコギの音にもコーラス掛かってないか?と思わせるような妙な音響がある。1980年代的な、ナチュラルに地に足が着いた感じがまるでしないフワッとしたアレ。コーラスはそこによく染みる。

 

6. 『BEAT EMOTION』BOØWY(1986年)

 割とマジでロックンロールを徹底的にポップにかつニューウェーブサウンドで強烈にショウアップしてみせた、そういう切り口の名作としてこのアルバムを見ないといけないなって気持ちが最近なぜかしてる。後にプロフェッショナルっぽいいかついギターを弾く人になるとは思えないくらい、布袋のギターは硬軟使い分け自在で、かつ徹底的にコーラスが効きまくってる。なんか可愛げさえ感じるのもコーラスのお陰なのか。それにしてもゲートエコースネアの音がでけえ。

 

7. 『S. T.』The Stone Roses(1989年)

 本当ここまで徹頭徹尾コーラスまみれなギターだったんだなあと今回聴き返して深く思った次第。ボーカルのエコー加減とかも含め、確かに楽曲のノリは1990年代以降的かもしれないけど、でもやっぱり1980年代のアルバムなんだなって思った。この、現実と切り離されたどこかの場所で永遠にキラキラと輝き続けてるかのような質感が、このアルバムを1980年代と1990年代の狭間で特別なものにし続けてるのかもしれない。

 

8. 『Nowhere』Ride(1990年)

 コーラスだけじゃなくありとあらゆるモジュレーションが使われているのでは、という一大モジュレーション図鑑としても、このシューゲイザークラシックは活用できるのかも。いやモジュレーションにモジュレーションを重ねて訳が分からない?でもその訳の分からないままに一気に吹き上がるのがこのアルバム的な勢いか。リリース当初は『Vapour Trail』で終わりだったなんていうのはもう調べないと分からないことだろうし自分もどっかでそうだと知った。このアルバムも1980年代と1990年代の狭間感あるなあ。

 

9. NevermindNirvana(1991年)

 グランジ的なエグくグロい感じをウェットに出したい人はこれと次作『In Utero』のギターに効いてるコーラスのエグみをしっかり感じ取って、不穏なコーラスギターの爪弾きからカビ臭い匂いが漂ってくるみたいなところまで頑張りましょう。なんかそういうのって頑張って目指して練習して出すというよりも、もっとこう、堕落した生活の延長、みたいなところで自然に出せるようになりたいものだけど、でもそんなん推奨できないしダメになった時の補償なんてできないもんね。まずはSmall Clone買えやっていうとこからか。Small Stoneじゃないので注意。

 

10. 『coup d'État』syrup16g(2002年)

 コーラスギターのニューウェーブ由来なダークな響きとグランジ由来なカビ臭さを受け継ぎ、でもこの時点だと楽曲の性質からか作者が一番好きだろうThe Policeの感じはあんまりしない、といった感じのアルバム。日本の音楽好きにおいてコーラス=病み、みたいなイメージがもしあるとしたら、その戦犯最右翼はこの作品じゃないかな。いやでも、そういうものによって救われてた人たちも沢山いたんだから。病んだコーラスの音響でこそ安らぐ魂も結構あるんだろう。

 

11. 『Flora』ART-SCHOOL (2007年)

 つくづく「明るく開かれた作品を目指した」とは思えないくらいに“病み”な感触のコーラス塗れな作品で笑ってしまう。なんで作者が普段と違う無邪気で明るい楽曲でもコーラス塗れなんだよっていう。このバンドは初期の刺さるようなコーラストーンも特徴的だけど、このアルバムのコーラスとディレイで編みに編み込んだギターサウンドの妙はやっぱりちょっと格別のものがある。彼らなりのニューウェーブへのオマージュが本当のコンセプトだったんかな。

 

12. 『2』Mac DeMarco(2012年)

 当時、いや今もジャケット初見の人達みんなにアルバムタイトルも伴って「なめとんのかこいつは」と思わせれるだろうこの感じ。そんな感じのユルさが割と連なっていく作品だけど、そのユルさを適切にCE-2を効かせたクリーンで重厚さの欠片もないギターで演出し続けてみせる手腕。細野フレイバーのある『Dreaming』とか実にいいユルさ。暗いでも明るいでもなく、ナチュラルにダレてヘラヘラしてユルい。だけど最後の曲の思いのほかしみじみとするファルセットには初見逆にびっくりするけども。

 

13. 『Nocturne』Wild Nothing(2012年)

 前述のとおりなぜかサブスク上にない、このユニットの代表作。ノスタルジーが強くまた宅録ならではのチープさがあった前作から、そのドリーミーな音色の種類は一緒ながらもよりアグレッシブに、様々な1980年代的な手管を用いてドリームポップを完遂せんとする強い意志が感じられる。後に作者自身がちょっと嫌うくらいにドリームポップの“王道”を作り上げたその音色には常にコーラスの非現実的な煌めきが寄り添う。マジで「自分のボードでまあ一番大事なやつ」とCE-2を指して言うだけある活躍っぷり。

 

14. 『Random Access Memories』Daft Punk(2013年)

 Daft punkのメンバー二人がどこまでもNile Rodgersのギターカッティングを聴き続けたかったとしか思えないくらいいちいち長い尺で延々とカッティングが反復し続ける楽曲ばかり入った、時代の転換点めいた作品。コーラスの潤滑油もあってかしなやかにしかし正確に反復し続けるギターカッティングは機械のようでもあり、しかしどこまでもシックなもてなしのようでもあり。Nile Rodgersを前面に引き立てたい根性の結晶と思うと、案外人間臭いのかもしれない。

 

15. 『S.T.』The 1975(2013年)

 このバンドもまた1980年代の再評価者としても重要なプレイヤーで、そして1980年代を再評価しようとするとコーラスはやっぱ付き物だよね、ということをアルバム1枚通して思わせてくれる作品になってると思える。2000年代以降のUK的な透明感あるサウンドプロダクションで再現するハイコンテクストな1980年代風音色、そしてエモのテイストを多分に含んだ音楽というか。基本リヴァーブが濃いので、やっぱいきなり音が前に出てくる『Girls』はちょっと浮いてるかもとかなんとか。

 

16.Sign O' the Time(Super Deluxe Edition)』Prince(2020年)

 最後にちょっと反則的なものを。本編はご存知1987年の2枚組大名作だけど、そちらはそこまでギターカッティングが主役のアルバムという感じではない。コーラス的にもギタープレイ的にも聴いて欲しいのはこのデラックスエディションで追加されたその大量の未発表トラックの方。その数実に63曲!アホか。

 アルバム本編では様々な異様なサウンドが展開されることもありそこまでギターに主役感はないけど、デラックスエディションでアンロックされた未発表曲群や、生前に当時の未発表曲集CD3枚分*19を纏めて出した『Crystal Ball』のこの時期の楽曲などを聴くと、なかなかにギター弾きまくってる曲が散見される。

 これだけ楽曲があるので、コーラスを使ってる曲もそれなりにあって、そういうのを見つけ出して聴いてね、という感じ。先ほどちょっと調べた感じだとPrince本人は明確に単体のコーラスペダルを使ってはいないようにも思えるが*20クリーントーンのカッティングに必ずしもコーラスが掛かってるようにも聞こえないが…いやいやスタジオ録音時にはCE-1とかそういうのをかけっぱなしにしてるかもしれない…!以下、明確にこれはコーラスかそれに類するエフェクトが効いてるな、と思えた楽曲を並べときます。全部本編アルバムリリース当時(1987年)未発表の楽曲です。

 

①Love and Sex

 Princeが歪んだ音で分かりやすくロックな感じのことをするときには常に、コーラスが掛かってるような、ナチュラルな歪みではない何かが効いてるような感じはする。一応後年にはLINE6のモジュレーションのマルチを使用しているが、もしくはフランジャーか。

 楽曲としてはⅠ→Ⅲという情熱的なコードで歌い倒す楽曲。それにしてもすげえタイトルだな。

 

②Train

 機関車の駆動を模したようなエフェクトのモヤモヤ感が異質な、楽曲としてはポップなソウルって感じの楽曲。後にMavis Staplesに提供される。確かに、Prince以外が歌っても愛される曲になるなって感じの愛嬌がある。

 この曲の機関車の車輪に付いたレールみたく反復し続けるメインリフはおそらくエレピか何かと思われるけども、これにどうもコーラスが掛かってるっぽい。クラビネットの明確なねちっこさとも異なる、不思議なフワフワ感がこの曲の雰囲気をよりいい意味でモヤっとした感じにする。

 

③Cosmic Day

 ①をさらにポップに寄せて作り込んだような超絶ポップソング。ギターのサウンドも大体同じ感じ。コーラスの効いた歪み、1980年代の歪みって感じ。ボーカルはPrinceの声とは思えないくらいピッチシフトで高くなっている。当時の『Camille』シリーズと比べても高い。こんないい曲を作って誰に提供するでもなく文字通り死ぬまで倉庫に取っておくのが彼の悲哀というかなんというか。

 

④Teacher, Teacher

 『1999』のボートラにも『Sign O's the Times』のボートラにも入ってる、つまり少なくとも2回はボツを食らっているめっちゃポップにふり切れた楽曲。なんで…。冒頭から鳴り響く可愛らしいチェンバロが印象的でギターの印象はほぼないけど、終盤、歌の方のコーラスのリフレインをかき分けてみるとこっそり鳴ってるように思えるギターの音がコーラスっぽく潤んでる気がする…だからなんだというんだ…。

 

以下『Crystal Ball』収録曲も含む、「これコーラス効いてるんかな、効いてないよな…」な楽曲。こういうのばっか。見切りで書き始めるもんじゃないな…。

 

①Dream Factory(from『Crystal Ball』)

 一度アルバムタイトルまでにもなったボツ曲。なんで…。3分と少しという長くない尺の中で展開は大胆に変化していくけども、頼りないまでのクリーントーンのギターがずっと軸になって鳴り続けるところが面白い。そしてこういうクリーントーンこそがギター生音なのかコーラスがうっすら効いてるのかまるで分からん。Steve Lacyの1stなんかも全般的なギターの音に同じような印象を受ける。やっぱ薄く掛かってんのかな…。

 

②Last Heart(from『Crystal Ball』)

 上に同じく、こちらは曲自体もっとしっかりとR&Bしながらも、演奏はクリーンなギターのファンクなカッティングがメインという「ギターをチャカチャカ鳴らしてるPrince」こそを最も求めてる人の最適解の中の最適解とさえ言えそうな素晴らしい曲。これもコーラス掛かってるかどうか微妙。やっぱ生音じゃねえかな…。

 

③It be Like That Sometimes

 3分ちょっとの尺にファルセット+うっすらと反復するシンセ+ギターのラフなカッティング+マシンなリズムという、これも実にPrince的に思える手頃に素晴らしいボツ曲。このあまりに抜き身なギターの音は、徹底的にスムーズに音を作り込むNile Rodgersとは対照的なものを感じる。コーラス掛かってるかはやっぱ微妙やな…。

 

 

あとがき

 以上、最後の方で猛烈に当てが外れながら脱線した感じになってしまいましたが、コーラスエフェクトについて見てきました。ときに煌めき、ときに怪しげに響く、ときに神聖に、ときに邪悪に感じられるこのエフェクトの魅力について僅かでも何かが書けていれば幸いです。

 長々と脱線したのはまあ、Princeのあの時期の楽曲群を聴き漁って、コーラスがどうこうとかどうでもいいなってくらいに感じ入りまくってたので、近々何か書ければいいなと思っています。それではまた。

*1:Fire Alpacaとマウスで1時間程度格闘して出来たのがこれ。結局なんだこれ…。

*2:2月中に1個くらい投稿したかったから…。

*3:そもそも未発表曲が山盛りで、前者はCD2枚分、後者はCD3枚分!も入っていて、これらの寄り抜きだけで超名盤がレコード3,4枚くらいは余裕で作れるクオリティ。頭おかしくなる…!

*4:そりゃこっちが元ネタだからね。

*5:コーラス以外にも、ワウだったりフェイザーだったり様々なものが混ぜ込んである気はする。静パートではトレモロの効いた響きが効果音的に反復していたりもして、この曲本当にモジュレーションまみれだ。。

*6:言うてNirvanaもコーラスかけっぱなしって感じじゃないし、別にコーラスが目立ってる曲そんなに多くないし。何曲かをもとに「Your Nirvana」とアピールしてみせるElectro Harmonix社の神経の剛毛っぷりほんと好き。というか同じことをBOSSの歪みエフェクターDS-2あたりも言っていいんじゃないかとか思ったけどでもあっちは他にも使用者が山ほどいるのか…。

*7:まあ同時期のCocteau Twins自体が音像がかなりポップになっていた時期でもあるし無理ないけども。

*8:この歪みのトーン、コーラスが効いてる感じのしないストレートな歪みのように思えるので、わざわざコーラス切ってるのかな。コーラスは掛けっぱなしの印象が強いので。

*9:『透明少女』のイントロの、勢いの後に向かいのギターが入ってから情緒感が付与されるところを思い出してほしい。

*10:しかし、五十嵐隆の使用エフェクターを調べて出てきた画像には、コーラスのエフェクターが存在していない…これは一体…?

*11:ライブでそんなトーンのまま木下理樹が無理やり歪ませて初期の曲を演奏するのを、その歪みを気持ち悪がって嫌ってたファンも結構いたなあ、という当時(2000年代終盤ごろ)の2chの書き込みを思い出す。

*12:しかもそんな曲をアルバムの先頭に入れるのもなんだかおかしい。いや間違いなくアルバム中で最もキャッチーな曲だろうけども。

*13:同じアルバム中なら『ウルトラソーダ』とかの方がより“代表曲”に数えられそうな存在感がありそう。だけどコーラスという面で見ればこの曲の方がはっきりしてる。

*14:相変わらずAメロ的な部分ではギター消えるんだな、とか。

*15:もっとも、Adrianne Lenkerのソングライティング自体が特に2019年の2作辺りからそういうスタイルではあるけども。

*16:大阪公演でこの曲はやってなかったけど、代わりに同じアルバムからの『Evicted』がコーラスの効いたコードバッキングで演奏されてた。

*17:まあWilcoはシカゴという大都会のバンドではあるけども。

*18:『永遠少女』なんて間違いなく主役は向井の歌とギターだもんな。

*19:それでさえも本当に“一部”でしかなかったと様々なデラックスエディションのボートラで判明する訳だけども。

*20:どっかで読んだ「Princeといえばコーラスの効いたギター」というのを信じたおれがアホやった…。『Purple Rain』に引っ張られてるだけなんじゃないか。