ブンゲイブ・ケイオンガクブ

本を読まない文芸部員と楽器を練習しない軽音楽部員のような感じのブログ。適当な創作・レビュー等々。

『Anesthesia』ART-SCHOOL

Anesthesia

Anesthesia

 

 ART-SCHOOLのミニアルバム10枚目にして、バンドキャリア10周年の年にリリースされた作品にして、前作から始まった第3期アートの、結果的に最終作。短すぎるだろ第3期アート…

  「Anesthesia(アネスシージャ)」は「麻酔」「無感覚」といった意味。ドラッギーだった前作『14SOULS』までの流れを引き継ぎながら、中世〜近世の西洋画風なゴシックめいた雰囲気のイラストのジャケットは仄暗く、そして作品もまた、アートスクールの諸作でもとりわけ暗いもののひとつとなっています。「バンド10周年になったらものすごく暗い作品を作りたい」と過去に木下理樹本人が語っていたり、『14SOULS』リリース後に「次の作品はスマパンの『Adore』みたいな作品を作りたい」と語っていたりするけれども果たして。普段のミニアルバムよりも1曲多い全7曲を見ていきます。

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アーティスト写真も暗い。

 

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『14SOULS』ART-SCHOOL

14SOULS

14SOULS

 

 今改めて見るとジャケがゴスじゃんこれ!な彼らの5枚目のフルレングスのアルバム。今までのジャケットにあった背景感とかが無くて赤に女性がドーン!と載ってるので妙なインパクトある。

 前作『ILLMATIC BABY』とそれに伴うツアーでドラムの櫻井雄一氏が脱退して、バンドから木下理樹以外のオリジナルメンバーが消滅、その後新しいドラマーとして鈴木浩之氏が加入。その体制をそれまでの“第2期アート”と比較して“第3期アート”と呼称したりします。このブログもここから次作『Anesthesia』までを“第3期”と呼んだりするかもしれません。それにしても第3期、短すぎる。そして作風的にはむしろ『ILLMATIC BABY』も第3期的なんだよな…という微妙な難しさ。

 そんな新体制で臨んだフルアルバム、かなり混沌とした雰囲気で、おそらくそれは半ば狙ってそのようにされたものと思われます。果たして。

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画像の一番右が当時の新メンバー・鈴木浩之氏。この時期のメンバー、全体的に線が細い。

 

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『ILLMATIC BABY』ART-SCHOOL

ILLMATIC BABY

ILLMATIC BABY

 

 ミニアルバムは全曲レビューしてもフルアルバムのおよそ半分の手間で済むから楽で助かる!ART-SCHOOL全曲レビュー、今回は2008年リリースの、通算9枚目のミニアルバムとなるこの作品です。ジャケットのゴリラは一体…?欧米ではクールさの象徴という噂もあるけども果たして…。

 このミニアルバムは確か彼らのベスト盤と同時かもしくは相当近いタイミングでリリースされて、オーセンティック(?)なアートスクールをベストで聴くのと同時にこのミニアルバムで「最新形の」アートスクールが聴ける!という触れ込みだった。当時の「最新形のアートスクール」とはどんなものだったのか。

 

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『左ききのキキ』ART-SCHOOL

左ききのキキ

左ききのキキ

 

 ART-SCHOOL全曲レビュー、4枚目のフルアルバム『Flora』の次はこのミニアルバムになります。2007年は『Flora』とこれの2枚をリリース。ミニアルバムの枚数としてはメジャー・インディー合計でえっと…8枚目?*1

 前作『Flora』が「彼らにしては実にポップにThe Cureした」みたいなアルバムだったとすれば、今作はその反動で荒んだグランジロックに回帰するのことをした作品、となります。意外と単純な“原点回帰”ではないよなーとは思っています*2が…各曲を見ていきましょう。

 しかしジャケットの感じはなんか『SWAN DIVE』のPVを引きずってるかのような感じっすね。

 

*1:『SONIC DEAD KIDS』『MEAN STREET』『シャーロットep』『SWAN SONG(disk1)』『スカーレット』『LOST IN THE AIR』『あと10秒で』の次に今作、というカウントです。

*2:でもセールスの世界ではこういう風にはっきりと宣言して宣伝することが大事だとは思う。

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『Flora』ART-SCHOOL

Flora(初回限定盤)(DVD付)

Flora(初回限定盤)(DVD付)

 

 日本のオルタナティブロックバンド、ART-SCHOOLの通算4枚目のフルアルバム。アルバムタイトルは、ローマ神話に登場する花と春と豊穣の神・フローラから取られている。また、前作シングル『テュペロ・ハニー』から続けて、プロデューサーとしてROVO益子樹氏を迎えて制作された。ジャケットはそこはかとなくイギリスのロックバンドThe House Of Love*1の1stアルバムを想起させるもの。昔は単に「またお得意のパ…オマージュだよw」とか思ってたけど、今このアルバムのサウンドを聴くと、この寄せ方は意思表明だったのかな…なんて考えてしまう。

House of Love

House of Love

 

 ART-SCHOOLの全曲レビューについては、一番最後が2017年12月の『テュペロ・ハニー』となっており、 相当間が空いてしまいましたが、このアルバムは本当に素晴らしい、大好きな作品なので、もっとサッと書けたはずで、こんなに間を空けてしまった自分が恥ずかしくなりますが、ひとまず書いていきます。木下理樹さんも体調不良から復帰したっぽかったし。。

 ポップで、音がキラキラしていて、これまで以上に晴れと暗がりをしっとりとした中で行き来するアルバムです。ややボリューミーすぎるけど、彼らの最高傑作候補のひとつと思っています。

 

*1:代表曲のリンクを貼っておきます。アートがかつて『アパシーズ・ラスト・ナイト』で引用したリフの曲。

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『Crispy!』スピッツ(リリース:1993年9月)

CRISPY!

CRISPY!

 

 初期スピッツの4枚を一気にレビューしていった訳ですが、ここまではまだ「初期スピッツ」という分かるようで分からないような概念がバックにあったから、自分の中でも作品や楽曲の見取り図が立てやすい感じでした。またブレイク後のアルバムも、それぞれ色々な趣向がありながらも、どれもバンドのナチュラルな魅力が十分に備わっていると思います*1

 ただ、そのブレイクまでの時期のスピッツというのはやや宙ぶらりんな状態だと思います。まだ『空も飛べるはず』の後追いヒットがあった『空の飛び方』は、ブレイク以降のスピッツの基本的な武器が揃ったようなアルバムになっていますが、その前のアルバム━━今回取り上げる『Crispy!』については非常に微妙な状態で作られたアルバム、と言える部分がある。売れるべく、人気プロデューサー・笹路正徳氏を迎えての制作だったけれども、果たして…。

 しかしながら、ではなぜ「微妙な状態」だったのか、その状態で作った曲はどうなのか、っていうか初期スピッツ引きずってる曲もまだあるじゃん、っていうかこのアルバムまでが「初期スピッツ」じゃね?等々も含めて、色々聴き返して発見があったりするのが、こういう微妙な時期のアルバムだったりもしますので、その辺を念頭に置きながら、1曲ずつ見ていきます。

 そういえばいきなり余談ですが、タワレコ40周年のポスターにも、なぜかこのアルバムジャケットが選出されています(下画像の真ん中らへんにあります)*2。なぜこれなのか謎だけど、このアルバムのファンがいたのか、それともタワレコ挙げての今作の復権運動なのか…。ちなみにこのジャケット写真のモデルは草野マサムネさん本人だそうです。

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*1:『スーベニア』だけちょっとオーバープロデュース気味かなあ。

*2:全体的にライト気味な選盤かなあと思った。オシャレさを重視した感じがざっと見て感じられた。ザラザラしたロックっぽさが避けてあるのかなと。

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『惑星のかけら』スピッツ(リリース:1992年9月)

惑星のかけら

惑星のかけら

 

 現在のスピッツの新作が発表されました。

natalie.mu全曲レビュー始めたところにタイムリーだなあと思いました。スピッツは新譜を出そうとしてるのにおれは20年数年も前の作品をグチグチ言ってて何なんだおれ…とも思ったり。

 

 今回は彼らの3枚目のフルアルバム。『惑星のかけら』と書いて「ほしのかけら」と読みます。前作ミニアルバム『オーロラになれなかった人のために』とのリリース間隔は僅か5ヶ月…どういうスケジュールなの…。室内楽的要素の強かった前作からの反動で、アグレッシブなバンドサウンドの構築を目指した作品です。ただ他にも色々なトライアルをしている感じも。部族感ある男の子のジャケットが妙にフェティッシュ

 普通は今作までを「初期スピッツ」と呼びます。なので初期スピッツ最終章。

 

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『オーロラになれなかった人のために』スピッツ(リリース:1992年4月)

オーロラになれなかった人のために

オーロラになれなかった人のために

 

 スピッツの、メジャー以降のキャリアでは唯一のミニアルバム(5曲入り)。99ep』?シングルでしょ曲数的に。

 そんな、キャリアを通じても異色なリリース形態で登場したこれは、作品としてもかなり特殊な存在。前作の『魔女旅に出る』でオーケストラアレンジを担当した長谷川智樹氏が全面的にアレンジに入った作品。つまり、オーケストラアレンジやストリングスアレンジが非常に重視された作品で、曲によってはバンド演奏が全然無いものもあり、つまるところ草野マサムネソロアルバムじみた作風になっている。

 よって、バンドサウンド的な楽しみはかなり限定される作品で、そういう意味では相当厳しいが、では歌とゴージャスなストリングスだけのつまらない作品かというと全然そうではない。むしろ「初期スピッツ的な狂気や幻覚剤的作用を最も先鋭化させた作品」かもしれない。どういうことか。各曲を見ていきましょう。

 

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『名前をつけてやる』スピッツ(リリース:1991年11月)

名前をつけてやる

名前をつけてやる

 

 日本のロックの名盤としてすぐに上がりがちで、また日本の猫ジャケでも真っ先に上がりがちなスピッツのメジャー2枚目のアルバム。1枚目と同じ年のうちにリリースされてて、その制作ペースの速さと、それに全く釣り合わない名盤具合とに翻弄されます。

 そんなサクッとできた制作行程をリスペクトして、この記事もサクッと書き上げたいところではあったけど、とてもそんなこと出来なかったな…意外といけました。とりあえず種々の前置きはせずに、サクッと本編に入ります。

 

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『スピッツ』スピッツ(リリース:1991年3月)

スピッツ

スピッツ

 

 何度か始めようとしては頓挫してたっぽいスピッツの全曲レビューを、ひとまずこのファーストアルバムからまた始めます。『ヒバリのこころ』はかなり前にやってたけども、その続き的な。

ystmokzk.hatenablog.jpちなみにこの記事、このブログの前身の「粗挽きサーフライド」というブログの記事実質1本目だったんですが、その前身ブログを先日消去しました。記事は完全にこの現行ブログに移行できてますのでご心配なく。

 

 それにしても、この奇怪な盤がスピッツのプロキャリアの始まりというのがやっぱり不思議でならない。初期のエレカシとかといい、色々懐に余裕がある時代だったんだなあ…どっちも初期から才能ヤバすぎるけど。

 なお、リリース当時のポリドール盤ではなく、リマスターされたユニバーサル盤を元に今回書いていきます。今後も『フェイクファー』まで基本的にユニバーサルよりリリースされたリマスター盤で話を進めていきます。だって音量バランスが揃っててプレイリストとか作りやすくなってるんだもの。原盤の方が本当の良さが〜という話もあるかもしれませんが…。

 

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