ブンゲイブ・ケイオンガクブ

本を読まない文芸部員と楽器を練習しない軽音楽部員のような感じのブログ。適当な創作・レビュー等々。

『kemuri』Kalan Ya Heidi

私事ですが、仕事の都合で鹿児島に引っ越しました。
ブログに私事もクソもないか

なんか地震が来て揺れてるのでブログを更新してみます。
(後にこれを観ることになった方々へ:平成28年4月14日夜から15日にかけてなんか九州は全体的に揺れてたのです)

kemuri

1. もといたとこにかえるゆめ
 作詞を担当しました。
 可愛らしい感じの曲にしっとりとキチ○イじみた歌詞が乗せれたので満足してます。特に2回目のヴァースは初期スピッツしてて自信作。コスモスって歌詞にも出てるし。

2. インナーグルーヴ
 作詞作曲担当しました。
 元々は私個人のサンクラに上げていた(今も別に消してないけど)『junkfood inner groove』という曲で、さらにその前にやろうとして結局しなかったバンドで別タイトルで取り上げてて(その時はストーンズの『Out Of Time』を目指したアレンジにしようとしていた)、さらに辿るとまだ学生の頃人生ではじめて野外弾き語りしたとき、その前日にさっと作った曲(歌詞がなんか性風俗の女のひとの話だった。なぜ?)で、多分このCDでも古い方の曲。たびけんさんに『junk〜』の方でカバーしてもらったりもして、嬉しかったな…。
 イントロのイントロ部分はビーチボーイズの『California Girls』っぽくしたくて、その後は全体的に『Wouldn't It Be Nice』に拠った感じのアレンジ(シャッフル、一度サビを避ける曲展開、鉄琴とか)。ビーチボーイズの曲って時々ホントビックリなくらい幸せでいいですよね。アレンジ決め終盤に入ったトランペットがすごくいい。
 歌詞は『junk〜』からそれほど変更はない、やけっぱち気味のもの。最後の曲に合わせて微調整。淡い喪失感があればいいなと。

3. メープルのマーブル
 前作EPより。先行シングル曲的な位置。

4. 月は無慈悲な夜の女王
 作詞担当しました。
 本作で一番洒落た、難しいコード進行してる。弾けない…。最終的にとても品があってほわーんとした感じに収まったのはアレンジの人の力量。ソフトSF?終盤、紙めくりからの展開が寂寥感あっていい。
 歌詞もそんな感じに沿って書いたつもり。「宇宙の色」辺りは引用。っていうかタイトルも引用。原作はまだ手に取ってないです…。

5. どこかに行きたい?
 特に何も関わってませんが、この曲がこの位置にあるのはほっとします。地に足ついたまったり加減。オルガンのオブリがユーモラスで、こんなの全然思いつけない。

6. 彫刻刀
 pitoという昔福岡にあったバンドの曲のカバー。原曲がmyspaceで聴けました。myspaceって…半ば郷愁。原曲のAdvantage Lucyっぽさはなんかなくなってる。ピアノとかのせい?ギターも意外とかき鳴らしてる箇所が少ないんですよ。ややジョニーマー的?こんなの弾けたらいいよな。曲調が今作で一番明るくて、前曲から続いてアルバムで一番快活なゾーン。

7. 世界はさみしさでできている
 前作EPより。前曲からのギャップはある。いきなり歌詞に死体とか出て来るし。あと今作のぼくの曲で唯一ミドルエイト的な箇所がない。

8. バナジウム温泉キット
 作詞作曲担当しました。自信作。
 ぼくが今のとこ個人でやってるhasu-flowerの曲でも多いんですが、オープンコードのEの抑えを基調にずっと1、2弦解放のままコードを展開させる手法を最初にやった曲。なのでなのかほのかにシューゲ的な感触あります(当初はもっとシューゲポップにするつもりでしたが、蓋を開けてみるとこの二本のギターによるワビサビの利いたアレンジがとてもいい)。
 曲展開は初回サビを抑えて二回目以降からぐわーっと広がりを持たせる、初期ART-SCHOOLが時折用いてた手法。サビ後のドラムも『プールサイド』意識なので、まあそういうことです。
 歌詞は今作1難産した。一番スピッツしてると思うし、昆虫キッズ意識な部分もあったと思うし、あと丸々持ってきてるのが、フレーズでひとつ(サビ)と内容でひとつ(3回目ヴァース)。そういうのも含めて、もっとどうにかなったんじゃないかという気もするけど同時にとても満足してる。dipから「琥珀の〜」に繋げられたの達成感大きい。
 あと、タイトル思いついた時は物凄く全能感あった。ネカフェで『ニッケルオデオン』読んでる時だった。ぼくは緑の巻が一番好きですね。

9. わたしの王子様
 前作EPより。前二曲がやや暗かったので巻直し。剽軽なポップさがあり元気出る。

10. 磁気のあらし
 作詞作曲担当しました。
 この曲も、結構前(学生ロスタイムしてた頃?)に作って、割と今作のこれと同じようなアレンジで録音してひっそりと発表されたことがあったもの。アレンジこそ豪華になったものの、こっちは曲構成も歌詞もそのときから殆どいじってない。
 何を置いてもビートルズ、っていう曲。メインのコード進行は『Something』(だった。後から知ったパターン)、メロトロンもあり、ピアノもあり、逆再生シンバルあり、リンゴがスターなドラムあり、そういえばギターの音色も末期ビートルズジョージハリスン?曲自体も元から『Hey Jude』と『Across The Universe』を混合させたような。ただ、二回あるブレイクの箇所は私。
 ただ、一旦曲が終わった後のリフレインのアレンジは、ジェントルではなくノイジーな拡がり。『Yankee Hotel Foxtrot』のイメージ。このアレンジがあがってきた時が今作で一番ぐっときた。
 本制作で殆ど手を加えなかった歌詞は作った当時から自信作。

11. タウンバイザリバー
 作詞を担当。タイトルは勿論もじり
 今作で一番儚くて切ない曲。アルバムの冒頭(近く)と末尾がシャッフルビートなのは偶然ではない(と思う)。エレピの音が夜の水滴のよう。
 歌詞は短いけど、アルバムのこの位置ありきの、ささやかな締めになったと思う。結果的にだけど、岡崎京子『リバーズエッジ』にだいぶ寄った感じになった。タイトル決まってから歌詞書いたから、無意識に引っ張られたんだろう。「川のそばでけむりが〜」のくだりはミッシェルの『サニー・サイド・リバー』。


 ガールズポップ、と言うとなんか元気がありそうな響きがするのでもうちょっと用心して、少女ポップという単語を(妥当かどうかはともかく)用いて、そういう界隈で、変なたとえですが「これぞまさに少女スピッツ!」って感じの作品って、そんなに無い感じがします。なんだろう、やはり「少女」という単語が、概念が、「恋」とかそういう概念の引力に強く引っ張られてしまうのか、どこか「等身大」風なものになってしまう(それは女子が曲を書く場合に限らず男子のそれでさえも!)。そういうものが良いと、そこに生じる繊細さとか自然体とか何とかが賞賛される、という、ナチュラルな「可愛さ」なのか何なのか、そういうのをきっと世の中は好きで、今日も明日も君とわたしの爽やか果汁二人乗り、てな景色が憧れで理想で尊くて、みたいな世間だと、少なくともぼくは感じていて。
 今作で、というか前作もそうだけれど、(ぼく個人がkalan ya heidiに対するいくらかばかりの貢献の中で)試みていることの大きな一面は、そういうのをひん曲げてしまうことだった。その着想、というかシンパシー的な意味では、やはり相対性理論(バンド)の存在感というのはとてもあった。あの人らが成し遂げたとても重大なことのひとつが、ゼロ年代オタク文化の煮詰まって脱力ったやつを丁度いい具合にテキトーな塩梅でSFだとか学校生活だとかに結びつけて投入することで、純情可憐な少女ポップの「素直さ・自然さ」の部分を徹底的に脱構築ってしまったことだ。調子に乗って脱構築なんて言ってみたが、要は「さも日常のように歌ってるが、お前みたいな日常があってたまるか!」ということだ。そういう意味でやはりやくしまるえつこ節(?)というのは少女ポップの歴史の中で(その指向性は異なっているにせよその効能とかなんか雰囲気とかそういうレベル?で)最も「少女スピッツ」的な要素だったのかもしれない。
 この、ここでいう「スピッツ」的要素というのには注釈をつけておくべきだろうか。それは、「果てしない闇の向こうにOh!Oh!手を伸ばそー!」的に壮大な世界の話ではなく(それはそれで好きなので他意はないです)、確かに舞台設定としてはもっと日常、せいぜいちょっとした旅行、ピクニック的なレベルの旅行程度くらいまでの世界観において、しかし色んな角度、思いもよらないような角度から(少なくとも作り手は幾らばかりかそう願いながら)「不思議」が沸き出してきて非現実的に何かを変えてしまうような、つまり「不思議」が日常をさりげなくしかし実はエグいくらいにハッキングしてしまうような感じのそれを指す(ことにしよう)。
 ここで少女ポップの世界でこのような試みをするときに発生する問題が、いわゆる「不思議ちゃん」属性に閉じ込められてしまうことだ。「不思議ちゃん」属性をここでは二つ想定する(パッと浮かんだだけ)と、
・「あーああの娘あんなに変なキャラつくっちゃってー」タイプ
・「うわ…なんか怖い…少女聴くのやめて家でパラッパラッパーしとこ……」タイプ
となり、これらのどちらかに深く入り込んでしまうと、それはそれでそういう世界観としてアリかもしれないが、「少女スピッツ」というイメージのバランスからは滑り落ちてしまう感がある。アイドルだと、目立ってなんぼの世界だし、不思議キャラなら前者寄りの方がグイグイくるだろうし、逆にアーティスティックになれば後者の方面で「女の業・少女の業」みたいなの(大森○子?)があるのだろうか。

 でももし自分がそういうのに関わるなら「少女スピッツ」くらいのバランスがいい。

 いわゆるインディーロックとかいう音楽の良さ、その中でも特にぐっと来るのは、さりげなくも貧乏貧相な日常くさい(少なくともゴージャスとは感じない)感じと同時に、何かが全然違っていて「あれっ?」って具合に目についたり、焼き付いたりする類のものだ。Pavementだって、Wilcoだって(Wilcoをインディーバンド呼ばわりは最早ムリか…?)、Deerhunterだって、中村一義だって昆虫キッズだってミツメだって、なんかそういうところだと思う(これが例えば大げさに言えばスマパンとか、Syrup16gとかART-SCHOOLとかだとやや話は違う気がする)。

 別に貧乏貧相でもないと思うし、むしろ拘り抜かれて制作されている音はいいよもぎ菓子のように味わえると思うし、そして何と言ったってボーカル二人の声の澄み具合は最高だ。どんな汚い言葉を吐いても、エグい中身を歌っても、その響きは決して濁らないんじゃないかと思う。
 だからこそ、できることがあったし、することができた。本作に関わることができて、とてもとても嬉しいばかりです。聴いていただく方にどう思ってほしいとかいうのはあまり口に出したくないが、「なんか不思議だな、でも悪くない感じに不思議だな」と思っていただければ、それは大成功なんだと思う。


 無駄な駄文を久々に出してみましたが、とにかくいい作品だと思います。良かったら買ってください。手売りもありますので、ぼくに連絡いただければ(アドレスは右上プロフィール欄にあります。ツイッターでもOK)送料無料・まごころ(時にそれは物理的に)を込めて承ります。ので、よろしくお願いします。