ブンゲイブ・ケイオンガクブ

本を読まない文芸部員と楽器を練習しない軽音楽部員のような感じのブログ。適当な創作・レビュー等々。

4ADというレーベル、そしてアルバム30枚(前編)

 今回は表題のとおり、1980年代頃から現在に至るまで優れたロックアルバムやバンド等を輩出し続けているイギリスのインディーレコードレーベルである4ADについて、改めてその歴史や拘りについて書き出して、そして具体的にその長い歴史から30枚のアルバムを選んだので、それらのレビューも含めて色々と観ていこうという記事です。

 この記事の前の記事でBig Thiefのライブについて書きましたが、このバンドが4AD所属なため何度かこの文字列を打っていたら思うところがあって、この記事を書くことにしました。一気に勢いで選盤して描いていこうと思ったんですが、色々と考えてたら最初20枚にしてたアルバム選定も30枚に達したり、前書き的な部分だけで相当なボリュームになったので前半と後半に分けて書きます。

 

 

4ADの歴史ーイギリスのレーベル?アメリカのレーベルじゃ…?ー

 今回の30枚選んだリストを見ても思ったのが「イギリスよりもアメリカのバンドがずっと多くないか…?」ということで、ですが、その辺は長くやってきたレーベルなので色々と歴史的変遷があるみたいで、まずはその辺も含めてレーベルの流れをその始まりからざっと見てみましょう。

 

 

その始まりーゴスな雰囲気を中心としてー

創始者の1人であるIvo Watts-Russell

 4ADは1979年に、イギリスのインディーレーベルBeggars Banquet Recordsのサブレーベルとして生まれました。創始者はIvo Watts-RussellとPeter Kentの2人で、うちPeter Kentは早くも1981年に別レーベルの経営のため離脱するので、その後1990年代途中まではIvo Watts-Russellが創始者・所有者兼社長として大いに影響力を持っていました。

 英語版Wikipediaによると、“4AD”という語*1は“forward”の言い換えのようで、なので最初このレーベルはBeggars Banquet内での実験的ポジションと目されていたようです。その結果契約したBauhausはすぐに親元レーベルのBeggars Banquetに移籍しますが、その後Cocteau TwinsDead Can Danceなどのアーティストの活躍により、4ADは「ヨーロピアンで退廃的な、“ゴス”の音楽性や雰囲気」を象徴するレーベルとなりました。イギリスのレーベルとしての印象はおそらくこのゴス関係やあとは1990年前後のシューゲイザー勢が担っている部分が大いにあります。

 

Beggars Banquet Recordsについて

 ところでこの親元レーベルであるBeggars Banquet、名前はまあThe Rolling Stonesの言わずと知れた1968年のアルバムから取ったんだろうなと思われますが、このレーベルから出た有名バンドとなると今ひとつ浮かびにくいところ。

 しかし、ここの傘下にあるレーベルがどれも超有名なため、結局、インディーロックに大いに影響を与え続けてきたレーベルであることは間違いありません。だって、4ADはもちろん、Matador*2もRough Trade*3も傘下だっていうのだもの。他にもエレクトロ方面のXL Recordings等々、かなり手広くやってて、なんでそんなに巨大なのかびっくりしてしまう程です。最早インディーなの…?

 しかも訳が分からないのは、2008年にはグループ内の事業再構築が行われ、何故か親元のはずのBeggars Banquetともう一つのレーベルを4ADが吸収する、という事態になっています。これは後述の新社長Simon Hallidayがレーベルを動きやすくするために実施したらしいです。ふうんそういうことか。

 

Pixiesとの契約、そしてロサンゼルス事務所の設立

 外形的には間違いなくレーベルのターニングポイントとなったのはPixiesとの契約のように見えます。4ADは1985年に最初のアメリカのバンドとしてThrowing Musesと契約し、そしてThrowing Musesとの対バンでPixiesを発見し、創始者は少々嫌がりつつも、1987年にPixiesと契約を結ぶこととなります。

 Pixiesの特に前期2枚のアルバムは、様々模索されて形成れつつあったUSオルタナティブロックのその後のサウンドやら方向性やらに大きな影響力を持つこととなった作品で、レーベルがイギリスだったことから彼らも最初はヨーロッパの方が人気があった状況らしいですが、しかしその影響力は特にアメリカのバンドが大いに受けたところで、NirvanaKurt Cobainも自身の超有名曲『Smells Like Teen Spirit』をして「Pixiesをパクってたら出来た」と公言していたりするくらい。

 そして1992年にワーナーブラザーズと契約し、ロサンゼルスにオフィスを開いたことで、4ADはよりアメリカのインディロックにコミットしていくこととなります。配給が超メジャーどころのワーナーって、本当にインディー…?とも思えますが、しかし、特に2000年代以降のUSインディー勢で4ADの名前を見ることが多くなってくると、このロサンゼルス事務所の存在感の大きさが窺い知れる気がします。

 

Simon Halliday社長時代(2007年〜現在)

 とはいえ、1999年には創設者だったIvo Watts-Russellが4ADにおける持株を親元に売却し*4、その後の2000年代中頃までは4ADにもかなり下り坂の状況があったらしいです。そこからまた状況が変わっていくのは、2007年にSimon Hallidayが社長となり、様々なインディロックバンドと契約を交わしていくようになったところでしょう。以下のインタビューにもあるとおり、イギリスのマンチェスター生まれで、しかし4ADの仕事の都合で1度に4週間ほどアメリカに滞在する、という生活をしてるそう。クラブプロモーターからダンスミュージック熱によってWarpレーベルに10年所属し、そこからさらに4ADというキャリアはなんかすごい。

 

note.com

 

 こっちの記事*5によると、彼は元の創始者であるIvo Watts-Russellとは会ったことも無いらしく、なので直接的な“4ADの美意識”みたいなものの連続性は途切れています。しかしながら、外野が「さすが4AD!」みたいに思ってしまうような、レーベルが持つ独特の雰囲気はなんだかんだ言っても続いているものがあるような気がして、それがどの辺まで彼らのイメージ戦略で、どこまで契約しているバンドが「自分たちは4ADなんだ」という自意識によるもので、どこからが単なる偶然なのかは、自分のような完全外野の人間からは推し量ることも難しそうなところ。

 何にせよ、そうやってまたインディーロックの最前線に帰ってきた4ADはそのまま、2010年代も2020年代も精力的にリリースを続けてますよ、ということです。

 

他の同時代のインディレーベルとの比較

 他の同時代の、と書いたものの、そこは40年以上も続く老舗、様々な“同時代”が存在する訳なので、ここでは各年代ごとに、比較というか、他にはこんなインディレーベルがあった中で4ADもいたんだなあ、くらいの理解ができればと思って書くところです。各年代ごと、と書いときながら、1980年代とそれ以降の別しかありませんが…。

 

1980年代

 1980年代のイギリスというのはインディレーベルブームで、Sex Pistolsのデビューによって「俺たちでもできる」精神、つまりDIYがよく行き渡った結果、おそらくあの国でもとりわけインディレーベルが充実していた時代が到来しました*6

 おそらく、4ADが生まれて初めに鎬を削ることとなったのはFactory Recordsでしょう。何せ向こうはある意味ポストパンクというスタイルの源泉であり至宝であるところのJoy Divisionを抱えていて、それがその後すぐに悲劇的にいなくなっても、その後釜であるNew Orderがダンス方面に進化しより大ヒットする、という時代でした。その他にも様々な有力UKアクトを抱え、マッドチェスタームーブメントなども起こしますが、しかし1992年に破産してレーベルは終了します。

 The Smithsで成功したRough Tradeは親元が同じなので置いとくとして、1980年代イギリスはネオアコ関係でも様々なレーベルが生まれ、Cherry Red*7Postcard*8、Sarah*9などは特に日本にもコアなファンが多いですが、そんな中でネオアコの範疇を超えて有力レーベルに成長したのがAlan McGee率いるCreation Recordsで、特にシューゲイザーについてはいわゆる御三家(My Bloody Valentine、Ride、Slowdive)全てこのレーベルであり、それらの後には国民的存在となったOasisが控えており、まさに一時代築いたレーベルと言えます。しかしながら、1992年には資金難によりメジャーレーベルであるソニーと契約し*10、何とかやっていきましたが遂に1999年に他ならぬAlan McGeeがレーベルを抜けてしまい、活動を終了することとなりました。

 

1990年代〜現在

 Pixiesの成功とロサンゼルス事務所設立、そしてThe Breedersの更なる成功等々があったため、4ADは期せずして、アメリカの様々なインディレーベルと同列の存在になってしまいました。この辺とそのセールスの様々な面倒ごとがもしかすると創始者をして神経衰弱に至らしめた部分かもしれませんが、でも確かに4ADは1990年代のUSオルタナティブロックの一部でもある訳です。

 1990年代に顕著なUSオルタナのインディレーベルで1つだけ選ぶならやはりSub Popなのかなと思いました。肝心のNirvanaは1990年中にメジャーレーベルと契約していますが、それ以外にも様々なオルタナグランジバンドがこのレーベルから世に出て行きました。

 イギリスのインディレーベルと違って、アメリカのそれは、もちろん色々ありもするんでしょうけど、しかし有力どころはそんなに消滅したりしないで、ずっと続いている印象があります。購買者がイギリスより遥かに大きいのもあり、ライブをして回ればとりあえずは糊口を凌げるくらいにファンベースがしっかり築かれるからでしょうか。たとえばSuperchunkのメンバーによって始められたMerge Recordsは、やがて有力インディロックバンドの大いなる受け入れ口のひとつとなり、4ADやMatadorと比較しても全然引けを取らないくらいのメンツが揃っています。

 逆に言うと、他のイギリスの1980年代のインディーレーベルがどんどん消滅していく中で4ADがそうならなかったのは、他ならぬ4ADもそういうアメリカの豊かなファンベースに支えられて、どことなく他のUSインディレーベルと同じように支持されてきたから、つまり4ADが半ばアメリカのインディレーベル化したからなんでしょうか*11。それが創始者の思想から外れたもので結果創始者の精神を破壊してしまったのだとしたら、何とも皮肉な話ですが。

 

 

4ADの音楽的特徴

 上述のとおり、当初のレーベルカラーを強く左右したIvo Watts-Russellが途中でリタイアしたり、その前の時点でオルタナ色が強くなったりなど、様々な変化を経て40年以上続いてきたレーベルなので、必ずしも全ての所属アーティストに一貫する美学があるというわけではないところですが、それでもぼんやりと「ああ、確かに聴いてて4ADなのも納得だなあ」などと思う部分ってのはあります

 なので、それが何なのか、朧げながらちょっと改めて考えてみます。

 

ゴス

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 ゴスという音楽文化もどこが発祥かとか正確な定義は何かとかを論じづらいジャンルだと思われるけれども、少なくとも1980年代の4ADの基本方針としてゴスというのは大きなファクターでしょう。

 元々から存在したゴシック小説などから来る「ダークで退廃的」*12なイメージ、死と暗黒の世界に耽美を見出す術を音楽に落とし込もうとしたのがゴシックロックの始まりで、それが色々あってゴスファッション等を含む現代のゴスカルチャーにつながっていきますが、その中で4ADの果たした役割はある程度中心的なものだったと言って良いでしょう。

 レーベル最初期に契約したBauhausはまさにゴスを確立した存在のひとつで、バリトンボイスで独特のジェントルマン風味*13を利かせ、マイナー調でヒステリックなギターサウンドを響かせるところに典型的なゴシックロックの形態があります。他にも4AD初期はCocteau TwinsDead Can Danceはゴスの要素があるし、創始者自身が参加し自身の美学を追求したThis Motal Coilといったユニットもあります。

 特に1990年代くらいまでの4AD作品においてはジャケット等のヴィジュアル面でもこの路線を徹底しようと努め、23 Envelopeという名のデザイン製作所を率いたVaughan Oliver*14が多くの耽美なアートワークを手がけ、レーベル全体のゴスな雰囲気の創出、ひいては1980年代4ADの“一貫した美意識”に下手すると音楽面以上に効力を発揮していたかもしれません。

 

異国幻想・フォークロアー幻想

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 非西洋的なもの、オリエンタルなもの、西洋近代科学では理解し難いものに“辺境”のラベルを付して、その理解不能さに恐怖や闇を、または退廃的な官能を感じて愛好する、というのは所謂Edward Saidが“オリエンタリズム”と呼んで非難したところの典型的な傾向かもしれませんが、それ自体の是非はともかくとして、ゴス的な音楽実験の一環として進んでいった4ADの音楽がこのような「土俗的・呪術的世界観の危うさ・ダークさ・退廃美」のようなものをよく含んでいる、ということは、これは1980年代だけの話ではなく、現在に至るまででも時折出てくる傾向のように思えます。洗練されたダークヒーローとしての吸血鬼ではなく、もっと理解不能で悪意なしに根源的に悍ましく感じられる世界が広がっているような、そんな雰囲気。

 これに関しては4AD初期ならCocteau TwinsDead Can Danceが特に当てはまるでしょう。前者はケルトか何かの暗黒民謡を引っ張ってきてヴィクトリア朝様式に浸したかのようなムードを召喚し、またDead can Danceはもっと直接的に“辺境”地域の呪術的な意匠やサウンドなどを自身のサウンドに取り込みました。

 演劇的なゴスの表現よりもより根源的に「危うく」「取り返しがつかない」「救いようがない」感じのするこの傾向はある種のエクストリームな表現技法であり、後年の同じレーベルに所属することになったバンド等はこの側面やさらにそこから派生する次の要素などにこそリスペクトを捧げて、自身の作風をそっちに寄せてる節が時折見受けられます。たとえばBig Thiefの果てしなく拉がれるような反復の続く名曲『Cattails』には、そんな「普通にオフィスに勤めて街に暮らすのとは全然別の世界の“果てしなさ”」みたいなものが感じられ、それはある意味ではCocteau TwinsDead Can Danceとも繋がるものがあると言えるでしょう。

 なお、4ADは1986年には本当に異国であるブルガリアの合唱団による民族音楽的作品『Le Mystère des Voix Bulgares』のリイシューも行なっています。創始者がどハマリしたというこの音源を聴くと、創始者の考える“ゴス”の源泉みないなものに想いを馳せることができそうでもあります。Cocteau Twinsで「幻想のゴスの国」を作ってたけど現実にそういう音楽が存在してた…みたいな感じだったのか。

 

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 1990年代以降この要素含むゴス的要素は4ADの中でも減少していくところですが、異国情緒という意味ではBeirutが活躍しているところは見逃せません。彼らの場合もっと旅情というか、“旅先で抱く異郷への憧れ”みたいな雰囲気ではあり、恐怖的な雰囲気は薄いですが。

 

幽玄さーやがてドリームポップへー

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 “辺境”を妄想する、ファンタジーを作り上げていくことによって、サウンドの方は半ば必然的にサイケデリアを纏っていくことになります。特に“不思議の国の歌とサウンドという感覚が強いCocteau Twinsにおいてこの傾向は最も強く、彼女らが後に“ドリームポップの元祖”などとカテゴライズされていく要因となります。

 Cocteau Twinsの世界観はどこか童謡めいた部分もあり、なのでダークファンタジーなのかノスタルジアなのか、その辺の境界が全く曖昧になって降り注いでくるところに原液たる豊穣な混沌が存在しています。そしてこれは、後年の4AD所属アーティストの一部が何よりも追い求めるところにもなります。Deerhunterはこの意味であまりにも強烈に4AD的な存在ですし、またノスタルジアという意味でなら、Red House PaintersのMark Kozelek4AD所属中もそれ以降も、ある地点まではずっとこの濃度と強度を求めて曲を描き続けていたようなところがあります。Ariel Pinkの毒々しさの中に子供っぽさが混じる感じのサイケデリアもこの傾向の変奏のひとつと捉えられるかもしれません。

 やや強引なことを言えば、4ADのこうしたドリーミーさ・サイケデリアというのは全体的にどこか「救いのない」感じがしなくもないような気がします*15。リバーブの向こうに意識が溶け出してしまうような、そんな「もう帰ってこれないかもしれない」ような感覚が、独特の寂しさやら無気力さ、そしてそれらから来る耽美さやらを生み出しているのかもしれません。

 

様々な例外(例外の方が多いかも)

 創始者の強い意志とコントロールがあった1980年代は概ね上記のような特徴がレーベル全体に敷衍されていた印象がありますが、それでも1980年代時点でもいくつもの例外があり、そして1990年代以降にはむしろ例外の方がメインになったり、新しい伝統が形作られたりした感じがあります。どういったものでしょうか。

 

1980年代の4ADのヒットメイカ

 上述の特徴というのは決して売れる音楽に直結しない、むしろセールスを捨ててでも美学を追求しようとする姿勢に他なりませんでしたが、創始者も別に全てのバンド等にそういったものを求めた訳ではないらしく、1980年代時点で例外的な音楽性を実施した結果ヒットにつながった事例がいくつかあります。

 後述するModern Englishは当初Joy Division方式のダークなポストパンクを展開しましたが、2枚目のアルバム以降急にポップセンスに目覚め、それによって本国イギリスはもとよりアメリカでスマッシュヒットするという、後の展開を思うと重要な役割を果たしました。

 また4AD所属のDJによるユニットM/A/R/R/Sは『Pump Up The Volume』というハウスナンバーをリリースし、これは英国製ハウスの最初の大ヒット曲となり、様々な国でNo.1ヒットを記録しましたが、あまりにレーベルの美学からかけ離れていた音楽性だったし、その無許可サンプリングの問題などもあり様々な論争が発生、辟易したアーティスト側はこれが唯一のリリースとなってしまいました。

 

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うーん全然4ADっぽさは無いな(笑)

 

オルタナティブロック

 ひょっとしたら4ADの影響力よりもPixiesの影響力の方が大きいのでは…と思えるくらいには、Pixiesは革新的すぎるバンドで、オルタナティブロックという文化のひとつの“完成形”と言える存在でした。そこから派生していったたFrank Blackのソロ作品やThe Breedersも当然オルタナで、彼らはその界隈の実力者として認知されたため、それはもはや4ADのイメージとは関係ないところがあります。元々の美学と全然関係ない位置にいるこの辺が大きく支持される時代がきて、創始者がどういう煩いに陥ったのかは想像が追いつかないところ。

 

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挙げ句の果てにこんなクソみたいなビデオクリップを4ADの名前で出さないといけなくなる。バンドもなんでこんなクリップ作ろうと思ったんだ…。

 

シューゲイザー

 4ADシューゲイザーのレーベルと目されることもあります。確かにCocteau Twinsの音作りはシューゲイザーに影響を与えた節が大いにあり、特に1990年のアルバム『Heaven or Las Vegas』はそのドリーミーな世界観を実に分かりやすく展開させた作品で、これをシューゲイザーの名作に数える向きもあるでしょう。実際これがこのバンドで一番ヒットしました。謎言語でなくちゃんと英語で歌われてるしなあ。

 

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 また、Pale Saintsなども4AD的な耽美な世界観の延長線上でシューゲイザーをしていたバンドと言えるでしょう。しかし、その色合いはメンバー内での力関係の移り変わりの中で次第にメジャー志向のサウンドに取って変わっていきます。また、Lashに至っては、段々シューゲイザーバンドの中でももっと直接的にロックバンドしてる感じとなっていき、4ADっぽさはそれほど感じない気がします。

 

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 ただ、2000年代中盤〜後半に起きた“ニューゲイザー”なるシューゲイザー再評価において重要な作品を出したバンドを複数抱えているのもまた4ADだったりするところは注意が必要です。Blonde Redheadの『23』や、そして言わずと知れたDeerhunterがここに関わってきます。

 

スロウコア

 スロウコアというジャンルは本来もっとインディーハードコアを出自とするムーブメントではあると思うけれども、しかし4ADには初期Red House Paintersが所属していて、この1点だけをもって4ADにスロウコアのイメージを付加することは可能でしょう。それくらいスロウコアというジャンルのイメージにおけるRed House Paintersの存在は重要。

 考えてみれば、スロウコアもまた「滅び、死」のイメージが音から色濃く出てくるジャンルであり、そして「滅び、死」はまさに4ADの得意とするところ(??)で、なのでRed House Paintersが4ADと契約したことはどこか必然性がとてもある気がします。まあ彼らも揉めてレーベルを移籍しますが。

 

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 Red House Painters以外に4ADにスロウコアバンドがいるかと言われると微妙です。Piano Magicというバンド(?)が短期間4ADに在籍していて、こっちも結構スロウコアな雰囲気か。

 

ルーツミュージック・オルタナカントリー

 いつの間にか、おそらく創始者の思惑を超えて、このレーベルはこういった音楽を大事に育てるサークルになっていった印象があります。この側面は日本でも岡村詩野氏が重視しているところ。

 時代的に見れば、4ADアメリカ勢初期のThrowing MusesPixiesが既にアコギも結構多用していたところでしたが、やはり1992年のロサンゼルス事務所以降にこの傾向が増えたように思えます。はじめはCocteau Twins的な幽玄さや憂鬱も感じられたRed House PaintersがどんどんNeil Young的なオルタナカントリーに寄って行ったことは象徴的で、他にもHis Name is Aliveも当初のゴス的世界観からもっとフォーキーな音楽性に移行していきます。またSlowdiveを解散したメンバーが始めたバンドMojave 3も4ADと契約しましたが、イギリスのバンドでありながら彼らもまたアメリカンなフォーク・カントリーロックを目指した音楽性を貫いていきました。

 2000年代以降はかなりレーベル下のアーティストがアメリカに偏るため、この要素もまた増していきます。Bon Iverの最初の作品は手作り感にあふれたフォーク・カントリーロックでしたし、The Nationalはポストパンク的なダークさをより大らかな形で鳴らすべくある種ゴスペル的とも思えるサウンドに拡大していきます。Deerhunterもそのサイケデリックさを展開させる軸となる楽曲自体は案外アメリカーナな要素を感じられます。

 そして何より、現在の4ADがこの路線で獲得した最大の成果物かもしれない作品こそが、この2022年にリリースされたBig Thiefの、よりナチュラルなフィーリングに接近していった2枚組大作であることは間違いないでしょう。これについては弊ブログで全曲レビューを含む以下の記事を書いてますので、もうこの記事で改めて語りません。

 

ystmokzk.hatenablog.jp

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その他

 美意識に拘っていた創始者メインの時代でも幾らでも例外があった訳だし、そこが前面に出なくなって以降はもっとそういうのは増えてくる訳で。何だかんだでどの時代もバンドが多い、バンド音楽を中心としたレーベルだとは感じますが、バンド以外の人だとか、バンドでもそんなに4AD色のしないやつは幾らでもあります。

 宅録あり、ダンスアクトあり、エレクトロニカみたいなのあり、2010年代的なトラックメイキングのアーティストあり、破滅的なノイズコアありと、様々ありますので、その辺はおいおい、各アルバムを見ていく際に考えましょう。

 

 

アルバム30枚レビュー(前半:1980年代〜1990年代)

 ここまでも十分本編っぽい内容だった気もしますが、ここから先が個別の各作品30枚を見ていく箇所になります。年代順で見ていきます。一応、何が来るかの楽しみをキープすべく、目次とリンクする箇所はリリース年にしています。ここも最初20枚だったのが、せっかくだからある程度網羅して書こうと思って膨張していったため記事を前半後半で分けることになりました。

 この前半では、創始者Ivo Watts-Russellがレーベルの経営者だった時期までの作品を見ていきます。1990年代まで、と書いてますが、今回扱う最後の作品は1994年リリースのものになります。

 各アルバムのジャケットがSongwhipのリンクになってますので、サブスク等で聴きたい方は画像をクリックしてその先で好きな方法で聴いてください。

 

 

30枚とかしゃらくせえ、9枚4ADっぽいの選べよ

 確かに30枚も選んで網羅的に見ていこうとすると、どうしても“4ADっぽさの濃い作品”が何なのか分かりにくくなるんで、後編記事に回す分のアルバムも含めて9枚、以下のとおり選んでおきました。あくまで個人的なチョイスなのでこの辺、選ぶ人によって変わるでしょう。

 

 一応左上から順に、

①『Treasure』Cocteau Twins

②『Spleen & Ideal』Dead Can Dance

③『Doolittle』Pixies

④『The Comforts of Madness』Pale Saints

⑤『Red House Painters』Red House Painters

⑥『23』Blonde Redhead

⑦『Halcyon Digest』Deerhunter

⑧『Parallax』Atlas Sound

⑨『U.F.O.F.』Big Thief

 

 Pixiesが果たして本当に4ADっぽいかは難しいところだけど、でも4ADで9枚選ぶとなったら外せないのも間違いないところ。あと1人だけ2枚入ってるぞ、ってのもありますけど、それはBradford Coxという人間があまりに4AD的すぎるため。4AD全史で考えても彼くらい4ADっぽい人間は滅多にいない気がします。

 この9枚は全部これから見ていく30枚の中に含まれます。

 そして弊ブログの他の記事と同じように、ここから先突然「ですます調」じゃなくなります。

 

 

1980年

○この年の有名作品

・『Closer』Joy Division

・『Sandinista!』The Clash

・『Seventeen Seconds』The Cure

・『For How Much Longer Do We Tolerate Mass Murder?』Pop Group

 

1. 『In the Flat Field』Bauhaus

 

 ある種の“ルーツミュージック”としての“ゴシックロック”は、これはポストパンクを前提にした音楽性なのかなと思う。「無音という闇」の空間に心細くなる程の音だけが並んで構成された結果ゴスの雰囲気が浮かび上がってくる訳だけど、「無音の闇を前提にしている」という意味でゴスはポストパンクのサブジャンルな気がしてくる。

 また、1980年代も数年すると、ポストパンクから連なる音楽でもそこまで「無音という闇」を前提にしない音楽の方がメインになってきたりして、個人的にはポストパンクとニューウェーブという似ている語をあえて使い分けるとすれば、この「無音という闇」を前提にしているかどうか、でポストパンクか否かを判断している。

 そういう意味でいけば、ポストパンク本流は幾つかのイギリスのバンド、PILにJoy Divisionに初期The CureにあとPop Group、そしてこのBauhaus辺りなのかな、と考える。建築美術における現代的なデザインに連なるものを生み出した20世紀初頭ヴァイマル時代のドイツの芸術活動から名前をとったこのバンドは、実はレーベル的には2枚目のアルバム以降は親元レーベルのBeggars Banquetに移籍してしまうので、4ADに残しているアルバムはこの1枚だけだったりする。だったりするけども、このアルバムが4ADのレーベルを通じてのゴス的存在感の源流であるのもまた事実だろう。ただ、このジャケットの時点ではまだレーベルのヴィジュアル的顔役であるVaughan Oliverはまだ参加していない。

 音楽的には、マイナー調の楽曲を音数少なく、ヒステリックなギターとバリトンボーカルの演劇的なダークさを纏わせた歌い回しで引っ張っていく。これがまさに“ゴス”だと目されたものだ。闇の中を獰猛に蠢き咆哮するようなその狂乱のサウンドは、よりエッジが立っていて明確に攻撃的である点でJoy Division等とは異なっている*16。そのサウンドの構造は最初のアルバムでありながらもうすっかり完成していて、これ以上何をどうするの…?と既に思ってしまうくらいに何かやりきっている。だからなのか、バンドはあと3枚のアルバムを残して1983年にはもう解散してしまう。

 

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光の切れ目を掴ませてくれ

処女の繁栄のため 処女飛行にて

こんな平坦な土地で 私は退屈を被る

ピカデリー通りの娼婦どもと交換しろ

大脳の幾らかを修理してほしいと乞い願う

硬い平野に飛ばせ 燃え立つ痛みを叩きつけてくれ

型を形成 徒労に恥など無い

そして耳を擘く急速で私をそこへ引きずり落とせ

 

       『In the Flat Field』Bauhausの一節より

 

 

 

 Peter Murphyの引き攣ったまま闇の中で炸裂し続けるかのようなボーカルもまた、似たようでありながら内側に沈み続けていくかのような印象の強いJoy DivisionIan Curtisの歌い方と好対象を成す。このBauhaus式の歌い方に思いのほかよく似ているのが日本のINU町田町蔵だったりするのは何か興味深い。

 

 

1982年

○この年の有名作品

・『Pornography』The Cure

・『You Can't Hide Your Love Forever』Orange Juice

・『Midnight Love』Marvin Gaye

 

2. 『After the Snow』Modern English

 

 このバンドは4AD最初期からいるバンドで、現在に至るまで存在し続けている、そして上記のとおり4ADで最初にアメリカでヒットした、いわば大御所みたいなバンドのはずなのに、なんか知名度が低い。自分も今回この記事を書き始めるまで知らなかった。Spotifyで「Modern」と入力すると先にThe Modern Loversが出てくる始末。

 このバンドは当初はJoy Division系列のポストパンク的サウンドを志向し、実際に最初のアルバムはそんな感じのダークなサウンドだった。しかし何を思ったのか、売れたくなったのか、2枚目のアルバムの頃にはポップさに覚醒し、そしてアメリカでスマッシュヒットした『I Melt with You』が生まれる。

 

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息を殺して前へ進んでいく

きみに恋したのは次善では決してない

きみの表情の周囲で世界が壊れてくのを見た

それが普通なことだなんて全然知らなかった

メッシュとレース

 

世界を止めてきみと溶けていこう

きみは違うものを見てきて ずっと良くなっていく

きみとぼくでやらないことなんて何も無い

世界を止めてきみと溶けていくんだ

 

   『I Melt with You』Modern Englishの一節より

 

まるでJoy Division存命中に本来New Orderがもっと後年で出す『Regret』をパッと出したかのようなすっげえ変わり身だけど、しかしこの曲の抜群のポップさにはどこかエヴァーグリーンなところがあり、実際彼らもこういうのの方が水が合ったのであろう、2枚目のアルバムとなった本作はシングルに引き続きのポップソングが複数含まれ、1stの頃のダークさがいい隠し味となった良いアルバムだ。ボーカルのRobbie Greyは「ポップなレコードなんて絶テェ作んねェよ!って昔は思ってた。だけど物事は計画通りになんて進まないものだし、しかも、実際にポップなレコードを作るのって他の何よりスリルがあるんだ」と話している。本当に良かったなあ。この辺の闇の細道に行かなかったことがバンドが長く続いたことの理由のひとつかもしれん。

 アルバムにはアップテンポなナンバーの他に、静かにメロディを展開させて壮大に展開していく雰囲気のものもいくつか含まれている。アルバムタイトル曲の不思議なリフレインの上に乗った心地よいメロディの堂々たる様。この辺の曲を聴いていると、声質が少し似ているのもあってか、遠い後の時代にレーベルの後輩となるThe Nationalの登場を予言していたかのような感覚さえ幻視してしまう。

 あと、このアルバムの時点でもう4AD的ゴスさとかダークさ、耽美さとかそんなに関係ないことになっている。4ADについて著した『Facing the Other Way』の著者であるMartin Astonは、レーベル創始者であり、レーベルの美意識の統一感ゆえにどこか独裁者っぽく見られがちなIvo Watts-Russellについて、以下のように主張する。

 

戦略があった訳じゃない、彼はただ純粋なファンとして音楽を聴き反応を返しただけだ。流行に乗ったりレコードを売るためにバンドと契約した訳じゃない。実際、彼は売れたバンドにも自由にやらせた。彼らの次のシングルがどんな風になり、どんなプロモーションビデオを作るかというのを含めて。彼は全く興味がなかったのさ。彼は Modern English に好きにさせた、どんな方向に行こうと興味がなかったから。彼は Bauhaus に好きにさせた、 T. Rex のカバーを発表したけど興味がなかったから。セールスは問題ではなかった。Ivo が何を好んだかだけだ。彼は自分の嗅覚だけを信じた。

 

上記の引用元:Facing the Other Way: The Story of 4AD | Lomophy

 

 

1984

○この年の有名作品

・『Ocean Rain』Echo & the Bunnymen

・『The SmithsThe Smiths

・『Purple Rain』Prince & the Revolution

 

3. 『Treasure』Cocteau Twins

 

 このスコットランド出身のバンドの名前は同郷のSimple Mindsというのバンドの未発表曲から引用しただけで、別にフランスの小説家Jean Cocteauに因んだ訳ではないらしい。知らなきゃ絶対その世界観のマッチ具合に早合点しそうになる。

 このバンドの最初のアルバムは、空間的に響くベースラインとノイジーなギターに打ち込みのリズムと呪詛的ボーカルの、やはりJoy Division影響圏の音楽だった。その後ベースが脱退し、いよいよ前人未到の音楽が彼女たちから生まれ出す。次作『Head Over Heels』から3拍子の曲とどこか遠くの国の民謡めいたElizabeth Fraser*17のボーカルの組み合わせが始まり、それは3枚目となる本作でひとまずの完成に至る。それは同時に“4AD的なるものの結晶”がこの世に生まれ落ちたことを意味する。1曲目の曲タイトル、今思えば創始者の名前じゃねえか。

 ボーカルはより異世界めいた、取り憑かれたかのような調子を見せ、気が行ってしまったような囁きかファルセットのようなものが随所で顔を出す。1曲目の不思議なコーラスの時点で十分怪しいけども、2曲目の『Lorelei』から一気に訳の分からない、まるで遠い寒い幻の国のポップソングみたいな音が降り注ぐ。怪しくないボーカルの箇所がまるで無く*18、音も電子的なものに塗れひどく人工的であるはずなのに、妙に魂を引かれた形でリラックスできてしまえるような安らぎがここには確かにある。極言すれば、この曲にこそ様々なドリームポップの“故郷”があるんじゃないか、と思わされる。

 

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外も見えない 中も見えない キスもちゃんとできない

我に返って まともになって

わたしの口の中でつま先を持ち上げて

愛し合う それで行けるはず

 

わたしたち 聖なる炎に覆われてる

でも わたしを切るなら 貴方は骨まで行くでしょ

 

疑いなんてない

 

中が見えない 罪深い少年少女

二人とも呪われてるもの

わたしの口の中でつま先を持ち上げて

愛し合う それで行けるはず

 

      『Lorelei』Cocteau Twins 全文訳

 

 それにしても、1980年代のうちからギターという楽器はこんな変な音を幾らでも出せるほどの機器が揃っていたんだなあ、とも。今で言うところのシマーリバーブみたいなものさえ聞こえる。この冷たい異世界の音に、機械仕掛けのドラムの冷たさがまたよく合う。楽曲も音も歌も、時に未知の世界の同様のように揺らぎ安らぎを与え、時にポストパンク由来の重さと融合して魔界みたいな恐怖を放出する。

 異世界度としては、ドラムレスになってもっと「どこかの国の禁じられた民謡」感が増した『Victroialand』(1986年)の方が高く危うい。だけど、ドラムがあり、その分自然の厳しさみたいなものも結果的に表現した感のある本作の方が“潰しが効く”感じはある。もっとも、一番普段聴きできてかつ月並みにサウンドをフォローしやすいのはやっぱり『Heaven or Las Vegas』(1990年)だとは思う、しかし、優雅なのは音楽の中だけだったようで、水面下ではギターのRobin Guthrieがレーベルと対立し、ドラッグ中毒になり、そしてこのアルバムの後にバンドは4ADとの関係を解消し、幾つかの作品をその後もリリースしたけどもやがて1997年に解散した。

 

(2022年12月12日追記)

 この記事を書き終わった後急にCocteau Twinsにどハマりしたので、勢いで他のアルバム『Heaven or Las Vegas』の全曲レビュー等の記事と、あとCocteau Twinsのおおよそ全ディスコグラフィーの駆け足レビュー記事を書きました。全部読むとひたすら長い気もしますが、よかったらぜひ。

 

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4. 『It'll End in Tears』This Mortal Coil

 

 Creation RecordsのAlan McGeeが自身のバンドBiff Bang Pow!を有していたのと似て、4AD創始者Ivo Watts-Russellも、自身の音楽ユニットであるThis Mortal Coilを率いた。メンバーは彼含む2人だけだが、多数のレーベルメイトが活動や作品に参加し、ゴシックな作品をいくつか作り上げた。クレジットを見る限りだと、創始者は作曲とキーボードを担当したらしい。歌ってないらしい。そうか…。

 本作はその最初の作品で、中身はカバーも多く、いきなりアメリカのパワーポップバンドBig Starの曰く付きの3枚目のアルバム収録曲で始まる。確かにあのアルバムにはゴスな雰囲気がある。『Holocaust』のボーカルは誰か知らないが、えらくヘロヘロのボーカルでゴスの雰囲気を台無しにしてる気が…ずっと後年のGirlsみたいなヘロヘロ具合。2曲目は1970年代初頭のSWWであるTim Buckleyの『Song to the Siren』をCocteau Twinsのボーカルとギターでカバーする。アルバム中のハイライトだと思われるが、これただのCocteau Twinsでは…?という気も。同年の上記アルバムと異なり正面切って歌いギターを弾く2人が、これはこれでとても素晴らしい。

 

This Mortal Coil - Song To The Siren (Official Video) - YouTube

 

(カバーなので翻訳なし)

 

 創始者は2曲で作曲に参加。『Fyt』という謎タイトルな楽曲はインストで、不穏なサウンドスケープから単調な繰り返しのアンサンブルが這い出し、ノイズやシンセが噴き上がったりしながら通過していく。もう1曲の『The Last Ray』もほぼインストで、やはりどこかCocteau Twinsめいた冷たい雰囲気の中を妙に柔らかなアコギがむしろ不安を煽るように鳴り、そして演奏が終わった後に遠くで誰かが何か歌っているのが微かに聞こえる。なんだこれは。

 このユニットではあと2枚アルバムを出していて、それらは両方ともLP2枚組のボリュームがある。また1990年代末頃にはThe Hope Blisterというアンビエントバンドも主導した。こっちは彼がレーベルを去る直前、まるで心を落ち着けるための音楽みたいに聞こえてしまう。

 

 

1985年

○この年の有名作品

・『Head on the Door』The Cure

・『Phychocandy』The Jesus and Mary Chain

・『Eden』Everythings But the Girl

 

5. 『Spleen & Ideal』Dead Can Dance

 

 そもそもDead Can Danceはオーストラリアのメルボルンで結成されたバンドだったが、しかしのちに中核となる2人がロンドンに移住し、4ADと契約し、そこから彼らの主たる作品のキャリアは始まっていく。

 最初のアルバムはJoy Division形式のポストパンクさが渦巻くサウンドながら、パーカッションの多用などは後のワールドミュージック的な変化の予感を僅かに感じさせる。3枚目の『The Serpent's Egg』以降は一気に「どこかの闇の国の宗教音楽」みたいな風情に変化していく。3枚目以降の俗世と隔絶されまくった世界観になかなか入っていけない自分みたいな半端者には、この2枚目のアルバムの、ちょうど1枚目と3枚目の中間くらいの感じがとっつきやすくて助かる。

 とはいえアルバム冒頭から、どこかの国の、神殿の奥の厳かな場所でこれから儀式としての死刑が行われるのではないか、みたいな雰囲気がいきなり始まるのには笑ってしまう。最初のアルバムにこんな感じ微塵もなかったので順番に聴くと唐突で、リアルタイムの人はどう思ったんだろう。ビートレスなその儀式めいた演奏は2曲目、3曲目と続く。2曲目はほぼインスト、3曲目の歌は冒頭曲のメロディがまだ西洋的だったように思えるくらいにいよいよな感覚がある。

 4曲目『The Cardinal Sin』からドラムが入ってきて「儀式めいた演奏も入ったバンドアンサンブル」的なものに落ち着くので、相変わらず陰鬱な雰囲気にも関わらず安心する。メロディもポストパンク的なものからは離れ、中近東的な雄大さのように感じられる。もしかしてこの感じをもっと細切れにしてドロドロにして低く響かせたらSwansみたいなヘヴィさに繋がるんだろうか、と思った。

 

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貴方の輝ける欲望世界の星間飛行

「理由?無いよ」ウイスキー漬けの脳が泣き崩れた

「全てが言い尽くされやり尽くされたら

 全て同じ価値しかなくなる」

 

貴方の星のように輝く瞳の中に

裏切られてきた偽りの希望

その欲望の原因はまた 貴方を死に導く

全てが言い尽くされやり尽くされたら

代価を払うのは貴方だろう

 

無数の愚か者ども しばし証言することを忌み嫌う

「それは人生の幻想 我々を死に追いやる原因の全て」

 

 『The Cardinal Sin』Dead Can Danceの一節より

 

 この曲以降が結構普通にバンドサウンドしてくれるのは本当に、自分みたいなのには聴きやすくて助かる。これより後の作品は1〜3曲目みたいなのが通常運転となる。前作から引き続きのサウンドのはずなのに、メロディからJoy Division的なものが上手く抜けている感じがあるのが興味深い。

 Dead Can Danceは1998年に一度解散するが、その後再結成し、2012年の再結成後初のアルバム『Anastasis』は雄大な世界観とバンドサウンドが上手く合わさった取っ付きやすく素敵な作品。リリースは4ADからじゃないけども…。

 

 

1988年

○この年の有名作品

・『Bug』Dinosaur Jr.

・『Daydream Nation』Sonic Youth

・『It Takes A Nation Of Millions To Hold Us Back』Public Enemy

 この年はPixiesの1stが出た年でもあるけど、Pixiesは次の年の2ndを取り上げる。

 

6. 『House Tornado』Throwing Muses

 

 4ADにおいてアメリカのバンドで最初に契約したのがこのThrowing Musesで、しかしながらどうしてもインパクトが無茶苦茶あるPixiesが直後に来るためどうしても印象が薄くなってしまう。中心メンバーのKristin HershとTanya Donellyが高校の同級生だったりととても健全な成り立ちをしているのに、Tanya DonellyがThe Breedersの活動にも参加し、そっちに専念するために脱退したりもした。Pixies4ADと契約する端緒になったのもこのバンドとの対バンだったりと、何かとPixies関係と接点があるが、1997年に一度解散しつつも再結成しその後現在まで活動が続いている長寿バンドであるところもまたPixiesと近い。ロードアイランド州のバンド。

 「Ivoが可笑しくて間抜けだから契約しちゃった」と4ADとの契約についてKristinは話している。1986年にセルフタイトルのアルバムを出すが、こちら何故かSpotifyになかったので、次のアルバムである本作を取り上げた次第。

 楽曲にしても演奏にしても、ドラムの1980年代様式な鳴りを除けば、1990年代オルタナバンドの平均みたいな音が演奏され続ける。程よくドライブしたエレキギターの音や、時折現れては清涼感と土臭さを適度に添加するアコースティックギター、程よくもっさりした演奏や楽曲。逆に言うと、この1988年代の時点で1990年代式のオルタナサウンドはもうある程度完成していたんだなと。もしかしたらこのバンドがその偉大な先駆者のひとつだったのか。Kristin Hershの所々呪詛めいた裏返り方をする歌い方に少しばかり4AD仕草を見出さないでもなくて、どこでこんな歌い方に至ったのか不思議な感じはする。この捻くれ方が、より情念ねっとりになっていく傾向のある1990年代の女性オルタナボーカルよりも何か自由な感じに思えもする。

 

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彼女はダウンタウンの通りで横になってる

シーツに横たわってね

家に帰って通りで横たわってる

ベッドで横になってる その歯を通して

 

彼の空を見つめて 盲目になる盲目になる

コーナをステップしパズルを拾って穀物全部食んで

今は単なる80年代のある時 あの顔を思い出せない

でもまだ彼に会えるそして…少し退屈で少し怖くて家に帰る

あらゆるノイズまみれになって…思い出せない

 

彼女は全て見てる 愛し回って残ったその広がりを見つめる

顔さえ掴めない 顔を掴めるとか思わないで

そして帰った

 

      『Downtown』Throwing Musesの一節より

 

 

7. 『Ultra Vivid Scene』Ultra Vivid Scene

 

 一応これはバンドだけども、一番有名な作品であるこの最初のアルバムの時点では、録音の全てをKurt Ralskeが行っていて、所謂一人多重録音で制作されている。1988年といえば当時Dinosaur Jr.にまだ在籍していたはずのLou BarlowがSebadohの最初のアルバムになる曲を制作していたのも同じ年で、それらは翌年にカセットデッキで制作したかのような宅録楽曲集としてリリースされたが、本作はそれよりかはずっとまともな録音をしていて、ちゃんとスタジオで録音されたんだと思える。しかし、その楽曲やサウンドの志向がThe Velvet UndergroundThe Jesus and Mary Chainというところには、後の時代に無数に現れる宅録楽家の先駆的なものも十分に感じられる。4ADらしさ?そんなもんないよ。この変なジャケは一応Vaughan Oliver作品だけども。

 

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 ヘロヘロなまま気取った感じのボーカルには確かにジザメリ的影響があり、意外とその歌い回しにはBradford Coxっぽさを感じられたりもする。そして全部一人演奏によってもたらされた妙にチープなサウンド類に、宅録的な開き直りのセンスを感じさせる。ギターもキーボードもいい具合にチープで、この辺はどこか1960年代を懐かしむ感じのメロディセンス共々、Ariel Pinkの先駆けみたいにも感じられるかもしれない。基本気怠く、勢い良く暴れまわろうとする気概は感じられない。一人多重録音においてはむしろそれが普通で、そのダルさが時代の中心のひとつになるにはもう少し年月を経て、Beckの登場を待たなければならない。

 1988年でこれは、色んな意味で早すぎたのかもしれない。彼のジザメリ愛が曲構成からスネアの音からギターの重ね方まで含めて爆発している最終曲『A Dream of Love』を聴くと特にそう思う。もしかしてこの曲は一人多重録音で『Phychocandy』を再現しようと試みた最初期の例ではなかろうか。宅録でロックを志す者の多くが願望してやまない“ひとりジザメリ”を、彼は1988年という早さで実現している。共感と、その早さへのリスペクトがすごい。

 

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パーティーが終わって階段を降りてたんだ

「一緒に行ってもいい?」「ああ、構わないよ」

あっ すっげえいい事になるんじゃねえ?

もしくは大間違いか ああ大間違い

 

きみがぼくを二流だと言ったとき

ぼくは自分の向かう運命が分かった

「ここに来て どこかで足を洗いましょうか」

「灯りは消した方がいいの?」

「ええ お好きなように」

不確かなキス 発泡スチロールの口に

帰りのタクシー代と間違い電話

そして 目覚めたらいつも一人なんだ

 

愛の夢に悩まされて 愛の夢にからかわれて

 

  『A Dream of Love』Ultra Vivid Scene 全文訳

 

…なんだこの悶々とした歌詞は。

 

 2枚目のアルバム以降はバンド編成で録音できるようになったらしく、普通に落ち着いた感じのギターロック作品を制作し、The BreedersのKim Deelが参加してる曲もあったりする。3枚目のアルバムを出した後この名義の活動は1993年に終わり、その後Kurt Ralskeはソロ活動をしている。

 

 

1989年

○この年の有名作品

・『The Stone RosesThe Stone Roses

・『On Fire』Galaxie 500

・『Disintegration』The Cure

 

8. 『Doolittle』Pixies

 

 今回取り扱う30枚のアルバムの中で“1番重要な作品”を強引に選び出そうとすれば、その筆頭のひとつにはこれを挙げざるを得ないだろう。全然ベタな4ADっぽさから離れたサウンドであるはずなのに、その影響力やらパワーやらで強引に“4ADっぽさ”を歪めさえしたかもしれない。このボストン出身のバンドの4ADとの経緯については上記のとおりなので繰り返さない。

 色々と真面目に細かく書こうとしたら、この記事ではとてもじゃないが文量が足りない。この“歴史的名盤”によって定義された「オルタナティブロック」の基準とは何か。ギターの歪ませ方、フレーズの描き方、サビのリフレインの効果的な響かせ方、圧倒的なテンションで突き抜けていく方法、作品中にアコギメインの曲をサラッと入れ込むことの有効性、Kurt Cobainが学び大ヒットを生むきっかけになった演奏の強弱の強烈なコントラストの付け方、“訳の分からない歌詞を猛然とした勢いで歌い放つ”ことによる奇妙な“ギークロック”とでも呼ぶべきものの胎動*19、女性コーラス兼ベーシストという存在、etc…。

 ともかく、冒頭『Debaser』*20から7曲目『Monkey Gone to Heaven』*21まで1曲おきにオルタナ文化遺産とでも言うべき名曲が飛び出し続けることの脅威。この2曲と『Wave of Mutilation』*22『Here Comes Your Man』*23、そして末尾に置かれたグランジの故郷のひとつ『Gouge Away』。どれも絵の世界なら立派な額縁に入れてどこかの高名な現代美術館に展示されているであろうクラスの楽曲だけど、それらは演奏されてこそ一番素晴らしいんだと言わんばかりに現在でもライブを繰り返し続けるバンドの姿勢こそ、本当に尊敬すべきところなのかもしれない*24。アルバム後半は割と1stと似たテキトーさが転がりまくってて、これはこれでいいだけども。

 このアルバムは当時から特にイギリスの方でヒットし、8位まで上がった。そんな状況があったせいかバンドとレーベルの仲はこの後険悪になったらしいが、それでもバンドが現役だった4枚目まで全ての作品を4ADからリリースし、その後のFrank Blackソロ作品*25やKim Dealの始めたThe Breedersの作品も4ADからリリースされていった。いつしか4ADは結果的にPixies一派が幅を利かせるレーベルになり、それについて初めPixiesとの契約を渋っていた創始者がどのように思っていたのか。でも、そんな創始者の意志などどうでも良くなるくらいには、Pixiesはなんだかんだでどうしようもなく、4ADを代表するロックバンドである。もしくは、PixiesCocteau Twinsの幅の間こそが4ADなのかもしれない…というのは流石に過言だろうけども。

 

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男がいた 海底で海を支配していたんだ

でも ニューヨークやニュージャージーから流れてきた

1,000万ポンドのヘドロで死んじゃった

 

この猿は天国へ行ったんだ

 

空にいた創造主は穴に落ちてしまった

今や空に穴があるんだ

地面は冷たくなくて 地面が冷たくないと

全て燃えてしまうんだ 例外はない ぼくもそのうちね

 

この猿は天国へ行ったんだ  ロックしなジョーイ

 

人間が5なら 人間が5なら 人間が5なら

悪魔は6だ 悪魔は6だ 悪魔は6だ 悪魔は6だ

悪魔が6なら 神は7! 神は7! 神は7!

 

この猿は天国に行ったんだ

 

   『Monkey Gone to Heaven』Pixies 全文訳

 

これを書いてる時期が時期なせいか、チェンソーマンに合いそうな歌詞だなってちょっと思った。

 

 

1990年

○この年の有名作品

・『Chill Out』The KLF

・『Nowhere』Ride

・『The La's』The La's

 

9. 『The Comforts of Madness』Pale Saints

 

 4ADシューゲイザーレーベルとして括られることがあるとすれば先駆的存在であるCocteau Twinsの他は、Lushとこのバンドによるものだと思われる*26が、4ADっぽいのは断然こっちだろう。イギリスのリーズで結成、ロンドンでの最初のライブを見てすぐ創始者Ivoが契約を結びに行った、という経歴を持つのも納得。

 その最初のアルバムである本作の、パッと見混沌としてみえて、よく見たら猫ジャケだと気づく、しかしながらそれにしたってどうにかしてるこの色合いのジャケットは実にシューゲイザー的だし4AD的で、もしかしなくてもVaughan Oliverのジャケットの仕事でも最上位に入るだろう。

 そして「線の細い青年が轟音の中で見せる繊細さ」みたいな、シューゲイザーの理想像みたいなのを体現したその最たる例もまた、このバンドのIan Mastersだろう。実に細く弱い声で、ギターサウンドが無数に乱反射しドラムが勢い任せで乱打されるサウンドの中でなんとかナルシスティックなメロディを描いていく、この構造的に不健康さが漲る感じにこそ、シューゲイザー的な毒々しさの本懐があるように感じられるし、そしてそこから生じる耽美さは見事に4AD的だった。ネオアコから派生したシューゲイザー、みたいな雰囲気もメロディから多めに感じられるのも大きな特徴か。

 シューゲイザーというジャンルの代表作であろうMy Bllody Valentine『Loveless』より前の年のリリースであるにも関わらず、『Loveless』と同じように楽曲間はイマジナリーなフィードバックノイズ等で繋がれ、よって曲単位で取り出して聴くとちょっと支障が出るという欠点がある。しかし、欠点はそれくらいで、あとは、シューゲイザーと言いつつも実はそんなにたくさん重ねられているわけではないギターワークの妙と、ともかく落ち着きなくロールしまくるドラムの勢いと、ひ弱な文学青年めいたボーカルの青白さとが相まって疾走していく光景が、他のシューゲバンドと結構情緒の異なる官能を聴く者に与えるだろう。

 このように素晴らしい1枚目を得たにも関わらず、この後バンドはLushの元メンバーをメンバーに迎え、次第にバンド内のバランスがそのLush元メンのMeriel Barhamに偏っていき、1993年にはIan Mastersが脱退、その後もう1枚アルバムを出すものの自然消滅的に解散した。Ian Mastersは2005年から日本に移住している。

 

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セピア色のスナップ写真

ぼくの前世を語っている あと他の山のような嘘も

数字と文字 糖蜜で黒ずんだ石の海から浮かび上がり

ぼくを家まで運んでしまう

 

花言葉が聞こえる 他には何も聞こえない

どこからかの声がぼくを世にある全ての詩に誘惑する

ぼくのバランスは崩され 時間は酔いが回ってふらつく

命が凍りつく一方で

生まれ変わるまで太陽の下で熟成される

 

花言葉が聞こえる 他には何も聞こえない

 

ぼくにはこんなの向いてなかった でも心は

ぼくにはこんなの向いてなかった

 

   『Language of Flowers』Pale Saints 全文訳

 

 シューゲイザーについてはそういえばこんな記事も書いてました。このアルバムも入っています。

 

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1993年

○この年の有名作品

・『Siamese Dream』Smashing Pumpkins

・『Souvlaki』Slowdive

・『Painful』Yo La Tengo

 この年は4AD最盛期、と外形的に思えるくらい力作が多くリリースされ、セールスも好調だった年。この記事でも前編・後編全体で最も取り上げる枚数が多くなった年。しかしながら、メンツ的には創始者にとってどこまで好ましかったのか疑わしく、次の年から精神失調してしまう。なお、Dead Can Danceのこの年のアルバム『Into the Labyrinth』がこの年の4ADのリリースで最も売れた作品らしい。ちょっと聴いてみてすぐに「…マジで?」って思ってしまう感じの世界観でした。これが世界中で50万枚も売れたのか…。

 

 

10. 『Last Splash』The Breeders

 

 Kim Dealはオルタナティブロック関係の女性アーティストの中でもとりわけヒーローめいた存在感のある人物で、オルタナ界隈の一種のアイコンとさえ言える。PixiesにおいてFrank Blackの独裁が進行しつつあった1990年にThrowing Musesのメンバー等を巻き込んで始めたThe Breedersは、Pixies解散後の1993年にいきなりこのオルナタ名盤に数えられるアルバムをリリースし、アルバムは世界各地でヒットし、イギリスでは5位まで上がっている。

 アルバムを聴いていて思うのは、Kim Dealという人は自由を重んじる人なんだろうなあということ。それくらいアルバム中の楽曲の作風は奔放に変化していき、「えっこれリード曲スか…?」っていうグダグダさと謎の爽快感とを併せ持つ『Cannonball』の楽曲として強引な成立の仕方に「そうだよなあ、“オルタナティブ”ロックって言うくらいだから、本来こんくらい本譜じゃないといかんのだよなあ」となぜか反省する思いがしてしまう。歌の入るタイミング何なんだよ。

 このアルバムの良いところは、Pixies作品にあるような性急な緊張感は禁止され、しかしローファイと呼べるほどにヘロヘロな訳でもない、ともかく「コンセプト」という強迫観念に縛られることそのものを自然に忌避するかのような、リラックスしたドライブサウンドの躍動の様だろう。それは時に「なんじゃそりゃ」みたいな楽曲も生み出すが、それも全然許される雰囲気がアルバムにあることで、しっとりとメロディを書かれた『Invisible Man』や『Do You Love Me Now?』みたいな曲の良さが映えるし、そして『Divine Hammer』の快適なスピードによる程よい疾走感の心地よさが気楽に突き抜けていく。

 

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ただただ 回り道を探してる この近くで消えちゃう

きみはロッド わたしは水 神のハンマーをただ探してる

 

神のハンマーひとつ 神のハンマーひとつ

 

神のハンマーをただ探してる 一日中叩くよね

ああ 大工さんは叩くよね 神のハンマー探してる

 

神のハンマーひとつ 神のハンマーひとつ

 

慕われるのを待ってる信頼をただ探してる

この辺で消えちゃう

きみはロッド わたしは水 神のハンマーをただ探してる

 

神のハンマーひとつ 神のハンマーひとつ

 

     『Divine Hummer』The Breeders 全文訳

 

 こんな世界で一番自由で快活なバンドに思えた彼女らも、途中からメンバーになったKimの双子の姉が薬物中毒により逮捕され活動休止するなど、タフな場面も典型的にオルタナティブロック的だった。それでもKimは活動を続け、別ユニットThe Ampsを始めたり、Pixiesの再結成に合流して、しばらくのちにまた脱退して、The Breedersも粘り強く続けられ、古き良きオルタナティブロックバンドとして存在し続けている。

 

 

11. 『Mouth by Mouth』His Name is Alive

 

 世の中The Breedersみたいなあっけらかんとしたオルタナティブロックバンドばかりじゃない、むしろ本来オルタナティブロックはもっとダークに爛れてうらぶれているものだ、という考え方も大いに分かるので、同じ年に4AD的な陰気さをいい具合に継承したいくつかのアルバムがあることはとてもバランスがいい。

 このアメリカはミシガン州リヴォニア出身のバンド、というか中心メンバーWarren Defeverによる音楽活動とした方が分かりやすいかも。彼はまた宅録からキャリアを始めた人間で、大学で出会ったKarin Oliverをメインボーカルに据えでもテープを作成、契約を結ぶために4ADに送っては創始者から拒絶され、しかしメゲずに修正とテープの発送を繰り返し、1989年にようやく4ADと契約を結んだ。4AD大好きっ子かよォ

 それも頷けるぐらい、最初の2枚のアルバムの「どこか人里離れたところの怖い話」みたいなサウンドには、Cocteau Twins等と似たような「見知らぬ辺境を探してその音楽を捏造する」という方向のゴスな感覚に満ちている。とはいえWarren Defeverはこの2枚はレーベルからの音への関与が大きいことを不満に思っている風なコメントを残している。

 その後彼がバンドの音のコントロールをしっかり掌握し、そしてそれまでやってたゴスさを半ば脱ぎ捨てて、当代式のオルタナティブロック、オルタナフォーク的なのを志向して製作されたのが本作。しっかりドラマーを据え、影のある感じをゴスさを抜きながらも的確に残して、程よく小気味良いノイズポップ要素や宅録的なサウンド出し入れの感覚を各トラックに封入し、その結果、聴きやすくもあり、かつしっかりこのバンドの闇めいた雰囲気は程よく乾いた感じに整理された、小気味良い暗さが駆け抜け、時に程よく幻想的なトラックも出てくる優れたアルバムに仕上がっている。なぜかボーカルに様々な女性を迎えて歌わせているのは、あまりボーカルによる違いを感じさせないこともあってよく分からないが…。

 

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わたしの耳があなたの口に滑り込む 連れてってよ

この信頼に割り当てた場所では

「尋ねる」は「持つ」で 「探す」は「見つける」

ノックは大いに開かれている

 

暗闇の中 あなたのダークな瞳はいつも反射してる

舌って口の中の魚*27

もうあなたと会わないのなら

永遠にあなたについて考える

感覚を書き殴ってる

わたしの魂の祈りが 創造主とわたしをつなぐ

 

 『Where Knock is Open Wide』His Name is Alive 全文訳

 

 この後、1996年にはもっとエディット感覚を全開にして、The Beach Boys『Good Vibration』のオマージュまで飛び出す、宅録マニアック根性の出た不思議なアルバム『Stars on E.S.P.』をリリースし、こちらも素晴らしい*28。しかし、創始者Ivoが4ADを親元レーベルに売却し身を引く際に何かうまくいかないことがあってメンバーが脱退、その後は4枚目のアルバムの際にサポートボーカルで入った女性ボーカルとのユニットとなり、作品を重ね、2002年に4ADを離れ、その後も活動を続けている。

 

 

12. 『Red House Painters(a.k.a. Rollercoaster)』Red House Painters

 

 Red House Painters、というかMark Kozelekがそのキャリアを通じて描く「追憶と喪失」のファンタジーはおそらく4AD的世界観のピントの領域と微妙にズレてはいるものの、しかし彼は4ADに見出され、そこからキャリアが始まった。創始者Ivoはバンドが活躍していたサンフランシスコのシーンから送られてきたデモテープに感激しバンドとレーベルの契約を結び、そのデモテープは幾つかのMarkが後に気に入らないと愚痴る加工をされた後にそのままアルバム『Down Colorful Hill』としてリリースされた。おそらくは4ADの退廃美のある種の理想形を、このゆっくりと腐り落ちていくような音楽に見出したんだろう。それは後に“スロウコア”と呼ばれる性質のものだった。

 そしてこの1stフルアルバムめいた2枚目のアルバムが制作される。Markの当時有していた楽曲から厳選された14曲*29*30全75分、当然LPなら2枚組サイズの大作をいきなり放ってくる創作能力及びそのソングライティングはいきなりピークのような高まりを見せていて、その中においては細かい部分、たとえば全体的にエコーの効いたボーカル処理や、『Katy Song』における水が滴るようなギターの音、少しシューゲイザーめいたサウンドになった『Mistress』など幾つかの点に4AD的世界観へ“寄せて”みせた形跡が残る。

 取り壊されつつあるローラーコースターを映したジャケットといい*31、それは間違いなく4ADMark Kozelek相互の世界観の最も幸福な蜜月の時期を切り取った作品だった。楽曲中の追憶の果てにおいては、感傷と耽美はもはや区別がつかない。区別する必要性も感じない。

 

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この部屋に光が色づく

染み込む陽光は 迫り来る死の天使の黒色とは混ざらない

 

残忍な殴打と悪口 ベッドで我を失うのに十分だった

内面をボロボロにした 永遠に

 

きみの賞賛や金を掛けてぼくに詰め込んだ幾許のギフト

そんなの何にもなりはしなかった

ぼくに必要な心遣いはもっとずっと深刻なんだ

 

あたなが持てなかった類の重荷

たとえそれにその安っぽい生涯が掛かっていても

ぼくにはもっとミステリアスな人が必要だ

ぼくの愛人になるような

 

      『Mistress』Red House Painters 全文訳

 

 バンドはあと2枚のアルバム1枚のEPをレーベルに残して他レーベルに移籍する。その移籍先でリリースした大作『Songs for a Blue Guitar』は出したレーベルが微妙な存在だったためか今だにサブスクに上がっていない。さらにもう1枚アルバムを作ったものの契約の問題に巻き込まれ、リリースできないでいるうちにバンド活動が停滞し、MarkはSun Kil Moonという活動形態に移っていく。

 余談。そのSun Kil Moonの2014年の印象的な作品『Benji』のある曲の中で、彼は創始者Ivoのこと、そしてそのIvoに会いに行くことを告白している。彼の追憶のファンタジーのことを具体的なエピソードを以って紐解いていくようなところが『Benji』という作品にはあるけれど、その中にこの一連の歌詞があるのも、なんだかとても感慨深い気分になれそうな気がする。捻くれ返した中年なMark Kozelekにも、こういう素直な感情が様々にあって、そういうところが聴いてて胸を打つんだろう。

 

サンタフェ郊外の砂漠に住んでる友達がいる

今度の土曜に会いに行く予定

ぼくの様々な旅と彼の離婚を経てるから 昔のままでは済まない

最後に会ってもう15年も経つ

1992年 彼こそぼくに契約の手を伸ばしてくれた男

会ったら言うんだ

「ありがとう ぼくの才能をあんな早く見つけてくれて

 憧れていたこの美しい音楽の世界に導いてくれて」

 『I Watched the Film "The Song Remains the Same"』Sun Kil Moon

 

 

13. 『Perfect Teeth』Unrest

 

 今回取り上げる30枚の中でも最も“インディロックバンド”然としているかもしれないのがこのワシントンDCのバンド。初期のアルバムを聴くとよくあるハードコアバンドのような感じであるけども、1990年に3人のメンバーが固まって以降はより3ピースとしての潔すぎるサウンドを彼らは選んだ。

 何よりも特徴的に感じるのは、クリーン寄りなクランチ程度の歪みのギターをひたすらかき鳴らし続け、それ以外の装飾は殆ど存在しないバンドサウンドだろう。1992年のアルバム『Imperial F.F.R.R.』でそれは登場し、そしてどういう経緯があったのか4ADと契約を結びリリースされた、アルバムとして最終作が本作。

 冒頭のメカメカしいギターワークとコーラスワークでシンプルすぎる3ピースバンドサウンドで可能なドリームポップさをよく表現してみせ、次の曲ではそのジャキジャキのギターカッティングとリズム隊のみを武器にキビキビと鮮やかにパワーポップ的疾走してみせる。4ADっぽさ?この手の曲にそれは求めるべくもない。しかしともかく、このアルバムのギターカッティングは気持ち良く小気味良く、3曲目『So Sick』のイントロを聴いて「この音色がもしかしてギターの一番いい音なのでは」などと思ってしまう。

 本当に全然ギターの音を弄ってもこないしダビングもかなり最小限で、ともすれば一本調子になってしまいがちなサウンド構成であるけども、彼らはソングライティングで解決を目指す。不思議なシンセのインストの直後に来る7分と長尺な『Soon It's Going to Rain』で見せる抑制の効きまくった緊張感、そこから今作最も騒がしい1曲を挟んだのちに始まる本作で最も4AD的な緊張感を感じさせる『Breather X.O.X.O.』のエモ的展開など、ここでの彼らは本当に幅の狭いサウンドをフルに活用して楽曲の幅を保とうと心がけ続ける。決してギターは歪ませずに。何がそこまで彼らを抑制させるのか。こんなの縛りプレイじゃないか。だからこその敬礼すべき潔さが本作にはある。

 

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いつだって嫉妬 とてもとても触れられない

きみは実に酸素供給装置的だ

 

タイミングの感覚 実に申し分ない

きみはなんとも酸素供給装置的だ

 

掃除人 掃除人 彼はいつも掃除人

ステータスを終了しておくれ

掃除人 掃除人 彼女はいつも掃除人

ステータスを終了しておくれ

 

  『Breather X.O.X.O.』Unrest 全文訳

 

何の歌だこれ…?

 

 1994年に解散。その後散発的に再結成しているが、恒常的な活動にはなっていない模様。

 

 

1994年

○この年の有名作品

・『In Utero』Nirvana

・『IllmaticNas

・『Crooked Rain, Crooked Rain』Pavement

 先述のとおり、この年のどこかでレーベル創始者Ivo Watts-Russellは精神の病に陥り、レーベル経営から身を引いていく。

 

14. 『Mine』The Glee Club

 

 同名のアメリカの合唱団が19世紀中頃くらいから色々とあるらしいがそれに因ったのかどうかは分からない。ともかく、アイルランドのあるバンドを脱退した男女2人組がロンドンに移住し、My Bloody ValentineCocteau Twinsといったバンドに影響されて曲を作りデモを録り、やがてライブのために集めたメンバーでアルバムを録音し、その本作が4ADからリリースされ、その後のアメリカツアー中にギタリストの男性の方がそのままサンフランシスコに移住することを選択し、バンドは解散した。

 再結成後の作品などもあるけれど、基本は本作1枚だけのバンドなので、情報が少ない。なんでも「東洋的感性を有した女性ボーカルと、合わさって歌を形成する曲の断片との繊細な融合」と評されたとか。

 実際に作品を聴くと「グランジ以降のフォークロック」というものを1曲目のソングライティングから感じさせる。確かにこの女性ボーカルの歌い方の、どこか世界の果てのような朽ち果てた場所で歌ってる風な感覚には、東洋的かはともかく4ADみがあるように感じられる。そこに、コーラスが効いたギターやケルト音楽めいたストリングスが入ってきて、アメリカンな感じとは確実に趣を事にする類の情緒が生まれ出ている。もっとバンドサウンドが明確に駆動する曲もあるけど、やはりギターにはどこかイギリスめいた、端的に言えばThe Cure的な感覚が混じっている。「グランジThe Cureから出力されたアイルランド式フォークロック」と言えばそれなりに当たっているだろうか。勿論上記のとおりの影響を受けているから、時折シューゲイザーを目指した風なギターも噴き出したりして、実に1994年を感じさせる。

 

www.youtube.com

 

(歌詞が見つからなかったので翻訳なし)

 

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前編おわり

 前編は以上で終わりです。ここまで、創始者Ivo Watts-Russellがレーベルに健在な時期の作品を、合計14枚見ていきました。後編の残り16枚については、彼がレーベルを離れて以降、すなわち1999年より後の作品群を見ていきます。彼がいなくなっても何だかんだでそれっぽい4AD風味が漂ってくる作品群やたまにそうでないものも含めて見ていこうと思います。

 なるべく早く後編も出せたらと思ってます。後編には今回の30枚から1曲ずつ選んだプレイリストも付けますので適宜お楽しみに。

 

(2022年12月22日追記)

後編書けました。

ystmokzk.hatenablog.jp

 

折角なので、こちらにも今回の30枚から1曲ずつ選んだプレイリストを貼っておきます。

 

open.spotify.com

*1:そもそも最初は4ADではなく、Jimi Hendrixの作品名から取った“Axis”という名前だったけど、当時すでに同じ名前の他社があったということで名前を4ADに変更した、という経緯あり。

*2:言わずと知れたインディロック界隈の超有力レーベル。PavementYo La TengoにとUSインディーが強い印象もあるけど、もっと幅広い取り扱いがあり、Pizzicato Fiveゆらゆら帝国なんかも海外向け盤をここから出していたりなどする。

*3:こっちも言わずと知れたインディロック界隈の超有名どころで、こっちはイギリスの印象が強い。The SmithsとかThe Libertinesとか。USインディでもThe StrokesはRough Tradeからってのはなんとなく頷ける話。

*4:どうも1994年ごろから神経衰弱に陥っていたそうで、元来の4ADのカラーが商業的理由で薄れていくのに耐えられなかった、的な指摘がなされています。というか時期的にやっぱ、当初のゴス色が薄くなってアメリカ感がどんどん増していくのが嫌だった…?しかし引退後はそのアメリカのニューメキシコ州サンタフェに移住したりしてて、あまりよく分からないところ。

*5:上記の画像はこちらからお借りしました

*6:国の規模が格段に大きいアメリカで沢山の有力インディレーベルができるのは理解できるけど、それに匹敵できるくらいの数のレーベル群が、購買力ははるかに低いであろうこの時代のイギリスに沢山生まれたことはちょっと物凄い。Sex Pistols効果の最たるものかも。

*7:代表的なのはEverything But the GirlやThe Monochrome Set、Felt辺りか。

*8:Aztec CameraやOrange Juiceといったネオアコ有名どころが所属。

*9:よりマニアックな感じ。ネオアコというよりもっとジャングリーな感じ?

*10:なんで急に資金難になってしまったんやろなあ(ラブレス)…。

*11:ひいてはPixiesとの契約がこのレーベルが長く続く切欠になったのだとしたら、音楽的影響と同じくらいに重要な転換点すぎる。

*12:この世界観において最も強力な存在は吸血鬼であるそうな。もっと後年のゾンビとかエイリアンとかいった醜悪なホラーの化物と比べても、吸血鬼がより耽美な存在であることは明白で、その辺が言われてみれば確かにゴス文化の根っこっぽさある。

*13:逆にJoy Divisionにはこのジェントルな感覚・演劇的な雰囲気は希薄で、しかしその分コントロールの不調・気取れないが故の陰鬱が、ある種の情けなさによって奈落に落ちるそのどうしようもなさが、全く別の、ものすごく幅広い可能性を有していたと言えそう。

*14:彼の面白いところは、特にPixies作品に対する入れ込み方が凄くて、自身が亡くなる2019年までずっとPixiesの大半の作品を担当し続けてたこと。Pixiesのアルバムも3枚目くらいから「これゴスか…?」みたいな変なジャケットになってくるけど、これはこのデザイナーが別にゴスにのみ拘ってたわけではないことを明白に示しています。

*15:まあ超健全で真摯なスタンスでドリーミーな音を扱うThe Nationalみたいなのも4ADにはいるけどもよ。

*16:個人的には、Bauhausのダークなサウンドは演劇的に完成され切っているが故に、もっと各リスナーの不安や憂鬱やどこかで見聞きした残酷な物語などを投影させやすかったJoy Divisionの方が結果的に後年より多くのリスペクトを集めることに繋がったんだろうか、などと愚考するところ。

*17:この名前自体が実にゴシックな英国王室めいた雰囲気を醸し出していて、この名前さえバンドのイメージに影響したと思ったりしますが如何に。だってエリザベスにフレーザーですよ。女王に金枝篇ですよ。

*18:ブリッジの箇所と言えばいいのか、あの箇所の、息を切らせたかのような調子で歌うセクションの、もう何か致命的に普通の調子じゃない感じ、最高。こんな歌い方があるのか、とその気の狂った感じが狂おしくなる。

*19:もっともそれは1stから始まってることだけども

*20:最近サニーデイ・サービスがこの曲にインスパイアされた楽曲をリリースしたりもして、オルタナサウンドがどれだけ一般化しても誰にも真似しようのないこの勢いは時代を経ても貴重だな、と思う次第。

*21:この曲に的確に弦楽器やピアノ入れたのが誰か知らないけど、この訳の分からない楽曲がそのポテンシャルを雄大に発揮するのに素晴らしく貢献した、本当にいい仕事だと思う。結果としてこの曲をテーマにしたジャケットになったのもなんとなく納得する完成度。

*22:バンドのベスト盤のタイトルにも選ばれ、Number Girlのカバーなど広範なカバーが為されている。パワーポップの先駆とも呼べるだろうし。

*23:この曲でアルバム中に程よく気の抜けた、マヌケなアクセントを的確に投入している。the pillowsがこの曲をオマージュしすぎた感じの楽曲を作ってたりもする。というかその曲が入ってるアルバムの頃のthe pillowsPixiesのこと好きすぎる。

*24:この記事をアップした日の前後にもジャパンツアーを繰り広げていた。ちゃんと知ってれば行ったのに…。

*25:2枚のアルバムを4ADから出した後、1995年に他レーベルに移籍。

*26:Deerhunterとかそういうリバイバル勢はひとまず置いといて。

*27:fishyという語には「胡散臭い」という意味になるらしく、その辺から来る皮肉的な意味を指しているのか。

*28:こっちと本作とどっちにするか迷った。

*29:『Mistress』が2パターン収録されているので、正確には13曲。

*30:逆にこの厳選から漏れた7曲及び1曲の別バージョンによって、セルフタイトルのもう1枚のアルバムが作られたらしい。

*31:これによって、セルフタイトル作品が2枚あるうちの本作は『Rollercoaster』と呼ばれることもある。もう1枚のセルフタイトル作はよく見たら橋が映っているので『Bridge』と呼ばれる。なおこのジャケットはWikipediaによると、別にVaughan Oliverの作品ではないらしい。なので、このジャケットに4ADっぽさを感じるとすれば、それはアーティストのスタンス自体が4ADっぽさを含んでいた、ということを示す。同じことがDeerhunter等でも起きる訳だけども。