ブンゲイブ・ケイオンガクブ

本を読まない文芸部員と楽器を練習しない軽音楽部員のような感じのブログ。適当な創作・レビュー等々。

The Jesus & Mary Chain(JAMC、ジザメリ)の25曲

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 ここ最近ずっとThe Jesus & Mary Chain(以下「JAMC」と呼称します。日本風な「ジザメリ」でもいいんだろうけども)ばっかり聴いてて盛り上がってきて、マイナー気味そうな曲まで一通り聴いてとてもテンションが高くなったので、25曲のプレイリストを作りました。再結成アルバムの曲は時期が他の曲と開きすぎることもあり収録してませんが、曲順もいい具合だと思います。今回はいきなりこれを貼ります!

 

 彼らは1999年の活動休止までにフルアルバムを6枚、シングルを19枚、EPを6枚リリースしており、今回はそれらからの選曲となります。彼らの詳しいディスコグラフィについては、英語版Wikipediaの記事を見ていただければです。

 そして今回は、この25曲を通じて彼らのキャリアとか、バンドとしての性質とか、各楽曲の魅力とかを改めて検証したいような、そんな意気込みの記事です。なので、さっさと本題に入っていきます。

 ちなみに、(『Honey's Dead』までの)各アルバムの論評についてはこちらのブログの記事がとても良いかと思います。彼らの歴史に横たわる”面倒臭さ”もよく踏まえられています。

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1. Happy When It Rain

1987年 シングル・EP及びアルバム『Darklands』)

www.youtube.com まずはこの曲。スネアの連打からグッと開けるようなギターラインに繋がるイントロがめっちゃ好きで、このギターフレーズがこの曲より前の『Something's Wrong』(『Phychocandy』収録)からそのままほぼ使いまわされてるのが全然気にならないくらい大好き。むしろその堂々たる使い回しっぷりが格好いいまである。

 彼らの音楽史に残る業績は「甘いメロディと激しいノイズの融合」を一応成し遂げた1stフルアルバム『Phychocandy』だけで、あとは歴史に残らないもの、と昔は早合点していたものだけど、むしろ彼らの美点はその「甘いメロディ」を「実にシンプルな曲構成で効果的に聴かせること」だと気付いてからは、彼らの2ndアルバム以降の、意外と丁寧に練られていく楽曲群の方にむしろ興味が湧くようになった。

 『Phychocandy』の大反響と狂騒の果てに疲れ果てたJAMCの2枚目のアルバム『Darklands』は、そんな疲れ切ってノイズも封印して、打ち込みリズムの上で自分たちのポップセンスをしっかりと磨き上げた上で作られた好盤。その中でもとりわけアップリフティングで広大な感じのするこの曲のタイトルが「雨が降ってると幸せ」ってなってるこの妙な捩れ加減が彼ららしい*1。また、彼ら特有の3コードなパワーポップの性質を最も典型的に表したナンバーだとも思っていて、ここからいろんな曲に派生したんじゃないかなと妄想する、とても重要そうに思える楽曲。何よりもメロディが飛び上がっていくこの頼りなくて広大な感じが大好き。

 

2. Upside Down

1984年 シングル)

 彼らの歴史の始まりがこのデビューシングル。まさに「激しいノイズ+微かに挟まれる甘いメロディ」を地で行く楽曲で、そのシンプルすぎるアイディアだけでダークに疾走していく様と、あと曲タイトルの「テンションが高いのか低いのかよく分からない、適当な感じ」とが、ある種のインディロックの永遠の象徴のような趣さえたたえてる感じのする曲。

 リリース当時のこの曲の衝撃を後世の我々が正確に掴むことはまず無理だけど、この曲の激しいギターのフィードバックノイズは、まるで芸術的でもなければ邪悪な感じでもなく、ただただ暴発して鳴ってる、という感じがして、そこに一応のポップなメロディが付いて、ポップソングとして成立してしまったことがおそらくはとても衝撃だったんだと思う。こんな激しいノイズがともに鳴ってるんだったらボーカルも叫びたくなりそうなものなのに、彼らは逆に落ち着き払って、悪戯っぽくもポップなメロディと早急なリズムとを乗せた。これが後世どれだけのジャンルやバンドに影響を与えたのか、よく分からない。この辺を細かく考えだすと大概こじつけが多くなりそうだし。

 『Phychocandy』周辺の楽曲のドラムをPriomal ScreamのBobbie Gillespieが叩いてるということは有名だけど、この最初期のシングルにおいては彼とはまた別のドラマーが叩いている。ドラムのスタイルが似てる(シンバルを叩かない・タンバリンが代わりに鳴らされる、等)ので忘れがちになるけども。

 JAMCのポップな楽曲としては、この曲の次のシングルで一気にポップさが増すのを思うと、この曲はしかしそこまでメロディが強い方でもない。でも、言葉数多めに畳み掛けていくパートのキャッチーさは確実にあって、後の彼らの楽曲ではそんなに出てこない譜割りでもあるので、そこが個人的には1番の聴きどころ。

 

3. Almost Gold

(1992年 アルバム『Honey's Dead』及びシングル)

www.youtube.com 彼らのサウンドが最も充実と余裕に満ちていたのは4thアルバム『Honey's Dead』の頃、ということが広く言われてて、それについて異論は無い。攻撃的な曲も重たい曲も軽快な曲もスピーディーな曲も、いい塩梅にバリエーション多目で収録されかつグダグダ感も感じさせないこのアルバムは、彼らの最高傑作候補に挙げられることが多い。

 この曲はミドルテンポで軽快に、少しフワリとした雰囲気で駆け抜けていく、彼らのポップさがかなりソフトな形で表現された楽曲。2ndから続く打ち込みのリズムもこの頃は相当手馴れたもので、そのソフトに打ち込みとわかる感じが少々ダンサブルな感じにも思えるのは、The Stone Roses以降のUKロックの感じ、マンチェスタービート的なものを、スコットランド出身の彼らもしっかりとつかんでいたということか。

 興味深いのが、Honey's Dead』辺りの楽曲から、間奏に1番の盛り上がりが来る構成をした楽曲が増えてること。この曲でも、少し曖昧気味に展開したメロディが途切れてから、基本となるコード循環を元に音の圧が強くなることで楽曲の盛り上がりが形作られている。ろくなギターソロも弾かずに、下手したらギターのダビングと簡単なフレーズだけでこの間奏の高揚感をしっかりと表現してるのがとても巧みで、インディロックのお手本のような感じがする。

 あと、この曲のそんな間奏を聴いてると、なぜかWilcoの『Heavy Metal Drummer』を思い出してしまう。多分コード進行が似てるんだと思う。リズムがちょっとハネてるのも共通してるし。

 

4. Sometimes Always

(1994年 シングル及びアルバム『Stoned And Dethroned』)

www.youtube.com このブログの前回の記事でも散々語り倒したこの曲。

ystmokzk.hatenablog.jp彼ら的なシンプルさの極みにして、音的にも曲後世的にも相当にスカスカなのに、しかし一切の不足を感じさせない、何気に本当にすごい曲だと思う。この曲の入った5th『Stoned and Dethroned』は久々に生ドラムが復活し、アメリカンでカントリー気味な作風が特徴だけど、でもこの曲のアコギばっかりではない、むしろ鈴のように鳴るクリーンなエレキギターの音はとても印象的で憧れてしまう。デュエット形式を実に効果的に活用した潔すぎる曲構成はもっと憧れる。そしてこの曲も、そんなうっとりするデュエットを差し置いて間奏がひときわ盛り上がる箇所と設定されているところが面白い。

 

5. Don't Come Down

(1994年 シングル『Almost Gold』)

 上に書いたとおり、彼らが本格的にアメリカンでカントリーなサウンドに挑戦するのはアルバム『Stoned and Dethroned』でだけども、しかしこの曲はそれに先駆けて、そういった方向性の音楽に挑戦している。リズムはまだ多分打ち込みで、しかしながら実に穏やかでかつアコギの音がとてもパリッとした、中々心地よいカントリーソングに仕上がっている。最も盛り上がる箇所として設定された終盤の音の大きなギターをワンノートでやり切るその雑さはいかにもJAMC的だけど。

 というか打ち込みのリズム+カントリーという組み合わせは彼らの中でも相当珍しいけど、世間的にも結構珍しいものかも。この曲を聴くと、合いそうにないように思えるこの二つの要素は意外と相性がいいみたい。あと、こういうゆったりしたカントリーを彼らが歌うと、急にPrimal Screamに似た感じに聴こえたりもして、両方ともスコットランド出身のバンドで、そういえば同じ1994年にカントリーロックなアルバムをリリースした仲でもあって、この辺ちょっと面白いと思う。

 

6. Far Gone and Out

(1992年 アルバム『Honey's Dead』及びシングル)

www.youtube.com 充実作『Honey's Dead』からカットされたシングル曲のひとつ。軽快に疾走していくタイプの楽曲。重たいイントロのスネア連打からしたら思いの外軽快なビートになる。やはりThe Stone Rosesの影響を感じさせるリズムの軽快なハネ方。地味に2番でループのスネアのタイミングが中々に無茶な連打され方してて笑える。

 そんな軽快な歌のパートから間奏で一気にディストーションギターでロックな重たさに変化するのがこの曲の盛り上がり方。やはり間奏にピークを持ってくる。ギターポップ的にさえ感じれる雰囲気から一気にディストーションする流れは、この曲のリリース年が1992年なことを思わせる。USオルタナティブロックの影響を、UKギターポップに直結させてしまう、大胆というか雑というか、って感じのセンスがいかにもJAMC。それでちゃんとキャッチーなんだから文句も言えない。前半は穏やかにメロディ歌ってたのに終盤で急にロックンロール的なヒャッハー感出してくるところも実に彼ら的なヘナチョコなワイルドさがあって清々しい。

 

7. Subway

(1989年 シングル『Blues from a Gun』)

 多分この今回のリストでもとりわけマイナーそうな曲のひとつ。彼らの3rdアルバム『Automatic』は、2ndの暗くてニュートラルな感じからよりパワフルでマッシヴな方向に進んで、打ち込みのチキチキしたリズムの上でハードで太いギターでJAMCポップスを演奏する、彼ら流のスタジアムロックみたいな感じがする作風。個人的には苦手な方のアルバム。『Head On』とかはそれでも格好いいけども*2

 それで、この曲はそんな時期のシングルのカップリング曲で、アルバムの方向性と同じ性質をしてる楽曲。ザクザクしたいかにもなディストーションギターで刻み、打ち込みドラムの無骨なスネアのフィルインが彩る、いかにもな楽曲だけど、この曲はなんというか、ともかくサビのメロディがいいなーって思う。そのあとに来るギターソロの実にテクニックを切り捨て切った具合がなんともインディロックしてる。

 しかし、あろうことかこの曲、そんな中々に素敵なサビのメロディを繰り返さずに、終盤では突然ボーカルが呻き声を上げ始める。そしてそんな謎なテンションのまま楽曲はあっけなく2分ちょっとで終わる。何がしたかったんだよ…!まあ、当時同じ表題曲で複数種類出してたシングルの、そのうちひとつにしか入っていないレア曲なので、悪ふざけをしちゃったんだろう。そんな曲にこのサビのメロディは惜しいよ…ってめっちゃ思ったりする。でも、本当はロックンロールって、こんくらい適当でバカなことやっても構わないくらい、ゴミで、ジャンクで、自由に取り扱っていいものだよな…なんてことも、この曲を聴いてると考えてしまう。本人たち絶対適当にやってるだけなのに。

 

8. Fizzy

(1998年 アルバム『Munki』)

 今回の個人的なJAMC祭りで一番良かったのは、彼らの現役時代最後のアルバムである『Munki』の各楽曲の良さをようやくはっきりと「発見」できたこと。散々「グダグダ」で世間的にも個人的にも片付けられてきたアルバムだったけど、ようやく良さが身に沁みて分かってきた。

 アルバム『Munki』がグダグダのアルバムと呼ばれるのは製作過程も影響してる。JAMCの中心である二人の兄弟、兄のWilliam Reidと弟のJim Reidの仲が破綻した状態で製作され、クレジットもそれぞれ10曲と7曲とで完全に分かれており、兄弟の競作は無くなった。中心人物二人の仲違いは、作品の方向性を決めることの放棄につながり、二人がそれぞれ別個に作った楽曲群が混在した結果統一感に「やや」欠けることが、今作の評価を下げることとなった。曲数もまあ多すぎるし。

 だけど今回聴き返して気づいたのは、そこまで統一感が全然ないわけではないということ。確かに手法的には、バンドものあり打ち込みありで混在はしてるけど、でも今作の製作時期もあってか、全体的にUSオルタナ的なざらついて生々しい音で一貫してる感じがあり、これが意外と1枚のアルバムとしての雰囲気を、所々に挿入されるラジオボイス以上に形成してる。

 比較的いつものJAMC的なポップさを有してるこの曲も、サウンドの質感はこれまでとかなり異なる、生々しくてボロボロな感じのあるギターロック、つまりオルタナティブロック以降的なパワーポップ性を獲得している。ギターを掻きむしって進行している感じが強く出てるというか。あと、要所要所で入るブレイクも、これまでの彼らにはなかったタイミングでの挿入で、間奏のギターフレーズなんかも含めて、全体的にどこかTeenage Fanclub的な、特に1995年のアルバム『Grand Prix』の楽曲群に似た質感があって、その意外な横の繋がり的なのが興味深く感じる。

 

9. Degenerate

(1998年 アルバム『Munki』)

 引き続き『Munki』からの曲。このアルバムでの兄弟の対立は結果的に二人の作曲の方向性の違いとなって現れたりもしていて、弟Jimがどちらかといえば楽天的で、兄のWilliamの方がよりネガティブでダークな雰囲気がある。そして今回このリストでは上の曲やこの曲を含めて4曲をこのアルバムから選曲してるけど、4曲ともWilliamの曲になった。彼のネガティブでダークな指向が、しかしここでは確実に、これまでのJAMCになかった方向性を切り開こうとしていたことに、今回特に気づかされた。

 この曲は彼らが時々攻撃的なロックンロールをするときに用いるマイナー調の楽曲群、具体的には『Sidewalking』とか『Blues from a Gun』とか『Reverence』とか、そういった楽曲群に連なるもののようにも思えるけど、でもそれらよりもよりギターサウンドオルタナティブロック的に爛れた音をしていて、またビート的にも直線的でシリアスで緊張した具合が出ていて、間奏で吹き上がるギターソロ的な音も変にトーンが怪しい音程に弄られていて、総じて「漆黒のロックンロール」を演奏しようとしてる感じが、サウンドの節々からも、あと曲のメロディからも感じられる。

 それが彼ら独自のものかと言われれば、流石にUSオルタナがかなり展開した1998年のリリースであることから、どこまで独自性があるかは分からないけど、でもそれでも、この曲や他のいくつかの楽曲をよく聴くと、彼らがここで「俺たちもオルタナティブロックバンドだ」と奮起して、何か格好いいギターサウンドを鳴らそうと奮闘していたことが感じられる。

 今回気づいたことは、こういったこのアルバムでの彼らの奮闘は、後世に意外と影響を与えているように思えたこと。具体的には、Black Rebel Motorcycle Culbなんかは、このJAMCの最終作のギターサウンドを出発点に始まったんじゃ無いかと思えるし、またNine Black Alpsグランジだけでは説明がつかないサウンドやメロディにも、今作からの影響を感じる*3。ザラザラとして荒涼として格好いいギターサウンド、その典型を実は彼らはあのアルバムで掴みかけていたのかもしれない…そう思うと、あのグダグダだと思ってたし実際そういう部分も多分にあるあの作品が、急に愛らしく感じられてくる。

 

10. Half Way to Crazy

(1989年 アルバム『Automatic』)

 彼らの3rdアルバム『Automatic』は彼らでも随一のスタジアム・ロック感溢れるアルバムで、故に個人的に苦手で、日本でもそういう評価が割と多い気がする。欧米だとまた違うんだろうか。ただ、打ち込みのビートの上で太くてシンプルなギターをブンブン振り回してる構図は、スタジアムロックっぽい音楽ではなかなか見ない光景な気もして不思議になる。要は、『Darklands』で確立した打ち込みビートの上のスリーコードロックの手法をよりアクティブでワルでワイルドな方向に活用した作品。

 そんな作品の中で、割と終盤に置かれたこの曲については、割と穏やかで落ち着いた曲調であることもあり、JAMCの基本的なポップさが自然に表出した感じのある楽曲に仕上がってる。特に、執拗に同じコード進行(Ⅰ→Ⅳ→Ⅴ)を繰り返して、隙間の多い甘いメロディを載せるあたりは実に彼ら流。ミドルエイトのみそれまでとは別のやや感傷的なコード進行とメロディが登場し、これの存在が他の箇所のメロディを活かしてると思う。このアルバム的なギターのどっしりした使い方もこの曲の場合はしとやかでスペイシーなものに聴こえる。ひたすらスネアの連打のタイミングだけでどうにかしようとするドラムのフィルインも、かえって彼ら独特のバタバタ感が出てる。

 

11. Teenage Lust

(1992年 アルバム『Honey's Dead』)

www.youtube.com 『Honey's Dead』の絶好調さの片側であるどっしりとした攻撃性を象徴する楽曲のひとつ。全然いつものスリーコード馬鹿じゃない、コード進行がじわじわとダイアトニックコードを外れて歪な響きを放っていくダークさが、サウンドよりも先にまず楽曲自体として仕掛けられている。シングルのカップリングとしてわざわざこれのアコースティックバージョンが録音し直されたのは、このコード感をじっくり聴かせたかったのだろうか。

 彼らの楽曲でも珍しく太いベースの音がかなり前面に出ており、この曲的な重々しさはいびつなコード進行のルートを重々しくなぞるこの音がまず支えている。こういう曲でもひたすらスネアだけでフィルインを構成するドラムも重いっちゃあ重い。その上で、様々なノイジーな仕掛けが飛び交う。歪んだギターも様々なエフェクトがかけられたものが多数飛び交い、しまいにはスライドギター的なものも飛んでくる。更にはへし折れたトランペットみたいな音だったり、金属を引きずるようなノイズだったりと、様々なサウンドがともかく、楽曲の不穏な雰囲気を煽り立てるために飛び交う。ボーカルも奇妙なファルセットを被せ、突き抜けるようなセクションも無く延々ととぐろを巻くかのような具合で形作られるサウンドは、彼らが生み出した中でも最も不安で不穏な音像だと思う。普段のバカでシンプルでロックンロールな姿から最も離れた、それは彼らの達成のひとつだったのかもしれない。もしかしたらそれは、ノイズで最初の成功を得た者の意地だったのかもしれない。

 

12. Some Candy Talking

(1986年 EP)

www.youtube.com 「ノイズで溢れかえった新時代のパンク」として持て囃された『Phychocandy』と、その狂騒の反動として自身のソングライティングに光を充てた『Darklands』との、それらのちょうど中間にこの曲を表題曲とするEPがリリースされた。後にCDで『Phychocandy』がリリースされた際にはアルバム本編の中途半端な位置にこの曲が収録されて(こういうのは90年代洋楽CDあるあるかも)、アルバム本来の曲順から変わってしまっていた。近年のリマスター等ではこの問題は解消されてる模様。

 楽曲としては、まさに上記2枚のアルバムの中間的な要素を持っている。『Phychocandy』のノイズ成分とポップさの上澄みを丁寧に掬い上げたようでもあり、また『Darklands』でノイズがなくなって反比例的にメロディが充実していく路線の途上のようでもあり。曲名に現れたような自身のメロディの“甘み”をよく自覚した、彼らの楽曲でもとりわけ甘美な雰囲気を持つ1曲

 特にその盛り上げ方が、このEPを最後に脱退してしまうBobbie Gillespieによる、The Velvet Undergroundの『I'm Waiting for the Man』などのような圧倒的に原始的なスネアとフロアタムの連打+荒くペラく歪んだギターによる、初期の彼ら流のウォール・オブ・サウンドの完成形と言いたくなるようなサウンドなのが美しく、少し感動的。このセクションに付けられたメロディが曲展開に沿ってどんどん変化していくのも含めて、この時点の彼らの楽曲としては異常なほどに手がかけられ、丁寧に制作されたことが窺われる。「典型的ジザメリ流ノイズポップ」の到達地点だと思う。

 

13. Rollercoaster

(1990年 EP 後にアルバム『Honey's Dead』)

www.youtube.com 1989年のアルバム『Automatic』リリースの後、1990年にリリースされたEPの表題曲。次のアルバムとなる『Honey's Dead』まで結構期間が空き、その間のサウンドの変遷*4もあったため『Honey's Dead』収録時には再録されているけども、しかし基本的な要素は1990年のEPバージョンで完成している。そしてその段階で既に彼らが「Honey's Deadのモード」に突入していたらしいことが、この曲から伺える。『Automatic』の頃と大きく異なる軽やかで弾んだビート感や、The Byrds的とも言えるギターポップ的なサウンドの挿入に、The Stone Roses以降のUKロックな感じが確実に反映されている。一方で、『Automatic』で手に入れた太いギターサウンドをより粗暴にサイケに振り回す術も彼らは本能的に理解していて、この曲がその最初の融合だったんだと思う。

 その結果生まれたこの曲の、疾走感があるのに実に気だるげな感じは、まさに彼ら的なクールさを象徴するようなヘラヘラっぷり。ヴァースもコーラスもメロディの頭が実にだらしない長音で始まるのが疾走感とアンバランスで、その辺りでこの曲のタイトルどおり「ローラーコースター」な感じがするのは上手。コーラス部ではコード進行もJAMC的スリーコードどころかダイアトニックコードからも逸脱し、ディストーションギターを伴ってだらしなく降下していき、より「ローラーコースター」な感じ。

 彼らの自信作だったのか、アルバム『Honey's Dead』リリース後の伝説的なワールドツアー*5の名前にもこの曲名が使用された。

 

14. Darklands

(1987年 シングル及びアルバム『Darklands』)

www.youtube.com 『Phychocandy』の狂騒と混乱の季節を『Some Candy Talking』のEPとドラマーだったBobbie Gillespieの脱退で終わらせた彼らが次に向かったのが、ノイズをほぼ封印し、代わりに当時の彼らが持つことができたスリーコード式の作曲法と「開き直り的な」打ち込みリズムの導入とで、純粋にどれだけ自己を素直に表現した作品を作れるかという試みだった。彼らの2枚目のアルバム『Darklands』のそういったテーマを最も端的に表しているのが、この表題曲。シングルカットもされている。

 淡々として朴訥としたイントロのメインギターフレーズから、ドラムが入ってきて以降に広がる、不思議とスカスカしてフワフワした音の空間が不思議に心地よい。掻きむしらないギターのコードストロークとリバーブの掛かった打ち込みの無機質なリズムとが絶妙に作用してこの音の隙間を生んでいる。過去の偉大なるロックバラードであるところのDavid BowieHeroes』のメロディを借用しながらも進行していくメロディの甘美さは『Some Candy Talking』をより感傷的にしたような、ギリギリの気高さとポップさが宿っていて素晴らしい。「トゥトゥ、トゥトゥトゥー」と伸びていくコーラス部のメロディはとりわけ彼らの「Ⅰ→Ⅳ繰り返し」が美しく感じられる瞬間のひとつ。「そして思うに、天国は地獄に近すぎる」と歌う歌詞もなんとも苦い。

 今回の企画でちゃんと調べて初めて、この曲で歌ってるのが普段メインボーカルの弟Jimではなくギタリストで兄のWilliamであることを知った。『Munki』での彼の曲が暗いものに偏ってるところを思うと、この曲はそんな後の姿のスタート地点になる楽曲でもあったのかもしれない。

 

15. Never Understand

(1985年 シングル及びアルバム『Phychocandy』)

www.youtube.com 狂乱の『Phychocandy』時代のその狂騒的な疾走感を『Upside Down』と共に象徴するのがこの彼らの第2のシングル曲となったこの曲。非常にシンプルなリズムとメロディ構成は実にインディっぽい心地よい安っぽさと甘酸っぱさがあり、特にメロディの密やかな甘さは『Upside Down』からこの曲で一気に伸びた感じがある。そこに並走する激しくも無意味で、だからこそ幾らでもイルに興奮できるようなノイズが溢れかえる。

 冒頭、ノイズの後にベースが現れ、そこからスネアが鳴って楽曲が進行し始めてからの疾走感は、なんだかんだでこの時期の彼らならではの格好良さと心地よさに満ちている。不思議と、完全にこの空気を模倣することは難しそうに感じる。特にドラムとボーカルに濃いリバーブが掛けられているのが、この雰囲気作りに大いに作用している。クソみたいにシンプルなパターンしか叩かないドラムはBobbie Gillespieによる。

 ノイズを暴力的に響かせて、声とドラムにリバーブかけて、曲構成は禁欲的とさえ言えるほどシンプルででもメロディは甘くて、っていう、後のインディロックで無限に模倣されていく要素が詰まりに詰まった楽曲だけど、でもこの「原曲」をいつ聴いても、絞りカスのような印象は全く抱かずむしろ「やっぱこの曲はこの曲だなあ」という新鮮さを抱かせる。「歴史的名盤」という定評に著しく釣り合わないテキトーな制作がたくさん詰まった『Phychocandy』における、奇跡的な調和が現れた楽曲のうちの、最良のものの次に素晴らしいのはこの曲だろう。

 

16. Birthday

(1998年 アルバム『Munki』)

 『Munki』収録曲は意外と「彼らとしては」実験的だったんだろうなあと感じれるものが多く、特に兄Williamの楽曲は先述のとおりダークなものも多く、何気に制作自体はとても意欲的なところがあったんだなあと思うところ。この曲も、楽曲自体はまだ割とそれまでのJAMCスタイルに則ったベタッとしたスリーコード感のあるまったりとメロディアスなものだけど、ここではリズムの抜き方が実に挑戦的で、太いベースの存在感とシェイカーの上にリバーブかかりまくりのボーカルで進行していく様が、初期の彼らの楽曲をハッキングしたような仕上がりで面白い。コーラス部と思われる箇所では久しぶりに『Phychocandy』の時期っぽくひしゃげた音のドラムも聴けるし、途中から挿入されるギターのファズでブチブチにされた様は90年代USオルタナの旨みを実に適当かつ的確に引っ張ってきてる。

 ところでこの曲のメロディ、後のJAMCの典型的なフォローワー・The Ravonettesっぽさをなぜか妙に強く感じる。JAMCの楽曲中でも特に単調なメロディの繰り返しが多いことが、同様の性質を持つThe Ravonettesっぽく感じれるからなのか。やはりアルバム『Munki』は密かにフォローワーへの影響がかなり大きい作品…。

 

17. Save Me

(1994年 アルバム『Stoned And Dethroned』)

 彼らがアルバム『Stoned And Dethroned』で行なった「テキトーにアメリカっぽい」サウンドはその適当さの割に実に的確なものだと思っていて、その象徴が、アルバム中でもとりわけ薄味なサウンドに思えるこの曲。あのアルバムは概ね「割とテンポの速い軽快な曲」と「テンポの遅いゆったりした曲」が1:3くらいの比率で収録されていて、おそらくその「テンポの遅いゆったりした曲」がどれも代わり映えしない(ように聞こえる人が多い)ことがこのアルバムの評価を下げてるんだと思う。しかしこの曲はそんな曲群の中でもとりわけ、少ない音であの「少しザラザラしながらも透き通ったアメリカの荒野の乾いた空気や空」の感じがとても魅力的に表現されてるように感じる。

 冒頭のアルペジオは、シンプルなのに繊細さと心地よい静寂さ・奥深さがあって趣深い。The Velvet Undergroundの『Jesus』で鳴らされるアルペジオに宿ってるものと少し似たような性質があるような気がする。言葉数少なめにしっとりと落ち着き払って紡がれる、彼ら的なタフな可憐さが宿ったメロディは、彼らの素質がきっちりとこの荒野のラフさに合致していることを、全く過不足なく表現しきっている。ペンタトニック感あるギターフレーズはその「そんなに手馴れていない」感じがかえってリアルなカントリーさを感じさせる。彼らがいかに「現代アメリカ的なテクニカルでスポーティーカントリーミュージック」から遠く離れた地点で「叙情的なカントリーの雰囲気」を外様の下手クソなりに実に巧妙に掬い上げてたかが、この曲と後このあと取り上げるもう1曲に特によく現れてる。

 

18. Between Planets

(1989年 アルバム『Automatic』)

 『Automatic』で最もキャッチーな曲は?と聞くと多くの人は『Head On』を挙げるだろう。自分も概ねそう思う。じゃあその次にキャッチーなのは?と考えると、この曲かなあと思う。いや、もしかしたらこっちの方が『Head On』よりおバカでキャッチーなんじゃないか…とさえ時々考えてしまう。『Automatic』路線の楽曲ではこれが最高傑作なのでは、とさえ思う。なんでこの曲をシングルに切らなかったのかよく分からない。あまりに「Head On パート2」すぎると思ったのか。

 もう本当に、「JAMC全曲でも最もおバカで突き抜けたロックンロール」だと思う。イントロの強引なスネアだけのフィルインから入ってくるギターの音だけで、ああ、アホっぽい、ライブで絶対楽しそうなやつだ、って思う。抑えたヴァースから次第にブリッジで盛り上がり、もう一度ヴァースに戻って、次こそはコーラス部のハデでベタなヒロイックさに行き当たるまでの流れは実に流麗で、しかもそこから更にもうひとつメロディ展開をしていく、しかも強烈に縦ノリなリズムで、というのが実にテンションの盛り上がり具合を感じさせる。間奏でも時折この頭打ちなリズムが登場して、そこではグイグイとテンションが吊り上げられる。タイトル的にも、この彼ら流のワイルドなサウンドはやっぱ宇宙的なもの目指してたんだ…と妙に合点が行くところがまたアホっぽくて最高。

 

19. Something I Can't Have

(1993年 EP『Sound of Speed』)

www.youtube.com アルバム『Honey's Dead』での好調を引きずって同じサウンドでもう1枚EP作りました感が全開で潔さすら感じさせる『Sound of Speed』では、表題曲は存在せず、カバー含む4曲が実に雑にそっけなく収録されていて、その様が逆に格好良さを感じさせる。でも、それでも実質表題曲だと思ってた1曲目の『Snakedriver』を差し置いてこの曲でPV制作されてたのは今回この企画によって色々調べるまで知らなかった…。

 ひとつ上の曲と並んでか、むしろ下手したらこっちの方がテンション高いんじゃないかとさえ思う、個人的には最も勢いを感じさせるJAMCの楽曲がこれ。ともかく冒頭から、エネルギッシュさと全能感に満ちた、軽やかで少し緩めの疾走感が実に心地よい。彼らが作った数々のギターロックの中でもとりわけ心地よい爽快感を覚える。多くの『Honey's Dead』収録曲に当てはまる「グランジ的に楽曲の雰囲気が切り替わる瞬間」はこの曲には無く、最初の勢いそのままに最後まで緩やかに滑空するかのように疾走し続けて行くところが、本当に最高だと思う。ずっとグイグイ来る。

 ギターもメロディアスなとこはしっかりフレーズ弾き、しかし雑なところはひたすらワンコードで押し切る感じが実に思い切りの良さがあって、ドライブ感に全振りという雰囲気が格好いい。メロディだって別にこれまでの彼らに無かったような要素はまるでないのに、ずっと爽快さに満ちている。最初の展開の解決をした後の「トゥットゥルトゥトゥ…」のコーラスは流石のキャッチーさだし、その後突如声を張り上げて歌うのはテンションが実に高い。

 勢いのあるギターロックに必要なものしか、この曲には録音されていないんじゃないかとさえ思う。終盤のただやかましく歪ませたギターが掻き鳴らされてるだけのサウンドに、これ以上ないような自由さと爽快感をひたすら感じて、終わってほしくないなって思ってしまう。

 

20. Down on Me

(1987年 アルバム『Darklands』)

 この曲の立ち位置は面白い。落ち着いた楽曲が数多く収録された『Darklands』における唯一「疾走曲」と言えそうな速度で突き抜けていくこの曲は、あのアルバム的な割とスカスカなギターサウンドとリバーブ深めな打ち込みリズムのままで疾走するので、不思議と彼らの楽曲でもこの曲にしか存在しないような、くぐもっていながら透き通っているかのような音響の感じがある。それははっきり言ってとてもちゃっちいサウンドなのだけど、でもそのこじんまりとしておもちゃを適当にガチャガチャして作ったかのようなインディー感溢れるサウンドが、なんだか妙に好きだ。

 間奏の前で歌がいい具合に適当で軽い感じになる、そしてそれが妙にポップに作用する、そんな彼らのソングライティングセンスの特異性も、実にこの曲に独特の疾走の感じを与えてる。溜息のようなメロディで疾走する彼らのそのスタンスのクールさ、いいなあーって思うし憧れる。

 

21. Black

(1998年 アルバム『Munki』)

www.youtube.com 今回の企画をしようと思って「再発見」できて最も嬉しかった楽曲。なのでPV無いけど動画を貼ります。本当に『Munki』は実にオルタナティブロック的に面白いアルバムだなあ。

 彼らが最もNeil Youngに近づいた楽曲。もうこの、哀愁を粗く引きずり倒していくようなこの楽曲の持つ情緒は、まさにそういうもの。Lou Reed出自の彼らが、そういうクールさから遠ざかったところで泥臭く悪戦苦闘してる感じが『Munki』には満ちてるけれども、その中でもこの曲が最も「傷だらけ」でかつ「Walk On(歩き続ける)」ような情緒に溢れてる。90年台式に力強くザラザラに歪んだギターでストップ&ゴーしながらのっそりと進行していく。溜めたセクションと解放された箇所の往復。ささやかなメロディ展開で完結させる曲構造。典型的なJAMC的なクールさから遠く離れた、実にタフな格好良さがここにはある。そのコード感には彼ら的なくっきりしたスリーコード感は微塵もなく、メジャーセブンス的な哀愁が強く射し込む。Neil Youngもメジャーセブンスコードの巧みな使い手だ。

 特に終盤に聴かれるぶちぶちしたファズギターの音も、実にオルタナ的。彼ら的にはUSオルタナサウンドは借り物ではあるけれども、でもこの曲での終盤の、特にこのアルバム特有のラジオボイスの挿入ともよく合った「情報の混乱、電波障害と空虚感」みたいな雰囲気は、このバンドの「勇気ある遭難」の、荒涼としてギリギリで逞しさの残った情緒にそぐう。

 そして歌詞。シンプルな語呂合わせのようで結構にダークさ・虚無さを滲ませるこの歌に、バンドの終焉と同時に、何か前進できないか、というジリジリした感覚を見る。

 

ぼくのムードは漆黒 両目が漆黒

人生は漆黒 愛は漆黒

いいことよ戻ってこい いいことよキスを返せ

いいことを戻してよ いいことよ我に帰れ

 

ここは

あるべきものなんて何もない

あるべきものなんて何もない

ぼくの側には誰もいない ぼくのものなど何も無い

 

 JAMCが最後に残すことができた、とても必死で懸命で壮絶で、美しくも素晴らしい悪あがき。

 

22. Shake

(1987年 EP『Happy When It Rains』

 彼らは定期的にシングル等のB面曲を集めたコンピレーションアルバムをリリースしていた。1st〜2ndまでの時期は『Barbed Wire Kiss』、3rd〜4th+EPが『The Sound of Speed』、何故かEP『Sound of Speed』をもう一度〜シングル『I Hate Rock'n' Roll』までが『Hate Rock'n' Roll』に収録された。

 しかし、この曲は収録されなかった。時期的には『Barbed Wire Kiss』に収録されてもおかしくないけれど、でもされるはずもない。この曲はもはや歌というよりも、当時の彼らの呻きそのものだ。僅か2分弱のトラックでは、この時期には珍しくアコギで、実にトラディッショナルな古いブギー調のフレーズを弾きながら、低い声で何やら呟いてる。「歌う」ではなく「呟く」という感じ。ボーカルには深いリバーブがかけられており、これは時期的なものを超えて、あえてストレンジになるようにそうしてる感じがする。まるで、闇に向かって呪詛を適当に放り込んでいるかのよう。

 そして、1分も経たないうちに曲調はスウィングを失い、そして声は2筋の呻きに変わっていく。いつの間にか醜く歪みきったギターノイズも挿入され、終盤はアコギの音も消え、闇の中をギターノイズと声がのたうち回り、やがて闇に消える。

 これは、何なんだろう。悪ふざけ?彼らがキャリア全体でも他にやってないブギースタイルをしてたりもあって、悪ふざけである可能性は濃厚だ。けれども、悪ふざけにしては、この曲は闇を抱えすぎてるんじゃあないか。この曲がリリースされたのは例の暗い『Darklands』リリースの周辺時期。そのことを思うと、彼らがこの悪ふざけの中に潜ませた意味を、過剰に読み取ろうとしてしまうかもしれない。まあ、クソ曲なんだけども、でもクソ曲なのに、この曲のどこにも行けないようなスカムさは、妙にこっちを不安にさせてくる。

 

23. God Help Me

(1994年 アルバム『Stoned And Dethroned』)

 アコースティックサイドのJAMCで最良の楽曲はこれだと思う。上記の『Save Me』と併せて、あの慈しみを求め地味に這いずったアルバム『Stoned And Dethroned』でも特に荒涼とした神聖さを感じさせる楽曲。

 定期的に同じ音で鳴らされるビブラフォンのような音が特に印象的で、The Velvet Undergroundの『Ⅲ』がカントリーミュージックと融合したらこんな感じになるんだろうかと、その頼りない祈りに満ちた、救いのなさそうなクリアな光景に、でもどうしてスコットランド人の彼らがこんな土地の祈りみたいな感じの強い音楽を演奏してるんだろう、と不思議になる。タイトルからしてアレだから、この時点で彼ら実はかなり追い込まれてたのか。なんちゃってでチャラい宗教観でこんな静謐で可憐な曲を差し出されてもそれはそれで困るし。

 また、こんなあのアルバムでも最も神聖そうな楽曲を、どうして自分たちで歌わずにThe PoguesのShane MacGowanに歌わせることにしたのかも、不思議な感じがする。彼のよりボロボロさがあるボーカルは実に曲にマッチしてるけれども。

 

24. Sundown

(1992年 アルバム『Honey's Dead』)

 上の曲のようにJAMCが追い込まれたのはやっぱり『Honey's Dead』の音楽性以上に彼らの伸びしろを見出すのが苦しかったんだろうか、と思ってしまうくらいには、やはりあのアルバムは色々と完成度が高く、集大成の感じがあった。アグレッシブ・不穏サイドでのその到達点が『Teenage Lust』だったとすれば、1stからの順当な積み重ねの末の結晶と言えそうなのがこの『Sundown』だ。曲順的にもアルバムラストの直前という、明らかな山場として用意されている。

 ポップなコードに彩られた彼らの伸び伸びとして同時に少しくぐもって陰った感じのするポップなメロディが、ゆったりしたリズムに乗って、時に軽やかなコードカッティングの伴奏に乗って、時に重力的なディストーションギターを纏って、穏やかに流れていく。そして3分前後に、「あの」フィードバックギターノイズが少し顔を出す。「Shine on」とつぶやかれ続ける裏でそのノイズは急に吹き上がり、そして「あの頃」よりもはるかに雄弁に、抑圧と解放を同時に、爽やかでかつ鮮烈に表現していく。それはやっぱり「あれ」で始まったバンドの歴史としてはどうしたって「大団円」的に響いてしまう。

 「ノイズ」で始まった彼らの歴史に、彼ら自身の自然に可能な範囲できっちりとケリをつけた曲。その美しさは、「じゃあそんな美しさの後に、どんなキャリアを歩めるわけ?」という問題に直結しそうなタイプの輝き方だとは思う。けれども、そんな歴史的な事柄に関係なく、この穏やかなままに吹き上がる楽曲は、彼らのひとつのハッピーエンディングなんだよなあと思える。

 

25. Just Like Honey

(1985年 シングル及びアルバム『Phychocandy』)

www.youtube.com そしてこの25曲1時間25分のプレイリストの最後の最後に、この奇跡の楽曲を持ってくる。やっぱり、美しいものが好きだ。『Phychocandy』という適当さと甘ったるさとノイズが混沌と垂れ流されるクソアルバムにおいて、その冒頭にこれがあるだけで、何者にも作り得ない“名盤”に変えてしまう。あのアルバム最大の奇跡にしてJAMC最大の奇跡とさえ言ってしまえそうな*6、どうしようもなくチャチくて、なのに宇宙的に美しい、永遠の名曲。

 The Ronettesの『Be My Baby』のオマージュと言うにはあまりに雑で、しかしその無茶苦茶なエフェクトのかかったスネアの音が衝撃的なドラムのイントロに、あまりにペラくてチャチくて雑に歪んだギターが被さって、Jim Reidのボソボソした声がリバーブ多めで甘く乗ると、そこで不思議な空間が出来上がってしまう。いつまでそのドラムパターン続けるの?ってくらい延々進んでいくパターンが終わって切り替わる瞬間に、歌は途切れて、絹のような優しいギターフレーズが入ってきて、うっとりするような宇宙的な空間が広がる。

 そして、バンド演奏の大半が止んでからの、低くタイトルコールが続いていくところからの覚醒感は、もう、本当に奇跡的な広がり方をしてしまう。彼らは一体、どれほどの少ない労力で、それこそかつてPhill Spectorが敏腕スタジオミュージシャン達を酷使しながら作り上げた甘美なポップスよりも「遥かに」甘美に引きこもった、引きこもったままに宇宙の全てを見ていくかのような、永遠の奥行きを持ったポップソングを作ってしまったんだろう。こんな気が遠くなるほど美しい宇宙的な光景を、誰もが憧れて、かのCorneliusさえ憧れて同名異曲を作ったりもして、でも永遠に、この曲のような閉じこもったままに永遠に開けていくような、ゼロのまま無限に到達するような楽曲を、みんな作れないでいる*7。この曲を作った当の本人達でさえ、同じようなものは作れなかったし、この雰囲気の完全な再現もできないだろう。下手くそどもが集まったレコーディングスタジオに神様が降りてきてミキシングしたんじゃないかとさえ思える、そんな奇跡的な録音物。

 みんな少しでもこの曲に近づきたくて、この曲みたいな恍惚感を得たくて、作った曲に厚いリバーブを掛けようとする。JAMCの楽曲に『Bo Diddley is Jesus』という曲があるけれど、この『Just Like Honey』についてだけは「JAMC is Jesus」と言えてしまうだろう。こういう音の感じを言葉にできるものでもないし、言葉にしたところで何の価値があるんだよ…と、深く困惑と恍惚の溜息が出てしまう、名曲。

 

 

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 以上25曲でした。

 やっぱジザメリは最高。オススメです。

*1:似たような発想の歌詞にThe Beatlesの『Rain』があり、もしかしたら参考にしたのかもしれないけども。

*2:PVはダサいと思う。

*3:例として、JAMCのこの曲のコーラス部のメロディはNBAの代表曲のひとつ『Shot Down』のブリッジ部のメロディと似てる。メロディ自体も多少似ていながら、その節回しの配置や機能の仕方が特に似たものを感じさせる。

*4:特にドラムサウンドが80年代的なエコーマシマシな仕様からより90年代的なドライなものに変わったのは印象的。シングルバージョンはシングル集等で聴けるので聞き比べると少し楽しい。

*5:Dinosaur Jr.にMy Bloody ValentineBlurと彼らJAMCという、後世から見るとあまりに豪華すぎるメンツでのワールドツアーだった。

*6:この見方だと、『Some Candy Talking』以降は彼ら自身の実力で掴み取ったキャリアだと思えて、それはそれでたくましい話だと思う。でもそんなたくましいキャリアが霞みかねないくらいには、この曲の美しさは奇跡的だとも思う。

*7:多分、この曲みたいな雰囲気に近づけようと努力すればするほど、努力という概念からは無縁なところから生まれた感じのするこの曲から「論理的に」遠ざかってしまう、というのが、割と本当に理由のひとつなんだと思う。