ブンゲイブ・ケイオンガクブ

本を読まない文芸部員と楽器を練習しない軽音楽部員のような感じのブログ。適当な創作・レビュー等々。

#オールタイムベストシューゲイザー (20枚)

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 今回の記事はTwitterハッシュタグで企画された「#オールタイムベストシューゲイザー」というものに投票するための記事です。

 

 そういえば去年の12月ごろにも同じ人の同じ企画に記事を上げてました。

ystmokzk.hatenablog.jp

 シューゲイザー、いいですよね。今回はもうシューゲイザーの解説の前書きとかそういうのせず、サクサクとチョイスした20枚のアルバムを並べていきます。シューゲイザーか微妙なやつも何のその。よろしくお願いします。

 

 

20位〜11位

 

20. 『Delayed』syrup16g(2002年)

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 今回は全部が全部シューゲイザーじゃないって感じのバンドもなるべくシューゲ色の強いアルバムを選ぶようにしてたりしてなかったりします。syrup16gならこれが一番シューゲっぽいかなあ。『Reborn』をジャパニーズシューゲのアンセムって言ったら多方面から殴られたり石投げられたりするかなあ。

 全体的にシューゲ色が強い分、ヤケクソ疾走ソングとシューゲをひたすら繰り返す構成の『coup d'Etat』よりも更に一本調子感がある気がしないでもないけど、でも流石にミドルテンポの曲ばっかりということで、ソングライティングの部分で色々差別化が図られてたりで面白い。

 最近書いた『coup d'Etat』の記事はこちら。

ystmokzk.hatenablog.jp

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19. 『Chain Gang of Love』The Raveonettes(2003年)

The Raveonettes/Chain Gang of Love<限定盤>

 スーパーカーの歌詞で「手抜きなんて当たり前」って歌う曲があるけど、でも考えようによっては”手抜き”だけでアルバム一枚やり通すってのは、しかもそれでいい作品ができるってのは案外難しいと思う。そんな何気に困難そうな精神がいい意味で最も当てはまる気がするのがThe Raveonettesの最初の2枚だと思う。

 男女混成・使用コードの縛り・チープなドラムマシンにグチャグチャのギターサウンドという縛りを自らかけて、1枚目はマイナー調、そして2枚目の今作はメジャー調でひたすら制約の中様々なパターンを試しながら、甘く気楽に爛れた逃避行の感じをさらりと演出してみせる。The Jesus & Mary Chain教、というか『Phycho Candy』教の第一人者、という感じもするアルバム。ぶっきらぼうにシューゲで尚且つ当たり前にロックンロールなジザメリの魅力を彼らは余裕で手抜きで取り出してドライブする。それだけで全然かっけえもんな。

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18. 『Raise』Swervedriver(1991年)

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ystmokzk.hatenablog.jp

 こちらの記事でも取り上げたのでそんなに書くことないですが、シューゲイザー寄りの轟音を聴かせるオルタナティブロック、と思って聴いた方がいいのかもしれない。ただ、ドラムがひたすら手数を稼ぎまくって転がりまわる様は実にシューゲイザー的。なぜかMy Bloody ValentineといいRideといい、シューゲイザーのオリジンたちはやたらとドラムがフィルインしまくりがち。

 あと、本人たちがシューゲに拘ってる訳でないからこそ、様々な変な音のするギターが聴けるのも面白いところ。轟音のキーにワウを多用してたり、『Feel So Real』のイントロはこれはピッチシフターかな。すごい面白いギターサウンドが様々詰まったアルバムなので、ギターサウンドのバリエーションに悩むギタリストにもオススメです。

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(2021年11月23日追記)サブスクにこれを含むアルバムが戻ってきたようです!

 

17. 『yamane』bloodthirsty butchers(2001年)

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 ギターロックの王道を突如建設した『kocorono』、更に泥臭くやった『未完成』からの、この作品のアブストラクトさにはリアルタイムで聴いてた人困惑したんだろうなって思う。ここまで曖昧なサウンドと歌が溢れたブッチャーズのアルバムはこれくらいだし、音響派への接近だったんだろうけど、結果的にシューゲイザーっぽくもなってるように思う。

 3人時代のブッチャーズは、ベースも時にリード楽器のように高音フレーズを弾き始めるのが大いに特徴的で、今作ではその特徴が端的に出てる。ベースのフレーズの左右にギターのイマジナリーなサウンドがブワーって広がっていくから、その音の感じはいつになく荒野的でない感じのファンタジックさがして、それを彼らも分かっていたのか、『nagisanite(渚にて)』なんていう楽曲も作っていたりする。つまりはそういうことだもんな。

 この次のアルバム『荒野ニオケル〜』共々アナログ盤が再発される模様。アツい。

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16. 『The Comforts of Madness』Pale Saints(1990年)

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 邪悪で毒々しいカラーリングでいながらよく見たら猫ジャケというデザインが目を引くシューゲ界の伝説の盤のひとつ。自分が持ってるCDは中古で買ったやつでえらく音が小さくて、リイシューではその辺が大きく改善されてるみたい。1990年前後のCD音小さすぎ。Rideとかにも言えるけど。

 シューゲイザーというジャンルはギターのサウンド音の壁か渦かを作る音楽なのでギターは2人以上いた方がいいような気もするけど、案外ギター1人でもしっかりとシューゲイザーができるということを3ピースバンドの彼らは証明する*1。その場合、ベースがボーカルを取るとギターが自由に動けて良いようだ。楽曲については、ギターポップからの派生のような透明感と耽美さ、ボーカルの線が細いからこそ成り立つ世界観が魅力的。最後に収められた『Time Thief』が本当に名曲。勢いがドライブしまくっててコントロールできなくなってる感じが最高。

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15. 『Darklands』The Jesus & Mary Chain(1987年)

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 シューゲイザーのルーツたる”聖典”は彼らの1st『Phycho Candy』だけども、あれは曲の出来不出来にムラがありすぎだと思う。その点、過剰なノイズを抜いて、代わりにしっかり曲を作り込んで、おまけにドラムマシンの上でぎこちなくギタートーンが遠くへ広がっていくロックンロールをやってるこの2ndアルバムの方が作品として聴く分にはずっといいと思う。シューゲ感が多少薄いのはご愛嬌。

 特に、ドラムマシンをここで導入したことは何気に後世への影響が大きかったのではと思ったりする。ロックンロール・パワーポップもペナペナのスネアだけのフィルインで全然できてしまうことを証明したし、均一で無機質なリズムの響きの上だからこそなギターサウンドの広がり方もあるというギターロックの音響的な意義もある。何よりも、本人たちが絶対そんなこと考えずに「ドラムいねーけど全然やってみせるぜ!」って感じで作ったんだろうなーっていう天然さが最高。

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14. 『Sea When Absent』A Sunny Day in Glasgow(2014年)

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 バンド名の割にアメリカはフィラデルフィア在住のバンドで、唯一グラスゴー要素のあったメンバーは活動初期に早々に脱退、結局よく分かんないことになったバンド名のまま有名になってしまった。バンド名なんてそんなもんかもしれない。元々はエレクトロ要素・ダンスフィールの強い、ビートも打ち込みがメインな音楽集団って感じだったけど、段々バンド感が強くなっていってて、このアルバムの時点ではかなりエレクトロ要素とバンドサウンドの比率がいい具合になってた。

 リードトラック『In Love with Useless』のプリミティブなビートと織りなす声やバンドサウンドや所々のエディット感の折り合いは素晴らしい。他の曲でも、シューゲイザー要素の他のスタイルへの落とし込み方にユニークさがあり、またある意味ではその雑多さがCocteau Twinsへの先祖返りのようでもある。シャリシャリ鳴るギターとブゥワーって広がるシンセの相性の良さ。ドリームポップとかとの境界線も分からなくなるし、そんなもの無理して判る必要もないんだろうなっていう快活さ。

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13. 『Lesser Matters』The Radio Dept.(2004年)

It's Been Eight Years | The Radio Dept.

 『Pet Grief』以降一気にエレクトロアクトっぽくなってしまうけど、最初のアルバムであるこれからは、そんな後のことが想像できないくらいに青臭く不器用に打ち込みのビートにザラザラでペラペラな『Phycho Candy』教なギターを被せて疾走する、可愛らしくも爽やかなベッドルーム・シューゲイザーと呼びたくなるスタイルでやり切っている。

 ギターのジャリジャリ、またはキンキンした音に色々を託しまくったサウンドはひたすら潔い。その上で、宅録じみた質感になるようあらゆるエディットがなされ、特にボーカルの低音がガッツリ削れてペラペラした存在感になっている様は実に今作的な不安定さと、不安定だからこそのドリーミーさ・ドラマチックさを獲得している。北欧スウェーデンの感じというのも薄らあるようなないような感じで、凄く甘く青白くシューゲイズした可愛らしいガレージロック集になっている。

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12. 『Heaven or Las Vegas』Cocteau Twins(1990年)

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 Cocteau Twinsサウンドの先見性には様々に驚くべきところがあり、楽曲としてはポストパンク/ニューウェーブなドロドロであっても、そのサウンドの中にドリームポップだとか、もしくはシューゲイザーだとかに通じるような因子が早い段階から含まれている。様々なギターの轟音サウンドが聴ける2nd『Head Over Heels』は1983年で、ジザメリの『Phycho Candy』よりも2年早い。でも、甘くメロディアスで陶酔的な楽曲とサウンドを味わうなら、断然このアルバムだろう。

 彼女たちが持っていた透明感が、機械的で攻撃的なサウンドでもなく幻想の世界に完全に行ってしまったサウンドでもなく、4の倍数の分かりやすいビートの上で、過剰さを抑えた上でしかししっかりと展開される。丁寧にやると、ここまでポップで快楽的なトラックを作ることが出来るんだと、順番に聴いていくと驚くことうけあい。空間的エフェクトも爽快に使われて、まるでThe Cureのポップな時みたいなスカッとした感じがあって、爽やかで瑞々しい。代表作ではないんだろうけども、マジで最初はこれから聴いた方が入りやすいのかも。

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11. 『EP's 1988-1991』My Bloody Valentine(2012年)

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 シューゲイザーの偉大なオリジネイターのひとつである彼らの、まさにそのシューゲイザーの”誕生”の時期の音源はシングル作品で、長らく入手が困難な時期が続いていた。それが、2012年に突然バンドがこのコンピレーションリリースのアナウンスをして一気に入手難度が下がった。楽曲自体の良さ以上に文化遺産的な価値すらありそうなシングル群だから、こうなって良かった。今やサブスクでも聴ける。

 『You made Me Realise』『Feed Me with Your Kiss』の2枚のシングル収録曲の方が彼らの1stフル『Isn't Anything』よりも遥かに「インディーギターロックから派生したシューゲイザーとはこういうもの」というのが分かり易く伝わると思う。思うに、シングル2枚で早々に相当な収穫を得た彼ら、アルバムは既に応用の場面に入っていたのかもしれない。ガレージロック色の強いシングル表題曲以上に、それ以外の曲が早々にシューゲイザーというジャンルの楽曲の幅を規定する。その後の『Loveless』期のシングルも勿論必聴。今ではシューゲイザーの履修に欠かせない1枚と言えましょう。

 上記2枚のシングルの時期については以下でもう少ししっかり書いてます。

ystmokzk.hatenablog.jp

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10位〜6位

 

10. 『ロンググッドバイ』きのこ帝国(2013年)

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 このバンドのシューゲイザー要素の本当に上澄みだけを取り出したような、果てしなく純度の高い作品。そう考えると、5曲(うち1曲短めのインスト的な曲なので実質4曲)というボリュームなのも仕方がないのかもしれない。ここに収められた、殺伐とした詩情を通り過ぎて身も蓋もないほどの諦観まとめみたいな世界観は、長続きできるものではない。ここから『東京』に行くのは仕方がない。

 女性が2人いるというメンバー構成は特にコーラスワークで活きてる。The CureCocteau Twinsのように冷え切っていながら、冷たいトーンと衝動性・拡張性に満ちたディストーションギターとをキリキリと振り回す様は、彼女たちなりの”破滅の果て”みたいなものを感じさせてくれて、その透徹っぷりには憧れと、畏怖と、あと少しの心配とが浮かぶ。FISHMANSを意識したリズム感のままシューゲイザー化してしまった『パラノイドパレード』のスケールの妙な大きさが特に素晴らしい。

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9. 『Rock Action』Mogwai(2001年)

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 ポストロックの代表者のひとつとしてMogwaiは広く知られているけど、シカゴ音響派とかのポストロック感と比較すると、彼らのサウンドはずっとシューゲイザー寄りだという感じがしてくる。『Rock Action』はその手の楽曲が多く収録された大好きな作品だ。

 冒頭のインスト曲の時点で、遠くからジリジリと迫ってくるギターノイズの感じが意識をシューゲイザー的に拡げていく。そして、なんか各サブスクで再生回数1位になっている『Take Me Somewhere Nice』の、郷愁のワルツ調に冷たく優しいサウンドと、やがて嵐のような轟音がやってくる様の美しさ。低い声で歌う様子が優美なストリングスやアルペジオと、そして轟音に苛まれ続ける様は素晴らしい。そして『Two Rights Make One Wrong』というもうひとつの大名曲の存在。スコットランドの寒そうな田舎の感じも手伝って、非常に情緒がリリカルに吹き荒れるアルバムだと思う。

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8. 『Home Everywhere』Medicine(2014年)

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 Medicineも活動時期的にどちらかと言えばオリジネイター側のバンドの筈だけども、不思議にあまりそんな感じがしないのは、2012年の再結成後も多く作品をリリースしていて、どれも現役感バリバリの作品に仕上がっているからかもしれない。彼らの場合、マイブラとも通ずる女性ボーカルの存在感がありながら、それを圧倒するギターの音が激しくヒステリックで攻撃的であることが最大の特徴。

 なぜかサブスクに無いこのアルバムは、1990年代から格段に向上したスタジオ技術を有効に活用し、彼ら特有のヒステリックなサウンドをどう”現代的に”駆動させるかに相当アイディアを駆使した作品。エグいギターサウンドはそのままに、特にパン振りの強烈さは、聴くものの神経を直接持っていく。体調が悪い時には聴くのは気をつけた方がいいかもしれないくらいのエグ味を、ここで新たに獲得しているというのは、1990年代のバンドが長い時を経てもまだ前進し続けられていることの証で、素晴らしいことだと思う。ほんと聴くときの体調だけは気をつけて。。下のPVもまた、神経を持っていきそうな絵をしてる…。

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7. 『23』Blonde Redhead(2007年)

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 シューゲイザー名盤のリストの中に、このアルバム以外全然シューゲイザー的ではない、出自も全然違う彼らのこの作品が入るのがなんか好きだ。場違いな感じのはずなのに、今作に限って言えば全然場違いじゃない、むしろこの作品ほどシューゲイザーの覚醒感に迫った作品も珍しいのでは、と思える。4AD期のこのバンドの作品はどれも彼女たちのキャリアの中で特殊で、そして不思議と悪魔的な魅力を放っている。Cocteau Twins的なゴスなファンタジックさに別のルートから到達したような感じ、と言えばいいのか。ジャケットは訳が分からないけど…。

 呪詛的なボーカル回しと、スムーズに躍動するリズムセクション、そして輪郭が曖昧なまま巨大な渦のように旋回するギターサウンドの強烈さは冒頭のタイトルトラックからいきなり全力疾走。ノーウェイブ側からのオルタナティブロック出自による冷めた歌やドラムのトーンが、シューゲ的に配置されたサウンドエフェクト群の中でゴス的な現実味の薄い躍動をすることで、結果としてシューゲイザー的な非現実性が広大に駆け巡っていく。そして、そんな苛烈なシューゲイザーが続いた後に出てくるポップで可愛らしい『Silently』はまるでご褒美のような桃源郷の感じ。この振り幅の魅力的な具合はアルバムに確実にキャッチーなものをもたらしている。

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6. 『名前をつけてやる』スピッツ(1991年)

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 アルバムを選ぶときに他の人の選出を見て「あっそういえばこれもシューゲイザーのアルバムかあ〜」ってなって余裕で上位に選びました。Ride歌謡なるものを早々に極め切った、スピッツの偉大で、静かに異形さが蠢く2ndアルバム。

 モデルにしているシューゲイザーマイブラではなくライドなので、そのテイストの忍ばせ方の奥ゆかしさがいい。間奏だけとかアウトロだけとか。そしてその溜めてきた分のシューゲが一気に解放される『プール』の、あの感覚。パンクみたいに、シューゲイザーもアティチュードだとすれば、この曲ほどそれを体現している楽曲も珍しいと思う。歌詞さえシューゲイザーって感じがしてくる。完璧だ。これ以上のシューゲイザーソングなんて本人たちだってなかなか生み出せないだろう。

 全曲レビューを書いてますので、詳細はそちらで。読み易くなるよう少し整理しました。

ystmokzk.hatenablog.jp

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5位〜2位

 

5. 『Painful』Yo La Tengo(1995年)

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 Yo La Tengoもまた、シューゲイザーの枠に収まらず、様々なVelvet Undergroundサウンド様式を広くインディーロックに解放するような活躍を見せ、いまだにそういった夜と影のような、もしくは木陰と白昼夢のようなサウンドを追求し続けている偉大なバンド。だけど、一番シューゲイザーぽっくあるのは、そういうサウンドを採用した1発目であるこのアルバムだろうか。

 ゆっくりとジャケットのような夜に浸っていくような導入の『Big Day Coming』が明けて、いきなりシューゲイズギターでゆったりドライブしていく『From a Motel 6』がスコーンと抜けていくところは、彼らならではの侘び寂びの効いた快活さがある。その後も、ややワイルド目だったりややまどろみサイケ目だったりと、様々に”夜を発見”していくサウンド展開を見せて、そしてこの作品には実験的なオブスキュア大作が無いので、小気味良いテンポで最後の、不思議な甘い感傷を夜に残していく『I Heard You Looking』に到達する。たとえば、1曲目で車庫を出発して、ずっと夜中の町を車で走って、最後の曲が終わる頃に家に辿り着くようなドライブをしたりしたら、たまらないだろうな。

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4. 『LovelessMy Bloody Valentine(1991年)

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 言うまでもなく、シューゲイザーの代名詞のような作品。これを1位にすることだけはしたくなかったし、まあこの辺の順位に今回はしときます。

 囁くようなボーカルが轟音に飲まれていくことのセクシャルな甘さ、暴力的でありながら同時に陶酔的にも響くギターサウンド、ギターサウンド、ギターサウンド。ドラムは当時のメンバーの病気等から打ち込み多用だけど、でもちゃんとドラマーの持ち前のバタバタ感を再現しようとしてる節があるのが面白い。個人的には、意外とギターロック的なフォーマットの楽曲もあるのが、陶酔的なだけでない、少しばかりのヒロイックさが残ってて、より愛せるって思う。

 このアルバムの聴き方について自分が何か新しい視線を付け加えられる気は全くしない。言及され尽くして、研究され尽くして、ひとつの理想的フォーマットとなった音とサウンドだ。でも、Kevin Shieldsの最近のインタビューとかを読むと、まだそんなネタが残ってるんだ、とかも思ったりする。奥深い作品。

 このアルバムについても、以下の記事でより色々と書いています。

ystmokzk.hatenablog.jp

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3. 『Souvlaki』Slowdive(1993年)

Slowdive - Souvlaki | リリース、レビュー、クレジット | Discogs

 シューゲイザー御三家(他二つはマイブラとライド)の中では最もディレイやリバーブといった音響方面での影響力が強い彼らのサウンド。御三家の中でも最も憂いの効いた、沈んだまま浮かび上がるような曲調が(少なくとも1990年代については)特徴で、その感じが轟音サウンドとともにひとつのピークに達したのがこの2ndフルアルバム。これももう、言及・研究され尽くしてるアルバムかもしれないけども。

 『Loveless』の轟音が「暴力的でかつ陶酔的」なものだとすれば、こちらの作品における轟音は「ひたすら陶酔的なもの」としてデザインされている気がする。音の響き方に気を配り、その中で甘く蕩けるメロディをどう浮かび上がらせるかに腐心する。先発のシューゲイザーバンドと違って落ち着き払ったドラムの動きが何かを象徴している気がしないでもない。彼らもまた女性メンバーのボーカルも武器として、天国のような音世界を作ってみせる。けども、勝負曲と言えそうなキャッチーなものについては、バンドの中心人物であるNeil Halsteadの声が前に出てくる。彼はこのバンド解散後、一転してカントリーロック方面に大きく舵を切ったMojave 3を始める。不思議だけど、多面的な魅力がある人だ。

 このバンドのこの作品や次の『Pigmalion』があったお陰でシューゲイザーが後のドリームポップの苗床になることができた、とも言えるのかもしれない。ドリームポップ方面へのギターサウンドの使用法の整備に尽力した彼らが、再結成後のアルバムでギターロック感の強い作品を作ったのはちょっと意外で、でもMojave 3からの流れを考えるとなんだか分かる気もしてくるから面白い。

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2. 『Going Blank Again』Ride(1992年)

GOING BLANK AGAIN (2LP)/RIDE/ライド|ROCK / POPS /  INDIE|ディスクユニオン・オンラインショップ|diskunion.net

 シューゲイザー名盤のRideの枠は『Nowhere』というのに常々飽き飽きしていた。確かに何曲か素晴らしい曲があって、『Vapour Trail』はシューゲイザーを代表する楽曲のひとつだとは思うけど、でも個人的には、彼らの2ndの方がギターロック的にはずっと面白くて、好きだなって思ってる。

 確かに脱シューゲイザーし始めている作品ではある。いくつかの曲では空間系エフェクトのそんなに掛かっていない、ギターロック的なシャキッとした音のギターカッティングを聴かせる楽曲もある。でも思うのは、このバンドの2大フロントマンであるところの、Mark GardenerとAndy Bellのコーラスのハミングが入るだけで、ギターロックな質感の楽曲がRide的なシューゲイザーに変貌するということ。空間エフェクトがかなり薄い『Not Fazed』も二人のボーカル処理だけによってシューゲイザーっぽく聞こえる様はまるでサギだけど、でもそれだけ、この二人の声質とハーモニーは、それそのものがシューゲイザーだなって思えるなと。

 なので、そんな二人のボーカルがあって尚且つ演奏もシューゲイザーであれば、楽曲のシューゲイザー濃度は充満し、アルバム冒頭の『Leave Me All Behinde』ではそれが爆発している。意外と大味なフレージングが含まれるのに、しっかりとシューゲイザーだなって思えるこのバンド力。そして、もうシューゲかどうかとかどうでもいいくらいに最高なギターポップ曲『Twisterella』の存在。イントロのギターの感じの割にやっぱりコーラスワークやアンサンブルによってきっちりシューゲにる『Mouse Trap』も良いし、オルタナロック的なギターサウンドのままシューゲする『Cool Your Boots』も素晴らしい。全体的に、ちょっとサウンドSwervedriver側にシフトした感じということなのかも。それはつまり、ギターロックとしてはより最高に仕上がってるってこと。

 Rideも再結成後、2017年に再結成後初のアルバムをリリースしてから、間髪入れずに次のアルバムをリリースしたり、ライブでは最新の機材でよりギターロックとシューゲイザーの間を爽快に往復してみせたり、なかなかに今を生きるバンド然としている。シューゲイザーのオリジネイターはみんな今もアグレッシブな感じがあって、シューゲイザーという概念からイメージされる引っ込み思案な感じは意外と無い。ファンとしてはありがたいこと。

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1位

 

1. 『Microcastle』Deerhunter(2008年)

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 スピッツのところで書いた「アティチュードからしシューゲイザー」な感じがまさに彼らに、Bradford CoxとLockett Pundtのコンビネーションに当てはまる。そしてまた、サウンドを美しく爛れさせること”についてこのアルバムで彼らが行ったアプローチは、シューゲイザーの持つ耽美的な要素の持つ意味自体を少し変えてしまったような気さえする。シューゲイザーはこんな、なんか危険で、毒々しくて、不健康で、怪しくて、しかし魅惑的な存在だったんだな、ということを、彼らはVelvet Undergroundや、それよりもっと前のポップスやロックンロールやブルーズからさえ掘り起こして持ってきた何かによって表現してみせた。

 壊れたワルツのように突如噴き上がる『Cover Me(Slowly)』から、冷徹さを保ったままサイケデリアに浸っていく『Agoraphobia』*2に繋がる展開の素晴らしさはいくら賞賛され尽くしても足りないだろうし、その直後に、昔のどこかの奇妙なロックンロールを強引にシューゲイザーにしてしまったかのような『Never Stop』が続く流れはもう完璧も完璧。

 かと思うと、アルバム中盤ではインストなのかBradford Coxに呟きなのか、みたいな爛れきったトラックを連発し、サイケデリアの奥に何か見えてはいけない世界を垣間見させようと手招きしてくる。そして『Nothing Ever Happened』で急にまた生気を取り戻したかと思ったら、後の『Monomania』での趣向が少し顔を覗かせる『Saved by Old Times』を挟んで、Lockettの宇宙的な『Neither Of Us, Uncertainly』、Bradfordの腐り果てていった果てにシューゲイザー覚醒していくような『Twilight At Carbon Lake』というシューゲワルツ2連発で華麗に勝つゴシックにアルバムを閉じる。

 リアルタイムでどうしてこれをすぐに手に取って聴いてハマったりしなかったのか、ずっと人生の汚点に感じてる。彼らの、冗談まじりに深く病んだ世界に堕ちていく世界観が、とてもキャッチーに提示される名盤。この次のアルバムが、これをさらに上回るサイケデリア名盤『Halcyon Digest』なのも含めて、完璧も完璧、Pitchfork以降のUSインディーという文化が生み出した最大の遺産ではないかと思う。またライブ観たい。

www.youtube.comだってライブでは普通にBradford Coxが歌うんだもん…彼の曲だって思うよ。

 

・・・・・・・・・・・・・・

終わりに

 以上20枚でした。

 シューゲイザーって、ギターを弾く人間からすると、機材を揃えさえすればあとは感覚一発で一気にグワーってできてすごく魅力的なものだけども、でも意外とそれがなかなか上手くいかなかったりして、首を捻ったりします。大事なのはファズよりもリバーブ、特にリバースリバーブなんだな、ということは、でももう流石にシューゲを志す人たちの中ではそれなりに常識になったのかも。

 ノイズという本来コントロールできないものをコントロールして、それで轟音の嵐を呼び起こして、そこに甘いメロディを垂らして、暴力的なのに甘美なテイストを得る、という構造は魅力的で、ひとたび自分でそれっぽいサウンドが出せるようになると幾らでも皮算用してしまいます。しかし、そう簡単に名作に近づけるものではありません。名作はだって、単純に曲が良い。良い曲を作るには、シューゲイザー以外も色々と広く聴いといた方がかえっていいのかなと、月並なことを思います。

 これからも世に時々良いシューゲイザーが吹き荒れますように。

 

 最後に、1位から順番にリストを載せておきます。

 

1. 『Microcastle』Deerhunter(2008年)

2. 『Going Blank Again』Ride(1992年)

3. 『Souvlaki』Slowdive(1993年)

4. 『LovelessMy Bloody Valentine(1991年)

5. 『Painful』Yo La Tengo(1995年)

6. 『名前をつけてやる』スピッツ(1991年)

7. 『23』Blonde Redhead(2007年)

8. 『Home Everywhere』Medicine(2014年)

9. 『Rock Action』Mogwai(2001年)

10. 『ロンググッドバイ』きのこ帝国(2013年)

11. 『EP's 1988-1991』My Bloody Valentine(2012年)

12. 『Heaven or Las Vegas』Cocteau Twins(1990年)

13. 『Lesser Matters』The Radio Dept.(2004年)

14. 『Sea When Absent』A Sunny Day in Glasgow(2014年)

15. 『Darklands』The Jesus & Mary Chain(1987年)

16. 『The Comforts of Madness』Pale Saints(1990年)

17. 『yamane』bloodthirsty butchers(2001年)

18. 『Raise』Swervedriver(1991年)

19. 『Chain Gang of Love』The Raveonettes(2003年)

20. 『Delayed』syrup16g(2002年)

 

 あくまでも今日の朝にパッと決めた20枚なので、全然絶対的なものではありません。ので、ここに入っていない素晴らしいシューゲ作品も星の数ほどあることは少なくとも間違い無いかと思います。

 それではまた。

*1:まあスタジオ録音ではダビングをしっかりやってるけども。

*2:この曲がLockett Pundtの作品で、さらにスタジオ版で歌ってるのもLockett Pundtだということに長いこと気付いてなかった。ずっと「流石Bradford Cox!退廃的で美しい…」とか思ってた。次のアルバムの『Desire Lines』といい、Lockettは何気に作品のキーとなる楽曲を結構作ってる。