ブンゲイブ・ケイオンガクブ

本を読まない文芸部員と楽器を練習しない軽音楽部員のような感じのブログ。適当な創作・レビュー等々。

2018年の年間ベスト的なアルバム(前編)

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 2018年は仕事がとにかく忙しかったです。4月から、鹿児島市内でもかなり南の、電車やバスでは通えないところに転勤になってしまって、車を買わないといけなくなって、そんな車じゃないと行けない海沿いの殺風景なところで、夜12時前後まで仕事をして家に帰って寝てつぎの朝にまた車に乗って殺風景なところに行く生活は、ひたすら日常生活に使う分の精神を削られまくっていく思いがしました。というかまだしばらく、下手するともう数年はこのような生活かもなのでもう大概しんどいのです。

 

 車を買ってしまったことで、電車やバス、場合によっては飛行機さえ乗る機会が減りました。そうなってくると、車買う以前と較べて音楽の聴き方もかなり大きく変わりました。音楽聴く時間の大半が車に乗ってる時間になりました。イヤホンを使うことが相当減って、また上記のとおりの勤務状況のため必然的に家で音楽鑑賞する時間も減りました。

 

 車で福岡や他の遠いところに行く際の音楽鑑賞における問題が「新譜を車で流しても数十分で終わってしまい、高速道路走行中では次の音楽への切り替えもサービスエリアに入らないことにはままならない」ことでした。これはおそらく解決方法はあるんだと思いますが、しかしそれを調べずに、高速利用時用の旧譜の長尺プレイリストを組んでばかりいたので、それによって新譜を聴く時間が相当減ってしまいました。

 

 リスニング環境にかかる今年のもうひとつの問題ごとについては、後半で述べます。

 

 そんな状況ですが、どうにか例年どおり30枚選んで、順番を付けてみました。例年どおり、「ロック」と括られてしまうタイプの音楽にばかり偏った、イマ感のないつまらないかもしれないラインナップですが、公開していきます。

 

30. 『Yawn』Bill Ryder-Jones

Yawn

Yawn

 

Bill Ryder-Jones - Don't Be Scared, I Love You (Official Video) - YouTube

 上記PVが中々にナルいこのSSWは元The Coralのギタリストだったとかで、脱退後10年目の4枚目が今作とのこと。というか今作を通じてThe Coralがまだ活動してることを知って割とビックリしてる。何の話だ。

 彼の他の作品を聴いてないけど、再生してすぐに現れる柔らかいエレキギターのクランチな響きや、ボソボソと呟くようなボーカルに、彼のギターロックに対する感傷的なアプローチの程がすぐ分かる。メジャーセブンスのコードを中心にこねくり回して、シューゲイズ的な意匠も含めて進んでいく楽曲群はどれも、秋冬のような涼しさや冷たさを思わせながらも、所々のノイズパート等で楽曲がわななく瞬間が用意されている。

 その曲想はとても安定していて、清々しいまでの一本調子感もあってか、どことなくジザメリじみた印象を強く受けた。絹のような音と嵐とを纏った、陰気で繊細で感傷的なジザメリ。彼の視線はそこから決してブレず外れず、ただただ楽曲を重ねて、情感に耽っていく。どことなく「これはUSインディ的なサウンドにも感じるけど、でも根っこはやっぱアメリカじゃあ無いなあ」と感じるのは、前知識の影響なのかな。

 

29. 『This is my dinner』Sun Kil Moon

This Is My Dinner -Ltd-

This Is My Dinner -Ltd-

 

This Is My Dinner - YouTube

 元Red House PaintersのフロントマンであるMark Kozelekさん、昨年の2枚組アルバムに続いて、今年はSun Kil Moon名義での今作と、ソロ名義でのもう1作の2枚を出して、その両方とも収録時間は長いことから、やはり旺盛な活動が伺える。

 それにしても、今作はいよいよ曲が長過ぎる…。1曲目から9分だというのに、2曲目から10分越えの曲が4連続続くのはやりすぎですよ…10曲で90分という尺は伊達じゃない。そして、2作前から引き続きのラップ的歌唱がその長尺をずっと埋め尽くす。よくそんなに歌うことが思いつくもんだ…*1

 ベース・ドラム・説教の3点セットのみでスカスカだった前作と較べると幾分他の楽器が増えサウンド的には豊かになった、けども、今作の長尺はいよいよひとつのフレーズを延々とループし続けて終わってしまう。タイトル曲や『Candles』の光の隙間に沈み込んでいくような美しさや、先行公開曲『Linda Blair』の奇妙な世界に遭難したようなループは、相変わらずMarkが音作り的に様々なアプローチを高度に使いこなせる証拠であるけれども、今作はその使い方がちょっとこう、味わいづらいですよ…。

 こんな中では、4分でサクッと終わる『David Cassidy』が非常に良い曲に思えてしまう(歌唱は相変わらず説教スタイルだとしても)。また『Rock'n' roll Singer』では正統派なロックサウンドか、と思わせて突然の超ロングトーンかましてやはりふざけている。今作のサウンドバリエーションで『Benji』くらいの尺で纏めてくれれば…というのはきっと彼の音楽を聴く人の多くが考え、そしてそれが無理そうなことも瞬時に悟ってしまうことなんだろうな。

 

28. 『Shiny And Oh So Bright, Vol.1』Smashing Pumpkins

Shiny and Oh So Bright, Vol. 1

Shiny and Oh So Bright, Vol. 1

 

The Smashing Pumpkins - Silvery Sometimes (Ghosts) (Official Video) - YouTube

(この動画茶番が長い…)

 Smashing Pumpkinsのオリジナルメンバー*2のニュースはしかし、アートワークやアーティスト写真、あと先行公開された『Solara』のダサさ(スマパン的な魅力の範疇ではあるけれども…)などによって不安に傾いてた。というかスマパン最終章となるはずの『Day For Night』はどこ行ったんだよ…そもそも今作の「Vol.1」ってどういうことだよ…などと、この辺のグダグダっぷりは再結成後のスマパンらしくて、逆に愛嬌さえ感じれてしまう。

 しかしながらいざアルバムが出ると、いやあまた中々いいですね。冒頭の宗教的なアレとかジャケットとの関わりが直接的で、やっぱダサいんだけどもでもロマンチックさは表現されている。そして今作はやっぱ2曲目『Silvery Sometimes(Ghosts)』の開き直りきった良さに象徴される。どう聴いても『1979』の焼き直しです。しかしながらいいものはいいのだもの。Billy Corgan流の切迫感とクリアさが淡々と進行していく感じは、やはりこの人ならではのものなんだなあと。

 他の曲もポップなものが多く、彼のポップソングの水準は『Machina』の頃並の水準に余裕である。『With Sympathy』もメロディや楽器の響きが美しい。そうなると今度は超人ドラマーJimmy Chamberlinの活躍の場が限られてくるわけで、そうなると『Solara』みたいな爆裂ロック(笑)みたいな曲もやはり必要なんだなと、8曲32分という前作から引き続き短い尺の中で思いを馳せる。というか「Vol.1」って銘打ったんだから、このままこのメンバー維持で更に素敵な「Vol.2」を作ってくださいよもう『Day For Night』のことは忘れるから。。。

 

27. 『Tell Me How You Really Feel』Courtney Barnett

TELL ME HOW YOU REALLY FEEL [CD]

TELL ME HOW YOU REALLY FEEL [CD]

 

Courtney Barnett - Charity - YouTube

 音楽ジャンルとしての“USオルタナ"が女性SSWの主戦場のひとつとなったのはいつからなのか。今年もSnail Mailという期待の新人を排出し*3、こと色んなメディアや個人の年間ベストでも、彼女のあの赤いアルバム*4を見かけないことが少ない程。

 そんなアルバムと色味がモロ被りしてしまった、かつてSnail Mailと似たような流行り方をした“オーストラリアの”*5同類である彼女の2枚目はしかし、熟れた感じが随分と違うように感じた。やっぱ1曲目の『Hopefulessness』の茫洋とした感じは、なんか貫禄あるなあとか思ったりした。終盤のメタクソな感じとか。

 2曲目以降は軽快な楽曲が割と続いていくけれども、こちらも歯切れ良く、適度にジャンキーで気怠く、どことなく彼女自身の「癖」のような部分がよりくっきりしたのかもしれない。それにしてもこう、淡々とそこそこに緩急付けていい感じの曲が続くから、こうやって文章にできそうなことが思いつきにくくて困る…。今年前半の分で取り上げ済みだし。

 

26. 『ロックブッダ国府達矢

ロックブッダ

ロックブッダ

 

国府達矢 "祭りの準備 @ KAWASAKI TAKE 7" (Official Music Video) - YouTube

 やはりこの人のこれも今年前半の分で記述したから、なかなか書くことが思いつかない…。別の記事でも取り上げてしまったので、いよいよ本当に書きたいことが無くなってしまった…。

 今作が純日本的な、浪曲とか演歌とか、そういった要素を“結果的に”現代的で先鋭的な音楽として昇華してしまったことは追記しておくべきことで、そういった部分の“参照”*6が、この異形の音楽を本当に取り付く島が無いものになるのを防いでいることは言える。というか、世間一般で言われるところとは別世界の“ポップソング”なのかもしれないぞこれは、という気がしてる。そもそも、“高尚な音楽”にありがちな音のぼんやり感(要はリバーブやディレイ)が相当に排除されていることで、今作は隠遁の末の音楽のはずなのに、強靭なリズム隊ともども、しっかりと「実体」を持った感じがするのが、とても重要な気がする。

 

25. 『There’s a Riot Going On』Yo La Tengo

There's A Riot Going On [帯解説・歌詞対訳 / オリジナルステッカー封入 / 国内盤] (OLE13482)

There's A Riot Going On [帯解説・歌詞対訳 / オリジナルステッカー封入 / 国内盤] (OLE13482)

 

Yo La Tengo - "For You Too" (Official Audio) - YouTube

 これは今年前半のでは取り上げてなかったっすね。

 スライの引用としか言いようの無い物騒なタイトルから、どうしてこんなふんわりした優しい音楽になるのか。上の国府達矢とは逆に、まさに「リバーブやディレイ」が重要なアーティストのひとつだけども、Yo La Tengoサウンドは程よく単調なビート感覚とソングライティングの纏まりのお陰で、必要以上の高尚っぽさは抑えたものになっていると思う*7。1曲目から長尺インストだけど、ボワーッとした音のトンネルみたいな具合で、アルバムの雰囲気に滑らかに入っていく。

 2曲目のフワッとしたシャッフル調の愛らしさもさることながら、4曲目『For You Too』の、ヨラ節のエイトビートの名曲群に新たな1ページを刻むこの存在感が眩しい。かつてのようなギターの爆発ではなしに、光を浴びた霧の中を確かに突っ切っていくような、陶酔感と凛々しさと優しさとが並走していくこの感覚の心地よさ。

 それにしても、15曲1時間という尺で、実験的なボヤーッとした曲も結構含むスタイルに、やっぱりこのバンドは90年代組なんだなあ、とか、90年代のスタイルをずっと維持し続けているんだなあ、それが世間的に全然許されてる辺り、なんと言うか流石だなあ、なんてとりとめもなく思った。

 

24. 『Thank You For Today』Death Cab For Cutie

Thank You for Today

Thank You for Today

 

Death Cab for Cutie - "Gold Rush" (Official Video) - YouTube

 “デスキャブの新譜”を久々にきちんと聴いた気がした。それは、たまたまタワレコで試聴した今作が、色々な現代臭さを感じさせたこと*8、そしてそれらを含めた上で「なんかデスキャブっぽくない」と感じられたことなどが理由だったかも。今回のリストで珍しくCDを購入した。

 通して聴いた感想としては「タイトルの割に暗くて、そして声の遠いアルバムだ」ということ。言ってみれば『Transatlanticism』などに代表される「力強くて、無垢で、勇敢」なイメージとはかなり遠い感じがした。重要なメンバー離脱後に作られた前作ではそんなに感じなかった類の印象だ。これは特に、ベンの声が殆どの曲で何らかの加工をされていること*9が重要で、徹底的に声の輪郭がぼやかされている。また、はっきりとメジャー調で明るげな楽曲が『Autumn Love』しかないことも、この暗さにおいて重要となっている。というか本作でずば抜けてポップな『Autumn Love』まで辿り着くと、すごくホッとするから不思議だ*10

 自分たちがもうかつてのような力強く無邪気でロマンチックなロックはできない、というテーマが、メジャー以降のデスキャブにはあったのでは、という気がしてて、今作はその辺が一番徹底されたものかなと思ったりする。そこにこそ最大の寂しさとそれゆえのエモみを勝手に感じてるんだから筆者も勝手なものだと思う。

 

23. 『RUN』tofubeats

RUN(特典なし)

RUN(特典なし)

 

tofubeats -「RUN」 - YouTube

 すっかり「SSWみたいに歌うトラックメーカー」って感じになったこの人。むしろトラックメーカー寄りのSSWなんじゃなかろうかと、『SHOPPINGMALL』以降の彼については思う。いちいちゲストボーカル立ててた昔のことが嘘のようだ。今回はセルフライナーノーツも文量が多く、こんな「言葉数の多い」トラックメーカーも不思議なもんだなあとか、今作は流石に思った。

 オートチューンをガンガンに使って歌い倒すのも格好いいけど、ラスト近くの曲で遂にピアノ弾き語りになるのにはフフってなった。しかしアルバムの流れ的にはむしろその曲を含む、中盤の「トラックメーカー分を主張する」トラックが終わった後の『NEW TOWN』以降の流れがとても彼っぽい乾いた寂しさが滲んだメロウさで、夜とかに聴くとその時の空気のいちいちが愛おしくなってくる。“郊外派SSW”としていつの間にか転生していた彼の面目躍如の流れから繋がれば、映画用書き下ろしで置き場の難しそうな(実質的)最終曲『RIVER』の情景も随分と違って見えてくる。こういう形の、乾いた熱さみたいなのもあるもんだなあ。

 

22. 『STRAWBERRY ANNIVERSARY』HiGE

STRAWBERRY ANNIVERSARY

STRAWBERRY ANNIVERSARY

 

髭 "きみの世界に花束を" (Official Music Video) - YouTube

 15周年。ということで、自主レーベル移行後の前2作のそれぞれに振り切った作風から一転し、今作はメジャー終盤的な「幕の内弁当」方式、つまり様々なタイプの楽曲を総合的に含んだ感じの、逆に言えば「今回はこれだ」という一転突破感には欠けたアルバムとなっている。まあ15周年記念盤だもの。そういうのを素直に表出するバンドだもの。尖った作品を出すタイミングではない。

 それで、今作では久しぶりに、持ち前のロマンチックなメロウさをバンドサウンドにしっかり落とし込んだ曲の存在感が目立つ。冒頭の『Play Limbo』のテンポチェンジ後の感覚はPavementの4枚目を思わせる黄昏っぷりだし、何よりも『きみの世界に花束を』というクサいタイトルのリードトラックがもう、彼らの曲でもトップクラスの哀愁を放っている。特に終盤サビの祝福と寂しさに満ちたリフレインには胸を打たれる。

 あとは、最終曲であるタイトル曲の「おっお決まりのセンチメンタルな曲で締めか」と思わせて意外と勢い任せな曲でサクッと処理してしまうのには地味に「そうかぁー」って思った。別にここで終わるわけではない、バンドは続いていくのだから、という少しばかりの照れ隠しのようで、そのあっさり感から次をどんな感じにするのか気になったりするところ*11

 

21. 『KIDS SEE GHOSTS』KIDS SEE GHOSTS

Kids See Ghosts

Kids See Ghosts

 

Kids See Ghosts - Reborn (Camp Flog Gnaw Performance) - YouTube

 Kanye West先生は2018年も色んな意味で絶好調で、9月にリリース予定だったアルバム『Yandhi』は早速「いったいいつ出るのか分からないアルバム」としてネタになっており、来年も色んな混乱が見込まれるところ。

 しかしながら、5〜6月にかけてのリリースラッシュは流石に圧倒的で、正直さして興味の無い自分でも「へぇーぇ」となったりした。その中でもこの共作アルバムについては、ヒップホップ門外漢の自分でも容易に楽しめる要素が一杯入っていて、何これ分かりやすーい、って思いながら繰り返し聴いてた。

 カニエ先生のいいところはヒップホップ本来の良さとは異質そうな過激さやポップさを強引に自作に接ぎ木してくるところだと思ってるけれども、今作は7曲24分という短い尺の中で、彼のそういうキャッチーさが前面に出てる。激しさは冒頭の機関銃のようなスキャットが代表的で、そしてポップさについては『Reborn』の1曲に尽きる。この曲のメロディの優しさやバックトラックの切なげな調子はどうなんだろう、向こうの国では最早歌謡曲レベルなのかなあとも思ったりするけれども、この甘いリフレインがとても気持ちいい。

 Kurt Cobainのデモのギターリフをサンプリングした最終曲など、金満ネタも兼ね備えた今作は、今年いよいよヒップホップを聴いても何とも思えなくなってきた自分にとっての、どうにかまともに繰り返し聴いたほぼ唯一のヒップホップになってしまった*12

 

20. 『ヘブン』曽我部恵一

ヘブン [ROSE-235]

ヘブン [ROSE-235]

 

(PVが無かったので代わりに。OTOTOYってこういう埋め込みあったんだ…)

 あっもう一枚ヒップホップアルバム聴いてたわ。いやでも最近出たやつだから「聴いてた」と言っていいのかどうか。

 曽我部恵一先生もまた、今年のリリースペースは大変狂っておりました。3月に当初の宣言どおりサニーデイで『THE CITY』をリリースし、さらにそれを各アーティストでリミックスした『THE SEA』(と行方不明のユーモアな『Fuck You音頭』)もリリース。その後年末近くなりクリスマス曲のリリースの後に突如、今度はソロでのリリースがアナウンスされる。それがこの、彼の初の全編ヒップホップアルバムとなった『ヘブン』である。ちなみにその僅か2週間後にまたアルバム『There is no place like Tokyo today!』をリリースして世間を驚き呆れさせる。

 で、今作。正直自分はこれをさして“ヒップホップアルバム”として聴いて無い気がする。たとえば『若者たち』『青春狂想曲』といった曲をヒップホップととしては聴かないのと同じ程度には。

 「普段ロックをやってる人がロックの演奏のバリエーションとしてヒップホップのスタイルを取ること」から更に踏み込むことがこのアルバムの目標であるならば、たとえば今作の『mixed night』なんかはその踏み込む前の段階の楽曲のように思える。今作を自分のような人間が聴きやすいと思えてしまうのはそういう、どこかロックの延長として聴けてしまう部分が今作にあるからなんだと思う。特にトラックが思いの外ベタなヒップホップ具合であることは聴きやすさに繋がってる。本人的にはしようと思えばもっとトラップとかに踏み込みまくった先鋭的なアルバムだって作れただろうけど、それをしなかったのは…何でなのかはよく分からないけど、ともかく先鋭的「にしなかったこと」で生じたロックリスナーにとっての「聴きやすさ」みたいなのが本作にはあるんだと思う。

 あと、これはそもそもご本人も目指してなかったんだろうけど"REALなストリート感”みたいな重みは全然ないっすね。軽妙でキザでちょっとメロウなフロウは何の気負いもなく聴けます。

 

19. 『Last Building Burning』Cloud Nothings

LAST BUILDING BURNING

LAST BUILDING BURNING

 

Cloud Nothings - "So Right So Clean" (audio only) - YouTube

 昨年の年間ベストで1位にしたアーティストの今年の新譜がこの位置というのはまあ、そういうことなのだけども、でもまあアルバムコンセプト的に仕方がない部分があることを今から申し上げます。

 前作は、彼らにあるまじき徹底した作り込み具合により、非常に総合力の高い、ポップで、鮮やかで、可憐でさえあるような作品だった。でもだからこそ、それと同じものをまた時間をかけて作ろうとしても、バンドにとっての旨味はこの手のバンドとしてはあまり無いどころか、かえって妙な停滞を招く危険が高かったと思われる。なのでそれよりも、瞬発力を重視して、ポップなフォルムを幾分かかなぐり捨ててでも、ハードコアな方向へ突っ切っていくことにした。そのひとまずの結果が今作なんだと思う。

 一聴して無骨さは明らかだ。1曲目からして叫び散らして何を歌っているか分からない。分かるのは、ひたすらエッジを毛羽立てて、バンドをキリキリと駆動させていること。それでも、終盤のコードに旧来の彼らっぽいポップなコード進行が現れ、そして2曲目からは幾らか旧来のポップさを取り戻す。4曲目『Offer an End』なんかは前作っぽさもあるメロディックさ。

 本作の肝はやはり、いち早く先行公開された『The Echo of the World』から、今作の長尺曲『Dissolution』に連なるラインだろう。『Echo〜』が今作でも特にハードコア寄りの曲であることが分かるし、また始まりは幾分ドラマチックな『Dissolution』に至っては相当長いフィードバックノイズから先の展開は、力尽きた(万策尽きた)バンドが何とか、何か無いかと再生のためにもがくような、絶望的なグダグダさが横たわっている。これ、ドラムが復活する以降の展開だけなんとなく決めてからの一発録りなんだろうなあ。

 本作の欠点は何よりも、この壮絶な1曲より後の2曲がいかんせん地味なことに尽きる。でも、こと今回はそんなのバンドにとって関係のない、どうでもいいことだったんだと思う。1点突破、それを成すことのみに集中力が注ぎ込まれ、それは『Dissolution』にて為された。こんな作品を短いスパンで出されると、かえって不安になったりするかもしれない。「次どうするんだよ…」と。

 

18. 『Virgin Graffiti』シャムキャッツ

Virgin Graffiti

Virgin Graffiti

 

Siamese Cats - Escape Eve (Official Video) 2018 シャムキャッツ - 逃亡前夜 - YouTube

 シャムキャッツはひたすらに日常の暮らしに入っていく。『渚』のころのような、どこかに行こう、見たことないようなものを見に行こうとするような要素はずっと遠くに行ってしまった。近年の彼らにPavementの要素は殆ど感じられない。特にギターポップに随分接近し、めっちゃ地味になった前作は。

 今作、1曲目『逃亡前夜』。ええやん。抑制の利いたリズムにちょっとエフェクトでねじ曲げられたギターがよく響く。リズムが分解するパートの楽しさもあり、幾らかPavementを取り返したような感じがする。

 前作と同じような、いやむしろ前作よりも長閑なムードの中で、バンドは意外な程伸び伸びと躍動してる。激しさに走る場面は滅多に無いが、それでも今作は、エコーを響かせるリードギターが特に頑張って楽曲にユーモラスな空間性を表出している。The Wheater Prophetsのような平坦で優しいギターポップに、ギターやコーラス等の小技できちんとフックを付けていく。『完熟宣言』なんか、その辺の折り合いが実によく纏まっている。

 放浪することが須くバンドの義務であることは決して無い。けれどシャムキャッツに感じる一抹の寂しさでもって、筆者は放浪する感じのバンドサウンドが好きなんだなあと改めて気付いたし、しかし放浪しないバンドになったシャムキャッツでも、色んな小さなアイディアを集めてこういう小気味良い作品になるんだなあと、阿呆みたいに思い直したりしてる。『このままがいいね』という曲名を付けることの勇気と自負とを思ったりしてる。

 

17. 『WHALE LIVING』Homecomings

WHALE LIVING

WHALE LIVING

 

Homecomings "Blue Hour"(Official Music Video) - YouTube

 これは全然知らないバンドである。全然知らないバンドになってしまった。はじめて聴いたとき地味にめっちゃビックリした。日本語になったとは聞いてたけど、まさかこんなにユーミンな感じになってたなんて聞いてないぞ…。

 使う言語とともに、彼らは曲調さえも大胆に変えてきた。即ち、ニューミュージック的な曲作り、要は荒井由美(松任谷、ではない)の楽曲のうち嫌みでシティな部分を除いて、ノスタルジックで朴訥な部分だけを抜き出して、ずらりと曲を並べたわけだ。

 何よりもすごいのが、この急激な変化が、以前の彼女らよりもずっと似合っていること。前に誰かから「あの人たち無理矢理英語で歌ってるだけで曲はモロ日本人なんだから、歌詞も日本語にすればいいのに」みたいな話を聞いたことがあったけど、ここまでなるとは思わなかった。平坦で丁寧で真摯な畳野さんの声が、かつてなく切なげに空に吸い込まれていく。アレンジも丁寧に、柔らかくメロディを描くギター、いなたくバタバタするドラム。

 はっきり言って、日本の田舎を昼間に車で走るのにとてもよく合います。なんというか、こうなってくると空気公団とかと近い感じになるんだろうか、とかも思ったけど、空気公団よりも幼げでキャッチーなところはある。歌詞の中で「手紙を書く」とかそういう普通に考えて今そういうことするかなあということをする、つまりはファンタジーとなってしまったノスタルジアを丁寧に歌うバンドになったんだ。『Songbird』はまあ、確かに最後に置くしかないですわ。

 

16. 『Sparkle Hard』Stephen Malkmus & the Jicks

Sparkle Hard

Sparkle Hard

 

Stephen Malkmus - Solid Silk (Acoustic) - YouTube

 今年の下半期には、Pavementを軸としたローファイという音楽ジャンルについての記事を書いて、それが少しばかり受けが良かったことが、僅かばかりの嬉しいことのひとつでした*13。やはりみんな、Pavementのことが大好きなんだなあと。

 そのPavementの中の人ことStephen Malkmusの新しい作品もまた、今年の前半にリリースされ、小気味良い充実作でした。うん、この作品はいよいよ今年前半の分の記事以上に書きたいことが特に無いな。フォーキーでロックでいい作品です。

 やっぱ上半期ベストをやってしまうと、どうしても下半期の作品がどことなく不憫な感じがしてしまうなあ。下半期だけのベストをやるわけでもないし、割を食ってしまっている。別にそれをどうにかしようとも思わないんだけど。

 

後半に続きます。きちんと今年中に書き終わる予定。

*1:と思うけれども、やはりリスニング能力の問題で、内容はよく分からないし楽しめない

*2:1人を除く

*3:しかしながらなぜみんなバンドではなく個人名義ばっかりなんだろう

*4:あのジャケットを遠目で見たら近年のシャムキャッツ夏目さんっぽく見えるから、最初は男かと思ってた

*5:これ、気を抜くとすぐに忘れて、彼女はアメリカのどこ出身だったっけ?とか考えてしまう

*6:本人が意識して参照したかはともかくとして

*7:アルバムにちょくちょく入るオブスキュアーで実験色強い曲とかは別。今作も中盤以降にそういう曲が多くて、個人的にはダレまくりだけど、でもYo La Tengoはそういうものだし…という気持ちが確実にある

*8:1曲目のコーラスの重ね方やギターのCaptured Tracks感、2曲目のリズムの崩し方など

*9:基本、重ねられている。またはエフェクトがかかっている。素のシングルトラックのボーカルが登場する場面は相当限定される。

*10:この曲ですらボーカルのぼかしが徹底してるから、それがまたなんだかノスタルジックにエモい…

*11:渾身の思い出作品を出したバンドが身勝手なリスナーから「次作に期待」などと書かれることの辛みを思うと、こういうことは書きたくないんだけれども

*12:Mark Kozelek関係はヒップホップになるのか?あれらは…なんだ…?

*13:割と本当に、アルバム全曲レビューとかそういう体力が要る記事が書けなくなってきてて、苦し紛れになんか書こうと思って書いた記事ではあったので、あんなに反応があると思ってなくて驚きました