- アーティスト: ART-SCHOOL,木下理樹,戸高賢史
- 出版社/メーカー: ポニーキャニオン
- 発売日: 2007/09/19
- メディア: CD
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ART-SCHOOL全曲レビュー、4枚目のフルアルバム『Flora』の次はこのミニアルバムになります。2007年は『Flora』とこれの2枚をリリース。ミニアルバムの枚数としてはメジャー・インディー合計でえっと…8枚目?*1
前作『Flora』が「彼らにしては実にポップにThe Cureした」みたいなアルバムだったとすれば、今作はその反動で荒んだグランジロックに回帰する等のことをした作品、となります。意外と単純な“原点回帰”ではないよなーとは思っています*2が…各曲を見ていきましょう。
しかしジャケットの感じはなんか『SWAN DIVE』のPVを引きずってるかのような感じっすね。
- 1. SHEILA(3:37)
- 2. 左ききのキキ(3:20)
- 3. Ghost of a beautiful view(4:36)
- 4. Candles(3:12)
- 5. real love / slow dawn(3:38)
- 6. 雨の日の為に(2:06)
- 総評
1. SHEILA(3:37)
いきなり原点回帰を感じさせるゴスいアルペジオが…はいダウト、こんなの初期アートじゃありません。新機軸です。
サビの分厚いディストーションギターとシャウトな感じの楽曲で「グランジ回帰」の一端を担っているようにも思える楽曲。しかしグランジというよりもむしろNUMBER GIRL『I don't know』に似ているとよく言われる。叩きつけるような攻撃的なリズムが一致しているからと思われる。そのリズムはグランジ的というよりむしろポストパンク的。ただ冒頭のゴスいアルペジオがあるように、単純にナンバガっぽい曲、っていうわけでもない。つまり、マイナー調パンク・ポストパンクに本格的にサウンドを広げた曲、というのが正確なのかなと思ったりする。ダークに・破滅的に疾走するアートスクール。
ナンバガとのリズムの一致でも分かるとおり、この重戦車のようなドラムを軸に楽曲が進行していく。そこに絡みつくギターフレーズが色々とゴスっぽい感じなことが、今後特に数作のアートにおいてとても重要になる。『SAD SONG』でこの系統の触りを作り、この曲から一気に本格導入、って感じがする。
それにしてもこの曲のアレンジは、シンプルな曲構成(Aメロ+サビ)の割に、1番と2番で伴奏の抜き差しや新フレーズ追加を行い、色々と曲にメリハリをつけようと努めている。特に面白いのが2回目サビ後のブレイク後で、細かい鋭角的なギターカッティングの後に、四つ打ちの上でリズミカルにワーミーを踏みまくるという、シンプル極まりないギターソロを見せる。
この辺のギターの感覚を見るにつけ、こういうサウンドはどことなく、当時ファン層が広がりつつあった残響レコードのバンド群を思わせるキリキリとした感じがある。演奏の切り替えが多いのも、残響レコード的なポストロック感と同質なもののように思える。
こんなキリキリした楽曲に、ザラザラに痛めつけられたような歌詞が乗る。
残像 傷痕は深くなった ごらんよこのザマを 笑えるぜ
呼吸をすることも困難です 気づいていないのかい? 死んでんの
『Flora』で見せた数々の疲弊を超えて、遂に木下本人が死んでしまった。この何とも打ちひしがれて悪いジョークを飛ばすような感覚が、今作のベースとなるムードだ。
2. 左ききのキキ(3:20)
www.youtube.comなぜか映画『家族ゲーム』のパロディ。櫻井さんがやはり全部持っていく。
このミニアルバムはなぜかタイトル曲が2曲目にある。確かにこの曲順の方がインパクトが出るのでいいと思うけども不思議。そして、この曲だけは本当に“原点回帰”的な、初期アート的な疾走グランジ感のある楽曲。もっと言えば『MISS WORLD』『アイリス』辺りの正統進化形態、もしくは素晴らしい焼き直し。
実際に、アレンジについては初期アート的な要素を的確に備えている。add9なアルペジオからサビで一気にディストーションが掛かるギター、リム叩きで溜めてから爆発するドラムアクション、そして何より、静かで緊張感あるAメロからサビで張り裂けんばかりになる、木下理樹のソングライティング。この辺りは単純な原点回帰というよりも、各メンバーが初期アートの疾走感の魅力をかなり的確に分析して、それぞれ実践して再構築したもののように思える。
そして“原点回帰”以上の要素がちらほら。ひとつは第2期になって重戦車感が完成した桜井氏のフィルインの重々しさ。初期よりも遥かに重いドラムの躍動が、やはりこの曲の強力な推進剤になっている。いまひとつはサビのオブリや間奏等で躍動する戸高氏のワウギターで、刺々しさとはまた違った印象を楽曲に与えている。そう、この曲は初期アートっぽい曲だけど、刺々しさよりもむしろ今作のジャケットのような水中感がある。これはカラカラな感じの印象が強い初期アートと大きく異なる。
そして歌詞。この曲の歌詞にこそ、前作からの今作というスタンスが、半ば所信表明的に、故意犯的に忍ばせてある。
このドアを開けると 生まれ変わる
何もかも忘れて 生まれ変わる
それならば僕は此処にいるよ
それならば君と此処にいるよ
まるで「生まれ変わ」ろうとした前作からの撤退宣言だ。荒涼としながらも「白鳥になれそう」で「手を繋いでいよう」とまで言った前作からこの地点まで後退する、その足取りを思うと痛々しい。「閉じた」アートスクールのイメージを全開に示した、前作の中途半端とは言え晴れやかな表情が好きだった自分のような人間からすると、少しさみしくなるような開き直り。まあ実際はそんな簡単に「閉じれる」ほど単純じゃないのだけれど。
いつかこんなメロディも 透明な君の髪も
聞こえやしない日が来るよ 映りもしない日が来るよ
喪失についての痛切で甘美な妄想。アートスクールの楽曲で何度も登場するこのモチーフも、端的に纏められている。いつか失われる「君と僕」の世界。この重厚な疾走感に乗せてどうしてこんなことを歌わないといけないんだろう。悲しいかなこのフレーズとそのメロディは痛々しいくらいにキャッチーだ。
3. Ghost of a beautiful view(4:36)
薄らと残った前曲のエフェクトから急にこの曲の轟音に切り替わる。そう、これは根暗にシューゲイズする曲だ。やはり初期アートの感じではない。ちなみにB面集編集時のファン人気投票で上位に入り、見事B面集『cemetery Gates』の最後を飾ったのがこの曲だった。そう言えば筆者もこのB面集の選曲を妄想した記事でこの曲を入れました。
この曲のアート楽曲の中での最大の特徴はダークでゴスなシューゲになっていること。今までもアートスクールでシューゲイザーに括られるタイプの楽曲はいくつかあったけれど、それらはどれも陽性のコード進行を持っていた。それに対して、この曲のコード感は、はっきりマイナー調じゃないにしてもかなりダーク寄りだ。そして、淡々と進行するリズムの上で吹き出す轟音は、よく聞くとアコギの響きとエレキのアタック感とが混在した、繊細でフォーキーですらある轟音になっているのが特徴か。この単調なフォーキーさをキープするために、ベースやドラムも非常に淡々としたプレイに徹している。
そして、この轟音がずっと継続していけるような曲構成。Bメロもありながら、それは少しブレイク的に使用され、そしてAメロとサビは完全にサウンドを共有してしまっている。つまり、この曲は非常に平坦に、そしてフォーキーにシューゲイズしていく。不思議と浮遊感を感じなくて、深い霧の出た森の中に迷い込んでいくような感じがし、それはシューゲイザーの曲としても不思議に思えるような感覚だ。木下ボーカルもダブルトラックで録音されており、前二曲で見せた生々しさはほとんど排除されている。
そんな霧に満ちた森の中で「君と僕」の境が混濁したような物語が展開していく。
あなたの世界は僕で 僕の世界はあなたで
あなたの傷は僕で 僕の傷はあなたで
そして、ドラッギーに寄った歌詞世界。
海辺へ急ぐカンガルー 左目が義眼の神父
洗礼の恵みを受けずに 愛をまさぐる子供達
恋人達が路上で 血を抜き そして混ぜ合った
子宮の中にある月 食前に捧ぐ祈り
ちょこちょこキリスト教的な単語が出てくるのは、当時木下氏が聖書を読んでいたため。そのためこの曲の歌詞は少しゴスっぽくなっていて、それが楽曲のダークなシューゲイズ具合と共振して、いつになく不思議な雰囲気を作り出している。
童話のようなフォーキーで単調な朗らかさが、シューゲとゴスと混濁したイメージの陰に常に脅かされ続ける、そんなイメージのする楽曲。今作では異端の方向性のように思えるけど、実はこのアルバムの収録曲は言うほど統一感は無い。
4. Candles(3:12)
戸高氏の作詞・作曲・歌唱によるグランジソングのパロディのような曲。もとい、NIRVANAをちょっとゴスくしたような楽曲。むしろSmashing Pumpkins的か。これは正直…やや悪ふざけ気味と言えそう。
コーラスでギラッギラのイントロのアルペジオはかなりゴスくて「おっ」と思うけれども、その後のパワーコードで「ああ…そういうこと」ってなってしまう。重量感出しまくりのドラム・ベースと、低音モリモリなミックスと、コーラスでグジュグジュなAメロのコードカッティング、そして戸高氏の荒々しく投げやりなボーカルが聴きどころ。しかしサビの後に「Yeah…」って言っちゃうのは完全に『Smells〜』やん…。
歌詞も、戸高氏の趣向的なゴスさを前面に出したもの。失礼ながら、どこまでがネタなのか分からんようなおどろおどろしい雰囲気…。
Carry on そして差し伸べて 救いの光を
それは消えそうな 慈愛のネオン
「慈愛のネオン」というフレーズが散々2ちゃんねるのアートスレでネタにされていたのが懐かしい。そういえばキリスト教的なフレーズが前曲から続けて出てくる。狙った曲順だろうか。
5. real love / slow dawn(3:38)
『Ghost〜』と並ぶ今作の聴きどころ。イギリスのポストパンクリバイバルへのアートスクールの回答…もとい、Bloc Partyパクり路線の華々しい1曲目だ。このミニアルバム色々とはっちゃけ過ぎてる…。
逆に、この曲の魅力を説明するにはまずBloc Partyのサウンドの魅力を説明しないといけない。なんてっこった…。Bloc Partyの魅力は、その直線的でマシーナリーなビートに鋭角的で引っかかるようなギターが絡み、ケリー・オケレケのダークで警鐘的な楽曲が攻撃的にドライブしていくことだろう。ここでアートスクールはそれらを見事に取り込んだ。
もう、この曲の歌が始まる前のギターリフが入ってくるところを聞けば、元ネタが分かってれば笑ってしまうだろうBloc Partyのギターはラッセルというけれども、戸高氏のそのプレイの特徴をよく掴んだギタープレイの自在さには笑ってしまう。特に間奏で自在に「それっぽい」ソロを弾き倒す、あまつさえトレモロで「それっぽい」マシンガンサウンドまでやってしまうところは、最早あっぱれとしか言えない。
しかし、この曲のパクリなようでパクリじゃ無いところはやはりドラムの重厚なところだろう。ダンサブルに四つ打なプレイながら、そこにはBloc Party的な直線性とは趣を異にした、程良いハネが入っている。Bloc Partyの曲を猥雑に発展させたかのような、ブードゥー的とさえ言いたくなるような闇のダンス感は、この重くてハネるビートとそれに嫌らしく追随するベースのグルーヴでできている。それでもサビのパワーコードで短くキメていく展開はかなりBloc Partyっぽさがありつつ、しかしやはりドラムの鈍重さのおかげでSmashing Pumpkinsっぽくも感じられる*3。
木下による楽曲もこれまでと変わらないシンプルな構成・割といつもどおりなはずのメロディながら、このBloc Partyメソッドによって非常に新鮮な感じに聞こえるから凄い。猥雑なビートに乗って、ボーカルも心なしかダークさ・嫌らしいファニーさを強調した風である。リズミカルに混濁した猥雑さを口にしていく。特に2回目のAメロが、改めて読むと実に最低で素晴らしい。
いつから穴が空いた 心は死んだ魚
花なら昨日捨てた ねえ 見なよ
揺れてるレプリカント 「ゴムくらいちゃんとしろよ」
光を俺にもくれよ ねえ くれよ
次作以降のアートスクールは何作分か「ドラッギーであること」をテーマに作品を作っている感じがあり、色々と露悪的で雑然として深刻なのに軽薄なノリが散見されるが、それらはまさにこの曲から始まり、そして正直この曲がそういうノリにおいて最も出来がいい。
この享楽的で攻撃的なダンスチューンは本人たちにも好まれ、初期アート以外の選曲がかなり少ない時期のライブでも時折取り上げられていたことを覚えている。
6. 雨の日の為に(2:06)
ミニアルバムの締めは実に淡々としたエレキギター弾き語りのような楽曲。実に…コメントしづらい。
コーラスが掛かったギターのアルペジオは、やはりどこか、教会めいた雰囲気を出そうとしている感じがする。木下のボーカルにもホールリバーブ的なものが掛かっている。賛美歌のような雰囲気を狙って、根暗であっさり終わるよく分からない楽曲になっている。
おそらく「朽ちていく教会で堕落して抱き合う僕と天使の君」みたいなイメージの曲なんだと思う。今作のキリスト教路線の締めでもあることが、曲の雰囲気や歌詞を改めて読んで分かった。それにしても、こんな曲にもドラッギーな表現が混入されている。
僕らの唇は 嘘しか話さない
汚れた血管に あなたが口づける
強い祈りも無く、力強さも、さっぱりした感傷とかも無く、なんとも言えない後味と湿り気を残してミニアルバムは終わる。
・・・・・・・・・・
総評
以上6曲、20分26秒。ミニアルバムなのでまあこんなものかなと。やや短いか。
もう散々書いたので繰り返しになってしまうけど、今作は「初期アートへの原点回帰」というよりもむしろ「ダークでゴスな作風への移行」こそが本当のテーマだと言えそう。何しろ、これまではシングル・ミニアルバム・フルアルバムを問わずに、最低でも1曲くらいはあったメジャー調の楽曲が、今作には存在しない。楽曲の大半はマイナー調を強く匂わせるコード感を持つ。
それ以外は、意外と統一感を放棄した感じの作りだ。『SHEILA』も含めれば、アルバムの半数がグランジ調、と言えなくも無いが、正直このアルバムの聴きどころは「それ以外の2曲」つまりシューゲな『Ghost〜』とBloc Partyをブードゥー化した『real love〜』だと思う。
むしろ、前作『Flora』の明るさと暗さの両方ありつつも前向きに充実した内容から、一気にダークでかつ投げやりな感じに変化したことに、改めて音源を追っていくとショックが大きい。『Flora』のセールスの不調だけが原因では無いと思うけれども、ともかくこのミニアルバムのアートスクールは荒れている。はじめから綺麗に纏める気なんてサラサラなかったんじゃないかと思う。その痛々しさをそのまま、思いつく限りの色々な手法で楽曲にしてみたと、そんな風にさえ感じられる。
それでもバンドサウンドにひたすらパワフルさを覚えるのは、やはり櫻井氏の重戦車ドラムが円熟の域に達していることが大きい。次作を最後に脱退してしまうのが信じられないくらいにサウンドを強く牽引している。また戸高氏も今作では、残響レコード的にゴスでポストロックなギタープレイに可能性を感じまくってるように感じる。
そんな「前作からの反動やフラストレーションを手当たり次第にダークに試して、強靭なバンドサウンドで強引に纏め上げた作品集」が今作だった。次作以降より「何でもあり」になっていくアートスクールの、ひとつ重要な転機であったことは間違いない。
むしろ、『左ききのキキ』の歌詞ではドアを開けずに生まれ変わらないことを選んだ風だけど、全然ダークに生まれ変わってますやん!と言いたくなる。
あと、今作〜次作『ILLMATIC BABY』〜次々作『14Souls』そしてさらに次の『Anesthesia』までの時期が、自分の中では「Love / Hate期」とか「Flora期」とかと同じような括りに感じられる。ただ、これらの時期を総称できる上手い名称が浮かばないのも事実。ひとまずまだ先だけど「14Souls期」とでもしておこう。キーワードは「ダーク」「投げやり」そして「ドラッギー」な時期。