確かに音楽ジャンルとしての「ヘヴィメタル」はあります。けれども同時に「メタリックな音」と呼ばれるタイプのサウンドというものもありますね。「メタル」つまり「金属質」ということで、どっちの意味でもおそらくは「メタリックである」ということではあるのだと思うのですが、ある種の様式美としてのジャンルの「ヘヴィメタル」とは異なる方の、いわゆる「エレキギターの鉄の弦の響きがそのまま硬質な音として現前している」的なサウンドというものはどういう感じなのか。
今回はそういうのの整理をします。アコギとかピアノとか、そんな軟弱なものは必要ない*1という強い意志でもって最後まで駆け抜けていきたいですね。
なお今回は筆者の独断と偏見に満ちた「メタリックな」アルバム*2についての言及をもって「メタリックな音」の解説に代えさせていただきますので、どういうのがメタリックな音か、どうすれば出せるか、といった話はありません。
1.『Red』King Crimson (1974年)
Red: 40th Anniversary Series (Wdva)
- アーティスト: King Crimson
- 出版社/メーカー: Discipline Us
- 発売日: 2009/10/20
- メディア: CD
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King Crimson - Red (OFFICIAL) - YouTube
正直、今回の記事は久々にこのアルバムを聴いて、何度目かのブッ飛ばされ方をしたので書いてみようと思ったものでした。なので冒頭の画像も、当時のバンド写真にしました。
この冒頭のタイトル曲の、最初に聴いた人が誰もがのけぞるであろう強烈なイントロ。一聴して分かるメタリックな音ってこういうことだな、っていう感覚。重たく歪んだ音のエレキギターが重たいリフをひたすらのたうつように反復させ、そこにやはりアンチナチュラルな重さのエレキベースが這い回り、そしてヒステリックなシンバルの多用が目立つドラムが転げ回る。この曲の緊張感に満ちた漆黒の光景、これぞメタリック…!と強く思わずにはいられない。
本作は他の曲でも、第2期King Crimsonの最終形態たる3人のメンバーによる強烈でメタリックなバンドサウンドを軸に、随所で激しく炸裂しまくっている。メロディアスさと退廃感が交差する『Falle Angel』や、鉄の塊が停滞と躍動を繰り返すような『One More Red Nightmare』も鮮烈。そしてプログレ界きっての名曲とも言われる最終曲『Starless』においては、その重さとプログレ的な幻想性が交錯し、混濁し、弛緩と緊張と疾走を繰り返し、そして何かの終焉を思わせるスケールで完走し果てる。
「“メタリックである”とは何か」という問いに、徹底的にこのアルバムは答えてくれる*3。このアルバムを「メタリックな音」の基準にしておくと、何かと便利だとも思うのです(あまりに基準が高すぎる気もするけども)。それにしても、こんなヒステリックで気の狂ったようなフレーズを、フリップ先生はとてもつまらなそうにお弾きになられる…(例。後ろで淡々と座って弾いてる人がロバート・フリップ先生)。
2.『Presence』Led Zeppelin (1976年)
Led Zeppelin - Royal Orleans - YouTube
ツェペリンの晩年に近づいた頃のこの、骨々しいサウンドのアルバムもまた、メタリックな無骨さというものの価値を広く世界に発信し続けている。
このアルバムの無骨さ、その原因は突き詰めれば当時のスケジュールの詰まり具合に端を発するらしいけれど、ともかくツェペリン流の「ミニマルさ」が極まったことによる。キーボード類を使わずギター・ベース・ドラムのみの演奏。『聖なる館』辺りから出てきていた短いリフをバンド全体で反復するアプローチの最終地点にして集大成な楽曲がちらほら*4。
歪み少なめでジャキジャキなギターの音もまた、このアルバム各曲のように細かくザックリしたリフに用いればとてもメタリックに響くのだということ。シンプルでオーバーダブも少なく、無音の空間が感じられる中では、こういう神経質な音の方が鉄の感じがするのかもしれない。歌ものの楽曲としてはとても楽しめない楽曲群ながら、音のひとつひとつのその無骨な性質のことを追いかけてるだけで楽しいアルバム。下手するとバスドラの音が一番温もりある感じしますもんね。
3.『Metal Box』PIL (1979年)
Public Image Ltd.- Albatross - YouTube
題名からしてモロに!なアルバム。本来は鉄の缶にレコードが入っている仕様といい、コンセプチュアルな鉄具合だけども、果たして音の方も、非常に金属的で無機質な世界が、気味の悪い退屈さを多分に含んだままに広がっている。
このアルバムのバンドはまさに怠惰に反復する機械のようになっていて、そもそもドラムは正規メンバーがいなくなったので適宜叩ける人が交代して叩き、概ね淡々として単調なそれを録音した上にベースやギターを重ねる、という工程で出来上がっている。ダブ*5を強く意識したベースはアタック感が殺されており鈍く、ギターもまた金属的なノイズ発生装置といった趣で、アタック感は感じられない。そう、上の2枚で感じられるような圧倒的な情念や技巧的な濃密さは、ここでは一切を否定されている。無機質なメタリックさという意味では、この盤が今回のリストで一番上位かもしれない。
ともかくキース・レヴィンのギターワークの奇怪さ、そしてアンビエンス感の絶妙さがとても印象に残る、ポストパンクを代表するメタリック名盤。それにしても1曲目のジョン・ライドンのボーカルはまるでジム・モリソンみたいで、本当にジョンなのか…。
4.『The White Birch』Codein (1994年)
一気に時代が飛んで90年代*6。グランジ・オルタナティブロックの勃興によって歪んだギターの音が広く持て囃された時期において、雑然さと激しい強弱に満ちたサウンドへのアンチテーゼ的に、スロウコアというジャンルが生まれた。
その代表選手であるところのこのバンドのサウンドもまた、無音空間を強く感じさせるサウンドの中で、ジャリジャリしたエレキギターの音が無機質的に反響している。こういうのはスロウコアというジャンルの基本形態の一側面なんだろうけれども、この始祖であるバンドのギターのそっけなさ具合は改めて聴くととても冷ややかであり、まさに「冬枯れの中の鉄の無慈悲な冷ややかさ」を感じさせる。時折ブーストされて激しくなる光景も、そのスローな楽曲空間の中ではただ間延びしていく感覚を膨らませるよう作用し、そこに激情のようなものはあまり感じられない。
ひたすらにプレーンな質感が続いていく様は、無機質であるというその一点において、ヘヴィにメタリックなものだと思う。本作はそんなバンドの最終作。ひたすらに薄味に設定されたリバーブ感がかえって広く寂しさに満ちた無音の空間を作り出す、というここで突き詰められた事実は、バンドが空間的なアプローチをする上でまずひとつ、踏まえておいてもいいものなのかもしれない。
5.『Style』LUNA SEA (1996年)
日本のヴィジュアル系ロックバンドの偉大な先人のひとつにして、日本が誇るべき最高級のスタジアムロックバンド・LUNA SEAもまた、そのギターサウンドの冷ややかさとバンドの強靭さ・無骨さにおいて、非常にヘヴィでメタリックな側面がある。今作は彼らが活動を始めてから一旦休止するまでの流れにおいて、その最終盤に登場する作品である。というかここまで(PILを除いて)ずっとバンド終焉がちらつく作品ばかりで、やはり解散や活動休止といった要素はヒステリックで冷徹でヘヴィな作風を呼びがちなのかもしれない…。
LUNA SEAをはじめとするヴィジュアル系ロックバンドのギターにおいて重要なことは、そのギターの音がニューウェーブとオルタナティブロックに引き裂かれていることだと思う。The Cureをはじめとする冷たく澄んだサウンドを片親に、もう一方を彼らの登場と同時代に現れたオルタナ系のハイゲインサウンドに持つその音傾向において、最も豪快に体現したバンドこそLUNA SEAであり、そしてその路線の一応の完成が、名作『Mother』の余勢を存分に吐き出した今作だろう。
アルバム前半に集中するJ作曲サイドの重厚感はオルタナ性を強く体現し、そして後半のSUGIZO作曲が集中するサイドでの多様さ、特に『Desire』における所謂彼らの「ジャックナイフサウンド」の完成度の屈強さは、バンドが鉄の塊となって突進していくその様は、楽曲の構成に至るまで凝縮し引き締まった重厚さは、このバンドのひとつの究極の姿となってしまっている*7。アルバムの曲順だとこの直後にU2全開な『In Silence』が来てまた不思議な感覚だけども…。こういう性質の、弾丸のような鉄っぽさは、彼らの大きな強みだと強く思う。
6.『The Rising Tide』Sunny Day Real Estate
- アーティスト: Sunny Day Real Estate
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Sunny Day Real Estate- Killed By An Angel - YouTube
ヒステリックさにも色んな種類のものがあると思うけれども、こと音楽において自分が真っ先に思い浮かべるのが今作。エモーショナルロックの代表者としてデビューしたはずの彼らが辿り着いた、神経そのものでかき鳴らしているかのような、あちらこちらで爆発的で毒々しいヒステリアが噴出しまくるこの大名作は、聴いてる間とても平常な感じがしない。どうにも周りの世界がフワフワになってしまう。
冒頭の上記の曲の、曲名からして病的な香りのするこの感覚は、イントロからのいきなりのヘヴィでメタリックなギターリフによってすっかり昇華されてしまっている。このリフの重厚で、なおかつスケール感が遥かに非日常的で痛々しい具合は、サビにおいてはハイトーンなボーカルの加工されてヘロヘロなメロディを紡ぐのと合わさり、何かしらの地獄が現出したかのような感覚にさえなる。
全体的に神経が裏返ってしまっているかのようなソングライティングにボトムのがっつりしたバンドサウンドが追随していく様は、とてもサディスティックでかつ、その鳴らされる目的がひどく怪しく虚しく感じられて、危ういメタリックな反響として聴こえてくる。まるで神がバンドを借りて拷問器具を作らせているかのような、そんな妄想さえ抱いてしまう。そしてやはり今作も、現在においてこのバンドの最終作…。
7.『NUM-HEAVYMETALLIC』Number Girl
NUM-HEAVYMETALLIC 15th Anniversary Edition
- アーティスト: ナンバーガール
- 出版社/メーカー: ユニバーサルミュージック
- 発売日: 2014/06/18
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Number Girl - Num-Ami-Dabutz - YouTube
本稿のタイトルをすべて物語ってるかのようなアルバムタイトル*8。 確かな自覚の下に鳴らされるサウンドは、まさにその自覚に足るだけの激しくヘヴィにメタリックな要素に溢れている。
向井修徳はバンドに対する自己認識を的確に短いワードに込める、所謂コピーライター的な性質も持ち合わせているけども、その中の「鋭角サウンドが君を突き刺す」というもの*9を一番体現した作品。デイヴ・フリッドマンと2人3脚的に作り上げた鋭角サウンドの最終地点*10である今作、エコーの多用等による空間的な異質さ・ハードコアサウンドをデフォルメしたような音響は今作でのよりダブ的に踏み込んだことと楽曲のダークさとで、いよいよ破滅的な鋭さと重厚さを得てしまっている。
演奏はとてもまともじゃないくらいに激しいのに、何かがとても冷たくなってしまっている。そして時々覗くかつてのポップさの残骸が、いよいよ行き着いてしまったバンドの終焉を(結果論ながら)否応なく感じさせる。そういう意味でもこれはとてもヘヴィ・メタリックなレコードだと思う。
8.『St. Anger』Metallica (2003年)
Metallica - Frantic (Video) - YouTube
ホントにヘヴィメタルのバンドのレコードを持ってきてどうする!と言われそうだけど、今回の記事のコンセプト的に、このアルバムだけは真っ先にリストに入れたところ。
このアルバムの何がメタリカの他のアルバムと較べてヘヴィ・メタリックだったか。それは“圧倒的な粗雑さ”ということにおいて、となる。意味が分からないと思うので、聴いたこと無い人はとりあえず『Frantic』だけ聴いてくれればいい。そこには元々ヘヴィメタバンドなので、ツーバス込みで速い・連打なのはともかく、そのドラムの連打の形態も、そもそも音も、そしてギターやベースの音も、圧倒的に粗野である。鉄の弦を擦って音を出していることが質感として強く感じられる。ギターソロも弾かず延々とリフをゴリゴリやり続けるのは圧巻。展開も、ヘヴィメタル的な構成美からは離れた、素っ気ない圧倒感(と時に緩急として見せるカート・コバーン的なメロウ展開*11)も非常に暴力的。全体的に曲が長く、似たようなハードコアなメタルが連発されすぎてダレるところもまた粗雑。
本作はメタリカの90年代の実験の総決算的なところがあったが、見事に旧来からのファンの猛反発を受けて(特にドラムの音が最低だと言われ続けている。このスネアの暴力的な音こそいいと思うけどなあ*12)次作からは修正されている。なのでこの「大きくぶ厚く重くそして大雑把すぎた。それは正に鉄塊だった」感は結果的に唯一無二となった*13。
9.『MINIATURES』PANICSMILE (2004年)
PANIC SMILE - 101 BE TWISTED - YouTube
アルバムを通してずっと鉄と鉄のぶつかり合いが繰り返されるのが、この福岡出身の日本がもっと誇らないといけないハードコア・オルタナティブロックバンド、PANICSMILEの本作。13曲入って30分行ってないこれはまさにハードコア。
このアルバムでこれ以降のPANICSMILEの形態がおおよそ決まった感じがあるけれども、ここで確立した形態というのが、バンドが事故的な変拍子を暴力的に演奏しながら、ボーカル/ギターの吉田肇氏がメロディともラップとも取れない、アジテーションのような何かを、叫ぶとも呟くとも取れないスタイルで放ち続けるというもの。不思議なのは、ジャリジャリしたギターの反響の洪水とドラム・ベースの混沌とした音像でも、この歌的な何かが入るだけで妙に聴きやすくなることで、一見混沌としている曲の構成や輪郭が歌が切り替わることで分かりやすくなってくるからかもしれない。誤解を恐れずに言えば、このアルバムのグチャグチャ具合はとてもポップでキャッチーであるとさえ言えるのが、とても不思議なところ*14。
ちなみに、Number Girlと同郷・同時期のこのバンドですが、現在も活動を続けております。最近はこういう曲をしているみたいで、非常にライブ見たいし音源楽しみです。
国府達矢 "薔薇" (Official Music Video) - YouTube
私見では、ヘヴィ・メタリックな音がバンド界隈で大いに持て囃されたのはゼロ年代前半がピークで、その後は急速にそうではない方向に行った気がするんです*16。それは現在まで続いていて、このリスト自体ゼロ年代中盤で終わらせるかとも思ったんですが、幸いにしてまさに今年、これがあったので、取り上げることにします*17。
それにしても今作の、基本ひとりのシンガーソングライターによって構想され構築された楽曲群のはずなのに、徹底的にエレキギター・ベース・ドラムに拘ったサウンド構築は不思議。宅録的な何でもありの感じは非常に薄く、ここまでバンドサウンドでがっちり構成されているのは、本人の拘りなのか。そのお陰で今作は、エレキギターのメタリックな響きがニョロニョロと伸びていき紡がれる“ヘヴィ・メタリック曼荼羅”の体を成している。こんなに具体的で身体的なギターサウンドだけで、ここまで複雑な奥行きのある世界を紡げるものなのかと驚く。ここでのギターの反響はメタリックながら、妙な生命力を感じさせ、冷たく感じられないのも不思議。
それにしても、いくつものギターアレンジのアイディアが次々に現れては編まれていくのは圧巻。もしかしてこれ、今年最大のギターアルバムなんじゃないかしら、とさえ思いました。13年分の思いと考えれば納得もするけれども、完成させてくれてありがとうと、手を合わせておきたくなる一品。
以上、ヘヴィ・メタリックな10枚を取り上げてみました。手法としての“ヘヴィ・メタリック”の(筆者が思うところの)輪郭がちょっとだけでも伝われば幸いです。
*1:「トップ画像のメロトロンはなんなんだ」というツッコミ待ち
*2:例によってメジャーどころばかりだと思います。浅い…
*3:“無機質性”という意味では『Discipline』の方がより該当するのかもだけど
*4:そういう点で本作を眺めると、冒頭の大名曲『Achilles Last Stand』はやや浮いて見える。この曲がややジャンルとしての「ヘヴィメタル」寄りだからか
*5:この時期のイギリス人はともかくダブを魔改造するの好きですよね。。。
*6:80年代はこう、シンセとかゲートリバーブとかフュージョンとかのせいか、あんまり金属的な音っていうイメージがしないですね
*7:めっちゃJ作曲っぽい雰囲気なのにSUGIZO作曲なのがウケるし、当時のヘヴィなバンド状況も覗いてる気がする
*8:もちろんむしろ本作から逆算してこの記事のタイトルを付けたわけだけど
*9:このワード自体はもう少し前の時期だったと思う
*10:ZAZEN BOYSの『4』とかもあるけどね
*11:一番カート・コバーンに影響受けてるバンドがメタリカだったりして、と思うと妙に面白い
*12:結局このドラムの音に象徴される粗野さを好きになれるか否かで今作への評価が決まってしまうんだろうな
*13:ライブでも今作からの曲は殆ど演奏されないというからファンの嫌いっぷりも中々。メタリカかわいそう
*14:各曲が短いところがいいですね
*15:こういうリストものを作るときに記事の最後をその記事の年に出たものにしておくとなんかいい気がするのなんなんでしょうね
*16:理由としては、インディーロックの隆盛が特に大きいのかなと。ギターポップ・ローファイ・シューゲイザー、どれもヘヴィ・メタリックからは遠いですから。10年代もチルウェイブだシティポップだアンビエントR&Bだと、やはり非ヘヴィ・メタリック的ですもの
*17:それにしても、10数年かけて漸く完成したアルバムが時代の流れを無視してヘヴィ・メタリック的だというのも、ちょっと浦島太郎チックな妙な話