ブンゲイブ・ケイオンガクブ

本を読まない文芸部員と楽器を練習しない軽音楽部員のような感じのブログ。適当な創作・レビュー等々。

2004年(平成16年)のすげえいいアルバム【30枚】

 一個前の記事で2004年のアルバムを扱ったことだし、以前から書こうとして準備してたりもしたので、予定どおり、今回はこういう内容のものです。思いの外時間がかかってしまいました…。

 あまり個人的な思い出になりすぎないように(しかし大事なところはそういうのも入れつつ)、かつノスタルジーにもなりすぎないようにしながら、ただただ「たまたま今から20年前に当たる2004年のすげえいいアルバムを20枚ほど紹介します!」という記事になるよう祈ってこの記事を書き始めました。そうなってるといいんですが…。実際、当時今から上げるアルバムを聴いてたかというと全然聴いてねえし。。

 

 以前書いた、2002年や2003年の年間ベスト的なものはこちら。

 

ystmokzk.hatenablog.jp

ystmokzk.hatenablog.jp

ystmokzk.hatenablog.jp

ystmokzk.hatenablog.jp

 

 

はじめに:2004年について

 いや今回についてはそんなんいらんやろ。。2004年という年にさして特別な思い入れはないです。ちょっとネット検索して拾って作ったサムネ画像の解説だけしときます。

 

 

スマトラ島沖地震

 津波による壊滅的な被害により“tsunami”が世界中で一般語化した。この地震による被害の多くが津波によるもので、島の所属するインドネシアだけでなくインドやスリランカでも大きな被害が出ており、国際的な災害となっている。

 

胡錦濤ジョージ・W・ブッシュ

 胡錦濤が中国国家主席に就任したのは2003年だが、2004年には前職の江沢民から党中央軍事委員会主席の座も譲り渡され、国内の全権力を掌握した。また2004年にはアメリカ大統領選挙も行われ、イラク戦争の真っ只中、国が二分される激戦の結果、ジョージ・w・ブッシュが再選された。

 

アテネオリンピック

 21世紀最初の夏季オリンピックだとのこと。筆者はスポーツに思い入れはないので細かいところはよく分からない。この際の巨額投資がギリシャの財政を圧迫し後の2010年頃の経済危機の遠因となっているらしい。

 

ウクライナオレンジ革命

 2022年から現在まで続いているロシアによるウクライナ侵攻の歴史に連なる、親ロシア派と親EU派との激しい対立が最初に火を吹いた地点。民主派を自認し政権を奪回した親EU派もこの後内ゲバにより勢力が弱まり、2010年に親ロシア派のヤヌコーヴィチが復権、その後2014年のユーロマイダンにより親EU派が政権再奪還するも、ロシアのクリミア占領、ドンバス戦争が始まり、2022年の本格侵攻に連なっていく。

 

九州新幹線一部区間開業

 博多以南への新幹線延伸の工事の遅れだとか、その結果熊本で新幹線が終わってしまうのではないかといった危惧や、あと既存の路線の線形の悪さなどの原因からか、鹿児島県が熱心に先行開業を主張した結果、新八代鹿児島中央間で九州新幹線が先行開業した。その後博多〜新八代間が開業し全線開通となるのは7年後の2011年で、全線開通式典等は東日本大震災が発生したため軒並みキャンセルとなった。

 

新潟県中越地震

 阪神・淡路大震災以来となる非常に大規模な震災。地震自体もさることながら、豪雪地域ということもあり復興段階での様々な困難が発生した。

 ちなみに、震度7が震度を表すより大きな段階として導入されたのは1949年で、1948年の福井地震の被害が震度6では表せなかったためだという。その後震度7が適用される最初の地震阪神・淡路大震災で、2004年の新潟県中越地震は2事例目となる。その後震度7が観測された地震は順番に、東日本大震災熊本地震北海道胆振東部地震、そして2024年1月に発生した能登半島地震となる。

 

 

本編

 正直上記の部分で暗い話を書きすぎて、どんな気分でこの後を書けば…とはなりましたが、ともかく本編です。30枚。便宜的に順位をつけておきます。適当ですけど上位の方はやっぱ悩むな…。まあ1位は皆どうせ好きなアレになりますが。この年はもうアレでしょう。もはや歴史的名盤のひとつでしょう。

 それにしても、いつやってもやっぱ30枚分のジャケ貼ったりsongwhip貼ったりは時間掛かり大変…アルバムジャケ並べたコラ作るのに大変便利だったTopsters2もいつの間にか閉鎖してるし…。Songwhipもいつか閉鎖するのか…今回はタイトルにSongwhipのリンクを貼ってます。

 

 

30位〜21位

 

30. 『アンテナ』くるり(3月リリース)

 2004年の自分はロッキンオンジャパンの正しい読者だったから、くるりスーパーカーNUMBER GIRL(の解散後始まったZAZEN BOYS)のリリースが揃った2004年にいつからか「この3組のリリースが揃う年の何回目か」みたいな印象を抱くようになって、そしていつからかそんなことがどうでもよくなってた。冒頭の宣言虚しく早速昔語りか。前段の“いつからか”の頃まではこのアルバムも名盤だと思ってたなあ。今でもそんなに良くないこともないアルバムだとは思ってる。

 本作だけの加入で結局終わってしまったアメリカ人ドラマーChristopher McGuireのその豪快なプレイスタイルからは意外なくらいに繊細にシンバルの具合などが調整されたドラムを軸に展開される、案外内向きで日本的なサイケデリックさを志向した作品、というのが今の感想。その中でシングル『ロックンロール』の突き抜けたポップさはあまりに例外的すぎて、逆になんで…?となる。アルバム自体はむしろ、『花の水鉄砲』とか、彼がドラムじゃないけど『Race』とか、そういった「賑やかでない、路地を一本入った先の日本のオリエンタルなサイケさ」みたいなのを妙に狙っていく。実にマニアックな目の付け所だけど、確かにそういうところに“くるりらしさ”みたいなのは大いに感じられるから成功してるんだろう、マジで地味だけど。派手目のやつな『Morning Paper』ですら祭囃子的なのをイントロ等のリフで意識したって言われりゃそうかも、と思うくらいには。でも、こういう作風ならやっぱ『ハイウェイ』はともかく『飴色の部屋』は再録するなりしないなりして収録した方が合ってたと思う。

 それにしても本当に渋い作品だ。そのぼーっとする感覚は大名作『THE WORLD IS MINE』から陸続きのところもあるというか、視点を広いところから狭いところに向け直したというか。去年の『感覚は道標』は、そういうぼんやりしたサイケデリアがちょっと戻ってたのが好きだったなって思う。やっぱこのアルバム好きでは自分。

 

www.youtube.com

 

 

29. 『Antics』Interpol(9月リリース)

 2000年代はポストパンク・ニューウェーブというジャンルにとっては、1990年代という謎に禊だった期間を経て、なんか再評価とかが一気に始まる時期。それは言い換えれば、Ian Curtis的な声でも高らかにインディーロックを鳴らしても問題ない、むしろそれこそが素晴らしい、みたいな時代に変遷していくわけで、それの現代の第一人者はおそらくThe Nationalとかになるんだろうけど、流れを作ったのはInterpolのこの出世作になるのか。そのような流れを思うとこの順位はおかしい気もする。もっと上に置けなかったのか。Ianも自殺してなければJoy Divisionのまま『Ceremony』がリリースできてれば何か歴史が変わってたかもだけど、それについて書き始めるといよいよ内容が脱線して別の記事になってしまう。

 実に適切にオルタナ化し、またスケール感的にU2的なところさえ感じさせえるほどに“Joy Division的なもの”を発展させることに成功した偉大なインディーロック、とでも紹介しておこうか。The Beach Boys的なポップさを表現しようのないこういう声の性質的には、あまりに最適解すぎる「少しダークで、でもジェントルで程よくエッジの効いた凛々しいロック」の連続に、その正統派的なロックシンフォニーの丁寧な重ね方に、ずっと後の時代に聴いてるのに「このアルバムでこんだけやり切ってしまって、次の作品ですること残ってんのかよ…」という感想を抱いてしまう。同じ年に割と似た系統の声でもあるFranz Ferdinandがやってたような四つ打ちをやってる曲さえある。

 正直、ぐうの音も出ないくらいよくできたアルバムで、なのになぜ自分の中でこの位置なのか。やっぱニューウェーブリバイバルは自分の中でBloc Partyが本命だったな、などと、どこまでがノスタルジーでどこからが今日の視点から話せてるか全然分からないけども、ひとまず今日はこの順位。許してください。個人的には、ポストパンク・ニューウェーブというジャンルは、色々と充実させずに、少し貧相で不安定なくらいシンプルに纏めた方が格好良くなるジャンルにも思える。

 

www.youtube.com

 

 

28. 『ZAZEN BOYSⅡ』ZAZEN BOYS(9月リリース)

 今年早々にリリースされた久方ぶりの新譜がとても良かったZAZEN BOYSの当時の作品をこの辺に入れるのも、どこかご祝儀感覚があるかもしれない。リリース当時はよく聴いてたのに。それにしても、ファーストもこのセカンドもシングル『半透明少女関係』も全部2004年のうちにリリースと、何気にもの凄いリリースペースになってる。

 ファーストが素朴なグラフィティジャケに見合う抜き身の感じがするとしたら、このセカンドもまさにそんな感じで、ジャケットのギラギラ具合に見合うほどギラギラと尖ったギターサウンドがバッキバキに展開される曲が目立つ、椎名林檎のゲスト参加も含めて全体的にギラギラした印象の盤って気がする。『CRAZY DAYS CRAZY FEELING』なんかまさにそんな感じ。これはこれでバンドの芯のとこよりもポップに寄せてあるよなあ、とか思う。バンドの芯のところは『COLD BEAT』の変拍子バカテクポストパンクっぷりにある感じはする。中盤のいくつかの曲のNUMBER GIRLっぽさも当時はなんか嬉しかった。本作はナンバガ時代から連れ添ったアヒト・イナザワの参加した最終作でもある。この年の12月に脱退してる。展開が速い。

 ところで、『らんど』という実に人間臭い名作がリリースされてしまった2024年の視点からすると、似たような趣向を過去の作品に探してしまう。このアルバムだとジャキジャキながら安定してミニマルに刻まれるギターリフとヒップホップ的なリズム感が重視されファルセットで向井が歌う『You make me feel so bad』とか。そしてこのジャキジャキサウンドでもって送るかなりガッツリバラードするつもりで作ったであろう最終曲『MY CRAZY FEELING』とか。この時期はまだ“冷凍都市”の世界観に強く引きずられ続けてる時期だとも感じられて、長い長い冷却期間とかを経て、そういう呪縛からナチュラルに解かれた『らんど』ができたのかな、とか、本作に関係ないことに考えはどんどん発散していく。当時はこんなにいい年の取り方をするなんて思わなかったよ、っていうか今年1月にそれを聴くまでだって全然思ってなかったよ、という作品が『らんど』。

 

www.youtube.com

 

 

27. 『Summer Make Good』múm(4月リリース)

 どんなエレクトロニカでも、聴いてイメージが広がるのは当然だと思う。言葉がなくて、かつギターとかピアノとかいう具体的な楽器よりももっと不思議な音が渦巻くわけだから、よく分からないなりにイメージは広がる。あとは、自分のような熱心でないリスナーにとっては、その広がっていく音世界にストーリーを見つけて、聴き続けることに耐えられるくらい没入できるかどうかが、悲しいかな、時には価値になってしまう。その点で、本作は自分のようなぐうたらにとても優しい。そもそもアイスランドといういかにも寒い場所のアーティストが幻想的な音像を纏めて「夏はなんか良いことになる」なんてタイトルを付ける時点で思わせてくれる。

 本作は、限りなくポストロックに接近した苛烈さとゴス的な世界観、とくにそういう雰囲気を強烈に思わせる歌の数々で、筆者のような物語の想像力の貧弱なリスナーにも否応なしに何か残酷な世界観をイメージさせてくれる、そういう意味でとても優しいエレクトロニカだと思う。というか、これってエレクトロニカの作品なのか?ポストロックじゃないか?まあそんな境界に拘ることが無駄か。それにしても2000年代中盤くらいまでこういう「世界の果て・終わり」みたいな作品って一勢力あったよなあとか思い出す。こういう“ぼんやりとした果ての感じの感覚”って、どのくらい共感を得られるものなのか。

 思いの外リヴァーブとかが薄くなる瞬間がしょっちゅうある作品で、ひどくドライに届けられる子供っぽい声にドキっとする。恐怖映画のコラージュで作ったすげえ美しい作品、みたいな感覚も覚える。そして、“楽しい夏”みたいなイメージが全く湧かないことの清々しさ。このくらい切なさと恐れで冷え切った夏を過ごしてみたいもんだとは思うけど、そんな夏この世に存在しないんじゃないか。いや、アイスランドに行けばそれはあるのか…?と血迷うくらいの魅力を本作は大変に備えている。

 

www.youtube.com

 

 

26. 『SUPER ZOO!』カーネーション(11月リリース)

 3人組時代のカーネーションのアルバム3枚だと2003年の1枚目『LIVING/LOVING』が一番好きで、その次にこれで、その次が次作。次作『WILD FANTASY』はいまだにサブスクにないっぽい。

 この時期はひたすらにいい曲が書けまくったらしく、それを時にタイトに3人の演奏で表現し、時に曲が求めるままに3人以上の演奏を追加したりといった形で纏められた作品集。個人的にはその装飾によって薄まってるものも感じなくはなくて、その辺りとあとジャケットの正面突破すぎる感じが『LIVING/LOVING』の方が好きな理由かなあと自己分析してる。“スリーピースならではの良さ、タフさ”みたいなのが強調された前作と比べると、本作はもっと「いつものカーネーション」的充実の仕方をしている。まあじゃあスッカスカの演奏で『十字路』を聴きたいか、と言われると答えに詰まってしまいそう。

 しかし、本人たちもおそらくこの時期一の名曲と思ってるであろう『ANGEL』をマジに3人の演奏の範疇で完成稿としたことには、3人組時代でも1、2を争う清々しさを感じさせる。結構いきなり歌なのにも関わらず7分弱という尺、メロディ展開が多くサビさえ展開が壮大なこの曲、幾らでも「いつものカーネーション」的な手法で華やかに彩りようがあったはずで、それをしなかった意地について、その気高さについてはいくら賞賛してもし足りない。ひたすらに楽曲と歌の強靭さを思う。そして次曲、優秀なサイドライターのペンによる『魚藍坂横断』の鮮やかな「日常に潜むサイケ感」の切り取り方も素晴らしい。終盤が素晴らしいアルバム、って感じ。先頭曲のタイトル曲もいい感じだし、やっぱすげえいい作品な気もしてきた。

 

www.youtube.com

 

 

25. 『Misery is a Butterfly』Blonde Redhead(3月)

 

 元々そっちの要素は大いにあったけど、それにしても4ADに移籍した途端あまりにそれっぽいゴスさに全振りしすぎだろ…と思うくらいにゴスなマイナー調を丁寧に、アコギやストリングスさえ用いながら折り込んでいく、4AD的な退廃感を2000年代式に全開に再現し切った作品。本当にあまりにも高度に4AD的耽美さを的確に花開かせまくってて「なんで?」って素直に思う。ジャケットまでそれっぽく張り切ってるじゃないか…。4ADというレーベルについては弊ブログの以下の記事も適宜参照のこと。

 

ystmokzk.hatenablog.jp

ystmokzk.hatenablog.jp

 

 本作、見事にマイナー調の曲しかなく、それも多くが、クサい方のマイナー調ではなく、もっと不協和音的スケールを含んだ、腐り落ちるような耽美さをたたえている。このバンドかRadioheadか、くらいのこういうコード感の多用っぷりは大きな個性。そこをちょっと緩めてかつシューゲイザーとかドリームポップとかでコーティングしたのが皆大好き名盤『23』なんだろうけど、本作では緩めないどころか相当な密度で完遂している。まるで年代物の材木で出来たヨーロピアンな家具やら何やらの端に僅かに生じたカビの匂いさえ漂ってこんばかりの。ボーカルは曲により男女変わりつつも、実にゴスな雰囲気だけが、決して音が太くなりすぎない形で発出され続ける様は圧巻で、そしてタイトル曲の題「惨めさは蝶」というもので言い切ってしまえている類の美しさがまさにそのタイトル曲でひとつのピークに達する様は物凄い。もしかして『23』よりもこっちの方がテーマに対するトータルの作り込みが凄いのかも。というか『23』のテーマってなんだ??

 

www.youtube.com

 

 

24. 『birdybloodthirsty butchers(3月リリース)

 いまだにbloodthisty butcersの多くの作品がサブスク上にない。なんなら貴重な存在する側の本作もなぜかsongwhipの検索に引っかからない。一体何がどうなってるんだろうと疑問に思い続ける日々は続く、こうやって思い出した時に思い出したように続く。

 本作は田渕ひさ子加入後初の作品で、それまでのぶっといファズなどで通してきたところを2本のギターを軸としたガチャガチャしたアンサンブルに置き換える試みが繰り返され続ける作品集、とかなり穿った角度から言えそう。良くも悪くも、サウンドは間違いなく転換期にあって、それまでは1人ギターを前提とした多重録音だったのが、夫婦で2本のギターパートを常に想定してアンサンブルを作るわけだからそりゃ変わるに決まってる。バンドの魅力であった轟音の質そのものが変質を余儀なくされるわけだから、そりゃあ賛否両論出ても仕方がない。あと田渕ひさ子のコーラスも入るので尚更。

 本作はそんな事情もあってか、バンドとして仕切り直して再出発するドキュメント的な色彩も感じられる。わざわざご丁寧に『bandwagon』と題した曲もあるし、いつの間にかバンドのテーマ曲みたいになってた『JACK NICOLSON』もそういえばそういうとこのある曲だ。不思議に苦しくもがいてるようなところもあるが、それが上手いこと引き摺るような楽曲の展開に合致した『discordman』は、ピアノまで引っ張り出して形作られた、そんな時期だからこその名曲だろう。まあ、この下に貼る動画は『JACK NICOLSON』だけどもさ。

 

www.youtube.com

 

 

23. 『The End is Near』The New Year(5月リリース)

 このバンドに限らずスロウコア関連のバンド関係についてはすでに網羅的な大変素晴らしい記事があるので、特に付け足せることを書ける気がしないけども一応。1990年代に活動したスロウコアバンドBedhead解散後に一部メンバーが始めたバンドの2作目で、冒頭2曲の柔らかいカントリーフィールさえ漂う雰囲気から、3曲目以降結構緩急の付いたローファイポップ的なスロウコア楽曲に連なる様が不思議ながら、演奏も歌も程よいバランスに紡がれ続ける名作、とでも書いておけば外れてないか。

 要はダイナミズム、ということを思う。演奏の強弱とそれによる荒廃感とささくれの表現は、ローファイ気味なバンドサウンドでもしっかりと表現できるし、だからこその迫るものがある、ということをCodein以降のスロウコアバンドは証明し続けてきたんだろうけども、この作品においては冒頭2曲の平和な雰囲気さえもそのダイナミクスの範疇なのかもしれない。その上で、サッドコアという呼称が似合わないくらいに、このバンドは平然と、案外飄々と、静と動を豪快に行き来する。曲調が変わっても平然と同じ調子で歌い続けるボーカルにその辺のバランス取りの要がありそうで、その佇まいは特別にハッピーでもサッドでもない。それは広大な大地と小さな町の対比の光景を思わせる。一際劇的なメロディを見せる7分に渡る『18』では、だからこそ示しうる雄大さ、そして感動をも十全に持つ。エモが匂い立つなあ。

 それにしても、音の大きくなるところでしっかりとドスの効いた楽器の鳴りを聴かせられる、Steve Albiniの手腕は流石。この、つい近日に世を去ってしまった名プロデューサーの、生で聴くよりも生っぽいかもしれない楽器のドスの効いた鳴りを好きな人はこの作品も必修だろうしとっくに履修してるんだろうなあ。アメリカは広いなあって鳴り方をする。

 

www.youtube.com

 

 

22. 『Let it Die』Feist(5月リリース)

 なんか幾つかジャケットがあるみたいでどれがなんなんだかよく分かってない。最近の最新作もジャケットでなんやこれ…となってあまり聴けてない。まあそういうのを気にし出すとこういう記事は書けないことばかりになってしまいがちなのであまり深く気にしないが。それにしても、カナダ発のフランス系女性SSWで、でも名前の読み方はなんかドイツ語っぽいのはそもそもからしてよく分からん。

 リードトラックの『Mushaboom』が可愛らしくもポップでドリーミーな展開を見せる曲だけども、アルバム自体はかなり音数を絞って大人っぽいスモーキーな雰囲気を漂わせた楽曲の多い、アレンジも生楽器から打ち込みまで様々に使いつつ雰囲気に統合させる、まさにかつてのJoni MitchelなんかのSSWを無理なく現代化させた印象の作品。割と本当に様々な楽器やアレンジが変わりがわり出てくるので、そんな割と節操ないその上で統一性があるのはソングライティングによるものだろう。『Mushaboom』はむしろ相当浮いてるというか。しかし、渋いばっかなのも嫌なのか、所々楽曲の渋みの割にとぼけたアレンジも入れてみたり、Ron Sexsmith『Secret Heart』のカバーは可愛らしいくも凛々しい音で形作ったり、フランス語で歌うとぼけたシャンソンみたいな曲を入れたりと、所々にシュガーを注ぐのを忘れない。ソツがない。次作『The Reminder』の方がはしゃぎ度が上かなあどうかなあ。少なくとも、彼女の作品において、彼女がBroken Social Sceneのメンバーということはあまり意識されにくい感じがする。

 

www.youtube.com

 

 

21. 『STRAWBERRY』曽我部恵一(10月リリース)

 よく見ると汗で一部湿って変色してるシャツがなんとも言えないジャケットをしつつも、前作の時点でメジャーレーベルの中で息苦しい感じを既に出してた作者が吹っ切れてインディーでギターロックを始めるという、血迷ったようにも見える作品だけども、間違いなくソロ以降の彼の活動でターニングポイントはここだった。ここでパンクとDIYに回帰できたからこそ、巡り巡ってサニーデイの復活や『Dance To You』以降の快進撃もあるんだろうと思う。ところでいつ弊ブログの『Dance To You』のレビューは書き終わるんだろう。

 改めて。自分からインディー“落ち”した上で、下北沢のギターロックバンドを捕まえてバックバンドをさせて、その上でロマンチックな曲やメロディをロマンチックなまま歌ったりシャウトしたりと自在に発散させまくった作品。ガレージロックやパンクと呼ぶには曲が綺麗すぎるけども、そんな曲を強引にガシャガシャしたギターロックと化してしまう。そのせめぎあいが本作の「ロマンチックなロックンロール」を呼び起こすことになってくる。初めっからロックンロール狙いだった曽我部恵一bandの1stとの違いはそこにある。あと、そんな作品のくせにしれっと『LOVE-SICK』なんていう実にずるいレゲエでシンガロングな曲を入れたりもする。自主レーベルで稼がないとだからね。案外ロックンロールに拘り尽くしてるわけでもないところがまた本作だと思う。

 とはいえ、『シモーヌ』で見せた爆発力は、確実に曽我部恵一の何かを広げることになったと思う。サニーデイでも演奏できそうな綺麗なメロディの曲を、力の限り、ほとんどシャウトに近いほどに叫んで歌う様には、ボーカリストとして覚醒していく彼の、叫んで歌ってもメロディを綺麗に歌える、という特質が花開いたことを証明する。この歌の先にライブでの『セツナ』があると思えば、その重要さは計り知れない。

 とはいえ、今後ずっとこういう作品でいくのか、と思わせといて*12年後にはサニーデイ時代にも劣らない丁寧で完璧な完成度の『Love City』をリリースするんだからこの人は信用できない。その信用できなさが時にすごく爆発するのがこの人の良さ。そもそも本作に『LOVE-SICK』入れちゃう人やぞ。色んな意味でブレーキをぶっ壊し始めた、その偉大な一歩。

 

www.youtube.com

 

 

20位〜11位

 

20.『Musicology』Prince(2004年)

 なんでこんなMichael Jacksonみたいなジャケなんだろうとか文字のフォントがダサいとか色々思うところはあれど、1999年に売れ線を狙ったアルバムが滑り、その後色々あってエホバの証明に帰依し、宗教めいた世界観のD'Angelo的作品というカオスな『The Rainbow Children』の後、自己満的なインスト作品を多数リリースした後に、ようやく「ポップでPrince的な歌もの」に回帰した作品が本作であることには変わりない。うーん、2000年代のPrinceもまとめてひとつの記事で書くつもりだけども、ちょっと先に触れても支障ないやろ。2000年代のPrinceだと2006年の『3121』が好き。あと2009年の実質2枚組『Lotusflow3r』がかなり面白いことに最近気づいた。

 で2004年の本作。何を思ったのかこれまでの自身の足跡を辿るような楽曲を幾つか含めつつ、必殺のバラード曲も入れつつ、しかしこれマジでギターロックだなあ…みたいな曲も含めつつ、全体としてソフトな感覚で通した作品。音も状況もガチャガチャしてた1990年代からすると、急にスルッとした感じ。そのガチャガチャ具合については割と最近書いた以下の記事も適宜参照してください。しかし長えなこの文章…。

 

ystmokzk.hatenablog.jp

 

 自分の本来ジャンルであるところのファンクをJBマナーで生音で、しかし自分色に丁寧に作り上げた冒頭のタイトル曲からしてサービス精神が見える。なんか悪いものでも食ったのかと、振り回れ続けた1990年代以来のファンは思ったかもしれない。むしろ2曲目の、Prince解釈のヒップホップな感覚の方が1990年代と陸続きかもしれない。しかしそれもえらくスマートにやってみせるけども。かと思えばお涙マイナー調が露骨な最早ギターロック『Million Days』でR&Bはどっかに飛んでいくし、かと思えば伝家の宝刀的なファルセットバラッド『Call My Name』は蕩けるような出来だし、彼が丁寧に何でもかんでもやると、楽曲ごとにジャンルがあっちこっち行く様は流石。リードトラックだった『Cinnamon Girl』に至っては当時のイラク戦争アメリカを非難するギターロックという、タイトル含めてお前それNeil Youngやろがい!ということまで出てくる始末。そんな中でも、のんびりと穏やかにポップな音作りの中に、日常のふとした瞬間に死に別れた人のことを想う歌詞が乗る『Reflection』でアルバムを閉じる、そんな人柄にこそ彼の魅力が…という内容のことを2000年代Prince特集の中で書くつもりだったので続きはそのうち。先に1980年代を書かないとだけども、それ自体可能なのか…?とさえ思えるほど途方もない…。

 

www.youtube.com

 

 

19. 『風』エレファントカシマシ(9月リリース)

 この年エレファントカシマシもまた2作アルバムを出していて、というか『俺たちの明日』で再度お茶の間に戻ってくるより前の、東芝EMI時代の彼らはセールス的にはかなりドン底で、なのに売れ線に目もくれずそれこそ2003年の怪作『俺の道』的な路線で生き急いでいた。人生のままならなさを割とよく歌ったアルバム『扉』は、レコーディングの方もそんな感じだったことがドキュメンタリー*2で明かされる。その苦汁を引きずりつつも、こっちの『風』は冒頭3曲のちょっとリッチなプロダクションや、人生見つめ直しのひとつの終幕じみた最終曲『風』の存在、そして何よりも大名曲『友達がいるのさ』のおかげで少しだけ風通しがいい。苦味や深みは『扉』の方が上だとは思うけども。

 冒頭から9分超えの『平成理想主義』で散々叫き倒す様はなかなかに途方もないが、しかし混沌としたサウンドの中で力強く突き抜ける歌は強く聴かせるものを十分に持つ。初期エレカシをもう少しキャッチーにしたような『達者であれ』からの、それでも地味な本作には似つかわしくないほどマスにも届きうるポップさとそして宮本しか持ち得ない類のエモを轟音サウンドと共に轟かせる『友達がいるのさ』は、本当にこれが売れなかったのが勿体なかったと思えるほどの名曲。紅白とかでこれを熱唱するエレカシが観たかったし今からでも観たい。一体いつの間に、こんなオルタナティブな音の上で壮大に歌を広げるセンスを抱いていたのか。こんなのこれ一曲っきりな感すらあるのがこの曲の価値を無限に高めていく。

 『友達がいるのさ』の後は、露骨にプロダクションが『扉』と同じしみったれた感触のものに後退する。スカスカのバンドサウンドの中、でもその雰囲気も結構嫌いじゃない。曲の出来不出来を貫通する、この時期のバンドの切羽詰まった、カビ臭くさえある雰囲気が、独特のエモさを持ち得ている。特に本屋通いを辞めたことを間奏でグチグチ言い出す『定め』のしみったれ具合は最高。歌詞が思い浮かばないのか強引にメロディを伸ばす具合も含めて最高。そしてしみったれの境地の『風』。後半の中途半端さも、これで閉めることで、ある意味完璧かもしれない。

 

www.youtube.com

「金、なかったんやろなあ…」感がすごいPV。

 

 

18. 『The Futureheads』The Futureheads(7月リリース)

 どう考えてもめっちゃ完成度高い、でもなんか十分にしっくりこなかったInterpolに比して「そうそう、これくらい完成度とかとりあえず置いといてソリッドでシンプルに勢いでやってくれた方が好きかも」なののいい例としてこれが出せることに順番に書いてて気づいた。ただこれも、この1stで大体やり切ってる感じもあるけども。

 改めて。Gang of Four的なギャリギャリしたギターサウンドと、直線的にギクシャクしつつもパワーポップ的に抜けていく曲構成・メロディ、そしてニューウェーブらしからぬ妙に巧みなコーラスワークによって、案外他のどこにもないニューウェーブパワーポップ的な境地を既に極め尽くした感のある彼らのデビュー作。シンプルで衝動的なように見えて、しかしこれほど「自分たちはこういうサウンドのキャラで、その範囲でこれだけの曲を作って並べる」みたいなのが徹底された作品も凄いかも。次々にポップな楽曲が畳み掛けてくるけども、一切自分たちの個性からブレない。滅茶苦茶プロフェッショナルな1stで、これを前にするとBloc Partyの1stが学生的なブレとその分の可能性を孕んだ作品のようにも聴こえてしまうかも。ん、これはむしろBloc Partyの1stを褒めてるのか?

 36分40秒で15曲、という、短いようで結構詰め込んである感じはハードコア的。しかし歌を聴くとハードコアよりもむしろニューウェーブ的なポップさを違法抽出してパワーポップ化したような勢いの数々に、楽しくも圧倒される。特に1曲目がキラキラしたギターをバックにThe Beach Boysばりの“コーラスによるアンサンブル”が構築されていて、それをすぐに衝動的なバンドサウンドがブチ抜いていく様は何とも言えない。なんて贅沢なコーラスワークの使い方だろう。このバンド、本当はコーラスワークだけで十分食っていける。そして、2曲目以降はどんどん勢いよく現れてはすぐに終わっていく楽曲に、さらに様々なコーラスが乱れ飛ぶことで溢れて溢れて留めようのない勢いみたいなのを感じられて凄い。まるでXTCがもっとポップな方向にぶっ壊れたみたいだ。勿論、Interpolのとこで書いたことの逆で、これだけ高度に楽しげなコーラスワークを連発されると、間違ってもJoy Divisionの雰囲気なんてのは望めないけども、そんなことまるで全く気にもしてないだろう勢い。ようやく勢いを止める7曲目では高度なドゥーワップコーラスまでし始めて、その後すぐまた疾走を再開して、何なんだこれ無敵か?ってなり続ける約37分弱。これとかを聴いてる間だけは暗いこととか悩ましいこととか一切考えないようにしたいなとか思う。それくらいは許されるといいな。

 

www.youtube.com

 

 

17. 『ソルファ』ASIAN KUNG-FU GENERATION(10月リリース)

 これとかノスタルジーだけで幾らでも語れるだろうし、何だかんだで自分もそういう世代だなあ、とか思ったけども、そういうのを封印して何かこの作品について話せることがあるだろうかと、少しだけ不安になりながら聴き返したけど、『振動覚』と『リライト』のイントロを順番に聴いた段階で、あ、やっぱこれは従来の海外のパワーポップ文脈とは違う、日本的なヒロイックなマイナーコード感を上手くパワーコード主体のロックに落とし込んだ、立派な発明なんだな、と思えた。本人がその後延々と翻弄され続けるくらいには“邦ロック”なる謎概念の種がここには立派に実ってる。それを青臭く感じるか懐かしく感じるかとかその辺は自意識の問題だろう。客観的に!客観的に!

 改めて。「そりゃこんなん売れるわ」と思うような、少し月並ながらも切なく、月並に“等身大”で、しかしそこから抜け出そうとする“月並な”努力の要素もきっちりと散りばめられた、だからこそ日本の当時や場合によっては今も若者の「みんなのうた」になりうる楽曲ばっかり詰まった、日本流パワーポップのマスターピースのひとつ。そりゃ本人たちもリメイクしたりするわ。この“渦中”の感じから次作『ファンクラブ』で抜け出して、それ以降はもう少し大きな視点な感じがするけど、でもこの“渦中”の感覚は本人たちもそのままリメイクでもしないと再現できない類のものかもしれない。まさか日本ギターロック界の『Life』なのか?段々変な持ち上げ方になってきてるな。それにしても“ソルファ”って何だよ。

 少しだけ思い出話をすれば、どれもポップなシングル群でも『君の街まで』が当時一番好きだった。すぐにサビな曲構成が当時はすげえ唐突に感じられて「えっそれでいいんだ」って思ったし、PVがアホっぽかったし。そんなこの曲の短くもパリッとした輝きは今聴いても変わらなかったし、同じようなスッキリさを『夜の向こう』とかに感じたもんだった。けど、『リライト』や『ループ&ループ』が案外尺がそんなに変わらないことには改めて見てて少しギョッとした。それは、Aメロの繰り返しを飛ばして最初のサビから間奏→Cメロ→最後のサビという、当時の彼らお得意の曲短縮術で、そのように曲展開をスリリングにどんどん回していくところにキャッチーさがあったのかも。繰り返さない勇気というか、結構大胆だと思う。

 そして、邦ロック的な高速四つ打ち。これについては『ループ&ループ』のサビをイメージしてたけど、むしろこれについては『Re:Re:』の方が徹底していて、何でこの曲がしばらく後にヒットしたのか、その謎解きを今更やってしまったみたいなバツの悪さをこれを書いてて覚えた。っていうか、邦ロックの芽の最たるもの、これじゃん…。

 この文章がどこまで揶揄っぽく見えてしまうかに不安を覚えている。そんなつもりはないつもりなんだけど、なんというか、このアルバムを素直に「どの曲もすっげー!」と書ける地点にはもういないんだなということだけは少なくとも分かった。ぼくにも失ったイノセンス的なのがめっちゃあるのかもしれない。結局ノスタルジーの話か。

 

www.youtube.com

 

 

16. 『You Sound, Reflect』Tara Jane O'Neil(8月リリース)

 この人のことは今は亡き大阪日本橋の貸レコード屋K2(もしくはこちらも貸レコード屋ではなくなってしまった東京神保町のジャニスだったかも)のスロウコアコーナーに置いてあるので知って、これは色々借りた中でとりわけ気に入った作品で、今回iTunesの2004年で検索したらこれもそうだったので入れた。今回改めて調べてみたらこの人、Slintと同郷ケンタッキー州ルイビルの伝説的ポストハードコア・スロウコアバンドRodanのメンバーだったということで、物事は繋がってんだなあ…と思った。Rodanについてはこちらの記事が詳しく、実際これを読みながら、そういう体系のことを知らずに今まで聴いてきたなあ…という程度の理解で、恐る恐る文章を打ってる次第。まあ、なるほどと思うところの方が大きいけども。

 文字通り「スロウコア上がりのSSW作品」ではあるけども、そもそもスロウコアの構成要素にNeil Young的な荒涼感のあるカントリーロックは含まれていて、なので“スロウコア上がりのSSW作品”を存分に作れればいい作品になるに決まってる。そんなところで彼女のソロ4作目のフルアルバムとなる本作は、スロウコア的な幾何学的アンサンブルよりもSSW的なフォーキーさ及び歌が前に出て、弾き語り的なものを核にしながらもスロウコア由来の荒涼感や峻厳さがアレンジ上の程良いスパイスとして効いた良質なSSW作品と言える。1曲目の実質インストを経て始まる『Howl』の時点で、バイオリンの物悲しげなフレーズとポロポロと紡がれるエレキギターの対比が殺風景なコード感の中で歌とともにそういう風景を織り成していく。基本的には他の曲でも類似のコード感及びSSW作品にしては厳つめなギターの仕掛けが用意され、かつそれらが極端に楽曲を乗っ取りすぎず雰囲気に貢献するに留まる様に本作の統率を感じさせる。中には3曲目のようにアコースティック編成で完結するものもあるけど、基本的にはゴツゴツとしたエレキギターの響きを特徴としたバンドセットが付いてき、また本作の前作で培ったエレクトロ要素も所々に挿入されるため、もの寂しさはよりファンタジックに加速する。しかし、風通しの良い局面もあり、そういう時はジャケットのような、無意味で無差別に辺りを明るく照らす陽光のようなほんのりとした温かみを感じれる。

 ところで、彼女はどうやら今年である2024年にも新作を出していたようで、9曲37分と小ぶりでありながら、少しつまみ聴きした感じ、やはりいい雰囲気のある作品のようで、今年の聴くべきものも沢山あるんだろうな、こんなもの書いてる場合じゃないくらいには、と思った。まあ今年のことは今年のどっかでどうにかするさ。

 

www.youtube.com

日本の、しかしすげえところでライブしてるな…。

 

 

15. 『Good News for People Who Love Bad News』Modest Mouse(4月リリース)

 これを書くために改めてジャケット見て、あっこれダーツだったんだ…と今更すぎるくらい今更気づく2024年5月。何もかも遅すぎるけど、4月リリースだから、これの20周年にも間に合ってないのか。そんなことこの文章を読む方からすればどうでもいいか。話を進めよう。

 USインディの雄のメジャーデビュー2作目にして、冒頭4曲(実質3曲?)で一気に、インディーロックというものの豊穣さそのもののような華やかなサウンドが広がり、その後は案外いつものゴツゴツしてブチ切れたModest Mouseをしてる、流石に終盤はまたちょっと綺麗な感じになる、そんなアルバム。いや別に通常モードの曲も通常モードなりの良さがあってそれはそれでいいと思うんだけど、PVもある『Float on』と『Ocean Breathes Salty』の2曲が詐欺レベルに超良質インディロックすぎんか…という嬉しくも悩ましい問題。それに『Float on』の前振りとして完璧な『The World at Large』まで付いてくる*3と、Modest Mouseを本作で初めて聴く人は”チェンバーポップ的インディロックとか、そういう音楽”なんだと勘違いもするよ。まあ『Ocean〜』より後もそういうファンタスティックなサウンドの曲を連発されるとそれはそれでバンドの音変わりすぎやろ…ともなるところだけども。

 それにしても『The World at Large』から『Float on』への繋ぎは完璧で、お花畑感を引き継ぎつつもファンタスティックなジャキジャキギターサウンドと、急にコミカルにブチ切れるボーカル、そこからサビ的箇所のピースフルなコーラスワークに発展し、そして終盤のもっさりした合唱へ収束する流れはインディロック版“Sgt.Pepper's”という語句が頭をよぎる。そこから間髪入れずこちらも言葉数ギチギチのくせに必殺の哀愁とロマンチックさが歌詞にもPVにも漂いまくる『Ocean Breathes Salty』に接続する流れは、Modest Mouse的かどうかはまるで関係ない次元で完璧だ。これインディの頃からずっと追ってた人、特に2ndののたうち回りまくる感じこそを好きな人なんかは逆に違和感あるんじゃないか…ってくらいに。以降の楽曲は3人体制時代からの名残も感じさせつつ、本作からキーボード等担当で加入したメンバーの演奏はギターの背後にひっそりとしたものに割と限定される。

 『Bukowski』のModest Mouse流如何わしげフォルクローレや、不思議サウンドを少し纏ったディスコチューン『The View』は割と冒頭モードを引き継いだ感じがあるか。それでも中盤はギターバンドとしての矜持を感じさせ、終盤にもなってやっと冒頭のポップさが少し戻ってきて、妙に静かなままファンタジックな音が広がっていくのが逆に不気味な『The Good Times are Killing Me』でアルバムは静かに閉じる。これも、こうも見事に閉じられるとやっぱり中盤もそういう音だったような気がしてくるので、この構成もなかなかズルい。総じて新メンバーの加入などで正当な方法でサウンドを強化させたことで充実した作品となっていて、全体の尺も意外と50分以内に収まっていて聴きやすくて良い。

 

www.youtube.com

それにしても『Float on』のPVはいつ見ても「無敵のインディーロック」感が凄い。こんな万能感なかなかない。

 

 

14. 『ANSWER』SUPERCAR(2月リリース)

 リリース当時はこのアルバムには「?」って思った印象しかなくて、あんまりライブとかもされないままリリースの1年後くらいにバンドが解散して、はあ、なんか暗い作品だったし、バンドが終わるってこんな袋小路な感じなんだろうな、とか印象を抱いた。解散時のインタビューとかで内情ぶっちゃけられてたもんな。「バンドサウンドに回帰した作品」として見ても、初期のギターロックとは似ても似つかない*4。あとこの時代特有のCCCDだったこともネガティブ要素だった。

 けども、2005年くらいからニューウェーブリバイバルが起こって、1980年代式のスカスカなダークネスが復権しインディーロックの一形態として定着してからは、このアルバムの価値はまるで様変わりしたかもしれない。2004年の段階で、XTC式の明るくジャキジャキな方ではなく、Joy DivisonとかPop Groupとかの方面のダークでスカスカなポストパンクの方法論を、当代式のエフェクトも電子音も少し交えつつ、程よい緩急と薄味のドラマチックさで彩った、先駆として優れた作品集だと。楽曲の形式すら解体した『HIGHVISION』の次作として納得できる部分と、いやあそこからこうはならんやろ、という部分のミスマッチさが、かえってこのオーパーツじみた作品のミステリアスさの要因のひとつになっている。サイケなジャケットも。

 「バンドサウンド回帰」が当の本人にとってそこまで大事でもないことは冒頭『FREE HAND』のトライバルなパーカッションの連打の時点で察される。低い声で囁くようにミニマルな展開の歌を紡ぐ本作での中村弘二のスタイルは彼の声に合っており、バンド解散後の活動でも常用されるスタイル。ポストパンクな雰囲気が基本なので基本的にダークで夜っぽい雰囲気があり、その追求はバンド随一のポップ要素であるフルカワミキのボーカル・コーラスが最終曲『TIME』しかないくらいに徹底していて、そんな中で『WONDER WORD』や『RECREATION』の程よく突き抜け過ぎないポップさはいい効き目を示す。終盤はポストパンク的なジャズから破滅的な予感を垂れ流していく長尺の『SIREN』から美しくも寂しいポストロックバラッドのシングル曲『LAST SCENE』*5の流れが素晴らしい。『LAST SCENE』はシングル単体よりもこの流れで聴く方がずっとグッとくる。

 この時期のよりポップなロックサウンド*6の曲は多くがシングルのカップリングに収められており、どっちかというとそっちの方が好きな気がしないでもないけど、そのような選別の果てに本作の「いくつも暗がりを抜けて最後に『LAST SCENE』に到達する」という流れのエモい美しさが生まれているので、これはこれでやはり素晴らしいんだと思う。

 

www.youtube.com

 

 

13. 『Desperate Youth, Blood Thirsty Babes』TV on the Radio(3月リリース)

 そもそも黒人中心のロックバンドってものについてビッグネームがロックの歴史通してもそんなに思いつかない中で、2000年代は大西洋を挟んでイギリスのBloc Partyアメリ東海岸TV on the Radioとが活躍した時代だった。よりニューウェーブ感を先鋭化させてギターロックの系統を拡張させたあちらに対して、こちらはもっとマニアックでごった煮で、その感じはよりポップさや明確さを獲得していく2ndや3rdよりも、この1stアルバムの方がより分かりやすいのかも。えらくレイヤー的な用法をしたギター、やたらと巧みでかつ頻繁にヘンテコになるコーラスワーク、そしてロック的なストレートさをえらく神経質に回避し続けるリズムに満ちている、黒人がどうとかなど関係ないくらいにストレンジさに満ちたこの作品が。

 いかにも昔ながらのジャズ的なトランペットからの妙に獰猛な音のベースが聴こえてくる冒頭の時点で「普通なものは作らない」という信念を感じさせる。常時コーラスの重なった声、シューゲイザーと呼ぶにはあまりにもインダストリアル気味なギターの壁、反復する不思議なリズムなど、それらは典型的なロック作法を周到に回避しつつ、かつR&Bもファンクも感じさせない、実に奇妙な配列を取る。この辺のバランス感覚は本作の特徴となっており、比較的キャッチーな『Staring at the Sun』『Dreams』といった楽曲においても、展開変化のカタルシスが発生しないよう周到に抑えられている。この辺をもっとロック的に素直に発出する2ndがよりポップでキャッチーに聴こえる理由になってる気もするし、しかし故に本作を独特な位置に引き込んでもいる。5分近い尺の『Ambulance』に至っては延々と不気味でシュールなアカペラで進行し、アカペラだけでオルタナティブロック版The Beach Boys的な異様さを獲得している。続く『Poppy』の比較的直接的にロックなギターリフに何かが救われる感もありつつ、この曲も結局アカペラに突入していくのには笑ってしまう。

 ここから4年後の名作『Dear Science』をこれと比較して聴くと、なんとリズムの大胆で心地よくまた楽曲のケレン味の効いてることか、と思うけど、逆に本作の流石に不自然なくらいに抑制されたりツボを外されたりしたリズムや展開には、むしろあえてそうしようとした情熱をさえ感じる。そういう意味では、やはりこれが一番マニアックでオルタナティブなのかもしれない。

 

www.youtube.com

 

 

12. 『From a Basement on the Hill』Elliott Smith(10月リリース)

 遺作。取り扱いの難しいものだと思う。本人が完全に制作に関わりリリース寸前で亡くなった、このたびのSteve AlbiniShellacみたいなパターンならまだしも、制作中に亡くなったのであれば、リリースまでには故人の不在のまま進めなければならない工程がどうやったって多々含まれる。特に、亡くなった者がボーカルを取るのであれば、仮歌さえ録音が残ってないのであれば、他の人が他の声で足すわけにもいかず、どうしようもない*7

 本作りリースのほぼ1年前に自殺か他殺か不明瞭な死を迎えたこの歴史上屈指のSSWもまた、最後の作品をそこそこ未完成の状態で世を去ることとなった。幸いだったのは元々2枚組アルバムを出すべく曲を書き溜め、9曲は生前のうちにミックスまで終わり、他にも歌録りまで終わった楽曲が複数あったことで、このように15曲もの楽曲を、1曲の短いインストを除いて全て本人の歌入りでリリースできている。そして、結構生前に完成していたおかげで、これまで以上に轟音なバンドサウンドに拘り、静かな楽曲も含めて特にエレキギターの出番の多いElliott Smith作品となっている作風もまた、生前の本人の意思が強く感じられるところ*8

 轟音の趣向は冒頭『Coast to Coast』から如実に示される。かつてライブでバンドサウンドに自分の声が掻き消えてしまうのを苦にしてたと聞くけど、なのにむしろ轟音の度合いは明らかに上がっていて、でもあまりにElliott Smithな歌とピアノが入るおかげでしっかりと自身の新境地を示すこれなどを、どうライブで演奏する気だったんだろうか。他にも『Don't Go Down』『Shooting Star』など轟音ギターを響かせる楽曲が多くあり、実はエレキギターサウンドへの造詣も深かった故人の能力の一端をギリギリ表現できた形か。静か目な楽曲でも『A Fond Farewell』などエレキギターのリフがずっと取り憑き続けるものもあり、またギターではないものの、他の弾き語りタイプの曲でもシンセ由来のノイズが入ったりなど、様々な試みが見られる。圧巻は『King's Crossing』で、長いエフェクトのイントロの後にあまりにElliott Smithシグネイチャーなピアノの音とフレーズが聞こえた後に始まる、彼特有のニヒリスティックなダイナミズムの強烈さがここに極まっている。ギターのモジュレーションの強烈さもコーラスワークも、あまりにEliott Smith的な濃度に満ち溢れ、壮絶極まる。

 もし『See You in Heaven』がちゃんと歌入りで完成して本作に収録されていたらなあ、『King's Crossing』と並ぶ本作屈指の壮絶な楽曲になって、本作の価値はもっと上がったろうなあ、と思うけども、あの曲ほどインストで残ってしまうのが「完成しなかった遺作」としてタイトル込みで相応しい曲もなく、複雑な気持ち。もっと言えば、死んでほしくなんかなかったし、生きて2024年の彼の新作、マンネリ化し切っててもいいからそういうのを聴きたかったような。もう20年以上も前に死んだ人に対しての想いなんでどうもぼやけてしまうけども。

 

www.youtube.com

 

 

11. 『Funny!!!』SPORTS(10月リリース)

 ギターを掻きむしりながら疾走感に乗って歌う、というのが“青春の典型のひとつ”として定型化したのが日本の00年代音楽の特徴のひとつと言えるのかもしれない。なぜか下北沢と結びついたそれは様々な変異を遂げたり遂げなかったりしながら、今に至っても結束バンドとかそういう形なども含めアレしてる。ちょっと思うに、この文化にはいくらかガラパゴス的なところはあるとは思う。でも、そんな独自の文化が確立して今日まで維持される中でその礎になったかならなかったか分からない歴史に埋もれたバンドは数々ある。syrup16gとかART-SCHOOLとか上澄も上澄なんだなあ。あ、BURGER NUDSサブスク解禁おめでとうございます!

 埋もれていったものもそうでないものも、ある種の人たちにはいつかの思い出の対象として心の隅の方なんかに残っているものなのかもしれない*9。それだけでは勿体ないなと、もっと個人の思い出なんかよりも白日の下に引き摺り出してしまいたいものなんかは時々このブログでも拙くも紹介している。今回はこれということになる。ことギターアンサンブルにおいて、日本の数あるギターロックバンドでも最高峰のドリーミーでポップなキレの良さを含んだ楽曲を数多く収録した作品、と書けば何か伝わるだろうか。

 冒頭から4曲目までは完璧と言っていいと思う。いい意味で典型的なスリーピースバンド的疾走感を有する『Super Sonic』でベタに*10ポップに始まりつつ、2曲目から早速6分越えのスペーシーな音像を響かせつつ、そして有数の完璧なデビューシングルにしてこのバンドの最高傑作かもしれない『Sports Wear』の、Smashing Pumpkinsのキラキラした部分だけでSonic Youthするかのような構築美。この曲にはギターロックこそが持ちうる魅力の多くのことが詰まっている。ピアノバラッドに後半からギター伴奏が美しくも激しく絡んでいく『鉄の街』といい、このバンドはどう考えてもリズム隊の他に少なくともあと二人楽器演奏者が必要だろ…と思わずにはいられないそのアンサンブルの完成度の高さ。中盤少しユーモラスさの効きすぎた曲展開が散見されつつも、終盤の『Rhythm Drowner』で実に完璧にミニマルかつスペーシーに構築された宝石めいた楽曲を披露するに至り、やはり本作はギターロックとして完全に上澄も上澄。

 ディレイやモジュレーションの効いたギターで美しい空間を形作るロックバンドがしたい方々、是非とも『Sports Wear』と『Rhythm Drowner』の2曲は一度聴いてほしい。アルバム2枚とミニアルバム1枚で終わってしまい歴史に埋もれたバンド*11なのかもだけど、少なくともこの2曲は埋もれさせてはいけないと、聴くたびに思う。

 

www.youtube.com

 

10位〜6位

 

ここから先はもう全部1位でいいよもうっていう感じ。

 

 

10. 『The Libertines』The Libertines(8月リリース)

 ロックンロールリバイバルというムーブメントがどこまで“仕掛けられたもの”だったのか。要は「複雑でまだるっこしくサウンドもダビングでゴテゴテした1990年代のロックサウンドからもっとシュッとしたシンプルな感じへの移行」を打ち出したかったんだろうと思われて、The Strokesの1st*12はそれに打ってつけだった。2本のギターとリズム隊と歌だけでどうにでもなるやろ、シンセやキーボード置けや、という。でもThe Strokesは賢しさがあった。もっとロックンロールバカはいないのか。ロンドンにおった。The Libertinesとかいう、フラッフラで愛憎たっぷりなフロントマン2人抱えて、曲の良さと2人のボーカルの掛け合いの良さだけで全てを突破してしまう、そんな輩が。

 どこまでマジだったのか知らんけどもフラッフラだったので終わりも早かった。2枚目のフルアルバムにして、片割れがその愛憎劇の中でレコーディング途中から消えてしまいつつもどうにか完成した本作は、さにそんな愛憎劇を地で行くストーリーテリングに満ちた歌詞と、そのくせにコンビネーションの良すぎるボーカルワーク、そしてそのようなストーリーに乗せられて、前半の優れた楽曲も、後半のゴミ気味な楽曲も、これがリリース品なのか…という思い切ってグダグダなギター演奏も、全てがムーディーで美しく感じられてくるという魔法または詐欺めいた1枚

 冒頭からその意味で完璧な、聴くたびにバンドが分解しそうな強烈なイントロを有する『Can't Stand Me Now』によって本作は一度語られ尽くす。どっちがリードを取りたいかもよく分からない、なんでそんなショボい音でリードを取ろうとするんだ…という音をした2本のギターは、しかし結果的に掛け合いの巧みさと曲展開に沿って案外的確に緩急付けるロマンチックなドライブ感を有する。歌に至ってはこんなに曲中で喧嘩してる様子をドラマチックに見せられるもんなのか、というリレーの仕方。お前らの喧嘩の仕方おかしいよ…。『The Man Who Would Be King』もまたその喧嘩の様子があまりに美しく昇華された一品で、バーの狂騒の感覚と大英帝国的なエレガンスさの入り混じったそれは、The Smithsなんかと共通する雰囲気をもっと荒々しく表現したようでもある。アルバム前半はPeter Doherty主体の楽曲が多く、彼特有の天然に「あっそうやってフックつけるのか」という自由自在なセンスが多く見られる。後半になるにつれ、あっこれはレコーディング後半のもう一方の片割れCarl Baratがどうにかケリつけた感ある楽曲が目立つ。その露骨に息切れな感じもまた、ストーリーの中に問答無用で置かれてしまう本作は、なんか批評の軸に普通のやつ使えんやん、ってなってしまう。

 本作リリース当時はガチの喧嘩別れ+Peterのドラッグ模様の危うさで色々あったものの、その後結構な時間の後に再結成して、Peterはかつての危うい美青年が嘘のようないかにも偏屈そうなイギリスの太ったおっさんになって、最近では9年ぶりとなる今年の新作で全英No.1を獲得したりなど、これはこれで悪くもないのかもなあの頃から先の“未来”を過ごしている。それが当時のリスナーが見たかった景色なのかどうかなんて関係ない。彼らは今も生きている。作品を出した。それだけのこと。

 

www.youtube.com

 

 

9. 『Funmachine』dip(11月リリース)

 今回の30枚で唯一サブスクになかったやつ。最高傑作候補の1枚やのにどうにかしてくれ〜とは思うけど、リリース元のリトルモアって出版社だよな。Snoozer出してたところだよな。調べてみたら今も全然会社やってて、近年だと映画だけど『花束みたいな恋をした』はここが作ってたんだ、という。映画『ナイン・ソウルズ』もこの出版社の作品で、なるほどだからサントラ担当したdipも一時期ここに所属してたのかっていう今更な知識を得る。そんなことよりサブスクを…とはちょっと思いつつ。

 サントラ担当したりの時期だからかインスト多めなものの、その分サウンドやエフェクトの拘り具合は最高級に熟し、NY録音故か音のキレも非常に良く、様々な曲調にサイケデリア極まるギターの音を落とし込む腕前についてはこのバンド史上でもとりわけ優れたところのある作品。特にトレモロについては極まってる感じがあり、使用してるの3曲だけだから弊ブログトレモロ特集では取り上げなかったんだろうけど、やっぱ取り上げるべきだったんでは…と少々後悔もしてるところ。

 

ystmokzk.hatenablog.jp

 

 冒頭『slower(flower not needed)』のイントロの段階から、必殺のトレモロエフェクトの効き方をしていて、この重力感ある演奏の中でのトレモロトーンの儚さが放浪していく感覚は特筆に値する。歌が始まって以降の哀愁の感じも、歌の裏ではフェイザーに切り替わるモジュレーション狂い具合も、実に素晴らしい。この1曲目だけでも最高な始まり方だけども、続く『it's late』で焦燥が膨れ上がっていくような演奏を見せた後にそのまま『it's too late』でジャキジャキしたギターのドライブ感が気持ちいいタイトなロックナンバーに移行していく流れも素晴らしい。歌のキレもいい。「別に歌いたいこともないし歌いたいわけでもないけどでも自分の趣向的に歌があった方が好きだから仕方なく歌ってる」感を隠さないヤマジカズヒデの歌だからこその乾いた味わい、ギターロック好きだからこそのメロディの組み方の味わいがよく出てる1曲。にしても思いの外尺が長い。

 アルバム中盤以降は急にまったりとした曲調とそれに沿ったサイケデリアの表現にシフトしていく。特にモコモコした音のリズムボックスの上で実にボンヤリしたリゾートの感じをトレモロの効いたギターと女性ボーカルとのダルなデュエットでなぞってみる『charlotte』の心地よい退屈さは、このバンドでは珍しい骨抜きすぎる曲調で面白い。ぼんやりした終盤の尺長2曲を経て、最後はアルバムタイトルになったビンテージなオルガン風楽器*13を使用しているんであろう不思議な音色がギターやボーカルにユニゾンするのがユーモラスなストレートなロックナンバーのタイトル曲でタイトにお別れ。

 当然廃盤だしサブスクにも無いので今どうやってこれを聴けばいいのかそういえばよく分からないけど、まあもし万が一この文章で興味が沸いた人がいたら頑張って中古とかレンタルとか探してください。自分も現物は手元にないし、多分レンタルか何かしたんだろうか。1曲目から引き込まれるタイプの作品なので、ギター演奏が好きな人なら手に入れて損は絶対ないと思うけども。

 

www.youtube.com

 

 

8. 『パブロの恋人』小島麻由美(9月リリース)

 自分でもうまく説明できないけど、小島真由美の作品で一番好きなのはこれだと結構前から心に決めているところがある。どう考えても曲のバリエーションやらキレの良さやらは前作『愛のポルターガイスト』や次作『スウィンギン・キャラバン』の方が優れてる気がするのに。思うに、ジャケットなんかにも表れている解放感というか、“昭和歌謡の継承者”的なところを早々にまとめた上であとは自由にやっていく、時にえらく現実的にぼんやりしてきもする曲調と、現実の辺鄙な場所の景色のようにいい具合に褪せたサウンドの感じとがなんか心地いいのが、個人的に本作を特に好きなところなのかもしれない。

 10曲、うち最後の曲は短い歌、1曲はスキャット込みのインストなので、しっかりした歌物としては正味8曲。合計34分にちょっと届かないくらいのこぢんまりとした作品で、前半と後半でまるで曲調が変わる思い切った構成でもある。冒頭4曲では彼女が従来からやってきた昭和歌謡的な怪しげでアングラ気味な要素が強く出ており、特に『ハートに火をつけて』のタイトに纏まった感じは、そういった要素の決定版じみた前作を経た末のスッキリとした味わいを思わせる。『蛇むすめ』は昭和歌謡的というには彼女的なキュートでダルなユーモラスさに引き寄せられているけども。

 5曲目『もしも自由がほしいなら』から本作の雰囲気は変わってくる。これもマイナー調のブルーズ進行をジャズっぽい演奏で淡々と進行していく、暗く煙った場所的なムードの楽曲だけど、きっちりとブルーズ進行で進行し、間奏でユーモラスかつ自在に転げ回るピアノの感じには、地下劇場とかよりももっと広い場所の感じがする。そこからの『砂漠の向こう』のぼんやりとした景色を視線でなぞるような、そんなエッジと色付けの絶妙なギターと歌の調子に、本作は一気に開かれていく。そこからはポップな曲3連発で、ジャズの古典を題に冠しつつ実にバタバタと転げ回る『茶色の小瓶』、シャッフルでゆったりとスカのようなアクセントをつけつつのんびりポップな『ブルーメロディ』、急に切なげな雰囲気をジャズの手法を用いながらポップに表現する『さよなら夏の光』と、どれもかの医女の中で飛び抜けていい曲だとまでは思わないものの、ひたすらにその連なり方が心地よい。そして短く童謡じみた楽曲でサッと終わる。

 本当に前半と後半でまるで別のアルバムのように曲調が変わるので、まるで、趣の異なる2枚のミニアルバムをくっ付けたようでもあるかもしれない。彼女の昭和歌謡的なマイナー調とポップな曲とを交互に味わえた方がバランスはいいのかもしれないが、そういうのをあえて無視した本作の奔放さが、なんかいいのかもしれない。

 

www.youtube.com

 

 

7. 『A Ghost is Born』Wilco(6月リリース)

 前回の記事でもう十分すぎるくらい書いたから流石に改めての紹介は割愛。

 

ystmokzk.hatenablog.jp

 

 

6. 『Madvillainy』Madvillain(3月リリース)

 自分の趣味の範囲と異なるもののこういうランキングの取り上げ方は難しい。「お前普段そんなもん聴かねえだろ格好つけんなもっと順位下げろ」という幻聴と、「お前この歴史的名盤の価値を本当に分かってねえだろうがもっと順位上げろ」という幻聴との間で悩みながら、まあこんなもんかなあ、という具合に順位を付ける。6位はどう?低すぎる?これより先のリストを見るに低すぎる?なんであれよりも下?まあ個人のリストなんでその辺のことは許してほしいし、個人のリストなんて「歴史的にこういう順位になる」の妥当性を追求しないといけない義務などないし、そもそもそんなもの本当に追求できるのかだし。

 本作に関係ないエクスキューズが多すぎるのは、もう語られ尽くしているであろう本作について下手な言及をするのが怖いからかもしれない。でも言及しないと始まらんからな。言及しよう。猥雑さと清涼感、ダウナーさと熱狂、哀愁とニヒリズム、現実とファンタジー、といった様々な対極なものを短い尺の楽曲の連発とサンプリングとMF Doomのユーモラスなラップとで自在に行き来し、混沌としつつもどこかメロウさで一貫したものも感じさせる、自分みたいな門外漢でも心地よさを存分に感じれる、実に間口の広い、名盤と呼ばれて然るべき作品

 「曲が短い」「サンプリングの嵐」ということでJ Dilla『Donuts』と似た要素もある気がして、そういうことでローファイヒップホップ的な部分もあるのかなあとか思った。おもちゃ箱みたいなヒップホップは好きだ。享楽の中の哀愁・メロウみたいなのが『Donuts』ほど露骨ではないにせよ本作にも確実にあって、ユーモラスな分これはこれでとても効く。音の絶妙な劣化具合といい、サンプリングという行為自体がメロウなものなのかとか考えたり。2曲目『Accordion』の時点で、それどこ由来なん?っていう哀愁がアコーディオンのループから垂れ流されるのとか最高。続く『Meat Grinder』でホーンの繰り返しから唐突に切り替わって南国ムードの低いベースとぶち切られる高い音のカオスさで、まさに様々な音楽をグラインドしてる感じで面白い。洗練されたジャズやR&Bの要素でさえ、本作の中ではおもちゃのパーツ、またはザッピングで一瞬映る光景でしかない。極めてセンスのいい悪ふざけ。どこで音を抜いたらズッコケるのかまでしっかりと計算された、頭の良すぎる悪ガキめいた音楽。ともかく落ち着かせてくれないし、なのに、このコロコロ移り変わるカオスだからこその心地よさもある。全体的にローファイな楽器のダビング具合もそういう落ち着きを齎してるのか。決して一定以上のハイファイさにならないことには極めて気を遣われている。5曲連続で2分に満たない尺が並ぶゾーンなどを経て、最終曲で取ってつけたように拍手のサンプリングが流れるのも笑える。

 MadlibMF DOOMのコラボとしてのユニットで活動はこれ1枚っきり。MF DOOMは2020年に亡くなった。ヒップホップをここまで格好良くおもちゃにしてしまったことには、反感を抱く層とかもいるんだろうか、とかよく調べもせずに考えてみたりもしつつ、さらっと聴き流していくのも良く、聴き込むとその度に様々な知らなかった音が見つかるこの作品はきっといつまでも面白い。

 

www.youtube.com

 

5位〜2位

 

5. 『Retriever』Ron Sexsmith(4月)

 フォーク・カントリー的な土や風の感覚と、エレキギターの時にエフェクティブで時にジャキジャキと刻む感覚、オーバープロデュース寸前で留める慎みを持った大胆なプロデューサー、そしてあるSSWのソングライティングのひとつのピークとが幸福に出会い手を取り合った幸福な作品、と書くとなんぼか格好が付くだろうか。SSWの作品、それも音楽的に何かに特化していない人物のそれというのは時に作品ごとの差別化や良さの言語化が難しいことがあって、この人なんかまさにそうだけども、本作は彼の最高傑作なんじゃないかといつ頃からか思っている。

 本作を自分が好きなのは多分、エレキギター的な面白みを随所で感じられるからなんだと思う。冒頭『Hard Bargain』からしてカントリーフィールの下で実に心地よいギターリフが穏やかに楽曲のフックを形作る。アコギも用いずエレキギターの少し鈍い煌めきで形作るカントリーのスカスカな空気に滲む渋みが禅めいてて良い。サビの箇所のささやかに足されるエレキギターとコーラスも良い。『Not About to Lose』UKロックのバラッド的なアルペジオがストリングスとともに付くけど、本作はロンドン録音なのでさもありなん。フォーキーさにギターロック的に疾走するドライブ感が足された『From Now On』の鮮やかさと、そしてとどめのように、静かにアコギを爪弾く曲のアウトロに添えられたえらくノイジーなエフェクトを強いアタック感で打ち破って始まる『Wishing Wells』のポップでかつ勇敢さが眩しい推進力の強さ。『Wishing Wells』のように優れたギターロックはそうそうあるもんでもないと思う。終盤のブレイク展開も含め、実に素晴らしいドラマチックさ。まあ続けてえらくR&Bライクでちょっとこれはオーバープロデュース気味かな…?感もある『Whatever It Takes』が始まると温度差がおかしいけども。地味に終盤『How on Earth』のピアノと合わさったギターアンサンブルの丁寧な組み方も良い。

 好きなエレキギターの場面が目立つけども、アコギ主体の曲もまたこのSSW特有の「どこかの森の中の小さな町の音楽」みたいなテイストをよく出している。本作ではそういう曲においてもストリングスが出てくるのがオーバーと言えばオーバーだけども、しかし一層物語の中の曲めいた可愛らしさを足すことに成功している。そもそも、どの曲も単純に良く、そしてそれらの印象を割とパキッとした感覚で丁寧にやっていて*14、全部いい。だから、詳細を話さないといよいよ話すことがなくなってしまう。なんかいいSSWの作品探してるならとりあえずこれ聴きなってスッと何も考えずに勧めれるうちの1枚。

 

www.youtube.com

 

 

4. 『Sonic Nurse』Sonic Youth(6月リリース)

 ジャケットはそれっぽく怪しく格好いい感じにしてるが、ただのしょうもないダジャレだからなこれ。そして、そんなしょうもないダジャレのタイトルとジャケットのふざけた作品が、インディー時代から30年活動を続けたバンドの最高傑作となるんだから全くもってふざけてる。そんなすごい作品なんて、リアルタイムでこのジャケットとタイトルを地元のCDショップ*15で見聞きした時には全然分からんかったよ。ずっと後に分かったことだ。

 Jim O'Rourkeとのコラボ三部作の最終作でもある本作は、ギター3本体制で構築するアンサンブルを『Goo』の頃のようなタイトなロックンロールにフォーカスし、比較的キャッチーな歌心にエクスペリメンタル要素も程よくドラマチックに散らばらせた、ソリッドさと拡散性を併せ持ったギターロック作品集となっている。前作のフォーキーなうちにサウンドが広がっていく様とは結構趣を異にしていて、前作も大変素晴らしいので自分の中ではこの2枚が一番好きで優劣はつけ難い。

 冒頭から引き締まったリズムが聴こえてくる『Pattern Recognition』で、Kim Gordonのボーカル曲でも屈指の展開込みでソリッドに纏まったスタイルをしている。演奏の不穏に拡散していく際の手際が実に鮮やかで、彼女のドロッとした良さを殺さずキャッチーに聴かせている。楽曲自体が4分少しで終了して以降は我慢してたのを解放するかのようなノイズセクションに入っていくけども。その後も歌心が楽曲に基本的にあって、怪しいコード感は常にありつつも、炸裂の仕方がさりげなかったり、グダる前にサクッと切り上げたり、基本的に“マスの中でもそれなりに格好良く聴こえるであろう”間奏にしようと仕上げている節がある。混沌とした演奏がタイトなスタイルに回帰する時の格好良さ。しっかり歌った上で間奏が何度も展開しちゃんと歌に戻る『Unmade Bed』の4分に満たない尺は騙されたかのような手際の良さだし、本作でも一際勢いのある『New Hampshier』のキャッチーさに満ちた疾走感や間奏の掛け合いは見事。

 Jim O'Rourkeは確かにメンバーにいるが、シンセの類は使われず、リズムと歌以外の音はギターから発されたもので占められている。1990年代終盤から、ギターでもって海を思わせるようなサイケデリアの鳴らし方を習熟しているバンドにおいては、シンセなどなくても『I Love You Golden Blue』のような音を出すのは造作もないことなんだろう。Kim Gordonというカオスなボーカリストが、ここでは美しい楽曲に合わせたソフトさでもって雄大に歌い上げていく。アルバムの最後もとりわけフォーキーなギターカッティングを聴かせる『Peace Attack』で*16サラッと不穏な音で終わらせてみせる様には、さりげなくやり切ったなりの感慨を覚える。10曲だけど1時間は超える作品だから。

 バンドはこの後2枚アルバムを残して、夫婦の離婚の末に活動しなくなるけども、メンバーの活動が様々に続いていることは、最近Kim Gordonのソロ新譜がちょっとした評判になったことなどからも分かるとおり。

 

www.youtube.com

 

 

3. 『GOOD DREAMS』the pillows(11月リリース)

 これを書いてる今でも「ん?このアルバムってthe pillowsの中でもそんなにいい作品だったっけ?」という気持ちと「3位は高すぎない?」という気持ちとがあるけど、でも聴き返してると「あれっこれこんなに良かったっけ?」「『HAPPY BIVOUAC』と双璧をなす良さじゃないか?」となる。2000年代のthe pillowsは他に『Thank you, my twilight』(2002年)と『MY FOOT』(2006年)がキャッチーで評価が高い気がしてるけども、本作の地味さは、そういうキャッチーさが少し気恥ずかしくなった時にスッと効く何かがあるように感じられる。少なくともこの2004年のランキングの日本のアーティストの作品の中だと、今はこれが一番好きだった。自分でも少し意外だったけど。

 オルタナティブロック傾倒中の2000年代the pillows諸作の中でも、とりわけ乾いたオルタナティブさ、ある種のローファイさに最も接近し、それらの要素を自身のポップセンスとどう折り合いをつけるか、そこのところに派手すぎない、だからこそ遅効性気味な彩りの良さを得たアルバム、ということになるんだろう。本当に割と最近まで地味な作品だと思ってたよ。そこが大切だったんだな。

 いつものポップなオルタナ、という具合にアルバムは始まる。幾何学的に反復するバックのギターリフも、別にそういうのをここまでにしたことない訳でもなく、“普通”に聴こえさえする。3曲目のシングル『その未来は今』で、『LAST DINOSAUR』以来のモロにDinosaur Jr.な感じの轟音ギターロックを聴かせるも、轟音ならそれこそ『LAST DINOSAUR』の方がブチブチしてる。『天使みたいにキミは立ってた』の3連符もすでに『この世の果てまで』という名曲がある上にタイトルがダサい。あれっここまで書き出すと大して良さそうに思えんな…。

 それでもここまでの流れも良いんだけど、とりわけ今回聴き返しててよく思えたのはこれより先で、露骨にローファイを狙ったイントロから段々とロマンチックなメロディに展開しては、サビで呆気ないメロディに開放される『オレンジ・フィルム・ガーデン』の、その呆気なさだったり、これは昔から大好きだったけど、本作でもとりわけ乾いた地平の感じを露骨に出している『フロンティアーズ』のミニマルな曲展開やテンションの低さ。いかにもテーマソング風なタイトルの『ローファイボーイ,ファイターガール』も聴き返すと案外ローファイで抜けの悪い音とメロディしてて*17、そのイージーな構成でサクッとポップしてるのが結構好きだった。『New Year's Eve』のゆったりとしてギターポップとギターロックの中間のような雰囲気の中で飄々と抜けていく感じも、なんだか今はこれくらいの鈍い爽やかさが心地いい気がしてくる。てかこの曲のメロディめっちゃいいな。

 終盤は、このくらいの曲順にいい曲を置かないといけない職人だった彼らの渾身のタイトル曲は今でも普通にグッとくるし、最後の曲はあっさり終わらせないといけない職人でもある彼らの渾身の(?)あっさり『Rosy Head』はノイジーなギタータグがよく効きつつもコンパクトにポップで、そしてその終わらせ方の強制終了っぷりに笑ってしまう。これが彼ら流の「小気味良いアルバムの閉じ方」のひとつ。禁じ手を使っちゃった感あるがご愛嬌。

 the pillowsのこの時期のアルバムなんて大なり小なりありつつも全部いいんだけども、その中では地味だと思ってた本作が今はちょうどよく感じれるのには、なんだかあらかじめそういう哀しみみたいなのの受け皿が用意されてたみたいな感じがして、不貞腐れたくもなる気持ちもありつつ、でも実際丁度いいんだよなあ、と思ってしまう。

 

www.youtube.com

 

 

2. 『Smile』Brian Wilson(9月リリース)

 これが2位なのには恣意的な理由がある。なければもっと低い順位だっただろうけども、でも今はこれを2位にしたい気分だった。この文章の筆者であるぼくがいわゆる“洋楽”というものをしっかりのめり込んで聴くようになったのは村上春樹を入口にしたThe Beach Boysからで、そんな中でこの、1867年にリリースし損なったアルバムに作者本人がケリをつけた本作がリリースされた。

 エモいなんて言葉じゃ言い切れないくらいにエモかったな。“エモい”という感覚はここでまず覚えたかもしれないな。声はシワシワのおじいちゃんみたいな人が、えらく取り止めのない楽曲群を豪華な演奏陣やコーラスに囲まれて歌う、見方によってはそれだけの作品だけども。割とそのとおりのトラックがちゃんと1967年までに録られていたことが後日リリースされたThe Beach Boys版『Smile』で判明したけど、そっちよりも遥かにいい。それが歴史補正か、物語補正か、純粋な楽曲の力なのかは、もう自分には判断ができない。

 最近、Brian Wilsonの健康状態はどんどんよくなくなっている。人はいつか死ぬ。彼の兄弟はもっと早くに死んだ。完全なThe Beach Boysはとうの昔に失われた。それにも負けずに彼は『Smile』を完成させ、続く素晴らしいソロ作『That Lucky Old Sun』を作り、不完全でも当時できる最良のThe Beach Boysの“新作”を作った。長いドラッグと精神の病により失った人生を彼は取り返した。彼は天才を全うした。それと、近いうちに死んでしまうかもしれないことが悲しいのとは、全然別のことだ。

 そんな乱れた感情でここまで書いておきつつも、一旦冷静になって、この記事の他のアルバムと同じように一文で、これを“2004年に出た新作アルバム”のテイで紹介するならば、ディズニー映画的な唐突さで1曲のうちにあっさりと曲調が変わりまくり、クリシェのように不穏なテーマが繰り返し現れ、不気味な奥行きを幾つも持ちつつも、人の声の織りなす無限のサウンドの可能性を、美しいものも残酷なものもシュールなものも沢山世に放ち、そして何だかんだで、最後はホッとするようなハッピーな終わり方をする、映画みたいなアルバム、だと言えるだろうか。一文としては大概長いか。

 1967年のリリース中止以降に多くのファンとブート屋が妄想し続けた「A面・B面の2部構成の曲順」は、そのA面の方は概ね合っていた。神々しいアカペラに始まり、楽しさも恐怖も、そして楽しくも騒々しい追加パート"in the cantina"も入り完全版といった佇まいの『Heroes and Villains』*18で実質幕をあける。その後の数々の派生曲を経て、見渡す限り果てのない小麦畑の光景と、それを運ぶための鉄の列車、そしてそれを作るために駆り出された中国人移民の姿*19を移り変わる曲展開で描く『Cabin Essence』で閉じる。

 大方の予想と異なってくるのは中盤以降。そもそもBrianは3部構成で本作を再構築、ダークで抽象的な第2部のラストに伝説的な美しい破滅の曲『Surf's Up』を配置*20、そして第3部で“The Elementals”と呼ばれた不気味なインストを含む火風水土のパートを、案外楽しげに再構築して見せ、そしてアルバムの終わりに純粋に楽しさと美しさを打ち上げていくかつての大ヒットシングル『Good Vibrations』を持ってきて、悲劇的な伝説を打ち破って、まるで大団円のうちに終幕するアルバムに書き換えてしまった。こんなエモいこと、あるだろうかっていう。

 おそらくこれは、ちゃんと単体で書かないといけない内容なんだと思うけども、とりあえずは今、大急ぎで纏め上げるとこんな感じになる。Brian Wilsonの今の所最後の作品が過去の名曲のピアノインストだとさっき知って、最近の状況も含めて悲しくなりつつも、でも、悲しむばかりではどうにもならないし、なんかもっと別のことをやりたい思いでここまで書いたので、みんな『Smile』を聴いて「えっ何この奇妙極まりない音楽は…」と驚くといい。Brian Wilsonってのは、半端なくすげえんだから。

 

www.youtube.com

 

 

1位

 

 まあ2004年はこれでしょ。

 

 

1. 『Funeral』Arcade Fire(9月リリース)

 それにしても00年代以降デビューアルバムの完成度が高すぎるアーティストばっかになってる気がしませんか。みんな凄すぎんか。Radioheadの1stみたいなんはないんか。

 インディーロック重点でやってるこのブログで2004年だと、これを1位にする以外しようがないかなと思うし、それに相応しいくらいには本作凄いし好きだし。

 ニューウェーブ的なギターサウンドや歌唱とオーケストラサウンドの堂々たる融合、および入念に作り込まれた楽曲と激しさとヨーロッパ的な美しさを自在に行き来するアレンジにより、前人未到のエモーショナルさの鉱脈をブチ抜いてみせた、大袈裟さを極め尽くした、アンセムだらけの脅威のデビューアルバム。正直キャリアハイ。これより後の作品も悪いわけじゃないし良いけど、ここまで派手にブチ上げることになったのは、本人たちも意図しない力が加わってたんじゃないかとさえ思う。一方で、本作をインディーロックの“基準”にされちゃうと流石にこれを超える作品なんて滅多なもんじゃ出て来んのだから可哀想*21

 収録曲は軒並みインディーロックのクラシックとなっている。作品冒頭の美しい旋律で始まる『Neighborhood #1(Tunnels)』は、優雅だった展開が、だんだんテンポが加速していき、Win Butlerのボーカルが壊れていき、ある地点で一気に振り切れるように全てが強くなって加速していく様があまりにエモーショナルで、“コントロールできない勢い”を巧みにコントロールする、という矛盾した難題をクリアしてしまっている。勢い任せに加速していく展開を積み上げていくところに、打ち込みではなかなか到達し得ないであろう“バンド”という機巧の良さが溢れる。静かな森の中を思わせる『Neighborhood #2(Laika)』も乱暴に叩きつけるようなセクションが存在し、1曲優雅なまま進行する曲を挟んだと思ったらまた血管ブチ切れんばかりのハイテンションの『Neighborhood #3(Power Out)』が始まる様には、このバンドのテンションはおかしいんじゃないか、と気づかざるをえない。

 そして、これよりも後に更に『Wake Up』と『Libellion(Lies)』が控えているという、アルバム中に何回血圧を急上昇させるセクションがあるのか、という状況。言っとくけど3連符の『Crown of Love』の段階でも終盤のエモさは相当に膨れ上がってんのに、強引極まるベースイントロからの大合唱の『Wake Up』が始まるんだからな。この曲順は相当おかしいことになってるからな。もう、祈りだか情動だか聖歌だかなんだか訳が分からんうちに、言葉なき合唱に否応なしに胸を掻き乱され血圧を引き上げられる経験。そして、またナチュラルな感じの1曲を挟んで、またもや4つ打ちのテンポで高らかにブチ上げてしまう『Libellion(Lies)』だ。インターバル短えよ。1曲おきにクライマックスを置くんじゃねえ。鉄って感じのギターの音とピアノの連弾、そして優雅なストリングスの煽り。お前らは誰のために何のために、こうもエモを爆発させるのかと。どんどん格好良くぶっ壊れていくボーカルはまるで「ぼくのかんがえたさいきょうのデビット・ボウイ」状態。この曲含む本作のアンセムが流れてる間はずっとお前がヒーローだよって誰だって認めるよ、っていう感じ。

 本作の制作時にはメンバーの親族*22の死が続いたというけども、だからこその“葬儀”というタイトル。そして実は尺が一番長い静かで厳かな最終曲『In the Backseat』にて、死について女性ボーカルが高らかに歌う。

 

バックシートの平穏が好き 運転も話すこともしなくていい

田舎ののどかな景色を眺めて 眠りに落ちちゃってもいい

わたしの家系 葉がみんな落ちて 運転席にぶつかってく

稲妻が落ちて その熱は貴方の足元の道路を溶かすほどだった

 

アリスは真夜中に死んだ

わたしは運転の仕方をずっと習ってる

人生の間ずっと ずっと習ってる

 

 歌詞を見ると、彼らが本作のエモーショナルさ過剰の楽曲に何を注ぎ込もうとしたのかが分かってくる。どうして1作にここまでエモーショナルさを詰め込みまくったのかはよく分からない。次作以降でここまで何度もエモを爆発させる作品もなく、それは当たり前のことだと思う。本作が何かおかしいだけだから。そして、誰も追随できないくらいに何かおかしすぎるせいで、本作は歴史的名盤にさえなってしまった。本人たちも随分きついだろう、こんな何か完全におかしい作品とずっと比較され続けるんだから。何はともあれ、何かしらの奇跡か偶然か必然かによって、この名盤は2004年の地点にずっと存在し続け、今日も世界のどこかの誰かの情緒をグチャグチャにし続けるんだろう。生まれ落ちて20年を越えようとしてるのに、その崇高な狂いっぷりは綻びもしない。そりゃ録音物だからそうだろうけども、とんでもないことだ。

 

www.youtube.com

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・

終わりに

 以上30枚レビューしました。もうこれから20年なのか…というのばっかりだなと思いました(笑)

 2004年は個人的にはやっと音楽を多く聴き始めたくらいの時期で、今回のリストでリアルタイムで聴いてたものは全然多くないですが、それでも当時も聴いてたやつが結構あるのを思うと、思い出補正が効いてるところもあるんじゃないかとは思います。厳正なジャッジなんて無理だし求めんで欲しいところ。

 ここまで読んでいただいた奇特な方々、本当にありがとうございます。貴方にとって2004年は追憶の彼方でしょうか、小さくてよく覚えてない頃でしょうか、まだ生まれる前のことでしょうか。何にせよ、このリストが何かの表紙で何かの役に立つならば、身に余る光栄です。

 選盤のために作ったSpotifyのプレイリストを貼って終わります。2枚(2曲)ほど選外になったやつも入ってます。上述のとおり1枚(1曲)だけ足りません。それではまた。

 

open.spotify.com

*1:実際に自分でもそう言ってたもんな。

*2:ドキュメンタリーで明かされる中でとりわけ度肝を抜くのは、宮本が家で椅子の上であぐらをかいて、牛乳パックから直で牛乳を飲んでパスタを食うシーンだろう。なんて宮本的なんだ…。

*3:まあ前振りの方が本編『Float on』よりも尺は長いんだけども。

*4:もっとも、『HIGHVISION』まで行ったバンドがそんな初期の音に回帰するかよ、という、Radioheadが『The Bends』に戻ったような作品作るか?系の話ではある

*5:この曲のタイトルを見た段階でファンはある程度解散を覚悟してたろうに、案外メンバー内ではこれが最後の作品だと半分の人員は思ってなかったんだから不思議な感じ。

*6:それらも基本ニューウェーブ寄りのポストロック的な構築であって、初期のギターロック的なのは無いけども。

*7:AIとか可能性すら考えたくない。

*8:逆に、本人の死からえらく時間がかかってリリースされた昨年のSparklehorseのアルバムは、本人の意思を捉えるのに苦労するくらい未完成だったのかな、とか考えてしまう。

*9:そうやってしっかり大人として社会していくべきなのかもしれない。しかし、

*10:とはいえ、こういう“ベタ”を作り出したのもこの年代ごろのバンドたちであることには留意。

*11:検索が非常に困難なバンド名がその傾向を助長させる。なんなら“sports band”で検索しても同名の海外のバンドが引っかかりまくる始末。

*12:あれはあれで案外ギターをシンセっぽく鳴らすトライアルとかあったりで決してシンプル一辺倒ではないと思うけども。

*13:なんかファルフィッサみたいな音するなこのオルガンっぽい楽器。

*14:おそらく、自分がフォーキータイプのSSWが好きなのに加えて、ピアノ主体のSSWスタイルが少し苦手なことも、本作のピアノ控えめな作風をパッシブに好んでしまってるんだと思う。

*15:そういえば結構大きかったな。ショッピングモールに入ってるタワレコのサイズくらいはあったな。今はもう建物ごとなくなってる。

*16:当時のイラク戦争アメリカにサラッと毒を吐きつつ。

*17:だからファンの間で特別人気にもならんかったんじゃないかとも思うけども。

*18:1960年代当時はこの曲を作り上げていく過程で様々な派生曲が生まれるという、当時のレコーディングがどんどん混沌とし最終的に頓挫する原因ともなった楽曲。

*19:インディアン関係といい、この辺のアメリカの歴史の闇的な要素は、1960年代当時製作に強く関わっていたVan Dyke Parksによってもたらされた。「海・女の子・楽しい」で売っていきたかったメンバーのMike loveと激しく衝突したことも本作が頓挫した原因のひとつ。

*20:本作リリースまでは『Smile』の最終曲はこの曲だと信じられてきた。

*21:まあ2005年にSufjan Stevensが『Illinois』である程度やって見せてしまうけども。そう考えると、本作はチェンバーポップの要素も入り込んでるんだな。

*22:祖父や祖母といった年代の方々。