ブンゲイブ・ケイオンガクブ

本を読まない文芸部員と楽器を練習しない軽音楽部員のような感じのブログ。適当な創作・レビュー等々。

2003年のベストアルバム30枚【前編】

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 なんで2021年も終わろうとしているこのタイミングで、別に20年前とかそういうきっかりしたタイミングでもない2003年の年間ベストを書くのか、ろくな理由がありませんけども、ともかく今回はそういう記事です。今回が前編で、30位〜16位まで、後編で残り2位までを扱い、1位だけ別記事になります。なんで1位だけ別記事なんでしょうね。まあ、しばらく前にやった2002年の年間ベストの時と同じ理由ですけども。

 

ystmokzk.hatenablog.jp

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 当時をリアルタイムで過ごした人は懐かしい気持ちを感じていただいたり、知ってる人はいいよねって思っていただいたり、知らない作品があるひとは何かいい発見につながればと、そんな思いで書いていきます。

 こういう風に順番に公表していくと、プレイリストは最後の記事が上がるまでアップできないのが面倒くさいですね。そこまで行ったら追記で追加します。

 

 

はじめに:2003年ってどんな年?

 今から18年前という、結構中途半端に昔な2003年。どんなことがあったのか、適当にいくつか挙げておくと、この後の文章の解像度が上がるかもしれないので、それをやっておきます。正直、書いていて楽しくない項目も多いですが…。ちなみに筆者がその頃何してたかは殆ど覚えてません…おそらく、今から挙げるアルバムのどれもリアルタイムでは聴いてなかった気がします。

 詳しくは、2003年についてのWikipedia記事等から適宜辿っていってください。

ja.wikipedia.org

 

イラク戦争の始まり(3月20日〜2011年12月14日)

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 2001年に発生した911テロ事件からの流れと本来そんなに関係のないはずのイラクとの戦争が始まってしまったことは、“復讐のためのアルカイダとの戦争”という名目が一応ある程度成立してはいるアフガニスタンとの戦争よりも遥かに意味不明で、理不尽で、様々な正統とは言えそうにない思惑が見え隠れする、実に嫌な出来事でした。リアルタイムでもなんでアメリカやイギリスがイラクと戦争をしていたのかよくわからなかったし、大量破壊兵器が結局見つからなかった、という結末と、そこから長く続くゲリラ戦的な被害の拡大やイラク国内の混乱など、ひたすら理想から遠い、無情な世界が広がっているように感じられました。

 2002年の音楽に広く通底しているように感じられる“ぼんやりした不安”が2003年も続いている気がして、その背景にはこのような、戦争が続いてしまった、という状況のこともあるのかなと思います。本当に真面目に考え出すと少しも筆が進まなくなる、そんな出来事だと思います。

 

 

六本木ヒルズのオープン(4月)

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 六本木ヒルズって意外と新しいんだなって思いました。“洗練された大人の文化”の発信拠点として、またはIT技術という2000年以降の最重要文化の日本における、特に金融関係の最前線のひとつとして、そして日本におけるセレブリティーのひとつの分かりやすい頂点として、あのビルは屹立していて、ゴールドマン・サックスの日本法人と押尾学のドラッグ事件の現場が同じビルの中だというのは、なんだかとても不思議な気がします。案外、スーツで着飾ったフォーマルの極みみたいな世界と、ドラッグやら売春やらの薄暗い世界とは、薄皮1枚程度の境目しか無いのかもしれない、と思ってしまいます。六本木には数えるくらいしか行ったことありませんけど、こわいこわい。

 

iTunes Music Storeのオープン(4月)

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 2003年当時、CDをリッピングするのではなく、インターネット上で音楽を幅広く入手する、ということは困難なことで、それをiTunes Storeが変えた…というこのそれなりに歴史的事実な内容は、サブスク文化の現代にいると分かりにくく感じます。だけど当時は本当に、iTunes Store以外だとP2P等の違法ダウンロードと、あとは網羅性の低い個々の音楽配信サイトしかなかった、という状況だったみたいで、そりゃ革新的存在になるよな、と思いました。筆者は長いことCDからリッピング派の人間ではありましたが。

 iTunesはその後音楽だけでなく、TV番組やポッドキャスト、映画に、そしてやがて大学の授業すら入手できる巨大アプリになっていき、その反面、どんどん処理の重たいアプリになっていきました。Appleが自前のサブスクリプションサービスを始めて以降は一気に下火になり、2019年にはMac上でiTunesが廃止されました。サブスクで音楽のみならず映画等を観ることがかなり一般化した現代において、iTunes Storeはその役割を終えた存在となりました。

 ちなみに、今回このランキングを作るのには、筆者のMacbook内のiTunes(今は単に「ミュージック」という名前のアプリだけど)を使用しました。

 

 

CCCDの全盛期

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 「違法ダウンロードさせるより適法に買わせよう」としたのがiTunes Storeだとすれば、「違法ダウンロードを防ぐために楽曲データを作らせること自体を防ごう」と考えて実行されたのがコピーコントロールCD(CCCD)でした。日本のエイベックスやソニーなどがリードして広まったこの方式には「多少の問題があっても厳しい方針を利用者に強いて従わせる」という、あまり良くない意味で日本らしい文化の感じがする気がします。そもそもこんな方法+レコード会社ごとの規格バラバラのネットショップ方式で、ネット上の音楽データを完全に制御できると考えていたんだろうか。

 ただ、この時期はソニーとビクター、とりわけ東芝EMIにおいて、様々なベテランから新進アーティストまでの傑作がリリースされていて、それらがこのCCCDという不完全なフォーマットによってリリースされてしまったことは、リアルタイムで歯痒い思いがしました。その後、結局こんなものでは目的としていた問題の解決には何も繋がらないということが各社理解されて、2006年くらいまでにはこのような方式はなくなり、かつてCCCDでリリースされた作品も普通のCDでリリースし直されたりしています。こちらは“役割を終えた”というよりも、初めから完全に“鬼子”だったように思います。

 そういえばかなり昔に、こんな記事も書いていたようです。今回の記事にも出てくるメンツ〜って感じがします。

ystmokzk.hatenablog.jp

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SMAP世界に一つだけの花』リリース

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 SMAPっていうユニットがあったことも、段々忘れられていくんだろうなという日々を過ごしています。リアルタイムで「説教臭いし、道徳にしても狭量な歌だなあ」的なことを感じてたと思った気がします。“日本の道徳”の建前の部分を象徴するような歌。こんなことを表では言いながら、裏では色々キツイこと言ったりしてたりするから日本も日本人も嫌になる。

 でも、この曲をSMAPのメンバーが集まって歌うことについては、ただのアイドルを遥かに通り越してしまった社会的存在が、その責任を全うするような、何かしら不思議な潔さのようなものが感じられて、そんなに悪い気がしないのが不思議です。

 

 

2003年に死去した著名ミュージシャン

 人間生きていればいつか死ぬので、毎年誰かしら有名な人・死んでほしくない人が亡くなったりしていきますが、この年では特に以下の二人の死が印象的だと思います。

 

Johnny Cash(9月)

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 Johnny Cashの死は、長大なキャリアを誇る伝説のシンガーの死、というよりもむしろ、その自身の死に至る道を丁寧に、かつ虚飾無しに、本人自らの手で敷き詰めた、その死の前後の作品群がとても印象的。上記の『Hurt』のPVはその最たるもので、これは人々が“死”に対して抱く印象に大きく影響を与えうるものだと思われます。

 『American Recordings Ⅳ:The Man Comes Around』(2002年)にも大きく刻まれた“死の近づく空気”そのもののような何かは、彼ほどの立派に積み上げたシンガーだからこそのものでもあり、かつ、そんな偉大な人物もいつか死ぬ、という虚無な感じが、とても胸にくる思いがします。『Ⅳ』より後に彼が死までに録音した楽曲群はその後年になって『Ⅴ』(2006年)、『Ⅵ』(2010年)にリリースされ、それらにもやはり、同じ空気、もしくはもっと“死”に迫ったような空気が流れているような気がします。こういう空気感って、別に近々死ぬわけじゃない人間が技術のみで再現できるものなんだろうか?Bob Dylanとか見てると、案外可能なのか。Neil Youngではこうはいかないな、と今年の新譜を聴いて思いました。

 

Elliott Smith(10月)

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 Johnny Cashの死がその運命を受け入れた、堂々たる死だとしたら、Elliott Smithのそれは、どこまでも運命が損なわれていった末の、運命というものの理不尽さを感じさせるような、嫌な死に方です。自殺なのか他殺なのか、という死に至るその流れの正確なところさえ不明なその様は、悲しいことに彼の音楽性と妙にマッチしていて、それがまた気分を暗くさせてきます。

 『Figure 8』リリース後の、ドラッグとアルコールに徹底的にやられた悪い時期を経て、死の直前の6ヶ月間、彼はクリーンな状態を取り戻し、2枚組のアルバムを予定する楽曲を書き溜め、録音し続けていました。しかし、ある日ガールフレンドと口論した後、彼女が少し立ち去ると彼の叫び声が聞こえ、戻るとナイフが胸に刺さった彼の姿がそこにあった…というまるで映画のバッドエンドのような死を彼は迎えます。生前製作されていたアルバムは1枚組に調整された後、『From A Basement On The Hill』として2004年にリリースされました。そして、そこに収められなかった未発表曲として世に出回っている歌無しのトラック『See You in Heaven』は、あまりに出来すぎたタイトルと、そしてもし彼の歌が入っていれば間違いなく名曲になっていたであろうそのポテンシャルとによって、どうしようもなく彼の不在の悲しさを印象付け続けます。

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本編

 相変わらず本編まで長くなってしまいましたが、ようやくここから。

 

30位〜26位

30. 君繋ファイブエムASIAN KUNG-FU GENERATION(11月)

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 ご存知アジカンの1stフルアルバム。2002年にリリースしたミニアルバム『崩壊アンプリファー』を2003年4月にソニーから再リリースすることでメジャーデビューして、そこから2枚のシングルを経てのフルアルバム、という流れにはメジャーレーベル的なテンポの良さが感じられる。また、シングル2枚はCCCDでのリリースだったけど、ファンからの指摘もありそこに不信を持ったバンドがレーベルと交渉してCCCDでのリリースを回避したこともまた、CCCDの衰退を早めるいいきっかけのひとつになった。

 作品自体としては、ミニアルバムからの勢いを引き継いだ“ちょっと捻くれた風の文系パワーポップ集”となっている。当時のバンプとかと比べても分厚いギター、変に拗れた歌詞、妙に複雑な展開などの要素が、バンプ的なドラマチックさではなく、もっと現実の軋轢とか何とかに折り合いをつけていく感じの音楽、としてのリアリティーみたいな雰囲気を感じられて、当時から浅野いにおの漫画とかとリンクする感覚があった気がする*1。そしてキラーチューン『君という花』の四つ打ちパワーポップっぷりは、その後邦楽ロック界隈で支配的となる四つ打ちロックの偉大なるルーツのひとつとなったんだと思う。

 というか、そういえばこれはリアルタイムで聴いてたし買ってた。『君という花』をはじめて聴いた時、「メガネのギターボーカル…くるりの新曲か…?でもバンド名が違う…」とか思ったりしたんだった。

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29. 『Frengers』Mew(4月)

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 デンマークコペンハーゲンで幼馴染の4人により結成されたバンドの3rdアルバム。ずっとこれが1stだと思ってたけど、バンドの結成は1995年らしくて、Spotifyとかで見てもちゃんとこれより前のアルバムがある。世界的なヒットをしたのがこの作品というだけのことなのに、どうしてずっと勘違いしてたんだろう。

 北欧出身のバンドということで、まさに北欧という単語からイメージされる風な「寒そうで綺麗なサウンドと繊細な歌のバンド」を全うした作品集となっていて、何となくヒットしたのも頷ける。このベクトルにて楽曲は整っていて、歯切れのいいギターロックにディレイエフェクトやシンセで透明感のある味付けをして、中性的なボーカルがやや情熱的に通り抜けていく様は、楽曲によって涼しい情熱や、ぼんやりした陶酔感を聞き手にもたらしていく。次作以降強くなっていくストレンジな要素はあまり見られず、ひたすら可愛らしい透明感に振ったことが、結果的にこのアルバムの存在感を高めている感じがある。歌ものとして彼らの作品を聴くならこれになるだろうから。もう恥も外聞も捨てて、ベッタベタにクリスマスなバラッド『She Came Home for Christmas』に素直に耳を傾けていたい。

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28.加爾基 精液 栗ノ花椎名林檎(2月)

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 椎名林檎東京事変の活動に移っていく前の最後のアルバムとなった3rd。はじめから拗れていたイメージ戦略がどんどん袋小路に陥っていって一番訳が分からなくなった頃の作品として世の中的には受け入れられてそうな気がする。タイトルにしてもサウンドにしてもドギツい感じが蔓延しているが、しかしこの作品は椎名林檎がデビュー以来有していた“昭和風味”の感覚を『OK Computer』以降のロックサウンドや音響感覚と結び付けようとした、彼女の作品としては最も「音楽に没頭している」感じのする作品だと思う。

 2002年のアルバム群的なぼんやり具合がアルバムには散見される。日常のポップスになりようのないような激烈さやダークさ、掴みどころのなさが当時の彼女の拗れ倒しきった世界観にて演劇的に展開される。ひたすら先鋭化した感覚をつなぎ合わせていくような作品は、“ジャズバー的な大人の音楽"然とした後年の彼女の作風からは相当に遠く、どこまでがイメージ戦略かも分からないけれど、彼女なりに「音楽でどこまで遠くへ行けるか」にひたすら挑戦し続けたその作風は、様々に移り変わるサウンドの中でもスリリングさが絶えずあって、一人の音楽家の「袋小路の果ての全能感」みたいなものを存分に感じさせる。『宗教』『葬列』でのRadioheadっぷりも、その中でどう「椎名林檎」するかというところに不思議なスリリングさがあってとても面白い。その分、既発のものよりも派手にショーアップされた『やっつけ仕事』のアレンジがユニークな存在になってる。

 彼女は当初、このアルバムをもって引退する気だったと聞く。ドギツいイメージを超えた先で感じられるその気迫は、彼女が出力した最も刺激的な音楽だと思う。この作品を基準にしてしまえば、これより後の彼女の作品は全部「サービス」なように感じられてしまう。でも、トータル4:44で抑えるために最後の曲をちょん切っちゃうのはちょっと天然の愛嬌がある感じがする。

椎名林檎 (Shiina Ringo) -- 宗教 ("Religion") - YouTube

 

 

27. イデアの水槽』GRAPEVINE(12月)

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 オリジナルメンバーだったベーシスト西原誠が脱退した後の3人体制での初のフルアルバム。とはいえ、実際はここから現在まで続く2人のサポートメンバーも交えた5人体制で制作された最初のアルバムであり、色々過激なことや実験的なことをやりながら、5人が出せる楽曲やサウンドの幅を測っていた感じもしなくはない作品。そういえばこれもリアルタイムで買ってて、その時はそんなこと思わなかったし、この時の5人でそこから18年後の今年に名作をリリースするなんて当時は夢にも思わなかったけど。

 脱退の痛手と新体制での困惑を振り切らんばかりに、楽曲は少なくない場面で激しく荒ぶっている。Radiohead的なものを派手派手しくブチ上げる『豚の皿』に始まり、なぜかTHEE MICHELLE GUN ELEPHANT*2ばりに絶叫する楽曲を複数収録していたり、やたら極端にファンクをやってみた曲があったり、ディープなサイケをしてみたり。とはいえいつもの亀井節メロディの楽曲もちゃんと複数入っていて、バランスが取れているのか混沌としているのか。この時のトライアルを基にもっと1つの作品としてトーンをすり合わせて練り上げたのが次のフルアルバム『déraciné』なのかなと思ったりもする。

 長らくこれが彼らの長いキャリアでもとりわけ実験的な1作となっていたと思う。それ以上に実験的な今年の新譜が出るまではまあそうだったと思う。

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26. 『Chain Gang of Love』The Raveonettes(8月)

The Raveonettes/Chain Gang of Love<限定盤>

 またもやデンマークコペンハーゲン出身の2人組ユニットによる、プリティでマニアックなチープさを保ったまま、誓約と制約の中でカジュアルでロマンチックなドリーミーさを極端に追求してみせた作品。割と最近以下の記事でも取り上げたアルバムなので、そちらをお読みください。

ystmokzk.hatenablog.jp

実はこっちの記事でも少し触れています。この人たちはやっぱこのアルバムが一番わかりやすいな。

ystmokzk.hatenablog.jp

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25位〜21位

25. 『荒野ニオケルbloodthirsty butchersbloodthirsty butchers(9月)

荒野ニオケルbloodthirsty butchers(CCCD)

 何故かサブスクにあることでも有名な、bloodthirsty butchers3人体制最後のアルバム。NUMBER GIRLの最後のライブのMCで向井秀徳が「ブッチャーズは今度ニューアルバムを出します」と言ってたのはこの作品?*3その後まさにそのNUMBER GIRLのギタリストが加入して4人組になって、吉村秀樹の死まで続いていく。

 前作がアブストラクトなサウンドが支配的な『yamane』だったことの反動か、やたらとくっきりはっきりした歯切れのいいギターロックサウンドで割とポップ目な楽曲をたくさん収録した作品になっている。聴きやすいのでこのバンドの初聴きにいい気もするけど、でも多分このバンドを聴き始める人は『kocorono』という歴史的名盤を入り口にしてしまうだろうから、その次に聴くといい気がする。『2月』『ファウスト』等で手にしたブッチャーズ流のポップなオルタナロックを、ここでは完全に定着させている。よく聞くと冒頭の『方位』にはThe Roosters大江慎也から継承したメロディセンスが脈打っている。『サラバ世界君主』のポップさは彼らの数ある楽曲でも飛び抜けてるかもしれない。楽しい。かと思えばアルバムの最後には『yamane』サウンドの忘れ形見のような『地獄のロッカー』が待ち構えていて、そう言う意味でもきっちりしている。全体的に曲の尺も短めだし、東芝EMIからのリリースでCCCDでリリースされてしまったことくらいしか欠点がないかもしれない。

Saraba Sekai Kunshu - YouTube

 

 

24. 『For Beautiful Human Lifeキリンジ(9月)

For Beautiful Human Life | KIRINJI OFFICIAL SITE

 ジャケットのマジなのかギャグなのか分かりにくい感じが何とも言えない、彼らが東芝EMIに所属していた期間にリリースした唯一のアルバム。これもCCCDでリリースされて変なミソが付いてしまったけど、作品としては彼“ら”の作品でもとりわけシックで大人っぽい、アダルティックな雰囲気のある1枚になっている。そしてそれはそこはキリンジ、ただ流麗でとりすました言葉と世界観だけでなく、変なセンスも十分に備えるのが流石だ。

 冒頭の『奴のシャツ』からして、シックなサウンドに堀込兄によるトホホ…な大人の感じがジワジワ来るシティポップに仕上がっている。メジャー調の曲でも、ヘンテコサウンドをしてる時のナイアガラ風味な『カメレオンガール』になるのもまたキリンジ。だけど本気を出すとAORの上澄みをスリリングに展開させる『愛のCoda』が出力されるのは実に強烈。アルバム後半には変則的なリズムでテクニカルかつジャジーに疾走する『嫉妬』『the echo』などもあったりして、彼ら流の挑戦も極まった感じ。そして締めに大らかなポップさで夜をゆったり行く『スウィートソウル』が配置され、実に隙のない作品に仕上がっている。

 次のアルバムでもっとピコピコした打ち込みリズムを導入してたりすることを鑑みると、彼らのバンド編成でのアンサンブルは今作で一旦追及が完成してしまったようにも思える。実はこれが2人の最高傑作ではないかと密かに思っているけど、でもそんな作品をこの順位に置いてしまうのは自分の力不足だ…。

Kirinj - 愛のCoda - YouTube

 

 

23. 『俺の道』エレファントカシマシ(7月)

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 これもジャケットが黒いけど、キリンジのとは全然別の意味を感じる。ついでにこれも東芝EMIからで、そしてCCCD。当時は「あ゛〜〜〜〜!」ってなったものだった。

 一度大ヒットからの流れで芸能人化していた宮本浩次が一念発起してバンドサウンドに立ち返ろうとする流れにおける、爆発的なことを爆発的に歌える宮本のポテンシャルを全開にして、それに必死にバンドメンバーがガレージロックなサウンドで食らいつく様を克明に記録した作品。大衆受け?知らねぇよそんなもん、という恐ろしいほどの希薄と勢いに満ちている。大ヒット以降のファンは困惑し、それ以前からのファンは歓喜したとかなんとか。

 何をとち狂ったのかアルバム冒頭の3曲を3枚のシングルとして同時リリースしたりしたが、どれもこの時期の彼らのエネルギーの爆発的な放出具合をしっかり捉えた「割とキャッチーな」ナンバーだったりする。マグマのようにドロドロと吹き上がる『生命賛歌』、散歩をするようなポップセンスが突如Radioheadみたいなぶっ壊れ方に変貌する『俺の道』、本当にガレージロックバンドみたいにひたすらエッジを立てて重々しく疾走する『ハロー人生!!』の3曲で聴いた者がブッ飛ぶくらいのエネルギーを放出してみせて、その後もちょっと哀愁ポップさも含んだ『季節はずれの男』などで緩急を付けつつも、自問自答を訳の分からないファンクネスに発展させた『勉強オレ』を筆頭にやりたい放題にしている。宮本浩次という“天然”が、自身の加齢や後悔や先人への憧れやら何やらでひたすらグチャグチャになりながら打ち震えて叫ぶ様は、彼ら独特の野暮ったさが込められた、オンリーワンなロック形態だろう。

 彼らはこの後、よりなんとも言い難い困難さに立ち向かう『扉』、ゲストを入れて少し華やかになりつつも自身の死を意識した『風』、悔恨と潜考の果てにひとつの悟りのような地点に降り立つ『町を見下ろす丘』といった渋いロックサウンドの作品を連発していく。これらは全然売れず、レーベル移籍後に出した『俺たちの明日』のヒット後また方向性が変わっていくけれど、この東芝EMI後期の、売れない時期のエレカシこそ最高なんだとずっと主張している。その割にはこの順位だけども…。

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22. 『Room on Fire』The Strokes(10月)

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 2001年の1stアルバム『Is This It?』によってロック音楽の軽量化・ロックンロールリバイバルの流れを作ったバンドの2nd。最初はRadiohead等で知られるNigel Godrichをプロデューサーに立ててたけど頓挫したらしい。どんな作品作る気だったんだ…。

 シンプルな演奏とその配置によって密かに新しい音響を目指していた1stから順当にステップアップした作品としてよく知られる。ちょっとサウンドの嗜好にSF風味が増したような気もするけども、ボーカル以外の熱を取り去ったかのようなサウンドスタイルは1stの流れをそのまま引き継ぐ。その“熱の出ないサウンド”の枠内でガレージロック風味とギターソロを聴かせる『Reptilia』の存在がキャッチーで印象的。次作では本当に演奏もガレージロック化してしまうけど、そうなる気配を排除したところがこの曲のクールさだ。シンセみたいなギタートーンでフワフワしたポップさを演出する『12:51』もとても良い。似たようなポップさは終盤の『The End Has No End』でも感じられる。なんというか、ファミコンサウンド的なチープさをバンドで再現してる感じがこの辺の曲では分かりやすい。

 でもこれ、地味なアルバムだよなあ、これと比べると1stってキャッチーさに溢れまくってるよな…って思ってしまうのもまた事実。セカンドって難しいですね。

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21. 『LIVING/LOVING』カーネーション(8月)

カーネーション/LIVING/LOVING

 2002年にメンバーが2名脱退して、残ったメンバーがたまたま3ピースバンド編成だったからか3ピースバンドとして再起を図っていた時期のカーネーションの最初のアルバムで、それまでのカラフルなポップから一転、大人っぽいタフさを感じさせる骨太のロック志向に一気に転身した快作

 曲によって多少の装飾が入るとはいえ、基本はギター・ベース・ドラムの隙間の多いサウンドなため、直枝政広という人のボーカリストとしての格好良さがひたすら楽曲をリードしていく場面が多い。彼自身もその方向性に賭けたのか、とぼけたりする場面はかなり限定され、ひたすら哀愁を染み込ませるか、もしくは声の太さで持っていくかに徹している。その両方が理想的に交わり哀愁のコード感と引き締まったバンドサウンドで綴られる冒頭の『やるせなく果てしなく』がいきなりクライマックスな完成度で、カーネーションの長い歴史の中でもトップクラスの名曲だと思う。3曲目くらいまではバンドサウンド以外のダビングも多いけど、それ以降はかなりバンドサウンドのみにフォーカスしたスタイルでやり通していく。流石にキャリアが長いから、初期衝動で一発!みたいな感じは希薄だけど、その分練りに練った「濃厚なロックっぽさ」を使い倒してくる。

 この3ピーススタイルであと2枚アルバムを残した後、さらにドラムも抜けて、現在まで続く2人体制になっていく。

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20位〜16位

20. 『Hail to the Thief』Radiohead(6月)

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 ここまで散々RadioheadRadiohead言ってきたのにこのアルバムはこの辺の順位なのかい。他のアルバムが良すぎるんです2003年は豊作。

 ジャケットには多国籍社会が生み出す負のオーラみたいなものが図式化されているけども、そんな社会的・世界的な視点と、911以降のブッシュ政権等の乱暴極まる戦争への道に対する怒りを大いにフューチャーして、前2作のライブの成功による勢いをそのままに楽曲制作を進めたアルバム。バンドサウンドを離れた作風も目立った前2作の反動としてバンドサウンド回帰が期待されたが、実際はバンドサウンド以外の電子音や打ち込みも結構多用されており*4、そして肝心のバンドサウンドも冒頭の『2+2=5』を聴けば分かるとおり、そこには基本的に不可逆的な禍々しさがついて回る。なぜあの頃一時期『The Bends』みたいな作風に回帰する、なんていう期待が持たれていたんだろう。

 『Kid A』『Amnesiac』以降の彼らの楽曲は、そもそものメロディセンスや楽曲構造自体が一般的なポップソングから外れきった荒野を歩き続けているけども、本作はその荒野を駆け足で歩いて行った感じがあって、もっと直接的な言い方をすれば、曲数が多いこともあり、楽曲の出来にバラツキがある気がする。10曲くらいに纏めてたら、「出来が散漫」みたいな評は減ったと思う。でもそうしたくなかったんだろう。『2+2=5』の吹っ切れ具合と『There, There』の超然とした様との間で様々な時に躍動的で時に幻想的で時に機械的サウンドが飛び出す様を、思い思いに感じるといい。久々に聴くと意外な拾い物が出てきたりする。そしてなんだかんだで末尾の『A Wolf at the Door』が3拍子のラップという珍しいスタイルで禍々しさを吐き出し切ってて素晴らしい。

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19. 『Give Up』The Postal Service(2月)

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 Death Cab For CutieのBen GibbardとDentelのJimmy Tamborelloの共作エレクトロポップユニットの唯一のアルバム。『OK Computer』以降の世の中、エレクトロ音楽の一部はロックリスナーの必修科目になっていた感じがあったけど、そんな中出てきた、とてもいい歌と、可愛らしくも儚いサウンドとでアルバム1枚ずっとドリーミーに駆け抜けていくようなこの作品は「ロックリスナーが無理なく聴けるエレクトロ作品」として絶大な人気を誇った。おそらく同じ年のDeath Cab本体のアルバムよりもこっちの方が好きだという人も結構いるはず。

 Benのポップセンスは、もしかしたらすぐにバンドのアンサンブルに凝ろうとしてメロディがぼやけてしまうことのあるDeath Cab本体*5よりもより制約なくメロディが抜けていく感じがする。電子音も、柔らかいエレピのような音がメインで、ひたすら切なくも可愛らしいラインを描いてばかりいる。そして、こういうエレクトロな音ってだけで、楽曲がどれもやけに夜めいている。夜という概念がそもそもドリーミーさの塊であって*6、そんな世界観にどっぷり浸かったBenの甘く優しいメロディとボーカルは、まるで現実と幻想の境を自在に行き来するかのような風情がある。夢のような夜の中を解き放たれている感覚が、このアルバムを聴いてるうちはずっとしてるような気がする。

 特別先鋭的なことをしている訳ではない、ただ甘く夢見心地なだけの作品だとドライに見なしてしまうこともあるけど、でも時に、ただ甘く夢見心地なだけの作品に耳を傾けると、ひたすら甘く切ない気持ちの奥に落ちてしまう。これは別に懐かしさとかじゃなく、この音楽のそういう機巧なんだろうと思う。

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18. 『commune』YUKI(3月)

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 Judy and Mary解散後始まったYUKIソロの2枚目のアルバム。何故か“70年代”というテーマを掲げて、いなたいサウンドでいなたいロックやカントリーやバラードを多数演奏しているアルバム。次作『joy』以降エレクトロ要素が多く使われていき売上も伸びていくけれど、その前のこの作品はソロで唯一オリコン10位以内に入れなかったとかで、なんだかちょっと腹立たしい気分。シティポップ感が一際強い『うれしくって抱き合うよ』とはちょうど対極のアルバムな気がする。

 アルバム冒頭はちょっとだけ尖った展開もあるけど、『ストロベリー』以降はいい具合に牧歌的な世界観がずっと続いていく。様々な作曲者が参加しつつも、音楽性はどれも「納屋で録音したみたいな」サウンドと曲になっているのがいい。そしてそこにYUKIの可愛らしく乾いた声が乗るのがなんだかすごくいい。旅情のような、郷愁のような、世界の果ての夢のような、そんなぼんやりと楽しいような寂しいような気持ちが棚引いていくのがずっと気持ちいい。『センチメンタルジャーニー』とか、ずっとぼーっとしてられるようないい空気感をしてる。こういう風にただただカントリーでいいのかも、なんて時々思う。かと思うとアルバム終盤ではスネオヘアー作曲の『コミュニケーション』の力強く瑞々しい様や、キセルと共作(!)の『砂漠に咲いた花』の童謡の向こうに消えていくような優しい寂しさなど、新進アーティストの楽曲がとてもよく効いてる。

 見方を変えれば、2003年の時点でアメリカーナ的な方向性を日本のアーティストがガッツリと志向した、面白い作品だと思うんだけど、もっと評価上がらないもんか。みんなやっぱ『うれしくって抱き合うよ』みたいなのが好きなのか…?

 

 

17. 『瞬間と永遠』曽我部恵一(6月)

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 サニーデイ・サービス解散後2枚目のソロアルバム。作品の立ち位置が1個上のアルバムとほぼ一緒やん。ただ、この次のアルバム『STRAWBERRY』以降は彼やサニーデイの作品は全て自身の立ち上げたROSE RECORDSからのリリースとなるため、メジャーレーベル(この時はユニバーサル)からの彼のリリースはこれで最後となる。

 ソロ1stは彼の繊細な部分ばかりを切り取ったちょっと保守的な感じの作品だったけども、ここでは彼のいい意味で大味にロマンチックな作曲センスの伸び伸びとした発露や、持ち前の雑食さで様々なタイプの楽曲をアルバムの整合性をそれなりにいなした上で収録したりといった快作に仕上がっている。ジャズバー的なトーンの『瞬間と永遠』から突如サイケなエレクトロトラック『White Tipi』に移行してしまう大胆さ(テキトーさとも言う)は実に曽我部恵一な瞬間だと思えて、なんだかその構造だけで笑顔になれる。メロウな楽曲がちゃんと書けてれば整合性の方が来るんだよ、という彼の自信も感じられる。モロにブルーズな『FIRE ENGINE』は流石にメロウもクソもないけども。

 時々彼はとてもいいギターロックを出してくれることがあって、ここでは『She's a Rider』という名曲をものにしている。メジャーセブンスのコードを印象的に使うことにおいて、彼は本当に素晴らしい使い手だなってこの曲を聴いてもやっぱり思う。タイトルの連呼だけでしっかりとメロウな光景が浮かんでくるのがいい。いくらジャズな方向に走ってもエレクトロな方向に走ってもガレージロックに走っても、この基本軸への信頼がずっとあるから大丈夫。

Keiichi Sokabe - 浜辺 - YouTube

 

 

16. 『St. Anger』Metallica(6月)

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 おそらくこのブログで唯一取り扱いのあるメタルのアルバム。というか、メタルのアルバムではなくヘヴィなオルタナティブロックのアルバムだと認識してるんだと思う。メタリカってこう、オルタナティブロックにやたら理解があるし。むしろ憧れと、コンプレックスすら感じさせる時あるし。

 どうやらメタル愛好家から蛇蝎の如く嫌われているらしいこのアルバム。それはおそらく、この音楽をメタルの様式美に当てはめて聴こうとするところから生じているきらいがある。メタルにそんなに興味のない筆者の目線だと、「ひたすら肉を削ぐ鉄のように高速で振動し続けるギターリフと、プリミティブすぎるドラムプレイと、そして延々と暗く重く沈んでいく、リフそのもののような楽曲が重厚にして冗長に連なっていく、“粗雑な暴力”そのもののような作品」として映ってしまう。そういえば前にそんな感じのことを書いた記事がこのブログにあった。

ystmokzk.hatenablog.jp

 これはメタルバンドである彼らなりのハードコアであり、ストーナーロックであり、その単調さこそを目的にしたようなリフの数々からは、下手したらポストパンクとかそういうものまで射程に入れた作品・サウンドなのかもしれない。これらのジャンルに共通するのはある種のミニマルさ・単調さ・硬質さで、メタルの様式美とそぐわないのは当然な気もしてくる。

 それで、もう少し色々書こうかと思ったけど、その前に遥かにこのアルバムについて詳しく踏み込んだ記事を見つけてしまったので、あとはこの記事を読んだ方がいいと思いました。今年の1月にこんな記事が書かれていたなんて…!

note.com

 

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 以上前半でした。後半もなるべくすぐにアップします。

 

追記:後編書きました。

ystmokzk.hatenablog.jp

*1:後に『ソラニン』で関わった時には「やっぱり!」ってなった。

*2:この2003年10月に解散。とはいえ解散発表は9月で、流石にそれを確認してからバインがミッシェルっぽい楽曲を作って録音を始めるのは無理か。

*3:ナンバガの最後のライブが2002年11月で、そこからえらく今作のリリースまで時間がかかっている…。

*4:というかそういうアブストラクトな楽曲はむしろ『Amnesiac』より多いのでは。

*5:そのぼやけ方こそが時にですキャブの素晴らしい部分になったりもするんだけども。

*6:夢だって基本的に夜に見るものだし。