ブンゲイブ・ケイオンガクブ

本を読まない文芸部員と楽器を練習しない軽音楽部員のような感じのブログ。適当な創作・レビュー等々。

2010年代のロック音楽(15枚、及びそれを取り巻く状況とか)

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 はっきり言ってこんな画像をキャプションにしたくないけども、でも確実に、2010年代において様々なものに確実に多大な影響を与えてしまったものはこの大統領を置いて他に無いと思われ。それこそ2000年代のNYのテロと同じくらいの存在感があるかもしれない。

 最初はやはりツイッターで見かけた「#2010年代ベストアルバム」なるタグの名前に引っ掛けてこの記事を書こうと思ったのですが、しかし自分が選ぶと、時代の潮流とかそんなの関係なしに選ぶと、バンド音楽ばかりになってしまったので、なのでそれを「音楽全て」の中から選んだんだ、とするとなんか恥ずかしい気がしたので、この表題に変えました。ちなみに邦楽は前の記事でやったので選盤から除きました。

 で、15枚を選んで思ったのが「みんな白人だな」ということ。ロックという音楽は2010年代においてUSインディーのブームが収束していくとともにどんどんシーンの中で存在感を失った、もう出来ることが無くなってしまって、R&Bとかの方がより刺激的な音楽であるしシーンも席巻している、という状況になりました。それで強く思うのが、ロックというバンド音楽ってどうしてこんなに白人しかやってないような状況なんだろう、ということ。ジャズとかを見ればむしろ黒人の活躍がどんどんと出てきている状況において、ロックって本当に白人の音楽だなと。それで、世間的には2010年代特に中頃くらいから、ポリティカルコレクトネスとかブラック・ライヴズ・マターとかの運動があって、世の中は多様性を大切にすること、マイノリティを尊重すること等の重要性がより広がっていきました。それは音楽においても、もっと多様性を、となれば、白人しかやっていないロック音楽がメインストリームであり続けることなんて出来るはずが無いなと。

 それで不安になるのが、自分はどうもR&Bとかヒップホップとかジャズとかよりも、いわゆるロックというものによりずっと愛着がある訳ですけど、そういう趣向自体が、白人中心主義的で、現代ではあってはいけない趣向なんじゃ無いかということ。この悩みというか不安というか、問いについてはおそらく特に2016年以降ずっと頭の中でぐるぐるしていたような気がします。あくまで、日本国内がどうか、ではなく自分の問題として。自分はナチュラルに差別主義者なんじゃないかと、頭の隅でずっと違和感が蠢いていたような。

 しかしながら、そういうのをずっと考えることにいささか疲れました。なので、以下は上記の悩ましげな問題など全然無視して、自分の楽器のサウンドの趣向とか曲の感じとかの趣味全開で、15枚をライトに選んでいきます。前の邦楽の記事と同じく年代順です。

 

1. Halcyon Digest / Deerhunter (2010年)

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 いきなりですが、今回のリストの中で1番好きなアルバムはこれ。リアルタイムでスルーしてしまってたのがたまらなく悔しいし恥ずかしい。。。Deerhunterの曲は不思議で、ソングライティング的にあまりに適当すぎるものでも、彼らの歌と演奏になると、確かにこれ以上凝ってしまってはだめだ、このメロディ展開こそ的確だったんだ、となってしまうことが多々あって、今作は今年の最新作と並んでその筆頭。『Helicopter』とか全然凝ってる方で、『Coronado』とかずっと同じメロディと進行なのに、とても感じが良くて、それはアレンジセンスに裏打ちされた、バンドの雰囲気がそうさせてるのかなあとか思う。真似しやすそうで全然真似できないそのサウンドの妙技にいつからかずっと憧れて続けてる。ただ単にシマーリバーブがあればいいっちゅうもんでもないんや。。。

 

2. Clash The Truth / Beach Fossil (2013年)

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 このアルバムが2013年だったので、Captured Tracksが流行ったのってそのくらいだったのか、という今更な発見があった。これもリアルタイムでは全然知らなかった。USインディーのブームはそれこそこの年かその次あたりが最後かなと思ったりするけど、ブーム後半になっていくとどんどんリバーブ増し気味なガレージロックに傾倒していったのが不思議といえば不思議。このアルバムはその中でもとりわけ象徴的で実際とてもよくできたアルバムだと思う。幾つかの突っ走る曲の最高な金太郎飴感も、スカスカさがちょっとダークでクールに感じれる絶妙な塩梅も、今作はひとつの達成だったなと振り返って思う。

 

3. Fade Away / Best Coast (2013年)

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 それこそUSインディの「リバーブ増し増しガレージロック」ブームの立役者だっただろう彼らの中でも、このミニアルバムが圧倒的に好きで、どうしてSpotifyになかったのか意味が分からない。それこそこの人たちも収録時間が長くない方が飽きが来る前に終わって丁度いいくらいの人たちだと思うけれど、今作の7曲というのはとても丁度いい。曲的にも1stのドリームポップ感はかなり薄まり、「ちょっとリバーブが大味にかかったただのギターロック、声の太い女性がボーカル、ポップな曲」的な作品になってて、そのいい加減な加減がとても好き。突っ走り系としっとり系が程よく入ってて、最後にその両方を合わせた曲が来るのも地味に気が利いてる。

 

4. ...Like Clockwork / Queens Of The Stone Age (2013年)

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 相対化されて音楽の1ジャンルくらいに追いやられたロック音楽の重要なアイデンティティのひとつはヘヴィネスだろう。それも、いかがわしく不気味な質感、打ち込みやシンセ等では表現できない類の妙な生々しさを残した質感のそれは、バンド音楽でしか表現できない類のものであって、リズムが打ち込みでギターが使われる場合など、そういうものを求めて極端な音作りで鳴らされる場面が多い気がする。そういう意味でのロックについて言えば、今作のその透徹された佇まいはまさに今、「ロック」というジャンルに求められるであろう類のいかがわしさに満ちている。そのいかがわしさは妖艶さにも繋がっていく。…まあ、リアルタイムで聴いてなかったし、2017年のアルバムも聴きそびれてたけれども。

 

5. Benji / Sun Kil Moon (2014年)

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 Mark Kozelekという90年代スロウコア組の存在が2010年代において本作で急浮上してきたのは不思議なことだ。後年同じことがLowで起こった時はでも『Double Negative』の強烈な音作りを思えばその衝撃は分かるところだけど、でも今作はずっと地味でしみじみとした作品。又は彼の音楽的興味がまだメロディに辛うじて繋がってた最後の時期というか。歌詞の内容を理解することでより深刻に理解されるその、滋養などと言うのも憚られるような情緒の様は鋭くも寂しく、時に優しくも響いたりする。田舎の大地でのしみじみと色褪せていく景色の中での辛気臭い出来事の風景、人生において苦味は甘味と紙一重なのかなと思わせるには十分すぎる音楽。そして彼は決して『Benji 2』は作ってくれず今日も長尺のお経のようなトラックを作ってるんだろうな。

 

6. Sound & Color / Alabama Shakes (2015年)

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 リード曲のイントロを聴いただけで「このギターの空気感…!」と緊張が走る。このようなサウンド作りで絶大な賞賛を受けた本作。これはインディーロックというよりもむしろ、ロックの歴史を旧きブルースやR&Bから丁寧に紐解いた上で、現代の勢いと野心的なプロダクションでアンプリファイしたことによって産まれた傑作だ。その装いはむしろブラックミュージックに近く、実際今年リリースされたブリトニーのソロではよりその傾向が増していた。でも、そのソロと比べても今作までならまだ「ロック」だよな、、という安心感もあったりして、懐の深い作品だと思う。ほのかにカントリー要素も入ってるからだろうか。ザラザラと空気感を両立したギターの音はアメリカの土の感じを思わせるに十分すぎる。

 

7. Love in the 4th Dimension / The Big Moon (2016年)

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 これより上で挙げたアルバムが全部アメリカで、2010年代においてイギリスの音楽というのはすっかり「周縁」になってしまった感が、ロックの世界だけで見てもどことなくある。ガレージロックリバイバル〜ポストパンリバイバルの頃の活況を思うとかなり寂しい状況の中で、しかしながら2016年には「ロンドンで新たなシーンが産まれつつある」ということで特集が組まれて、その代表である彼女らの音楽の、開き直ったかのような大文字のロックっぷりにはとてもロマンを感じた。下品を恐れず(むしろ敢えて突っ込んでいってる感あるけど)歌とディストーションを勢いよく振り回す彼女らの勢いに、これは…と期待してからいつの間にかもう3年も経つのか。Spotifyを貼る際に今年3曲くらい新曲が出てるの知って聴いてみたら…綺麗になりすぎてる、そっち行くのか…。

 

8. A Moon Shaped Pool / Radiohead (2016年)

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 横綱相撲を決してしてこなかったバンド・Radioheadも、流石にもう時代の潮流を「作る」側ではいられない。2010年代は、ダブステップに寄せてみた『The Kings Of Limbs』と、ポストクラシカル的な今作の2作を世に放った。特に今作は、Radioheadがこれをやる意味が非常に感じられる作品に仕上がっていて、作品の中で薄く流れていく虚しさや諦観、悲しみの様が実に冷然として甘美で、一時期はトム・ヨークのことを本当に心配して取り乱してしまったりした。元気という意味では、今年のトムソロ作品の方が全然元気がある気がする。だけど、ここまで元気がないからこそ、この作品はずっとその枯れ果てそうな美しさをたたえ続けるんだと思う。

 

9. Stranger In The Alps / Phoebe Bridgers (2017年)

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 白人女性シンガーについては、2016年以降のロック劣勢の時代においても、どっちかと言えばロック的な装いでもって毎年新しい才能が出てきている。これを「女性がどんどん才能を発揮できる世界になってる」と取るか「女性シンガーにしか世間はロック音楽を求めていない」と取るか。だけど彼女の音楽は、そんな自分の悲観的なところを全然きにする必要ないくらい好きになった。スロウコア気味なフォーキーさを大切に抱えながら組まれる歌や、時折の程よく土の感じがするインディーロック趣味に、やっぱりアメリカの都市ではなく広大な大地の方を想起させられる。それにしても今年のコナー・オバーストと組んだ作品はカラッと開けすぎな気もしたけど。

 

10. Hot Thoughts / Spoon (2017年)

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 「アコギを排除してシンセを多用したダンサブルな作品」と聴いて不安に思った自分がアホらしくなるほど、今作では彼らのバランス感覚に安心してしまった。Spoonとしての曲の軸って何なんだろう、全然うまく言葉にできる気がしないけれど、確実に何か軸があって、そこが損なわれることは決してしないんだな、と、その上で位相とか歪ませ方とかシンセのファニーな乗っけ方とかで実験を繰り返し、その結果として「現代的なロックサウンド」と評されるものが出来上がっている様はとても理想的に思える。ここでの「ダンサブル」って、サニーデイの『Dance To You』をダンサブルって評するのと同じ程度のダンサブルさなんだなと。ポップにかつ静かに時代に対して物申す『Tear It Down』とか何気に感動的よね。

 

11. Life Without Sound / Cloud Nothings (2017年)

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 2010年代のロック界隈で最も力強く駆け抜けていったのは、無骨なパワーポップを作る天才バンドな彼らだろう。2012年に『Attack On Memory』で一気にのし上がってから、きっちりとキャリアを継続し続ける彼らはそのままインディーロックの希望そのもののようにさえ時々思えてしまう。今作は疾走感だけでなく緩急つけた曲展開やサウンドでもって、彼らの作品で最も丁寧でポップに開けた作品となった。しかしながら彼らの楽曲でもとりわけエモみを感じる『Sight Unseen』も収録されていたりで、この2017年は割とはじめの方にリリースされたこれを年間でも1位にする他なかった。その後また乱暴にかつカオスにやってみた2018年の『Last Building Burning』でややネタ切れ感があるのがやや不安だけど、2020年代もなんだかんだで駆け抜けていくのかな。

 

12. Weather Diaries / Ride (2017年)

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 2017年だけで4枚目…この年筆者的には当たり年だったんだなあ。

 2017年には何故かオリジナルシューゲイザー御三家のうち二つが再結成後初の新作をリリースするという事態にもなって、そしてそのどちらも優れた作品であったことから「もうシューゲはオリジネイターの方々だけでいいんじゃね」とさえ思いかけたりした。SlowdiveもRideも、現代のインディーバンドがシューゲするとしたら理想形はこんなだよね、みたいなのをそれぞれのらしさ全開でやってくれた。趣向的にRideの方がより好きなのでライブも観に行ったけど、伝説のバンドというよりもむしろ現代の機材を巧みに使っていい曲を連発するインディーバンド、という佇まいがして、むしろ最高な感じがした。今年もリリースがあったし、コンスタントに活動していってほしいレジェンドNo.1かもしれん。

 

13. Foxwarren / Foxwarren (2018年)

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 アンディ・シャウフも、2010年代のロックが得ることの出来た貴重な才能のひとり。2016年の『The Party』で一気に世に出た彼は、しかしどっちかと言えば「音の魔術師と化したElliott Smith」という感じがして、なのでバンド名義でこういうオルタナカントリーどっぷりな作品を出すというのは考えてなかったからビックリしたし最高だった。彼のメロディセンスもまた、乾いてほの暗い寂しさを思わせるタイプだから、いなたいバンドサウンドと合わさって、実に気の遠くて心細くなりそうなほどの広大さを感じれて、聴いてると胸の奥がしみじみと暮れていく感じがして、その感じはぼくが音楽に求めるものの中で一番大切なことそのものだなあ、なんて今思った。

 

14. Odd To Joy / Wilco (2019年)

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 こっから今年。やはり今後投稿する予定の年間ベストのネタバレ的ですけども。

 Wilco、遂にやってくれた。今年延々書き続けた『Yankee Hotel Foxtrot』のレビューを強引に一言に纏めるなら「カントリーロックのスカスカなサウンドの中にイマジナリーな楽器の音やノイズを豊かに含めさせたこと」となるかもしれないけど、今作はまさにその再来。楽曲は『YHF』と比べるとより地味なものが多いけれど、それはより楽曲をスカスカにして、そこに沢山のイマジナリーなサウンドを詰め込めるようにするためなのかなとか思った。『Quiet Amplifier』はその極地。ちょっとYo La Tengoっぽくもあるのかも。都会的な響きの『YHF』と比べて遥かに田舎の感じがするのも特徴。あまり色々書くと年間ベストの際に書くことが無くなってしまう。

 

15. Colorado / Neil Young With Crazy Horse (2019年)

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 「ディケイドの最後にニール・ヤングは傑作を出す」みたいなファンの間のジンクスを知ってか知らずか、御大が大変素晴らしい作品をリリースした。Crazy Horseとの共作ということで、超絶長尺な曲が目立った『Psychedelic Pill』が思い出されて、あれもいい作品だけど、今回はあれほど極端に長くない、むしろ全体的には非常に常識的な尺に各楽曲が作られていて、そしていなたいバンドサウンドは当然に、今回はメロウなピアノ曲もあり、そして『Milky Way』では円熟の極みの果てのような、実にニール・ヤング的に渋みの溢れたメロウブルーズを生み出している。これも色々書くと年間ベストでかけなくなるけど、ともかく素晴らしい。もしかしてこの人のオールタイムでも5本の指に入るんじゃないか…という完成度。現在74歳。すげえ。

 

 以上、15枚でした。なんかベテランばっかりでじじくさいリストになった気がしますがそういう趣味なんだから仕方がない。今後もロック音楽に幸あれ。