ブンゲイブ・ケイオンガクブ

本を読まない文芸部員と楽器を練習しない軽音楽部員のような感じのブログ。適当な創作・レビュー等々。

4ADというレーベル、そしてアルバム30枚(後編)

 後編です。前編は最近の弊ブログとしては久しぶりに大いに読んでもらえたので頑張って書いた甲斐がありました。読んでいただきありがとうございました。

ystmokzk.hatenablog.jp

 

 後編ということで、前編で14枚扱ったので、こっちでは残りの16枚を見ていくこととなります。年代的には、1999年に創始者Ivo Watts-Russellがレーベルから出て行って以降の内容となってきます。経営者が変わったことで何か変わって行ったかもしれないもの、又は経営者が変わっても相変わらず立ち昇ってくる4AD風味などが、今回のリストから浮かび上がってきたり、もしくはこなかったりするかもしれません。

 記事の最後の方には今回取り扱った30枚のアルバムから1曲ずつ選曲したプレイリストも付けています。

 

 

後編を開始するにあたっての幾つかの前書き

 こう書かざるを得ないくらい、思いついた雑多なことを並べておきます。幾つかは前編に書いておくべきだったことなのかも。

 

 

楽家・音楽ライターが語り、選ぶ4AD(つまり、関連記事紹介)

 この一連の記事は色々なものをネット上で読んだりして様々にインスパイアされて書いている、ある種まとめブログ的な記事に過ぎないところがありますが、なので、まとめ元の開示は大切かと思います。前編で公開しそびれていた“まとめ元”のうち幾らかをここに掲載しておきます。

 

mikiki.tokyo.jp

mikiki.tokyo.jp

mikiki.tokyo.jp

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 このmikikiの一連の記事を読んだ方が、やたらと長いこのブログの記事よりもすぐに4ADのことを掴めるんじゃなかろうかとさえ思われます(苦笑)。こんな長いだけの文章読む価値無い(笑)。

 2019年に書かれたこの一連の記事は、4ADという長く豊かな歴史とカタログを持つレーベルの流れに十分にリスペクトを捧げつつ、とりわけ2008年以降の、より多様化していった4ADに焦点を当てます。2019年というと、DeerhunterやThe Nationalが新作を出し、そしてBig Thiefが4ADと契約して超素晴らしいアルバム2枚を同じ年のうちにリリースしてしまった年です。

 このように多様な人物による複数の言説が並ぶことは、多様な視点から多様な意見が出てくるように思えますが、実際の効果はむしろ逆で、複数の視点が同じ事に言及することによって、レーベルとしての4ADの特徴がより明確に浮かび上がる、といった構成になっているようにも感じます*1

 

 

2007年以降の4ADーSimon Hallidayについて補足ー

 今回取り扱う16枚のアルバムの時代のうち特に2007年から*2は、Warpにおいて10年間活躍し、様々なバンドアーティストが元来ダンスレーベル的なところだったWarpと契約するきっかけとなった人物であるSimon Hallidayが4ADの社長となって以降の作品になります。彼がよくインタビューを受けていることもあり、創始者Ivo Watts-Russellと同じくらい2007年以降の4ADにおいて重要な指針になっているのじゃないかと考えてしまいます。

 しかし、彼は自身の“フィルター”としての機能をそこまで重視していないようで、というよりも積極的に“節操のない”方向にレーベルの舵を切っているように思います。インタビューでことあるごとに「今の4ADの音楽的・形態的こだわり」についてその存在自体を否定する発言を繰り返しており、ただただ良い音楽を出したい、アンダーグラウンド・ミュージックを幅広いオーディエンスに届ける、ビッグ・インディーなレーベルでありたい、と話しています。とはいえ、彼がDeerhunterを4ADに引き入れたことなんかは、結果的に伝統的な4ADの雰囲気の更新にもなった気もしますが。

 彼が4AD着任後に行った大きなことが、元々Beggars Banquetを親会社としていた、4ADを含む幾つかのレーベルを、元親会社のBeggars Banquet含めて4ADに吸収しタコとで、これによって当時Beggars Banquet所属だったThe NationalやSt. Vincentといったのちの顔役の一角になるようなアーティストが4ADに自然に移籍することとなりました。

 彼が中心となって以降の、伝統や形式やジャンルにあまり縛られすぎず、良いと思ったものを積極的に取り入れていった4ADの成果を結果的に分かりやすく一望できるようになっているのが、レーベル40周年を記念して制作された、4ADの様々な過去の楽曲をリリース当時の2021年の現行4AD所属アーティストが重い思いにカバーしたトリビュート的なアルバム『Bills & Aches & Blues』です。今回の記事で取り上げることの出来ていない、正直よく知らない若手アーティストも多く参加して、様々な楽曲、時になかなかに有名な曲なんかも大胆にカバーしていたりなどするようです。中にはThe BreedersやBradford CoxやBig Thiefなんかも他社のカバーを披露していたりしますが。っていうかDry Cleaningがサラッとメロディを歌う曲を演奏してるのが中々レアな…。色々と面白いです。

 

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女性ボーカルの宝庫としての4AD

左上から時計回りで、Elizabeth Fraser(Cocteau Twins)、Kristin Hersh(Throwing Muses)、Kim Deal(Pixies, The Breeders)、Miki Berenyi & Emma Anderson(Lush)、Kazu Makino(Blonde Redhead)、St. Vincent、Grimes、Adrianne Lenker(Big Thief)、Florence Shaw(Dry Cleaning)

 どこまでそうなることを意図して運営されているかは分かりませんが、4ADというレーベルはその歴史上多くの女性ボーカルを擁するバンドや女性SSWをフックアップしてきました。

 その辺の意義とか疑義とかはとりあえず横に置いておいて、どの時期にどういう人やバンドが活躍したのかを、前回や今回の記事でアルバムを取り上げる人も残念ながらそうでない人も含めて、ここでササッと見ておきましょう。

 

1980年代

 レーベルができて以降の女性ボーカルといえばCocteau TwinsのElizabeth FraserとDead Can DanceのLisa Gerrardでしょう。後者はメンバー構成員の男女ともボーカルを担当するので、突出した女性ボーカルとしてはほぼ前者のみでしょうか。

 でもその、Cocteau Twinsのボーカルこそが4ADというレーベルの異様な美学だとか耽美だとか退廃美だとかを体現しまくったことも事実。この辺、最近急にCocteau Twinsにハマって書いた以下の記事も興味があれば適宜ご参照ください。

 

ystmokzk.hatenablog.jp

 

ystmokzk.hatenablog.jp

 

 1980年代中盤以降に4ADアメリカに進出するときも、その最初は女性がボーカル・ギター・作曲等を担当するThrowing Musesでした。この辺はむしろ1990年代の4ADの女性ボーカル達の流れの先鞭という感じがします。そして、Pixiesという4ADのイメージを内側から食い破るほどのモンスターの登場の中で、Kim Dealという次のディケイドの体現者のひとりとなる存在が活動を始めていくわけです。

 

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1990年代

 1990年代の4ADは、女性がリーダーとして活躍するバンドが大西洋を挟んだ両側に存在しました。即ち、イギリスの側はシューゲイザーバンドの一角であるLushが、アメリカの側はPixiesから独立して自由な活動を標榜するKim Deal率いるThe Breedersが登場し、Cocteau Twins方式の「異様な形で構築された楽曲を超然的に歌う」というスタイルではなく、「自分たちで曲を書き、演奏し、歌う」という、自然体でイニシアチブを取っていく形態が前面に出ていきます。それは1990年代オルタナティブロックの進展の中で少なくない女性アーティストが頭角を表してきたことの代表的な一角とも言えるでしょう。

 

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 一方で、どちらかといえば旧来的な「男性リーダーが曲を書き女性ボーカリストが歌う」スタイルも幾つか継続して見られます。前回記事で取り扱ったHis Name is Aliveは典型的なそういうタイプのバンド(?)で、4ADから出て行った後にはボーカルの交代さえ起こります。また、1990年代終わりごろに創始者Ivo Watts-Russellが、レーベルを出ていく直前最後の積極的な活動としてプロデュースしたバンドThe Hope Blisterもまた女性シンガー*3を擁した集団でした。

 

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2000年代

 2000年代の特に中盤くらいまでは4ADというレーベル自体が活力が低下し、シーンを牽引する力がだいぶ落ちていた時期ですが、何人かの女性アーティストをサポートしています。SlowdiveやMojave 3のRachel Goswellのソロ作だったり、スコットランドのバンドThe DelgadosのボーカルEmma Pollockのソロ作だったり。

 2000年代の4ADの女性アーティストで一番存在感が高いのは2004年頃から4AD所属となったBlonde Redheadのボーカル・ギターを務めるKazu Makinoでしょうか。このバンドは活動歴が長く、4ADの在籍はアルバム3枚分の期間でしたが、Simon Halliday就任前の4ADレーベルにおいてとりわけ『23』という傑作をもたらしたことは大きかったようにも思いますが詳細はアルバム個別の項にて。

 2000年代末頃にはSt. Vincentも4ADからリリースを始め、2009年の『Actor』は彼女の出世作になります。

 

2010年代

 Simon Hallidayが代表となって以降のレーベル運営においては、女性アーティストが注目されることが増えたように感じられます。他ならぬ彼の口から女性アーティストへの言及が割合多いように感じられることは、もしかしたらこの年代における多くの女性SSWの登場や活躍の流れの中のひとつなのかもしれません。

 4ADの2010年代の女性アーティストで一番取り上げられるべきはGrimesでしょう。2007年からこの名義でインターネットベースで始めた彼女の音楽活動は、2012年にこのレーベルからリリースした『Visions』によって世界中に大きく知られるようになります。ポストインターネット時代の寵児とされる彼女の活躍は、どこかクラシカルな印象のある4ADの従来イメージからはかなり異質の存在で、4ADの雰囲気も変わってきたことを少しばかり象徴します。彼女はその活動で時に4ADを「クソレーベル」などとこき下ろしたりとトラブルを起こしつつも、2020年のアルバム『Miss Anthropocene』までを4ADからリリースし、その後メジャーレーベルであるコロンビアに移籍、そして、現代アメリカビジネス界やとりわけTwitterを通じて現代インターネット言論空間で重要な位置を占めすぎてるあのElon Muskと結婚して子どもを設けては別居したり、音楽の外側の部分で騒がしい状況になっています。

 彼女の例は色々と極端すぎるにせよ、他にも様々な女性アーティストやバンドを4ADはフックアップしています。Merrill Garbusによるローファイ全開なtUnE-yArDsに、女性ボーカルを擁するカナダのエレクトロユニットであるPurity Ringに、同じくカナダ勢だけど名前はU.S. Girlsって名乗るエクスペリメンタルポップユニットだったり、なんかアルバム1枚出した後にマネジメント関係か何かでレーベルと揉めて出て行ったSSWのTorres等々。イギリス勢ではシューゲイザーバンドDaughterもいて、このバンドのギターボーカルElena Tonraはその後Ex:Re名義でのソロ活動にも発展しています。2019年にはまた激烈にして繊細な表現力の持ち主であるAdrianne Lenker率いるBig Thiefと契約を結び、このバンドはその年のうちにあまりに強力なアルバムを2枚もリリースし、一気に4ADの代表バンドになりました。

 

2020年

 アメリカ勢がレーベルの中心となっていた4ADですが、2020年にはFlorence Shawのトーキングスタイルを中心に置いた音楽性がなかなかに異様なイギリスのポストロックバンドDry Cleaningと契約しています。

 

 

アルバム30枚レビュー(後半:2000年代〜2022年現在)

 ようやく。

 前半と同じく、目次でのネタバレ防止のため、リリース年のみ見出しにしてます。一応この記事の最後の方に、前編含めた全30枚の一覧表を付けています。

 時期柄仕方がないのか、やたらPitchfork臭がするラインナップかもしれません。あと前編以降にうやたらハマってしまったこともあって、やたらCocteau Twinsを形容詞に出しまくってどうこう言いすぎてるかもしれません。

 

 

2000年

○この年の有名作品

・『Kid A』Radiohead

・『Figure 8』Elliott Smith

・『Rising Tide』Sunny Day Real Estate

 

15. 『I Guess Sometimes I Need to Be Reminded of How Much You Love Me』Magnétophone

 

 4ADはバンドが中心のレーベルと思われてる節が大いにあるし実際その理解でまあ合ってると思うけども、たまにエレクトロ系のアーティストと契約したりする。それはどこかの時代だけということでもなくどの時期でもそうで、1980年代の4ADで活躍したエレクトログループのColourboxは、レーベルで貴重なNo.1ヒットを記録したMARRSの『Pump Up the Volume』の制作に携わった。2010年代以降はレーベル運営社の方針転換やらそもそもバンド下火の時勢やらでそういうユニットも増えたりしている。

 ところで、イギリスはバーミンガム出身の、アルバム2枚を残したこの、昔のドイツ製録音機械の名前を名乗ったユニットは、特にこのタイトルも長ければ収録時間も結構長い1枚目のアルバムにおいて、かなり抽象的なエレクトロニカ的音楽を実践していて、そこは4ADの歴史の中でもかなり異質なもののように思える。アンビエント的な音がぼんやりと寂しい雰囲気を作っているかと思うと、そこに妙に無骨で歪んだ音のビートが入ってきては過度に情緒的になるのを嫌うかのように暴れ倒したり、逆にそんな暴虐のビートの後ろで実に透明感のある音が鳴っていたり、妙にファニーな工場的なトラックがあったり、同じトラック内で音の光景が突如途切れたり段々と何か別のところに移動したり。

 こういうジャンルは自分の得意領域ではないし数を聴いてないので下手なことは書けないかもだけど、この音楽の、静かな音も激しい音も「偶然そこで鳴ってた雰囲気を切り取っただけ」みたいな風情は、なんともエレクトロニカ的な情緒を齎す。特に、ワザと汚く歪ませてあるのだろうビートの存在によってかえってアンビエントな音の透明さが増すかのような、相互に阻害と調和の間で緊張感にある雰囲気はこの盤ならではだったりしないかなと思ったり。歌は無いから何かを強く主張するわけではない、場面や情緒をただ切り取ってきただけのようで、そこにはそんなバランス感覚の遊びが、どこかチャーミングでセンチメンタルな形で転がっている。

 2枚目のアルバムでは普通に歌ってたりするからまた不思議な気持ちになる。あと、彼らはジャケット等にも色々な拘りがあったらしく、そんな作品をサブスクでだけ聴いている自分の身がいささか申し訳なく思えてくる。

 

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2002年

○この年の有名作品

・『Yankee Hotel Foxtrot』Wilco

・『Up the Bracket』The Libertines

・『Sea Change』Beck

 

16. 『Writers without Homes』Piano Magic

 

 スロウコア扱いされることもあるっぽい*4ロンドンの音楽集団であるこの人たちは、トラディッショナルなどこかの寒そうな田舎町の音楽をフォークトロニカ的・ポストロック的に、かつ少しゴス気味な雰囲気を添えて再構築してるような音楽で、そういう意味では結構4ADっぽい雰囲気がある気もするけども、映画のサントラとこのアルバムしか4AD在籍時には残さなかった。Wikipedia記事を見ると所属レーベルの欄に夥しい数のレーベル名が上がっていたので、彼ら自身が様々なレーベルを渡り歩く体質なのか。

 本作は、ボーカルの歌も入る曲あり、語りのように声が入る曲もあり、短いジングルのような曲あり、と、やはりどこかサウンドトラック的な作りにはなっている。通常的な歌ものバンドとは根本的に住んでる世界が違うんだな、こういうのに比べればまだ全然Cocteau Twinsってバンドなんだなポップなんだな、と思わされて、やはり自分が普段よく扱える類の音楽とは違う領域のもの、と感じもする。でも、Cocteau Twinsも本作のゲストとして参加しているらしく、この時期にはもう解散してるはずだけども…どこに…?と思いもする。

 メジャーコード的な明るさなど出てこようはずもなく、ひたすら寒々しい荒涼感か、寒々しい神経質さか、そのどちらかもしくは両方が各楽曲で立ち現れる。荒々しくも怪しいリズムの躍動する冒頭曲から2曲目、ゾッとするようなヴィブラフォンと歌と何かのエフェクトだけで形作られる『Postal』に入るところの寒々しさは、こういうジャンルの作品だなあ、って気持ちになる。8分以上をゆったりした歌心でぼんやり通り過ぎていく『The Season is Long』はRed House Painters的なスロウコアみがある*5

 このアルバムのとりわけ大きなポイントとして、素朴すぎるフォーク音楽のカルト的な名盤である1970年代のアルバム『Just Another Diamond Day』1枚を残してその後音楽活動をしてなかった、一部の間での伝説的存在になっていたVashti Bunyanをゲストボーカルに招いて『Crown of the Lost』という曲が制作されていること。彼女にとって30年以上ぶりの録音だったというこの曲には、素朴にして冷たく透き通ったエレキギターアルペジオ、ピアノの厳粛さ、そしてか細く脆い彼女の歌が合わさって、まるであのアルバムの世界観をそのまま当時のポストロック以降の音響の中でもう一度作り上げたかのような慎ましい儚さがある。せめてこの素晴らしい1曲だけでも聴いてほしい。こういう類の美しさに会うと「幸福って何なんだろうな」と気が遠くなる思いがするのは何なんだろう。

 

Crown of the Lost - YouTube

 

夜は水面に落ちていって 陽光が羽根を広げる

木々が朝に向かって手を振り

鳥たちは何を歌おうか考えてる

あなたが悪夢になる夢を見る

あなたが不公平な夢を見る

でも天使たちはまだあなたの庭で踊り

花々はまだあなたの髪に生えてくる

 

涙が枕にシミを作る 口から出た血がシーツを汚す

柳の道で心揺れる 小麦の道で心揺れる

でもあなたは低地の女王 亡者の冠をいただく

あなたが難破船みたいに壊れたのを見知った

あなたが岩の上で壊れたのを見知った

崖上から馬たちが来て その影が海をひっくり返す

波は底の方まで進んで 忘れられるまでそこに留まる

ねえ あなたは知ってる

鳥たちがいつ死にかけて どのようにそれを知って

どう森の奥深くに隠れて 死が訪れるまで眠るかを

知ってるよね 知ってるよね

 

    『Clown of the Lost』Piano Magic 全文

 

 

2003年

○この年の有名作品

・『Transatlanticism』Death Cab for Cutie

・『The Love Below/Speakerboxxx』Outkast

・『Ghosts of the Great Highway』Sun Kil Moon

 

17. 『Spoon and Rafter』Mojave 3

 

 他のどのシューゲイザーバンドよりもCocteau Twinsっぽくてよって4ADっぽくもあったSlowdiveはしかし4ADには所属せず、でも解散後に一部メンバーで結成されたオルタナカントリーバンドのMojave 3は一貫して4ADに所属し続けていた。SlowdiveとMojave 3なら前者の方が音楽性はずっと4ADっぽい感じだけど、不思議な感じだ。シューゲイザーバンドを辞めた後の彼らがかなりアメリカ意識なカントリーロックに思いっきり舵を切ったことも不思議だ。でも、Mojave 3もとてもいい音楽だ。

 筆者の一押しはやはり、間違いなく前年の世紀の大傑作『Yankee Hotel Foxtrot』に触発されまくった、Slowdive時代の音響的アプローチをカントリーロックに無理矢理注入したかのような不思議さが信条のこのアルバムだ。これについては昨年の今頃に書いていた2003年ベストアルバム記事で触れてたりもする。

 

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もうあっちの記事で色々と書いたから、特に改めて何か書こうと思わない。しみじみといいアルバムで、こういうカントリーロックの異化の手法って本当にいいよねってただそればかり。

 

Bill Oddity - YouTube

 

冒頭曲のYHFっぽさの陰でしれっと『Summerteeth』っぽさがあるこの曲が好き。彼ら相当Wilco大好きだったんだろうな。

 

美と退屈が楽しい時を過ごしてるよ

楽しみ全てを分かち合う お互いにとってもいいね

きみの歌が良すぎてハイになって

階段に座りこんじゃう

 

手を繋ごう 心繋いで 手を繋ごう 心繋いで

 

この強い線は きみの人生を長く伸ばしてくれる

じゃあ 何でそれに逆らうんだい?

この強い風は きみをもっと高く導く

じゃあ 何でそれに逆らうんだい?

 

      『Bill Oddity』Mojave 3 より一部引用

 

 

2007年

○この年の有名作品

・『In RainbowsRadiohead

・『Ga Ga Ga Ga Ga』Spoon

・『空洞です』ゆらゆら帝国

 

18. 『23』Blonde Redhead

 

 それにしても突然変異的な作品だ。日本人女性とイタリア出身の双子という不思議なメンバー構成のこのバンドは1995年から作品をコンスタントに出していたけど、シューゲイザーの括りで語られるのはおそらくこの作品だけだろう*6。どうしてこの作品だけ異様に“こう”なのか。メンバーが「レコーディング中は、ミックスに入るまでどういう作品かよく分からなかった」と言っていたり、メディアに絶賛された作品ではあるものの一部のライターからオーバープロデュースを指摘されたりしていて、まさかこのシューゲイザー風味はしれっとミックスにクレジットされているAlan Moulder*7によるものなのか…?*8

 この人たちの楽曲の特徴として、空気が腐っていくようなコード感というか、2000年代初めにRadioheadが特に『Amnesiac』辺りで世界中に知らしめたような、不協和音的なものを非常に効果的に用いた耽美なコード使用が、1990年代末頃の作品から全般的に見られると思われる。本作の不思議なのは、轟音にしてしまったら埋もれてしまいそうなその案外に微妙なニュアンス具合がしっかりと保持されたまま“ドリーミーな轟音”として成立してしまっていることだろう。シンセと思われる音も多く、そこはかとなく当時出て来つつあったニューゲイザーの流れとシンクロしてる、というかこの作品こそその代表格みたいにさえなってしまったかもしれないが、この腐食がちなコード感はこのバンド特有の性質だろう。

 その腐食ったコード感のままにドリーミーにダークに突っ走る冒頭タイトル曲のその名曲っぷりが、アルバムの勢いを如実に示してしまっている。轟音、機械的に躍動し反復するドラム、ボーカルの声質*9と多重録音、どれもが最高のバランスで突き進んでいく。続く『Dr Strangeluv』もまたその勢いをいい具合にクールに引き継いで、サビで少しばかり明るいコード感を見せる様が鮮やかで絶妙だ。あと『Silently』、この曲だけなんかモロにドリームポップの理想系みたいなトラックをしていてコード感もやたらポップなのがアクセントとしてとても効いてる。6/8拍子でアコースティックさとドリーミーさが交差する最終曲『My Impure Hair』も含め、この辺の楽曲がアルバムのシューゲイザーとしての印象を牽引しているのかなと思う。勿論男性陣ボーカルの曲も含めて他もかなりいいんだけども。

 シューゲイザーを主軸としてる訳でも無いバンドが放ったシューゲイザーの傑作、という意味では少しCocteau Twins『Heaven or Las Vegas』と立場が似ている感じがする。というか、このアルバムの前作からこのアルバムの次作までの期間4ADに在籍して、自身のコード感をより耽美に聴かせるようにするなど、結構伝統的な4ADっぽい音楽に寄せてた印象もこのバンドについてはあるような気がする。気のせいなのか。不思議なボーカルの重ね方といい、自分は本作や4AD所属時のこのバンドにどうもCocteau Twinsをダブらせて見てしまっている。褒められたことでは無い気がするな。

 

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23秒:私達の愛したぜんぶ死んでしまう

23の魔法:人生を変えられるのならば

 

貴方の穢れた心 わたしの穢れた愛 今 悔い改めよ

もう何回目?人生が続く限り もう何回目?

世界は回り続けるでしょう

 

彼はわたしの友達だった

銃の子供 神の子供 神の子供だった

 

23秒:貴方の中にチャンスが見える

23の魔法: 愛の名称を変えれるならば

 

貴方の狂った心 わたしの狂った愛 今 悔い改めよ

もう何回目?貴方が望む限り もう何回目?世界は回るよ

何回目?貴方が望む限り 何回目?世界は回るんでしょう

 

彼はわたしの友達だった

銃の子供 神の子供 神の子供だった

 

23の…

 

           『23』Blonde Redhead 全文訳

 

 

19. 『For Emma, Forever Ago』Bon Iver

 

 Bon Iverが人物の名前じゃなくてバンド名だと忘れてしまいそうになるのは定番ネタなのか。Justin Vernonを中心としたバンドだという要素はアルバム『22, A Million』でのトラックメイカー的なサウンド作り以降どうしても忘れがちになるところ。

 そしてそういえばこの1stアルバムも、彼が持病によりバンドを解散させ失意の中父親の所有する山小屋に長期滞在した中で、彼が1人で全ての楽器を演奏して作り上げた作品だったんだった。バンドらしくなさはある意味初めからだった。そしてそれは、彼自身が元々は発表するつもりがなかったと話すくらいには実に素朴で、手作り感のある音楽になっている。勿論、その地点からの飛翔の具合によって有名になった人ではあるけれど、でもその素地としてこういう作品がある。むしろこの素朴さをこそ愛している人も結構いることだろう。

 とはいえ、別にアコギ弾き語りしか入っていないアルバムではない。むしろ、そういうスタイルであっても声の重ね方に気を配ったり様々なサウンドの挿入などに「後々ただのカントリーロックバンド的な方向には行かない」的な予兆を感じれなくもない。特にボーカルの扱い方には既に彼の強い個性が発揮されていて、2曲目『Lump Sum』から早速かなり複雑で奇妙なボーカルワークがイントロから聞こえる。短いけどバンドサウンドなインストの『Team』は、ちょっと眠くなりそうな位置にいい具合に置いてあって笑える。タイトルトラック的な『For Emma』の、バンドセットにトランペットさえ交えたウォームなスタイルにはある種のエモささえ宿っている。

 しかしそれにしても、一番「ただの弾き語り」な『Skinny Love』がどう考えても一番キャッチーなのは不思議な感じがする。この曲のシャウトさえ交えて強く訴えかけてくるようなメロディの強さには、彼が得意としこの後どんどん深めていく様々な手管も必要無かったんだな、と思える。どちらかと言えば全体のサウンドで押したがる彼にしては、この曲だけメロディも歌もシンプルに強すぎる。こういうのもできる人なんだな、こういうシンプルな手法だけで曲書いて作品を作ってたらどんなんなったんだろうな、という思いもこの作品は抱かせてくる。

 

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 なおこの曲の歌詞はかなり隠喩が多くて難解な様子…。先人の翻訳を貼ってお茶を濁したいところ。そもそも"Skinny Love"って何やの…ってところから始まるものなあ。製作時の状況証拠的なのも手伝って、終わってしまった恋愛についての歌っぽいことは感じられる。それにしてもなかなか恨み節が効いている。

 

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もう君に尽くしてくれる人なんかいない

代わりに守ってくれる人もいない

置き去りにされたい人なんていないんだよ

 

実に辛辣。

 

 

2008年

○この年の有名作品

・『808s & Heartbreak』Kanye West

・『Saturdays = Youth』M83

・『Vampire Weekend』Vampire Weekend

 

20. 『Dear Science』TV on the Radio

 

 この人達が4AD所属なのは何となく不思議な感じもして、Simon Halliday入社より前からの所属なので、それ以前の4ADも結構色々と現代風にやっていこうと模索してたんだろうな、と思える。ロックバンド界隈で黒人がリーダーのバンドは中々メジャーにならない(R&Bとかになってしまう)ところ、2000年代にはBloc Partyと彼らがいた。かたやロンドン、かたやニューヨークのブルックリンということで、どちらもどこか近未来的な、ツルッツルなサウンドをしてたことが印象的。

 シューゲイザーとインダストリアルの折衷的なギターサウンドを所々で展開していた2ndから打って変わって、このメディアで絶賛された3rdアルバムでは全体的にサウンドがシュッとした形にブラッシュアップされ、ソングライティング自体の躍動感もハキハキとしたものに変化し、つまりは大変メリハリのついた楽曲が並んでいる、彼らの洗練の頂点みたいな作品。つまり、割とインテリなサウンド構成だったこれまでよりももっと単純に「聴いてて楽しい・ワクワクする・しっとりする」といった印象が強い。

 冒頭の『Halfway Home』からして中心人物の親の出自であるアフリカのテイストをポップに感じさせるコーラスと、その実しっとりしたメロディ、そして完全にテクスチャー化したギターかシンセかその両方のサウンドが響く。その後もアフロテイストなファンクネスを実にサイバーテックなバンドサウンドと都市的なスウィートメロディで聴かせてくれたりもっとわかりやすくジャンクな形で突き進んだり。その折衷的なジェントルさのあり方はもしかしたら、前作でゲスト参加したDavid Bowie的なセンスに近いのかも。

 特にアルバム後半はシリアスなトーンの、アンビエントサウンドにメロディアスな歌が乗る展開が多くなる。『Family Tree』や『Love Dog』における流麗なストリングスには上品な切実さが舞う。そして、淡々とストイックなリズムに半分語りのような粘っこいボーカルと」そしてキャッチーな言葉なしのコーラスが連なる『DLZ』の展開の様は、ジリジリとエモーショナルな熱を上げていく。後半、抑制と暴発を繰り返すサウンドをバックにそれでも淡々とどうもうに言葉をたたみかける姿は何かの壮絶さを思わせる。

 彼らがこの後、メンバー1人を死によって失い活動が停滞していったことは悲しいことだ。Bloc Partyも2000年代終わり頃に活動休止に入って、黒人主導のロックバンドとして活躍するグループはその後Alabama Shakesの登場を待たないといけないし、そっちも結局『Sound & Color』の次を出せないでいる。

 

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心配しないでください 死の教授

貴方の作り上げた構造は正常で 私のゴミは尚良い

貴方による犠牲者はとても高く舞い上がる

全ては次が誰か見定める鳥瞰を得るため

心配しないでください 死の教授

愛とは人生で 私の愛は尚良い

貴方による犠牲者はとても高く舞い上がる

視野とは 次が誰かで混乱したダイヤモンドになり得る

心配しないでください 死の教授

貴方の衝撃は正常で 私のストラットは尚良い

貴方の作ったフィクションはとても高く舞い上がる

誰が病気か 次が誰か見定める医者を皆保てるのですか?

心配しないでください 死の教授

電化されて 私の愛は尚良い それは結晶化で 私もまた

全ては次の誰かと結合したダイヤモンドになり得る

 

これは 敗者における永遠の夜明けと知覚されるだろう

 

        『DLZ』TV on the Radio より一部抜粋

 

 

2009年

○この年の有名作品

・『Bitte OrcaDirty Projectors

・『Album』Girls

・『Primary Colours』The Horrors

 

21. 『Actor』St. Vincent

 

 “Bon Iver”と違って“St. Vincent”はほぼAnnie Erin Clarkというブルックリンの女性SSWの芸名みたいなものなので大丈夫(?)。バークリー音楽院中退後、Sufjan Stevens等のツアーメンバーとして活動し、2006年に最初のアルバム『Marry Me』でソロ活動を始める。その頃はBeggars Banquet所属だったが、Simon Hallidayによるレーベル再編によって4AD所属になり、その後の本作によって一躍メジャーな存在になる。やっぱり4ADからのリリースというのは一定の箔が付く効果があるみたいだ*10
 4ADを離れて以降の2014年のセルフタイトル作以降はどんどんエキセントリックなルックスでマシーナリーなサウンドと特に過激な歪みのギターを響かせる印象があるけども、この作品ではタイトルに反してそこまで過激に演技的でない、ジャケットのとおりまだナチュラルな具合が強く、彼女流の少しダウナーなボーカルを伴ったチェンバーポップ、といった趣がある。勿論そこにはそこかしこにライブでのトレードマークとなる彼女自身の暴発的なギターサウンドが見られ、何ならビデオクリップの作られたうちの2曲『Actor Out of Work』『Marrow*11にはすでに後の兆候がありありとあるけども。というか『Marrow』だけはそのまま2014年以降の作品に持っていっても別に構わなそうな“完成度”してるなこれ…。

 Sufjan Stevensのツアーメンバーという出自から感じられるとおり、彼女もまた様々なサウンドを駆使することが可能で、それがアコースティック面やオーケストラ方面にも伸び伸びと活かされているのが本作の聴きやすいところ。もう1つのビデオクリップのある楽曲『Laughing with a Mouth of Blood』はそちらの面が強調されて、穏やかでしなやかなメロディと演奏の中、それでもサビの箇所でエレキギターが主張するところはちょっと面白い。その他にも、アコースティックさ・オーケストラさ・メカニカルさが程よく並んでたり1曲の中で変異したりといった、色々とひねくれて入り組んだ作品だけど、その入り組み具合が本作の面白さなんだろう。確かに、オーケストラ方面だけ集めたりアコースティック方面だけ集めたりしたら少し退屈な風になっていたかもなので、このバランス感覚は当時の彼女ならではのものだったんだろう。総じて上品ではあるけど、上品ならではの“ごった煮のあり方”がここでは提示されてるのかも。何だ“ごった煮のあり方”って。

 

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感覚を取り戻そうと励む記憶喪失者みたいに

(ああ 彼らはどこへ行ったの?)

少し溢れ出す血混じりの口で笑ってる

(何を笑っているの?)

ほら 飛行機でどこでも行けるようわたしの区画を取引しよう

(ああ 彼らはどこへ行くの?)

未来は見えないけど 大きな計画があるのは知ってる

 

わたしの昔の友達はみんなよそよそしくて

昔の溜まり場のどれもがわたしを苛んでいる

 

『Laughing With a Mouth of Blood』St. Vincent より一部抜粋

 

 

2010年

○この年の有名作品

・『Crazy for You』Best Coast

・『My Beautiful Dark Twisted Fantasy』Kanye West

・『King of the Beach』Wavves

 

22. 『Before Today』Ariel Pink's Haunted Graffiti

 

 2021年のQアノン的なトランプ支持者による国会議事堂襲撃事件*12に参加していたことにより、Ariel Pinkのことは急激に語りづらくなってしまった。事件そのものによるレッテルが単にそうさせるというよりもむしろ、そのような事件による印象がどうにも作品と結びついてしまい、そしてそれが妙に説得力を持ってしまうところに、その難しさはある。彼のどこか幼いまま自由な過去への憧憬を駆使して作品を作る様は、この時期のインテリ化していくインディロックに対する一種のカウンターでもあったように思えるから、事件によってそこが構造的に批判されるべきものになってしまったのには、説明の難しい悲しさがある。一番そういう“政治”みたいなのから距離を置きたがるピーターパン的な音楽だったろうに、なのに、いや、だから、なのか…と考えると色々と苦く物悲しい。

 2007年に4ADに着任したSimon Hallidayが「(当時の4ADに足りないと彼が認識した)インディペンデントでアメリカンな感覚」としてDeerhunterやGang Gang Danceとともに契約を引っ張ってきた彼の最初の作品がこのアルバムで、再生を始めてすぐ「一体これは何年のレコードなんだ???」となるような、時代錯誤的な録音のされ方をしたトラックが聞こえてくる。1960年代や1970年代の音楽に想いを馳せる人というのは今でも多くいるだろうけど、こんな音質面まで追いかけてしまうのは珍しい。というか現代の機材を使ってもこういう音で録れるんだ、と思える。それはまさに「あらかじめ懐かしい」世界観で、パーっと駆けていくポップソングもあれば、昔のバーやモーテルで掛かってそうなムーディーなトラックもある。特にシンセを多用したトラックについては、おそらく1970年代前後にこういう音楽は存在してなかったはずなのに、しかし1980年代的なものとも違う、まさに「妄想で1970年前後のディスコミュージックを捏造した」かのような不思議な感覚が生まれている。この辺のラインの曲を聴いてると、彼がなぜ「チルウェーブの父」と呼ばれるのかその訳を仄かに感じられる。

 彼はその後アルバム2枚を4ADに残し、その後何か揉めたのか、レーベルをMexican Summerに移した。しかし上述の2021年の出来事により契約を解除され、その後どうやら“Ariel Pink's Dark Side”という名義で、2021年や今年2022年にアルバムを出している。なんかサブスクには無さげで、しかも「事件後」ということもあり、そこまで追いかける気力が出ない…。

 

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ビバリーの狂信者なんて聞いたことないね

そいつらに会う前によく考えてみな

最高級のコメディアンどもで構成されてるんだ

どんな近親相姦もダメにならないし 止められないよ

 

悪いけど お前のために謝るでもなし

憂鬱なゴミども マスコミを止めれない ダメ

 

ビバリーは毒矢で狂信者を殺す

ビバリーが狂信者を殺す ああ

ビバリーは金の矢で狂信者を殺す

ビバリーが狂信者を殺す ああ

 

Beverly Kills』Ariel Pink's Haunted Graffiti より一部抜粋

 

 

23. 『Halcyon Digest』Deerhunter

 

 うーん、このブログでもう何度目の登場になるか分からないアルバムなので、これは作品自体についての細かい話はまた別の記事でちゃんと書くことにして、4ADにおけるDeerhunterについての話を中心に書こう。

 Deerhunterほど“4ADのイメージ”ど真ん中なバンドは珍しい。まるで1980年代の先人4ADバンド達と同じか場合によってはそれ以上に、このバンドが有する「サイケデリアに浸された死の雰囲気と耽美さ」は実に4AD的で、彼らをもっとインディなレーベルのKrankyから引き抜いたSimon Hallidayはそれほど“4ADの伝統”なるものを気にしていないけれど、しかしながら「初めから4ADどっぷり」みたいな世界観を有するこのバンドを4ADに引き入れたのも確かに彼なんだよな。

 2008年の『Microcastle』はまさに、4AD様式の幽玄なギターロックが、古くて新しいような、そういう時間軸がどうでも良くなるくらいに“非現実的にナチュラルに気の狂った感じで”全うされた作品で、そこでは現実世界の原理とか誠実さとかがまるで通用しなさそうな、病的に歪んだ耽美の世界が覗いていた。そしてそれを、本作はもっと徹底して、かつどこかアメリカーナ的な規格にも足を突っ込んだ上で、サイケにぶん回してしまったものだ。

 上記のMikikiの4AD記事の中で、シャムキャッツ(当時)の夏目知幸が本作を挙げていてそして、当時のUSインディーの興隆の中でも別格に感じられたこのバンドへの熱中具合を以下のように語っている。

 

(ブルックリン勢などインテリジェンスが光るバンド群について言及した後)

そんな、どっちかっていえば構築的でポップ、もっと雑に言えばちょっと頭良さそうな人たちがやってるんだろうなってバンドたち、ブルックリン勢の活躍の傍、時同じくして出てきたけどこいつらはなんか、そもそもが違うなっていう感じだったのがディアハンターだった。2008年『Microcastle』でその存在感を大いに感じた俺たちに2010年決定打になる『Halcyon Digest』がもたらされた。下北沢でノルマ払いながらライヴをやらされていた誰もが〈これだ!〉と思った。そして新しいディレイ・ペダルとディストーション・ペダルとピッチシフターを買いに御茶ノ水へ走った。

 

そう、この摩訶不思議で異様な音楽が確かにバンドという集団から鳴らされていること*13、それ自体が大いに衝撃であったし、そしてそんな彼らこそどこか「バンドありき」の歴史であった4ADの象徴として相応しい存在であったと言えるだろう。何人も様々な楽器が弾けるミュージシャンを集めないといけないチェンバーポップは凄くても、ライブハウスに幾らでもいるようなお金も専門の教養もない人たちでは再現が難しく、その点Deerhunterはライブでも4人で、普通のバンドセットでこの音楽を再現して見せ、むしろもっと破壊的な轟音を浴びせかけて来るのだ。憧れないはずないだろう、というところが上記の夏目氏の評からは見て取れて、全く同感。

 見るからに不安定そうで不健康そうな音楽・バンドでありつつ、しかしながら意外にも、作風はブンブンと様々に振り回しつつも、彼らは4ADでコンスタントに作品を出し続けている。間違いなく2000年代以降の4ADで影響力断然トップで、しかもそのことを責任に感じる素振りも見せず、Bradford Coxはヘラヘラしながら活動を続けていくだろう。いや続けていってください。

 

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ぼくの手を取って 一緒に祈っておくれ

ぼくの最後の日々を一緒に

悪魔がぼくにやって来て

ヘリコプターが弧を描いてシーンを飛ぶ

 

安らぎのために祈る ぼくらを祈っておくれ

彼がきみを一番愛してるって知ってる

彼がきみを一番愛してるって知ってる

 

  『Helicopter』Deerhunter より一部抜粋

 

(2022年12月31日追記)

単独記事を書きました。全曲レビュー+歌詞全部訳+その他色々です。

 

ystmokzk.hatenablog.jp

 

あと、Deerhunter全体のディスコグラフィーについても書きました。Atlas SoundやLotus Plazaなどの別活動にも触れています。

 

ystmokzk.hatenablog.jp

 

 

2011年

○この年の有名作品

・『The Rip Tide』Beirut

・『Belong』The Pains of Being Pure at Heart

・『Within and Without』Washed Out

 

24. 『Parallax』Atlas Sound

 

 Bradford Cox二連発。でもこれだって4ADから出てるし、同じ中の人だから挙げない、というのもカタログ的によろしくないだろう。その辺の事情をご推察の上、ご容赦いただきたい。大体、『Halcyon Digest』という大傑作を作ったすぐ次の年にまたこんなものを出す方が悪い(?)。

 かつて彼のバンド外でのベッドルームポップ的なものだったであろうこのユニットは、前作『Logos』くらいからそういう訳にもいかないくらいの充実を見せ、そして本作に至って“完成”した。一応、ベッドルームポップ的なものの延長という存在定義は理解するけども、本作の音だけ聴く分には「Deerhunterの新作」と言われてももしかしたら気づかないかもしれない。だって、本作で幾つか聴けるような極端なエフェクトの掛け方だって、別にDeerhunterでもやってる訳だし。

 それでも、アコギが曲のベースになってるものが複数見られたり、サウンドエフェクトやシンセ等もそこそこ多用されているのを見るに、やはりこれはAtlas Soundなんだと後付けで確認できる。『To Amo』で確認できるアルペジエイターっぽいアルペジオのチープな回り方にはそういうテイストが確実に残っている。彼自身は本作でようやく満足のいくボーカルが出来た(それまでの作品のは恥ずかしい)とさえ言っていて、そこは少し反応に困ってしまうけども。

 彼の作曲方法として、古典的なポップソングの手法の骨格部分だけ取り出して、非常に極端で適当な形にコードや展開を反復させてみせるところがある。そこに「素面の、真摯で真剣な感覚」は見出しづらく、意識が曖昧なまま全てが進行していくような感覚は、サウンドだけでなく彼のソングライティングからも生まれていることは、歌詞からもメロディからも曲構成からも言えるだろう。普通に作れば牧歌的になってしまいかねないそれは、彼の毒々しい性質によって完全に異化され続ける。ベッドルームポップ的な楽曲も幾つか置かれつつ、しかしそこには彼流の甘いメロディが乗り、それは時折過激さに変異して、怪しい耽美さが保たれる。そして、『The Shakes』や『Mona Lisa』『Angel is Broken』のようなとっておきのポップソングも定期的に現れて、聴く者を時折揺り起こしてくれる。歌詞の方を見れば、彼の人生観の通常の人間とは結構違ってしまっている様と、それについて過度に悪びれすぎることもなしに歌われていくことによる「価値観の異なる別世界」が作品内に現れる。

 彼はこの作品に相当に満足を感じたんだろう。Atlas Sound名義での作品はその後リリースされていないし、Deerhunterの次作もガレージロックにボロボロに精を出して必死に自身の脱構築を図る『Monomania』だった。ボロボロになったり妙に綺麗になったり、色々としながらも、彼とDeerhunterの活動は続いている。素晴らしい。

 

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金と名声を手に入れた けどそれは本当に遅すぎた

だからぼくは豪邸に座り込んで

全てが終わるのを待っている

ぼくのマテリアル達 友達

ぼくのマテリアル達 友達

 

沢山友達が出来たな 沢山 沢山出来たな

そして 彼らはぼくに依存してきやがる

そして 彼らはぼくに依存してきやがる

 

この顔に映る恐怖を見てよ

やっとこの場所を離れられるよ

青い星や月の光の跡を超えて

でも自分の住所を思い出せないや

 

      『The Shakes』Atlas Sound 全文訳

 

なかなかの身も蓋もない告白っぷり。そんなに言葉数が多い訳じゃないのがかっけえ。

 

 

2014年

○この年の有名作品

・『Black Messiah』D'Abgelo & the Vanguard

・『Atlas』Real Estate

・『Benji』Sun Kil Moon

 

25. 『Soused』Scott Walker & Sunn O)))

 

 かつてRadioheadは彼らの出世作『Creep』のことを「Scott Walker Song」と呼んで、そのオールディーズ調の曲展開のことをやや自嘲気味に捉えていた。そう、彼らがデビューするその1990年代初め時点でScott Walkerという歌手は“歴史上の人物”くらいの感じだったはずだ。アメリカからイギリスに渡り、Walker Brothersで活動した1960年代があり、その後のソロ活動もあり、「昔懐かしの歌手」ポジションに収まっているであろうはずの人が、どういう訳か1995年のアルバム『Tilt』からエクスペリメンタルな作品を作り始めて、よりドゥームなサウンドになった2006年の『The Drift』から、いつの間にか4ADに所属し、なんならレーベル内でも格別に重たい作品をリリースする人間になってしまっていたのだ。その低い声を重低音のサウンドに重ねるのは、なるほど確かにエクスペリメンタルだ。Tim Buckley的な狂い方を別ベクトルにしているかのような恐ろしさがある。それも大概も大概のベテランが。Frank SinatraがSwansみたいな曲を出したりするか?これはそういうことだ。

 そして、彼のそんな晩年のスタイルの、2019年の彼の死の前に出した最後の作品がこの、ドゥームメタルバンドとして知られるSunn O)))との共作アルバムだというのが、なんとも壮絶。5曲で48分、どの曲も8分越え*14という、もうやりたい放題の作品は、冒頭から賛美歌のようなボーカルが始まったと思ったら被さり方のおかしいギターに不穏を煽られ、そしてすぐに、本来の重いギタードローンノイズを撒き散らし始める。何なんだこれは…。

 Sunn O)))による重低音の、ひたすらヒリヒリと荒廃感が展開していくドローンなアンビエンスにボーカルひとつで対抗するScott Walkerは相当にイってしまっている。冒頭の、賛美歌的展開と重低音を繰り返す『Brando』からして何かもう全ておかしい。各曲の演奏で、あまりにも低すぎて気分が悪くなりそうでさえある低音が渦巻いていて、その上をまるで死の天使にでもなったかのように彼は歌う。恐ろしいのは、あくまで彼は声を跳ね上げることはあっても、シャウトはしないことだ。叫ぶことが何らかの発散に、ある種の健全な爽やかさに繋がりかねないことを理解して徹底的に回避するが如く*15

 全身の血管が腐り落ちてしまいそうなほどの破滅的なこれらのトラックを残して、彼は2019年に死去した。大御所シンガーで彼のように振り切りすぎた晩年を送った人物なんていないだろう。その圧倒的に「やり切った」様に、何某かの敬礼を手向けることしかできないでいる。というか、これ1枚で4ADというレーベルのサウンドの幅を重く低い方面に広げすぎでしょう。

 

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ああ 広大なるミズーリ 断崖絶壁の住人達

広大なるミズーリを渡り

足り得ない ええ 足り得ることはない

 

ウィップ・プア・ウィル ウィップ・プア・ウィル*16

木々の中 高く切り裂いて

 

私を殴れば良い世界になるだろう

 

ひっそりと ひっそりと 私は膝の上で伏せっている

 

 『Brando』Scott Walker & Sunn O))) より一部抜粋

 

 

 

2015年

○この年の有名作品

・『Sound & Color』Alabama Shakes

・『Carrie & Lowell』Sufjan Stevens

・『Currents』Tame Impala

 

26. 『Art Angels』Grimes

 

 2010年前後くらいから本格化してくる、インターネットネイティブな感覚の音楽たちの中にかつてのカナダで宅録でチャレンジしていたGrimesを名乗る少女がいて、ある意味では2010年代というディケイドは、そんなインターネットカルチャーに戯れる音楽少女がいつの間にかアメリカ屈指の実業家Elon Musk*17との間に子供を設けるまでの10年間とも言える。何だか展開が凄くてついていけないぞ…。

 インターネットによる音楽やアニメや漫画*18の共有はあらゆる文化の垣根を無視して世界各地のマニアな人たちに架空の居場所を与え、自身の人種だとか国だとかよりもそのインターネット空間から文化を再生産していく流れが生まれた。それの初期のひとつがチルウェイブだっただろうし、その後グローファイだとかシットゲイズだとかシンセウェーブだとかヴェイパーウェーブだとかローファイヒップホップだとかソビエトウェーブだとかともかく色々ともう全然分からん具合に百花繚乱の事態を引き起こしているけども、こういう時代においてはそんな情報の氾濫を上手に泳ぎ切ってみせるパフォーマーが現れる。彼女もまた、そういうのに長けた一人だった。それもとびっきり。

 2012年の『Visions』でそのインターネット世代っぷりを世界に知らしめた彼女は、半ばセレブリティ的に現実に引っ掻かれたり引っ掻き返したりしながら、その内に秘めたパワーをさらに"カワイイ"な具合に爆発させて本作を作ってしまった。もう声が、ひたすら“イタズラっぽい少女の大冒険”じみた具合に自由自在に可愛らしく転がりまわって見せて、日本在住でそれなりに歳を取っている自分は川本真琴とか相対性理論とかを思い浮かべてしまった。ハイコンテクストを独自のパワーでやり切るロリータボイス、というところで共通しないこともないのではないかそうではないか。

 前作にあって今作にもジャケに残っているゴスな要素は不穏にデフォルメされた教会の感じがある1曲目の半インストみたいな曲に入っているが、続く2曲目『California』の、あまりにカワイイな声で「カ〜〜〜〜〜〜リフォ〜ニャ〜」って歌われる段階でそんなのどっかに飛んでいってしまう。前作がすごくストイックな作品だったように思えてしまうくらい、ここでのはっちゃけたボーカルっぷりの無敵感は強い。アルバム前のリードトラックだった『Flesh without Blood』の段階でそういうガーリーさのパワーアップは分かってたろうけど、ここまでとは。4ADの伝統?何それ食べれるの?っていうくらいの。3曲目『SCREAM』も冒頭の唸りからカワイイが炸裂しているけど、これは曲中のライムはゲストの台湾のラッパーとどっちがどっちだ…。一方、エレクトロ以外の楽器演奏も見せ、『Belly of the Beat』の少し牧歌的な世界とそれに合わせたっぽい妙な方向に伸びるボーカルは、インターネット時代のCocteau Twins*19みたいだ。アルバム終盤はより本格的な当代式のエレクトロビートの効いたトラックが並ぶ。『Butterfly』のサビの扇情的なメロディはいかにも2010年代な感じがして、何だか段々こういうのが懐かしくなって来てはいないか…。

 ともかく、元気爆発、って感じの自由闊達なアルバムで、これと同じ路線はもう続けられないと考えたのか、次のアルバムとなる2020年の『Miss Anthropocence』は全体的に重苦しい雰囲気のゴス強目アルバムで、カワイイは封印されてる感じがある。それも仕方がない。こんな濃いカワイイを延々と放ち続ける人間なんていないんだから。

 

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ああ もう月曜日 こんなの夢 心がまた壊れた

何か美しいものを探してて ああ神様

でも あんな奴らが何言ってるか全然分からないよ

だって夢中になってるもん 痛みを全て商品化するのに

 

あんな奴らがこっちに何を見てるか 自分じゃ見えないよ

お前らがわたしに飽きたら 棚に戻ってしまうのね

そして海面が地表より高くなったら 沈んじゃうんだ

 

カリフォルニア

わたしが悲しそうな時だけ好いてくれるね

カリフォルニア

こんな悪い扱い受けるなんて思いもしない

 

          『California』Grimes より一部抜粋

 

 

2017年

○この年の有名作品

・『Life Without Sound』Cloud Nothings

・『DAMN.』Kendrick Lamar

・『Songs of Experience』U2

 

27. 『Sleep Well Beast』The National

 

 インディロックバンドの成熟、“Joy Division的なるもの”の成熟、時代遅れとなってしまったかもしれない“ロックバンド”という形式のさらなる成熟、そして4ADというレーベルの成熟は、ある面ではこのアメリカのタフなバンドに託されていると言えなくもない。というのも、正直そんな真面目に考え抜かないといけなくなりそうなもの誰も背負いたくないし、音楽好きな人というのは可能であればずっと適度に適当にエキサイティングな経験を得続けていたいもので、そうではなく、落ち着き払ってシリアスに自身の音楽を深めていくのと、そしてそれを商業ベースで成立させていくのを真面目に考えていくことは、ひたすらしんどそうでヤなものだ。そして、そういうことをどこまでも真面目にやろうと出来る精神力と技術とが彼らにはある。

 出世作『Boxer』までBeggars Banquet所属だったのがレーベル再編により4AD所属となり、『High Violet』以降のリリースが4ADからのリリースとなる。低く落ち着いたバリトンボイスのボーカルと“Joy Division的なるもの”の発展系としての重たいニューウェーブサウンドを軸にじっくりと活動を続け、彼らにとって飛躍とひとつの達成となったであろう作品が本作だ。

 1曲目の、静謐なピアノを中心に穏やかに苦味を聴かせて歌う様の、年月を重ねたが故に出せるのだろうな、と思えるジェントルさには、眩しいくらいの真摯な“人生”の感じがしてしまう。2曲目では爆撃のようなタム回しのドラムとギターの効いたハイテンポを見せるけども、そこも勢い任せと呼ぶには堅実にオーケストレーションが重ねられ、そしてタイトルが『Day I Die』となってしまっている。『The System only Dreams in Total Darkness』でのダンディさもまた、別にこんな歳の取り方をしたいわけでもないように思いつつも、しかし誰でも出来る歳の取り方では決してないと思えるような格好良さがある。

 本作の彼らにおける飛躍になったと思える部分はエレクトロサウンドの大幅な起用で、その辺は特にアルバム中盤以降、『Empire Line』〜『Guilty Party』の3曲に色濃く表れている。エレクトロのビートを用いつつも、派手な高揚など見せず、ひたすら真剣に夜の地を這うようなその歌のあり方とそこに寄り付くアレンジの豊かさは、エレクトロサウンドによくある逃避の感じが全くしない。そして作品はラスト前、積年の重荷も痛みも疲れも一身に背負いヨタヨタと夜を歩くかのような『Dark Side of the Gym』に辿り着く。この曲の穏やかで、そこはかとなく優しい感覚の声も音も、アルバムで最も疲れ切った地点でありながら最も優雅で美しいものに感じられて、もしかしてやっぱりこういう歳の取り方が羨ましいか、と思える限りのくたびれ切った耽美さが夜空に浮かぶ。エレクトロビートに様々なノイズやエフェクトが乗る最後のタイトル曲はまるでエンドロールみたいだ。

 正直、こんな正面切って“良識ある大人”しているロックバンドは世界に他にいないだろう。だってロックって本質的にそういうものを嫌うシステムな訳で、しかしながら、そんな誰もが嫌いそうな道を延々と歩んできただけの実績とテクだとを持つ。それはもしかしたら、多くのアーティストがいつか憧れを抱くようなものなのかもしれない*20

 

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最初貴方に会った時 貴方は歩き出していた

泊めてもらえるかを聞きたかった

けど 貴方は友達と何かをしていたから

何も話しかけられなかった

 

でも しばらくは貴方を愛し続けよう

 

次に会った時 貴方は壊れてしまっていた

100万年が過ぎ去ってしまった

貴方は真っ直ぐに私を見て 私はただ振り返った

まだ 何も言えはしなかった

 

でも しばらくは貴方を愛し続けよう

 

無名のカストラートの夢を見る

彼は木々からこちらに歌いかける

最初の男女の夢をみる

彼らは海からこちらに歌いかける

 

だからこそ しばらくは貴方を愛し続けよう

 

 『Dark Side of the Gym』The National ほぼ全文訳

 

 

2019年

○この年の有名作品

・『When We All Fall Asleep, Where Do We Go?』Billie Eilish

・『Norman Fucking Rockwell!』Lana Del Rey

・『Odd to Joy』Wilco

 

28. 『U.F.O.F.』Big Thief

 

 2010年というディケイドは4ADにとって、Deerhunterの大傑作で始まりBig Thiefの力強い2枚のアルバムで終わる、と捉えることもまあ全く間違いではないだろう。そういえばこの一連の記事はBig Thiefのライブが凄く良かったことに感化されて、それが変な方向に行って書き始めたものだった。ここまで長かったな…。

 

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 彼女たちの一部もバークレー音楽院出身で、しかし、そんなことをあまり感じさせないような素朴でフォーキーな、もしくは時折驚くほどラウドな楽曲が、とりわけこの年以降のこのバンドの特徴となった。2枚の作品のうち、後に出た『Two Hands』の方はバンドのNeil Young的なラフなロックバンドとしての魅力にこそフォーカスしたものと感じられ、そしてどっちかと言えばそっちがバンドの素に近いのかなと思えたりもするが、そう思えるくらいには、この先に出た方のアルバムは静謐な緊張感に満ち、どこか森の奥深くの人知れぬ神殿めいた趣がある。この神殿的な感じの神経質さはそういえば実に4AD的というか、Cocteau TwinsとかDead Can Danceとかの雰囲気に通じるものが感じられて、そしてそんな作品が今のところこのアルバムに限られるところに、もしかしてまさかレーベルのカラーを少しばかり意識したのか…などと雑な邪推をさせる。

 アルバムは冒頭『Contact』からして厳かな神殿に入っていくようなムードに溢れる。アコースティックな響きが全然優しく響かない*21のは本作の特徴だと思うけども、それが最も強調されているのはこの曲かも。後半、遠くでひしゃげたシャウトが聞こえて以降はまるでその神殿が崩壊するような、そういうラウドさを急に発揮してくる。ここのラウドさや、アルバム終盤の『Jenni』で見せるラウドさも、どちらも『Not』みたいな感情の爆発ではなく、もっと運命的に炸裂してるような雰囲気があるのが不気味だ。

 “フォークソング”というとなんか勝手に優しげなイメージを持ってしまうが、本作で爪弾かれるフォークソングの数々はどれもまるで寒村の音楽みたいに寂しげに風の中に消えていく。タイトル曲もそうだし、そして早くもとどめのような『Cattails』がやって来る。この、明日のことも昨日のこともまるで分からないまま寂しい町の外れで風に吹かれるかのような風情は、いったいどこからやって来たのか。ひたすら同じ繰り返しを続ける芋虫のような楽曲に、どうしてこんなに胸を引き裂かれるのか。ライブの感想でも似たようなことを書いたけど、音楽って不思議だ。『From』の、穏やかなフォーキーさで通過していくかと思ったら一瞬だけ偉く感情が爆発したように謳われるところもドキッとする。弾き語りの『Orange』の実に寂しい村の音楽な風情も良い。

 シャッフルのビートでほんわかしつつも気付いたらえらくスペイシーなサウンドに行き着く『Strange』も不思議だし、6/8のテンポでユラユラと拠り所なしにさすらう様な楽曲のタイトルが『Terminal Paradise』なのも不思議だ。“宗教的な轟音”というのもあるんだなと『Jenni』を聴いて思ったし、ベースと歌だけのラスト曲も最後のノイズ含めてなんだか怖い。

 本作はそれまでバンドが有していた人懐っこい部分をおそらく意図的に殆どオミットしていて、それによって終始緊張感と、そしてそれと共犯関係にある類の寂しさとが行き渡っている。何を思ってそうしたんだろう、という部分はミステリアスだけど、おそらくそのオミットした部分をぶち込んだ『Two Hands』がすぐにリリースされたのはホッとする部分でもあって、2枚はとても良い関係にある気がする。そしてこの2枚を足した感じの作品が今年の2枚組大作『Dragon New Warm〜』…という訳でもないのがまた面白い。またライブが観たい。

 

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キャロライン キャロライン

貴方を苦しめたまま去るなんて出来なかった

配線を維持 配線を維持 大急ぎでそこにいるよ

間に合うよう 間に合うよう

誰だってトラブルに見舞われるんだ

 

そして 泣いてしまう時や理由を知る必要なんてない

 

菫色の瞳 菫は奏でる 五大湖にお戻りなさい

ガマ草が揺れているところ 孤独なアビと一緒に

6月下旬に電車に乗って そばの窓は広々としてる

 

房が空のベルみたいに落ちた モーテルの流星群

何もない空間は救いの聖地 楽しい時間と良い仕事

それでも疑問は木製の輪みたいに歌う

多分彼女は知ってるけど 教えてはくれないよ

 

でも 泣いてしまう時や理由を知る必要なんてない

 

そして 貴方にカントリーの才能を見つける

川の真ん中 芝生の椅子 皺だらけの手と銀髪で

すぐにここを離れて どこか分かるよね

孤独なアビと一緒に ガマ草が揺れているところ

6月下旬に電車に乗って そばには広々とした窓

泣いてしまう時や理由を知る必要なんてない

 

        『Cattails』Big Thief ほぼ全文訳

 

 

29. 『Gallipoli』Beirut

 

 サンタフェ出身のZach Condonを中心とした楽団のようなバンドであるBeirutは2007年頃には4ADに所属していて、シングルとアルバムを1枚リリースし、その後別のレーベルに移籍した。移籍した先での2011年の『The Rip Tide』がおそらく彼の代表作ということになろうか。その後の少し長い沈黙の後、2015年のアルバム『No, No, No』で4ADに戻ってきて、それ以降は現在まで4AD所属となっている。

 本当は今年リリースしたコンピ盤を挙げたかったけどそっちは前のレーベルからのリリースになっていたので、現状最新作でありちゃんと4AD空のリリースであるこのアルバムを取り上げる。

 『No, No, No』がどういう意図からなのかトランペット等の楽器を封印した、故に彼ららしさの大きな部分である雄大な旅情みたいなのを封印したミニマルな作品だったのに対して、本作では冒頭曲からしてトランペットの音が聴こえて「かつてのBeirut」に回帰したことがすぐに理解される作りになっている。特に、すぐに出てくるタイトル曲の、6/8のテンポに金管楽器隊が乗ってストリングスが乗って、壮大に風景が開かれていく感じは実にBeirutの本領発揮な感じ。タイトルはこれはトルコの割りとイスタンブールからほど近いエーゲ海に面した街の名前。そう言われてみればガリポリに行く感じの旅情かも知れない。

 それにしても、今年出たコンピレーションに収録されている楽曲は2007年くらいの楽曲だったけど*22、それとこのアルバムと聴き比べても、そんなにサウンドや歌に変化を感じないところに、彼の制作の安定感というか、何か不動の感覚を持っている人間なんだなという感じを覚える。歌のメロディとか声とか、10数年の月日を経て変わったりしてもおかしくないのに、昔も今も変わらずBeirutな感じに異郷の旅情を楽団で演奏している*23

 アルバム中盤は鍵盤中心な音作りの楽曲も複数あったりで、前作の要素も別に捨て去った訳ではないところに、何か折衷的なものが見え隠れし、その辺がもしかしたら、百年一日のように思え、ともすれば雰囲気音楽になってしまいかねない彼のキャリアの中で、それでも彼が何かもっとしようとする意思の現れなのかも知れない。反復するシンセと不穏なトランペットが重なるラスト前の『We Never Lived Here』が、そんな彼の模索の何かしらの光の一つかもしれない。

 

We Never Lived Here - YouTube

 

ぼくら ここに住んだことなんて全然ない

彼らのものの見方なんて分かりはしない

貴方が電話する時 彼女はどう奇妙がっている?

ここに住んだことなんて全然ない

こういったホールでコートを所持して

立入禁止の影を行ったり来たりした

 

ここに住んだことなんて全然ない

ぼくはどうにか真っ直ぐ立ってるけど

彼らは溺れて ぼくらは泳ぐ

彼らは分裂して 別れていく

 

  『We Never Lived Here』Beirut より一部抜粋

 

旅情のジレンマな感じ、ちょっと分かる。あちこちで生を送ってみたく思うときありますよね。

 

 

2022年

○この年の有名作品???

・『Lucifer on the Sofa』Spoon

・『Dawn FM』The Weeknd

・『Cruel Country』Wilco

 

 やっと今年まで来た…もう今年も終わっちゃうのに…。

 

30. 『Stumpwork』Dry Cleaning

 

 ここまで各アルバムを見てると、4ADはなんだかすっかりアメリカのレーベルなように思えるけど、でも未だに本社はロンドンにあるはずで、なので久々のロンドンからの有力なニューフェイスであるこのバンドにはそこそこ期待が掛かってる部分もあるだろなあと余計なことを考えてしまう。それにしても、こんな尖ったスタイルのバンドがロンドンのシーンの代表格の一角*24というのもなかなか凄い話だし、そんなバンドに自主制作シングル2枚の時点でベットしていった4ADもまた中々に。

 このバンドの作品を最初に聴いた時、予備知識一切なしで聴き始めて「1曲目はポエトリーリーディングなのか、2曲目もそうなのかえらい好きだな……えっ…」ってなった。そういうバンドなんだ。ニューウェーブ×ハードコア気味のインストバンド+バンド加入時音楽経験ゼロの大学の絵画教師だったFlorence Shawのナレーションみたいなボーカル、という謎スタイルで全曲貫いていくバンド。大学の絵画教師がなんてハードコアバンドのボーカルになったんだ…?という謎がかなり深いのが面白い。

 2021年に最初のアルバム『New Long Leg』をリリースし、そして早速の今年に2枚目のアルバムである本作をリリースしている。これだけ通常のバンド形態と異なったスタイルを徹底されると、普通の尺度で作品を捉えることがかなり困難になってきて、アルバムを重ねてどう作品が変化したか、巧みに語るのは中々大変だろう。インタビューを読むと制作に関する色々興味深いことが載っていて、「録音したトラックに後から言葉を書いて載せてるのではなく、言葉も並行しながらジャムを繰り返して曲を作る」「こういうスタイルのため、製作中に曲の“どこがサビか”をみんなで考え始めたりする」などが特に興味深い。

 本作は前作よりもスタジオを長い時間抑えることができたことや、ライブで演奏した曲をそのまま持ち込んだのではなく、割とゼロからスタジオで組み立てていった、という辺りが明確に前作と違っている点で、それがどのように音に出てきているかをここでいちいち言及するのは後出しジャンケンのような感じがある。ただ、シンセを使用してえらくツルッとした始まり方をする『Anna Calls from the Arctic』にはその辺の事情が端的に見て取れるかもだし、そこから少しばかりThe Smiths的なギターコードカッティングの爽やかさが見られる『Kwenchy Kups』への繋ぎ方は不思議な爽やかさがある。続く『Gary Ashby』はポップなトラックの上で…これは少しばかり歌ってないか、これ歌なんじゃないか、と思える場面さえ出てくる。ギターは基本大体モジュレーションが掛かっているし、時折そんな音で爛れたようなポストハードコアをゆっくり演奏するのがこのバンドならではの威力のように思えてくる。作中でもとりわけ長尺な2曲、『No Decent Shoes for Rain』の魅力的な停滞感や緊張感と、心地よいギターアンビエンスの効いた『Liberty Log』を経て、アルバムは最後、グジュグジュのギターサウンドでグッダグダのダーラダラになってのたうち回る『Icebergs』で終わる。いい混沌具合だ。

 正直、これよりもさらに作品を重ねていく上でこのバンドがどんな作品を出すのか全然想像がつかない。もしかして普通に歌い始めるんじゃないか*25、いやでもそこはグッと堪えて今の路線をもっと貫いていくのか、もしかしてその辺の緊張感自体が、彼女らの活動をエキサイティングに見ていくことへの鍵のひとつなのかどうなのか。とりあえず、ライブでのボーカルの不思議な安定感が、きっと実際にライブを見ると目を引くだろうなあと思った。本当にこのバンド以前の音楽経験無いのかこの人…普通に歌うよりかえって難しくないかこれ…あと髪が長え。

 

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ニュージーランド フランス スイス

ノーザンプトン エクセター エジプト

そんなことで泣いてもしょうがない

ネズミを見たことあります

ローラースケートで警察に注意された男性を

見たことあります

喫煙して飲酒してファッ●しましょう 知らんけど

パンケーキ食べましょう*26

 

貴方はいつでもわたしの心や身体を操れる

どうして貴方を信頼するんだろう

答えはこう しないし することなどまず無い

パンケーキ食べましょう

退屈 だけどショッピングは心躍るます

自律性ってお店で見つけられるんです

わたしのため わたしのため

 

お前誰だ

そのとおり 貴方は70年代から来た

この狂気を止めるべく時を遡らねばなりません

こんなことしないで あんなことしないで

わたしの哀れなハートは壊れちゃうます

めっちゃデカい めっちゃデカい

 

ハーイ ソファーをテストする仕事の人

無事完成したわたしの車に載せてください

ボンネットで卵を揚げてよ

こういう寂しい夜って最悪

 

あっ ワインを飲んで休日に赴くんだ

わあ いいね わあ いいね わあ いいね

 

お会いできてうれしいです

でもここじゃない 明らかにここじゃない

貴方のお尻は見たことあるけど口は見たこと無い

そんなの今や当たり前

ラム・サンディとフェルト・メル

とりわけ とりわけ今日みたいな日には

わたしと一緒に絵について解説しませんか

この人たちみんな何を運んでるんですか

この有毒ヘドロは何なんですか

知らなーい

 

ラーラーラー

ネズミを見たことある

ローラースケートで警察注意されマン見たことある

あー あー ラーラーラー うん

 

『No Decent Shoes for Rain』Dry Cleaning 全文訳

 

これは…自分の能力的にリアルタイムで英語を聞き取って理解できないのが残念なくらい訳分からん歌詞だなあ。面白いな。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・

あとがき

 以上、前編・後編合わせて30枚の4ADのアルバムを見てきました。そして色々とこの歴史のあるレーベルについての講釈めいた講釈になれていない何かを書き連ねてきました。延々と文書が続いて、上記TURNの特集記事みたいな簡潔さからは程遠い不毛な文章だったようにも感じなくもありませんが、ここまで読んでいただいた方々は大変ありがとうございます。大変だったと思います…書いてるこっちもこんなに長くなるとは思いもしなかった…。途中Cocteau Twinsに大きく脱線するとは思わなかったし。

 どんなに無駄な文章が多かったとしても、この一連の記事で取り上げた30枚のアルバムはそこそこに4ADという歴史と伝統あるレーベルの性質なり、雰囲気なり、案外の節操のなさなり、懐の深さなり、死と生と性と愛と世界の果てなり、そういった様々なものを解説したカタログには、多少はなっているだろうと期待されるところです。勿論漏れているも、取りこぼしているものの方が多いくらいで、全く完全なものとは思えません。やっぱ前半にLushを1枚くらい入れとくべきだった気がする…。

 正直、伝統的な4ADの格好良さって、言葉を尽くせば尽くすほど格好悪くなってしまいそうなところがある気がして、そういう意味ではこの記事は言わないでもいいこと言うのも良くないことを延々と書き連ねた、救いようの無い文章かもしれません。別にそれでいいです。ここまで書いて文章を“格好良く”削っていく気にもならないし。

 それでも、とりあえずはこれらの30枚について、元々好きだったものはその魅力を改めてしっかりと確認できたし、今回これらの記事を書くためにちゃんと聴き始めたもの等についても、聴いてるうちに様々な良さや楽しさや奥深さを味わえたりして、自分自身の経験として良かったな、と思いました。多少Wikipedia等からつまみ食いしつつも基本はただの感想文×30枚というだけの記事なので自己満足的な世界ではあるのですが、何かが間違って何かしらこれらの文章が役に立って、その人にとって素敵な作品と出会う機会にもしなってしまったりするのなら死ねるくらい幸いです。

 自分なんかが祈らなくてもきっとそうなるでしょうけど、これからも4ADレーベルに、そしてインディー音楽に栄光あれ。

 

4ADの30枚:リスト

 今回の記事で取り扱った作品の一覧表です。

 

プレイリスト

 今回取り扱った30枚から1曲ずつ選曲したプレイリストです。必ずしも歌詞翻訳した楽曲と一致していません。

 

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 以上です。本当にこんな長い文章を最後まで、ありがとうございました。

 ひとつだけこの記事でやり残してることがあるので、近いうちにそれができたらとも思っています。何シオン・ダイジェストの話なのか。もう年末も迫ってきてるし、それなりにしっかりしていて欲しいものをそんなにすぐ書けるものなのか。

 それではまた。

*1:まあアーティストチョイスの方はCocteau TwinsPixiesとDeerhunterの存在感が強すぎるだけのように感じられもしますが。特にシャムキャッツの人が語る『Halcyon Digest』のサウンドにインディーロックの大学生が皆憧れてた、という証言はどこか歴史的で重要かも。

*2:それまでの期間、特に1999年に創始者Ivo Watts-Russellが退社して以降Simon Hallidayが来るまでの4ADについては、Ed Horroxという人物がレーベルを牽引していたようで、しかしながら彼に関する情報はなかなか見つけきれてない。どちらかというと美学の方が強いタイプらしい。Simonが来た後もレーベルにいて、二人やその他のスタッフともよく話しながら、皆が納得する形でリリース等を取り決めているとのこと。

*3:This Mortal Coilにも参加していたLouise Rutkowskiというスコットランドのシンガー。

*4:というか自分は大阪の某貸レコード屋のスロウコアコーナーでこの人たちを知った。

*5:間奏はNeil Young的なギターではなく穏やかなピアノフレーズだけども。というか、歌に戻らずそのまま本当にゆっくりフェードアウトしていき、雨模様のサウンドエフェクトに移り変わっていくけども。

*6:せいぜい次作『Penny Sparkle』を無理矢理加えるくらいだろう。

*7:様々なシューゲイザーバンドに関わってきたプロデューサー・エンジニア。My Bloody Valentineの諸作にも関わっていた、と書けば、その歴史的役割も想像されるだろう。もちろんシューゲイザー以外も色々と活躍した人だけども。

*8:一応「セルフプロデュース」作品となっているけども。

*9:この曲についてはウィスパーっぽい歌い方もまたよりシューゲイザーな要素になっている。

*10:もっとも、「箔がついた」と思われる作品はどれも押し並べて力作が多いとも感じられて、これはアーティスト側からの4AD所属ということに対する敬虔さから生じる現象なのか果たして。

*11:何だこの横長なPVは…。

*12:どうしてこんなことが起きてしまったにも関わらず、当事者であるトランプがまだ政治家として表に出てくることができて、しかも退潮気味とはいえいまだに大いに支持があるのか、頭がクラクラしてくる。

*13:上記のもあるとおり、摩訶不思議な音の多くはディレイとディストーションとそしてピッチシフターによって出力される音であることが機材の公開から判明している。つまりそれらを買い揃えれば、理屈としてはこういう音が再現できてしまうんである。実際はなかなか難しいんだけどね。

*14:平均9分。これでもSunn O)))の作品では短い方と言うから…。

*15:なので、割と叫びに近いボーカルを冒頭で見せる『Bull』は少し聴きやすいように錯覚してしまう。

*16:アメリカに生息する夜鷹の一種?

*17:彼も彼でかなり日本のオタクカルチャーに精通した人間だから、その辺で彼女とウマが合ったのか。

*18:この辺は違法アップロードものなのかもしれないけどもまあ。

*19:もうこういう比喩ばっかだなこの記事は…。

*20:実際、Taylor Swiftがアメリカーナ的な自身の作品の制作にこのバンドのメンバーを招いている、といった例がある。

*21:アルバム通じて変則チューニングの嵐で、不穏なコード感が連発されていくのも大きいと思う。

*22:一部の楽曲は4ADに所属時の2007年あたりにリリースされたものが含まれている。

*23:そもそもZach Condonという人そのものが様々な国を放浪しまくっていて、どうしてそんなことが経済的にできるんだ…?などと小さいことも考えてしまう。

*24:まあもう何年もサウスロンドンからは実験場みたいな感じのバンドばっかり出てきてるような気がするけども。

*25:上述のとおり、実はすでにカバーで歌を披露していたりはする。

*26:上記インタビュー記事の序文でここの冠詞が(おそらく故意に?)抜けていること、そこに潜む作詞者の興味関心のあり方について論じられている。