ブンゲイブ・ケイオンガクブ

本を読まない文芸部員と楽器を練習しない軽音楽部員のような感じのブログ。適当な創作・レビュー等々。

SONIC MANIAで観たMy Bloody Valentineがすごかったこと

 今年はサマソニ本編には行かず前夜祭のはずのSONIC MANIAだけ行きました。メンツがずりーよ。

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 鹿児島から幕張メッセまで車で行ったのですが、それはまた別の機会に話すとして、ともかくこのときに観たマイブラが、ちょっと想定してたのとは全然違う感じに、とてもとてもかっこ良かったので、それについて書いておこうと思ったものです。

 

セットリスト。ネット上からの拾い物です。

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セトリだけを見て、後から思うことは「意外と『Isn't Anything』以前の曲が多い」こと。勿論代表作にしてシューゲイザーの象徴たる『Loveless』からも5曲披露されてるけど、それにも増して、シングル『You Mde Me Realise』から3曲、『Feed Me With Your Kiss』、そして『Isn't〜』から2曲と、これは全体の曲数から見ても結構な存在感だった。

 

実際のところの、観て聴いたところを言えば、

「この超攻撃的にノイジーなロックンロールバンドは何…!?」

ということに尽きます。おいおい、シューゲイザーの陶酔感とか、クラブミュージック的な側面が〜とかいった部分はどうしたんだよ…と逆に思うくらい、とてもエッジーなロックンロールバンドでした。どういうことか。

 

兆しは2曲目に『Whe You Sleep』が来たところだった。元々、以前マイブラを観た国際フォーラムのとき*1と較べても、幕張メッセでそこまで芳醇な音響は期待できないしされていなかったはず。1曲目でああーまあこんな感じだよねー、という、良いんだけどまあ程度の内かなあ、みたいな感触だったのは確か。それを早々に打ち破ったのが、この必殺の2曲目。元々『Loveless』の中でも最もメロディが立ってるうちの1曲だけど、このライブで聴いたそれはもう、スタジオ音源からドライブ感4割増し、ギターのガチャガチャしたアタック感が(身体にズンズン来る低音とともに)確かに体感され、サイケデリアよりもむしろ、ギターロックのキャッチーさ、男の子的とさえ思ってしまうキャッチーさが全開だった。こんなにキャッチーにバンド感を感じられるのが意外だったけど、これが後に繋がっていくんだった。

 

トレモロエフェクトの典型的な使用例といった具合の『New You』の陶酔感もそこそこに、続けて放たれた知らない曲がまた、強烈だった。単調な8ビートに、ひたすら押し潰すように炸裂するノイジーなギターの壁、壁。この曲が新曲だったことは後から知ったけど、この曲こそまさに、サイケデリックで攻撃的で破滅的な轟音ロックンロールそのもの、といった風情で、むしろ『Accelarator』とか『City』とかの頃のPrimal Screamかな?ぐらいの、強引に傲慢に緩慢に曖昧にドライブしていくその異物感は、少なくとも線の細いギターロックバンドのそれではなかった。こんなにも繊細さのない、ひたすらに狂騒的でアッパーな単調さがマイブラのバンドサウンドとして放たれているのが、この辺で意外さよりも遥かに痛快さが勝ってることに気付いた。そういえばベースの人もえらいつんのめって、しかもベースのネックの根元くらいで必死こいて弾いてる、なんだこいつ変だぞ、パンクロッカーみたいだぞ、って気付いた。

 

そして『You Never Should』だ。ギターノイズを陶酔感として本格的に使用する前の、鮮烈さを追求していた頃の楽曲のうち最もポップなメロディを持つ1曲がここで放った鮮やかさは強烈で、音源よりも何倍もハードなギターサウンドの中に、確かにこの曲のポップなコード進行とケヴィン・シールズの甘くてダルい歌心が感じられた。この鮮やかにノイジーにポップに広がって転がっていく様。『Loveless』の方向にバンドが行かなかった場合の可能性の一端を幻視しているのかも、とか思いながらも痛快で堪らなくて、この4・5曲目の流れがコンんか胃のライブの印象を決定的なものにした。

 

その後も、やはりポップなギターロック的な『Thorn』から、単調なハードさの切り替え方がパンク・ハードコア的な『Nothing Much To Lose』など、“非Loveless的”な楽曲の強烈さが、現代のギターサウンドの重厚さでもって演奏される度に、自分はロックンロールの高揚感ばかりを得ていたように思います。あと『Only Shallow』のメインリフはそんなんやなかったやろ、的なリフのアレンジが加えられていて、そういう意味でも「えっ?」となる瞬間が尽きない。

 

申し訳程度にラブレス要素的な選曲か!と思っちゃった『To Here Knows When』にしても、しかしここでは何故かこの曲を決定づける例の上昇・下降のリフレインのシンセが鳴らされず、ノイズの揺らめきと微かなギターのアタック感ばかりが目立つ仕様となっていて、なかなかに意外だった。この単調さはまた、過度の陶酔を許さず、変な余韻を抱かせたままに、やはりメロディが立った『Slow』を挟み、シューゲイザー随一のダンサブルなアンセム『Soon』に突っ込んでいく。

 

『Soon』は、流石に完成された楽曲だと思った。『Loveless』で聴かれるのと同じ方向性の快楽が、しっかりとライブでも体感されて、この曲のポップでキャッチーな作りの絶妙さ、歌が始まるところで沈み込むようにコードチェンジするところとかが、どうにも心地よく、エモくなってしまうものでした。

 

さあそして、このライブ最後は『Isn't〜』以前で最大の代表曲『Feed Me With Your Kiss』と『You Made Me Realise』の連発。『Feed〜』の方、イントロ等のギターフレーズが、音源的な曖昧なノイズ感ではなく、妙に歯切れよくコードチェンジするものだから、マイナー調のロックンロールみたいになって「お、THEE MICHELLE GUN ELEPHANTか?」みたいになってたのがとても可笑しかった。けど、バンドサウンドはまさに、退廃的なロックンロールを極めんとする、ルーズで、破壊的な鳴りをする。こんなにグルーヴ感のあるバンドだったのだなあと、特にこのライブの機動力の中心となるドラムが、この曲の仕組みであるところの雑な変拍子の度に激しくわななくのを観て強く思った。Sonic Youthのライブを自分は遂に観れないままだけど、こんな感じなのかなあとか、そんなことを思うほどにバンドの切れ味を感じた。

 

そして『You Made〜』。もうこの、極めつけの叩き付けるようなイントロ。ガレージロックンロールバンドと化したMy Bloody Valentineが、猪突猛進、鈍重なギターサウンドとやたら軽くも高機動なリズム隊とが一体となって、突き抜けて、突き抜けて、そしてノイズピットへ。この単調さの極み、何の変化をつける訳でもなく、ひたすら鳴らされ続けるノイズの物量に、このライブのエンドロールを感じて、甘美な寂しさを噛み締めて、そして身体は、最後のノイズピットからバンドが凶悪なロックンロールに復帰するその瞬間を期待する。

 

やがてその時は来て、元のハードコアな楽曲への回帰で、ひときわ歓声が響く。圧倒的に疾走して、突き抜けて、そして終演した。置かれた楽器のノイズの余韻もそこそこに、「また来るよ」と言って去っていくケヴィンを見届けて、そして我々は、この意外に興奮に満ちた1時間程度で身体に残った熱のことを思って、感慨にふけっていました。

 

いやあ、実にロックンロールだった。一体新譜が出るとしたら、どんなことになるんだろう。耳栓はひょっとしたらあまり意味が無かったのかも。高音はそこまで耳障りだった訳ではなく、むしろ耳栓ではどうにもならない低音の方が、確実に色んな人にダメージを与えていたらしい。ライブ中そこそこ退場してくる人はいた中で、そういう人を尻目に自分はずっとはしゃいだり、少しばかり踊りさえしてたかも。

 

この4月からずっとホントに忙しくて、忙しいままに全然碌に過ごせなかった夏の、いい思い出になったのかもしれない。そんな思い出とかよりも、仮にもシューゲイザーというジャンルを大昔に決定させてしまったバンドが、こんなに攻撃的で強靭で大胆にラウドな音楽を鳴らしていることに、とんでもなく頼もしさを感じた。僕達は端正に黄昏れてばかりじゃなく、時にはあんな感じにグチャグチャにも、がむしゃらにもなれるのかも、などと思ったりもしました。

 

やっぱりロックンロールやね〜

        『INUZINI』NUMBER GIRL

 

 

*1:こちらは相当音響に気を使っていたらしく、シューゲイザーの陶酔的な面が前面に出た、こちらも素晴らしいライブで、実を言うと気持ちよすぎて耳栓つけないままにちょっと寝ちゃった