ブンゲイブ・ケイオンガクブ

本を読まない文芸部員と楽器を練習しない軽音楽部員のような感じのブログ。適当な創作・レビュー等々。

好きな曲A to Z(3/26(予定):Cの曲)

 このシリーズの構成について色々考えてて、最初は選曲時の制約の面ばかりり考えてたけど、書き始めるとそのスタイルとかも色々出来るなーって思い始めた。

今のところのルール。赤字は前回からの変更点。
・好きな曲をAからZまで一曲ずつ挙げていく企画。今回はC
・なんとなくAからZまで全部異なるアーティストにする。
 (他の候補曲については同じアーティストをいくら出してもOK)
・他の候補曲にもちょっとコメントする
・初回にちょっと上げた画像のリストは全然変更されうる。

 C頭文字だと、callとcan、child、christmas、close、come、cryなどで始まる曲の多さが目立ちました。



C
Can't Stand Me Now/The Libertines
(from Album『The Libertines』)
The LibertinesThe Libertines
(2004/08/19)
The Libertines

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ホモが嫌いな女子なんかいません!

 この一文でコメントを打ち切っていいとおれの中の大野さん成分が告げているけれど、もう少し解説を。

 日本のBL市場で最も人気のあるミュージシャンは恐らくバンプだろう。正直自分はそっちの方に全然通じてないので、どこまで危うい言及をしたものかとは思う。

 バンプがなぜそんなに女子のBLにフィットするかというと、要因は幾らでも考えられるけど、そのうち重要なものの一つに、メンバー内のホモソーシャリティーの見えやすさがあると思う。いみじくも田中宗一郎がかつて言及していた「幼馴染が集まった運命共同体的組織論」の、緊張感とはまた違ったナイーブさ。田中宗一郎はこれを「初期U2なんだね」と言い切っている。U2のBL本があるのか、やはりエッジ×ボノの符点8分ホモセックスなのかという興味はまた別の話か)

 バンド内ホモの書き方としては、やはりメンバー間の緊張感を主軸に描かれるのかと思うが、所謂「幼馴染」属性はこれを打ち消す・変質させる方向に働く(ように思われる)。特にバンプはメンバーのユルい友達感覚な関係を公言していたバンドである。この幼馴染属性と緊張感の対称性は、2002年あたりのバンプとアートスクールを比較すると分かりやすい(???)

 前置きがいい加減長い気もするが、やっとここでリバティーンズに登場して頂こう。上で述べた幼馴染属性、どの程度からをそう言えるのか確かな定義はない(誰が作るんだそんなもん)が、ことバンド内人間関係においてそれは学校の同級とかよりむしろ、十代(特に18歳以下)のうちから一緒にいたかどうかが重要に思えるバンプは格別に出会いが早いが、日本でもう一つ幼馴染感の深いバンドなエレファントカシマシも十代からメンバーが変わっていない(エレカシのBL本が全く想定できない辺り完璧なホモソーシャルっぷり))

 この点において、リバティーンズの中枢、ピートとカールの出会いも十代のうちで、そこから二人は共同生活なども交えながら音楽活動を次第に活発化させていく。「アルビオン」を合言葉に紡がれていく彼らの制作遍歴は少なくとも話を見聞きする限りはとても美しく、そしてその期間のある程度の長さは彼らに幼馴染的な感覚を付与していく。

 そしてバンドはデビューする。ストロークスの後続的なシンプルさのイメージを持った彼らの楽曲は、しかしその内実は、英国音楽の歴史を土着レベルから掘り起こすような豊かな滋養と、イギリス下層階級の若者としての疲弊とプライドとが複雑かつ密接に混ざりあった、英国の天才的な若者にしか作り得ないものだった。日本人からしたらどこまでが下町訛りでどこからがテクニックなのかまるで分からないピートの歌唱法は、とりわけ唯一無二だった。

 しかしバンドはすぐに崩壊を始める。短い時には「ピートのドラッグ問題」と一言で言い表されるこの出来事は、しかし実際にはピートとカールの間の微妙な関係性の変化が、ドラッグも含めて極めて複雑な問題となっていったようだった。ピートが自棄で放浪すればカール含むバンドは彼から離れざるを得ず、その結果ピートがさらに自棄を重ねるような、悲しい負のスパイラルが発生していた(以上、ファンにおける必修事項)

 今回のテーマ曲含む彼らの2ndアルバムの楽曲は、そうした状況の中でかろうじて作られた。そう、このアルバムには、まさにバンド崩壊の最中の緊張感と、それでも楽曲上決して汚く乱れることのない、二人の長年の経験が活きている。緊張感と幼馴染感、上で相殺関係と述べたはずのものが、このアルバムではむしろ、ギリギリの地点でバンドのポテンシャルさえ越えた何かを引き出している

 今回のテーマ曲はその最たる例である。リバティーンズの歴史は中枢二人の歴史であり、いちいちのゴシップなエピソードは全てバンドのストーリーに転換される。緊張と幼馴染が強烈に掛け合わされたそれをこの曲は曲構成・演奏・歌唱の全てで受け止める。下手とかそういうレベルで語れないぶっ壊れ感と「あれ、曲終わった?」感を醸し出す強烈なイントロからの展開はまさにジェットコースター的。普段以上に優雅に歌い上げるカールの出だしの後はピートがメインをとり、ポップにふらついたメロディは一旦サビのブレイクに帰着、そこからの怒濤のブリッジへの展開は、壊れながら駆け抜けていくようなロマンに満ちあふれている。

 歌を複数のメンバーでリレーするというのは昔からあることだろうが、リバティーンズほど鮮烈にそれをするのを僕は知らないし、そしてこの曲ほどそれがもの凄いのも知らない。カールとピートの対比。中盤より的確にコーラスを加えながらも時に過剰さを振り絞るカール。そして怒濤のピート節。圧巻はタイトルコールを二人で繰り返すサビの部分。相互に次第に熱を帯びて歌う。
You can't stand me now (No, you can't stand me now)
いちいち歌詞を抜き出しても仕方が無いほど、この曲の歌詞はそんな罵倒し合う二人の男のことしか歌ってない。そんなどうやったってリスナーの体験に還元できない歌が、しかしどうしてここまでロマンチックなんだろう。
I know you lie, all you do is make me cry
 And all these words they aint true
 I can't take me anywhere (I can't take you anywhere)
 You can't take me anywhere (I'll take you anywhere)
 I'll take you anywhere you wanna go!

バンドの破綻を情熱的に書き出す筆は、しかし的確過ぎてかえって作曲者の冷静な視点を覗かせる。つまり、この曲がピートに寄るところが大きいのかカールなのかは分からないが、このダダイズム的BLな歌詞を冷静に書き、それに相応しいブッ壊れ気味の演奏を施すようコントロールできる作家的な誰かが、確実にこのバンド(かその周辺)にいて、そいつは間違いなく天才である。

 ロック音楽の歴史はその時々で、カリスマ的に対立する男二人を生み出してきた。ジョン・レノンとポール・マッカーニー、ミック・ジャガーキース・リチャーズモリッシージョニー・マーetc

 そして近年、ロックバンドはそういう明らかにストーリーを描くようなものではなくなりつつある。だとすれば、ピートとカールの作り上げた歴史は、そういったストーリーの最後のものかもしれないし、そしてその典型的で決定的、相当に研究した脚本家がバックにいるんじゃないかと疑ってしまうほどのそれだった。僕たちは、ロックのある種のロマンの歴史が終わるところを垣間見たのかもしれなかった。血と薬物と夢と花束に彩られた美しき物語を、遠い海の向こうの話として少し興奮しながら適当に膨らませては消費する僕の姿が、BL想像をする女子とどう異なっているのか。というかこの二人を描いた耽美で香しいBL本は無いのか。それが問題だ。

 あと、再結成。いよいよ解散してまる10年、「この前の再結成」から4年なのかと思うと、そういったストーリーも過去の歴史の1ピースになってしまったんだと思って、なんだか頭がぼーっとしてしまう。

その他候補曲:
・C.M.C/The Roosters(from(各種ベスト盤・及びボーナストラック))
 初期メンバーの鉄壁の演奏といよいよ狂気ってきた大江慎也のソングライティングがギリギリで最高にクロスした破滅的で快活なパワーポップ。そうだよなーなんもかんも粉々になってほしーよなー。
・California Shake/Margo Guryan
  (from『Take A Picture Plus More Songs』)
 知る人ぞ知るソフトロック界のレジェンドお姉さんの更に知る人ぞ知る現役時(?)未発表レアトラック中の一曲。この曲の女ニールヤングっぷりは素晴らしい。この人の未発表曲集のクオリティおかしい。
・Care Of Cell 44/The Zombies(from『Odessey And Oracle』)
 60年代のサイケ・ソフトロック名盤のひとつの先頭を務める。まさに脳内お花畑なメロディ、アレンジ。コーラスのタメから一気にメロディが吹き出すようなところの多幸感。
・Ceremony/Galaxie 500(from『On Fire』)
 シンプルなくせに妙に高揚感のあるリフとメロディを持つ原曲を、とろんとしたギターをはじめもっさりした演奏で、まるで夕暮れに溶けるような感じにしちゃったもの。頼りなくて美しいライン。
・Chelsea Says/ART-SCHOOL(from『BABY ACID BABY』)
 木下理樹が時々書くストレートにポップなギターロック大好き。この曲は特にギターのガシャガシャ弾いてる感じとドラムのともかく手数バタバタな感じがホント最高にいい。全曲レビュー…?なんのこった?
・Chicago/Sufjan Stevens(from『Come On Feel The Illinoise!』)
 こういう曲作れてしまう人の才能って最早クラシックの世界のそれっぽいよなーと思いつつも曲調の優雅さ・雄大さに毎回感動する。まるでシカゴがとても美しい街みたいだなあ。
・cider cider/ミツメ(from『eye』)
 詳しくは『eye』の全曲レビューで書いたのでそちらを。こういうギターのシンプルな単音ファンクリフをプリンス由来ってよく言われるけど、具体的にプリンスのどの曲っぽいのか未だによく分からない程度のプリンス聴き量。
・CITY LIGHTS/andymori(from『ファンファーレと熱狂』)
 やっぱこの頃辺りまでの彼らは曲展開も歌も演奏も、スリーピースバンドで可能な限りに凝ろうとしてる感じがある。言葉の乗せ方の過剰さとリズムの良さ、そしてつんのめるドラム。
・Coffee & TV/Blur(from『13』)
 「シンプルなバンド編成、しかもギター二本の一本がアコギというとき、もう一本のエレキギターはどう弾けばいいか」問題に常に真摯な感のあるこの辺りの時期のブラーの真骨頂。グレアムの地味にもの凄い才能。
・Cold Star/Nine Black Alps(from『Locked Out From The Inside』)
 ロキノン系ダーク疾走ノリにかなり近い洋楽ナンバーのひとつ。日本のそういうのあんまり聴かないのに洋楽だと好き、みたいなのダブスタ感あるけど…でももっさりな声と演奏すごい好き。
・COSMOS vs ALIEN/やくしまるえつこ(from『COSMOS vs ALIEN』)
 やくしまるソロではピングドラムの二曲を除くとこれがいちばん好き。言葉詰め込んだ箇所からサビへ繋がるまでのふわっとした優雅さ、そしてそのサビを使い捨ててしまう曲構成。最後の謎展開無かったら2分台の曲なんだよなあ…詰め込みの凄みめっちゃある。
・Cowgirl In The Sand/Neil Young
  (from『Everybody Knows This Is Nowhere』)
 ニール大先生がまだ十分若かりし頃にお作りになられた最初期の長尺グダグダインプロ曲のひとつ。マイナーコードで焼けた砂っぽく渦巻いているような演奏、そして歌自体のフックの強さ。