ブンゲイブ・ケイオンガクブ

本を読まない文芸部員と楽器を練習しない軽音楽部員のような感じのブログ。適当な創作・レビュー等々。

Neil Youngのアルバム20枚+5曲(後半)

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 長大なキャリアを誇る世界的なSSW・Neil Youngの、40数枚あるオリジナルアルバムのうちベスト20枚を選ぶことと、プラス追加で5曲を紹介することと、そして20枚の推し曲+5曲を収録したSpotifyプレイリストを掲載する予定となっている記事の、ずいぶん長くなってしまった記事の後半部分です。前半は以下の通りです。

ystmokzk.hatenablog.jp

 

 早速行きましょう。

 

本編1:オリジナルアルバムベスト20(後編)

 流石にベスト10になると、変化球的な作品はなかなか入らないな…とリストを眺めてて思いました。つまり、殆どがNeil Young王道まっしぐらな、素晴らしいアルバムばかり。彼の場合、その王道が幾つかのパターンがあるな。。という感じですが。簡単に言えば、アコースティックサイドのものと、爆音ロックサイドのものと、その中間と。2010年代中頃くらいから中間というよりも、アコースティックと爆音ロックが共存する作品が増えてきてる感じもします。

 

●10位〜6位

10. Homegrown(2020年(制作は1975年))

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open.spotify.com Neil Young最新作!…ではなく、過去に完成していたのにボツになってしまったアルバムの復刻リリースが今年ようやくなされたもの。このアルバムは1974年に『On The Beach』をリリースした直後からレコーディングが始まり、1975年までに完成しリリースされようとしていたが、『On The Beach』よりも前に完成していたが暗い内容にリリース拒否されていた『Tonight's the Night』がリリースされる運びとなり、代わりに『Homegrown』のリリースがキャンセルされてしまった、という悲運のアルバム。収録曲のうち2曲*1は1997年にリリースされる予定だった『Chrome Dream』に収録される予定だったけどこっちも結局ポシャって、結局『American Stars'N Bars』に収録された。他の曲は『Love Is A Rose』がベストアルバム『Decade』に、『Little Wing』が結構後に『Hawks & Doves』に、『White Line』が更に後年にバンドサウンドで再レコーディングされて『Ragged Glory』に収録された。他の曲は長らく公式未発表・一部がライブでたまに演奏される、程度の状態だった。

 今作は1974年頃に彼の身に起こった、女優で当時の恋人だったCarrie Snodgressとの破綻へ向かう関係性を歌にしたものが多く、その個人的過ぎる内容から長年未発表のままとなっていたとか何とか。1970年代中頃の彼の作品は大体個人的な気がするけども。そんな弱り切った感情を彼の得意とするアコースティックを基調としたサウンドで丹念に作り上げたアルバムは、おそらくは代わりにリリースされた『Tonight's〜』よりも『Harvest』とかに近いので、売れたのでは…?とか思ったりはする。

 それにしても冒頭の『Separete Ways』は見事な名曲で、基本憂鬱なマイナー調の中に少しばかりのメロウな甘さが覗く様はまさにNeil Young節。この時代的なドラムの音の良さも光るし、そしてBen Keithのペダルスティールが冴え渡っている。シンプルな伴奏で最大限の情緒を獲得していく彼のこの手のスタイルが実に美しく花開いている。しかし歌の内容は実に個人的だろうし、これこそ「個人的すぎて発表できない」の最たるものだったのかも。他の曲も、アコギ/ピアノ弾き語りあり、フィードバックノイズ(!)を背景に語りが入り続ける謎トラックあり、ブルーズなトラックありで、実によく整理されたアルバム。同じ未発表アルバムでも殆どの収録曲が後の作品でしっかりサルベージされている『Chrome Dreams』と比べても、今回これが復刻されて本当に良かった。まさか2020年に彼の1970年代の名作が増えるとは、歴史は時々変なことが起こったりするけど、でもありがたいことだ。

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9. The Visitor(2017年)

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open.spotify.com アーカイブシリーズが始まって、遂に彼も過去の遺産を糧に余生を送るのか…などと思ったりしたけど、でもアーカイブ群に混じって普通にコンスタントに純然たる新譜がリリースされ続けることに驚き、しかもシリーズ開始前よりも発表される新譜のクオリティが上がってることにしみじみくる。過去の「彼」に負けないよう現代の彼が懸命に格闘していた、という構図なんだろうか。

 そんな2010年代の中で、カントリー界の大御所Willie Nelsonの息子たちが所属するバンドPromise of the Realに彼は出会う。そしてCrazy Horseに代わる自身のバックバンドとして、オリジナルアルバム『The Monsanto Years』、ライブアルバム『Earth』を立て続けにリリース。そしてより充実した今作をリリースと、彼の2010年代中盤の重要な活動形態となった。

 作品がひたすら重厚なバンドサウンドで埋め尽くされがちなCrazy Horseとの共作と比べて、Promise of the Realとの共作はサウンドのバラエティに富んでいる。自分よりもずっと若手との共演が楽しくて、色々出してみたりするのか。組んで2作目のオリジナル作である今作はよりその傾向が強まり、割と現代的なサウンド*2で様々な趣向のNeil Young印の、それも高水準の楽曲を楽しむことができるアルバムとなっている。

 冒頭は分厚いギターサウンドトランプ大統領を批判しつつアメリカの大地にリスペクトを捧げる『Already Great』で開幕し、トーキング調だったりカントリーロックだったり突如ラテン調マイナーコードの楽曲があったりで、楽曲の幅を出し惜しみしない具合の楽曲群は音もよく整理されて聴きやすい。特に終盤3曲は面白く、ファンファーレと並走するバンドサウンドから劇的な弦楽隊の伴奏に繋がる『Children of Destiny』はありそうでなかったタイプの曲。奇妙な捻くれ方をした小品『Whe Bad Got Good』を挟んでの最終曲『Forever』がまた、フォークロック調の楽曲で10分を超えるという、やはりありそうで無かったタイプの楽曲。大地へのリスペクトを苦味も込めて捧げながら、実に落ち着いて穏やかな世界が延々と広がっていく様は、ひたすらに彼特有の呆れ果てるほど無限に広がっていく光景の感じがして、様々な楽器が出入りして変化をつけることもあって、とても素敵に心地よい時間に浸っていられる。ここまで多彩な方面でアレンジに凝ってる彼の曲も珍しく、楽曲はいつものNeil Young節でも、見せ方によってこうなる、というのは新鮮な思いがした。それこそ、Wilcoみたいな凝り具合なのかもしれない。

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8. Zuma(1975年)

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open.spotify.com 爆音ロックサウンドが彼とCrazy Horseの基本スタイルとなる前は、結構軽やかなサウンドも演奏していたんだった。その頃の姿、もしかしたら後のギターポップやらパワーポップやらローファイやらに一番繋がるかもしれない軽やかなギターサウンドを典型的に収めているのがこのアルバム。ジャケットはなかなか訳が分からないけど、爽やかな感じのする作品だ。

 1970年代の「『Harvest』でスターになって嫌気が指す」→「知り合いがドラッグで立て続けに死にCrazy Horseに欠員が出る」→「悲しみを乗り越えるための個人的でダークな作品*3を連発する」といった流れを乗り越えて、新メンバーを迎えてCrazy Horseが復活する光景を収めた今作は、楽曲からポジティブなヴァイブが出てるものが多数ある。冒頭の『Don't Cry No Tears』からして、カラリと明るいコード進行にて、カントリーロックをよりガチャガチャした形で演奏するこのスタイルは、Big Starなどと共に後のインディロック、たとえばTeenage Fanclubみたいなのに直接結びつくスタイルの演奏とメロディになっている。『Lookin' For A Love』もそんな感じの軽快さで、更に『Barstool Blues』のゆったりしたテンポに、ガチャガチャしたギターサウンドに、高音を張り上げて無理矢理気味なポップでエモなメロディを描くボーカルが揃った姿は、ライトサイドのCrazy Horseサウンドの威風堂々ど真ん中といった出で立ち。この辺の楽曲はもう、カントリーロックというよりもむしろインディロックのサウンドとして捉えた方が今日的にスッキリする気がする。

 Crazy Horse的な重くて業でドロドロのサウンドも『Danger Bird』『Cortez The Killer』といった楽曲が担当して、ソフトなカントリータッチの曲も幾つか備え、結果としてこのCrazy Horse復活作は相当バランスの良い作品になっている。もしかしたら、Crazy Horse込みのNeil Youngを聴き始めたい、という向きにはこのアルバムが一番適してるのかもしれない。ジャケットが変でまごつくとは思うけど…。

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7. Psychedelic Pill(2012年)

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open.spotify.com 2012年に突如最盛期を取り戻したCrazy Horseとのタッグが生んだ、CDでも2枚組、合計90分弱の長尺の、どこを切っても100%Crazy Horseという具合の濃厚にして饒舌なCrazy Horseサウンドの決定版、というアルバム。ここで今作が最後のリリースとなって引退してしまうCrazy Horseメンバーが出てしまうほど*4。本当になんでこのタイミングでこんな化け物じみたアルバム出してるんだ…。タイトルの意味不明さも含めて頭おかしい。

 ここにあるのはひたすら、過剰なまでに濃厚で重厚で広大なCrazy HorseのサウンドとロックモードのゴツゴツしたNeil Young節の楽曲だけ。しかも特にDisk1には超絶長尺な楽曲を2曲含み*5、冒頭の『Driftin' Back』の27分37秒という尺は彼のオリジナルアルバム曲でも段違いにトップの長さ*6。まず初心者向けではなさすぎるこの冒頭に間違いなく面食らうけども、しかしアコギ演奏のパートとバンド演奏のパートを切り替えたり、長尺ギターソロをディレイ等のエフェクトで響かせるなど、その広大な時間をかけて紡がれる光景は実に果てしなくイマジナリーな作りになっている。その一種の美しささえ抱えてしまった「不毛さ」そのものが襲い来る。そして、尺をもう少し抑えて17分弱とした『Ramada Inn』は、Crazy Horse楽曲でも最高峰、と言いたくなるような、重厚だけども軽快というか、勇壮というか、彼らが出しうる哀愁・渋みの極みのような楽曲。何ならこの曲だけでも以下の動画で聴いていただければ、なるほどこの17分こそがアメリカーナなのかもしれないな…と思ったりするかもしれない。垂れ流されるギターの歪んだ温もりも、ギターソロの枯れた光のようなギラつきと香りも、歌が始まる時の寂寥感が一気にこみ上げてくる感じも、コーラスワークの荒涼とした感じも、彼らが出しうる「最良」がここに全てある、とさえ言い切りたい。彼が弾いたギターソロで最良のもののひとつだと個人的に思ってる。最早ギターの音が風景となっている*7。その後に来る、彼の地元を楽しげに連呼する常識的な尺の『Born In Ontario』はなんか照れ隠し的な。

 長尺曲に隠れて分かりづらいが、常識的な尺の曲にも豊かなCrazy Horseサウンドと程よくポップさと気だるさが同居する良いソングライティングが収まっていて、この時期のバンドもNeil Youngも絶好調だったことが伝わってくる。そっち側の曲+長尺1曲か2曲でCD1枚に収まる形で制作していれば、今作は「With Crazy Horse最高の名盤」になってたかもしれない。けど彼らはきっと、溢れ出てくるものを全て出し切ることを選んだ。その地獄のような潔さが、この絶対初心者がとっつきづらいアルバムを、彼のキャリアでも孤高で特別な存在に押し上げてる。彼のロックサウンドにある程度慣れた方は、ぜひ今作に挑んでほしい。果てしなさが目に見える、というのは、こういう経験なのかもしれない。

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6. Prairie Wind(2005年)

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open.spotify.com 何故か『Harvest』『Harvest Moon』から今作までの三部作の完結編、などととってつけたような謎の宣伝を打たれて発表当時リリースされていたけど、それはつまり、前2作と共通するナッシュヴィル陣との共同制作による、アコースティックサイドのアルバムということ。そして三部作の最後だということと、2000年代以降のNeil Youngということで、程よく枯れた彼のアコースティックサイドの哀愁が素晴らしく成熟して結実した作品だ。そして、アルバム1枚こういうアコースティックなバンド編成で通す作品としても、これが彼のキャリアで最後の作品になっている*8

 三部作をあえてここで比較してみると、『Harvest Moon』が一番ポップソングめいた作曲が多く、普通のカントリーじみている。『Harvest』がスロウコアにさえ達しそうな荒涼感があることを鑑みると、今作は『Harvest Moon』よりも『Harvest』に近い性質を持ち、つまりNeil Youngの作曲が「拉がれた」「擦り切れた」方面にメロディや情緒を展開させているということが言えそう。冒頭の『The Painter』もどこか軽快に・ポップになり過ぎない感じがあるけど、次の『No Wonder』でまさにそんな印象が決定づけられる。アコースティックなバンド編成に珍しいエレキギターの使用は、この曲の乾いた印象をより重層的にし、また変テコなメロディの収束のさせ方がかえって、実に鮮やかに枯れ渡った空の色を思わせる。やはり彼の形作る情景はなんだか果てしない。

 2000年の『Silver & Gold』よりも更に乾き方が絶妙になった楽曲群は、場合によってはひたすら地味に思えることもあるだろうけど、「不毛に続いていく風景」の感じは彼のアコースティックキャリアで最高潮だと言える。Jim O'RourkeやWilcoがやるようなフォーキーな音楽に一番近いのは、実は今作なんじゃないかと思ってる。なお、いくつかの曲ではホーン隊が演奏に参加し、これがまた野暮ったくて良い。何故かThe Rolling Stonesの『No Expectations』のメロディを借用してサクサクと楽しげに進行する『Far From Home』は何のつもりだ…?とは思うけど楽しい。正統派に美しいピアノバラッドも『It's A Dream』『When God Made Me』があり、やはり今作は「大地に生きる庶民から眺める世界の音楽」として、Neil Youngの数ある作品の中でも最高峰の部類の1枚だと思う。

 ちなみ、今回この企画のために聴き返して、こんなに良かったのか…と一番驚いたのはこの作品だったことを正直に申し添えます。

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●5位〜3位

 微妙に勿体ぶるのは、1位と2位についてはこの記事でも触れるけど、それとは別に個別記事を書こうと思ってるからです。1位と2位はもうずっと不動だった。。

 

5. Tonight's The Night(1975年)

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open.spotify.com 多分、これこそ彼のキャリアのベスト!という人も結構多いんだと思われる1枚。このSSWの宿命的な「業」によるダークさが所々に詰まった、ボロボロでズタズタな出で立ちが真に迫ってくるアルバム

 『Homegrown』や『Zuma』の項でも触れたけど、本作はCrazy Horseの元ギタリストのDanny Whitten、及びCrosby, Stills, Nash & Young以来ローディーを務めていたBruce Berryの二人が相次いでドラッグのオーバードーズにより死去したことを受けて制作された背景がある。『Harvest』以降の多忙とスターダムへの嫌悪とでボロボロだったところに降りかかったこれらの死に失意のどん底に叩き落とされた彼ら、悲しみを乗り越えるために、テキーラを演奏不能になる直前まで飲みまくってからセッションをする、という、あまりにロック的なエピソードによって複数の楽曲が作られている。どうしてもこのアルバムはそういった制作ヒストリーが先行してしまう。その後あまりの内容の暗さに所属レーベル乗りプリーズから発売を拒まれたこと、及びその後録音からしばらく経った1975年にようやくリリースされ、代わりに『Homegrown』がボツったことも含めて。

 上記のボロボロなスタイルで録音された楽曲が、やはりどうしても耳を引く。ヨタヨタな状態で演奏され歌われた楽曲は、その音楽的によれ切った状態が、まさに彼らの楽曲の感じと心情とに合致した、当時の彼らにしかなし得ないような楽曲となっている。冒頭と最後に置かれた二つのタイトル曲は、後年の片方がアコースティック片方がバンド演奏、といった違いは無く、単にどちらかを外すということが出来なかったものと思われる。静謐で怪しげな冒頭の方と、荒れまくった勢いで進行する最後の方。2曲目の『Speakin' Out』ではNeilはピアノを弾いているのか、ギターをNils Lofgrenが担当し、neilが弾く普段と異なるテクニカルな演奏を見せている。4曲目『Borrowed Tune』はNeilのピアノ弾き語りスタイルだけど、メロディをThe Rolling Stonesの『Lady Jane』から借用し、あまつさえそのことについて歌詞で言及し、「自分でメロディ書けないほど今オレは弱ってる」と歌う。5曲目には在りし日のDanny Whittenが歌う『Come On Baby Let's Go Downtown』のライブテイクが収録されている。

 アルバム最大の聴きどころは、やはり上記のボロボロセッションで制作された、ヨレヨレの極地のカントリーバラッド『Mellow My Mind』だろう。もしかして日本の音楽レビューで「メロウな」という形容詞が使われるのは、この曲が起源なんだろうか。元々「mellow」という単語に感傷的な意味合いは無いはずだけど*9、それくらい、この曲の豊かなカントリーロック演奏に反したヨレヨレの、しかし美しいメロディ、そしてコーラス部で無理やりものすごい高音を、声をひしゃげさせながら歌う彼の姿は、その痛々しさも悲壮さも込みで「メロウ」そのものだ。きっと当時の彼ら以外に、この世界の誰もこんな演奏はできやしない。

 高度な技術ではなく「魂」で作る音楽、というのは、暑苦しい話だけども、存在すると思うし、Neil Youngの音楽はその代表的なもののひとつなんだろうと思うけど、その中でもこの、製作者のボロボロさが音楽の良さに直結してしまった作品というのは、「アーティストが精神的にヤバい時にこそ傑作が生まれる」という良くも悪くもロック特有の価値観をJohn Lennonの『Plastic Ono Band』辺りとともに引き起こしてしまったその業の深さも抱えてさえいるけれど、でもその不健全さを理由に無視するには、あまりに音楽的に優れ過ぎている。結局我々は、その辺のファナティックさの問題に結論をつけることを適当に死ぬまで引き延ばし続けながら、こういう作品を是々非々の面持ちをしながらも如何しようもなく惹かれながら聴いてしまい続けてしまう。

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4. Sleeps With Angels(1994年)

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open.spotify.com 最初の方の「ベスト10以内はどれもNeil Youngの王道な作品ばかり」の文章を書いてる時には、この異端のアルバムを4位にしてたことをすっかり忘れてて、ここの文章を書き始める前に慌てて整合性のとれる内容に書き直した。おそらく、今作が最も、今回のランキングを奇特にも見ていただいたNeil Youngファンの多くが「は…?」ってなる作品だと思う。

 制作したCrazy Horseの面々も困惑気味で、ベースのBilly Talbotは「やたらと気味が悪くて、神秘的で、とことん変わっている」と称していて、また何をレコーディングしてたかよく分からない、という声もあっている。どんな作品かというと、バンドサウンド中心の作品なのに、やたら静謐で、ひたすら陰鬱で、そして多くの現実離れした音が鳴っているアルバム、と言えそう。その幽玄な作風から、リリース年に自殺したNirvanaKurt Cobainの影響、特に遺書に自身の歌詞*10を引用したことなどに衝撃を受けて制作された、などと誤解されることも多いけど、実際はタイトル曲以外は自殺より前に制作されていたという。自殺を抜きにすると、Crazy Horseの爆音ツアー成功とその後の『Hervest Moon』による売り上げ的な成功の中、Neilがなぜこんな暗い作品の制作に向かったのか、全然分からない。

 アルバムはまさに神聖さを感じさせるチェンバロの弾き語りによる『My Heart』により静かに始まる。数ある彼のピアノ弾き語りの名曲よりもさらに幽玄な感覚に、驚く。続いて始まる『Prime Of Life』も極度に抑制されたバンドサウンドの上で、Neil自身による寒々しいフルートの響きがとても印象に残る。彼の声もリバーブの深さの向こうにあって、まるで地に足を付ける気のないような、地を這うバンドサウンドと乖離して浮遊してるような感じがある。続く『Driveby』もまた、このアルバムのモードで『Heart Of Gold』を再演したかのような、静謐で陰惨な空気に包まれている。ピアノの音もやたら反響するスネアの音も、この曲のこの世ならざる雰囲気を演出していて、メロディが陽転する箇所についても、その安らぎの感じに「死」の影を覚えてしまったりする。これはどういうことなんだろう。全然意味も意図もわからず、暗い。

 タイトル曲はひたすら重苦しいディストーションギターに埋め尽くされて停滞し続けるような、やはり普通じゃない曲。割と普段通り優しいカントリーロックの曲もあるけど、なぜか『Western Hero』と『Train Of Love』という、歌詞だけしか違わない2曲として存在してしまっていて、やっぱり意味が分からない。アルバム中央に鎮座する15分近くの長尺な『Change Your Mind』は割といつものCrazy Horse的な重さだけど、その重さが基本重たいこのアルバムのど真ん中にあるので胸焼けしそうになる。コーラスのメロディが明るいのに救われるけど、この長尺の終わり方は軽く衝撃的。アルバム後半も不穏な空気感のまま静謐に進行する『Safeway Cart』や『Trans Am』など、アルバムの空気は陰の感じで統一されている。そして1曲目と同じくチェンバロ弾き語り中心で構成された最終曲『A Dream That Can Last』で、遂に天に召されたかのような終わり方をこのアルバムはする。こんな終わり方してしまったら、Kurt Cobainに捧げられたアルバムと多くの人が勘違いしてしまっても仕方がないと思う。

 本当に、このアルバムを制作した意図は分からない。それでも言えるのは、今作には彼がキャリアの中で時折作ってきた幽玄な空気感の楽曲、たとえば『Will To Love』だったり『Wrecking Ball』だったりといった、そういう楽曲の感じがより煮詰められたような雰囲気で充満しているということ。こんなアルバム、彼の数多い作品の中でも本当に他に存在しない。Wilcoのアルバムでたとえるなら間違いなく『A Ghost is Born』に相当する、と言うと分かりやすくなる向きもあるだろうか。つまり、“音響派”的な側面のNeil Youngの最高峰は、きっと今作なんだということ。どうしてこんなに暗いのか、本当に全然分からないけど、分からないからこそ、このやたらと恐ろしくもある奥行きに、時々やたらと魂を引かれたりしてしまう感じがする。今回のリストで最も、もっと多くの人に気づいてほしい作品だとも思う。

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3. COLORADO(2019年)

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open.spotify.com この順位に彼の実質最新作を入れるのは別に忖度とかでも何でもなくて、ただ単に、この作品が彼のキャリアで5本の指に入るほどトータルで素晴らしいアルバムだということ。弊ブログの2019年の年間ベスト記事では、それこそ彼のフォロワーでもあろうWilcoとBig Thiefに続く3位とさせていただいた。今作がそれらのバンドの作品に劣ってるというよりも、それらのバンドの2作品があまりに良すぎた。。

ystmokzk.hatenablog.jp 今改めて上記の記事の今作についての文章を読むと、「曲がいい」とか身も蓋もないことを書いてて、参考にならねえ…とか思った。けど、最早それしか言いようが無いと思うのも事実。メンバーチェンジを経ながらも充実し新境地も見せるCrazy Horseとの共演と、Crazy Horse作品らしからぬ多彩な楽曲の幅、そしてそれらの純粋によくできていることによって、非常にトータルバランスの良い作品に仕上がってる

 ギターが引退したFrank Sampedroに代わってNils Lofgrenに交代になっているが、本人たちの間ではともかく、リスナーからすればそれで大きな変化があったかは正直よく分からない。冒頭2曲がやや雑に感じるところはあるけど、そこから先は、まともな尺のそれぞれに充実しまた気配りも行き届いた楽曲群が、様々に趣向を変えつつ連なっていく。こんなにリスナーフレンドリーなCrazy Horse帯同のアルバムってあったっけ?鷹揚なカントリーロックを響かせる『Olden Days』においてはピアノも重ねられたりして、これも地味に驚く。今作はバンドサウンドとピアノが並走する曲が多数あるのも特徴で、『Green Is Blue』や『Eternity』にはソロ初期のピアノ作品をバンドとともに演奏しているという、意外と無かったパターンの楽曲になっている。メロディは彼らしい潤いと哀愁があり、素晴らしい。『The Visitor』の最終曲『Forever』に続くアコースティックな締めの『I Do』も実にしみじみとする。

 そして、2012年の『Psychedelic Pill』で行き着くとこまで行ったと思っていたCrazy Horseのバンドサウンドの「その先」を実にシックでメロウな形で見せてくれる『Milky Way』は本当に素晴らしい。もしかしたらギターの交代によってバンド感の間合いが変化したことが、こうした「静謐なCrazy Horse流爆音ロック」という、矛盾しているようで完全にブレイクスルーしたこの曲のサウンドに寄与しているのかもしれない。このバンド特有のミュート気味に引っ掻くようなギターカッティングが、非常に心地よい空気感を作っている。コーラスの後に更に新しいメロディを用意するソングライティングも気合たっぷりながら、やはり73歳にして新境地と言えそうなギターソロの、時々バグったかのようなラインも交えながらの美しさに強く惹かれる。6分というこの手の曲では比較的短い尺に収まっているのも地味にありがたい。

 本作にはたとえば『Tonight's The Night』や『Sleeps With Angels』にあるような、もしくは今年リリースされた同じく伝説的SSWなBob Dylanの『Rough and Rowdy Way』のような、危うくなりそうな要素は殆どない。ひたすら健全に、自分が今出せるもの整理して、丁寧にレコードにしたという感じがする。なのである精神状態の人を強く引き付ける要素には乏しいかもしれないけど、その分誰でもどんな時でもこの豊かな楽曲とサウンドに入っていけるという間口の広さがある。割と冗談でもなしに、今作をNeil Young聴き始めに選んでも悪くはなさそうだし、近年のNeil Youngの作品を聴き始めるという際にはぜひ最初に手にとってほしい作品だと思う。

 

●2位

2. After The Gold Rush(1970年)

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open.spotify.com いわゆるカタログ的な「歴史的名盤」と呼ばれるものの中には、その時点では本当に衝撃的だったんだなあ、みたいな、歴史的価値が先行してしまう作品というのが、どうしても散見されてしまう。歴史的価値と、ある個人の音楽体験上の価値とは、隔たりが起こりがちなものだと思うし、そういう「歴史的にどうか関係なく、大切なぼくのわたしの名盤」というのこそ大事なんだと思ったりもする。

 でも、歴史的名盤の中には、本当に、個人個人の魂に直接揺さぶりをかけるようなものだって全然存在する。そういうこともあるから、カタログも馬鹿にしてはいけないなと思う。

 『After The Gold Rush』はまさに、素朴なアコースティック/バンドサウンドと美しい寂寥感に彩られた楽曲群によって、多くの「個人」の魂を揺さぶり続けてる「歴史的名盤」だ。

 この記事の次の記事をこのアルバムの全曲レビューにするつもりなので、ここではあまり深く書かないけれど、前の記事で書いたNeil Youngの4つの魅力のうち、バンドサウンドは時代的なこともあってやや弱いかもだけど、他の3点についてはまさに今作はマスターピースと呼ぶに相応しい。ここには当時の彼の不安も哀愁も、あるいは当時の彼が知り得ない、今作より後に彼が歩んでいく歴史の苦難も失意も虚無も激情も、それらを予感する何かが霊的な形で、何故だか備わってしまっている。ここで「霊的な」なんて大それた形容をしてしまうのは後出しジャンケン的すぎるかもしれないけども。

 ともかく、次の記事は『After The Gold Rush』全曲レビューです。この記事を読んでくれている奇特な方々は、ぜひそちらもお楽しみに。

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(追記)全曲レビュー書きました。

ystmokzk.hatenablog.jp

 

●1位

1. On The Beach(1974年)

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open.spotify.com このブログでも何度か触れたことがあったかもだけど、このアルバムは彼の作品で1位だし、もしかしたらオールタイムベストでも5本の指に入れてしまうかもしれない。上で書いた「歴史的価値に関係なくおれ個人の魂をがっつりアレしてくれたアルバム」ということで、彼の他の何よりも個人的にかけがえのない作品。

 これは次の次の記事で全曲レビューを書く予定です。いつか書かなきゃなと思ってたところ、遂に機会が来た、という感じ。。

 今のところこの文章、作品の内容に何も触れてないし、後で全曲レビューどうせ書くからあまり今色々書くつもりはないけど、どうにか一言で評するならば、Neil Young的な虚無感が最も美しく、メロウに、楽曲やサウンドに、もしくはそれらが想起させる情景に結びついた作品、ということにしておこう。

 正直な話、『After The Gold Rush』全曲レビューだけでも相当気合が入るのに、これまでやるってなったら、一体いつ書き上がるんだろう…と今のうちから不安しかないけど、こちらも気長にご期待ください。というわけで、これが1位です。

 

(追記)どうにか全曲レビュー書きました。

ystmokzk.hatenablog.jp

 

●順位一覧

 改めて、ここに今回取り上げた20枚の順位を記載します。この20枚から漏れたアルバムにも素敵な作品は多々あるし(まあ苦手な作品もあるけど…)、ぜひともこんなブログのランキングなんかに囚われず、自由に聴いてほしいです。それでももし万が一、ここまで書いた文章やこの意味のない序列が役に立つことがあったとしたら、なんというか、恐縮です。

 

20位:Everybody Knows This Is Nowhere(1969年)

19位:American Stars 'n Bars(1977年)

18位:Freedom(1989年)

17位:Broken Arrow(1996年)

16位:Americana(2012年)

15位:Rust Never Sleeps(1979年)

14位:Are You Passionate?(2002年)

13位:Trans(1982年)

12位:Harvest(1972年)

11位:Silver & Gold(2000年)

10位:Homegrown(2020年(制作は1975年))

9位:The Visitor(2017年)

8位:Zuma(1975年)

7位:Psychedelic Pill(2012年)

6位:Prairie Wind(2005年)

5位:Tonight's The Night(1975年)

4位:Sleeps With Angels(1994年)

3位:COLORADO(2019年)

2位:After The Gold Rush(1970年)

1位:On The Beach(1974年)

 

本編2:本編1で取り上げられなかった名曲5曲

 最初の記事で書いたとおり、Neil Youngのキャリアはソロだけに留まりません。なのでここでは、メインのソロだけを見てると取り上げるタイミングがなかった彼の楽曲群のうち、ちょっとここで取り上げときたい楽曲を5つ並べておきます。

 

1. Broken Arrow / Buffalo Springfield(1967年)

www.youtube.com Neil Youngが最初にメジャーな立場に身を置くことになったのはBuffalo Springfieldの活動だった。Buffalo〜はカントリーロック黎明期にThe Byrdsなどと共にその礎を築いたとされるバンドで、この国でははっぴいえんどサウンドの参考にしたバンドとしても有名。

 だけど、彼らで一番有名で傑作ともされているアルバム『Again』は、かなりサイケな方向性に傾倒した作品で、カントリーロック色は時折かなり薄く感じられる。Neilは最初のアルバムの時点では同じバンドに所属するStephen Stillsほどには有力なソングライターではなかったけど、今作では急激にそのソングライティングとあとエゴを伸張させて、冒頭の『Mr. Soul』と、アルバム中盤の『Expecting To Fly』そしてアルバム最後のこの曲を提供した。

 The Rolling Stones『Satisfaction』のパクリくさいロックンロールナンバーの『Mr. Soul』はともかく、他の2曲はまさにアルバムのサイケサイドを代表する楽曲で、後に『Harvest』のストリングス曲の編曲にも携わるJack Nitzsche主導のストリングス等を大胆に用いたサイケデリック音楽を作り上げた。特に『Broken Arrow』については、次々に変わっていく曲調にリズムにアレンジと、バンドの枠を完全に超えた、彼のキャリアでもとりわけ複雑でドラマチックな曲展開を見せる。この大胆な曲調の変化と、それでも随所から現れる様々なアメリカ大衆音楽の感じは実にアメリカーナな音楽性で、アメリカ伝統音楽のコラージュという意味でもVan Dyke Parksの『Song Cycle』に先行している。

 Neil Young本人にとっても、このアメリカ先住民をテーマに取った壮大な叙事詩的作品によって自身のキャリアの方向性が少なからず影響されているところがあるし、彼の著作権管理会社も最初の名前は『Broken Arrow』だった。そして時が過ぎて1996年には同名のタイトルが冠されたCrazy Horseとの共作アルバム『Broken Arrow』が制作されている。

 他方、このコラージュ感覚自体にも惹かれたのか、1991年のFlippers Guitarのアルバム『ヘッド博士の世界塔』の冒頭の『ドルフィンソング』においてはこの曲から様々なサンプリングを行い、同じくサンプリングしたThe Beach Boysの『God Only Knows』共々凄まじくも実にセンチメンタルな世界を作ってる。というかここでフリッパーズが行なったNeil YoungThe Beach Boysの遭逢は、意図してなのかそうでないのかはともかく、アメリカーナ的な歴史を強引にパッチワークして展開して見せたような凄みがある。

 

2. On The Way Home / Buffalo Springfield(1968年)

www.youtube.com こちらもBuffalo〜所属時代の楽曲。彼の楽曲をその気になってアレンジすればここまで晴れやかで大衆的なポップスになるんだ、ということを、このバンドのラストアルバムの冒頭に収録されたこの曲は如実に示す。流麗でソフトなコーラスワーク、ホーンやストリングスが効果的に入った明るく突き抜けるポップさ。ボーカルはNeil本人ではなくRichie Furayが務めていて、それがよりこのバージョンをポップス的なブライトなものにしている。

 しかし、解散寸前で制作されたこのBuffaloバージョンがバンドのライブで演奏されることは無く、その後は実質Neilソロのコンサートでのレパートリーのひとつとなっている。早速Crisby, Stills, Nash & Youngの1971年のライブ盤『4 Way Street』でアコギ弾き語りにコーラスを付けた形で音源となって披露され、Neilソロでもライブで何度も歌われてきた。

 この曲のライブテイクで興味深いのは、アーカイブシリーズにて公表された、1980年台末ごろのアルバム『This Note's for You』の時期のライブを収めた『Bluenote Cafe』でのバージョンで、このライブはアルバムコンセプトを再現すべくホーンセクションを引き連れてのライブをしていたが、そのためかなりBuffaloバージョンに近いアレンジでこの曲が演奏されている。ホーンが明朗に鳴り響き、コーラスワークも極力再現された、このポップさ全開なアレンジで自身で歌うのはとてもとても珍しく、かなりの年月を経てスタジオ版に近い演奏が残されたことはなんか、ちょっと感動的でもある。

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3. Helpless / Crosby, Stills, Nash & Young(1970年)

www.youtube.com 元々は元The ByrdsのDavid Crosby、元The HolliesのGraham Nash、そして元Buffalo SpringfieldのStephen Stillsの3人が集まって出来たCrosby, Stills & Nashは、バンドの枠に拘らずに活動するという、スーパーグループとしての活動のはしりとして注目された。そこに何故か超絶エゴ人間のNeil Youngが召集されて、改めてCrosby, Stills, Nash & Young(以下もう長すぎるのでCSN&Yと書きます)に発展し、それぞれの有力な楽曲を収録した『Déjà Vu』によって一躍最重要グループとなった、という歴史的な流れ。まあ結局元々Buffaloで喧嘩別れした2人がまた揃ったので、結局また喧嘩して、すぐにグループは崩壊するんだけど*11

 そんな一瞬の煌めきのような4人グループ唯一のスタジオアルバムにNeilは、生涯彼の代表曲のひとつとなるこの曲(とあともう1曲)を提出した。3コードのひたすらに平坦なカントリーロックに、4人とも歌えるということを利用した分厚いコーラスワーク、そして「行くべき場所なんて無い、救いなんて無い」というメッセージの載ったこの曲は、グループを代表する名曲にもなってしまった。すなわち、カントリーロックの歴史的名曲でもあり、またウエストコーストロックの歴史上でも金字塔とされる、ある意味、彼の楽曲で『Heart Of Gold』と並んで「時代の歌」になれた歌だと言える。こんな豊かなカントリーロックのサウンドに乗って、不毛の大地に打ち捨てられて拉がれていくような歌を、1970年というロックの混迷の年にリリースできてしまったその宿命は、その後の彼の活動につきまとう「業」とも繋がる話だと思う。

 これもやはりNeil Youngの代表曲のひとつとして、ライブ等での演奏が非常に多い。一番有名なのはThe Bandの1976年の解散コンサートLast WaltzにおいてThe Bandメンバーと共演したテイクかとりわけ有名。The Bandによる盤石で充実した演奏もさることながら、この時Neilは鼻に白いコカインを詰めて(!)にこやかな顔で演奏しており、映像化の際には流石にその絵面は不味い、ということで、鼻コカインは上手いこと修正されてリリースされたというエピソードも有名。

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この、3コードでゆったりと展開していくというスタイルは、これより後のNeil本人も含めて、幾つものオマージュ作品を生み出している。一番過激で有名なものとしては、これもこのブログで何度も取り上げたけど、Wilcoの『Via Chicago』だろう。

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4. Lotta Love / Nicolette Larson(1978年)

www.youtube.com Neil Youngの楽曲が他者に歌われてヒットした珍しい事案。この曲についてはNeil Young本人のバージョンもアルバム『Comes A Time』に収録されているけど、そっちを聴くと実に荒涼としたコード感や質素な演奏で、実にNeil Youngらしい楽曲って感じるのに、しかし同時期にリリースされた上記動画のバージョンは見事に、ちょっとAORめいた完成度の高いポップスに昇華されている。馬子にも衣装、という言葉が頭をよぎったりする。

 この曲は『Comes A Time』はじめ多くのNeil作品で共演したNicolette Larsonがソロデビュー曲として取り上げたもの。Neilバージョンを聴いた彼女がこの曲を欲しがり、Neilは快諾、しかしどこかで心変わりして結局自作にも自分のバージョンを入れてしまい、そしてリリース時期もほぼ同じになってしまった、という顛末。Ⅳ△→Ⅲmを繰り返す素朴にして荒涼としたコードワークは、Neil版ではまさにという荒涼さを放つのに対し、Nicoletteバージョンはなかなかにムーディーな処理のされ方をしていて、同じコード進行でも両者の印象の大きな違いを思うに、編曲ってとても大事なんだな…と当たり前のことをしみじみと思う。

 

5. Winterlong / Pixies(1990年)

www.youtube.com 最後は少し視点を変えて、Neil Youngの曲をカバーした中でも、とりわけ名カバーと思われるPixiesのこの曲を選んでみた。オルタナティブロックのオリジネイターとして知られる彼らの、3rdアルバムの時期のシングル『Dig for Fire』にカップリング曲として収録されたこの曲は、あまりにPixiesサウンドとして自然すぎて・理想的すぎて、原曲の存在感が霞むほどの素晴らしさを発揮している。そして彼らのようなオルタナバンドが、爆音だからという理由だけでなしにNeil Youngのことをリスペクトしよく聴いていたことを証明する一場面でもある。

 原曲も十分にいい曲なのに、どうも地味な扱いをされている感がある。アーカイブシリーズ第1弾のCrazy Horseとの1970年のライブ盤『Live at Fillmore East 1970』にもこの曲が収録されていることから、結構古くから存在してるらしいけれど、実際のスタジオ録音が世にでるのは1977年のベスト盤『Decade』で、このベスト盤は当時未発表だった楽曲も複数含んでおり、その未発表曲の1曲として登場する。未発表曲も含めて制作順に楽曲が並ぶあの盤においては『On The Beach』からの2曲に続けて収録されており、その時期にスタジオ録音が残されたらしい。聴いてみると、Neil本人のスタジオバージョンはしみじみとした朗らかなポップさが漂うサウンドで、普通に単体として名曲だなあと思うとともに、でも確かにこれを『On The Beach』に入れるには明るすぎるかも、どっちかといえばまだ『Zuma』の方が合うかも、といった曲調ではある。

 Pixiesはこの原曲からテンポとギターアレンジをより簡素で直線的で高速にしてさらにアコギを入れた形だけど、でも気づくのは、それ以外は案外原曲に忠実だということ。Kim Dealの印象的なコーラスワークも案外原曲どおりだったりで、更に最後のブリッジ前のブレイクの箇所も原曲どおり。この忠実なアレンジやそもそもNeil Youngの数々の楽曲からあえてこの曲を選び出してくるあたりに、PixiesNeil Youngフリークっぷりが伺えるし、サーフロック的な曲調になってしまうNeil Youngの曲という構図も面白い。Sonic Youth『Computer Age』のカバーといい、オルタナ関係者のNeil Youngカバーは面白いものが多い。ただ、Dinosaur Jr.の『Lotta Love』のカバーについては、真面目にやってよ…とトホホな気分にさせられるけども。後にめちゃくちゃNeil Youngフォロワーやん!ってなるJ Mascicだけど、このカバーの時期はまだそうでもなかったのかな、それとも恥ずかしかったのか。

 

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終わりに・及びプレイリスト

 以上、全20枚及び5曲でした。

 実際は今から2位と1位の全曲レビューを書いていくので全然終わった気がしませんけど、ひとまずはこの辺で一旦この記事を締めさせていただきます。もしこの一連の記事が誰かがNeil Youngを聴き始めることに、もしくは聴くのを楽しむことに、少しでもいい効果があるのであれば、せめて幸いです。

 最後に、20位から1位までの各アルバムの推し曲(どれがその曲かは各アルバムの評でそれとなく1曲だけ長文を書いてるものがあるので当たりがつくかもしれませんが)と最後に取り上げた5曲を収録したSpotifyプレイリストを以下に掲載してこの記事を終わります。今からまた『After The Gold Rush』の全曲レビューを書かないとなのでうなだれてますけど、ここまで読んでいただいた方は、こんなに長くてどうしようもない記事を読んでいただき本当にありがとうございました。

 

*1:『Homegrown』『Star Of Bethlehem』の2曲

*2:まあCrazy Horseのもっさりゴツゴツなサウンドと比べればまだ現代的でしょう。

*3:『Tonight's the Night』と『On The Beach』のこと。何かが違えばここに『Homegrown』も入ってたのかもしれない。

*4:『Zuma』から加入していたギターのFrank Sampedroが、本作が最後のNeil Young作品となった。彼の後任にはかつてメンバー死去により窮地にあったCrazy Horseをサポートし、Bruce Springsteenのバンド・E Street Bandでも知られるNils Lofgrenが加入している。

*5:たった4曲で51分44秒もある。プログレかよ、と思うけど、プログレよりもはるかに曲展開が平坦なんだよなあ。

*6:これもバンド演奏部分は一発録りなのか。メンバーはこの延々と平坦に続いていく曲展開をどうやって把握して演奏してるんだ…。

*7:映画『Dead Man』のサントラをNeil Youngが担当した際も、3時間ほど弾き倒したNeil Youngのギターソロを強引にBGMにするという手法だったけど、その時のギターの音も空間系エフェクトがフルに活用された、イマジナリーでヒステリックな感じだった。この曲のギターソロはその手法をバンドの曲に転用した最良の事例だと思う。

*8:1975年当時未発表だったものを2020年に出した『Homegrown』は除く。

*9:今改めて調べたら、「熟させる」とか「上機嫌にさせる」といった意味がある。お酒を飲んで気持ちよくなる、という意味も含んでるらしく、それがこの曲の中で意図されてる元々の意味なのかなと思う。

*10:前編にも書いたけど、『Hey Hey, My My』の「錆びつく前に燃え尽きたい」の箇所

*11:でもこの2人は喧嘩する割にはすぐ復縁もしたりして、しばらく後の1976年にもThe Stills-Young Band名義で『Long May You Run』を発表している。もっともこのアルバムは当時持ち上がったCSN&Y再結成がポシャった結果できた作品でもあるけど。というかこの時期のNeil Young作品ともかくよくポシャるな…。