最近ちらほら見かける「東京インディー」という括り。っていうか全国的に話題になるようなバンドの殆どが東京を拠点にしているんだからどのバンドも東京インディーじゃねーか、とも思うし、検索してもパッとどういうバンドがくくられているのか分かりにくいし、そもそもどのバンドがこれに入ってどのバンドからは入らないか、同じ括りなのに音楽性全然統一感なくないか、等々、そもそもそのくくられた本人たちはそうやってくくられるのを望んでないし嫌がってる、等々…。
その辺色々ありますが、最近個人的にこの辺りのバンドの音源を買うことが多く、また最近やっとそのライブを少しでも観ることが出来てきたので(完全にミツメのアルバムリリースツアーのおかげ)、いくつか書いてみたいなあと思いました。
そのひとつめが、ミツメの流通音源としては初のアルバム『mitsume』。
とりあえず、この辺なら間違いなく東京インディーど真ん中でしょう。
mitsume (2011/12/12) ミツメ 商品詳細を見る |
1. クラゲ
意気揚々とリリースされた訳でもない、という妙な経緯と屈折を持つこの2011年のアルバム(ミニアルバム?ここ数年のアルバムがフルサイズかどうかに全然執着しない傾向はなんなんだろう)、近年のライブでは殆どの曲が演奏されないという、いわばRadioheadの『Pablo Honey』みたいな扱いをバンドからされているアルバムである(勿論このインタビューの受け売り)。そんな中で、この曲だけは未だに演奏されているという事実がある。これはどういうことか。以下邪推を含みまくります。
初音源での先頭曲ということで、バンドのスタンス・サウンドの雰囲気などをバツンと表出させたトラックが望ましいところだが、果たしてこの曲も、そういった機能を十分に果たしている。一曲聴いただけで、なんとなく「ああ、ミツメってこんな感じのバンドなんだあ」って思わせる雰囲気、それが十分に備わっている。
落ち着いたBPMのリズムに、細くて絶妙にキラッとしたクリーンギター二本の爽やかながらややネチネチした絡み(特にリード)、そしてそこに乗っかる川辺氏のゆるくて弱くて吹けば飛びそうな、感情も無駄な分は排除して、スカスカさを強調するかのようなボーカル。結果的にボーカルに草野マサムネを強く感じさせる作品としては今のところこのアルバムがミツメの中では一番な気がするが、この曲や『三角定規』『タイムマシン』あたりが特に、という感じがする。
上記のインタビューでミツメのメンバーは当時影響を受けたものにGIRLSなどの現代的なサーフポップを挙げていたが、この曲にもそのフィーリングが色濃く反映している。爽やかでひょうきんだけど同時にひどく儚げにも聴こえるギターのフレーズは、その音自体に意外とリバーブやエコーはかかってないにも関わらず、そういった感覚がごくナチュラルに落とし込まれている。
曲はドラムの勢いとそれ以外の演奏のテンションの差が面白いシンコペーションを伴った緩いサビのようなメロディーに向かい、中間部で水の中か夢の中かに沈み込むような穏やかなサイケデリックな光景を経て、また緩いサビへ。この平熱のギアチェンジから、しかし最終盤で遂にディストーションギターが鳴り響くところまで、どこかドラマチックな感じがする。「この頃はオルタナっぽさを制御し切れてない部分がある」とメンバーは語るが、この最後の展開があるからこそこの曲が好きだという人間もたくさんいると思う。そして、この曲を未だにライブで演奏する辺り、最近の楽曲のどんどんオブスキュアーな感じになって行くけれども、まだこういうオルタナ成分も捨て切らない、というバランスを感じさせる(まあ大竹雅生という近年でも傑出したオルタナギタリストを抱えてるバンドだから全く捨て去るというのは考えにくいかもだけれど)。
さて歌詞。ミツメの歌詞は曖昧な表現が多く、その曖昧でいまいち言語化になじまない感覚を歌っているものが多いというのは、どことなくサウンドとも共通するところではある。が、このミニアルバムはそれでも、初期だからなのか、そこまで徹底していない。むしろこの曲なんかは、情景やら、そこに重ねられる感情の淡さやらが分かりやすく入ってくる。
「枕に顔埋めて/君のこと思い出した/ふやけてすぐに逃げた
ゆらゆら/クラゲだってさ/溶けて一つになるね」
「浜辺を走る列車で/二人だけの/甘い夢/旅に出て/何もかもぐしゃぐしゃに」
この辺りなんか、くるりのナイーブで男の子な部分を切り取ってきたかのようなスウィートさがある(そういえばミツメってどこかくるり的な感じもあるのかも)。っていうかクラゲって溶けてひとつになるもんなのか…というよく分からなさもそんなことどうでも良くなるくらいに甘い、男の子的なエロスが気持ちいい。
そして、個人的に、この曲をミツメの代表曲としていて、未だにライブで演奏しているのは、この一節があるからじゃないかなと思っている。
「裸の海潜ってさ/見つめあうのもいいね」
…そんなことみんな思ってるし、メンバーもそう思われてるだろうなーって思ってるだろうなーとは思うが。
2. 怪物
上記のタナソーのインタビューでやたら褒められてる、まったりとしたサイケデリアの中でもエモーショナルな雰囲気を漂わせた楽曲。
この曲なんと言っても、終始繰り返される、緩やかに上昇し消失していくラインを描くギターが印象的。ノスタルジックさと甘美さ、そしてどことなく虚しさも含まれた、簡潔でいいフレーズだなーって思う。これに裏声も交えたボーカルのやるせない表情が絡む。リズムはタイトなまま、しかし堅実なプレイで曲展開を支えている。
とりわけ、サビの盛り上がっては落ちていくのを繰り返す歌メロディと相変わらず反復されるギターフレーズの交差する辺り、この曲のタイトル的な悲哀を感じさせる。
この曲にあっては中間部にギターソロパートも用意してある。そこへの入り方も丁寧だが、その後のソロはそれまでの流麗なフレーズとも変わって、かなりオルタナチックで攻撃的、それこそジョニーグリーンウッドとかを思わせるようなプレイを聴かせる。特に一部リズムも崩れるところがやけにそれっぽい。
歌詞について。
「今朝もホームで君の背をさがして/遠い目で描きあげた/あの頃を一人で想うのです」
なんとも青い、今のミツメじゃまず書かなそうなフレーズ。しかし描写はきびきびしていて良い。やっぱ調子いいときのくるりみたい。
「たぐり寄せた/君と僕の距離を/閉じ込めた怪物がここへきて阻むよ」
この辺りも、直接的な欲望のメタファーとしての「怪物」という単語は比較的ストレートに用いられる。そしてサビの悲哀に繋がる。
「夜は透けるほど触りあって/君はあまりにもきれいだった
昼に魔法がとけてしまっても/君はあまりにもきれいだったなあ」
「透けるほど触りあう」という表現が、欲望の世界に奇麗さと虚しさを呼び込んでいる。っていうか、なんかこの曲の歌詞で一作サブカルなマンガの短編とか書けそう。
3. 三角定規
前曲の割と鬱々としたような静寂なのをイントロからバーンと打ち破る、ミツメの楽曲でも最上級に爽やかな、心地よい疾走ギターポップ/サーフポップ。ミツメ流『青い車』と言ってしまいたくなる軽やかさが素晴らしい。
重ね重ね、イントロのギターの音からして素晴らしい。ペナさと鋭さが絶妙なクリーンギターのカッティングフレーズ。途中のアルペジオなフレーズのたおやかさといい、突如放たれるノイズの音といい、コーダの引っ掻くような次第にカオスになるようなプレイといい、大竹氏のギターセンスの良さが理想的なギターポップ曲の上で既に全開となっている。
この曲は曲構成もどこか不思議。所謂Aメロ的なのを繰り返した後Bメロを展開、それが終わるとさっさと静寂とノイズ繰り返しパートに入り、そしてまた滑らかにイントロフレーズに戻る。Bメロ→フレーズで一回終わった、と見せかけたところでまた演奏がせり上がってきてAメロの断片を含むイントロフレーズに回帰して行く。この流れが、鮮やかでかつロマンチックだ。また、このイントロフレーズが後半以降どんどん展開していくのが面白い。途中からわき上がってくるやるせなさ全開のコーラスや、ツボを抑えた演奏で魅せることをしっかり前提としたソングライティング。
ともかくこの曲は「みんなが大好きなギターポップを、ぼくたちも作ってみましたー」感が強い。いい感じにスネア二度打ちを入れるドラム、要所要所で動き回り、コーダでは突如自由自在になるベースなど、どのプレイも「ギターポップでこういうプレイっていいよなー」っていうのを持ち寄ったような楽しさがある。そしてそれらのプレイは、きちんと今作特有のノスタルジアな世界観にぴったり嵌っている(元々ギターポップというジャンル自体そういうのに親和性高いことはあるが)。
トリッキーな展開のせいか、歌詞を載せるメロディはそんなに多くない。しかしそこにも、絶妙にフックのあるフレーズを持ってきている。
「三角定規持ってきて/君の家から/僕の家までをはかるつもり」
この、一瞬「?」ってなるけどなんとなく分かるような感じ、実にサブカルだなあ。
「もどかしい気持ちでどれ位経っただろう
あれから何年経っても/散々君を想って来たんだけどな」
しかしこのアルバムの曲の歌詞は見事にこんなんばっかである。どんだけ別れを引き摺ってるんだと、その辺のある意味インディロックマナー的な歌詞も、後にメンバーから「まだ青いな」扱いされる要因だろう。でもそのインディロックマナーな歌詞の中でも出来は相当いい方だと思うので、こういうので他にもっと聴きたかった気もしたり。
ともかくも、青春の爽やかさとか儚さとかをギターポップのフォーマットにて全開にした楽曲。早耳な連中はこの曲をカーステで流しながら横浜か千葉かその辺の海を快走してたのかと思うとぺっ、と思わなくもないが、それだけ素敵な曲であることは間違いない。同時に、これだけやっちゃったらギターポップに飽きて他のことしたくなるのも幾らか分かる感じもする。
4. 部屋
ミドルテンポでやや地味ながら、ナチュラルにほんわかサイケ路線な曲。
平板でかなりユルいメロディー自体は、どこか初期ビートルズ的なまったり感がある。一方でサウンド、特にギターはこの時期のUSインディ的な、チルウェイブ的な線の細いサイケデリアを匂わせている。全編で並走するコーラスもメロディの輪郭をぼかす方向に作用する。
特にBメロの当ての無さそうに落ちるメロディとコードの微妙に憂鬱そうな加減が、その箇所の歌詞(「すぐに消えそうで」のリフレイン)とともにいい塩梅の儚さを醸し出している。
こういう平温感のある曲でも、終盤に一度ギターが歪み切ってグチャグチャ気味なソロを取り、それに合わせて全体の演奏も一瞬エモさが出てくるところはこの時期的。
歌詞。
「あなたのいないいつもの話/枝が分かれた氷も解けた」
またそんな感じか…!とも思うが、曲調の淡々具合と被さる。ブックレット上ではこの曲の歌詞は曲展開や内容に合わせて改行することをせずに、行をつめて書かれているため、黙読する上でもメリハリのなさ・だらだらした連続性みたいなものを意識してしまう。
5. タイムマシン
タイムマシンという、誰でも知ってるSFガジェットの最たるものであろう名前を冠したこの曲は、本作でもとりわけウェットでほっこりした感じのする、バラッド的な楽曲。ミツメの曲でこのタイトルということからしてノスタルジー全開そうな感じだが、果たしてその通り、といった趣。
イントロの逆再生サウンドからして、タイトル的なノスタルジーさを表現しようとしきりな感じが分かる。ずっと同じ音を反復し続けるアルペジオも透き通った感覚と切なさに満ちている。
Aメロ、Bメロ、サビの区別がはっきりした曲構成で、ミツメの楽曲ではかなり珍しい。その分、普通な曲っぽくも聞こえるが、おおむねけだるげなボーカルが抑揚の曖昧なAメロから柔らかに舞い上がるサビのメロディまで丁寧に展開し、Cメロの展開の妙もあり、単純にクオリティは高い。ギターの音も次第にとろりと蕩けたものになり、そこにサビやCメロではコーラスも多用される。特にCメロ後半のオールディーズ風コーラスが良い。
こんなメロウな曲でもコーダの部分でギターが急にディストーション聴かせて鳴りだす辺りはこのアルバム的だし、オルタナ感とポップさの折衷を狙う感じが出てる。
歌詞。このアルバムは徹底して「君」との過去への想いについて歌われてるが、これなんかタイトルからしてモロ。しかし、そのタイトルにまつわる視点はちょっと捻くれてる。サビのフレーズはこうだ。
「タイムマシンであの頃にタッチして/過去の気持ちを今僕に伝えてよ」
自分が過去に戻ってやり直したい、とかではなく、あの頃の「君」に求める辺りが消極的でかつ淡いどうしようもなさも感じさせる。また、この主題をとりまく他の箇所も、不思議な雰囲気とフックを用意している。
「手足は水面に溶けて/幽霊みたいだなって思って」
「頼りない時計が欲しい/90年に戻りたい」
なお、Cメロの歌詞はどことなくスピッツっぽさを露骨に狙った感じがする。
「なんか冷たくなってた/笑い袋を詰め替えて/時に投げよう
君の夢/僕の肌/揺れたくて/さかさまに僕らは飛び出す」
総じて「スピッツの優良なフォローワーのオルタナバンド」としての魅力を強く感じさせる楽曲。2014年現在のミツメからはかなり距離あるが、こういうウェットさもまた、拭いきれない魅力だと思う。
6. migirl
タイトルの綴りが微妙に捻くれているが、これもタイトル直球な爽やかポップス。この頃のミツメの優良ギターポップバンドっぷりがにじみ出ている。
やや調性曖昧なイントロのアルペジオからぱっとポップな歌メロに切り替わるところが、いきなり視界が広がるような感じがして鮮やか。けだるげな川辺ボーカルもこの曲では軽やかにリリカルなメロディをたどる。本作で最も可愛いメロディをしている。
曲展開はAメロ→Bメロ→Aメロ→Cメロ→歌い方が変わったAメロとなり、展開が進むごとにどんどん視界が広がっていくような感じがする。特にCメロのうねりと跳ねが繰り返されるところから舞い上がるメロディで歌い直されるAメロに至る展開は徹底的に可愛らしくもメロウ。時折間に挟まれる繊細なギターフレーズも微妙な変化で構成を確実につなぐ。この曲ではリズムも曲の展開に合わせて開けていき、途中から跳ねたリズムになっていくのがとても爽やか。Cメロでは特にしなやかな稼働を見せ、曲展開をしっかり盛り上げている。
歌詞。やっぱり「あの頃が忘れられない」どっぷりな世界がひたすらに甘く切ない。
「マイガールまた思い出した/雨の朝二人/自転車をこいで/向かう途中で止みだした」
爽やかギタポ王道のような歌詞。きびきびとした情景描写はどこまでも甘酸っぱい。
「コーラ自販機で買って/飲みながら帰ろう/どこにでもあって/君思い出すね」
そんなん詰んでんじゃん!とか思うが、このどうしようもなさはやはりくるり的なものも感じさせる。
7. サマースノウ
全体的にギターポップの甘酸っぱい感じや、水々した音や歌詞の描写からして強く「夏」を感じさせる今作にあって「あ、やっぱ夏なんだ」っていうのと、しかし同時にやや他の曲とは異質なものも感じさせるのがこの曲。
今作中でも一番テンションの低めなメロウさが全体を支配している。それはイントロのミュートされたギターの響きからそうで、これまでよりもやや乾いた印象を受ける。裏声気味なメロディはやはり甘いのだけれど、やはり乾いている。
その「ちょっと乾いた感じ」が顕著に出るのが、サビ(?)的に登場する「汽車は揺れる〜」からのパート。今作でこの箇所だけ、どこか細野晴臣にも繋がるような、飄々とした感じ。それはメロディともつかないような歌い回しや、ギターの四畳半ファンク感、急に畳み掛けるがうるさくする訳でもないドラム、歌詞など、演奏全体がどことなくそんな印象を受ける。このパートの存在が、とにかく今作でもこの曲を異質なものにしていて、作品の最後を飾る曲として、ちょっとしたスパイス的に聞こえて面白い。
二度目の飄々パート〜蕩けた音で次第に盛り上がり、結局ディストーションギターを鳴らし、最後は外れた音で終わらす感じは、まさに今作の「スピッツ的へなちょこオルタナ路線」の締めに相応しい。最後までギターをはじめアイディアが尽きない、演奏力とアレンジ力。
歌詞。これもやっぱり、今作の他の曲と異質。過去の「君」への熱は見られず、客観的な視点と「なんじゃそら」な心境が綴られている。出だしからフック全開。
「死ぬまでに/津軽の方に行ってみたい/後ろに過ぎてく雪景色/あの部屋にバイバイ」
とあり、ああこれ某ロック雑誌的な視線でいけば「アルバムを支配していた過去に捕われた甘酸っぱい世界からの決別と、前進する力強い意思のさりげない表明」みたいにも読めるなと。そこまでメリハリつける必要は感じないが、それでも他の曲と雰囲気を異にするのは明らか。
「何度も陰りゆくのを目にしてて/情けない気分をずっと前から抱えてたんです」
この辺りとか、今作のおおむねの歌詞をメタ的に眺めてるようにもとれて面白い。
そしてやはり、飄々パートの歌詞が印象深い。
「汽車が揺れる/木々を揺らす/僕はどこか/もう居ないみたい」
「汽車が揺れる/夜を乗せて/君はどこか/もう居ないみたい」
この「みたい」という適当さ、いたずらっぽさと切なさが入り交じるような感じ。今作の締めとして、適度に甘さを抑えてふっと消えちゃう感じ。非常に粋だと思った。
以上七曲。
身も蓋もなく言えば「スピッツmeetsくるり」ということになるだろう。鮮やかで淡いアルペジオの多用、曲構成やメロディの爽やかさはスピッツから、歌詞のどうしようもない懐古感・リグレットな雰囲気や、所々で見せる自棄的なオルタナギターの感覚はくるりから、っぽく、どうしても思えてしまう。
それが悪いのかと言えば、とんでもない!そんなのいいに決まってるだろ、って。おそらくこの二つのバンドのいいとこ取りは、それこそ数えきれないくらい多くのバンドが目指してきたことだろうが、それをここまで高純度・高品質で流通作品に落とし込んだ例をぼくは寡聞にして知らない。
なぜミツメにそれが出来たのかと考えれば、それはやはり個々のメンバーの卓越したセンス、ということになるだろうけれど、個人的には特に、川辺素の作曲能力の高さと、そして大竹雅生の圧倒的な音のセンスを挙げたい。作曲に関しては、特に今作では効果的なCメロの挿入や、つなぎパートの配置が光り、そしてメロディは凡百のバンドが喉から手が出るくらい欲しがるだろう甘く曖昧で極上のものが揃っている。そしてそれらに一貫性と幅を、まるで当たり前みたいに持たせてしまう数々のギターフレーズ。メロウとノイズを淡々と行き来してしまうそのプレイアビリティは(特に最近ライブで観たせいか)非常に羨ましいものがあるが、今作ではその能力がかなりポップに現れていて、「そうそうこういう甘い曲ではそんなアルペジオやそんなカッティングあるといいよね〜」っていう本当に痒いところに手が届きまくるギターになっている。
…とここまで絶賛しても、あちこちのインタビューから確認できる「作った本人たちは単に過去の楽曲を編纂しているだけで、当時のリアルタイムで作ってた楽曲と比べても熱が低い」という事実は当然覆らない。ただ、考え方を変えれば、彼らは今作で「昔の甘酸っぱくて可愛らしかったミツメ」を徹底的に作品に落とし込んだんだと考えられる。それは次のステップに向かうための「これまでの総決算」だったのかもしれない。だとしたら今作がとても純度の高い作品になっているのも納得だし、むしろそういう意識があったからこそ、彼らの人懐っこいメロウさが他作品と比べてもここまで極端に出た作品になったのかもとすら思える。そして逆に、ここまでメロウでポップな作品をドロップできたら、その後の作品で路線を変えたくなるのも当然だ、とも思われる。
この作品のあとすぐに『fly me to the mars』で当時流行のチルウェイブを取り入れた急激な変化を見せる辺り、やっぱどこか昔のくるりを思わせるようなところがあるミツメ。その様々な変化の中で「やっぱ今聴き返すと甘いですね」とメンバーから言われがちなこの一枚目だけど、2014年の全国ツアーでは、最後東京でのワンマンで今作からけっこう演奏したり、むしろ今作に収録されてない初期作品(『ミツメのテーマ』とか)を演奏したりと、「徹底的にストイックな感じのする『ささやき』の反動とかで、もしかしてポップ路線回帰ある…!?」とか思ってしまう部分もある。というかこの作品がベストなファンも相当数いるだろ、と思う。夏になったら、車を買ってどっか昼間の海沿い走りながら流すと絶対気持ちいいんだろうな〜って、そんなCD。