ブンゲイブ・ケイオンガクブ

本を読まない文芸部員と楽器を練習しない軽音楽部員のような感じのブログ。適当な創作・レビュー等々。

『ILLMATIC BABY』ART-SCHOOL

ILLMATIC BABY

ILLMATIC BABY

 

 ミニアルバムは全曲レビューしてもフルアルバムのおよそ半分の手間で済むから楽で助かる!ART-SCHOOL全曲レビュー、今回は2008年リリースの、通算9枚目のミニアルバムとなるこの作品です。ジャケットのゴリラは一体…?欧米ではクールさの象徴という噂もあるけども果たして…。

 このミニアルバムは確か彼らのベスト盤と同時かもしくは相当近いタイミングでリリースされて、オーセンティック(?)なアートスクールをベストで聴くのと同時にこのミニアルバムで「最新形の」アートスクールが聴ける!という触れ込みだった。当時の「最新形のアートスクール」とはどんなものだったのか。

 

 

1. ILLMATIC BABY(3:53)

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当時のアーティスト写真。PVが消されてしまったのか見つからない…。

 アートスクールが盟友DOPING PANDAのフルカワユタカ氏をプロデュースに迎え制作した、まさかのニューレイヴ曲。この時期はアーティスト写真もニューレイヴ的なファッションをして写っていて、ニューレイヴ感を前面に押し出していた。Klaxonsの1stEPは2006年だけども…更に今作でニューレイヴ色のある楽曲はこれだけだけども

 レトロな無機質さで弾むシンセと、低くダークな攻撃性剥き出しのベース。シンセのリズムとベースのそれとが微妙にちぐはぐな感じに聞こえるのが、バンド演奏が入った瞬間に、そのズレがスッと噛み合う。この、The Kinks『You Really Got Me』から始まる「イントロ外し」のシニカルさも鮮やかに、享楽的なマイナーコードの世界が展開されていく。まるで憂鬱さも寂しさも感じさせない、いやにギラついたマイナーコード。フリーキーでいかがわしげなリフを弾くギターの音も、機械的にハットを刻むドラムも、太く低く硬質なベースも、みんな「自分が今夜いちばん暗躍してる」って顔をしているような演奏。

 そんな「暗躍感」はボーカルさえ例外じゃない。ダブルトラックで録音された木下ボーカルは、これまでそのような例が殆ど無かく*1、むしろ声を生々しく聞かせることに注力してきていたので、アートスクールを順番に聴いていくとこの「声の距離」に新鮮なものを覚える。ダブルトラックは声の生々しさを消す方向に作用する。リバーブも掛けられ、怪しく響く。

 楽曲は、サビで何故かサッカーのコールみたいな感じに盛り上がる。シンセ類も密かに多用され、エフェクティブな音像になっている。更に間奏では3連符のリズムに変化して、奇怪な機械っぽさを放ったと思えば、ブレイクではサビのトラックがデジタル式にフランジングさせられ、光景が歪むような手法が用いられている。つまり、楽曲の色々な仕掛けが聴く人を「デジタル的に幻惑」しようとしている感じのサウンドというか。半ばプロデュースされるがままの悪ノリすら感じさせる。

 歌詞。これが一番悪ノリの極みだろう。歌い出しからもう。

僕のイルな40口径 君の無垢な流線型へ

突き刺さってできたスカーティッシュ 舌を出して味わって

ああセックスですね。逆にアホっぽくてなんとも。この曲はそういう方向性に突っ走ってるので「いつか忘れてしまう君」みたいないつものノリが希薄で、ともかくセックスへ誘うかのような享楽的でチャラい。これはこれで新鮮な気がしたり。

 なお、折角のフルカワユタカプロデュースで音楽的に挑戦した感じがあるけれども、この曲のドラムの感じが中々木下氏の思うようにいかなかったために、それが今作後の櫻井氏の脱退に繋がってしまうのが、中々微妙なところ。ぎこちなくは聞こえないけれども。

 

2. 夜の子供たち(3:21)

 前作で習得したダークでゴス気味なギターワークとBloc Party的なポストパンクなノリをポップなソングライティングに落とし込んだキャッチーな1曲。タイトルは1996年のフランス映画に同名のものがあるらしいのでそれからか。それともサルマン・ラシュディ『真夜中の子供たち』からか。

 イントロから威勢良くギターが短く刻みながらリフを作り上げていく。ドラムもただの8ビートのはずなのに微妙にハネているのか、特にドラムフィルとギターの唸りが並走する箇所は馬に鞭打つようなビート感がある、というか。何言ってんだこれは。歌が始まってからのギターもアルペジオではなくかなりきっちりとフレーズを弾く。2番でカッティングを挟み込むところといい、戸高氏がマイナーコードに映えるヒステリック気味なギターフレーズを沢山披露している。

 曲自体はAメロ→サビの木下理樹王道な構成ながら、戸高氏の頑張りに加えて、前曲に続いてのダブルトラックのボーカルや、鉄琴やシンセの導入、そして、ひたすらニューウェーブ的に同じフレーズを反復するメロディで、この曲を奇怪的な部分と幻想性が拮抗した魅力的なものにしている。特に2回目サビの後の轟音になる展開は中々に大味だけども、この曲の馬に鞭打ちビートの中でこれが出てくると実にハマってる感じがある。

 歌詞。こちらは前作で復活しつつあった初期アート的なカットアップ感がより前面に出ており、そしてそれらの言葉からのイメージがややカオティックに混濁しているところがこの時期的にも思える。けれど基本的にどこかロマンチックさもある。

天使たちの吐息 アンドロイドの精子

水道管がねじれて そして綺麗な水があふれた

そしてサビの、見事な「セカイ系」っぽさ。

You & Iの世界で 僕等は愛し合うんだ

こぼれ落ちたロザリオ 胸に抱いて 祈った

「祈った」の箇所を叫ぶでもなしに淡々と繰り返して歌うあたりに、この時期本格的にアートスクールがポストパンク志向のバンドになってきた感じが現れている。

 この曲は今作のツアーより後のライブでも時折演奏されるレパートリーになった。各パートとも色々忙しくてライブ映えする感じがする。

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3. 君はいま光の中に(5:28)

 作曲者である木下本人が「合唱系」と呼んでいた、確かにサビで歌い上げる系になったバラード曲。このミニアルバムもまた、結構曲調に脈絡が無い。

 冒頭のコーラスがかかったギタートーンからして実に冬っぽく、いよいよ演奏が始まると、ギターのフレーズも楽曲のコードも実に冬っぽい冷たさがある。アレンジはシンセ等も配置されているがメインはやはりギターの冷たさげなフレージングによる。やはりどこかThe Cureっぽさがある。

 楽曲のメロディはAメロ・Bメロ・サビに加えてミドルエイトまで用意され、サビではシャウトを見せる箇所も用意し、ミドルエイトの後はギターソロの時間の後、りんりんと雪が降るようなブレイクからの大サビまで準備されている。かなり作り込んだ構成と透明感に満ちたメロディになっているが、そんな要素とコード感からか、意外とエイベックスのマイナーコードバラードとかに接近している風にも聞こえる木下理樹の声は全体的にエコーが掛けられ、特にサビではそれが強調される。この曲、意外とアートスクール以外の人がカバーしてもうまく仕上がる曲かもしれない。終わり方が存外にそっけない気もするけども。

 歌詞も感動系な路線。『光と身体』とかに繋がるような内容で、どうしてこの曲が3曲目なのかよく分からなくなる感じがする

海辺に流れ着いた 人形の瞳はブルーだった

こぼれた哀しみは 置き去りにされたまま

この辺アートスクール的な世界観と歌謡曲っぽい詩情が交差してる感じがする。

何となく生きて生きて どうだって良くなったけど

今何を待つべきか分かった気がしてさ

詩的な情景を描いたかと思えばこんな投げやりさも見せるところは木下理樹の人間臭くなってきた部分かもしれない。初期アートならこうは書かないかも。

 

4. BROKEN WHITE(2:26)

 めっちゃBloc Partyな直線的な曲。ここまでやっちゃうか、的な部分があるけど、前作の『real love / slow down』的な享楽性は薄くて、ポストパンク的な直進性と機械的な破壊力に賭けて短い尺を駆け抜けていく。

 そういえばこの曲のビートは所謂「高速四つ打ち」だ。ただ、イントロからの短いパワーコードの連打は中々にBloc Party的。ギターのオブリ等も派手さや煌めきは抑えてひたすら直進的な要素に邁進している。木下ボーカルにはリバーブに加えコーラスが並走し、サビではタイトルをひたすら連呼して、ミニマルな展開で連打してくる。最後のサビなどはタイトルをひたすらに連呼して、そしてあっさりと終わる。『real love〜』のようなやりたい放題感は無く、ひたすらストイックに直進して停止した、って具合になっている。

To Sheila この泥の中で 身動きが取れずにいるんだ

透明な水を僕にくれよ このままじゃ気が狂いそうだから

前作のレビューで時期として設定した「14Souls期」に特有な歌詞のフレーズ。「ドラッギーな混濁」と「激しい行き止まりの感覚」が高速で併走するこの辺りは、そういう歌詞世界の新たな地獄化の様子が垣間見える。

 あと、恥ずかしながらこの曲と、曲の方の『Anesthesia』とがしばしば、どっちがどっちだったか分からなくなる。

 

5. エミール(4:37)

 今作で唯一のメジャー調でポップな、所謂スピッツ的な爽やかギターロック枠の楽曲。今回はエレポップな風味も色々と添えられている。

 イントロから、澄んだギターのカッティングやベースラインに合わせてバンドがストップ&ゴーする様子が可愛らしく、そこからサウンドが打ち込みのパーカッシブなリズムを伴いながら一気に開けていくのは、この作品の後半に牧歌的で豊かな広がりを与えている。時折ベンドダウンでアクセントをつけるギターの伴奏がアートスクールっぽい感じ*2。曲調的には『Burtterfly Kiss』をより軽快でノスタルジックにしたようにも感じる。「Tonight」と歌うリフレインも共通するし。

 New Orderチックな打ち込みと共に少しだけダンサブルに8ビートもしくは四つ打ちを刻むリズムは、楽曲の緩やかな浮遊感を上記のギターアレンジと共に支え、そしてメロディの滑空具合はその印象を完成させる。激しい高揚ではなく、余裕と感傷とが交差するような、優しげな浮遊感。ボーカルにリバーブが深めに掛けられていることもノスタルジックさをより強調している。リフレインのセクションのギターフレーズも「Flora期」からの流れを引き継ぎ非常にポップで美しい。

 歌詞。こちらもノスタルジックさを前面に出している。アートスクールの長調のポップな曲は次第に「ノスタルジック枠」になってきている。

ユトリロの日に降った雨は 舌で舐めたら血の味がした

フランスの画家のモーリス・ユトリロがよく分からない形で出てくる。あと、こんなにポップでノスタルジックな曲でも、この時期特有の「血液に対する混濁した拘り」の感じが歌詞に露出してくる。

今君が信じたもの みんな ろくでも無い 嘘に変わるから

実にポップに上記のフレーズを歌い上げる様はとてもアートスクールだなあと思う。『フリージア』以降に共通する木下的な優しさの目線を感じる。

 

6. INSIDE OF YOU(4:09)

 今作のラストはゴリッゴリのポストパンクナンバーで締められる。初期アートのグランジ的な音楽性はすっかり遠くなってしまったな…という感傷を抱かせない程度には激しく、また無感情的で格好いい。

 ゆったりしたリズムでエフェクティブにギターを響かせ混濁した感じを見せるセクションと、変拍子で攻撃的なリフを主軸に機械的に躍動するセクション、そしてサビで一気に直線的になる部分とでこの曲は構成される。混濁セクションと変拍子リフセクションは特にギャップが激しく、そこの揺さぶり具合がこの曲の真骨頂な部分か。特に、サビを2回目で早々に終わらせてからの、ブレイクから昏睡的に膨張していく混濁セクション→変拍子リフに戻って歌も無しにさっくりと終了、という曲構成に、バンドがこの曲はサウンドこそを前面に押しだそうとする意思が感じられる。リードギターも直線的でインダストリアル風味なフレーズとエフェクトたっぷりのトーンとを極端に使い分け活躍する。

 木下ボーカルは他の曲に比べると幾らか生々しいものの、やはりエフェクトが掛かっていたり、またサビではコーラスが重ねられるなど、アンサンブル中の楽器のひとつとしての存在感が他の曲にも増して強い。荒々しい歌い方のAメロから、The Police的な短いフレーズの連呼を強迫観念的な勢いで遂行するサビへの変化具合も鮮やか。

 歌詞も、今作の中では『BROKEN WHITE』と共通する「行き止まり」の感覚が支配している。アッパーな興奮やドリーミーさが抜けた後の寂しい光景が浮かび上がる。

欲望は尽きて 君さえも無くて ゴミだめの部屋で 俺は探してる

真実の音で お前は壊れた 聖書にあった救いは何処にも無いぜ

「14Souls期」の木下がよく言及する「聖書」は、聖書的な救いを求めながらも、そんなもの自分には全然ありはしない、という「抜け道の無さ」の象徴として登場する。それにしてもこの生活感が露骨な生々しい殺風景さに、今作の1曲目の極彩色なイメージとの激しいギャップを感じさせるし、おそらくその落差は意図して示されているものだと思う。

 一切の享楽の光景を振り切る、彼らなりの当時のリアルな無常観をマシーナリーに示した曲か。

 

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総評

 以上6曲、収録時間23分52秒。

 当時の今作のキャッチコピーに「新“狂”地」とか書かれててうわぁ…みたいなことを思ったけれど、しかしながら前作『左ききのキキ』でやや外れかかったタガが今作で一気に外れた感じはします。もう何でもあり。特に、これまでは生々しさを残すことが聖域めいて大事にされてた感のある木下理樹の声自体を積極的に弄ってきてるのが、その変化の象徴なのかなと個人的に思っています。

 もちろんサウンドもかなり変化をしていて、ざっくり言えばグランジからポストパンクへ大きく舵を切ったものに。今思えばニューレイヴというジャンルもテンションの怪しくて高いポストパンクみたいな感じだったなあと思うし、またThe Cure的な繊細で極彩色なニューウェーブな感じではなく、あくまで「ポストパンク」な醒めてモノトーンなダークさが、今作の根底になっているのかなと思いました。勿論『君はいま光の中に』や『エミール』といった楽曲があるのでそればかりでもないところですが。

 ともかく、「何でもできるバンド」へこれまでになく大きく踏み出したのが今作だったのかなと。『Flora』の反動で思いつくままに振り切った前作のエネルギーを更にドーピングして、勢い余って捻子切れたような可笑しさと哀しさがどことなく漂ってくるような。その哀しさは、今作及びその後のツアーをもってアートスクールを脱退してしまったドラムの櫻井雄一氏のことも含まれているのかもしれない。バンドの方向性と合わなくなってきて、という理由だったけれど、確かに今作では氏の重厚さそのものが高速で躍動するダイナミズムが前面に出た曲が無いようにも思えて、寂しさがあります。

 そしてその後、新たなドラムを迎えて(この時期を“第3期アート”と呼ぶこともあります)、キャリアでも随一の混沌としたフルアルバム『14SOULS』の制作に向けてバンドが邁進していきます。今作はその前哨戦にして、しかしぎこちなさこそが醍醐味でもあるポストパンクというジャンルのことを思うと今作の方がよりポストパンク的であり、またその感じがのちに木下がアートスクールと別に結成したKilling Boyにも繋がっていくような、そんな意味でも価値のある作品でした。

 あとはこの時期、木下理樹戸高賢史がアチコ他と結成していたKARENのアルバムリリースもあったり、元メンバーの大山純氏がストレイテナーに加入したり、そしてアートスクールのベストが出たり、色々とあった年でした。

 

MAGGOT IN TEARS

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Nexus

Nexus

 

 

*1:前作の『Ghost of a beautifll view』で初出。

*2:『レモン』や『FLOWERS』等のポップな曲でも見られるこのようなギタープレイは何気にこのバンドのポップさのトレードマークのひとつだよなあと思う。