ブンゲイブ・ケイオンガクブ

本を読まない文芸部員と楽器を練習しない軽音楽部員のような感じのブログ。適当な創作・レビュー等々。

ストーンズで20曲(ギターの好きな感じの)

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Mick Jaggerエレキギター持って歌う姿好き。画像はギターにシールド挿さってないけど…。あとギターがフェンダージャガー…。

 

 先日、以下の記事を読みました。

rollingstonejapan.com

 1974年のアルバム『Goats Head Soup』がリイシューされることを受けて書かれたこの記事は、色々と現代的なストーンズの鑑賞方法を整理してあって、いちいち納得する場面の多い、素敵な記事でした。ぼくが『Goats Head Soup』大好きなのもあるかもですが、「バンド音楽さえ主流でなくなった現代においてThe Rolling Stonesというバンドの数十年も前の音楽をどう楽しむか」という視点をきちんとキープした上での、とはいえ少々熱っぽくてフェティシズム的なストーンズ語りは、凄く共感できる感じ。

 

 これを受けて、自分の中でストーンズ熱が再燃して、自分の好きなストーンズのプレイリストを作ろうと思って、今まであまりちゃんと聴いてなかった作品(特に1980年代以降のものの多く)なども聴き返して、結構満足いくプレイリストができたので、それを公表するとともに、1曲ずつ見ていきます。

 で、ストーンズであれば、以前は1960年代のポップソングのキッチュさをこそ好きでいたけど、そこから次第に1970年代の諸策の、昔なら「ダサい…」って思ってたものについてもある程度理解が増えて行ったりして*1、特に、彼らが何か雑食的に他のジャンルを漁る際でも「ストーンズ的な歪さ」が出てしまう点は、彼らを彼らたらしめる重要な点だなと思います。

 今回は、特に彼らのサウンドの中核であろう「ギター」の音や活用方法が面白い・好きな楽曲を集めて20曲のプレイリストにしてます。

 

1. No Expectations(1968年 アルバム『Beggars Banquet』)

Beggar's Banquet

Beggar's Banquet

 

 1960年代初頭にデビューした彼ら、最初期はR&Bのカバー等中心のリリースだったけれど、『(I Can't Get No)Satisfaction』のヒット以降はオリジナル楽曲が殆どとなり、サイケデリックが流行した時勢も反映して、むしろ現代から見ると「ポップでキッチュなガレージロック」みたいな楽曲を量産していた。これはこれでとても素晴らしい楽曲がたくさんある。

 けれど、所謂「The Rolling Stonesなロック」というのは、1968年に彼らがシングル『Jumpin' Jack Frash』でロックバンドのサウンドに立ち返り、そして続くアルバム『Beggars Banquet』にて一気にアメリカの戦前ブルーズやカントリー、ゴスペルといった方面にのめり込んで以降のサウンドや楽曲の感じを指して言う。

 享楽的で賑やかで怪しげなアルバム冒頭『Sympathy for the Davil』がフェードアウトしてこの曲が現れる時の、あの急に切なくなる感じは何だろうと思う。まるで、狂乱のパーティー会場から突如荒涼とした郊外の路上にワープしたかのような情緒が、このドラムレスで枯れたアコギの音が特徴的な楽曲にはある。Ⅳ→Ⅰのコード進行の哀愁。Mickのボーカルも実に乾いて立ち尽くしたような情緒があって、まるでNeil Youngみたい。途中から入ってくる冷たい水や光のようなピアノの音やオルガンの音は効果的だけど、それにも増して、スライドギターの存在感が凄い。停滞も混濁も放浪も爽やかさも空虚さも、打ち拉がれて見上げた太陽の眩しさも、全てを饒舌に表現しきったようなこの究極的なギターは、この後に早世してしまうBrian Jonesのストーンズにおける最後にして最高のプレイとなった。

 

2. Gimme Shelter(1969年 アルバム『Let It Bleed』)

Let It Bleed -.. -Remast-

Let It Bleed -.. -Remast-

  • アーティスト:Rolling Stones
  • 発売日: 2019/11/22
  • メディア: CD
 

 「ヒップでカラフルな街を出て、荒涼として広大な大地へ踏み出す」のが1968年以降の彼らの音楽性で、その力強い意志はいきなりこの1969年のアルバム『Let It Bleed』の冒頭に置かれたこの曲で、まさにサウンドとして完全に表現された。

 このアルバムにおけるギターは、Brian Jonesが最早ギターを弾ける状態ではなく、また制作中に彼が死亡したのちにメンバーとなるMick Taylorも2曲に地味に参加したのみで、結局その殆どをKeith Richardsが演奏したとされる。

 なので、この曲の冒頭から終始鳴らされ続ける、不安と凛々しさと感傷とに引き裂かれきった美しいトーンのギターも全て彼の演奏。トレモロエフェクトを実に有効に活用したこのギタープレイは、タフでシリアスな調子の楽曲の調性と相まって、後にThe WhoやらU2やらRadioheadやらがその身を迷わせる類の、果てしなく広大で救いのない荒野の光景の感じを早くも描き出している。当時のベトナム戦争の影響を大きく受けた結果とはいえ、ここで彼らが打ち立てたこの荒涼感とそれへの対峙の仕方は、いつまでも何かしらの指針であり続けると思う。

 なお、Keith Richardsがギタリストとして語られるときは、そのストーンズ的なリフ職人っぷりやいかにもなビンテージ感のある生っぽい音作りが多く取り上げられるけど、彼は時にこの曲のように、エフェクターを効果的に使用してサウンドを設計する側面がある。今回のこのプレイリストでは彼のそっち側の性質を特に重視してるところ。

 

3. Dead Flowers(1971年 アルバム『Sticky Fingers』)

STICKY FINGERS-2009 RE

STICKY FINGERS-2009 RE

  • アーティスト:ROLLING STONES
  • 発売日: 2009/05/08
  • メディア: CD
 

 『Beggars Banquet』から始まったアメリカ南部的な音楽への没入の第3弾にして、様々な1960年代のしがらみ(Brian Jonesやマネジメント契約等)の整理を概ね終えて、リードギタリストに正式にMick Taylorを迎えての初のアルバムとなった『Sticky Fingers』で彼らはその「The Rolling Stonesのロック」のサウンドをほぼ完成させた。キャッチーなリフと過激な表現でアジテートしていく作風の楽曲が幾つか、ルーツ志向で地味だけど着実に何か深まりつつある作風の楽曲が幾つか、という構成になってる。1960年代末のカオスさは薄れてるけど、その分ニュートラルな感じがする。

 その中で終盤に置かれたこの曲はさらにニュートラルで、メジャー調でとても平和な曲調をしている。カントリーロックの最も穏やかで平和な部分を掬い上げて、さらっとポップソングに仕立て上げる彼らの様は余裕と自信に満ちている。カントリーフレーバーに満ちたギタープレイも華々しく、こんな朗らかな曲調でありながらのこの曲名や歌の内容に薬物中毒のことが含まれることなども含めて、実にこの時代のカントリーロックの一例として鮮やかで美しい

 この曲のポップさを端的に言えば、この曲のカントリーフレーバーを抜いて、フォーキーな伴奏のアコギをザラザラしたエレキギターに置き換えれば、爽やかなインディーギターロックになるだろうな、と思わせる類のもの。

 

4. Soul Survivor(1972年 アルバム『Exile On Main Street』)

EXILE ON MAIN STREET

EXILE ON MAIN STREET

  • アーティスト:ROLLING STONES
  • 発売日: 2010/05/14
  • メディア: CD
 

  1968年以来のアメリカ南部への音楽的冒険の、第4弾にしてひとまずの最終章が、当時LP2枚組でリリースされたアルバム『Exile On Main Street』。前作で曲目の半数近くに留まっていた「ルーツ志向で地味だけど着実に何か深まりつつある作風の楽曲」がここでは一気に増加に、作品の大勢となっている。幾つかのストーンズ印のリフで決めるタイプのロックンロール楽曲も用意されているけど、それらも録音・ミックスによってややローファイ気味に仕上げられ、作品全体の雰囲気を壊さないし、むしろ彼ら的なロックンロールをよりルーツ的なものに近づける機会となった。

 そして、LP2枚という長尺のアルバムの一番最後に置かれたこの楽曲こそまさに、ストーンズ印のロックンロールを最もサザンロック的に表現できたものだと思う。普段のこの手の曲のリフよりもより“疲れ”を感じさせる冒頭のリフはしかしKeith Richards感に溢れていて、そしてそれらは楽曲が展開していくにつれ、曲のBPMも段々速くなっていく。いい具合に訛った音色を響かせるスライドギターも効果的だけど、やはり途中でストーンズ濃度100%な高速カッティングが入るあたり、特に似たようなリズムのピアノに被るようにカッティングを決める場面や、カッティングにゴスペルなコーラスが乗っかる辺りで、Keith Richards流ロックンロールの到達点としてのこの楽曲の輝きが満ちる。その後の割とMick主導に思えてくるバンドの歴史を踏まえると、Keithはここで何かを完全にやりきってしまったんじゃなかろうかと思えてしまう。

 

5. Dancing With Mr. D(1973年 アルバム『Goats Head Soup』)

 いつ見てもアルバム『Goats Head Soup』のジャケットの意味不明さは衝撃的だ。この表情はどういう感情なんだ…?

 『Exile On Main Street』でやりきってしまった彼らの次のアルバムが『Goats Head Soup』で、このアルバムについては冒頭で取り上げた記事にその成り行きが書かれている。つまり、「以前からのアメリカ南部路線を前作でやりきってしまって、その後の“反動の一手”を模索して出来た作品」で、ここで彼らは実に論理的な帰結として、それまでの田舎的ないなたさの追求をやめて、一転して“都市の音楽”に目を向けた*2。最初期以来のR&B/ソウル等のサウンドの影響を全開にして、更には何故か、1970年代に入って遠のいていた1960年代末のカオティックで狂気的な世界観も戻ってきた。

 この曲のタイトルにある「Mr. D」とはまあDavilさんのことであり*3、アルバムタイトルの『Goats Head Soup』もまあ、サバト的なイメージかと思われる。そしてこの曲のサウンドは、前作までとは別の方向に乾いたギターリフがゆったりととぐろを巻く、それこそサバトめいた都市の隅っこのクラブで暗黒にゆっくり浸っていくようなサウンドとなっている。この曲において曲が展開してフックが付くのはせめて健康的なことのように思えて、そうでなければこの音色の割に妙にドロドロに感じられるリフとグルーヴは全くダークでダウナーで不気味になりすぎてしまう。Charlie Wattsのタイトで淡白に反復するドラムもかえってこの曲の幻惑に効果的な働きをしてる。

 

6. Winter(1973年 アルバム『Goats Head Soup』)

 冒頭の記事では上記『Dancing With Mr. D』と共にこの曲が取り上げられていて、そしてこの曲を「隠れ名曲!」と称賛している。全くもってそのとおり。最初聴いたときはストーンズにこんな澄んだトーンの、程よくスウィートで美しい楽曲があったのか…と唖然としたりした。冒頭の記事の指摘するとおり、今後増えていくバラッドタイプの楽曲のはしりでありながら、はしりであるが故に唯一無二のフレッシュさを持つ。アイリッシュ・ソウル的な雰囲気が、この楽曲に甘くなりすぎない適度に涼しい風を吹かせている。

 それにしても、冒頭のギターのコードストロークのトーンだけで、確かにこの曲は『Winter』という曲だなあと思わせる。こんなに冷たく澄んだギターのトーンはストーンズの他の曲には見当たらず、その絶妙な透き通り具合と歪み具合の入り混じったクランチなトーンは、個人的にはクランチの音色の理想形のひとつ。このトーンが生み出す雰囲気を壊さない程度に、楽曲も歌もそこそこに熱を帯びて見せては、それらがブレイクした後に残るこの涼しげなトーンの価値を高める。終盤の派手なストリングスでさえ、その後のこの美しいトーンの揺らぎの引き立て役なんじゃないかとさえ思う。美しいギタートーンは、ただのコードカッティングだけで全て成立させてしまう。ぼくが冬が季節の中で好きなのは、冬が怖くないとこに住んでいることもあるけど、この曲が好きなこともそこそこ理由してるかもしれない。

 

7. Fingerprint File(1974年 アルバム『It's Only Rock 'N Roll』)

IT'S ONLY ROCK 'N' ROL

IT'S ONLY ROCK 'N' ROL

  • アーティスト:ROLLING STONES
  • 発売日: 2009/05/08
  • メディア: CD
 

 アルバム『It's Only Rock 'N Roll』は個人的にそんなに好きなアルバムじゃない。作風としては、ストーンズ印のロックンロールに立ち返りまくっている。それがちょっと開き直りすぎに感じられて、どうかなあ…?ってなる。バラッド曲もこの辺から甘ったるさを感じるようになってしまう。予定調和的な感じがする。

 アルバム最後のこの曲だけ、やたらと毒気を吐きまくっている。それまでのストレートなロックンロールや甘々なバラッドは何処へやら、ひたすらにダークな運動神経を研ぎ澄ませて怪しく蠢いてみせる。どっちかと言えば前作『Goats Head Soup』に近い作風だと思う。それこそ上記の『Mr. D』の続編的にも感じれる。

 楽曲のトーンは冒頭、コーラスエフェクトで気色悪いエグみを足されたダークなギターリフでほぼ決定される。執拗なリフの反復とそこからの開放的な展開部という構成はやはり『Mr. D』と似てるけれど、こちらの方がリフは鋭く歯切れ良く、その分ファンク的な性質も帯びている。よりファンク的に洗練された後の『Hot Stuff』や『Miss You』といった楽曲と比べるとずっと荒々しいけれど、そんなの関係ないくらいに暗く澱んでいることがこの曲の魅力だ。そして、よく聴くと構成自体はブルーズ形式に沿って構築されていることが分かる。ブルーズを煮詰めた結果暗黒ファンクになった、とでもいうのだろうか。「FBIに追われる男」みたいな歌詞のストーリーを超えて、この暗黒ファンクブルーズナンバーは印象に残る。

 重度のストーンズフリークで知られるGRAPEVINE田中和将氏の大のお気に入りの楽曲としても知られる。

 

8. Through the Lonely Nights(1974年 シングル『It's Only Rock 'N Roll(But I Like It)』)

Rarities 1971

Rarities 1971

  • アーティスト:Rolling Stones
  • 発売日: 2005/11/28
  • メディア: CD
 

 シングル『It's Only Rock 'N Roll(But I Like It)』のカップリングとしてリリースされた楽曲。アルバムの幾つかの楽曲と同じ方向性のバラッドタイプの楽曲。だけどこの曲のいいところは、メロディ展開・演奏・テンポ・コーラスの被さるタイミング等が割と「いなたい」程度の領域に留まっていて、シックな質感があって、かなりいい楽曲になっている。こういうのをカップリングで出せたり、今回の『Goats Head Soup』リマスターにしても未発表曲に『Criss Cross』みたいなキャッチーなのが眠ってたり、彼らもまた楽曲の層が厚い。

 冒頭からワウでぼかされたギターの音が実にベタにメロウで、この辺は後のより下手なバラッドの前兆になっている。けれども、このベタなギタートーンで想像されるよりかは甘ったるくなりすぎないバランス感覚でこの曲は進行していく。適度に荒く歯切れのいいアコギのミックスや、ワウの音がアンサンブルの中ではむしろユーモラスに響いたりするところがいい具合に作用してるのか。ピアノが弾きすぎていないからなのか。ともかくこの曲は、作品名の割にライブテイクが多くてなんなんだろ…感のあるコンピ『Rarities 1971-2003』において、その「隠れた名曲」の素質をひっそりと咲かせている。

 

9. Just My Imagination(1978年 アルバム『Some Girls』)

Some Girls-Deluxe Edition (2cd)

Some Girls-Deluxe Edition (2cd)

  • アーティスト:Rolling Stones
  • 発売日: 2011/11/21
  • メディア: CD
 

 Ron Woodが加入して最初のアルバムとなった『Some Girls』は相当ユニークでポップなアルバムだと思う。「ディスコ・パンク等を取り入れたストーンズ」ということにはなるけど、ディスコなのは冒頭の『Miss You』だけだし、確かにパンク的なテンポの速い楽曲は3つくらいあるけど、どれも「ロックンロール」と言える領域をギリ超えない程度の編曲となっていて面白い。そして全体として、とてもギターの音が目立つ作品になっている。キーボード類やホーン類が前に出る場面は相当限定され、ひたすらギターのザラザラした音が目立っている。エフェクトも多用され、特に『Shattered』のグチョグチョになったギターの音で疾走する様はグロテスクかつシュール。

 この曲はThe Temptationsの全米No1ヒットとなった楽曲のカバーだけど、落ち着いててアダルティックでスウィートな雰囲気に満ちた原曲から、殆ど別の曲では…と思うくらいにザックリとしたギターロックに変貌している。メロディも原型が感じられる部分は僅か。そしてその、パンク的な3曲よりもテンポは落としたもののサウンド的には共通するそのギターのザクザク具合はとても爽快感があって、特に終盤の轟音具合は、結構ヤケクソ気味なカッティングになっていく様が少しオルタナティブロック的。Ⅰ→Ⅳのコード進行の反復による実にわかりやすいポップさと、次第にテンションが上がっていくギターの雑なカッティング。典型的なストーンズっぽさではないけれども、これぞまさに楽しいロックンロールだなあって思う。

 

10. Beast Of Burden(1978年 アルバム『Some Girls』)

Some Girls-Deluxe Edition (2cd)

Some Girls-Deluxe Edition (2cd)

  • アーティスト:Rolling Stones
  • 発売日: 2011/11/21
  • メディア: CD
 

 『Some Girls』にはそういえばベタなバラッドタイプの楽曲が無いけど、そんな気がしないのは、スローテンポの楽曲としてこの曲がしっかりとアルバム中で役割を果たしているからだと思う。ストーンズ全楽曲の中でもとりわけよく出来たR&Bだと思う。

 R&Bだけど、そのトラックを編み上げるのはあくまでストーンズ的な細切れのリフの応酬、というところが、この曲をとても特別な位置に引き上げている。細切れなリフだからこそ、その継ぎ目がそのままリズムになって、シンプルなビートを刻み続けるドラムとの対比がグルーヴになり、ムードになる。ギターの音色もコーラスエフェクトが薄く掛かって、琥珀色のメロウさが感じられる。メロディの展開もそこまで激しくなく、ひたすら穏やかで、彼ら流の荒々しいスウィートさが空気を支配していく。このリフの掛け合いは、一体どうやったらこんなに繊細で可憐に組み立てられるんだろうと、初めてその機構に気づいてからずっと不思議に思ってる。

 

11. She's So Cold(1980年 アルバム『Emotional Rescue』)

エモーショナル・レスキュー

エモーショナル・レスキュー

 

 悪い言い方をすれば「Some Girls part2」とも言えそうな性質をアルバム『Emotional Rescue』はある程度持っている。パンクな楽曲とディスコな楽曲の割合はしかしここでは逆転してるのが面白い。ユニークさではひたすらファルセットで突き通すファンクなタイトル曲が面白いけど、ギターサウンドを重視して見ると、この曲も結構面白い。

 この曲の特徴は、ストーンズ印のロックンロールを実に薄っぺらいギターサウンドで演奏していること。そこそこ性急なビートやボーカルのテンションを聴くにこの曲は多分『Jumpin' Jack Frash』とか『Brown Sugar』とかと同じ方向性の楽曲なんだろう、と思えるけど、それにしては実にショボく感じられて、それがなぜか考えれば、必ずこのギターの出力のショボさに行き着く。天下のストーンズがこんな音でしか録音できなかった?違う。彼らはあえてこのショボい音でこういうタイプの曲を演奏する、という挑戦をこの曲で行なっている。冒頭のリバーブ効かせたブリッジミュートからして、同時代のニューウェーブ的なペラペラさを意識したものと思われる。Keith Richardsがまだソロ等で自身のスタイルを開き直る前の、時代の音を自身のロックンロールに取り込もうとする静かな努力や野心が垣間見えるし、逆にこの曲には、ストーンズ的なロックンロールを解体したような面白さがある気がする。

 

12. Heaven(1981年 アルバム『Tatto You』)

TATTOO YOU

TATTOO YOU

  • アーティスト:ROLLING STONES
  • 発売日: 2009/06/12
  • メディア: CD
 

 1980年代のストーンズは割とずっと苦境にあって、MickとKeithの間の方向性の違い等による不仲がその主たる原因として横たわっている。そんな都合で楽曲制作がままならないために過去のアウトテイクを集めてダビング・リミックスして完成したのがアルバム『Tatto You』。特にドラムの音にリバーブを掛けるなどして、昔のアウトテイクを強引に1980年代ストーンズの楽曲に仕立て上げている。アルバム前半はロックンロール寄りで、後半はそれ以外、といった風情があって、後半の方が個人的には面白い。

 この曲もアルバム後半の1曲。この曲ともう1曲だけは、過去のアウトテイクではなくこのアルバム用に新しく録音された曲。ただ、MickとCharlieとベースのBill Wymanとプロデューサーの4人だけで録音され、特にドラム以外の楽器は全てBillによる演奏とのこと。だからというのもあるのか、全然ストーンズっぽくない本格的なAOR感がこの曲には深く漂ってる。冒頭からコーラスの深く掛かったギターはAOR的な幻惑作用を呈し、ボーカルは全てファルセットでかつ幾つも重ねられ、リズムもリム打ち等極めて静かなプレイに徹している。地味に相当異色な楽曲は、これはよく考えたら殆どBillのソロなのでは…?とも思ったりするけど、でも中々不思議な雰囲気のあるいい曲だ。

 

13. Waiting On A Friends(1981年 アルバム『Tatto You』)

TATTOO YOU

TATTOO YOU

  • アーティスト:ROLLING STONES
  • 発売日: 2009/06/12
  • メディア: CD
 

  同じく『Tatto You』から、こっちは正真正銘(?)過去のアウトテイクで、録音時期は『Goats Head Soup』と同じ頃とされる。それも納得のサッパリと洗練された都会的なサウンドに、少しカリプソ的なリズムで進行していくのが、やっぱりストーンズの楽曲として異色だけど、でもこちらはMickの声がはっきり聞こえてて、彼らのメロウな側面がソフトに出た楽曲となっている。冒頭のギターサウンドの瑞々しさはやっぱりストーンズにあるまじき透明感で新鮮に響く。一瞬ニューウェーブからの影響かと思うけど、録音時期を考えるとこっちの方が先。様々な楽器がこの曲のキラキラしてサッパリしたスウィートな感じを増幅するように効果的に配置されていて、特に中盤以降のサックスは程よい感傷リゾートっぽさを演出する。

 『Tatto You』では『Tops』も同時期録音の楽曲で、こっちもソウルめいた楽曲になってて、録音時期の趣向がよくわかる。

 

14. It Must Be Hell(1983年 アルバム『Undercover』)

UNDERCOVER

UNDERCOVER

  • アーティスト:ROLLING STONES
  • 発売日: 2009/06/12
  • メディア: CD
 

 MickとKeithの仲悪さ絶好調の時期のアルバムのひとつ『Undercover』は、どちらかといえばMickの発案っぽい様々なコンテンポラリーなサウンドアプローチが見られる。音自体も全体的に1980年代的なデジタルさが色濃く出ているけど、でも演奏自体を個別で見るとやってること自体はストーンズなんだな…ってなる。

 この曲はそんなアルバムの一番後ろに収録された楽曲。イントロのギターカッティングがなんというか、モロに『Brown Sugar』のやつの使い回し臭く感じれるけど、この曲のポイントは、この過去リフの使い回しっぽいカッティング自体を更に延々と使い回し続けていくこと。Keithが開き直ったのかそれともやる気がなかったのかわからないけど、この執拗な使い回しはでも確実にこの曲のトレードマークになっていて、間奏でブレイクしてこれが前面に出る場面とかまであるから、やっぱり故意犯なんだろうなと思う。サンプリング的な感覚でリフを配置・反復させてるようにも思えるし。一応、同じようなリフでも毎回微妙に音が違うような気はするから、本当にサンプリングしてるわけじゃないとは思う。

 

15. Blinded By Rainbows(1994年 アルバム『Voodoo Lounge』)

VOODOO LOUNGE-2009 REM

VOODOO LOUNGE-2009 REM

  • アーティスト:ROLLING STONES
  • 発売日: 2009/07/17
  • メディア: CD
 

 今回この企画をしてよかったと思うのは、ちゃんと1989年以降のストーンズのアルバムを聴く契機になったこと。『Steel Wheels』は正直音が特に苦手な感じでアレだったけど、他のアルバムは様々な見所があって面白い。特に『Voodoo Lounge』は90年代的なレイドバックサウンドで様々な小回りの効いた楽曲制作・アレンジが色々詰まっていて、とてもいいアルバムだったことを今更知った*4

 アルバムが特に素晴らしいのは中盤以降、様々なタイプの楽曲が続きながら、そのどれもが過去のパターンの使い回しではない、きちんとアイディアが詰まった良曲が連続していく。その流れの中でこの曲もまた、60年代的な繊細な情緒と90年代的な素朴な力強さを併せ持った儚げなバラッドに仕上がっているトレモロの利いたギターアルペジオがとても優雅に幻想的で、かつ甘すぎない感じで良く、そのムードから展開するサビの箇所がまた、繊細すぎないロマンチックなメロディに展開していくのが実に良い。キャリアを経て最高な具合に色褪せた『Ruby Tuesday』というか。本当に絶妙で素晴らしいムードだと思う。

 

16. Baby Break It Down(1994年 アルバム『Voodoo Lounge』)

VOODOO LOUNGE-2009 REM

VOODOO LOUNGE-2009 REM

  • アーティスト:ROLLING STONES
  • 発売日: 2009/07/17
  • メディア: CD
 

  前の曲と連続してるこの曲がまた最高。『Beast Of Burden』がストーンズ的なリフで編み上げたR&Bだとすれば、この曲は同じ手法で編み上げたカントリーロックだ。テンポを速くすれば典型的なストーンズのロックンロールになるかもしれないが、それをあえてテンポを落としてじっくりとメロディと情緒を組み立て、ストーンズ形式のリフで丁寧に編み上げる。もちろんメロディや楽曲の構成も非常に素晴らしいので成立する情緒ではあるけども、こういう楽曲が作れるのはやっぱストーンズだけだろう、ということはこの曲のラフなメロウさはやっぱストーンズのものなんだなあと、彼らの偉大な功績から滴り落ちたこの「隠れた名曲」の素晴らしさにひとりすごく盛り上がってる。

 

17. Gunface(1997年 アルバム『Bridges To Babylon』)

BRIDGES TO BABYLON-200

BRIDGES TO BABYLON-200

  • アーティスト:ROLLING STONES
  • 発売日: 2009/07/17
  • メディア: CD
 

 アルバム『Bridges To Babylon』は1989年以降では最もコンテンポラリーさを追い求めたアルバム。プロデューサーをDon Wasはじめ複数人雇い、サウンドにも様々な90年代的なガジェットを導入したりした。アルバム中盤などはとりわけ様々なサウンドの取り組みがあり、ギターの存在感が一気に下がるなどしてる。打ち込みのリズムさえ出てくる*5。纏まりの無いアルバムとよく言われるらしいけど、纏まりのある『A Bigger Bang』が出た後では、色々やってみた分色々なストーンズの楽曲が含まれてる、というこのアルバムの利点は、実は面白いものがたくさん眠ってるのかもしれない、と思う。

 アルバムで5曲目に位置するこの曲は、中々ハードでタフな雰囲気を醸し出すタイプの楽曲だけど、特にギターのスラップディレイ的なもので変な残響を持ったままヘヴィにカッティングし続ける様は、彼らのブルーズ・ロックンロールがまた微妙に前進したような感じがある。間奏のソロプレイ等もノイジーな仕掛けが施されていたりして、やはりこの辺はオルタナティブロックを横目に見ながらのアレンジだと思われる。又はヒップホップ的なアプローチなのかもしれない。でも、おっさんロック的な呪縛から自由であろうというこういう意識をストーンズが持っているというのは強くて、それが今年リリースの新曲なんかにもよく出てるんだと思う。

 

18. Rain Fall Down(2005年 アルバム『A Bigger Bang』)

A BIGGER BANG-2009 REM

A BIGGER BANG-2009 REM

  • アーティスト:ROLLING STONES
  • 発売日: 2009/07/17
  • メディア: CD
 

 どうでもいいけど、ストーンズのアルバムは「B」が頭文字の単語が2つ入ったタイトルのものがやたらと多い。『Between The Buttons』に始まり、『Beggars Banquet』『Black and Blue』ときて、そしてこの『A Bigger Bang』だ。流石にこの2005年のアルバムは自身のそういう歴史を鑑みてあえてそうしただろ…?とか思ったりする。そして今のところ「彼らのオリジナル楽曲でほぼ占められてる」オリジナルアルバムとしてはこれが最終作となっている。

 アルバム中は彼らの「無理をせず、自身たちから自然に出てくるサウンド」が大半を占める。その代わり、ラウドなところはきっちりラウドに、メロウなところはサッとメロウに決められていてメリハリがいい。そんな中では、この「エフェクト掛かったギターのカッティングを軸にしたファンクナンバー」はやや冒険的な方かも。ディレイの効いたギターカッティングを軸にしっとりと展開してみせ、またMickのボーカルラインや言葉の乗せ方は実にカジュアルで、タイトルから想起される湿った感じはしなくて、むしろサッパリしてスタイリッシュな楽曲に仕上がっている。『Miss You』的なディスコ感覚を現代的にブラッシュアップし直したもの、としても実に流麗。

 

19. Look What The Cat Dragged In(2005年 アルバム『A Bigger Bang』)

A BIGGER BANG-2009 REM

A BIGGER BANG-2009 REM

  • アーティスト:ROLLING STONES
  • 発売日: 2009/07/17
  • メディア: CD
 

 こっちはエネルギッシュなストーンズが出てるナンバー。だけどストーンズ印のロックンロールではなく、むしろ彼らが時々見せるザラザラした殺伐さを無理やり高速化してダンストラック化したような感じの質感。ザラザラした質感のギターをリズミカルに挟み込み、所々ではエキゾチックな単音フレーズで展開をつなぐギターの働きはとてもアグレッシブ。そしてこの曲では、1980年頃から何故かスネアを叩くときはハイハットを叩かないスタイルを取るCharlie Wattsのドラムが、結果的に高速4つ打ち的なビートになっているところが一番の聴きどころ。こんなにどっぷりとディスコ的なビートを彼が叩いてるのは初めてのことじゃないかと思うし、終盤ではそんなビートにパーカッション類も付随して実に狂乱の感じが出る。こういうのはやっぱMickが提案してるのかなあとか思いつつも、まあとても楽しい。

 

20. Living In A Ghost Town(2020年 シングル)

www.youtube.com このやや偏った趣向のリストの最後にこうやって最新の新曲を配置できることに、リストを組み終わって少し驚いたし、畏敬の念が改めて湧いた。まあこのご時世にアッパーなロックンロールをリリースされても「えっ…」ってなるから、このコロナ下の状況を的確に把握して制作された楽曲は、未だに彼らが的確に計算して楽曲が作れる余裕と企画力を持っていることでもある。

 それにしても、この曲のなんともテンションの上がらないマイナー調の、実にショボくれたような情緒の様のいちいち的確なのは何だろう。ディレイの反響が実に虚しく宙を切る様は、タイトルから想起されるイメージに実に的確に応えている。そして、そんな地味で陰気な楽曲をそれだけでは終わらせないコーラス部のMickのボーカルの、あの畳み掛ける勢いは、パワーがある以上に、彼がずっと築き上げてきた「技法」そのものだと思った。「言葉数を増やして同じ調子でリズミカルにわめき倒す」と書けば簡単そうに思えるが、それを真似してそう簡単にここまでのドライブ感が生み出せるかな。

 終盤になんか出てくるハーモニカといい、様々なアイディアを添えて丁寧に作られたこの陰気な楽曲は、こんなご時世でも、いやむしろ、こんなご時世だからこそ、「まだ俺たちは死んでねえし音楽作ったりするよ」という感じがより強く出る。こんなある意味地味な曲でこう思うのは妙な感じがして可笑しいけども、「なんていつまでもしたたかで巧みな連中なんだろう」と、自分が持てる限りの精一杯の敬意を込めてそう思う。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・

 以上20曲挙げてみました。

 ストーンズサウンドを研究して、解体して、別の形で実践することは、それは時に「新しい感じのするロック」を生み出す契機になるように思われます。一番典型的な例はThe Strokesで、あれはThe Velvet Undergroundもそうだけど、ストーンズの感じも時折とても強く感じられたりします。また、2本のギターを使って、どのようにロックンロールするか、どのようにネチネチとファンクするか、どのようにブゥードゥーなテンションで演奏するか、といったことも、様々なアイディアが詰まっています。R&Bに詳しい人であれば、Charlie Wattsの割と質素に見えるドラムにもっと沢山の意義や趣向を感じられるんだと思います。

 ストーンズは神格化された期間が長すぎた。そして、The Beatlesだとなされているような詳細な分析とかもし辛かったんだと思います*6。自分も、R&Bの知識が十分じゃないままに取り組んだ今回の企画では、大いに片手落ちな感覚を味わっています。でも、そもそも十分以上なR&Bファンじゃないと良さが分からないようなバンドなら、こんなに世界的に人気なバンドになっていないんですね。拾えるところから拾っていって、今回どうにか20曲集めたこのリストは、ちょっと他の人のとは違うだろうな…というのが密かな喜びであります。

 ストーンズはいつだって、カジュアルに聴かれたがってる。たまに出す近年の新曲を聴いてても「最近の若い連中の気をひくにはこうしてみよう」みたいな瞬間が多々あります。なので、もっと軽薄に、もっと「ここのこの音が最高なんだ」「この言葉の並べ方アホみたいで最高だよね」みたいな次元でストーンズを語っていきましょう。

*1:それでも今でも「やっぱダサいな…」と思ってしまうものは多々あります。けどそういうことについては特にこれ以上語るまい。

*2:そんな「都市の音楽」が何故かジャマイカレコーディングで生まれてるんだから、バンドってよくわからない。

*3:間違っても太宰治の「D」とかではない。

*4:日本盤にライナーノーツではない変でナルシスティックな小説が付いてくる、というネガティブイメージしか持ってなかった。

*5:逆に、彼らが1980年代とかでも打ち込みを殆ど使わなかったのは偉いと思う。

*6:バンドの演奏自体を解体して見ていく必要があるので、そうなると多分専門的な知識とかが色々と必要になってくると思います。グルーヴとか、正直よく分かんなくないですか。