私が運営してる「素敵な歌詞bot」につぶやかせるために翻訳した楽曲の歌詞の、個人的に気に入ってるもの15個を取り上げる記事の、第3弾です。現在208個ぐらい登録してますが、なんとなく翻訳ものがやっぱり投稿してて面白いなって思います。日本語の歌詞は内容いじれないから140字の制約が強いし…。
ちなみに第2弾は1年とちょっと前でした。1年でそんなに投稿パターン増えてないんだなって気付かされます…。
botに掲載している歌詞一覧はこちらの記事で確認できます。折角なのでこの歌詞一覧記事から気に入ってる翻訳シリーズに飛べるようにリンクも入れときました。
この1年でbotに追加した歌詞のうちの少ない分は、このブログの記事で翻訳したものの使い回しだったりもします。なのでそういうのは選んでません。
1. Well I Wonder / The Smiths(1986年)
喘いでるのに なぜだか生きてる
— 素敵な歌詞bot (@bot_suteki_kasi) 2021年10月26日
これはぼくの うんざりするような最後の戦い
喘いでて 死んでる なのになんか生きてる
これがぼくの最後の戦いの場なんだ
ぼくのこと心に留めておいてほしい
ああ 不思議だよ
ぼくを心に留めていてよ
『Well I Wonder』The Smiths
https://www.youtube.com/watch?v=6psa1ptpGTc
淡々とした演奏でドラマチックさの薄い、アルバム『Meat is Murder』でも地味側の曲なのかもしれないけれど、だからこそ、ソフトな形で綴られたMorrisseyの独特の自己憐憫の情緒が怪物的でない、よりしんみりとした形で伝わってくる気がします。終盤のファルセットの不恰好さが特に独特で好き。しれっとリズム要素に『Be My Baby』なフィーリングが混じるのもいい。
2. Add Some Music to Your Day / The Beach Boys(1970年)
音楽は
— 素敵な歌詞bot (@bot_suteki_kasi) 2021年10月15日
きみがひとりきりのときには
まるで連れ添ってくれるだろう
きみのみじめな魂に
1日が終わって ぼくは疲れた眼を閉じて
音楽は魂の中に
『Add Some Music To Your Day』The Beach Boys
The Beach Boys - Add Some Music to Your Day - YouTube
ビーチと女の子の軽薄な歌詞を書くのを得意とし、Paul McCartneyに歌詞の書き方の秘訣を聞かれて「簡単さ、地名を沢山入れればいい」と言ってのけたMike Loveは、でも本当に古今東西形式で単語を並べて歌詞を書くのが上手くて、それが誠実な形で活かされるとこの曲の美しい情緒に連なっていく。『I Can Hear Music』に続く、当時のバンドの音楽至上主義的な感じがとてもスウィートに出た名曲です。
3. Tulsa Jesus Freak / Lana Del Ray(2021年)
放牧場に帰れるかな
— 素敵な歌詞bot (@bot_suteki_kasi) 2021年12月2日
少し離れてないといけなかったから
神経を休めるためにね
貴方を笑わせてもいい?
貴方が選んでくれたとき
私は何でもないけど特別だった
風が吹いて 貴方の記憶を呼び覚ましてる
『Tulsa Jesus Freak』Lana Del Ray
Lana Del Rayの音楽のハイコンテクストさは時々全然よく分からんってなるけど、この曲の不思議に怪しい雰囲気にはとても惹かれました。カルト宗教っぽい、いかがわしさと神聖さが交わったような雰囲気というか。アメリカーナ志向にしても、その視点のどこか邪悪な様がこの曲の入ったアルバムのチャームポイントなんだろうなって、アメリカでの陰謀論の最たるもののひとつである「ケムトレイル」を冠したアルバムタイトルからも感じられます。
4. Only You / Portishead(1997年)
私達の凄惨な日々は何のため?
— 素敵な歌詞bot (@bot_suteki_kasi) 2021年11月15日
こんな罪の幻想に騙されてる
今私は倦んで 甚だ滅入ってる
私を見れるのは貴方だけ
木彫りの心を変えれるのは貴方だけ
戦場の大きさ ただの夢
朝の我儘 見える全て私達は壊し回った
失敗の技巧 甚だ滅入ってる
『Only You』Portishead
うんざりするような行き詰まりのパートナー関係のドロドロ具合が、Portisheadの2枚目のアルバムではよく見られます。憎しみの相手でもあり、でも共犯者でもあるような関係性の苦しさが渦巻く様に、その業の深い様相に、どこか格好よさが感じられてしまうのは何故なのか。「罪の幻想に騙される」って、よく考えたらどういう状況のどういう意味だ?でも格好いい。
5. The Good Old Days / The Libertines(2002年)
でも 愛と音楽への信仰を失くしたなら終末も近い
— 素敵な歌詞bot (@bot_suteki_kasi) 2021年11月27日
きみが失くしたらぼくも同じで 負が満ちる
昔のクソに戻らないよう努めてたのに
「昔は良かった」とやたら言うのはうんざりさ
「古き良き日」て それは今この時なんだけど
『The Good Old Days』The Libertines
The Libertines - The good old days
人間関係とドラッグでボロボロになっていくこのバンドの歴史も、その根底にこの曲の歌詞にあるような「愛と音楽への信仰」があるからこそだよなって思います。新人として出てきたバンドがこんなこと歌うのは単純に格好いいなって思うし。「愛と音楽への信仰」がもつれていく中で形作られたのが彼らの音楽なんだろうな。
6. Autumn Almanac / The Kinks(1967年)
夜明けの水混じりの生垣から芋虫コンニチハ
— 素敵な歌詞bot (@bot_suteki_kasi) 2021年11月23日
ぼくの秋の暦だ
カビ臭い黄色した枯葉が風に飛んで袋に片す
ああ ぼくの秋の暦
金曜の夜 酷い天気から逃れる人々
紅茶と焼いてバター塗ったパンで
太陽喪失を誤魔化す 夏は過ぎちゃったもの
『Autumn Almanac』The Kinks
The Kinks - Autumn Almanac (Official Audio)
度重なる曲調の変化に転調に、そしてこんなしみじみとして地味で残念なこの曲をシングルとしてリリースしてくる当時のバンドの、偏屈で、しかし確信めいた姿勢が格好いいです。こんな曲でも当時英国チャートで3位につけてて面白い。何のドラマチックな物語も起こらない、ただただ街中の冴えない光景を綴る歌は、でも人々の普段の暮らしなんてそんなもんだよな、って中のちょっとした気の利いた言い回しの面白さが、少しばかり生活のうんざりさを救ってくれる感じがします。
7. It's All Too Much / The Beatles(1969年)
時の奔流をいくつも命を跨いで流されてると
— 素敵な歌詞bot (@bot_suteki_kasi) 2021年12月2日
今いるとこと行きたいとこ 区別つかなくなるんだよ
ぼくが手に取るには持て余すかな
愛がそこらじゅうで輝き倒してら
世界ってバースデーケーキなんだ
ひと切れ貰うね けどもう結構
『It's All Too Much』The Beatles
It's All Too Much - The Beatles
『All You Need is Love』で頂点に達する「愛をサイケデ歌うThe Beatles」の偉大なカウンターパートとしてのこの曲の立ち位置が好きです。そのサウンドの混沌具合のダラダラと引き伸ばされていくピースフルさも、東洋思想と持ち前の皮肉っぽさが変な形で渦巻いているGeorge Harrisonの歌詞も、終盤で聞かれるヤケクソみたいなToo Muchのコーラスも、何もかも輝きながら拉がれてて、いいなあって思います。
8. Map Ref. 41°N 93°W / Wire(1979年)
思考回路はグチャグチャにされて
— 素敵な歌詞bot (@bot_suteki_kasi) 2021年11月14日
緯度と経度の線によって
ぼくの高度は定義され 洗練される
カーテン閉じない ハーネス装備せよ 逃走は不可
共有に安寧にアヒルに平地に低地に光景に運河にカモに色鉛筆にににににににににににににににに
『Map Ref. 41°N 93°W』Wire
Wire - Map Ref. 41°N 93°W - YouTube
この曲の、ストレンジなんだけれど案外ロックとしての爽快感がしっかり備わってくる感じはどこかXTCにも似てる。それにしても、タイトルの異彩っぷり。日本語訳の『北緯41度 西経39度』というのも異物感として凄い。歌詞もそのタイトルに沿って、微妙に理解できるようなやっぱりできないような絶妙な線で言葉が綴られていて、その実に整然として爽快な混沌っぷりはとてもポップでキャッチーだと思います。
9. Harness Your Hopes / Pavement(1999年)
望みは誰かにハーネスしなさい
— 素敵な歌詞bot (@bot_suteki_kasi) 2021年12月2日
ハーネスは一人用のものだろ
パスワード漏らすなよ 糖蜜になるぜ
シロップ糖蜜でマヒるぜ
魅力的な尻穴と資産を総て確認 深み嵌ってら
レーション振る時さ 誰かなんとかするさ
向き直り10から参照
『Harness Your Hopes』Pavement
上の曲を訳した後、ハーネス繋がりでこの曲を取り上げました。何故かPavementのサブスクで最多再生回数を誇るこのシングル『Spit on a Stranger』のB面曲は、でも確かに、それまでと異なる宇宙的なサウンドを見せる『Terror Twilight』期の割にかなり「それまでのPavement」的なテキトーさが“的確に”炸裂した、ヘンテコな痛快さに満ちた楽曲でもあります。上記の歌詞は確かに140字に納めるために色々端折ってますけど、でも大体こんな内容が、しかしながら軽快に韻を踏みながらリズムよく吐き出されていきます。その中の絶妙なシニカルさと優しさのバランスに、彼らのテキトーさの美学が垣間見える気もしますが書いた当人は「覚えてない」とか言ってるとか何とか。
10. Twilight Time / The Platters(1958年)
天国的な夜影が降りて
— 素敵な歌詞bot (@bot_suteki_kasi) 2021年12月1日
霧の向こうきみの声が響く 黄昏
紫色の帷が1日の終りを告げる頃
ぼくはきみを聴く 黄昏
影が濃くなり輝きは増す 1日の終点
夜の指先は沈む太陽を手放す
きみが来るまで時間を数えよう
終に重ねた黄昏時を
『Twilight Time』The Platters
https://www.youtube.com/watch?v=UGwa2tw7Vws
The Plattersの楽曲を最近このブログのいくつかの記事で取り上げて、やっと1950年代のこういう音楽の入口を見つけられた気がして喜んでます。歌詞の、言葉までスーツを着込んでいるかのようなシックさがいいなって思います。彼らの一番の代表曲『The Great Pretender』の歌詞もいいんだよなあ。いい具合の翳りがある。
11. The Good Life / Weezer(1996年)
クソが!メゲるわ!クールキャラじゃねんだよ
— 素敵な歌詞bot (@bot_suteki_kasi) 2021年11月4日
おれは豚畜生!犬畜生!涎垂らしても大目に見てねクソが
誰も傷つけたくねえし 大騒ぎもしたくねえ
紅茶に砂糖入れたいって気持ちを許してえだけなの
聞け おい聞けよ おれは紅茶に砂糖入れたいの
『The Good Life』Weezer
「だってこう書いてあるんだもん!」という勢いで楽しく訳しました。そうだよね、誰も傷つけたくないし大騒ぎしたい訳でも無いもんな。こんだけグッチャグチャにはしゃぎ倒す楽曲で結論が「紅茶に砂糖を入れたいだけ」っていう、その感覚の拗らせ具合がいつまでも愛しい。
12. It's a Motherf●cker / Eels(2000年)
最低なんだ きみなしでここにいる
— 素敵な歌詞bot (@bot_suteki_kasi) 2021年10月27日
良かった頃を想う 悪かった時も想う
そして ぼくはあの頃のままではいれないんだ
クソみたいだ 日曜日を壁と話して乗り切る
もう一度ぼくに話しかけて
でも ぼくはあの頃のままではいれないんだ
『It's a Motherf●cker』Eels
Eels - It's a Motherfucker - YouTube
ART-SCHOOLもカバーしたこの曲。親族を失いながら人生と音楽活動が続いていく悲しいSSWとしてのEelsの特性は様々な形で出てくるんだろうけど、この静謐なアレンジで大切に歌われる曲は、割と素直にその心境を言葉にしてるようにも思えます。振り返るのが「良かった頃」だけでなく「悪かった時」もなのが、実にしみじみと現実的で、なんだかこっちまで胸の奥の方が少しだけ悲しくなってきます。
13. Dumb / Nirvana(1993年)
陽光に擦りむいて 眠りに落ちて
— 素敵な歌詞bot (@bot_suteki_kasi) 2021年12月2日
消えろって願って 安っぽい魂
学びを得て 火傷を慰撫って ぼくを起こしなよ
奴らとは違うさ でも戯けもするさ
太陽は沈んだ けど灯りは持ってる
1日終わった 案外楽しいね
馬鹿なんだろうね めでたいね
馬鹿なんだろうね
『Dumb』Nirvana
デタラメなようでその底に溜息気味な心情がある、というのがKurt Cobainの詩情の個性だと思われます。それは激しい曲もいいけれど、この曲みたいなしんみりした曲調の中だと、少しばかり生活感も伴った形で響くような気がします。終盤の「馬鹿なんだろうね」って連呼するところの、自嘲が格好良さにすり替わる具合はロックって感じだなあとつくづく思います。
14. Vapour Trail / Ride(1990年)
はじめ強く焼きついて やがて消失する
— 素敵な歌詞bot (@bot_suteki_kasi) 2021年12月2日
太陽の目隠し でもぼくは恋するだろう
笑みに飢え しばらく眺めてる
真っ青な空 きみは飛行機雲
溜息と震え 眼の輝き
きみの往来 解るはずもない
この全ての時は二人のもの
この恋を示すに足りる訳ないけど
『Vapour Trail』Ride
この曲の歌詞の「恋人の存在が”淡い”感じ」は本当にシューゲイザー的だなって思えます。実在するのか、妄想の中の存在なのか、その淡く儚い“恋人”の存在感は、文系男子的な感覚に大いにマッチするものだなあと、もっと言えば、オタク的だなあと思ったりしました。Rideで最も何もかもシューゲイザー的に感じれるのはこの曲で間違いないなと思ったりします。
15. On the Way Home / Buffalo Springfield(1968年)
その夢がやってきた時 目を瞑って息を止めてた
— 素敵な歌詞bot (@bot_suteki_kasi) 2021年12月2日
ぼくは風の日の煙の輪っかみたいに壊れきってた
もう 後ずされば後々まで戻れなくなるんだろう
でも きみはぼくを知ってるし
きみがもういなくて ぼくはさみしい
『On the Way Home』Buffalo Springfield
Neil youngが作ってRiche Furayが歌う、という、3人のソングライターが鎬を削る様が本筋なこのバンドにおいて珍しく*1、また華やかにアレンジされもしたこの華麗なポップソングは、彼らのラストアルバムの最初に収められて、歌詞共々、どこか不思議に晴れやかな寂しさを感じさせます。後にNeil Youngのソロでも度々取り上げられますが、ここでのポップソング然とした華やかなアレンジが、この曲のリリカルさに一番合っているような気もします。後にNeil Young本人がこの原曲アレンジに寄せた形でライブ演奏しているバージョンもとても良いです。
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以上、15曲でした。
もっと登録曲を増やすべく、こっそりやってた「同じアーティストの曲は3曲まで」ルールをやめようかなと思います。それにしても、1ツイートに収まる程度の量の翻訳はやってて気楽でいいです。
*1:初期はNeil Youngの声を嫌ったレコード会社からそう仕向けられた曲がいくつかあるけど、徐々にNeil youngの強固なエゴが確立されてからはそういうのはなくなっていた。