2. インナーグルーヴ
作詞作曲担当しました。
元々は私個人のサンクラに上げていた(今も別に消してないけど)『junkfood inner groove』という曲で、さらにその前にやろうとして結局しなかったバンドで別タイトルで取り上げてて(その時はストーンズの『Out Of Time』を目指したアレンジにしようとしていた)、さらに辿るとまだ学生の頃人生ではじめて野外弾き語りしたとき、その前日にさっと作った曲(歌詞がなんか性風俗の女のひとの話だった。なぜ?)で、多分このCDでも古い方の曲。たびけんさんに『junk〜』の方でカバーしてもらったりもして、嬉しかったな…。
イントロのイントロ部分はビーチボーイズの『California Girls』っぽくしたくて、その後は全体的に『Wouldn't It Be Nice』に拠った感じのアレンジ(シャッフル、一度サビを避ける曲展開、鉄琴とか)。ビーチボーイズの曲って時々ホントビックリなくらい幸せでいいですよね。アレンジ決め終盤に入ったトランペットがすごくいい。
歌詞は『junk〜』からそれほど変更はない、やけっぱち気味のもの。最後の曲に合わせて微調整。淡い喪失感があればいいなと。
○ライブ盤(ライブ盤は意図的にベスト30から外してる)
・The First Waltz Award / スカート
ワンマンロングセット公演からの超充実なライブ盤。澤部さんの汗が飛ぶような情熱のパフォーマンスが盤を狭しと弾けていて素晴らしい。選曲も限りなくベスト盤的内容!
・さようならからこんにちは / 昆虫キッズ
2015年を僅か7日しか生きなかった昆虫キッズのラストライブの盤。圧倒的ボリュームで充実もいいところだけど、しかしぼくは実際にこれを観たので、その時の感慨と轟音のリアルさにより尊さを感じる。
・LIVE〜2015.02.13 at STUDIO COAST〜 / ART-SCHOOL
これも行ったのでアレですが、でも見返すと結構面白いなあと思います。DVDだと当然、演奏者の動きとかあるんでそういうのもまた面白い。最後の『しとやかな獣』は何回観ても最高だなって。活動再開嬉しい。
15. Dealer / Foxing 1.Weave 2.The Magdalene 3.Night Channels 4.Laundered 5.Indica 6.Winding Cloth 7.Redwoods 8.Glass Coughs 9.Eiffel 10.Coda 11.Three On A Match
今年twitterで知り合いになった方から教えてもらった、アメリカ、ミズーリ州セントルイス出身のインディー・ロックバンドFoxingの2nd。出身地からは想像つかないくらいの寒冷地系エモの様相を呈している。ギターからピアノからオーケストラまで冷たくも奥行き重視の音作りになっていて、そこを叙情的で時にキュアー的にナルシスティックに沈痛で、時にぐうっとエモくなるボーカルの雰囲気はやはりどっちかと言えば北欧で、とりあえずセントルイスじゃない、セントルイスはこんな凍死しそうなほど寒くなるのかしら。
14. SHINE ALL AROUND / 豊田道倫 1. 雨の夜のバスから見える 2. SHINE ALL AROUND 3. ありふれたジャンパー 4. そこに座ろうか 5. 愛したから 6. 24 時間営業のとんかつ屋 7. どうして男は 8. ともしび商店街 9. サイボーグの渋谷、冬 10. 帰省 11. I Like You 12. 小さな公園 13. Girl Like You 14. 倒れかけた夜に 15. Tokyo-Osaka-San Francisco 16. また朝が来るなんて
今日が発売日だが関係ない(勿論昨日フラゲしている)。数回聴いただけでもこのアルバムの素晴らしさがおれには判ってしまうのだ。だってこんな、こんな日常の渋み・人生の苦みをそのままポッップソングに抽出してる人なんて他にいない。何がブラックミュージックだ何がシティポップだ、こっちは人生送ってて普通に辛いんだからそんなのに気配りする余裕なんてどこにもありゃあしないんだよと、人は疲れるしやがて/唐突に死ぬんだよと。音楽活動20周年というアニバーサリーの気負いも程々に、より馴染んだと思われるmtvBANDの演奏が哀愁をラフにグルーヴさせる。ここでも冷牟田さん!
13. Unknown Moments / Alfred Beach Sandal 1. 名場面 2. Supper Club 3. Cool Rununings 4. Dynamo Cycle 5. 祭りの季節 6. おもかげ 7. Fugue State (feat. 5lack) 8. Town Meeting (prod. by STUTS) 9. Honeymoon 10. Swallow
前作『Dead Montano』から継続するメンバー構成(3ピース)を軸に、歌もの色の強かった前作からやや方向転換して、外部のビートメーカーやゲストにラッパー(5lack)等を迎え、より多面的な作りを志向した感じか。相変わらず国籍感の混濁した乾いた世界観は健在。レビューをこちらで書いてました。
12. V / Wavves 1. Heavy Metal Detox 2. Way Too Much3. Pony 4. All the Same 5. My Head Hurts 6. Redlead 7. Heart Attack 8. Flamezesz 9. Wait 10. Tarantula 11. Cry Baby
今年はCloud Nothings(というかディラン・バルディ)との共作もあったWavves。その後リリースされた今作は、前作で見せた音響感は引き続き発展させ、重みやらシリアスみやらはどっかに放り投げてしまったかのような、いい形の開き直りが感じられるパワーポップアルバム。音の整理はさらに進みギターの音は少しシンセっぽい変な音色になったりもしてユニーク。そしてほぼ全曲テンポが速く曲も長くない!やってることはクソ単調なのにそれを上手く誤摩化せてしまうスキルが身に付いたパワーポップって、聴きやすくて楽しい。
8. Sound & Color / Alabama Shakes 1. Sound & Color 2. Don’t Wanna Fight 3. Dunes 4. Future People 5. Gimme All Your Love 6. This Feeling 7. Guess Who 8. The Greatest 9. Shoegaze 10. Miss You 11. Gemini 12. Over My Head
あちこちで大評判の、アラバマ州のバンドAlabama Shakesのこの2nd。聴いたときに思ったのはやはり、曲自体はオーセンティックな感じなのに、音の響き方が全く現代的だということ。ギターの空間的な存在感(ディレイエフェクトとかそういうことではなく。そういう意味ではミツメの近作とやや共通する感じがある)は、アメリカン・ビンテージなギターサウンドのフォルムを更新してしまった感じがある。野心的なプロダクションと確かな楽曲・歌唱力・演奏力による傑作か。ただのロックンロールでさえオルタナティブロック的に聴こえてしまう。
5. Fading Frontier / Deerhunter 1. All the Same 2. Living My Life 3. Breaker 4. Duplex Planet 5. Take Care 6. Leather and Wood 7. Snakeskin 8. Ad Astra 9. Carrion
7が先行公開された時の「はぁ…?」な感じは何だったのか。Deerhunter史上最もクリアーなサウンド・視点を披露する、前作のもやが晴れて行くかのような快作。エレクトロ的なサウンド処理がとても澄み渡っていて、特に2のどこまでも視野がクリアーになっていくような雰囲気はどうだ。アルバム前半はDeerhunter史上最もポップでキラキラした流れでもあり、きれいなブラッドフォード・コックスみたいななんか矛盾めいた感じが可笑しくも祝福的でもある。そして今思うと、比較的地味な後半に7はやはり必要。
2. The Magic Whip / Blur 1. Lonesome Street 2. New World Towers 3. Go Out 4. Ice Cream Man 5. Thought I Was a Spaceman 6. I Broadcast 7. My Terracotta Heart 8. There Are Too Many of Us9. Ghost Ship 10.Pyongyang 11. Ong Ong 12. Mirrorball
最初に公開された3のMVで「ああ、これはひどい」と思ったのを全面謝罪しないといけなくなるなんて思ってもなかった。再結成アルバムで史上最高傑作だ。ブラー以外の活動だと陰気さと器用貧乏さが強調されがちなデーモンの作曲が、バンドというフォーマットと、再結成盤ということでの幾らかのファンサービス的なポップさにより絶妙のバランスで噛み合い、バンド外のエフェクト処理等も含めて極めてファニーで豊かな英国音楽を作り上げている。1や6、11辺りのポップな曲の配置と、その間の楽曲における音響的な冒険のバランスの良さ。こんな作品ができる端緒となってくれてありがとうTOKYO ROCKS。
30. Star Wars / Wilco 1. EKG 2. More... 3. Random Name Generator 4. The Joke Explained 5. You Satellite 6. Taste The Ceiling 7. Pickled Ginger 8. Where Do I Begin 9. Cold Slope 10. King Of You 11. Magnetized
前作『The Whole Love』でソングライティングとバンドの力量の何度目かの充実を迎えた後、思いっきりエクスペリメンタルな方向にぶっ壊れてみせたアルバム。当初のフリーダウンロードは嬉しかったです。エクスペリメンタルといっても、長尺のジャムではなく各曲3分前後に纏めてしまう辺りは元々のパンク志向が現れた形か。ぶっ壊れたコンピューターのような演奏が楽しいが、いつものウィルコ節な6や11辺りが普通に好きだったり。
29. ニンジャスレイヤー フロムコンピレイシヨン「忍」/ V.A 1. キルミスター/BORIS2. HALO OF SORROW/Melt-Banana 3. 劇場支配人のテーマ/THE PINBALLS 4. SRKEEN/8otto 5. RADIO/6EYES 6. NINJA SLAYER/Electric Eel Shock 7. NINJA PRAYER/Shinichi Osawa 8. SUICIDAL BUNNY/Taffy 9. HIDE/80kidz 10. JAG JAG/Sawagi 11. AURASHI NO KEN/BORIS 12. NEO CYBER MADNESS/skillkills(ボートラは省略) twitter小説『ニンジャスレイヤー』が今年アニメ化し、その主題歌集。一応“アニソンのOPED集”であるはずなのに、上記リストから感じられる小〜中規模のライブハウス的なアトモスフィアはなんなのか。ニンジャスレイヤーはジョジョ以来の「洋楽とかからガンガン名前を引用してくる作品」なのでそういう楽しみもあって大変しあわせです。第一話EDのBORISもよっぽどですが、その後の第二話でMelt-Bananaのぶっ飛んだトラックが流れ出したのには笑った。後期ED 集の『殺』の方も素晴らしい(特にギターウルフが)。自由な作品だなあ。
28. b'lieve i'm goin down… / Kurt Vile 1. Pretty Pimpin 2. I'm an Outlaw 3. Dust Bunnies 4. That's Life, tho (almost hate to say) 5. Wheelhouse 6. Life Like This 7. All In A Daze Work 8. Lost My Head there 9. Stand Inside 10. Bad Omens 11. Kidding Around 12. Wild Imagination
この人が米国オルタナ界の重鎮がたから評価高いのは、オルタナを通過したブルース・フォーク・カントリーみたいなのを大いに体現しているからなのか。なんだかんだでルーツミュージック好きが多いんだろうか。今作はマイナー調の曲が多く、またアコギの響きが活かされた曲が多数を占めており大変地味で落ち着く。音響感は隠し味的に背後に回り、あくまで滋養っぽさを前面に押し出した仕上がり。
25. Another One / Mac Demarco 1. The Way You'd Love Her2. Another One 3. No Other Heart 4. Just to Put Me Down 5. A Heart Like Hers 6. I've Been Waiting for Her 7. Without Me 8. My House by the Water
ユルくてキュートなUSインディーの代表格デマルコさんの、ミニアルバム。ギター主体の曲は恒例のデマルコ印のポップソングという感じだけど、新機軸のシンセが導入された曲が、これまでよりも曖昧で哀愁めいた風情を醸し出している。そのシンセの音色がとてもフワフワと曖昧で、なんとなくMOTHER2とかそういうのの系統めいた不思議さがある。白昼夢のような感覚は、彼のいつもの歯抜けの笑顔のままでぱっと彼岸したかのような感じ。
23. The Monsanto Years / Neil Young & Promise Of The Real 1. A New Day for Love 2. Wolf Moon 3. People Want to Hear About Love 4. Big Box 5. A Rock Star Bucks a Coffee Shop 6. Workin' Man 7. Rules of Change 8. Monsanto Years 9. If I Don't Know
前作『Storytone』からのブランク半年で新バンドで新作という、駆け出しバンドでさえ真っ青なリリースペースを余裕でこなす超大御所。頭おかしい。今作は農薬等に関する大企業を告発する社会派作品だが、そういうことをしても潰されず普通に活動を続けてられるのも凄い…。そして曲のクオリティーが今回も高い。全編バンドによるハードで荒涼とした作品かと思えば、2のようなアコースティック作品やお気楽気なテンポの5なんかもあってバラエティ的にも何気に充実。というか新バンドのはずなのに安定性が半端ない。
22. Double dream is breaking up the door. / Paradise 1. “ブレイズ ネイル” 『Brais Nail』 2. Paradise 3. complexion 4. 「初恋の狂気」 5. The Sick Rose 6. Dawn 7. THE FOUNTAIN 8. The thousands of the Sun 9. All nerves 10. Double dream is breaking up the door.
昆虫キッズ解散という大事を年の初めに経験した後の今年の冷牟田敬氏の多作多忙そうな感じは凄い。まさかこっちのバンドも解散するというのは凄いことだけど…解散ライブ観に行ったけど、まさかのアンコール含め8曲くらいで終了、しかも二曲カバーという内容でビックリした。良かったけど。1と10がちゃんとライブで聴けたのが嬉しかった。レビューは同時発売だった冷牟田敬ソロと合わせてこちらで行っております。
21. over sleeper / ヤマジカズヒデ 1. over sleeper 2. amphicar 3. know you want 4. small stone 5. 屋根裏の地下室 6. some velvet morning 7. pray for the sun 8. night rider 9. 宙を撃て 10. 遅い痛み 11. からみあうワイヤー 12. hypnopedia 13. intro
日本のオルタナ界隈でも最上級にベテラン格なdipのヤマジ氏の、なんと21年ぶりというソロ(実際はバンド外の活動やCDR作品などあるのでそうでもないそうだけど)。dipがバンドのグルーヴを研鑽していく場で、特に昨年の『neue welt』がまさにそんな作品だったところ、このソロ作はより自由に、彼の歌ものの側面を豊かにフューチャーした作品となっている。彼独特の繊細さ・神経質さや、『TIME ACID NO CRY AIR』の頃のようなローファイポップが入り乱れた、愉快で充実したオルタナポップアルバムだ。
19. No No No / Beirut 1. Gibraltar 2. No No No 3. At Once 4. August Holland 5. As Needed 6. Perth 7. Pacheco 8. Fener 9. So Allowed
ザック・コンドンによるソロ・プロジェクト(なんですね。よく知らない…)Beirutの今作は、演奏も尺もコンパクト。前作までのようなオーケストレーションやエレクトロな仕込みは影を潜め、バンドセッションにより形作られたというシンプルなサウンドになっている。それはあたかも、これまで広大な世界に向けていた視線を少し落として、街の片隅で音楽を鳴らすスタンスに切り替えたかのような。その分、気軽にはねるような楽曲が多くてそれはそれで楽しい感じ。
17. Currents / Tame Impala 1. Let It Happen 2. Nangs 3. The Moment 4. Yes I'm Changing 5. Eventually 6. Gossip 7. The Less I Know the Better 8. Past Life 9. Disciples 10. Cause I'm a Man11. Reality in Motion 12. Love/Paranoia 13. New Person, Same Old Mistakes
ハードなサイケ感を醸し出していた前作から一転、今作はギターの轟音がシンセに置き換わり、またブラックミュージック的なタイトなR&B感とポップさを得て、街に溶け込んでいくようなジェントルさなんかを漂わせてる。それでも、分厚く重ねられたシンセやコーラスの壁は頭を様々に揺らすけれども、同時にたとえば3のような軽快な足取りや7のようなカッチリなビートが新鮮に響く。折衷により生まれたヘンテコポップ作品。
また、後のアルバム『PARADISE LOST』には今作の『刺青』が、アルバム用リミックスを経て収録されている。前作といい、リードトラック以外を収録していく姿勢は不思議な感じもする。
(正確にはアルバム初回盤に『LOST IN THE AIR』のデイブ・フリッドマン(元々アルバムのプロデュースを予定していた)によるリミックス音源が収録されており、元々はこちらをアルバム収録する予定だったのかもしれない)
1. LOST IN THE AIR
今作のタイトルトラックにして、『汚れた血』以来の久々の5分越えのナンバー、にしてバンドの音楽性をより広範なものにしていこうという意思もはっきり感じられる、メンバーチェンジ後のアートスクールにおいて重要な位置にある楽曲。
何がこれまでと異なるか。その端的な例のひとつが、イントロから終始鳴り続けるピアノのリフレインだろう。そのシンプルでミニマルでどこか素っ気なくもひんやりし響きと、それに導かれるように入って来る演奏陣、ドラムの機械的で硬質な反復や絹のようにさりげなくたおやかなギターのアルペジオなど、雰囲気がこれまでとまるっきり違ったものになっている。ニューウェーブ的・ポストロック的ともいえるこのサウンドに木下の這うような囁くような低音ボーカルが乗り、張り詰めているようで弛緩しているような独特の雰囲気がある。
そしてそんなAメロが突如ブレイクして、しかも複数回ブレイクを打った後の静寂を、木下のサビメロを起点にアートらしさのある轟音のサビに突入していく。キラキラした中にも変則的なリズムを叩き付け続けるドラムと、短く高いメロディを繰り返していく木下のメロディの扇情的な感じがAメロと好対照を成す。
基本その2パートを繰り返していく曲構成で5分。これは繰り返しが普段より多いことに由来するが、それがどうしてとてもロマンチックに聞こえるんだから素晴らしい。特に最後のサビで木下がキリキリとファルセットで連呼しはじめるところからブレイク→最後のAメロで気の抜けたようなささやきに戻っていく流れは、痛切で壮絶で、やるせなくて、とても美しい。
歌詞についても、当時人生で一番悲惨だったと自称する木下の惨めな世界観が、絶妙な単語選びとリズムで吐き出されている。というか、天然気味でやや珍妙なフレーズが多々あり、一部ファンの興味や引用が絶えない曲でもある。
「愛の歌は終わって/なんとなく死体です/新宿で天使が/轢かれてたんです」
やや洋楽の訳詞っぽくもあるフレーズなのに、『LOVE / HATE』に引き続き悲惨な目に遭う天使だったり、新宿が「天使が轢かれる街」としてファンにネタにされたり。極めつけは以下のフレーズだろう。
「I KNOW人生はHELL/空っぽのコンドーム/おかしいな/涙が出ない/出ないんだ」 I KNOW人生はHELL!ただ「人生は地獄だって知ってるさそんなこと」とかならさらりと流れていきそうなところをさっとルー語ライクに転化するセンス、その珍妙さと「でも実際人生ってHELLだよな…」という陰気なファンの思いから、ある種のアートスクールコミュニティーを象徴さえしそうなワンフレーズである。
その他にもマンガで観た世界で暮らしたいとかいうナードフルなフレーズもあったりで、ともかくネタに事欠かない。それでいて同時に「愛なんて結局/下水道に流されて」をはじめとして、曖昧に光景化された諦観が曲全体に漂っていて、実際に人生がHELLだったという当時の木下の虚しさが遺憾無く発揮された傑作でもある。
そんな名曲だが、凝りに凝った演奏が難しく(特にブレイクか)、ライブではなかなかお目にかかれない曲でもある。当時の今作のリリースツアーでもあまり演奏されていないという。しかし近年では大事なライブの際に演奏されることもあり、ライブでのハイライトのひとつを形成することもある。似たような曲は他に無く、彼らの中でも独特、特殊な一曲である。
4. 刺青
前述の通り、今作で唯一後のアルバム『PARADISE LOST』に収録されたナンバー。本人も気に入っているようだが、楽曲的にも『LOST IN THE AIR』に次いで挑戦の感がある。
再生してノータイムでクラッシュシンバルもなしに入って来る機械的で変則的なドラムの響きと3音を反復するディレイとコーラスの効いたギターの響きが、どちらも冷たい質感がある。そのまま進行していくAメロは、これまでのアートにもあった水中感(『プールサイド』とか)ともまた違った、より低温な水中感がある。囁くように歌う木下の歌もメロディにいい意味での埋没感があり官能的。
サビでの急浮上感は流石の木下節。機械的に引き攣ったままのリズムがポストパンク的でありながら高揚感はきっちりキープされ、轟音は水中を跳ね返るようにのたうつ。
この曲の特に引き込まれる箇所は2度目のサビ後の間奏の後。普段ならブレイクが差し込まれそうなこのセクションにて戸高がプレイするU2ライクなディレイギターの反響が、溜めたドラムプレイとともに潜行し、そして最後のサビへ向かって次第にせり上がっていくさまは絶望的にドラマチックで(U2的な壮大さは皆無でひたすら内向的な感じなのに)、カタルシスがある。
歌詞は、今作でもとりわけノスタルジックに寄ったもの。
「いつかのあの色/何年経ったろう/あの頃/世界は/僕等のものだったっけな」
冷たい水中で美しい過去のことを思い出しながら沈んでいくような感覚。こういう類の寂しさを丁寧に楽曲に落とし込んでいて、カラフルではないのにとても幻想的だと思う。
5. I CAN'T TOUCH YOU
珍しくフェードインで始まるイントロが特徴。冒頭のコードカッティングはネオアコのコードの響きを研究した結果だそうだが、これはイントロでしか聴けない(Aメロは3音アルペジオ+ベース、サビではパワーコードでグチャグチャになるので聴けない。勿体ない)。
3音のアルペジオ、静と動のメリハリの付け方、間奏で伸びていくファルセットコーラス等、第2期以降で最も第1期っぽい雰囲気、もっと言えば『OUT OF THE BLUE』辺りを焼き直した感じの曲。しかし第1期とは音の質感の点でやはり違う感じもする(特にギターの音か。プロダクションのせいかも)。全面シャウトのようなサビも第2期では割と珍しい。
歌詞。ノスタルジーと性的な要素が交錯する典型的なこの時期の歌詞といった風情。
「I can't touch you/猿の愛撫/匂いと汗と/ガーベラの花」
サビ後のフレーズが「愛し合う」と聞こえるが実際は「I still love you」だったりする。結局どっちでも未練がましかったりする辺り計算だろうか。