ブンゲイブ・ケイオンガクブ

本を読まない文芸部員と楽器を練習しない軽音楽部員のような感じのブログ。適当な創作・レビュー等々。

Neil Youngのアルバム20枚+5曲(前半)

f:id:ystmokzk:20201020070346j:plain

 今回は、かのアメリカンロック・フォークの大御所の中の大御所、Neil Youngの諸作品の中から筆者の個人的ベスト20のアルバムを取り上げるのと、それだけだとこぼれてしまう特筆すべき5曲とを取り上げるという記事です。

 上の文章をあっさり書いたけど、今回のこの記事およびこの記事の後に書こうと考えてる記事に、どれだけ自分の今までのリスナー人生の重みがかかっているか考えると、よく分からなくなるほど。Buffalo Springfieldから数えたとしても1966年から現在に至るまで活動し続けるその姿、そして重要なのが、その間幾つもの、凄く独特でありつつも多くの人々を惹きつけてやまないその果てしない哀愁とメロウの感じや、もしくは無常感さえ感じさせるラフで不毛なロックサウンド等々、彼の活動においては、もはやこの世の音楽に欠かすことのできない要素が沢山生み出され続けてきました。そんな偉大にして孤高な旅路をこんな、ちっぽけな記事で、まともに捉えられるはずがない…。

 ないにしろ、書くことを思いついてしまったからにはやります。思い残すことがないくらいにやれたらいいな。思い残すことがないくらいに書こうと思ったらなんだか長くなり過ぎて、記事を前半と後半に分割する羽目になったけれども。

 

 

はじめに:Neil Youngのキャリア概観・魅力

f:id:ystmokzk:20201021073926j:plain

 「そんなもん知ってるよはよ20枚教えろ」とか「聴きながら知りたいからネタバレやめて」という向きの方はこの項目を丸ごと飛ばして読んでいただければ幸いです。

 

キャリア概観

 こんな記述よりも英語版wikipediaの記事を頑張って読んだ方がいいと思います。

en.wikipedia.org

1960年代〜1970年代

f:id:ystmokzk:20201024170227j:plain

 上にも書いたとおり、彼は1966年にBuffalo Springfieldにてメジャーフィールドにデビューして以降ずっと活動し続けている屈強なアーティストです。The Beatles以降の音楽的潮流とアメリカ土着のカントリー的なものを結びつけたカントリーロックの名手の一角として活躍したこのバンドは1968年には早々に解散し、その後彼のソロキャリアが始まります。

 しかし、すぐに元バンド同僚のStephen Stillsが元The Byrdsや元The Holliesと組んでいたCrosby, Stills, Nashに何故か合流し、Crosby, Stills, Nash & Youngとして活動し、ウエストコーストロックの潮流の記念碑的作品『Déjà Vu』を1970年に発表します。こっちも結局彼とStillsの対立を主な原因としてすぐに離散、そして彼はソロ活動に戻り、『Heart Of Gold』が全米No.1ヒットとなり一躍時の人となりますが、その後スタートしての生活における極度の疲弊及び身近な人間の度重なる死去によりボロボロになります。しかし、そのボロボロな時期をいくつかの強力な作品とともにどうにか乗り越え、彼のキャリアでもとりわけ世間的名声の高い1970年代の黄金期を築きます。彼といえばこの時期、という人も多いようです。

 

1980年代

f:id:ystmokzk:20201024164559j:plain

 はっきり言って不調の時期です。しかし同時に様々な実験がなされた時期でもあり、時折幾つかの作品*1が再評価されたり、もしくは以後の彼の活動・サウンド作りの糧となったりしています。

 初頭にリリースした2枚は、障害を持って生まれた彼の子供の世話や模索に大きく時間を割かれ、不調な内容に。その後それまで所属していたリプリーズから、新興のゲフィンに移籍。しかしここで何故か彼は、そのキャリアにおいても特に奇妙な作品群を制作します。手始めにテクノ要素を取り入れた『Trans』、次にそこから大転換して時代錯誤的なロカビリー形態の『Everybody's Rockin' 』とリリースして、レーベル側は困惑、ついに彼がわざと彼らしさが無い、売れないレコードを制作しているとして訴訟するまでに至りました。その後、確かにフォーク調だけど回顧的すぎる『Old Ways』をリリース、それもあまりヒットせず、その後は1980年代的サウンドに塗れまくった2作をリリース。

 結局その後古巣のリプリーズに再移籍し、特に1989年の『Freedom』で開き直ったような爆音ロック路線を発明、1990年代の先鞭をつけます。

 

1990年代〜2000年代

f:id:ystmokzk:20201024170118j:plain

 1990年にCrazy Horseと組んだアルバム『Ragged Glory』で遂に1枚丸ごと爆音ロック路線となり、及び直後のライブ盤『Weld』によって、「オルタナティブロックのゴッドファーザー」としての彼のスタイルを完全に確立します。その後はCrazy Horseやもしくは彼のフォロワーでもあったPearl Jamと組んでアルバムを作ったり、もしくはフォーク路線をしてみたり、というのを繰り返した活動をしています。1994年にグランジバンドの代表格NirvanaKurt Cobainが彼の楽曲『Hey Hey,My My』の歌詞の一節「錆びつくより前に燃え尽きたい」を遺書に引用して自殺したことは、良くも悪くも彼のこの時代における存在感を象徴する出来事。

 2000年代に突入して早々に、2001年9月11日、ニューヨーク等の同時多発テロが起こると、無政府主義的内容のため放送規制がかかっていたJohn Lennonの『Imagine』をテレビ番組で歌い、波紋と賞賛を呼びました。ブッシュ政権を痛烈に非難し、そのためのアルバムまで制作しました。ただ、2000年代は1980年代に次ぐ不調の時期にも思えます。この時期はカントリー作品の方が良いように思います。

 

2010年代〜2020年

f:id:ystmokzk:20201024171458j:plain

 2010年に、U2諸作や、幾つかのオルタナカントリー作品*2等でも知られるプロデューサー・Daniel Lanoisと組んだ、世にも珍しいエレキギター弾き語り作品『Le Noise』をリリースし急に復調、そして2012年にはCrazy Horseと組んだズルズルにエネルギッシュなアルバムを2枚も制作するなど、突如全盛期を取り返したかのような勢いを得ます。その後、自身のかつてのライブ録音等の蔵出しを「アーカイブシリーズ」として連発しながら、しかしスタジオアルバムもより若いアーティストよりもはるかに早いペースでリリースし続けます。2015年からはカントリーの伝説的人物Willie Nelsonの息子が在籍するバンドPromise of the Realとの共同制作及びライブを繰り広げていたけど、2019年にはCrazy Horseとまた組んで、彼のスタンダードな音楽性全部載せな傑作アルバム『COLORADO』をリリース。

 2020年にはコロナウイルスの世界的パンデミックによってライブ活動等は縮小せざるを得ない状況ながら、新曲の発表やかつてお蔵入りとなったアルバム『Homegrown』のリリース等を行い、まだまだ活動が続いていく様相を見せています。

 

音楽的特徴・魅力

 彼の魅力を身も蓋もないほど端的に言うなら、以下の4点かなあと思います。

 

・頼りなく鈍く高く細く寂しい鼻声みたいな歌

・素朴さ・朴訥さに溢れたアコギやピアノのプレイ

・ゴツゴツとした荒々しさ・鈍重さのバンドサウンド

・ともかく曲がいい

 

こういった魅力が様々に折り重なって「最高の男性SSW」「オルタナグランジ界のゴッドファーザー」「インディロックの祖先のひとり」などと称されるんだと思います。もうちょっと丁寧にこれらの点を見ていきます。

 

・頼りなく鈍く高く細く寂しい鼻声みたいな歌

www.youtube.com 彼の楽曲における最大の記名性として、彼の声のことはまず最初に申し上げておきたい。一聴して誰もが、彼の声のことを世間一般で堂々とできる類の「美声」とは思わないだろう。男性的な力強さの要素、特に低音を相当オミットされ、また高い声でありながら、少年的な爽やかさ・鋭さが宿っていない、ひたすらに「世の中に取り残された」ような風情ばかりが漂う、枯葉のような声。

 このように書いて貶してるようにしか見えないかもしれないけど、こんな声でありながらしかし、彼の楽曲においてはこの声が絶妙に風情を生み出す。繊細な曲では不器用な繊細さを、カントリーな曲では元来カントリー音楽が持ってたはずの「温もり」的な要素を消し去り寂寞感を強調する効果を、ロックサウンドな曲ではヘナヘナな歌のまま貫き通すことによる逆説的な「力強さ・逞しさ」を、この声は生み出す。年が経るに従ってよりジジ臭くはなってしまうけれども、その声の本質的な効果は近年の作品に至るまで変わっておらず、永遠に世界を彷徨い続けるような彼の風情の中心に、やはり常にこの声があるんだと思います。

 

・素朴さ・朴訥さに溢れたアコギやピアノのプレイ

www.youtube.com そもそも彼自身の楽器演奏力は決してバカテク的な領域ではなく、アマチュアの延長の質感が現在に至るまで残っている。しかし、その辺の、人によっては「ヘタウマ」等と呼称される素朴な演奏手法が、彼の楽曲に時折宿る、真に迫る感じや、寂寥感や、何よりもあの北米大陸の大地に根ざす音楽をやっている感じに繋がっている。

 この辺の彼の魅力についてはとりわけ1970年代の各アルバムに散見され、また彼自身が近年行なっている「アーカイブシリーズ」という、過去のライブ録音等を発掘する企画にて多くの素朴で素敵な演奏が歌唱とともに収められている。あとここ数年はバンド中心の録音作品にも彼のアコギやピアノをフューチャーした曲が幾つか収録されるようになってきてる感じがする。

 

・ゴツゴツとした荒々しさ・鈍重さのバンドサウンド

www.youtube.com これは特に彼が、彼の宿命のバンドとも言えるCrazy Horseの面々と共に演奏する際に一番発揮される特徴。上記の素朴なアコギのプレイをそのままエレキギターに持ち替えて、バンド全体でアンプリファイしたような感じ、とも言えるし、もしくはヘタウマという領域ではもはや語ることの出来ない、高度な「Neil Yooung式奏法・グルーヴ」とも呼べると思う。

 多くの場合において平坦なビート、複雑な演奏やキメ等のギミックを極力まで廃したシンプルな演奏スタイル、ひたすら延々と弾き倒し続けるNeil Young本人によるイマジネイティブなギターソロ、何よりも、ブチブチに歪みまくった爆音、といったものが特徴に挙げられる。これらの特徴はまさにオルタナグランジ勢から羨望の目で見られ、ひたすらに愚直なそのサウンドは無限のリスペクトを背負うこととなった。

 また、爆音形態においてもそれ以外においても、彼が特にバッキングを演奏する時の、ギターをミュート気味にカッティングして、引っかかるようにラフに響かせる奏法は、彼のギターの隠れた、しかし実に記名的で効果的な奏法だと思う。

www.youtube.com

・ともかく曲がいい

www.youtube.com 正直、上記の魅力が幾らあっても、この点が欠けていれば彼はこれほどに成功していなかったろうし、また彼の作品であまり良くないものは結局、この点が弱いと思う。

 彼の作曲の魅力は、その素朴なキャラクターと同じ方向性に、そこまで複雑じゃないシンプルなコード進行や構成で、最大限のメロウさやら哀愁やら情熱やらを発揮させること。そんなシンプルな構成で組まれた楽曲から他に無いほどの情感を受ける時、作曲能力というのは単に複雑なコードを使えばいいとかBメロを凝ればいいとか、そういうだけのことではないんだなと、そのシンプルさに内包された奥深さに、ひたすら陶酔してしまう。ひとつのコードに潜む情緒をどこまで拾い上げるかということ。それは楽理的というよりもむしろ時に霊的な感じさえする。

 溌剌としたメジャー調の曲も、コテコテにマイナー調の曲も、彼は多くの名曲を作っているけれども、メジャーともマイナーともつかない曲調の楽曲は時に彼の大きな魅力になる。もしくは、ヴァースは暗くて、コーラスで僅かに明るくなるなどの曲構成は、シンプルに彼の作曲能力の高さによって効果的に演出される。メジャーセブンスのコードの活用についても、彼の枯葉ボイスも伴って、非常に荒涼とした響きを生み出してくれる。

 彼の素朴さの陰でやや忘れられがちになってしまうその作曲能力の高さは、彼の楽曲が彼よりも大御所のカントリーシンガーから近年のインディロックバンドに至るまで幅広くカバーされていることからも伺える。

 

本編1:オリジナルアルバムベスト20(前半)

f:id:ystmokzk:20201024161511p:plain

 ということで本編です。ちなみに、上の画像は以下のランキングに全く関係ありません。ネットで適当に拾った画像です。

 今数えてみたところ、彼はオリジナルアルバムとカウントできそうなアルバムを今日までに40枚以上、おそらく40枚〜45枚程度リリースしています*3。ここから約半数となる20枚を選んで、以下のとおりランキング形式で取り上げていきます。とはいえ、このランキングはごく個人的な、しかもこれを書いてる今日の気分で決めたものなので、これらの序列に何の根拠も権威も無いことを申し添えます。ランク外のアルバムが良く無いとか言いたいわけでは少なくとも無いことをご理解ください*4

 なお、彼はソロ名義の作品と、「with Crazy Horese」が付く場合の作品と、もしくはそれ以外のバックバンドと一緒に制作した場合はそのバンド名が併記された場合とがありますが、その作品が実際はどういう名義になっているかは各作品の文章の中で解説します。

 また、彼は近年(元から?)自作の音質に強い自負があり、サブスク等の「音質が悪い」リリース形態を嫌悪しています。が、ここでは各アルバムごとにSpotifyのアルバムリンクを掲載しています。ご容赦ください。

 長くなり過ぎたので、ここでは20位から11位までを掲載します。10位から1位までを載せる後編の記事の最後には各アルバムの推し曲とその後の+5曲を加えた25曲のプレイリストも掲載します。

 

●20位〜16位

20. Everybody Knows This Is Nowhere(1969年)

f:id:ystmokzk:20201024162105j:plain

open.spotify.com 今回のベスト20で一番古い、1960年代から唯一の選盤。まあこれともう1枚しか無いけど。

 彼にとって本当に一生付き合っていくこととなったバンド・Crazy Horseとの最初の共同制作となったこのアルバムこそ、彼の屈強なソロキャリアにおける真の始まり、と言いたくなるような作品。

 どうしても1969年という時代からか、この時点でのバンドサウンドは後年のそれと比べると単純に出力不足というか、当時の同時代のサウンド並み、もしくはより細いかもしれないバンドサウンドになっている。特に長尺曲におけるギターソロの、クランチサウンドでどうにかギャリギャリと引っ掻くようなプレイを展開していく様は実にこの時代の出力方法・録音技術の限界を感じさせる。

 しかし、それが逆にこの時代的な妙を感じさせるし、またリズム隊のプレイは後年の平板なそれに比べても、ジャズ的な素養が見えるような部分があったりして、これはこれで面白みが大きい作品だと思う。そして彼の作曲能力がこの辺りで確変し始めており、『Cinnamon Girl』『Down By The River』『Cowgirl In The Sand』といった名曲が並ぶのは結構壮観。『Cowgirl〜』のメロディやサウンドの血の気の走り方にこの時代の空気を感じる。その脇を支える楽曲の軽やかなカントリーロックも小気味良い。

 それにしても、アルバムタイトルが物語る寂寥感は、Neil Youngという稀代のシンガーソングライターの基本スタンスを物語るかのよう。

www.youtube.com

 

19. American Stars 'n Bars(1977年)

f:id:ystmokzk:20201024174259j:plain

open.spotify.com 彼の諸作品の中でも最も乱雑な光景で、混沌としてて訳分からない…とされるジャケットは、でも案外作品の本質を表してるのかもしれない。

 メジャーレーベルでの作品リリースは時にアーティストの制作した作品を無慈悲に拒絶し、ボツの山を築いてしまうことがある。これについては特にThe Beach Boysが恐ろしいほどに膨大で充実した「未発表曲群」を有しているが、1970年代半ばのNeil Youngもまた、そのようなレーベルのリリース拒絶に振り回されまくった存在のひとり。彼が完成させたにも関わらず当時リリースできなかった3枚のアルバム『Homegrown』『Chrome Dreams』『Hitchhiker』の収録曲をかき集めて、ようやくリリースされたという、ボツを免れた楽曲が集まったツギハギの作品、というのがこのアルバムの内実。そういう事情だからか、CD再発も遅れて2003年まで待たされたらしい。

 なのでアルバム自体の流れみたいなのはボッコボコなところがあるけど、でも楽曲自体はむしろボツ作品からの選りすぐりな訳で、むしろ質は高い。カントリー色の強い前半〜中盤は、録音時期に違いがある割にはそこそこに纏まっているけれど、特に終盤3曲はそれぞれに個性が強すぎて、前半の穏やかな流れを完全に殺していて、それでアルバム総体としては評価が上がりにくい。でもその3曲のうちひとつが彼の爆音ロック路線の原点のひとつと言える名曲『Like A Hurricane』であり、なのでこのアルバムは「『Like A Hurricane』が入ってるアルバム」と認識されやすい。

 だけど、もうひとつの聴きどころはその前に収録された『Will To Love』。Neil Young単独で全ての楽器を演奏した、という珍しい楽曲は、フォーク的弾き語りを基調としながらも、深いリバーブに包まれたサウンドや、ビブラフォンや焚き火のようなパーカッション等によって、彼の作品でも有数の密室的でかつ幻想的なサウンドがここでひっそりと生まれている。この曲のサウンドのあり方に、たとえばJim O'Rourkeなどが影響を受けてないことがあるだろうか、と思わせるそのサウンドは、音響派・アシッドフォークといったもののはしりなのかもしれない。

www.youtube.com

 

18. Freedom(1989年)

f:id:ystmokzk:20201024180908j:plain

open.spotify.com ジャケットだけなら彼の作品でもこれは下の方にならざるを得ない*5…な感じだけど、これは1980年代に様々な実験と混沌と苦悩とを超えてきた彼が到達した「1980年代の終わりとまとめ」かつ「1990年代への架け橋」的な性質を持った、もっと具体的に言えば1980年代〜1990年代の様々なサウンド形態が同居したアルバムだ。1980年代の彼の作品で最もバランスがいいのは間違いなくこの作品でしょう。

 先頭と最後に置かれた2つの『Rockin' In The Free World』は、片方がアコースティックで片方が爆音ロック形態で収録され、これは『Rust Never Sleeps』における『Hey Hey, My My』の事例を踏襲したもので、それだけこの曲を本人が重要と思ってたということ。実際1980年代で一番彼の代表作と言えそうな楽曲。

 しかし、この曲でロック色全開なのはこの曲くらいで、他は様々な趣向・サウンドの楽曲が収録されている。伝統的なトラッドフォーク的な楽曲もあれば、1980年代的なシンセやキーボードの音が敷き詰められた楽曲もある。この結構謎な振れ幅を楽しめるかがこのアルバムを楽しく聴くときのポイントになる。『Don't Cry』のソリッドなバンドサウンドに突如ブチブチのファズギターが乗るのはビックリするし、ラテン調なマイナーコード全開な『Eldorado』にも不思議なものを感じる。

 このアルバムで最も興味深いのは『Wrecking Ball』。ジョジョの7部にも登場した名称のこの曲は、静謐なピアノとリズムで進行する、彼が時々発する霊的な美しさをまさに体現した楽曲のひとつ。コーラス部のファルセット気味なボーカルが連なる様は神々しい。後にEmmylou Harrisが同曲のカバーをタイトル曲としたオルタナカントリーの名盤をリリースすることも付記しとく。

www.youtube.com

 

17. Broken Arrow(1996年)

f:id:ystmokzk:20201024183047j:plain

open.spotify.com 風景画に唐突に置かれた写真のレイアウトが何ともなジャケットだけど、これは1990年代初頭に爆音サウンドで展開していったCrazy Horse帯同のサウンドに、より渋みを持たせた形に変化したアルバム。個人的には1990年の『Ragged Glory』よりもこっちの方が今は好きだなあ。

 初めて聴く人はきっと冒頭3曲の長尺っぷりに辟易すると思う。派手なギターフレーズもあまり出て来ず、バンドサウンドのグルーヴ感と間合いで聴かせるサウンドに変化していて、彼らのバンドサウンドでもかなり渋い楽曲群だと思う。けど、上で魅力のひとつとして書いた「ミュート気味なギターカッティング」がこの3曲ではたっぷり堪能できる。この、ラフなようできっちりとリズミカルに鳴らされる引っ掻くようなギターサウンドが、この3曲ではとりわけ楽曲のリズムを作り上げていると思う。バンド自体のグルーヴもそれに合わせてか平板というよりむしろとぐろを巻くような迫力があって、実に格好いい。特にひたすら重々しくのたうち回る『Slip Away』の、コーラスで僅かに陽転する箇所は実にNeil Youngなソングライティングだと思う。

 冒頭3曲を超えるとその後は尺的には意外とあっけない曲が続く。特に『This Town』辺りのリフの重さの割に軽快でポップな感じはCrazy Horseの楽曲としても結構特殊で面白い。ラストは突如カバー曲のライブ録音が登場して、意図が謎すぎるけど…。

www.youtube.comこちらは今作の後にリリースされたライブ盤『Year Of The Horese』に収録された『Slip Away』。彼らのギターサウンドは歪みもさることながら、リバーブやディレイも重要なことが、このへんのギターサウンドを聴くとよく分かる。

 

16. Americana(2012年)

f:id:ystmokzk:20201024184511j:plain

open.spotify.com 2010年代初頭に突如その長いバンドキャリアの絶頂に到達した彼 with Crazy Horseの面々が満を辞して放った2012年の2作品のうちの片方。

 アメリカーナという音楽ジャンルが緩やかに形成されつつあるのを横目に見てなのか何なのか、アメリカーナという題を付けて彼らが世に放ったのがこの、アメリカのトラディショナルソングのカバー集」という。そして幾つか原曲と聴き比べて「これがカバー…?ただのNeil Youngの新曲やないか…!」となるまでがワンセット

 リードトラックの『Clementine』の実に重々しい情念に満ちたバンドサウンドを聴いて、続けて原曲(一例)を聴いて、上記のような感想で笑っちゃったのが懐しい*6。「嘘だろ…?」っていう。この変貌っぷりは悪意があってやってるのか、情熱が迸った結果なのか、本当に完全に天然なのか、そこがすごく気になった。こんな具合でアルバム全体、このバンドの持つ石油のようにギトギトに重いギターサウンドとリズムとが駆動していく。トラディショナルソング縛りで曲の尺が短く済んでるかというとそうでもない曲もあって、つくづく自由すぎるカバーアルバムだと思う。どの楽曲も自分たちのサウンドに完全に落とし込まれていて、前提を知らなければカバーなんて思わないと思う。それだけ、長年彼らが続けてきたこのバンドサウンドという伝統のタレが、全てを飲み込んでしまうほどに濃厚であることのしるしなんだなと思う。あとこのアルバムはコーラスも多くて、不器用なおっさんコーラスが連なっていく様に、でもトラディショナルソングってそういう風に歌い継がれてきたもんかもな、とか考えたりもする。

www.youtube.com

 

●15位〜11位

15. Rust Never Sleeps(1979年)

f:id:ystmokzk:20201024190206j:plain

open.spotify.com 1990年代の『Ragged Glory』や『Weld』はNeil Young with Crazy Horseをオルタナティブロックのグランドファーザーとしての地位を確実なものにしたけど、元を辿れば、おそらくこのアルバムの存在が一番そういった要素に引っ掛けられるところだと思われる。というか『Hey Hey, My My(Into the Black)』がそうなのかもだけど。

 つまり、爆音Crazy Horseサウンドの成立こそがこのアルバムの最重要な箇所。前半をアコギ弾き語りの楽曲で、後半をバンドサウンドで固めた作りの今作は、ライブ録音を観客の声や環境音を極力オミットすることによって作られたという謎な制作方式。これがスタジオアルバムなのか謎だけど、しかし、上記のような見立てが十分に理解できるアルバム後半となっている。カントリーロックのイメージするところの「不毛さ」「平坦さ」をひたすらに体現し続ける名曲『Powderfinger』*7の後は、当時「旧世代」だったはずの彼が「新世代」のパンクミュージックに感化されて制作されたとされる楽曲が続く。重く歪んだギターで強引に押し通す、このサウンドこそまさに、その後ずっと続いていくCrazy Horse印のバンドサウンド

 そして最後に置かれた『Hey Hey, My My(Into the Black)』の異様な気迫。ブチブチに歪まされたギターで本当に強引に押し通す、その鈍重すぎるサウンドに「ロックンロールは死ねやしない」と歌う彼の姿は、ロックンロールがその歴史で背負うことになった、もしくはこの後も背負うことになる、辛気臭さも厭らしさもしんどさも全て抱えて進む、悲壮にして勇壮な楽曲。ギターソロの痙攣のような咆哮のようなサウンドが、何かを永遠に物語り続ける。この曲の歌詞を遺書に載せたKurt Cobainは、不謹慎かもだけどもちょっとずるい。そういう風に、この曲はずっと呪われ続けていくんだと思う。かっけえが過ぎる。

www.youtube.com

 

14. Are You Passionate?(2002年)

f:id:ystmokzk:20201024192011j:plain

open.spotify.com 彼がロックバンドをするときは多くはCrazy Horseを引き連れるけれど、時々別のバンドをバックに歌うことがある。これもそんなレアケースのひとつで、スタックスサウンドで知られるBooker T. & the M.G.'sをバックに演奏し、そしてそれに合わせて、ソウル・R&B調の楽曲をNeil Youngが作曲して歌う、という、本当に異色のアルバム。

 冒頭の軽快なフィルインからのリズムからして、今作がいつもと全然違う、というかアーティスト間違えたか?という作品なのが分かる。声が入ればNeil Youngだけども、でも彼もちゃんといつもと違う、昔のR&B調のマナーで極力整ったギターを弾こうと努めていて、それが時々不器用に乱れるところも含めて、これって案外チャーミングなのでは…?と時が経つにつれてこのややちぐはぐ気味なサウンドが面白く感じれてくる。彼自ら演奏するギターソロで割と馬脚を現すところとか可愛らしさすらある。1曲だけ普通にCrazy Horseで録音した楽曲があるのは本当に謎だけど*8

 アップテンポな楽曲も面白いけど、特にスローテンポな楽曲では、この編成ならではの面白さ・素敵さをきちんと表現できているのが今作の素晴らしいところ。特に2曲目の『Mr. disappointment』は白眉で、ゆったりとしたビート感に同じコード進行のループで、語り調のボーカルのヴァースとファルセット気味のコーラスとでその対比が美しく、そしてギターソロのブチブチなサウンドも、ソウル風味な旋回の仕方が実にセンチメンタルで、こんなギターも弾けるのか(失礼)という発見と面白さがある。こんな風なメロウさのNeil Youngも実にいいなって思う。他にもやはり普段と異なる気だるさやダンディさが香るタイトル曲や、The Rolling Stonesがやりそうなソウルバラードを彼なりにやってる風でもある『Two Old Friends』、そしてこの編成でのソロ合戦を厳粛に楽しむ彼の姿が見えてくる『She's a Healer』など、数々の面白ポイントが登場する。やっぱりこのアルバム成功作だと思う。911を露骨に取り上げた『Let's Roll』の重さも目を引くし。

www.youtube.com

 

13. Trans(1982年)

f:id:ystmokzk:20201024194528j:plain

open.spotify.com 長年に渡るNeil Youngの多数の作品の中で最も奇妙にイってしまってるアルバムこと『Trans』は、そのやり過ぎなテクノ「風」サウンドボコーダーボーカルと、しかしながら何気に高水準のソングライティングとで、意外と「そういうもの」として楽しく面白くスリリングに聴けてしまう、不思議な魅力のある作品。当代最高のSSWを自社に引き入れることができた!と思ったらこんな作品を提出された当時のゲフィンレコードはお疲れ様でしたーって感じだけども。

 このアルバムの奇妙なサウンドはもう『Computer Age』1曲を聴いてくれれば分かると思う。打ち込みの風の端正なリズムとシンセとで形作られた「えせYMO」などと呼んだら教授からブン殴られそうなエレポップ?サウンドに、更にボコーダーを通したフワフワなボーカルで、一気に訳のわからない世界に導かれる。最初はなんやこれ…ってなるけど、慣れてくるとこの、レトロフューチャーな感じのサウンドが妙にクセになる。というか、絶対当時シンセサイザー初心者だったろうにいきなりこのこれはこれでフォームの統一されたサウンドを作り上げるNeil Youngは天才では…?

 ボコーダーの使用については、彼の息子が先天性の病気で意思の疎通が難しいところ、ボコーダーを使えば意思の疎通が出来るのでは、という重過ぎる理由がまずあったりして、そう思うと心の底からこの珍妙なサウンドを笑うことができなくはなる。代わりに、特に『Transformer Man』で聴かれる優しいメロディとこれはこれで神聖に聞こえるサウンドの意図がちょっと分かる。『Computer Age』の陽転するコーラス部といい、このアルバム、本当に各楽曲のソングライティングは水準高くて、それは彼自身のUnpluggedにおける『Transformer Man』の演奏や、もしくはSonic Youthによる実に彼らなサウンドによる『Computer Age』のカバーなどで間接的に分かったりもする。

 このアルバムの本当に奇妙なのは、全編そんな変なサウンドではなく、中途半端に3曲、いつも通りのサウンドの曲があること。よりによって冒頭に普通なサウンドの曲を置くなよ…試聴機詐欺か何かかよ…せめてそうでもして「いつものNeil Youngのアルバム」として買わせようとするゲフィン側の陰謀だろうか。

www.youtube.com

 

12. Harvest(1972年)

f:id:ystmokzk:20201024200719j:plain

open.spotify.com 「歴史的名盤」として取り扱われるNeil Youngのアルバムはこれか『After The Gold Rush』だけだろうな。収録曲『Heart Of Gold』のNo.1ヒットに引き上げられて、このアルバムも全米No.1ヒットとなった。けどそんなことはこのリストを作る上で大した意味は無いので、楽曲の良さやアルバム通して聴いた時の感じなどを総合すると、今回はこの辺の順位です。もちろんいいアルバムだけれども、でもこれよりももっといいアルバムが、今日は少なくとも後11枚あるかなあ、という気分。

 以下の大言壮語気味な記事においても、このアルバムを取り上げた。アルバム自体の評はそっちに譲る。『Heart Of Gold』はNo.1ヒットとか関係なしに、どこまでも素晴らしい楽曲だと本当に思う。

ystmokzk.hatenablog.jp 思うのは、このアルバムに横たわる「孤独な感じ」「ひたすら頼る地点がない感じ」というのは、同様のものが『After The Gold Rush』にも流れてるなあということ。『After〜』の方がもっと素朴なアレンジで、こっちの方がもっとカントリータッチなアレンジなのかなあ、という。このアルバムでバックを務めた面々はNeil YoungによってThe Stray Gatorsと名付けられ、少し後の新曲ライブ録音『Time Fades Away』でもバックを務め、かなり後の『Hervest Moon』で再招集された。中でも、素晴らしいスティールギター奏者であるBen Kiethは上記の他にも度々Neil Young作品に参加し、美しくてノスタルジックでメロウなペダルスティールを聞かせてくれていた。2020年に亡くなった。R.I.Pです。

www.youtube.com

 

11. Silver & Gold(2000年)

f:id:ystmokzk:20201024202349j:plain

open.spotify.com 加齢とともに声とともにメロディの情緒も枯れて、そしてかつての思い出に縋る、なんてのは、あまり格好良い姿に思えるものではない。だけど、ここでの彼の佇まいはこれはこれでとても魅力的だ。フォーキーサイドのNeil Youngでも、程よく枯れた情緒と、程よく枯れたことによる広大な平坦さをえた楽曲やアレンジとが詰まったアルバムが今作だと思ってる。

 アコースティックギター、ハーモニカ、声、ささやかなバンド伴奏。今作は大体これらの要素で、フォーク・カントリー側の「いつものNeil Young」な楽曲を演奏しているに過ぎない。あまりに冒険していなさ過ぎるサウンドに思う向きもあるとは思う。だけど、音楽においては「何かを慈しむ」ということも時にとても重要だと思う。ここにおける彼の、ノスタルジックさそのものを丁寧に慈しんでるかのような姿勢は、その枯れ気味な手際共々、妙に胸が痛くなる。あくまで、慈しむための手段としてのフォークであり、カントリーなんだと思う。

 丁寧に編まれた楽曲のメロディはどれも優れている。アルバム冒頭のバタついた元気さがややBuffalo Springfieldっぽいかもと思うと、まさにそのものなタイトルをした『Buffalo Spingfield Again』という楽曲が飛び出してくる。こんなにこんな感じで過去を慈しむ彼の姿、その明るい曲調に比して寂しげなその姿が切ない。そしてそれに続く『The Great Divide』の、実に静かなカントリーロックサウンドと、ささやかでソフトなメロディアスさが、実に淡く穏やかに被さるハモンドオルガンの響とともに、とても「忘我の果て」のような美しさがあって、嫌になるくらいにどこまでも視界がひらけていくような、そんな爽やかさがとても眩しくて、この曲みたいな旅をしたいかもだし、もしくは人生を送りたいかもだなあとか思ったりする。

www.youtube.com

 

・・・・・・・・・・・・・・・

 長くなってきて、これ以上続けて書くと読みづらそうな気がするので、前半はここまでとさせていただきます。後半は10位から1位までのアルバムと、そして他に紹介しときたい5曲、そして20枚の推し曲+5曲の25曲のSpotifyプレイリスト公開、という内容の予定です。後半もよろしくお願いします。

 

10月25日追記:後編書きました!まあ2位と1位は単独記事化の予定ですが。。

ystmokzk.hatenablog.jp

 

*1:ゲフィン期で再評価されてるのは珍奇の極みな『Trans』だけな気もするけど。

*2:この路線での代表作は何と言ってもEmmylou Harris『Wrecking Ball』でしょう。

*3:このように数字がブレるのは、彼が製作当時リリースできなくて後年アーカイブシリーズとして復刻できた作品(『Hitchhiker』『Homegrown』)や全曲新曲のライブアルバム(『Time Fades Away』)などのカウントに困る作品があるためです

*4:80年代の幾つかのアルバムはそれでも音的にも曲的にも聴くのキツいな…って思うけれども。

*5:当時の世界的な事件だった天安門事件への抗議、という意図は十分に分かるんだけれども…。

*6:というかタイトルコールのコーラス部が増えとるし。ここまでしたらもはやただのお前の曲だろ、っていう。

*7:元は没アルバム『Hitchhiker』収録曲で、そっちはアコギ弾き語りだけど、でもここでのバンドサウンドがあまりに素晴らしいので、これは歴史どおりになって良かったと思う。

*8:この曲は本当に普段どおりにCrazy Horseな平板なサウンドしてて、本当になぜこのアルバムに入れたのか分からない。この人にそういうこと考えるのも無駄か。