ブンゲイブ・ケイオンガクブ

本を読まない文芸部員と楽器を練習しない軽音楽部員のような感じのブログ。適当な創作・レビュー等々。

コーラス(ギターエフェクト)について【40曲】前編

 

 今回はコーラスについて書きますが、コーラスって単語もまたいろんな音楽的意味があってややこしく、みんなで合唱とかハーモニーするとかのコーラスもあるし、曲展開をAメロ・サビと言わずにヴァース・コーラスって言う用法もあるし、なんか日本だけなのか歌の1番までをワンコーラスとか言っちゃったりする*1、ややこしいですね。。

 今回取り扱うのはエフェクト、特にギターに掛けるエフェクトとしての“コーラス”についてです。あのなんか、プルっとしてたり、ドロっとしてたりする、アレです。なんとなく40曲ほど実例っぽいのを用意してプレイリストにもしたので、それも用いながら見ていきます。長くなるのが覚悟されたことおよび1ヶ月に1個くらい投稿したかったので、今回は前編となります。。

 

 なお、しばらく前に書いた以下のトレモロの記事と同じようなノリです。トレモロもまたいろんな意味があってややこしい単語だったな…。ヴィブラートとかも含めて、モジュレーション系の名前ってなんか複数の意味を、それも近い範囲で持ってしまってるものが多い印象。

 

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もう一度確認:4種類の“コーラス”

 なんかトレモロのときもこういうのやってたみたいなので…めんどくせえ…改めて、音楽的用語としてだけで実に4種類もある“コーラス”の意味について見ていきます。

 

 

①合唱としての“コーラス” 

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 多分これが大元の意味のようで、古代ギリシャの頃の劇で歌ったり踊ったりする人という意味での「khorós」というのがあるらしく、本当に古くからあるようです。

 もちろんこのコーラスだけでも意味が色々と変遷してきた感じはあり、合唱的な意味から、主旋律にハモリを付けて歌の音階を厚くする、みたいな意味にも変異し、または歌のバックで楽器と同じように奏でられるオブリガード的な歌、みたいな意味にも取られるようになり、歌の意味の“コーラス”もそれはそれで複雑なようですけどそれはまた別のお話。ポップス以降の世界だけでも“ハモリ”と“オブリガード”両方の意味があることは音楽にまつわる文章を読んでて誰しもが一度は「?」ってなるポイントだと思う。特に筆者はThe Beach Boysから“コーラス”という概念に入ったので…。

 

 

②曲構造としての“コーラス”

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どうしてこっちの意味でもNirvanaが出張ってくるかな…しかもエフェクトのコーラス使ってねえ…。

 

 逆に日本の「Aメロ、Bメロ、サビ」という分け方はどこから出てきたんだよ…*2

 海外特に英語圏では、日本で言うAメロを“Verse”、サビを“Chorus”と呼ぶのが一般的なようです。BメロはVerseとChorusを繋ぐものとして“Bridge”と呼ばれることが多いようですが、“Bridge”は時に日本で言うCメロを指す意味でも用いられることがあるようで、BメロとしてのBridgeと明確に分けたい時には、中間になんか出てくる8小節という意味を込めて“Middle Eight”という呼び方もあるらしいです。

 当ブログでのこれらの使い方はまあ、なんか気分によって日本式と英語式が入り混じっててよく分かんないですね…下手するとひとつの記事で両方入り混じってるという体たらく。でも“ミドルエイト”はなんかCメロよりもより納得感があって格好良くて好きですね。この際8小節かどうかなんて気にしないですが。

 それにしてもこれも、なんで「詩の一節」という意味の“Verse”と合唱としての意味の“Chorus”を曲構造の分析方法として同じように並べて使うようになったのか不思議です。なんかそう言うのの歴史の論文とかも探したらあるのかもしれませんけどそれはもうこの記事でやるには手に余るどころの話ではないので…。

 

 

③「サビまでひと回し」的な意味の“コーラス”

 これが一番出所もその理由も不明な用法で、「歌い出しから最初のサビまでひと回し」的な意味の“ワンコーラス”と楽曲全部という意味の“フルコーラス”で対比とされるこの用法は、純粋に日本のみの現象のようです。AメロBメロの意味のコーラスも日本特有のものなのに、どうして日本独特のものだけで“コーラス”1単語に2つも意味が生じてるんだよ…と、責任者を呼んで問い詰めてみたくもなる今日このごろ。誰だよ責任者って…。

 特に多くの出演者を出したい都合から演奏時間の縛りの厳しいテレビの歌番組なんかでは「ワンコーラス歌って終了」がむしろ通常でしょうし、またドラマやアニメの主題歌とかでもワンコーラスのみ*3が普通でしょう*4。そう思うと、この用法はテレビの都合により生まれたものなのかなあとか考えてしまいます。やはり語源の詳細な分析なんてしませんが。

 

 

④エフェクトとしての“コーラス”←今回の本題

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 ようやく今回の本題である音響効果としての意味に辿り着きました。原理を語るよりも、上の動画で弾いてるギターの音を聞いてもらった方がこれがどういうものか理解するのにずっと早いでしょう。まあ途中からヴィブラートのデモにも入るからアレやけど。

 この音響効果としての用法にははっきりと責任者がいて、それは1975年にJC-120というアンプを作り、そこにコーラスという効果を載せたRolandに他なりません。公式サイトでもう「世界初のコーラス・エフェクトとなった」と言い切っているので、まあそうなるでしょう。

 JC-120についても、音の硬さやらそれをマシにする方法やらその汎用性の高さやらそれを生み出すための歪みエフェクター選びやら話題に事欠かないギターアンプですが、それはやはりまた別の話。

 トレモロがアンプの効果からエフェクターペダルに転化したように、コーラスもまたすぐにエフェクターとして作成され、1976年にRolandのグループ会社であるBOSSが早速CE-1という名機をリリースし、そして1979年に安価でコンパクトなCE-2をリリースして以降、オーバードライブやディストーション、ファズ等と同じくらいの存在感のあるエフェクタージャンルとして、様々な場面で使用されてきました。

 「様々な場面で使用」って言うけど、具体的にどういう場面で、どういう効果を狙って、どういった使われ方をしてきたの?ということを、これから朧げながらも見ていきます。とりあえずは、コーラスエフェクトというのは、ギターの音になんか不自然なダブりというか煌めきというかエグみというか、そういうのを付与する効果なんだな、と思っていただければと思います。

 

 

(おまけ)モジュレーション系エフェクトの歴史

 本編も始まってないのにおまけとは構成としていかがなものかと思いますが、コーラスの成立を1975年としてしまうと「ちょっと待って、じゃあこの音はコーラスじゃないのか!?」という1975年より前の楽曲に関する指摘も出てくると思われるので、なんとなくここでコーラスエフェクト含むモジュレーション系エフェクトの歴史をサラッと見ておきます。サラッとですが、間違い等あればご指摘ください。あまり細かくは書けませんが…。

 “モジュレーション系”という概念については、コーラスやトレモロも含む「歪み以外でギターの音自体をなんか揺らしたりとかして変質させてしまう効果全般」といった意味で押さえておけばひとまず大丈夫でしょう。

 

モジュレーション”の原点

 そもそも“modulation”というのは「モジュレーショ高周波持続電流の振幅・周波数・位相などを信号で変化させること」という意味だそうです。これを音響的効果として最初に積極的に活用しようとしたのが誰なのかは色々議論ありそうなので乱暴なことを言いたくありませんが、The Beatlesがレコーディング時のボーカルのダブリングによる位相のズレによるフランジャー効果などを面白がり、更にはもっと激しい効果を求めてオルガン用のレスリースピーカーを無理やりボーカルや楽器に用い始めたことは、ロックバンドがアンプの歪み以外で積極的に音を弄り始める重要なポイントだと言われています。ある程度は、この地点をエフェクター的な意味での“モジュレーション”の原点とすることに説得力があるでしょう。

 

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ユニヴァイブ:モジュレーション系エフェクターの原点

 レスリースピーカーには様々な効果が含まれており、今で言うフランジャーフェイザートレモロ・ヴィブラートといった、ともかく音を揺らす効果ならなんでもござれって感じの、当時のミュージシャンからしたら「楽器の音をありきたりなものからなんかともかく変な感じに変えてくれる魔法の箱」くらいの認識だったんでしょうか。

 ただ、レスリースピーカーはなかなかでっかいので、ギターの音を変えるためにこれをライブに持ち込んで稼働させるのはなかなか現実的ではない部分があります。いやオルガン弾く人はライブだろうと持ってくるんやろ?と思うとオルガン弾く人は大変だな…とは思いますが。

 

 

 そこで、なのかどうなのか分かりませんが、1960年代でギターで変な音を出そうとした代表的人物であるJimi Hendrixが目をつけたのが、日本で生まれたユニヴァイブだったようです。この記事によるとユニボックスの成立にも様々な経緯があり、元々の製品の名前は“Vibra-Chorus”だったとのこと。あれっJC-120よりも先なの…?まあいいか。

 

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ともかく通した楽器の音を強烈に“揺らす”ユニヴァイブの音は、エグいコーラスというか、ヴィブラートというか、フェイザーというか、そういったものが綯い交ぜになった音のように思えます。逆に言えば、ここからそれぞれの効果に分離したユニットなりエフェクターなりが派生していったんだと思われます。まあユニヴァイブの効果エグすぎるもんな。

 

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Jimi Hendrixの音楽は、エフェクター各種が丁寧に体系付けられる前の、混沌とした状況そのものな音をしている。なので時にエグい。

 

フェイザーフランジャー

 「ユニヴァイブはドロドロすぎるんでエグさをもっと抑えたエフェクター作れん?」と誰かが思ったのか知りませんが、上述のコーラス誕生の1年前の1974年にMXR社による伝説的なエフェクター『Phase 90』が誕生します。「音の位相を変えてウネらせる」効果です。

 

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同じ音を2つ鳴らして片方の位相を変えたり少し遅らせたりで効果を出すコーラスとは原理が微妙に異なりますが、微妙にしか違わないので、薄くかけるとどっちか判別が付きづらくなります。実際これで何曲かリストから外したし…。

 

Beast Of Burden (Remastered 1994) - YouTube

40曲リストの完成直前に調べたらフェイザーだと気付いて外した曲のひとつ。分からんよ…。

 

 MXRはその後1978年にフランジャーもリリースしました。こっちはコーラスと全く同じ原理で、ディレイタイムの極端さでジェット的に音がうねる効果を出しています。

 

SUPERCAR / cream soda (Official Music Video) - YouTube

歴史的にはフランジャーの代表例はVan Halenなんでしょうけどよく知らんし弊ブログ的でないので、ようはこの曲のミドルエイトの音だよねっていう。

 

トレモロはもっと前からあります

 一方、同じモジュレーションでも、音量を一定間隔で揺らす効果であるトレモロについては、1950年代のフェンダーアンプにすでに搭載済みの、圧倒的に古くからある効果になります。この辺がThe Beatlesモジュレーションの元祖と言い切ることの危険性のひとつや…。

 

 トレモロについては弊ブログの上述の記事でそれなりに十分に書きましたのでここではそんなに。なんかここ10年くらいに一気に再評価されてる感あります。もう一回貼っとこう。

 

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ワウもまた別系統なエフェクトって感じ

 これもJimi Hendrixが有名にしたエフェクターでしょう。1966年にはワウペダルを作った企業が彼に渡しており、そして彼の当時からすれば驚異的としか言いようがなかったであろう様々なプレイにより「そういうもの」として認識された感じがあります。

 

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 EQの変化を足で思うように変化させる道具がワウペダルで、その音はコーラスとはあまり勘違いすることはないものと思いますが、ただシューゲイザーとかでコーラスとワウを併用してる例は結構あるような気がします。さまざまなモジュレーションがかかりすぎて音の正体がよく分からん…となることもままありますが。

 

ヴィブラート

 JC-120が登場した際に、コーラスと同時にヴィブラートの概念もまた単体のものとして浮かび上がりました。コーラスが揺らした音を原音とミックスすることで生まれる効果なのに対して、ヴィブラートは揺らした音“だけ”を鳴らすものになります。なのでコーラスよりもっと音自体が揺れてる感じになります。

 とはいえ、コーラスとの境界はやはり曖昧で、正直言えば今回の40曲の中に「でもこれコーラスじゃなくてヴィブラートじゃね…?」って曲を意図的に1曲混ぜてます。だって取り上げたかったし…。

 

現代におけるコーラスエフェクター

 近年はエフェクターも様々な機能を載せたものが多くあり、モジュレーションのマルチとかに留まらず、リヴァーブやディレイの音にモジュレーションを掛けるものも多くあります。リヴァーブやディレイにいい具合にモジュレーションを掛けると、それはそれは実に神々しい音が鳴ります。というか一部の最高級リヴァーブやディレイはもうシーケンサーやろそれみたいな。

 

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 じゃあそういう機材さえ買えばコーラスエフェクターは要らんのか、ということについては正直よく分かりません。単体であった方が曲によって掛ける掛けないの使い分けが簡単そうだけどなー、と、特に1曲かけっぱなしが多いコーラスについては思いますけども。

 

 

コーラスってどういう効果なの?どういう気持ちで使うの?

 前者については「使ってる曲を聴けよ…」、後者に対しては「知るかよ…」と思いつつも、この項では改めてコーラスというエフェクトの立ち位置などについて考えてみたいと思います。

 

「原音と揺れた音を足す」ということのマイルドさ・使いやすさ

 個人的な認識としては、モジュレーション系エフェクトの中で使われることの多いものとして、コーラスは(なぜか近年追い上げが激しい)トレモロと2トップだろうと思っています。なんでなんだろう、と考えてみると、コーラスの成立方法である「原音が残る」ということが結構重要なんじゃないかと思いました。

 フランジャーフェイザートレモロなど他のモジュレーションエフェクトは、どことなくですが、1曲の演奏中ずっとかけっぱなし、というのは結構極端な例なように思える部分があります。しかし、コーラスは「1曲の間ずっとかけっぱなし」の例が他のモジュレーションに比してずっと多いように思います。

 思うにそれは、原音を残した効果であるが故にコーラスは他モジュレーションよりもどことなくマイルドなところがあり、なおかつ、歪みなどと同じく「この曲の基調を成すトーン」として決定的な効果を気安く容易く生み出せるところに原因があるのかもしれません*5単に1980年代のアーティストが揃いも揃ってかけっぱなしで使ってたから違和感がないだけかもしれませんけど。なんで1980年代のニューウェーブとかってみんな揃いも揃ってギターにコーラスかけてたんだ…?1990年代にみんなディストーションかけてたのよりももっと極端な感じがします。

 

 

コーラスを使うことによる様々なギタートーンのイメージの変化

 この辺からようやくこの記事の本編っぽさが出てくると思います。じゃあその比較的たやすくかけっぱなしで*6コーラスをギターにかけ続けて鳴らし続けることで、楽曲にどんな印象が生じるんでしょうか。こっから先はイメージの話なのでなんの根拠もないけども、まあこのブログではよくあることです。のちの40曲のリストから選外*7になった楽曲も交えてそれっぽく考えてみます。

 

 

①ブライトに煌めく、温かみのあるトーン

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 コーラスエフェクトによって、クリーン気味なギタートーンの煌めきを増すことができます。“コーラスのギターポップ的用法”と呼べるかもしれません。ギタートーンに光沢がコーティングされるようなイメージというか。そしてそれはクリーントーンを程よく濁らせて、時にどこかレトロな温かみを抱かせるようです。

 

②透き通った冷たさ

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 「さっきと言ってること真逆やんけ!」と言いたくなるだろうけど、だって透き通って冷たくなるんだもの仕方がない

 ということで、これは弾くコードやフレーズにも左右されると思いますが、冬の日の冷たさによって空気が透き通った感じがするような、あの感じが出ます。少なくとも言えそうなのは、これ系のコーラスの音を使う人の多くはThe Cureが好きですね。これ系の音を目指す場合はディレイやリヴァーブとの併用は必須でしょう。

 または、冷え切ったような無常感みたいなのもこれに含めていいのかもしれません。あんまり項目増やしすぎたくないし。

 

③瑞々しさ・水っぽい感じ

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 水中っぽさや水滴っぽさをトーンに付与するのもコーラスは得意とします基本的に音をよりウェットにする傾向がコーラスにはあると思われます。まさに水中そのものって揺れ方をしていたユニヴァイブから譲り受けた性質でしょうか。よって逆に、乾いた音なんかはコーラスで出すのは難しい感じがします。いい感じのクランチな歪みとあとトレモロとかを使いましょう。

 水っぽさの具合についても、その透明感・または汚れた具合についてもそこはコーラスの使い手の表現力の向き方次第。水って清らかなイメージはありつつ、しかし湿り気は汚らわしさの大きな原因のひとつでもありますもんね。そう考えると、コーラスが様々な両犠牲を持つのも水っぽい性質から来てるのかもしれません。でまかせですが。

 あと、湿った具合と煌びやかさの増す関係からか、時には耽美さも持ち上がってくる感じがします。楽曲やフレーズに依ると思われますが。

 

④神々しい奥行き・異世界的な感覚

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 ユニヴァイブ的混沌からコーラスの効果だけを抜き出せたことによって表出してきた清らかな響きは、突き詰めるとこの世には自然に存在し得ない類の輝き・別世界からの誘いめいた響きさえを持ち得ます。これも狙って出すには他の空間系エフェクターや場合によってはピッチシフターなどにも出てきてもらう必要があるでしょう。ハマった時の異世界な感覚は格別なもの。音楽でしか表現できない領域、って感じがします。他の組み合わせの関係上、とりわけぼんやりした音になる傾向。

 神々しさ=神聖さ、ではなく、神とは時に残酷でもあるもの。邪教の神かもしれないし。その辺は次の真逆な項目の要素も絡んでくるでしょう。

 

⑤邪悪さ・醜悪さ・闇っぽい/病みっぽい、淀んだ感じ

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 ある種のコーラス効果は、クリーンだったはずのギタートーンをどこまでもダークに濁し空気ごと淀ませる効果を生み出します。清らかな効果だと思ってたものが一気に瘴気を漂わせるような効果に変質する様はまるでルシファー的だと思いませんか?なんだそれは。

 この方面の音にはBOSSのコーラスもいいんですが特にElectro Harmonics社のコーラスである『Small Clone』系のものが効き目がエグくて効果的です。というか、とある社会現象を起こしたバンドがSmall Cloneを使ってそういう音を出したことでそういう用法が特に広まったというか。でも楽曲としては上述のMetallicaの方が似たような用法として早いけども。もしかして、後輩バンドが自分たちと似たようなトーンを出してたことに気を良くしたからMetallicaグランジ大好きバンドに変質したのか…?

 というか、ニューウェーブの気味悪い悪い系バンドの用法が既にこの方面だけども。でも、もっとこの用法をダーティーで汚らわしく病んだ感じに推し進めたのは1990年前後のオルタナバンドの功績だろうとは思います。呪いじみた、病んだ堕天使なテイスト(なんだそれは?)をギターで出すのにコーラスは必携と言っていいかもしれません。

 あと、ニューウェーブだとベースにコーラスを掛けることもままあって、これもなかなか薄気味悪い効果が出ます。曲によってはえらく爽やかにも響くけども。

 

⑥攻撃的でエグく鋭く突き刺さるような音

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 ここまでの用法は割とクリーン寄りのトーンを前提にしたものでしたが、じゃあ歪ませたらどうなるのか。その答えのひとつがこの、エグく尖ったような歪みのトーンでしょう。上の邪悪な用法をそのまま歪ませた、まるで邪悪さをそのまま攻撃性に転化したようなその獰猛さは、単音で響かせるととりわけ鋭さを増し、どこかドリルめいた印象さえ感じさせます。

 一方、この方向性で歪んだコードを弾くと、不自然な歪み方をしたコード感が得られます。コーラスの掛け方がエグ目だと病んだ感じ垂れ流しって感じで、好き嫌いがかなり分かれそうな音ですが、逆にコーラスをかけない歪みというものが案外ナチュラルで健康的な感じのするものなんだなあという気持ちにもなります。

 

⑦ファニーな、おどけた音色として

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このPVは流石に今でもダサいか…?*8

 1980年代の音色全般は、特に1990年代以降の視点からは「ダサいもの」として見られる時期が長くありました。が、時代が一回りし、2000年代のいつ頃からか様々なサウンド様式、シンセだったり、スネアの音だったりが再評価されるようになりました。コーラスの効いたある種のギターサウンドについても「ファニーなもの」として捉え直されて、今ではフラットに聴けるようになった感じがします。というかもっとナチュラルに効かせようもあったろうに、1980年代ポップシーンのコーラスの効かせ方の極端なこと。むしろその不自然なおかしさは後世において研究対象になってる感すら。

 特に、結構コーラスの効いた歪んだギターの音でブリッジミュートなんかは、1980年代産業ロック的なテイストがあるのかも。ん?それは言うほど再評価されるのか…?

 

⑧大人っぽいギターカッティングトーンとして

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2010年代シティポップ再評価はもしかしたらこの曲から始まったのか。フォントとかめっちゃ狙ってんなって改めて思う。

 

 最後になってしまったけど、シティポップ文脈でまさに再評価を超えて天下を取った感じさえあるのがこの、AOR気味なギターカッティングをコーラスによってより艶やかにスムーズにする用法。正直この用法はここまでのに比べて掛かってるのが露骨じゃない感じがして、個人的には聞き取りにあまり自信が持てませんが…。

 推察だけど、真空管アンプの歪みでロック!な1970年代の中盤に登場したJC-120はおそらく、その音の硬さや無機質さなんかから、ロックと遠いアンプと当時は思われたんじゃなかろうか。一方でそのクリーントーンや安定感などにはプロフェッショナルの香りがあって、フュージョン系のミュージシャンが最初の使い手になっていったんじゃないかと考えたりします*9。で、その延長として、AOR的なR&BとしてChicの存在が大きくなってくるわけで。

 コーラスにはクリーントーンをまろやかにする効果もあり、この点でクリーントーンのギターカッティングの時に耳に痛くなりそうな成分を、コーラスが優しくコーティングするのかなあと思われたりします。

 あと、他に入れる箇所がなかったんでカッティング以外のAOR的な演奏もここに入れちゃいます。

 

 

本編:年代順に40曲

 ここまでで既に1万字を超えましたが、ここからようやく、今回の記事を書くために選出した40曲をそれぞれ、上述の8つのカテゴリに強引に当てはめたりもしながら見ていきます*10。今回は前編で、1980年代までの14曲のみ取り上げますが、後編になれば例によって全40曲のプレイリストも載せるので、ゆくゆくはそちらもぜひ。

 

 

1970年代〜1980年代

 1975年にコーラスが登場し、その後特に1980年代はもう全盛期、と言ってもいい頃ではないかと。猫も杓子もコーラスかけてギターを弾く時代。本当にどうしてそうなったんだろう。

 

 

1. Good Times / Chic(1979年)…⑧

Good Times - YouTube

 

 おそらくこの曲含むChicやNile Rodgersの楽曲を「いいコーラス効いてるなあ」なんて目線で聴くことなんてないと思う。いまだにこの曲で本当にコーラスが使われてるのか半信半疑なような、言われてみればカッティングの隙間にコーラス的な残響のダブりがあるようなないような。本当に隠し味的なコーラスの用法をリスト1曲目に持ってくるのはいかがなものかと思うけども、でも年代順とA to Zで並べたらこれが最初に来たので仕方ない。

 思うに、真に捧げ切ってしまうエンターテイナーは、演奏の自己主張なんてしないんだと思う。全てをポップがスムーズになるため捧げて、淡々と自身のすべきことを遂行する。このリスト1曲目にして究極的にプロフェッショナルすぎる曲。むしろこれよりもずっと後になって出てきた『Get Lucky』はそんな裏方的志向だったNile Rodgersのギタープレイを表に引き摺り出して「これマジですげーぞ!」ってするDaft Punk側の陰謀だったように思えてならない。実際マジすげーんだから。割と『Get Lucky』1曲で真面目にコーラスの売り上げ上がったんじゃないかしら。この項目は『Good Times』の項目じゃなかったかしら。

 

 

2. Love Comes to Everyone / George Harrison(1979年)…⑧②

Love Comes to Everyone (2004 Remaster) - YouTube

 

 もっと露骨にAOR的なコーラスギターを味わいたい方々へ。この澄み切ったトーンで歯切れ良くコードを弾くだけでイントロが完璧に構築されたGeorge HarrisonAOR的アルバムの冒頭曲の、実にこういう方向に振り切った感じ。というか改めて聴き返してここまでモロにコーラス効いてると思ってなくて驚いた。この人The Beatles終わった後も新しく出てきた音をさらっと取り入れるの上手い。1976年の前作ではフェイザーも使ってるし*11

 徹底的にコーラスでクリスタルな響きになった音世界には、ひんやりとした感覚が漂う。もう少しウェットでぬるっとしたコーラス使いが多い気がしてるAORの界隈において、この曲のさっぱりした、下手すると刺々しくさえ聞こえるかもしれないほどの感覚はしかし案外特殊でもあるのかも。このコーラスの効いたコードカッティングがはっきりと前に出る感じに、いい意味での彼の“プロじゃなさ”も感じられる気がしてる。この人はそれがいいんだ。その辺のことなんかは以下の弊ブログ記事なども参照。

 

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3. Message in a Bottle / The Police(1979年)…②⑦

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 さっきはファニーとかダサいPVとか言ってしまった*12けど、The Policeはやはり有数のコーラスの使い手で、特にこの曲なんか必殺という感じがする。楽曲もとてもポップな上に、シリアスな緊張感が冷たく張り詰めるアルペジオからサビでメジャー調になるとブリッジミュートで一気にプリティに響くコーラスの効き方。Andy Summersは間違いなくコーラスの使用法を確立した偉大なオリジネイターのひとりだ。それにしても素晴らしい楽曲に対してこの「忙しいんで楽屋でサッと作りました」感全開のPVのテキトーさ。

 The Policeのいくつかの代表曲の素晴らしさはサビで一気にポップになるその落差だと思うけども、もう少し時代が後ならディストーションとかでその落差を演出しそうなところを、このギタリストは全編同じギタートーンのまま演奏の繊細な緩急のみでコントロールする。その侘び寂びの効いたプレイにはいつもコーラスが共にある。何気にトーンが融けそうなくらいキツいコーラスが掛かってるけども、その上で行うブリッジミュートのファニーさは確実にこの曲のサビのポップさに貢献している*13。名人芸だ。

 

 

4. Sketch for Summer / The Durutti Column(1980年)…②

The Durutti Column - Sketch for summer - YouTube

 

 いつ聴いても「夏のスケッチ」とは思えないくらい冷たいトーンをしていると思うけども、この冷たく澄んだ音色と無機質なリズムボックスで描かれる、他のどことも違う性質の寂しさを有してしまったかのような世界観の完結具合にはため息が出る

 ある種の音楽の目的は本当にこういう「誰にも辿り着けない寂しい場所を作り上げる」ことだよなあと思わされる。まるでこの曲の夏は、水辺の水面も草も空気さえも、クリスタルか何かでできてしまってるんだろうか、という感じ。非現実的な音なんだけども、でも異世界的な美しさかというと、まだどこか世界のどこかにこういう場所があるような気がしてくる。もしくはそれは、誰かの記憶の果てに置き去りにされている性質のものかもしれない。コーラスってすごい。

 

 

5. Twenty Four Hours / Joy Division(1980年)…⑤②

Joy Division - Twenty Four Hours (Official Lyric Video) - YouTube

 

 ベースにコーラスを掛けるのは別にPeter Hookが初めてではないけども、コーラスの効いたベースでギターそっちのけで高音弦でリードフレーズを弾くのは彼の代名詞だ。それをどこまでも冷たい楽曲の中で、ノイジーなギターの中を駆け抜けていくように演奏するとこういう寂しくヒリついた質感になるのかと思わせられる

 演奏の極端なストップアンドゴーに対してこの曲におけるボーカルは歌い方にまるで差を付けない。差を付ける気力もない、といった風情にも感じられもする。美しい透明感と邪悪なエグみの狭間にあるこのベースは、止まったかと思うと激しく痙攣し出すドラムとギターをよそに、崩れ落ちそうなボーカルと共になんとかこの楽曲自体を頼りなく繋ぎ止める。次の瞬間には何もかも潰えてしまいそうな緊張感の中でギリギリ結びつくその不安定さが彼らのグルーヴの特異性であるとするならば、この曲はそのある種の究極系のように思える時がある。暗闇って怖いのもあるけど寂しくもあるもんだよな。

 Joy Divisionについてはいつかもっとちゃんとまとめたい。どうして多くの人が彼らに憧れ、そして彼らみたいになれないのか。その構造。バンドの末路込みで、別になれなくてもいいとは思うけども。

 

 

6. The Passion of Lovers / Bauhaus(1981年)…⑤⑥

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 ゴスというジャンルにおいて邪悪で病んだトーンのコーラスは必需品と言ってもいいかと思うけど、ポストパンクのバンドはそこまでギターにコーラスを使ってなかったりする*14ので、ここでもこのバンドの重要性はとても高くなる。イントロのニューウェーブなコーラスベースめいた旋律、そしてリードフレーズのコーラスによって刺すように歪んだ仕草、実に闇々しい空間が現出している

 同じ暗さでも、よりシアトリカルな感覚があるのがBauhausで、そこがJoy Divisionとかとの大きな違いだ。シアトリカルというか、闇のサーカスめいた感じというか。そう思うとこの曲のコーラス込みで歪んだギターが、猛獣に振り下ろされる鞭めいたものに感じられてくる。鞭に棘か何かが付いているのかもしれない。腫れるだけじゃなくて血が出そうだ。物理的な痛みを、ある種のコーラスは想起させるのかもしれない。

 

 

7. Green Fingers / Siouxie and the Banshees(1982年)…③⑤⑦

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 Jon MacGeochという伝説的なギタリストのとりわけサウンド的に多様な手法で活躍していた時期はSiouxie and the Banshees時期になるだろう。約3年間の所属時期は同時に、彼のギターの音がひたすらコーラス漬けだった時期でもある。代表作『Juju』はそのサウンドの奇怪さゆえに名作とされてるけども、少々聴きづらいと思ってしまう自分のような軟弱は次作にしてかのギタリストの所属最終作『A Kiss in the Dreamhouse』が聴きやすくていい。いやそれでもちょっと時代的なエグみを感じる時もあるけど、その点この曲はかなりポップな爽快感ばかり詰まっていて、聴きやすく、そしてギターはもちろんのことベースまでコーラス漬けの妙にベシャベシャした音の中をグイグイ進んでいくのが爽快な楽曲

 ニューウェーブ的なコーラス高音ベースとコーラスの怪しい煌めきを伴いかき鳴らされるギター、となるとスカスカになりそうなボトムをこの曲ではドラムがフロアタム等を利用した重心低い音像を生み出すことで、いい具合に聞きやすい纏まり方をしている。楽曲自体も、メロディは落ち着いていつつも明確に盛り上がるパートが挿入され、そこでの疾走感の裏で鳴る怪しいコーラスのアルペジオは、このエフェクトのまさに輝く場面だと思う。そのからの変な笛のような音とユニゾンしていくコーラスギターフレーズも実に奇妙な感じが出ている。ファニーなのか病んでるのかどっちもなのか、その辺を香る程度に抑えてあるのがこの曲の聴きやすさの一角なのかもしれない。

 

 

8. プラスティック・ラブ / 竹内まりあ(1984年)…⑧

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 もしかしたらDaft Punkによって仕掛けられたのかもしれないシティポップブームの、その再評価の頂点を成す楽曲の登場だ。上記のPVはブームを受けて作られた最近のものなんでアレ*15だけども。Nile Rodgersなんのその、日本には山下達郎がいて、この曲でもBreezeなカッティングを聴かせる訳だけど、そのBreezeの秘訣もコーラスだというのはこの音数賑やかな曲のギターに注目してるとちょっと分かる

 この、あくまでメインのシンセ等の横でさりげなくシャカシャカとした効果を作り続けるギターのストイックさは、よく考えると確かにNile Rodgers的だと思わされる。山下達郎自身の楽曲だともう少しメインでフューチャーされるであろうこの素晴らしいカッティングが、実に傍に置かれている。その際にコーラスの効き目は、ギターの存在をより細々として無機質(プラスチック)なものにしている。その上で古のトレンディドラマ的な光景をそれなりの感情の込め方で歌う竹内まりあの存在感の「月並みな非現実さ」は、確かにこの曲がシティポップの頂点に立つことになるのもちょっと分かる感じがしてる。別に皮肉じゃないつもりだけども。

 山下達郎。ジャニーズ関係のこととかもあってすっかり語りにくくなった。嫁ならいいのかって話かもしれない。でも、というあえずこの曲は普通にサブスクにあるもんなあ。旦那と違って。

 

 

9. Still Ill / The Smiths1984年)…⑤③

The Smiths - Still Ill (Official Audio) - YouTube

 

 The Smithsもまたギターのトレードマーク的にコーラスが多用されるバンドで、その使い方も、時にギターポップバンドかのように妙にウォームに響かせたり、時にナイーヴで不健康なAORみたく湿ってみせたりと多彩だ。Johnny Marrもまたコーラスの使い方に関して偉大なオリジネイターの一人だろう。そして、コーラスが有する美しくも毒々しい作用について、ソングライティングのレベル込みで表現しきったひとつのマイルストーンということにこの曲はなるだろう

 「まだ病気」なる直球にも程があるタイトルを伴って、またサッチャー政権時代の世の中で「イングランドはぼくのものだ」と歌う倒錯しつつも政治的鋭さのある歌詞などによって、この曲は数あるThe Smithsの名曲の中でもとりわけ毒々しいものを持つ。そのサウンドは実にスッカスカだけど、その中で細く頼りなく紡がれるアルペジオの、流麗であればある程どこか禍々しさも伴う美しさには、コーラスによる、清廉さと汚れとがないまぜになったような響き方はまさに最適だと言える。病んだ薔薇の輪郭をなぞるようなアルペジオの内側には、内的なドロッとした感覚と社会とかなぜか直接に接続されてしまっているような、そんな妙な空白の力場が生じている。

 

 

10. Venus / The Roosterz(1985年)…①

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これPVとかあったんだ…。

 

 1980年代にオールドスタイルなロックンロールでデビューしてそしてあっという間にニューウェーブ化するという意味不明な変遷を遂げていった日本のバンドThe Roostersの、なんか精神が不調を来した勢いでバンド名を“z”に変えて〜という経緯は昨年のサブスク解禁の際に以下の記事で書いたので必要に応じて参照してください。

 

ystmokzk.hatenablog.jp

 

その猛烈すぎる変遷を経てきた大江ボーカル時代ラストを飾る(ラストになってしまった…)アルバムの冒頭に置かれたのは、ニューウェーブ化後の彼らがやってきたポップなネオサイケを突き詰めたような楽曲で、その煌めきと安らぎに満ちたギターサウンドのポイントはやはりコーラス。それにしても、同じバンドの別の曲では同じコーラスでも全然真逆の冷たい音を放っていたりするし、コーラスはそういうところほんと面白い。

 ギターポップ系統の温かみに満ちたコーラスの使用法だけども、この曲はとりわけトーンをコーティングしてる感じが強くて、特にサブな存在感の右チャンネルのギターはよりエグみの効いたコーラスが効いていて、メインの煌びやかな左チャンネルのギターとシンセの陰で静かに毒気さえ有してるところがある。もしかしたらこの右側の暗躍あってこその左側の伸びやかさなのかもしれない。単純にギターオーケストレーションとして、同年代のバンドの中でも突出してるんじゃないかとさえ思う。どの辺までがメンバーの自力でどこからが某悪徳プロデューサーの手腕なのかよく分からないのはもどかしいけども。

 

 

11. B・BLUE / BOØWY(1986年)…⑦

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 いかにもロックンロール然とした雰囲気してるけど、でもBOØWYって音だけ聴いたら全然ニューウェーブバンドだよな、と思う。そしてそれが、後のLUNA SEAとかをはじめとするヴィジュアル系的なそれともまた違う感じなのは面白い。この曲とか、めっちゃポップスマナーの効いたコード進行に、1980年代感全開のゲートエコーで持ち上がったスネア*16とコーラスでドロッドロに仕上げられたギターの歯切れのいいファニーさが乗った爽快なニューウェーブ・ロックンロールだ

 圧の効きまくったスネアの入りからの、エンターテイメント感に満ちたギターの広がり方、この時点でこの曲のニューウェーブ的なポップさはすでに完成してる。その後も基本ブリッジミュートしながらも所々に可愛らしいオブリをひたすら挿入する様は、後の硬派でメタリックな印象を漂わせるギタリスト・布袋寅泰のイメージからすると意外なほどキャッチーなサービス精神に満ち溢れてる。あっでもソロ後の歌もの楽曲のポップさを思うと別にこういうものなのか*17。コーラスの使い方もこの曲は結構極端でその具合もまたファニー。

 

 

12. Fluffy Tufts / Cocteau Twins(1986年)…④

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 神々しさパターンの例に出したCocteau Twinsだけど、1986年にはその方面の到達点にして深い袋小路のようにさえ感じるアルバム『Victorialand』をリリース。1曲目の時点で十分にヤバいけども、2曲目のこの曲のイントロが聴こえてきた瞬間に「あっ今自分どこにおるん…」的な不安さに満ちたファンタジックさに包まれる。この、一気にリスナーをかどわかす幽玄なギターの調べは、これはコーラスも使ってるんだろうが、果たしてどうやったらこんな音出るんだ…?これもはやコーラスのおかげなのか…?そういう意味でもこのバンドの極北か。

 Jimi Hendrixの頃より、ギターの音をギターから遠く離れた、これまでのどの楽器とも違う超越的な何かに変えたいという方向性がエフェクターにはあったと思う。その願望はこの地点から数年後のMy Bloody ValentineLoveless』にてひとつの達成を見るけども、その前にこの曲に代表されるような、まるで幽霊じみたトーンの数々が『Victorialand』にて完成していたことはよく考えてみたい。今時のディレイやリヴァーブにモジュレーションを掛けれて不思議サウンドをひとつのエフェクターで作れるような時代ではないのだし。あれっこれ本当にコーラスの記事の文章かなあ。

 

 

13. Pictures of You / The Cure(1989年)…②

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 今回のリストを作る際に真っ先にリストに加えた曲。その気になればリスト40曲のうち半分くらいをThe Cureだけで埋めるのは容易なんだろうけども、その中でもこの曲はホント大好きなので、まあやっぱそりゃまあ。コーラスといえばThe Cure。多分8つの累計も大体全部やってるんじゃないかと思うし。

 冒頭からずっと連なっていく、結晶のように透き通った細く美しいコーラストーンの舞う様はほとんど天使。この透明感の純度それだけで出来てるかのようなコーラスサウンドは数あるThe Cureのコーラスの使い方の中でもとりわけシグネイチャー感のある部類。特に中盤以降に現れる、柔らかく降り注ぐようなフレーズに小さな音でハミング的なものが重なる箇所は本当に、氷の妖精が舞い降りたかのように大変に美しいポップさが輝いている。

 それにしてもこの曲のリードギターのコーラスの効いた音色は本当に綺麗で、収録アルバムの他の曲ではもっとエグ目のコーラス使用もある中で、この曲は最上級に透き通った使い方をしている。ディレイも併用していることが曲の終わり方から察せられるけども、音色のメインはEQとコーラスの効かせ方なのかなと思う。適度に硬い音質が輝かしさを演出しているのか。世界中に無数にあるコーラス使用例の中でも最上級の美しさだと感じる。

 ちなみにRobert Smithの使用コーラスはある海外サイトだろBOSSの『CH-1 Super Chorus』とのこと*18。ディレイもBOSSのものを使用しているらしく、日本では大体の楽器屋にあるような汎用エフェクター的なものによってこのような美しいサウンドを出せるないしは再現できる可能性があると思うと、音楽ってフェアだなとも思うし、音楽ってセンスが本当に大事なシビアな世界なのかもなとも思う。でも夢がある話だと思う。

 

 

14. Waterfall / The Stone Roses(1989年)…③

Waterfall - YouTube

PVもあったけどバージョン違いなのかリズムの入り方が全然違っててビビった。

 

 1990年代の明るくポップなUKロックバンドの元祖、「長い90年代」扱いされることのあるこのバンドだけど、名作1stアルバムを改めてそういう意識をして聴くと、アルバム中コーラスまみれだ。まあ1989年だもんねまだ1980年代だよなあ、という気持ちに少しなった。コーラスでいうと、この曲のイントロの「いかにもコーラスの音だなあ」という感じと、曲タイトルに引っ張られてかどことなく水っぽく聞こえてくるコーラスギターサウンドの音響具合が印象的になってくる。滝というよりももっと水中な感じにも思えるけども。

 それにしても、やはりあのアルバムの曲はどれも1980年代的な屈折が全然見当たらなくて、そこが1990年代っぽさになってるんだろうなと思う。この曲もコーラスは結構深く効いてるけども、それによって不健康そうな感じはまるでしない。なので、水中的なものを思わせるその奥行きはそのままこの曲のファンタジックさに濁りなく昇華される。ところどころリズムが駆け出したりもして不思議なまろやかさと可愛らしさがある曲だなと再確認。

 

 

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小結

 14/40という進捗はかなり微妙ですが今回はひとまずここまで。後編に続きます。

*1:なんかこれだけは時代がかった言い方な気がして、もう今ではあんま言わない用法かなあ。

*2:“サビ”の語源はどうも純粋に日本語らしく、侘び寂びの“サビ”説だったり、食べ物のワサビ由来説だったりと明確ではない。ただ少なくとも、その“サビ”以外のメロディとしてAメロ、Bメロなどが和製英語的に作られたものではあるっぽい…?

*3:しばらく前から“TV Size Version”などとして音源にこのサイズで収められることも出てきました。

*4:それを思うと、WINO『太陽は夜も輝く』がハンターハンター主題歌になった時の「Bメロとサビのみ」という取り出し方は随分と異様。わざわざ少しだけイントロも取り付けてるから、これはもう再構築、リミックスの領域なんだよなあ。

*5:この理屈だと、コーラスに比べてヴィブラートの方が使用例がずっと少ないことも説明できる気がします。

*6:逆に楽曲の一部だけでコーラスかけてる例ってあんまり知らないな…。

*7:「同じアーティストの曲は1曲まで」ルールに抵触したので選外になったものもいくつかあります。あとは、リストを作ってこの記事を書き始めた後に「そういえば入れ忘れてた…」ってやつを。

*8:話がすっかり変わるけど、The Policeは他に何曲か実に1980年代的な編集がすっげえダサいPVがあった気がしたけど、Youtube見てるとそんなになかった。『Do Do Do, De Da Da Da』のすっげえダサいやつとかあった気がしたけどなあ。

*9:特に日本ではまさにそういうのが山下達郎などメインフィールドになってくるし、それにJC-120も日本産アンプだし。

*10:というか、今回の40曲をなんとなくでカテゴライズしたらおよそ8つになったというか。

*11:『Beautiful Girl』など。

*12:いやあのPVはダサいだろ。

*13:どうでもいいけど、ここの文章も意味が混乱するのを避けるために“サビ”と書いたけども、英語圏だと「サビのコーラスがいい」という文章をどう書くんだろう。もっと言えば「サビのギターのコーラスもバックのコーラスもいい」みたいな場合どうなっちゃうんだろう。

*14:1970年代終盤はまだ安価にコーラスを使うことができなかったからだと思う。

*15:バブルの頃のテイストを今風に演出しようとするのって構造的になんかエグいものを感じる。

*16:この曲に限らないけど、こういうドラムって叩く人楽しいのかな単調すぎない?って時々思う。

*17:「ベビベビベイベベイベベイベベイベベイベー」の人だもんな。

*18:まあThe Cureのコーラスがエグい使い方の曲を聴いても、あまりSmall Colne系ではないかなあという感じ。