ブンゲイブ・ケイオンガクブ

本を読まない文芸部員と楽器を練習しない軽音楽部員のような感じのブログ。適当な創作・レビュー等々。

好きな曲A to Z(4/26(予定):Dの曲)

 ゴールデンウィーク中にどこまで進められるか、この企画の完走はそれにかかってる気がする…。
 ↑上記の文章をゴールデンウィーク前に書いて、その後テーマ曲以外を割とすぐ書いてから、テーマ曲について書こうとしたら、ぱたっと書けなくなってしまった…。方向性について悩んだ末、とりあえずこんなんなりました…。

 Dにおいてはdanceやdeath、dog、down、dream、drive、そして何よりdo、don'tといった単語が目立ちました。今回選曲の一曲もそんなdon'tで始まる曲。



D
Don't Steal Our Sun/The Thrills
(from Album『So Much For The City』)
So Much for the CitySo Much for the City
(2003/05/30)
Thrills

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「どうも、よく判らないんだよね。具体的に言ってみよーよ。リアリズムの筆法でね。音楽のことを語るときには、この筆法に限るからね。」
 こんな音楽があったら夏が嫌いにならずにすむのだがというような、お互いの胸の内に秘めてるあこがれの音楽のイメージを探り合っていたのである。しかしこの子——バナナはどこでリアリズムなんて言葉覚えてきたのかしら。基本アホの子のくせに鹿爪らしさを醸し出そうとして。
 サッカーのワールドカップが始まった。そのくらいの日に私達は、梅雨の湿度にめげる空気の上、さらに夏などというクーラーの入ったところでぐったりするしか能の無い季節を控えた、そんな憂鬱に溢れた休日の部屋で、何をするでもなく悶々グダグダとしていたところ、突如思いついた感じでバナナが言い出したのだった。窓の外は曇天。灯りを点けると暑そうで嫌だから、昼間なのに部屋は暗い。
「ルーイちゃんは、やっぱ、カリフォルニアかい?」
「マッチョなのは御免だわ。汗臭そうだし、そういうのって結構まじめそうでいけない。」
「ガールズポップかい?」
「いっそう御免ね。溶けたアイスがへばりついてるような、嫌な甘さになるもの。」
「じゃあ、やっぱり、インディーロックの類?」
「そういう言い方されるとなんか嫌だな…まあ、そう。甲高い声で、あまり知的そうでもないような、いい具合に童貞っぽい感じの声がいいのかしら。」
「ルーイちゃんって、確か付き合ったこととかないはずなのに、そういうとこ変に派手なんだね。いちばん華やかなデザートは栗って言うのと同じで、結構意味もなく好色な感じ?」
「うるさい。」
「どうも判んないよー。リアリズムで行こう!つまり、具体的にサウンドを作ってみると、段々はっきり判るかも!リズムは?」
「シンプルなエイトビートは、いやだ。単調で、通り過ぎてしまう。」
「ガッチャガチャの変拍子?」
「いや、シャッフル。首を微妙に縦に揺らせる程度のテンポのスウィング。」
「楽器は、どんなのにするの?」
「ギターが前に出る感じじゃなくて、軽いけどカントリータッチもある感じの。で、ピアノ。これはもう、上手で饒舌なのじゃなくて、ひたすら四分で明るいコード弾いてるだけみたいな、ソフトロックの作法を感じさせてしかも楽天的な、でもちょっとだけ夏に不慣れなジェントルさでそこがそ」
「あまりはしゃがないでよー。ソフトロックなら、コーラスなんかも入る感じ?」
「ただのハモリじゃない。追いかけコーラスが入ってきて、そしてサビのところ、ワンポイントな歌のフレーズでちょっとブレイクして、そこからコーラスが一気に吹き出して行くような。」
「なんか判ってきたかもー。続きを言わせて!頭打ちなリズムとそうじゃないの、そしてそのブレイク前後の箇所とで曲調のメリハリがついて、そこでハキハキした盛り上がりが出てくるね。そして、ポップで適度にリリカルなメロディ。」
「いや、リリカルさは抑えて、もっとどポップ。そして、ふやけた子供みたいな甘さがある。」
「歌詞もあるね。去って行く夏を惜しむ感じ。別にぜんぜん去ってほしいけど。」
「いや、ここで下手なことを歌ったら、ぶちこわしよ。」
「そう(割と無関心)。じゃあまあ、夏に対する捻くれた恨み節みたいな?」
「ちがう。ノスタルジーの種にするためのパーティー感があって、それが薄ら、過去のフィルターに浸されていて、そして決定的な情けなさが、こう、フレーズの決め手になるの。」
「気持ちは、判るけどね。タイトルは重要だよ。ゆっくり考えようよ。海とかでもいいんだろうけど、海でノスタルジーってなるとなんとなくビーチボーイズとか」
ビーチボーイズは第1回で使ったから、このテーマのルールでもう使えない。」
「何の話…?なんかないかなあ。車とかもビーチボーイズだし。扇風機とかうちわとか純和物なのは想定してるサウンドと違うくさいし…。」
「あるよ。わたしたちのたったひとつの太陽。」
「なんかちょっと象徴めいてきたねー。You are my Sunshine〜な。」
「わたしは、そういう、相手に自分の望みも安らぎも何もかも押し付けるような歌は嫌い。近視眼的で視野狭窄でだらしがなくて駄目だわ。」
「シロップとかアートとか好きなくせによく言うよねー。あ、痛い痛い!なんで急にぶつの?こんな華奢で可愛い双子の妹をー。」
「…ともかくッ!そんな縋り付かないといけないような太陽なんて、駄目よ。そんなもの、ひどい具合に、盗まれでもすればいいのに。」
「……あっ(その持って行き方、強引だなー)。」
 The Thrillsは2010年に活動休止した。私達は未だに、夏の名曲を部屋で聴きながら夏をしのいでいる。


その他候補曲:
・Dance For You/Dirty Projectors(from『Swing Lo Magellan』)
 この曲収録のアルバムが狙ったであろう「より広い層」に見事に当てはまるおれ。見事に研究され尽くした軽やかさ。特に冒頭から左チャンネルを占領するハンドクラップはこのバンドらしいところ。少ない音数でやってるのに全然思わせないアレンジの組み方が凄く上手いなーと思う。
・Darklands/The Jesus & Mary Chain(from『Darklands』)
 ジザメリはシューゲという範囲だけでなくインディーロックの雰囲気の大元の一つと捉えてるけど、この曲なんかそういう点ではクラシックのひとつか。淡々と悲痛な歌詞、じんわりと歪んだギターの響く音、終盤のリフレイン、そして?→?の2コードから導き出された素敵なリフ。(まさか自分の曲と被ることになるとは…)
・Dear God/XTC(from『Skylarking』(ボーナストラック?))
 純イギリス的な辛気くささと大仰さを兼ね備えた、XTC全楽曲の中でもとりわけポップな一曲。何気に曲展開が面白くて、序盤のブリッジは一回しか出てこないし終盤の展開は圧倒的。神を相手取った歌詞もリズミカルかつ壮絶で、完璧。なんでこんなもの凄い曲をシングルB面に回そうとしたんだろ…。
・Disintegration/The Cure(from『Disintegration』)
 始まりからずっと反復される無情なリズムの雰囲気のまま短くない尺を幻惑しっぱなしで駆け抜けていく。平坦な演奏の中で漲る緊張感が半端ない。実にキュアー的な深淵さが、絶妙なさじ加減の力強さと儚さで表出してる曲。
・Dive/スーパーカー(from『OOkeah!!』)
 初期スーパーカーシューゲイザーかどうかという議論は種々あるけど、少なくともこの曲のサビの轟音とボーカルはそういったものを指向してそう。ナカコーの裏声が大変気持ちよく、そのバックでドタドタスネアが鳴る辺りとてもシューゲイザーだと思う。
・Do Re Mi/Nirvana(from『Sliver: The Best Of The Box』等)
 ちゃんと完成した形で発表されていれば間違いなく彼らの中で一番美しい曲になっていただろう。『Drain You』よろしくなポップさと逞しさのあるメロディ、つなぎのカート節的なグダグダメロディからの、甘美で悲痛なファルセットのメロディ。どのくらい「次のアルバム」の構想があったんだろう。
・Do You Believe In Magic?/Cymbals(from『Mr. Noone Special』)
 こちらは見事なシンバルズ沖井節。3分ちょっとの尺をポップさで埋め尽くすようなソングライティング・アレンジ。この曲はとりわけコーラスの掛け合いが楽しく、そしてやはりドラムがキレッキレ。勢いを落とすこと無く最後まで駆け抜けていく、シンバルズポップの真骨頂のような曲。